ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか   作:ダーク・シリウス

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冒険譚41

充満する虹色の実の香りの中、抽出した果汁を加工したことで一誠の手によって新たな道具が完成した。

 

『虹色の実の香水』

 

使用者から老若男女問わず一時的に魅了する効果がある。

 

鑑定の結果が出たことでそのことをヴァベルーやマキャベリに香水の販売を提案し、結果を待つことしばらくして。どちらも婚期を逃した者が香水を使用したら結婚ができたと驚きの報告が届いた。

 

「いやはや、イッセー殿が作る道具は凄まじいですね。おかげで我が【ファミリア】の知名度が高まりましたよ」

 

「それは上々だが、香水の効果は効果だから心配だな」

 

「そこのところは確と説明してるから気に掛けることはない。これで中毒になろうとこちらは注意の説明をした上で売買を成立させている。それでも過度な使用で問題を起こした使用した者の責任だ」

 

責任は一切請け負わないと商人らしい発言。まさにその通りなのだか、まさか身近な見知った顔の者達が香水で問題を起こすとはこの時の一誠は思いもしなかった。

 

「ところでマキャベリ、香水をあの【ファミリア】に買わせたんだろ?反応はどうだったよ」

 

「そうするように頼まれたからな。直に会い取引をした際の女神はこの香水の香りを気に入ったようだ。香りを堪能していたぞ。ゼリーも然りだ」

 

「ん、評価が高いなら問題ないな。ありがとうマキャベリ」

 

「構わないさ。刺激ある商品を大手の相手に売買することができた。商人としてそれがどれだけ楽しめたかお前も少しは分かるだろ?やはり、お前についた判断は間違っていなかった。ここは刺激が溢れている」

 

楽しげに口端を釣り上げて笑むマキャベリは次に訪ねた。

 

「あれから月日が経ったが、奴隷国家の方はどうなのだ。一人でも奴隷がいたら滅ぼすのだろ?」

 

「当然するぞ。まぁ、俺が全員奴隷を買ってからの奴隷制度を撤廃以降、後から連れてこられた奴隷達が来てな。直接監視させてた密偵に顔を真っ青にした神がすごい勢いで猶予を欲しいと言ってきたんだ」

 

「猶予を与えたのか?」

 

「ああ。新たに連れてこられた奴隷達はよほどの事情じゃない限り故郷に送り返してる。こうしている今も監視しているが、もう二度ぐらい奴隷が来たら滅ぼすとも告げてる」

 

国一つを滅ぼすと恐ろしいまで自然に言うイッセーにマキャベリの心は一瞬たりとも揺らがず、ただ「そうか」と答えた。

 

「では、もう一つの国も滅ぶ運命が待っているだろうな」

 

「奴隷国家のような国か?」

 

「彼の国と深い懇意関係がある国があってな。まだ奴隷国家の方がマシだと思われる国だ。その国は噂によれば奴隷国家よりも人権がなく、性欲の処理道具として生かされる女で溢れている―――奉仕国家と世界最悪の国の一つが存在する」

 

 

「って―――そんな国があると噂として聞いたんだが、どう思うよ」

 

大和大輔、海童剛、光輝勇、結城明日奈と異邦人のみ食事会で告げられた会話の内容に四人とも顔を顰めた。場所は閉店後の異世界食堂。それぞれ好きな料理を作り上げ、食事を交えながらそれぞれ雑談を始めていた。自分の世界のこと、相手の世界のことを打ち明けつつ親睦を深める食事をしていると小一時間が経過した。

 

「え、マジでそんな国あるのかよ?」

 

「・・・・・年がら年中、エロいことをしてる国なんて頭腐るだろ。なぁ、自称勇者」

 

「自称と言うな!ふん、そんな国があると言ってだからなんだ。自分から首を突っ込む気でいるのかお前は」

 

「奴隷の人を無理やり酷いことをしているなら助けたい気持ちだけど、ね」

 

