ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか   作:ダーク・シリウス

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冒険譚42

次の『異世界食堂』の休日の日に一誠は【アルテミス・ファミリア】のホームに足を踏み入れた。そのヒューマンの脇を固めるのは、栗毛の長髪のエルフのアスナと黒髪に眼鏡をかけたヒューマンのシノン。三人が訪れると出迎えたのは団長のキリトだった。

 

「よ、元気そうだな」

 

「ああ、そっちもな。デリバリーなんて異世界でもやれるもんなんだな。最初に訊いた時は驚いたぞ」

 

「普通は無理なんだけど、意外と何とかやっていけている」

 

「そうか」

 

挨拶と雑談はそこそこ終わらせて中へ招かれる。真っ直ぐ皆で食べる食堂に案内されれば、何とも言えない表情の異邦人、ヒーローを志していた緑谷達が座っていた。エギルとクライン達も同席していたが、シノン以外の女性・・・スグハ、シリカ、リズがいなかった。食堂の空間に入ると開口一番―――一誠は問うた。

 

「それじゃ、聞かせてもらおうか。お前達の総意の答えを」

 

異世界にいるもう一人の一誠を元の世界に帰す、厚顔無恥で元の世界に帰るか―――問われた代表者、小汚い印象的な無精髭の教師相澤が答えた。

 

「元の世界に帰る気持ちは変わらない」

 

「そいつは自分達だけ恩を返さず厚顔無恥で帰るってことなんだな?」

 

「ヒーローとして俺達より先にこの世界にいるお前やキリト達に申し訳ないが、その通りだ」

 

相澤の答えに視線をキリト等へ動かした。シノン以外の三人の女性がいないのが気になるも予想はできる。

 

「順番的にお前らが最初だ。もうこの世界に五年もいるんだし、キリト達も元の世界に帰った方がいい時期だけど」

 

「・・・・・」

 

直ぐには答えず、しばらく間を開けて思考の海、この五年間の日々を思い返しているかのように口を閉ざしていたキリト。返ってくる答えに待っているとキリトの口が開いた。

 

「俺達は元の世界に帰る」

 

「そうか」

 

当然の答えだと思った矢先にキリトの発言は、一誠の予想を裏切らせた。

 

「だけど、すぐにこの世界に戻る。俺達は、俺とスグハ、シリカにリズはこの世界で生きることにした」

 

「・・・・・え?」

 

「エギルは元の世界に帰るつもりだ」

 

キリトの言葉にアスナが異を唱えた。

 

「どうして帰らないの?クラインさん達は?」

 

「あーこっちの世界の方が生活しやすくてよ。俺達もこの世界に生きることにしたんだ。ぶっちゃけ、戻っても仕事解雇されてるだろうしどうせならってな」

 

「・・・・・本音をぶっちゃけて言えば?」

 

「可愛いアマゾネスちゃんとの出会いを失いたくないって、なに言わすんだお前!」

 

勝手に暴露したクラインを呆れと苦笑が同居した心境を抱くアスナ。

 

「エギルさんは」

 

「俺の帰りを待ってる女がいるからな。この世界に連れて一緒に店を切り盛りしてみたいが、異世界なんてとんでもねぇ新天地じゃ不安に押し潰されそうだ」

 

「一応、誘ってみたら?」

 

「してみるさ。一応な」

 

駄目だったらそのまま永遠の別れ際にキリト達を見送ることになるだろうとアスナは悟り、キリトに目を向けた。

 

「キリトは三人の妻の事でか」

 

「ここだったら法律も世間も気にせず暮らせるからな。・・・・・それでお前に頼みがある」

 

「とんぼ返りをする理由か?」

 

「ああ、一度お前の世界に連れて行ってほしい」

 

話が見えず、一度小首をかしげる。

 

「それはなんでまた?」

 

