ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか   作:ダーク・シリウス

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冒険譚43

「イッセー、いる?」

 

ノックもせず無遠慮で扉を開ける。部屋の中を見回して探し人がおらず、外のバルコニーに淡い光が発していることに気づくまで留守でいないのかと思っていたもの、光の方へ近づいてみると柔らかい芝生の上に寝転がり、【天使(テ・シーオ)】の姿をして日光浴をしながら眠っている男がいた。

 

どうして翼を出して寝るのか意味は分からない。用件は急ぎではないので起こさずとも後でも構わない。そのつもりでいたが、膝を折って無防備に寝顔を晒す一誠を見下ろす好奇心に動いた。

 

「顔が整っている男って、寝顔も綺麗なんだ」

 

男の寝顔よりも今まで殺してきた標的の死に顔を多く見てきた。苦痛、怒り、恨み、憎しみ・・・殺され、殺した者に対して浮かぶ負の顔を。それに比べて一誠の寝顔には一切それらが浮かんでおらず、穏やかな表情だ。

 

「呑気に寝てるなぁ・・・・・」

 

つんつんと一誠の頬をつついて、今寝込みを襲われたら簡単に死ぬんじゃないかと何となく思いながら翼に目をやった。とても綺麗な黄金の翼。触れれば鳥の羽毛のごとく柔らかく、手の平から感じる太陽の暖かさ、気になって嗅いでみると安心させる優しい匂いが・・・・・。

 

「・・・・・」

 

気付いた時は、一誠の隣で翼の上に寝転がって睡魔に襲われていた状態だった。そして最後にこっちに顔を向けて慈愛に満ちた目と微笑みを向けてくる一誠を見た。

 

誰かに暖かく優しく抱きしめられる感覚は初めてで恥ずかしさや照れも覚えたが、それ以上に幸せを覚えた。たまにはこういうのも悪くないかなと目の前が真っ暗になる最中に過った思いを残し、ルノアは眠ったのだった。

 

三時間後―――。

 

「ルノア、俺になんか用事でもあった?」

 

目覚めたルノアは、ベッドの上で背後から一誠に抱きしめられながら話しかけられた。どうしてこんなことになっているのだろうと、しばらく放してもらえない気配を感じて寝る前に尋ねた目的を打ち明けた。

 

「去年してたバレンタインデーって、今年もするの?」

 

「するとも。今年も完売なるかわからないが、残ったら残ったで皆でチョコパーティをすればいいからな」

 

「残った量によるけれどしばらく甘いものは食べたくなくなるよねそれ」

 

「そうだなぁ・・・・・皆から貰った十個以上のチョコを一人で食べた俺はその年、チョコを食べなかったし」

 

実体験をした話を聞かされて何とも言えない気持ちになってしまったが、それは手作りか店の商品なのか問うてみたルノアに「手作りだ」と返答された。

 

「人気者じゃん」

 

「贅沢な悩みだが人気者は辛いぞ?」

 

「本当に贅沢だね」と苦笑しながら微笑む器用な笑い方をする一誠へそう言うルノア。『異世界食堂』に働くまでそんな縁がなかった自分とは大違いだと思っていたら、手の甲に大きな手が重ねられた。

 

「ルノア、今の暮らしにどう思ってる?」

 

「どうって・・・・・」

 

去年からこの城に暮らし始めて以来、血みどろが纏う生活はしなくなり裕福な生活を送れている。一誠と出会う前の暮らしとは比べるまでもなく幸せであることは確かだ。比較して今まで縁がなかった自分が当たり前のように今では得ていることに本心から伝えた。

 

「幸せだよ本当に。家族、同僚、【ファミリア】・・・・・賞金首狩り(バウンディハンター)をしていた頃は縁がないと感じてたのに、今じゃ昔そんなこと考えていたなんて不思議なぐらいこの城の中で家族のように、店じゃあ同僚達と忙しく働いて、おかしな【ファミリア】の団員として生活している自分が幸せを感じてるよ。こんな血で汚してきた手の私なのに」

 

「なりふり構わず生きるためだったんだ。褒められるようなことではなくとも、お前を強くしてくれた糧であることは否定しちゃいけない」

 