当惑、動揺、無関心と様々な反応を示す男女達に思案した表情でどうするかなぁーと思いふける。

 

「奴隷の国もあったし、エロ本を三千万も買う存在もいるし、まさか奉仕国家って性欲の国もあるとは日本人の俺らからすれば信じられないもんだしなぁ」

 

「「「「・・・・・」」」」

 

「ん?なんだ人の顔を凝視して」

 

「いま、なんつった?エロ本が三千万?嘘だろ?」

 

にわかに信じがたいと大輔が事実を確認する風に口を開いたが、ため息を吐いた一誠が事実だと肯定した。

 

「いや、本当だ。何故か異世界のエロ本が闇のオークションで競り落とされた」

 

「嘘だろ!?どんだけエロ本が好きなんだこの世界の人達は!?」

 

「なぁ、何冊でその値段で?」

 

「一冊だ」

 

「一冊で、だと・・・・・」

 

「あ、あり得ない・・・・・」

 

異邦人たちが激しく動揺した。その気持ちはよーくわかると思いつつぽつりと吐露した。

 

「オラリオにもエロ本を売ったら、バカ売れしそうだな」

 

「待て、待て待てっ。売れるどころか売れないだろ。異世界にエロ本なんて存在しないんだぞ」

 

「転生者特有の特典で俺も異世界の神から特典を貰った。ネットスーパーつって、異世界の物資をこの世界の通貨で購入できる便利な特典だ」

 

「「「なん、だとっ・・・・・!?」」」

 

「イッセー、絶対にそんな本を売っちゃだめだよ?売ったら軽蔑するから」

 

鬼気迫る最愛の女性から絶対零度の冷ややかな眼差しを受けても肩をすくめる余裕を窺わせる一誠に、愕然する転生者達は雷を直撃したような衝撃を受けて、それぞれ異なる反応を示した。

 

「あ、だからカップラーメンが売り出すようになったのか!教えてくれなかったからようやく納得できた!」

 

「そういうこと。よく気付いたな」

 

「じゃあ、漫画も買えるのかっ」

 

「買えるけど、お互い違う世界の人間だから同じ漫画があるとは思えないぞ?」

 

「ゲームは・・・・・」

 

「雷や電撃の概念があっても電気と言う概念はこの世界にはない」

 

ふと、アスナが電気のことで語り始めた。

 

「そう言えばそうだよね。この世界は加工した魔石で灯りを付けたり蝋燭や松明とかで夜や暗闇を明るくしてるしさ」

 

「異世界、それもファンタジーらしいけど個人的に懸念してるんだよな。もしもダンジョンに限界があってダンジョンとしての機能が失ったらこのオラリオの存在意義や魔石のない生活はどうしていくんだろうかって」

 

「ダンジョンに限界があるのか?」

 

大和が素朴な疑問として訊く隣で海童が口を開いた。

 

「異世界転生ものの小説の中じゃ、ダンジョンを生み出すコア、核があってそれを破壊すればダンジョンの機能が停止して、その後はただの豊富な資源がある洞窟と化する話があるぞ」

 

「そうなのか?じゃあ、この世界のダンジョンもそのコアっつう物があるとしたらギルドはどうするんだろうな」

 

「ダンジョンあってこその迷宮都市だ。敢えて破壊せずに保有するだろうよ。自分から利益を捨てるような行いだぜ?」

 

「ふん、とんでもない話だな。利益のために見て見ぬふりをする選択をしなければならないとはな。悪徳業者のような手口だぞ」

 

光輝勇の発言に「はははっ!ギルドが悪徳業者か、面白い発想だな」と笑いながら感想を言う一誠だった。

 

「神々は『ダンジョンは生きている』と言うぐらいだ。最大で100層、もしくはそれ以上下の階層に何かがいる情報は得ているから間違いないが、千年経っても最大派閥ですら60階層まで辿り着いていない現状だ。資源とモンスターを量産し続けているそのエネルギーは一体どこから抽出して生み出しているのか、それを知っているのは恐らく千年以上前から存在している神々だけだ」

