ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか   作:ダーク・シリウス

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冒険譚2

「フレイヤ様、ご報告がございます」

 

白亜の摩天楼施設(バベル)の最上階。硝子張りの窓からオラリオを眺める銀髪銀眼の美の女神に巌の様な巨躯の獣人が静かに述べた。

 

「【ロキ・ファミリア】から一人【ヘファイストス・ファミリア】に改宗(コンバージョン)した者がおります」

 

「そう、でも大して珍しいことではないわね。ロキの子でもなくても他のところに行っても不思議ではない―――」

 

「あの者、フレイヤ様が見初めたイッセーが改宗(コンバージョン)をしたと報告を受けました」

 

改めて補足するように獣人オッタルが背中を見せる美の主神に投げる。窓硝子越しで背後に佇む眷族の姿に静かに町から変えて銀眼は彼を捉えた。

 

「どういうことかしら?ロキのところが不満で変えたのかしら?いえ、何故なのオッタル」

 

「わかりません。あの女神が何も考えずあの者を手放すとは考えにくいかと」

 

「そうよね・・・・・」と顎に指を添えるフレイヤ。第一級冒険者を匹敵する者を自分の手から零す様な女神では無いのは重々理解している。フレイヤ自身も優秀な者、それも彼女が気に入った冒険者は他派閥から引き抜いて自軍に加えるほどだ。自分だったらそんな愚行はするつもりはない。

 

「気になるわね・・・・・ロキの派閥から他の派閥に移る理由があの子にあるのかしら」

 

単に一年後脱退すると言う契約を知った時はその程度だと知り、ならば次は自分の派閥に来なさいと美の女神の願いは届くかどうかは娯楽に飢えた神々でも分からないのだった。

 

 

【ヘファイストス・ファミリア】の眷族となって早くも一週間が経過した。大通りには無所属の一般人やヒューマン、亜人(デミ・ヒューマン)の冒険者が変わらない朝の中で闊歩し、仕事やダンジョンに赴いたり商業系の【ファミリア】は店を開いている時刻。冒険者通りに数多の武器を詰め込んだ樽を肩に担いで歩く真紅の全身型鎧(フルプレート)の者が現れ、武器屋の中に消えた。

 

 

武器をたくさん持ってきた眷族を迎え、出来栄えの良さを確認する団長の隣で鍛冶の女神は困った表情を浮かべた。目の前の眷族は下級冒険者で鍛冶師(スミス)の新米―――その筈であったが、腕前は一流なのだ。他の新米の鍛冶師(スミス)と比較していいものではない。新米の者と一緒にこれを販売させるわけにはいかないかつ、新米の冒険者(いっせい)が打ったものだと上級鍛冶師(ハイ・スミス)達はその目で確かめるまでは信じもしないだろう。一々作る武器が団長椿も認める至高の武器では扱いにも困る。いざ、そのことを伝えもう少し武器の質を下げてくれないかと頼んでみると。

 

「腕と技術を高め合い他の先輩と競争、武器を作って売るのがこの【ファミリア】の方針なのに、何で他の鍛冶師のレベルに合わせないといけないんだ?他の新米の人もそうなんだったら俺もそうするけどそうじゃないんだろう?」

 

全くの正論にぐうの音も出ず言い返すことはできなかった。

 

「はっはっはっ、主神様よ。こやつも他の鍛冶師(スミス)と何ら変わりないようだ。諦めて他の鍛冶師(スミス)の店の武器と交ぜて売って貰うべきだ」

 

「眷族になったばかりの子の作品がコレだと信じるわけないでしょ」

 

「ならば用意する予定だった工房の代わりに小さな武器屋でも用意して売買させるか?」

 

結局、話し合った末に他の店の中で武器を売ることに決まった。それからヘファイストスと椿にある物を手渡す。宝玉がある金の腕輪だ。

 

「これは?」

 

「何時でも何所でも誰とでも話ができる便利な道具だ。何か話したい時や聞きたいことはこれを通してくれ」

 