間を置かずルノアの感想を聞いた上で彼女の手を優しく包み込むように握り締める一誠は、紡ぐように言い続ける。

 

「お前の人生を知った風には言えないが、血で汚れているっていうんなら俺だってそうだ」

 

「元の世界で、イッセーも誰かを殺したの?」

 

「実の兄をな」

 

「っ・・・・・」

 

吃驚したように目を丸くして振り返った視線の先で、一誠は微苦笑を浮かべていた。

 

「だから兄弟をこの手で殺した汚い手だと思われても仕方がない。それでも俺を受け入れてくれた家族がいた。そしてルノア、お前もお前を受け入れてくれている皆がいる。血で汚れた手だろうと、人を殺して得た金で過ごしてきた人生だろうと、気にしない奴がいれば受け入れてくれる奴がいて、笑って一緒に生きようとしてくれるそんな家族、同僚、【ファミリア】がな」

 

「・・・・・あんたもそうだっての?」

 

「もう解ってるだろ?」

 

密着する密度がさらに増してルノアの指の間に指を差し込んで手を重ねる。気恥ずかしくなってきた彼女だが、その手を持ちもう片方の手はルノアの頬を優しく添えて振り返らせた一誠は、真っ直ぐ彼女の瞳を覗き込むように見て言った。

 

「お前の事が好きだから一緒にいるんだろうが」

 

「―――――っ」

 

そして同時にルノアの唇に唇を重ねた―――――。突然の事で肩を震わせ、体を硬直してしまった彼女をベッドに押し倒し耳まで紅潮したルノアを見下ろす。

 

「イ、イッセー・・・・・ッ!?」

 

「俺は言ったぞ、異性として好きだと。だから男の部屋に入ってきたお前が無防備過ぎるのが悪い」

 

「なッ、んんッ・・・・・!」

 

もう一度唇を押し付けられるどころか、口の中に舌を入れられ舌を絡めながら唾液を飲まされ全身が発火したように熱くなった感覚に当惑する。それでも舌を蛇の交尾のように絡んで舐めることを止めない一誠に、力強く押さえつけられていないのに抵抗ができないルノアは目尻に雫を溜め、熱で浮かれたように瞳を潤わせて手を重ねたままの一誠の手を強く握り返し、絶え間なく感じる快楽の渦に呑み込まれていった。

 

「はあっ、はあっ、はあっ・・・・イッセー・・・・・」

 

「幸せにする必ずだ。だから俺の傍にいてくれよルノア」

 

十分以上も口と口を繋ぐ粘液の糸が出来上がるほど絡め合った二人の顔がゆっくりと離れ、息絶え絶えなルノアに乞う一誠に。

 

「強姦紛いに人の初めてを奪ったんだから当然でしょ・・・・・っ」

 

顔を赤らめながら恨めしそうに責任を取ってもらう約束を交わし、それに嬉しそうに笑う一誠は上半身を起こしながらルノアを引っ張り上げ、自分の太ももの上に乗せては膝枕をしてやった。

 

「・・・・・このまま私を襲うんじゃなかったの?」

 

「キスまでは問答無用だが、それ以上の行為はルノアが許さない限りは手を出さないし襲うつもりもない。―――襲われること期待したか?」

 

押し黙る。肯定も否定もせず頭を撫でられ始めても一誠の質問に沈黙で貫いた。

 

「沈黙は是と捉えるけどいいのか?」

 

「好きに解釈すればいいよ」

 

「そうさせてもらうよ。ああ、プリン食べるか?虹の実のゼリーも冷蔵庫にあるぞ」

 

「・・・・・食べる」

 

ふてくされた風に言い返したルノアに、冷蔵庫から魔法でデザートを取り出し雛に餌を与える感じで食べさせ始める最中。一誠はある事を告げルノアを絶句させた。

―――しばらくして、ベッドに二人の姿がおらず脱衣場で二人分の衣服が脱ぎ捨てられていては、浴場で二人が何をしていたかは当人達しか知らない事である。

 

 

 

 

二Mは優に超える巌のような巨躯を誇る大男が、大剣を背負い音を立たさない足踏みで進み大理石の空間の中を突き進んでいた。数多の城の住人達の部屋の扉を通り抜け、目的の人物がカァン!カァン!カァン!と激しく鉄を叩いている工房へと足を動かして扉のない出入り口へ巨体を潜らせた。