 

「じゃあ、この世界がモンスターで溢れ出したのは神の仕業?」

 

「ありえなくない話だろう?神は神の姿を模して最初の人間達を作り、動植物も想像した。大地、海、自然、善悪に他にも色々だ。モンスターを作ることすら朝飯前の筈だ。そんなことした理由は定かじゃないけどな」

 

「まぁ、俺が知っている小説の話でもそういう設定の話はあるな」

 

海童が肯定したことで光輝勇の眉根が寄った。

 

「神は一体何をしたいんだ」

 

「人間より読めない超常の存在だ。考えても無駄だ」

 

「一番有名なのはギリシャ神話のゼウスだけど。この世界にもいるんだよな?」

 

「オラリオからとっくの昔に追放されたらしいぞ。まぁ、ヘルメスが居場所を知っていそうだけどな」

 

「その理由は?」

 

「大雑把で言えば、ヘルメスはゼウスの小間使いみたいな関係だから」

 

突然クシャミをしだす男神がいたがこの時の五人は知る由もなかった。

 

「会ったことは?」

 

「俺はないな。できれば、筋骨隆々の初老の神でいてほしいな」

 

「何故にそんな願望を言い出す」

 

「俺の世界じゃあ―――こんな感じだから」

 

席に立って一誠の世界のゼウスの姿を魔法で模して姿を変えた。アスナ達は驚きながらも興味的な意味でその姿をマジマジと見つめた。

 

「イッセーの世界のゼウスってそんな感じなんだね」

 

「その通りだ。ポセイドンもこんな感じだ」

 

「また筋肉ムキムキの神様かよ・・・・・じゃあ、死神ハーデスは?」

 

《ファファファ、こうだ》

 

「骸骨かよ!?しかも、コエー!迫力と貫禄がある!」

 

「・・・・・魔王もいるのか?」

 

その質問に元の姿に戻りながら「いるぞ」と答える。

 

「悪魔の社会は貴族社会でな。魔王を頂点に大王、大公さらにその下の順に階級で位付けされている」

 

「魔王ってやっぱり有名なサタン?」

 

「違う、ルシファー、ベルゼブブ、アスモデウス、レヴィアタン、フォーベシィだ」

 

うーん?と海童が唸り声をあげた。

 

「フォーベシィは聞いたことがないな。悪魔関連の知識は詳しくないからだろうけど。それ以外の魔王は男か?それとも女?」

 

「女の悪魔だよ。因みにその人達は二代目の悪魔だ」

 

「二代目?つまり初代魔王の子供ってことか。じゃあ、フォーベシィって魔王は?」

 

「初代の方だ。俺と同じ年の双子の娘がいて馬鹿親だったよ」

 

・・・・・魔王が馬鹿親。この瞬間、自分達が知る魔王の銅像に疑惑がかかった転生者たちだった。

 

「魔王って怖くないのか?」

 

「全然?昔、修行するために悪魔がいる冥界に住んで魔王達に師と仰いだことがある」

 

「はぁっ!?なんだその話は!魔王に鍛えられたってそんな小説でもない展開が実際していたのかよ!」

 

海童が食って掛かるようにして驚きで叫ぶに対して、もはや慣れた感じでアスナが遠い目で静かに語り出した。

 

「イッセーは元の世界じゃ私達の常識の及ばない人生を過ごしてきたみたいだから、一々驚いたらキリがないよ」

 

「・・・・・一度死んで異世界に転生する体験をした俺らよりも想像を絶する人生を送ってきたってことか」

 

「・・・・・にわかに信じたくない話だ」

 

転生者組を驚かす一誠の人生談は何時か聞かされる羽目になり、アスナの言う通りにしなければならない時が来るとはまだ露にも思わなかった三人だった。

 