操作の扱い方も教え、感嘆の息を漏らすヘファイストス達とは用件済んだとばかり執務室を後にしようと踵返す一誠に声が掛る。

 

「今日はどう過ごす気なの貴方は?」

 

「ん、【ロキ・ファミリア】んとこに行って同じ物を渡しに行く。その後はダンジョンで素材集めを没頭するかな」

 

「それは鉱石や金属も含まれておるか?」

 

肯定する意味で「当然だからなんだ?」と応じる一誠の話を聞き、右眼を輝かす椿はヘファイストスに視線を向けた。言わずとも理解しているとばかり二人の主神は仕方なしと溜息を吐いた。

 

「イッセー、悪いのだけれど椿も連れて行ってくれないかしら。一緒に素材集めをしたそうなのよ」

 

「えー・・・・・うーん・・・・・俺が6で椿は4でいいか?」

 

「おう、構わんとも。あの上質な超高金属製(アダマンダイト)最硬金属(オリハルコン)を大量に持って帰る他、『中層』以下の階層に潜れるなら手前も行きたい」

 

「わかった、じゃあ30分後。バベルの前で集合で」

 

「承知した」と頷く椿から今度こそこの場を後にする一誠がいなくなった後。

 

「椿、分かってるでしょうけど」

 

「この気に乗じて秘密とやらも探れと言うのだろう主神様」

 

「ロキ達も知って受け入れているのだから私達も問題なさそうだけれど、それでも警戒はしてね」

 

 

「かくかくしかじかで、そう言う事だ」

 

「ほーほー、んーめっちゃ便利な道具(アイテム)を作ったなー自分」

 

ロキに会い、執務室で腕輪の性能を伝える一誠。同伴するフィン達の間で評価は高く感嘆を漏らす。見えない相手と連絡や会話ができるならば、状況の把握もできる。細かい操作をしなくてはならないのだがメリットの方が大きい通信式の腕輪はダンジョンの中やオラリオの外でも有効的活用が望まれる。

 

「イッセー、これを指定した数まで作れるかな」

 

「時間をくれれば問題ない。代金は貰うぞ?」

 

「使い道があまりない金は惜しまないよ」

 

フィンはこれを量産して活用しない手は無いと一誠に依頼した。団長のフィンのもとに逐一状況が遠くから伝えられ、周囲の状況と状態の把握が掴めると言うもの。それを思えばいい買い物をしたと自負する。

 

「それじゃ、用件は済んだから行くわ」

 

「ダンジョンにかい?」

 

「本当なら一人で行くつもりが団長まで来る羽目になった。まあ、素材集めだけだから『深層』に行っても問題ないだろ」

 

「というと、数日はお前と会えないか」

 

連絡はできるが、とリヴェリアの何げない一言は「ん?」と一誠の小首を傾げさせた。

 

「今日中に戻ってくるぞ」

 

「何を言っておる?『深層』までどれぐらい距離があると思っておる。それに地図(マップ)なくてはそう簡単に行けれるような階層でも無いわい」

 

「その腕輪に地図(マップ)を記録させてあるから迷うことは一切ない。それに俺は異世界から来たドラゴンだぞ?『階層無視して目的の場所に移動できる』的な魔法があることも考慮していなかったか」

 

「「「!?」」」

 

とんでもないことを言い出した一誠。そんな好都合的な魔法が異世界にはあるのかと耳を疑った。しかし、現実味があるのは目の前の人の皮を被ったモンスターの存在か。フィン、ガレス、リヴェリアは目を合わせた。その真実をこの目で確かめるべきでは?と意図を込めて。

 

「ロキ、彼と一緒に行っても?」

 

「ええで、何かあった時はこの腕輪で連絡するから」

 

金色の腕輪を見せつけて許可を下す。そう言う時はあってほしくない心情を抱きながらもダンジョンへ行く準備を整えに動く三人と、

 