「お前の世界はファンタジーなんだろう?魔法があるなら錬金術も存在している可能性を信じて言うが、アンドロイド、ロボットの開発も作れる人はいるか?」

 

「いるけどそれが元の世界と何の関係がある?」

 

「元の世界に人工知能、俺達の仲間、家族がいるんだ。だからお前の世界の技術を頼りに一人の存在にしてあげたい」

 

人工知能?アスナに説明を求める視線をぶつけると、複雑な面持ちで語ってくれた。

 

「ユイちゃんって私達の事を家族のように接してくれる娘なの。コンピュータ、ネットワーク内でしか活動できない人工知能なんだけど、彼はユイちゃんをあなたの世界の技術でこの世界でも過ごせるようにしたいってことだよ」

 

「・・・・・家族ねぇ。今の二人の関係を知らないでいるユイって人工知能にどう説明するんだ?」

 

「・・・・・正直に話す」と少し表情を暗くするキリトに「・・・・・当たり前だよ」と悲し気に言うアスナ。また一誠が訊く。

 

「仲直りしてって言われたら、二人はどうするわけ」

 

沈黙する。これは難儀な展開になることを察して溜息を吐く。

 

「キリトの件に関しては了承しよう。ただし、帰れたらの話だ。いいな」

 

「・・・・・頼む」

 

話が一段落したところで早速とばかりに拳藤一佳の協力を求める。しかし、彼女だけでなく緑谷達が当惑した。

 

「え、もう?」

 

「は?この世界にやり残したことがあるのか?」

 

「え、えと・・・・・帰る支度とかキリトさん達に挨拶とか・・・・・色々」

 

歯切れが悪く言う。今すぐ帰ることになろうとは思わなかったようで下準備を済ませていなかったことから、一誠から威圧感が放たれた。

 

「―――一時間以内に全部終わらせろ。それ以上過ぎたら帰るチャンスはないと思え」

 

ドスの利いた低い声とドラゴンの睨みでヒーロー組達は脱兎のごとく動き出し準備を始めた。

 

「イ、イッセー・・・・・脅しちゃだめだよ」

 

「何時でもすぐに帰れる準備を怠った馬鹿共が悪い。ああ・・・そう言えばキリト、子供は生まれたのか?あの三人がこの場に居ないし」

 

何気ない風に尋ねられてアスナを一瞥した後にキリトは頷いた。

 

「無事に出産したよ。三人共男の子だ」

 

「それはよかった。後で出産祝いに子育てに必要な道具を一式数年分プレゼントしなくちゃな」

 

「・・・・・助かる」

 

「教育には気を付けろよ。浮気とか不貞行為を覚えさせるなよキリトパパ」

 

「・・・・・」

 

ぐうの音も出ないキリトは沈黙してしまった。親の血を受け継いだ子供もそうならない確証はない故、教育に気を使わなければならない苦労は必然的なのである。

 

「しっかし、エギルは不確定だが―――シノンも含めて皆異世界に残るなんてな」

 

「イッセー、お前はどうするんだよ?」

 

「勿論帰るよクライン。ただ、俺は長い時間を掛けて異世界と異世界を繋げる。この世界と元の世界と行き来するためにな。できるかどうかは、元の世界にいる神々と検討してみる」

 

一時間後―――。

 

「前回のように思い浮かべろ」

 

「は、はい」

 

ヒーロー組達の支度や別れの挨拶を済ませたことで、展開する魔方陣の中で額を合わせる。拳藤一佳の想いを糧に魔法を発動する。彼女が思い浮かべるは、元の世界の風景に家族に学校・・・・・そしてもう一人の兵藤一誠。それらがある異世界に呪文を唱える一誠の言葉を耳にしながら強く強く憧憬を抱いていると、額から伝わっていた感触が無くなり。

 

「今回も問題なくだな」

 

虚空に輝く光は楕円形の鏡のように発現して、中心は拳藤一佳が思い浮かべていた景色が映していた。内心の一誠はここまでは問題ないが、この向こうに行けるかどうかだと一抹の不安や緊張感で思いながら手を動かして自身の魔法を触れた。