「ま、まぁリアルファンタジーの世界も凄いってのはわかった。個人的に一番興味が引かれたのはアスナさんの世界だ。何、その自由度の高いVRMMOのRPGの話は。物スゲーしたいんだけど!リアルでもモンスターバトルできるゲームなんて信じられないぐらい羨ましい!」

 

「はははっ、そうかな?」

 

「俺も体験したいぐらい興味がある方だ。他の三人の世界は至って平穏な世界だから興味惹かれても仕方がないだろうな」

 

「イッセーの世界には負けるよ?」

 

苦笑するアスナに笑みで返す一誠。

 

「何時かアスナの世界に行ってみたいものだな」

 

「いや、元の世界に帰れないだろ?」

 

大和からの突っ込みに事実を言い返した。

 

「俺、異世界と行き来できる魔法を得ているから帰れなくないぞ。まだ一度も元の世界に帰ったことがないから成功するか怪しいけどな」

 

「「「なん、だと・・・・・!!!」」」

 

―――†―――†―――†―――

 

食事会を解散して直ぐに城へ戻らず南区へ向かった。人材確保の目的で魅惑的な娼婦達を見て回る一誠の隣はアスナもいた。娼婦が跋扈している姿には羞恥心を覚えて手を握って、腕を胸に抱き締め離れないようにぴったりと歩いて顔を染めている。

 

「無理して来なくてもいいのに。何時もの人材確保の下見だぞ」

 

「それでも、あなたと二人きりで過ごす時間は限られてるから」

 

「・・・・・今日は帰らず宿で宿泊するか?」

 

その言葉の深意を理解したときにアスナの顔は一気にカァーと紅潮した。耳まで染める彼女の顔に触れると熱が出てるのではないかというぐらい熱かった。そのまま顎に指で触れて軽く持ち上げると、アスナの目と目が合った瞬間に二人だけの空間ができた。

 

「どうする?」

 

「・・・・・」

 

コクン、と赤くしたまま首肯した彼女に唇を重ねて直ぐに顔を離し、腰に手を回して二人は歓楽街の中へと足を進めた時に燃えるような赤い髪の男を見つけたつぶらな瞳が歓喜の色を孕ませ―――。

 

「いたぁー!イッセー!」

 

「「?」」

 

聞き慣れない明るい少女の声を耳にした二人が誰だと思った瞬間。一誠の後ろから勢いがついた飛び掛かりで接近したその気配を感じないはずがなく、振り返り様に腕を突き出して褐色肌の少女の顔面を鷲掴みにした。

 

「・・・・・誰だ?」

 

「知り合いじゃないの?」

 

「いや、全然違う。歓楽街に知り合いにこんな子供いないし」

 

「いたたっ!歪む、顔が歪むー!」

 

ジタバタする幼い少女はどう見てもアマゾネスでアイシャではない知らないアマゾネス。アスナから「取り合えず放して話を聞いてみよ?」と情けを頂戴されたので解放された。成熟した肢体には遠い、細い褐色の体。胸もまだ膨らみかけもいいところだ。衣装は短い胴着(チョッキ)にこれまた際どい腰布など、他のアマゾネスと比べてまだ被覆面識はあるもののやはり露出が激しい。臍も丸出しだ。その姿を見つつ一誠は伸ばして結わえられている黒い髪の頭を押さえ悶絶する相手に首をかしげながら訪ねた。

 

「で、誰だお前?」

 

「ひどーいっ!忘れちゃったの!?私のこと殴ったのに覚えてないの!?」

 

「俺が殴った・・・・・?アマゾネスを殴った事なんて・・・・・。あ、あったな三年前。二大派閥の襲撃事件」

 

アマゾネス、ひいては【イシュタル・ファミリア】にカチコミした時のことを思いだした。殴られたと主張するアマゾネスの少女のことはまったく覚えていなかったので、記憶にすら残っていなかった。三年前と言う一誠の言葉にアスナも思い出して、二人の接点の辻褄が合うことに納得した。

 

「うんっ、そうそう!思い出してくれた!?」

 