「アイズも行こうな」

 

「ん!」

 

少女もダンジョンに行く。強くなると言う憧憬を叶える為に。こうして【ロキ・ファミリア】と【ヘファイストス・ファミリア】の混成パーティが出来上がり、『バベル』前の中央広場(セントラル・パーク)で椿と合流を果たす。

 

「おおっ、【ロキ・ファミリア】の幹部が勢揃いでどうした?」

 

「久しぶりだね椿。彼と一緒にダンジョンに行くそうだけど僕達も同行させてもらうことになった」

 

「イッセーが良ければ手前も構わん。してイッセーよ。今日はどこまで進むつもりだ?」

 

「『希少種』の素材も集めるつもりだから『深層』まで行くつもり。んじゃ、早速行こうか」

 

7人の足元に真紅の魔方陣が展開し、瞠目するフィン達の全身は光に包まれると一瞬の閃光と共に中央広場(セントラル・パーク)から姿を消した。

 

 

視界が光に塗り潰され視力は奪われてからどのぐらい時が経った?ハッキリと経過した時間は分からないままゆっくりと目を開ける。幼い少女の目を写す光景は黒鉛の壁と天井が長方形を描く巨大『ルーム』であった。視界を遮る遮蔽物が無い広大かつ単一の空間であり何故か肌寒さを感じさせる冷気が漂っている。そして金眼はそんな空間の中に棲息しているモンスターを捉えた。

 

『オオオオオ・・・・・ッ』

 

二本の脚で立ち全長十Mの巨躯を誇る、大紅竜である。数は優に五体を超えている九体だ。

 

「っ!?」

 

漆黒の翼竜(ワイヴァーン)よりも巨大な竜と数に金眼は凍結する。自分達は完全に取り囲まれている状況を把握するのに時間も掛らない。

 

砲竜(ヴァルガング・ドラゴン)・・・・・っ」

 

「まさか、我々は58階層に来ているのかっ・・・!」

 

「さらにこの下の階層は【ゼウス・ファミリア】が踏破した59階層・・・・・イッセー、とんでもないね」

 

そして三人の第一級冒険者は思った。いきなりモンスターのど真ん中に自分達を連れていくなと心が一致した矢先、四つの大火炎球が放たれた。四方から迫る炎塊に瞬時で身構え対応しようとするフィン達より早く、

 

「『魔剣創造(ソードバース)』!」

 

剣を黒鉛の地面に突き刺す一誠の口から技の名称を叫んだ直後。交差する巨大な四対八の斧が大火炎球の直撃を轟音と同時に炎の残滓を散らしながら防ぎ、さらには砲竜の足元から十Mの剣が飛び出して魔石ごと胴体を串刺しに貫いてたったこの一度だけで『深層』のモンスターは全滅。全て魔石を破壊されて灰燼と化したモンスターの成れの果てに残された武器素材(ドロップアイテム)を前にし。

 

「よし、一旦終わり」

 

と満足げに告げた彼にガレスから突っ込みが入る。

 

「終わり、ではないわいっ!」

 

「ンー、地面から武器が出てくるなんてね・・・・・」

 

「あまりにも非常識な・・・・・魔法、なのか・・・・・」

 

「「・・・・・っ!」」

 

地中から飛び出した武器を触れ確かめるフィンに翡翠の瞳を唖然として見つめるリヴェリアは呟き、おっかなびっくりをするアイズ達に「その気持ちは手前もよーく分かる」と腕を組んで何度も頷く椿。だが、彼等に休息の束の間は無い。遥か彼方の58階層の壁面から一誠達を取り囲む壁の前面に亀裂が生じた。

 

「待て、これは流石に・・・・・っ」

 

異常発生(イレギュラー)』と脳裏に浮かべる。いかに第一級冒険者がいようと階層を無視して分厚い岩盤を貫く火炎の砲撃をする紅巨竜。一体一体が『迷宮の孤王(モンスターレックス)』みたいな存在感を放つモンスターが一度に大量に産声を上げ産まれ落ちる光景は戦慄ものだ。