 

飛び散る不純物としての火花。叩かれるたびに増す強度。十人規模の同じ顔をした者達が一心不乱に大きな剣に向かって振り下ろす鎚。轟轟と炉の中で燃え盛る炎は龍の息吹。

 

「珍しいな。どうしたー?」

 

「鍛錬に付き合え」

 

「これ出来上がってからでいいか?今いいところなんだよ。ウダイオスのドロップアイテムの黒剣を金属属性(アダマス)で利用して加熱、疑似精製金属(インゴット)化させ鍛錬を施しているところなんだ」

 

『ウダイオスの黒剣』。そのドロップアイテムの名を知らないオッタルの猪の耳がピクリと動いた。

 

「その剣を手に入れる方法はなんだ」

 

「少人数か一人で半殺しにしてから出現する」

 

「得物を手にしたウダイオスの戦闘力は」

 

「試しに食らってみたら?オッタル。無事じゃ済まないかもしれないけど―――よし、ようやく完成だ」

 

そう言いながら籠った熱を張った水の中に突き入れ冷やす。ジュワッと湯気が昇って人が触れられる温度にまで覚めると持ち上げられたそれは、朱色の菱形の魔法石に黒曜石のようにどこまでも暗い漆黒の大剣。二Mを超えるオッタルの身の丈にも迫ろうかという巨大な武器。一誠のスキル『幻想』の効果も付加され【ヘファイストス・ファミリア】、【ゴブニュ・ファミリア】といった鍛冶派閥が作る通常の武器とは異なる武器として完成された。

 

その剣を見てオッタルは目を細め立ち上がって、肩に黒剣を担ぐ男を見つめると一誠が口元を緩ませてた。

 

「ウオダイスの次産間隔(インターバル)も過ぎてる。また手に入れるつもりで行くけどオッタルはどうする?いるか?」

 

「・・・・・その武器の性能を知ってからに決める」

 

「俺が作り上げたんだ。確実に普通じゃないぞ?」

 

地下のトレーニングルームへと足を運ぼうとする一誠だったが、オッタルから静止の声で呼び止められ振り返る。

 

「ダンジョンでする」

 

「ダンジョンで?何階層でするんだ」

 

オッタルは望む階層で鍛錬する気になり、一誠の問いにこう答えた。

 

「37階層だ」

 

「ほうほう?物のついでに階層主を倒してドロップアイテムを手に入れる魂胆かな?てか、フレイヤは承諾してるのか?」

 

「受理してくれた。問題ない」

 

「じゃあ、俺も支度するか。ちょっと待っててくれ」

 

そんなこんなでオッタルに付き合う形となった。準備を済ませた一誠は腕輪や転移式魔方陣で行かずオッタルと肩を並んで街中を歩き、白亜の巨塔の摩天楼施設(バベル)の方へと歩き進んだその時、ダンジョンへ向かう武人の獣人の動向を見つめていた複数の影がいたことに誰も気づかなかった。

 

 

二人は駆け足で大樹の迷宮の中を疾走して階層を下り続けた。一誠の首に下げた黒鱗の首飾りの効果でモンスターの襲撃はなく、スムーズに走り続けていく最中。

 

姿が見えない一定の距離から一誠が感じ取った気配を、細めた目で置いていく後方へ振り向いた。誰もいない通路の先から追跡者の存在がいるとは露ほど知らずだったオッタルは、振り向いてきた一誠に不思議そうに問い掛けた。

 

「何だ」

 

「何でもない。もうちょい速度上げるぞ」

 

更に走る速度が加速してオッタルを置いていく一誠。あっという間に置いて行かれることなくオッタルも速度を上げて追従するまま、25階層に辿り着いても止まらず、迷宮最大の瀑布『巨蒼の滝(グレート・フォール)』を横目に三層分一誠は断崖絶壁から飛び降り、オッタルは駆け下りた後。28階層への連絡路を進もうとした二人は、その『気配』に、無言で背後を振り向く。『巨蒼の滝(グレート・フォール)』の終着点である27階層の滝壺、その周囲の岸に立つ二人の前に現れるのは―――一振りの銀槍を携えた猫人(キャットピープル)だった。