目をキラキラと輝かせる少女は頻りに頷く。【イシュタル・ファミリア】に所属していた三人の転生者達による拉致・強姦の行いに粛正をする際、他派閥のホームの中で暴れ回った時に一戦交えたアマゾネスの中にいたのだろう。目の前の少女のことなど全然覚えてすらいない男に・・・・・。

 

「レナ!私、レナ・タリー!今度は忘れないでね、イッセー!」

 

琥珀色が近い橙真珠(オレンジパール)のごとき双眸を細めるレナは、どこにでもいる少女のように明るく笑う。

 

「それで結局は挨拶をしに来たのか?」

 

「それもそうだけど、ここに来てるってことは誰かを買い来たってことでしょ?」

 

「『異世界食堂』の店員を増やすためにな」

 

「え、そっち?娼婦と気持ちいいことするためにじゃなくて?」

 

「そういうつもりできたわけじゃないから」

 

「なんだー、もし可愛いアマゾネスと探してるなら私が相手になってあげたかったなぁー」

 

まだ小学生ほどの年齢かもしれない小柄な少女の発言は、アスナをどきまぎさせた。

 

「え、えと、あなたはその男の人と・・・・・」

 

「してないよ?だって、ホームでイッセーと会って、私、変わっちゃったの。もう一目見た瞬間から、じゅわ、って体が熱くなったぐらいに!」

 

アマゾネスは、強い『男』に惹かれる。アマゾネスは、自分を打ち負かした『雄』に心を奪われる。女種族の厄介な性を覚えている一誠は、頬を引きつらせた。顔も名前も覚えていなかったアマゾネスを惚れさせていたなんてと。

 

「それでね?一撃をもらったあの時、感じたの・・・・・『あ、運命だ・・・・・』、って。だからイッセーと再会するまで他の男とシていなくてずっと『処女』のまんまなんだよ?」

 

一誠は確かにこの時『悪い予感』を味わった。アスナはこの時、次の展開を『悟り』を覚えた。

 

「・・・・・順番がおかしくなっちゃったけど、告白させて!イッセー!」

 

次の瞬間、がばっとレナは両腕を広げて跳躍する。

 

「イッセー、好き!子供作ろう!」

 

抱き着こうとする少女に、気づけば、一誠はアスナの栗毛の髪と背中を見ていた。

 

「だ、だめだよ!」

 

「えー何でー?」

 

「まだ子供なのに、こ、子供を作ろうって早すぎるよ!」

 

「確かにまだ子供を産めない身体だけど、私とイッセーの恋愛を邪魔してほしくないかなー」

 

子を叱る親のような風景が目の前で繰り広げる。

 

「というか、あなたは誰だっけ?冒険者みたいだけどイッセーのなに?関係は?」

 

「未来を誓い合った仲だ」

 

レナの質問に対してちらりと後ろへ振り向いたアスナと目が合い、一誠の公言でアスナが勝手に恥ずかしげに視線を下に落とした。それが照れも含まれていることを手に取るように分かり、彼女の肩に手を置いて後ろから抱きしめながらレナを見る。

 

「街中でこういうこともする仲だ。悪いけどお前の告白は受け止められない。酷いようだが諦め―――」

 

「ダメダメ、イッセーの女には私がなる予定なんだから!!絶対に負けないよ、譲れない!」

 

言葉を遮るレナの意志の強い恋する乙女の決意。まいったな、と困って眉根を寄せる一誠から指摘を受けた。

 

「個人的に【イシュタル・ファミリア】の眷族と一線を置いて接したいんだ。その線を乗り越えて来られると困るんだが」

 

「じゃあ、【イシュタル・ファミリア】じゃなきゃいいんだね?」

 

「簡単に抜けれないだろ」

 

「イッセーの子供を産むためなら頑張るよ!」

 

双眸に何かの炎を燃やし出し、「早速イシュタル様にお願いしてくる!」と言い残して二人から離れ人混みの中へと消えていったレナを呆然と見送った。

 