 

「―――――」

 

景色の向こう側へ手が何の抵抗もなく突き進み腕、肘、肩まで水の中に入れたような浸透していく身体に一誠は初めて緑谷達の世界へ―――足を踏み込んだ。

 

「ははっ、別の世界に来てしまったよおい」

 

UとAが合体した形の施設を前に乾いた笑い声を零し、後ろへ振り返ると【アルテミス・ファミリア】の異邦人達が続々と一誠の魔法を潜って出てきた。

 

「か、帰ってこれた・・・・・っ」

 

「ああ、二年振りだ・・・・・っ!」

 

『~~~~~っ!!!』

 

この世界の異邦人達が歓喜が極まり、全身を震わせた後に全力で喜びの声を上げた。その声量は大きく心の奥底から喜んでいることが聞いて解る。お互い抱きしめ合い、嬉し涙を流し感動を分かち合う姿に一誠は息を吐く。アスナとシノンはご苦労様と肩に手を置いて叩いたり微笑んで労った。

 

「約束守れて良かったね、イッセー」

 

「これで心置きなくあなたも元の世界に帰れるわけね

 

「そうだと思いたいな」

 

眼前の喜々の光景を眺めていた一誠にドラゴンの気配を感じ取った。それは静かに現れ、横へ顔を向け視界に映ったオッドアイに一誠と瓜二つの人物が佇んでいた。アスナ達も視認した。

 

「もう一人のイッセー・・・・・」

 

「これで二度目だけれど、まだ信じられないわね」

 

分身体ではなくオリジナル。並行世界、パラレルワールドのもう一人の兵藤一誠が現実だとしても信じ難く受け入れ難い事実。ポケットに手を入れてもう一人の自分に近づく一誠。

 

「また会ったな」

 

「そうだなと言いたいが、どうして直ぐにあいつらをこの世界に送らなかったのか聞かせろ」

 

「あいつらがいなくなった分、戦力が激減するんだ。【ファミリア】としてそれはとんでもないことだからあいつらを拾った先輩達と主神に恩返しをさせていた。ヒーローを目指すならそれぐらいしてからじゃないと駄目だろ」

 

「・・・・・ここにいるのは、それが終えたわけか」

 

「全然。四十人の代わりの団員を集めず急かされた。恩を返さず厚顔無恥でヒーローになるんだとよ」

 

どう思うよ、と訊かれたもう一人の兵藤一誠の口から溜息を吐いた。目は少年少女達を非難していた。

 

「・・・・・満足に恩も返せなかったのか。それでよくこれから復学して立派なヒーローになれると思っているんだな。恩返しを舐めているのかお前ら」

 

『・・・・・っ』

 

グサッ!と自分達が知っている兵藤一誠にまで侮蔑の言葉を送られてヒーロー組達は顔に影を落とし、奈落の底にまで酷く落ち込むその様子についてきたキリト達は「うわぁ・・・・・」と漏らした。

 

「・・・・・こいつはドラゴンの修行で甘い考えをなくす必要があるな」

 

『ひっ!?』

 

そんな一言でガチで怯える彼等彼女等に同情しない一誠は「程々にしておけよー」と言いながらポケットから一枚のカードを取り出した。

 

「なんだこれ?」

 

「『ステータスプレート』と言ってな。主神いらずでこれが【ステイタス】の代わりになる俺が作った新しい道具だ」

 

「ああ、教えてもらった【ファミリア】のだな。で、なんでこれを俺に?」

 

「お前の血をこれに登録して俺の【ステイタス】をコピーしろ。異世界に行き来できる魔法が得られる」

 

一誠の話を聞いて目を見開く。直ぐにその通りに『ステータスプレート』に血を垂らして登録、次に兵藤一誠は一誠から全てのアビリティやスキルに魔法をコピーして自分の力として得た。