 

「アレン・・・・・」

 

彼だけではない。

 

完全武装した小人族(パルゥム)の4つ子が、黒妖精(ダーク・エルフ)が、白妖精(ホワイト・エルフ)が広い岸の中で二人を囲む。

 

「・・・・・フレイヤ様の伝令か?」

 

「寝惚けてるんじゃねえ、オッタル」

 

地上で何かあったのかと言外に問うと、オッタルがアレンと呼んだ猫人(キャットピープル)の男は静かな口調で否定した。じゃあ何だ?という話になると一誠は思いながら、アレンの両の瞳は、戦意に満ちていたことを認知した。

 

「ク、ククク・・・・・磨き抜かれし剣こそ世界が望む楽園ならば、我々もまた世界の一部に至るまで・・・・・」

 

「え・・・・・なに?」

 

理解に苦しむ一誠に意訳すると『戦い合って極め合うのが【ファミリア】暗黙の了解と言うなら、それは我々第一級冒険者にも当てはまります』と告げる黒妖精(ダーク・エルフ)からも剣呑な雰囲気を纏っている。この場に現れたオッタルの仲間が戦意を隠さずいる理由はオッタル自身が理解していた。

 

「待て。せめて後にしろ。今は・・・・・」

 

「黙れよ、オッタル。あの方の眷族である以上、僕達もいつまでもお前の下で甘んじるわけにはいかない。我慢ならない。お前を倒して、お前を超える」

 

口を開いたオッタルの言葉を断ち切るのは砂色のを被った小人族(パルゥム)の一人、後に一誠が知る4つ子の長男の名はアルフリッグ。Lv.7の立場で見下ろすオッタルが気に食わないと、弟達も言葉を続ける。

 

「スカすな猪」

 

「お前ちょうどいい経験血の塊だから」

 

「エクセリうめー」

 

「・・・・・」

 

そっと静かに一誠は無関係、赤の他人を装うかのようにオッタルだけ残し先に踵返して進もうとした。

 

「どこに行くのですか異世界人イッセー」

 

白妖精(ホワイト・エルフ)からの指摘に至極不思議で振り返った。

 

「え?オッタルに用があるんなら関係なくね?」

 

「優先度は確かにオッタルの方が高い。ですが、貴方を前にして我々は見逃すことはしません」

 

えー・・・・・と巌のような巨躯の武人に恨めしい視線を向けた。俺まで巻き込むんじゃねーよ猪野郎と。

 

「どんな目的でオッタルとダンジョンにいるのか、聞くつもりはありませんが」

 

「あの方の寵愛を受けてるお前が気に食わない」

 

「オッタル同様にな」

 

「調子のるな」

 

「倒す」

 

「・・・・・」

 

面倒な、と顔を顰める一誠。アレンがそんな一誠にも戦意で満ちた瞳を向けた。

 

「潰してやる」

 

完璧に倒す対象として見据えられてしまって、辟易に溜息を吐いてオッタルに問う。

 

「無視できない?」

 

「無理だ。倒すしかない」

 

背嚢をその場に落としたオッタルは、それだけ言い構えた。そんな彼に見倣いつつ握り拳を作った。―――ふと、ある事を思い浮かんだ。

 

「オッタル、まさかだと思うがこの機に乗じてお前まで俺に挑んでくるわけないよな?」

 

「・・・・・」

 

問われたオッタルの答えは、沈黙して少しの間考え込んでから無言で一誠に振り返り得物を構えた。一誠は酷く愕然とした。

 

「俺の味方が一人もいない!?」

 

「味方になった覚えはない」

 

「・・・・・あー、はっ、そうかい」

 

苦笑を浮かべた次の瞬間。一誠から凄烈な威圧が解き放たれ、オッタル達第一級冒険者達の肌に緊張の刺激が刺さった。強者としての威厳と圧倒的なプレッシャーに、オッタル達は怯むどころか戦意を高揚させて得物を持って応戦の構えを取った。

 

「来い、俺はそこらの転生者と違って強いぜ?」

 

猪人(ボアズ)猫人(キャットピープル)白妖精(ホワイト・エルフ)黒妖精(ダーク・エルフ)小人族(パルゥム)は、一斉に飛び掛かった。

 