「・・・・・アルガナさん達やレギンちゃん達と違うタイプの娘だね」

 

「あのやる気に満ちた目を持った奴は大抵諦めが悪い・・・・・どうすっかなぁ」

 

「一応、派閥から脱退するまで保留する形でいいんじゃないかな」

 

彼女からの提案にそうだな、と同意して改めて歩み始めた二人も人混みの中へ消えていった。

 

 

 

 

「~♪~♪~♪」

 

「なんだい、随分とご機嫌じゃないか」

 

「あ、アイシャ!うん、さっきイッセーと子供を作る約束をしてきたんだよ」

 

「また娼婦の身請けの下見をしに来ていただけだろ?お前の話はどうせ一方的で本気にしちゃいないよあの男は」

 

「だったら本気にさせるまでだよ!だから邪魔しないでねアイシャ」

 

「さて、どうしようかね。あんな活きの良い男を見つけたら放っておくなんて他の連中もするはずがないよ」

 

「むーっ!こうなったら急いでイシュタル様にお願いしに行かなくちゃ!」

 

「何を願いに行くつもり―――ってもう行きやがった・・・・・」

 

 

―――†―――†―――†―――

 

『異世界食堂』定休日の時、従業員を全員、『幽玄の白天城』のリビングキッチンに招集した一誠は新たに決めたシステムを報告しようと口を開いた。

 

「『異世界食堂』を開いて三年以上経った。ここでそろそろ新しい挑戦を試みたいと思いたいんだが、そのための必要な改善策を皆で考えたい」

 

「それは何ですか?」

 

「うん、デリバリーサービス・・・・・俺達の料理を直接依頼した人のところに運ぶ配達をする、ということをやってみたいと思う」

 

新しい内容に一誠以外の一同は様々な反応で思い思いの考えを打ち明けた。

 

「配達って、それは難しくないか?このオラリオの地図はどこに誰が住んでいるのか事細かに記されていないぞ?」

 

「ギルドから大まかなオラリオの地図を貰って、ここ数年間海童が言うようにどこに誰が住んでどこに何が建っているのかすらも事細かに調査して書き留めてあるよ。ダイダロス通りも網羅した」

 

というか、そこら辺の住民登録を疎かにしているギルドの職務怠慢で、個人的に必要なことだったとはいえ俺が尻拭いをさせられた感じがハンパなかったがな、と長ーいため息を吐いた一誠の愚痴が止まらなかった。

 

「あの豚エルフ、網羅した地図を見せたらなんて言ったと思う。ここまで細かく書く必要があるのか?だ。だったらお前はオラリオの全容を頭に叩き込んであるのか・・・・・どこに誰が住んで、オラリオの総人口すら把握できていない豚エルフにイラッときたぜ」

 

「お、落ち着いて落ち着いてイッセー」

 

「お前がかなり苦労したことは悟ったからその負のオーラを抑えろ。部屋中が嫌な音を立ててるから」

 

周りから宥められて落ち着きを取り戻す。改めて話を進める上でメアが挙手した。

 

「料理を入れる容器はどうするニャ?それに食べ終えたら店まで持ってこさせるのニャ?」

 

「その容器を返品する専用の魔道具(マジックアイテム)の箱も作るさ」

 

「今の人数でそれができるのかい?朝からパン作りをして朝清掃や料理の仕込みと色々と他に手を回す余裕がないと思うんだけれどね」

 

「注文票と容器の回収は店が雇った責任感ある無所属(フリー)の人達にしてもらう。俺達はさっきも言ったように何時ものごとく作っていればいい」

 

「他に質問は?」と尋ねる一誠にアスナとクロエが挙手しながら訊いた。

 

「話を聞いて思ったんだけど、その感じだとデリバリーをするお店と言うより弁当屋風な感じだよね?」

 

「ああ、アスナの言うとおりだ。実際これからしようとしているのは弁当屋みたいなものだ。でも、配達をする視野も入れているから疑問を抱かなくていいぞ。クロエは?」

 