 

「ん、これでお終いにしよ。素材もたんまりと手に入るし」

 

ただ一人だけのんびりともう一度地面に剣を突き刺す。

 

「『魔剣創造(ソードバース)』」

 

 

58階層の壁に覆う氷壁で一掃に冷気が漂っている空間を後にして『ドロップアイテム』を回収し終えた一行は、鉱石や金属を採掘する。その方法は、鶴嘴(マットク)を使わず拳で殴って粉砕する壁一面から岩の破片と交じって目的の物やそうでない物が零れ出る―――一誠の豪快なやり方だった。

 

「・・・・・イッセー、お前はそうやって鉱石や金属を手に入れていたのか」

 

「一々一点だけ掘っていたらモンスターが来るし、壁を壊してればモンスターは産まれてこない。おまけにこうしてお目当ての物が手に入る」

 

光沢を輝かせる希少金属(レアメタル)を手にしながら呆れ果てるリヴェリアに指摘する。

 

「それにここは『深層』だ。滅多に他の冒険者が来ないから採掘し放題だ。迷惑もかけてない、正式ではないルートで何をしても問題は無いだろ?」

 

自分なりに正論を言ったつもりだが、絶世の美を誇るハイエルフは何か言いたげな視線を少年に無言で送る隣で筋骨隆々のドワーフは豪快に笑っていた。

 

「うむ、儂個人で言わせてもらえば嫌いではないのぉ」

 

「言うと思ったよガレス。それと意外にも豪快なところもあるんだね君は」

 

「効率を追求したに過ぎない」

 

「だから壁を殴って採掘する冒険者は絶対におらんと手前は思うぞ」

 

と、呆れ笑う椿も純度と質の高い鉱石や金属を見つけては背嚢に入れる。アイズとアリサもせっせと岩の破片に埋もれてるだろう一誠が望む物を探す。

 

「ここにいるけど」

 

「胸を張って言うことか、っとまたあった。ここが発掘できる場所の様であるな」

 

椿の背嚢は既に満タンに近く、口から砲竜の『ドロップアイテム』が飛び出している。さらに金属と鉱石まで詰められてもう入りきれそうにないにも拘らず、一誠の背嚢は何故か異様におかしいのだった。右眼はその異様を捉える。

 

「のう、お主の背嚢はおかしいぞ。何故容量を超えておらんのだ」

 

「「「「「・・・・・」」」」」

 

その指摘にアイズとアリサに三人の回収が終わるまで見張っているフィン達は気にしていたようで耳を傾けた。今でもひょいひょいと入れているのに、砲竜の『ドロップアイテム』を同じ背嚢に入れているのに何故か膨らみもせず入り切れず顔を出さない。そんな物を背負っている少年はあらかた回収し終えたのか、肩に担いで振り返り答えた。

 

「これも魔道具(マジックアイテム)の一つだ。背嚢の中の空間を弄っていてな。どれだけ物を入れても容量は超えず同じ重さで持てる優れ物さ」

 

「なんと!?それは真なのか!」

 

手前が欲しいぐらい素晴らしい道具ではないか!と目を輝かせる。フィン達も感嘆の一息を吐く。

 

「普段使っている物を魔道具(マジックアイテム)にしていたとは驚いた」

 

「ああ、だからあんなに入れられるのだな」

 

「そうだね。イッセー、それはどのぐらいの値段で売ってくれるかな?」

 

【ファミリア】にとって何でも入れられ、どれだけ入れても容量は超えないバックパックは確保したい希少道具(レアアイテム)で、フィンの意図を察したか一誠は頷いた。

 

「大きさによって値段変えるぞ。何千万ヴァリス分の魔石や『ドロップアイテム』が入れられるんだからな」

 

「分かった。後で交渉させてもらうよ」

 

「手前も、手前も欲しいっ!」

 