 

「『異世界扉(ワールド・ドア)』・・・・・!」

 

「これでお前も元の世界に戻れるな」

 

「・・・・・ああ、ありがとう。お前も帰るんだろ?」

 

「そのつもりだ。だから、遊びに来るなら歓迎するぜ」

 

「それはこっちもだ。お互いまた会える日まで息災でいよう」

 

二人の兵藤一誠が固く握り締めあい不敵に笑みを浮かべた。その笑みのまま兵藤一誠は緑谷達へ向け、怒りのオーラを迸らせる。

 

「さて?帰ってきた喜びも束の間も浸る暇もないぞお前ら。今すぐトレーニングルームで鍛えてやる」

 

「ちょ、待ってくれ兵藤!?俺達の帰還を先生達や親に伝える方が先だって!」

 

「黙らっしゃい!そんなの二週間後でもできるわ!ヒーローが恩返しもできずに人を助けれると思っているのかああん!?どうせ軽い挨拶の言葉だけで済ませて万事解決!と気持ちでいるんだろ、俺はそういうのが許せないんだよ!」

 

「あ、あっちも兵藤もおっかないけどこっちも同じだぁ~!?」

 

「に、逃げるぞ!」

 

悲鳴を上げる少年少女だけでなく、矛先は大人にも向けられた。

 

「そこの教師三人組も、ヒーロー兼教師以前に大人としてこいつらの指導が生温いんじゃないか?連帯責任としてあんたらもシゴくからな」

 

「「「・・・・・拒否権は」」」

 

「あると思うか?(ニコリ)」

 

結果。兵藤一誠から放たれた数多の鎖が一同を縛り上げ、抗議と悲鳴を上げても一切合切も意を返さずどこかへ連行して行った。唖然と見送っていた一誠達は直ぐにオラリオには戻らず。

 

「・・・・・ねぇ、イッセーもあんな感じになっちゃう?」

 

「なるな。だって俺だもん」

 

「指導の鬼ね。で、これからどうする?」

 

「勿論、観光しようぜ。この世界の通貨はないけど」

 

観光をしに行った。そして普通の姿の自分達が知る人間がいれば、異形の姿をした人類を目撃した瞬間の一行は心底から目を見張って愕然や驚愕しっぱなしで終始過ごし、ヴィランによる事件に巻き込まれると。

 

「え、兵藤一誠。何故君がここにいるんだい」

 

「あ、世界を救った英雄じゃん!」

 

「巨大隕石を破壊した雄英の!」

 

「サインしてー!」

 

あっという間に騒がれ野次馬に取り込まれてしまい、一行は静かに観光できまいとオラリオへ急遽戻った。

残念ながらも元の世界に帰れた彼等彼女等の祝福を祝い、二度と異世界に訪れることはないよう願うばかり。

 

「そうか。彼等は戻ったんだね」

 

「あいつらが異形の姿でいるのも納得もした。そういう世界なんだってなって思わされたよ。しかももう一人の兵藤一誠の知名度高かった」

 

「お主もそうじゃろうて」

 

「やることなすこと派手だからな。目立ってしょうがないだろう」

 

【ロキ・ファミリア】のホームに訪れ、異世界に帰還した者達の話を耳に入れさせる。事務の仕事をしながら話を聞くフィンの目の前で一誠とガレスは将棋をして、見学しているリヴェリア。

 

「後はキリト達ともう一組の異邦人達だけだね」

 

「そうだなと思いたいが、またこの世界に異邦人か転生者が来そうな予感がしてしょうがないよ」

 

「今のところギルドからその報告はないが杞憂ではないか?」

 

「杞憂でも何でも、既にオラリオにおるしの。これで打ち止めと思わんほうが気分的に楽じゃろ」

 

ガレスの考えに同意と首肯しながら駒を進ませる。盤にパチと音を鳴らし相手への攻めやけん制をしつつ王将を攻め落としかかる。

 