「不祥事が起きた時の対策はどうするニャ?具体的に売上金をちょろまかされたり、支払いを踏み倒す客がいたら?」

 

「一度でもしたら店のブラックリストに載せ、二度と注文も店の敷地に跨がせはしない方向で。勿論雇ったフリーの従業員と客どっちもだ。ああ、注文した客が本人じゃなくて代理だった場合は、注文票と一緒に書かせる証明書を見せてもらってから渡してくれるようにしなくちゃな」

 

「ふーん、もう考えているんだね。それなら問題点なんてないんじゃない?」

 

ルノアの楽観的な言い分から少しして「一つだけある」と一誠本人が否定した。デリバリーサービスをするに大切で重要なことがまだ解決していないことだ。

 

「常連客以外の人間が『異世界食堂』の料理のメニューを知らない。それを店に入らず知る術がまだなわけでデリバリーサービス、配達をするには適わない。それを解決するための策を皆からの意見で考えたい」

 

と、珍しく一誠から乞われて従業員達はうーんうーんと頭をひねって思考の海に飛び込んだ。

 

「選ぶ時間のゆとりも欲しいわよね」

 

「行列もできるよね。待たされないですぐに注文できる環境や状況・・・・・」

 

「異邦人の俺達からすれば連絡一つでできたんだが、この世界は連絡手段はないから無理なわけで」

 

「その場でゆっくりと選べて注文ができる場所や方法を前提に考えないと」

 

「そんなところあるかどうか・・・・・」

 

悩み続けた一同。知らない人でも簡単に知ることができる場所や方法を考えた結論は。

 

「坊主、異世界銭湯の中にも料理を作る予定だった件がまだ保留だったろう。あそこだったらデリバリーサービスったのをできるんじゃないのかい?東西南北から異世界銭湯に行ける路もあるんだしね」

 

ミアの言葉で思い返された件の計画を実行する切っ掛けとして至った。

 

一ヶ月後、異世界銭湯で週に一度『異世界食堂』が弁当屋=デリバリーサービスを始め、

仕事場やダンジョン内でも好きな料理を味わえるようになって利用するものは後を絶たない。

ギルドの職員達も例外ではなくギルド長ロイマンのもとに、店主の付き添いで異世界食堂が雇ったエルフの配達員から届けられた黒い大きめな箱があった。小さな宝玉付きで蓋を開けると最初に温かな白い粒々の米が詰められており、米が入れられた一段の箱を取り出せば、二段重ねの箱には蓋が無くなったことで解放された湯気と、熱で発するソースの香りにステーキ肉の焼ける音。ロイマンは鈍色のナイフとフォークを手に取り、静かに食事を楽しむ頃。

 

「『異世界食堂』もとんでもないことを始めたね。料理を配達してくれるなんて」

 

「週に一度だけなのは残念だけど、この日を楽しみに待って仕事を頑張れるね」

 

「今までだったら休憩時間を利用して店に行って戻って往復するだったけど、配達をしてくれるなら行かずに時間を気にせずに食べられるから嬉しすぎるわ」

 

「んー、美味しいっ」

 

受付嬢達の間でも好評な『異世界食堂』の弁当。行かなければ食べれない料理を弁当にして運ぶとは、オラリオに点在する酒場や料理店の常識を逸脱している。この結果、中々行けずにいて食べれなかった者達もこれならば食べられると気持ちで異世界銭湯に運ぶ足が多くなり、一日百件以上の注文が殺到して、料理を作る専念をすることは変わらないと言った店主の言葉通りであった。

 

「本当にやったわねイッセー」

 

事前に新しい事をすると教えられていたローズも直で店主から受け取った弁当で、昼時に食べながらそう言い零した。何となく他の受付嬢を視界に入れる。銀色の長い髪に紫色が帯びているエルフの同僚受付嬢が、『氷の妖精』などと言われている原因である普段は無表情の顔が、注文した弁当を食べて驚きの色を浮かべていた様子に驚嘆した。