挙手して自己主張、便乗する椿に「分かった分かった」と応じる一誠の様子から眼を反らし、何となく通路の奥へ金眼を向けた矢先、一本角を生やした純白の馬が一頭、別の通路へ移動して横切ったのを見た。それを一誠に教えた直後。真紅の軌跡を残してモンスターが移動した通路へ向かっていった。そしてすぐに戻ってきた。『ドロップアイテム』と思しき一本の角を持って嬉しそうに笑みを浮かべてだ。

 

「『一角獣(ユニコーン)の角』ゲットだ」

 

「む、あの希少種か。商人に売れば高く買い取ってくれるだろう」

 

「いや、それは貴重な回復アイテムにもなるぞ。魔導師(メイジ)専用の道具(アイテム)にも使える」

 

需要があるそれを手に入れた一誠はまさしく幸運の持ち主だ。リヴェリアの関心は次に絶句に塗り替わった。

 

「あ、そうなんだ?アイズの剣に使っちゃったんだけどな。数本ぐらい」

 

「「「「「「・・・・・」」」」」」

 

輝白の剣身の剣を背負い硬直する少女に視線が集まる。希少価値の高い角を数本も使って武器に変えた暴挙が具現化した剣へ。リヴェリアの頬が引き攣り、フィンとガレスは間抜けな顔を晒し、椿はどこか納得した面持ちで顎に手を添えていた。一誠は彼女に訊ねた。

 

「団長、アイズの剣は売るとしたらどれぐらいだ?」

 

「うむ、貴重な角を数本も使った剣ならば軽く数千万はするであろうな。手前の見立てでは7000万ヴァリスといったところか」

 

「―――――」

 

一誠が打った武器の価格は物凄い重みに似たプレッシャーとして覚えた幼い少女。今まで壊してきた武器なんかより切れ味も耐久度も鋭く凄い剣であったのは理解していたが、実際に値段まで付けられると我が物顔で振るってきた剣の真価は軽いものではないことを知り、頬に嫌な汗が流れる。慌てて剣を手にして確かめる。傷は・・・・・無いが、若干の汚れがあった。

 

(か、帰ったら洗わなきゃ・・・・・っ)

 

まだ10歳も見たない少女にしては不相応な宝剣をこの瞬間、心から大切に扱おうと刻んだ。弁償はしなくてもいいのだが、これを打った者に対して失望をさせたくない一心で思ったアイズだった。そして『ユニコーンの角』の価値を知っても尚、一誠は考えを変えていなかった。

 

「んー、またこの角を使って今度はどんな武器を作ろうかな」

 

「止めろ、貴重な素材を武器にする暴挙など魔導師(メイシ)治療師(ヒーラー)が悲鳴を上げる」

 

「ん?リヴェリアも悲鳴を上げるのか?」

 

何気ない一言を発した一誠の前でハイエルフの女性は目をパチクリした。

 

「お前、何故私の呼び方を変えたんだ?」

 

「へ?だって、もう別の派閥に異動したし何時までも副団長と呼ぶ方がおかしいだろ?元副団長とか華のない呼び方で呼んでほしいのか?」

 

何を言っているんだ?と至極当然のことを言ったつもりの少年の言い分は何も間違ってはいなかったが、こうもあっさり切り替えて不意を突かれたような感じをリヴェリアは少し驚いただけだった。

 

「いや、確かにお前の言うとおりだ。敬意を忘れてなければ呼び方は自由にしていい」

 

と、本人の了承を得た時。頭の中であることを思い浮かべ、人差し指を立てながら提案した。

 

「ふーん、じゃあ、敬意を忘れずにリヴェリアの名前から可愛らしく『リリア』って渾名と愛着を籠めて言うな?」

 

「なんだそれは」

 

人の名前を勝手に変えるな、と翡翠の柳眉を寄せて異を唱える。仲間の新たな愛称の名前にフィンとガレスは、感心したように笑みを浮かべていた。

 