「キリト達はこれからもこの世界に?」

 

「そのつもりのようだ。元の世界よりこの世界の方が過ごしやすいのが決定打だ」

 

「過ごし難いのかお前達の世界は」

 

「自由があまりないのが確かだな。細かな規則や大まかなルールがその国に住む人類を束縛している。便利な道具は豊富で遊戯も豊富だから退屈ではないな。それに比べてこの世界は自由があって金も稼ぎやすい分、退屈で便利なものは少ない」

 

「ふむ、儂等のような種族がおるというのに聞くと差異があるようじゃな。それで、いつ戻るんじゃ?」

 

元の世界の帰還を問われ次の一手を王将の近くにパチと置く一誠。

 

「―――もう一組の異邦人達の誰かが【ランクアップ】を果たして、運動会参加資格を得られたらあいつらの主神に改宗(コンバージョン)を申し込む。真正面から正式に全員を解放しなくちゃな。そうじゃないと俺や相手に対する成立や正当性が成り立たない」

 

異世界で過ごして六年目の春。ついに一誠は帰りを待つ家族がいる世界へ帰る決断を下した。その話は瞬く間に交流ある【ファミリア】の主神や団員達の耳に届く。

 

「シャクティ、アーディ、俺達も行くぞ!異世界のガネーシャを会いに!」

 

「異世界かぁ、どんなところなんだろうね」

 

「イッセーみたいな存在がいる前提で考えた方がいいだろう」

 

 

「アスフィ、未知の世界へロマンを求めるよ」

 

「止めても無駄だということだけはわかっています」

 

 

「主神様よ。手前等も行くのだろう?手前は楽しみだ」

 

「わかっているわよ。私も興味あるのだから」

 

 

「ふふ、イッセーは私を愉しませるのが本当に上手ね。オッタル、時期が来たらアレン達を連れていくわよ」

 

「は」

 

 

「イザナギ、イザナミ。当然行くわよね?」

 

「勿論」

 

「行かないわけがないだろう。異世界の極東を見てみたいのだからな」

 

 

それぞれ様々な思惑を抱いて今か今かと待ち続ける。全てはもう一組の異邦人達の集団に懸かっていると過言ではない。少年少女達に何年掛かろうと期待する神々にそんなこと思われているとは知らない当人達は・・・・・。

 

「せいっ!」

 

鋭い一閃が気合の声と共に走り11階層にいる大型モンスターであるオークの胴体を切り裂いた。同胞を屠った人間の後ろから陰で覆いつつ掲げた天然武器庫(ネイチャーウェポン)の棍棒を振り下ろした。

 

「―――――」

 

後方へ振り返らず横に軽く跳躍、一拍遅れて地面に叩きつけられた棍棒の音の後に艶やかな黒いポニーテールをたなびかせ、両手で柄を強く握り締めたまま横凪ぎに黒い刀を勢いよく振るい、鋭く体を回す。刀身がオークの身体をバターのように切り込み、両手から抵抗感を感じないままでっぷりと肥えた腹部を振り抜いてみせた。

 

戦闘終了後、二体の大型モンスターを倒した少女は刀を振るい濡れた血を払ってから鞘に納める。

命を懸けた戦いの終わりに一息つく間もなく少女へ称賛の声が送ってくる方へ振り返ると四人の男女の仲間が。

 

「すごーい、雫ちゃん。あんな大きいモンスターをあっさり倒しちゃった!」

 

「ああ、武器の切れ味も未だ落ちていないし凄いな」

 

「へっ、俺等も負けていられないぜ。おい南雲、お前もやる気出したんならもっと積極的に戦えよ?」

 

「う、うん頑張るよ」

 