 

「ソフィ、どう美味しいでしょう異世界の料理って」

 

「ええ、正直驚くべき味です。酒場の料理など、と高を括っていた自分が恥ずかしいです」

 

ならばこれからは印象を改めざるを得ないだろうと、優越感を覚えるローズは食べ終えた弁当の中にフォークとナイフを入れ、蓋した箱にある宝玉を指先で軽く押す。すると、宝玉が光り輝いては箱が光となってローズの前に音もなく消えてなくなった。

 

「捨てることもなく、返しに行かず済ませる魔道具(マジックアイテム)、ね。才能の無駄遣いじゃないかと思われても仕方がない便利すぎる物を作って、盗まれないのかしら」

 

 

 

「ニャー!次から次へと忙しすぎるニャー!?」

 

猫の悲鳴が聞こえる『異世界食堂』の調理場。食べ終えた空の箱が虚空から現れては積み重なった空箱に落ちていく隣で洗う従業員の気持ちは、他の従業員の心を代弁していた。

 

同じ料理を作るだけだと言うのに、今まで作ってきた量より数倍で、壁に張られてる注文票が山のようにまだ大量に残っている分を作らなければならない。

 

辟易するオラリオ中からの注文に料理人であるアスナ達の顔に汗や疲労が浮かんでいるのは、今までにない多忙であることが物語っている。

 

「はっはっは、本当に忙しいなぁー。まさかここまで繁盛するとは予想外だったわ」

 

「まだ笑えるぐらい余裕があるんなら、もっと忙しそうにしていな」

 

「疲れているんだったら休んでいて良いぞ?穴埋めは出来るからな」

 

「はん、甘く見るんじゃないよ。こちとら疲れてさえもいないんだ、坊主に体力負けなんかしないよ」

 

軽口を叩く第一級冒険者と店主の手は、変わらない速度で次々と弁当を作っていく。完成した弁当は『異世界銭湯』に繋がっている大型の鏡の魔道具(マジックアイテム)で運ばれて客のところへ届けられる。

 

「お待たせしました!182番のお客様、カウンターまでお越しくださいませ!」

 

「早いな、まだ一分も経ってもいないぜ。待たずに済んでいいんだが、ちゃんと作ってあるんだろうな?」

 

「大丈夫です。丁寧に美味しく作られておりますから」

 

スマイル営業を忘れずに弁当箱を手渡す従業員。隣を見れば大勢の客達から注文票と代金を受け取っている従業員がいて、これまでの注文票を別の従業員が束ね、鏡の魔道具(マジックアイテム)を経由して持って行った。顔を前に戻すと待機中の客達と同じ長台にずらりと並べられた辞典のように分厚いメニューの本の前に腰を下ろして座っている二百人余りの人達の光景を眺める。

 

「(予想はしてたけど、予想以上にお客さんがくるんだね・・・・・)」

 

それほど『異世界食堂』の知名度が高いのだということなのだが、ここまで肌で実感したことはなかった。薄鈍色の瞳は彼等彼女等の客達を一瞥して、店内に戻ろうとした際は近づいてくる顔見知りの黒髪黒目の男性の姿を捉えた。

 

「いらっしゃいませ、ご注文は?」

 

「・・・・・店主を呼んでくれるか?大事な話があると言って欲しい」

 

「申し訳ございません。店主はただいま手が離せないので、伝言として伝えますね。よろしいですか?」

 

「ああ、それでもいい。お願いするよ」

 

男性は注文をせず伝言だけ残して去っていった。この言葉の意味を理解できたのは店主、アスナ、シノンだけだった。

 

「決まったようだな」

 

「そうみたいね。イッセー、あの子達の願いを叶えたらどうする?」

 

「あいつらがどうするかで決まる。さて、その一人のシノン。お前は帰るか?それともこの世界に残るのか?お前の気持ちを教えてくれ」

 

「・・・・・私は」

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