王族(ハイエルフ)の彼女をそう呼ぶ冒険者は愚か、人すらいないのにある意味勇気があるよ。全てのエルフを敵に回しかねない発言だ」

 

「これはロキにも知らせたら笑うであろうな。のう、リヴェリア。儂らもイッセーに便乗して呼んでもよいか」

 

「ふざけるなガレスっ。・・・・・待てアイズ、その羨ましそうな目は何だ」

 

都市最強の魔導師が珍しくうろたえている。下から見上げる金眼からの視線に困惑し、古き仲間の二人からも意味深な笑みを向けられる。危険なダンジョンの中なのに和んだ雰囲気が7人を包み込んだところで探索を続行した。

 

「そう言えばイッセー。昼食はどうするんだい?」

 

「昼食、かぁ・・・。本当ならアリサと探索する予定だったから二人分しか作って無いぞ」

 

 

その二人分と例える一誠とフィン達の差の違いが直ぐに明かされた。

 

 

 

一気に『中層』18階層に戻った時の時刻は『昼』。階層の天井には、無数の水晶が隙間なくびっしりと生え渡っていた。光り輝く水晶で埋め尽くされていて、まるで咲き開いた菊のように、夥しい量の水晶が隅から隅までに生え渡っている。中心には太陽のように輝くいくつもの白水晶の塊、そしてその周囲には優しく発光し、空を思わせる蒼色の水晶の群れだ。咲いた菊のように大輪を連想させる水晶がそれぞれ光を放つことで、18階層には地下でありながら『空』が存在している。そんな階層の中には冒険者やならず者達が築いたならず者達の街(ローグ・タウン)こと『リヴィラの街』があり、ここは冒険者もモンスターにとっても『迷宮の楽園(アンダー・リゾート)』なのだ。

 

「・・・・・」

 

この中で唯一、中層まで来たことのないアイズは人類の天敵、モンスターの巣窟にこんな目を奪わせる光景が待っていたとは今の今まで知らず、目を大きく見開いて言葉を失っていた。10人は乗ってもまだ余裕な巨大な空飛ぶ絨毯の上で。

 

「イッセー、確か二人分しか作って無いと言ってたよね。なのにこれ、全部君が食べるつもりだったのか」

 

感動と驚愕で目を奪われている少女を脇に五重層の弁当を絨毯の上に用意した少年に目を疑うフィン。そして調理された料理の数が多い。明らかに二人で食べる量を超えている。まるで自分達が一緒に食べることを前提に作ったとしか思えない程に。狙っていたのか?と疑ってもしょうがない。

 

「これだけ食べれば休む間もなく一日中は素材集めに専念できるから」

 

「しかし、どれもこれも見たことのない料理だ」

 

「それ、単に似たようなモンしか食べてないからだろ」

 

白い粒、ご飯を人数分に用意した皿に入れて五人に箸も手渡す。

 

「ところで、何故こんな空中で食べるのだ?」

 

「モンスターがいるところでのんびりと食えるか」

 

椿の疑問を一蹴する。そして手を合わせる一誠を筆頭に食事の祈りを済ませて昼食の時間を迎える。

 

「むっ、この肉を挟んだパンは中々・・・・・」

 

「手前はこの肉の塊が気に入ったぞガレスよ」

 

「ンー、店に出してもいいぐらいな美味しさだ」

 

「ああ、『遠征』の際にも食べたいかもしれないな」

 

「「・・・・・っ(モキュモキュ)」」

 

「好評で何より。ああ、二人とも。頬を膨らませて食べる姿は可愛いな、パシャリと」

 

皆で食べる食事の風景を写真で記録を収めることも忘れない。後でロキのアルバムに加えるつもりのようでその行動に椿が興味を抱いた。

 

「それはなんだイッセー?」

 

「カメラと言ってな―――」

 

かくかうしかじかと機能と性能を教える。その素晴らしさが伝わったようで感嘆の息を漏らした椿。

 