仲間達からの労いの言葉を受けながら八重樫雫は腰に佩いた刀を触れる。今のところ手入れを欠かさずとも刃こぼれ一つもない漆黒の刀は無類の威力を誇っている。しかし、あの飛ぶ刃を出せるまでの実力までには至っておれず自身を戒めるように、もっと精進せねばという気持ちが少女をさらに向上心を高ませた。

 

「オーダーメイドの武器か。ちょっと憧れるな。俺もどこかの鍛冶師に籠手を作ってもらおうか」

 

「それってどのぐらい値段がするんだろう?あ、オーダーメイドの意味で」

 

「ギルドの人に訊くのが一番だろう。香織もオーダーメイドの武器が欲しいのかい?」

 

「白崎さんはあれから魔法を発現したし、新しい杖だよね」

 

香織が持ってる得物は駆け出しの冒険者が扱うようなスタッフだった。魔法は回復系で前衛から後衛に配置が換わり、傷ついた仲間を詠唱して唱えるようになってまだ日が浅いところ。

 

「うーん、まだこの杖で頑張るよ。相談はしたいけど」

 

「・・・・・香織、あの男に頼らなくても」

 

「光輝がそんなこと言える立場じゃないでしょ。あの人に謝ってすらいないんだからあんたは、『異世界食堂』のブラックリストに載せられて出禁扱いされているじゃない」

 

多くの客人や従業員達の目の前で拳を上げたことで、ブラックリストの掲示板に顔写真を張られて雫の言う通り『異世界食堂』に出禁の烙印を押されてしまった。その事実を知って以降、天之河光輝は『異世界食堂』の敷地に入れず、サンドウィッチかデリバリーだけ故郷の料理を食べる事しかできないでいた。出禁を認定したのは大多数の「店主に謝罪するまでは許さん!」と店主の料理の腕に惚れている多くの客達の総意で決まった。

 

「イッセーさんが決めたのかな?」

 

「怒っているなら多分そうかもね。話を聞いたときは、光輝君がイッセーさんを殴るなんて最初吃驚したよ。・・・・・たくさんのお金やホーム、落ち込んでいた皆の事を親切してくれた人を殴るなんて・・・・・恩を仇で返すなんて最低だからね」

 

片想いの女の子からの非難の言葉よって、見えない何かが少年のハートに深く突き刺さり、酷く落ち込む暇もなく近くで地面から再沸き(リポップ)したモンスターに囲まれて臨戦態勢の構えを取った。

 

―――†―――†―――†―――

 

ロキのホーム『黄昏の館』を後に街中を歩いていると腕輪に通信が入り『異世界食堂』にある男神が訪問をしてきた、と報告を受けた。大切そうに一本の瓶を持ってと。一誠はその男神のもとへ会いに訪れ『幽玄の白天城』へ案内し、ロキとフレイヤに試飲を頼んだ。

 

「これがあの虹色の実の酒かぁ~」

 

「どんな味がするのかしら」

 

興味深々とグラスに注がれた酒。酒を造った男神ソーマはワインとして酒造した結果、少し口に含んだ女神二人の様子を窺うと・・・・・顔がほんのりと染めた。

 

「どうだ?」

 

「い、今まで飲んだことがない味のワインやで・・・・・」

 

「とても美味しいわ。でも、すぐに酔いが回ってくるわね・・・・・」

 

アルコールが高いのだろうもう二人は目が潤い顔が蕩け、今にでもテーブルに突っ伏しそうだったので商品として店に出せない、お蔵入りだと決定した。

 

「このワインは店に出せそうにもない。でも酒造してくれてありがとうな。さて、今度は異世界のソーマの酒だ」

 

キッチンに足を運び、クリスタルガラスとグラスを手にして持ってきた。ガラスの瓶にはダイヤモンドがあり、一誠はそれをグラスに少量注ぎソーマに渡す。

 

「・・・・・」

 

静かに異世界の酒神の酒をゆっくりと口の中に含み、舌全体で味わおうとした様子のソーマの眼は前髪の奥で隠れた双眸が見開いた。

 