「まあ、それだけじゃなく宣伝にも使えるんだけどな」

 

「宣伝?どんな風にじゃ?」

 

「実際、相手が知っていて自分達は知らない事はよくあるだろ?そんな知らない者達に知ってもらおうと記録として撮った写真に詳細を書いて読んでもらえば宣伝になる。で、人から人へ細かな情報も伝わっていくのさ。【ロキ・ファミリア】の団員達の名前と顔の写真があれば誰でも知ってもらえるようにな」

 

「ふむ、その写真が世界中にも配られれば儂等の顔もより鮮明に分かるようになるというわけか」

 

名前だけ知って人の顔は知らない。それだけではない。オラリオから出れば国と建物、食材、自然、モンスターもだ。実物を見ることもできないのが自然。なら、どうやって知ることができるのかと問われれば写真が答えになり得る。見聞したモノを記録として写真で残し、後世の者達に伝える方法もある。別の世界でも太古の昔から培ってきた経験や情報も残されているほどだ。ただし、カメラというより色鮮やかで鮮明に記録を残す手段、ものがあるか無いかの違いで差が出るが。

 

「団長が鍛冶をしている様子を撮れば【ヘファイストス・ファミリア】の宣伝にもなるし、フィンが巨大なモンスターを倒した光景を残して皆に見せれば、フィンの凄さをより伝えやすいと思う。だから記録を残すってのは、扱い方次第ではそういった使い方もできるんだ」

 

カメラと写真の奥深さを感じたフィン。記録を残す技術は勿論のこと、異世界では最大限に活用するカメラの扱いが長けた者達がいて、それを直接世界中に伝える術があると傾けていた耳に入り感心した。今ではすっかり首からカメラを下げて、写真を撮られて不思議そうな顔をしている眷族達の記録を残している日常と化している。

 

「カメラ・・・いや、写真の奥深さを知った。では、手前らの仕事の様子の一部を記録して、何らかの形にし、【ヘファイストス・ファミリア】の大まかな情報も記し、人の目が届く場所に張れば手前らのことの詳細がわかるというわけか」

 

「全部、ってわけじゃないがな。知って相手に興味を持たせる、意識させることが写真の役割でもある。特に初めてオラリオに来た初心な輩達からすれば、どこにどんな神と冒険者の【ファミリア】があって、店があるのか―――」

 

スラスラと説明口調で語っていた口が不自然に止まり、次に両手をポンと叩いた。何か閃いた様子で左眼を妖しく輝かす。

 

「ん、次の魔道具(マジックアイテム)はオラリオの地図(マップ)にしよっと」

 

「僕達にくれたこの腕輪の中にある各階層の地図(マップ)の次はオラリオの全体図か」

 

彼の者の魔道具(マジックアイテム)が完成したら是非とも拝見したいと心中で零し、サクサクとした茶色い衣に覆われた魚介類のような食べ物に白いソースを付けたままプリッとした歯応えを口の中で覚えながら食べるフィン。

 

「イッセー、これは何て名前の食べ物かな。初めて食べる味と触感だ」

 

「ん?エビフライって言うんだけど・・・・・お前ら、俺の分も残してくれよ」

 

話している間に弁当の中身が思いのほか早く無くなり掛けていた。その原因はガレスと椿が筆頭に未知の味を占めて食べ、控え目ながらも二人の次に自分の舌に合う料理を主に食べ尽くすリヴェリアとフィンだった。説明している間に弁当の現状を一誠の落胆した表情にフィン達は揃って気恥しげに、申し訳なさそうに苦笑いした。アイズに至ってはふんわりとしていて甘い味がする厚焼き卵を銜えたまま固まった。

 

そんな昼食の一時は一誠にとって「こいつらとまた来ることになったらもっと作らなきゃ駄目か」と学習して終わった。その日から一週間、魔道具(マジックアイテム)作成で籠っていた一少年はとある少女と出会いを果たす。

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