「どうだ?自分が作る酒と比べて」

 

「・・・・・感謝する」

 

感想は感謝の言葉のみ。ソーマは大量に生産した残りの虹の実のワインを一誠に手渡し、報酬を受け取ってホームに帰って行った。後に椿やガレスにミアも試飲してもらうと。

 

「美味い!これはドワーフの新しい酒の誕生だ!」

 

「本当にワインとは思えんわいこれは」

 

「坊主、これを店に出すならドワーフ専用にした方がいいよ。酒の耐性がない客が酔い潰れるからね」

 

顔を赤く酔いが回っているにも拘らず水のように飲み、好評だったのでミアの提案通りに『異世界食堂』のメニュー本にドワーフ専用の酒と加えた。興味を示したドワーフの客達は虹色の実のワインを飲み、大変美味であると感想を述べた。とある葡萄酒を好む甘い美貌(マスク)の顔の男神も飲んでは一杯で酔い潰れそうになったとか。

 

「―――と、店で売ったらそんな感じでドワーフ専用になってしまった」

 

「情報提供感謝しますイッセー殿。では、私達もドワーフ中心に売り捌くとしましょう」

 

交易の場で商人の生業をしてる老神にも情報を提供。男神もソーマにワインの製造依頼をしに向かった。これで虹の実の件は終わったとようやく一息ついた。城に戻ろうと交易所を後に踵返した時、腕輪の宝玉が点滅した。

 

「あ、イッセーさん」

 

「どうしたシル。それに、珍しい客がいるな」

 

『異世界食堂』に足を運び、連絡してきた女性店員のシルが薄鈍色の瞳に安堵の色を浮かべた。待ち合わせを裏口に指定された一誠が辿り着くと、シル以外にも褐色肌の女性、アマゾネスの戦闘娼婦の顔を見るなり不思議そうに首をかしげた。

 

「本当にその腕輪で呼んだね。便利な道具じゃないか」

 

「俺に用ってことでいいんだな?アイシャ」

 

「ああ、ちょいっと聞きたいことがあるんだ」

 

立ち話もなんだから、ということで屋上へ移動して設置されている席で話を聞くことにした。

 

「俺が知っていることなら話すが聞きたい事って?」

 

「最近、イシュタル様から妙な匂いがするんだ。香水の類かもしれないが」

 

「あ、それが原因で何か困りごと?」

 

「困ってるわけじゃない。娼婦や戦闘娼婦(バーベラ)達がイシュタル様が使ってる香水の出所を探り始めたんだ。あそこまで人を魅了させるような香りをすれば、女としても使いたくなるのはおかしくないだろ?」

 

納得できる理由に亜空間からストックとして作り置きしていた虹色の実の香水を一つアイシャの前に取り出した。

 

「これが欲しいわけか」

 

「・・・・・お前が作った物だったとはね」

 

よもや目の前の男が香水を作っていたとは露程も思わなかったアイシャは軽く目を張った。

 

「面白い果実を手に入れたからな。この香水ならマキャベリっていう商人が扱ってるぞ。探して売れ切ってなければまだ手に入れるかもしれないぜ」

 

「タダではくれないのかい?私との仲じゃないかい」

 

「どんな仲だよ」と香水を仕舞って席から腰を上げる。

 

「香水の出所も教えたから用件はこれで終わりだな。帰らせてもらうぞ」

 

「用事でもあるのかい」

 

「これでも忙しい身でな。運動会の準備をしなくちゃならないんだ」

 

じゃあな、と別れの挨拶を短めに言ってアイシャの目の前で音もなくフッと消え去った一誠。

取り残された後のアイシャもマキャベリという商人を探し求め、その人物と香水を見つけると直ぐに購入した。独占をせず同じ仲間にも伝えると香水を売ってる商人の事が伝播していって、忽ち香水は完売。一誠に発注を頼むマキャベリは楽し気であった。

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