 

 

「くそが!!」

 

アレンの盛大な痛罵が激しい剣劇の中で交わる。首に跳んでくる銀槍を、一誠は再加工したウダイオスの黒剣で難なく弾き飛ばした。27階層の滝壺には『穴』が開いていた。『巨蒼の滝(グレート・フォール)』の真横をブチ抜き、内部の迷宮部に続く巨大な『穴』が。『魔法』の余波で貫通したその穴を経由し、第三級と第一級冒険者達の戦場は巨大な広間に移っていた。水晶でできた広い丘を水流が囲み、生え渡る群晶(クラスター)がきらめく。常人では追えないほどの高速移動を行う九つの影が、結晶(クリスタル)の中を行き交じっては反射する。一誠達を獲物と勘違いした哀れなモンスター達は、その戦場に立ち入っただけで弾け飛ぶか、八つ裂きにされた。

 

「・・・・・ぬんっ!」

 

水流に囲まれた広い丘、いや『島』の真ん中で、オッタルや一誠は攻防の応酬を繰り返していた。

猫人(キャットピープル)が残像を残すほどの速度で槍の雨を降らし、既に改変魔法(ダインスレイヴ)を用意て戦王と化した黒妖精(ダーク・エルフ)が鮮烈な斬撃をもって丘を断ち切り、四つ子の小人族(パルゥム)がこの世に二つとない連携をもって四方八方から間断ない攻撃を繰り出してくる。異邦人と猪人(ボアズ)の武人は第一級冒険者達による怒涛の猛襲に晒されていた。しかし、苛立ちを隠せないのは攻め続けているアレン達の方だ。わずかな斜線しか見えないほどの銀槍を片腕の手甲の実で弾き飛ばし、破格の威力を秘める黒剣を黒剣の一振りで相殺し、前後左右から同時に放たれた四つの得物を返す黒剣と大剣でそれぞれ背中合わせで半円を描いて全てを叩き落す。はっきりとアレン達の顏が歪んだ。その岩のような素肌にかすり傷の類はあれど、武人の肉体に依然として致命傷は与えれず、掠り傷一つすらない異邦人。一振りの得物をもって立ち回るオッタルと一誠に、殺意を漲らせるアレンが一気に飛び出す。

 

「軽すぎる。もっと飯を食え、アレン」

 

「そうだそうだ。オッタルみたいになりたかったら『異世界食堂』の飯が一番だ」

 

「誰が脳筋になるか死ねッ!」

 

受け止めた槍ごとアレンの身体を羽のように吹き飛ばす。宙を飛ぶ猫人(キャットピープル)の青年は激昂しながら空中で身体をひねり、水晶の柱に着壁、表面に罅を刻んだかと思うとそのまま超速の矢となった。空間ごと貫く凄まじき突貫を、身をよじって回避したオッタルの傍にいた一誠が展開した魔法陣から巨大な身体が細長い雷の龍を召喚してアレンを攻撃した。空中で回避することは敵わずアレンは雷の龍に呑み込まれる。

 

「無詠唱、いえ詠唱すらせず魔法を放つとはっ」

 

「俺の世界じゃこんなの当たり前のようにできるし」

 

一誠と相手をし黒剣と長刀(ロンパイア)で鍔迫り合いをしていた白妖精(ホワイト・エルフ)と話をしていると直ぐ傍で。

 

「防ぐな!」「弾くな!」「不意打ちの意味とは!」「その筋肉で時空を捻じ曲げるな!」「捻じ曲げてはいない」

 

等とオッタルと四つ子の会話が聞こえる。たまらず指摘を入れる。

 

「いや、できるだろ?捻じ曲げるの」

 

「・・・・・できるのか?」

 

「「「「できるのか!?」」」」

 

至極不思議そうに首をかしげる異邦人にオッタルは聞き返し、四つ子の小人族(パルゥム)達はツッコミした。

地を這う獣のごとく。攻撃すら届かない低い位置から連携攻撃を仕掛けてくる四兄弟に、オッタルは腰を低く落として全て対処してのけた。

 

「低い視点乗りに頼り過ぎだ。上も取れ。でなければ活きん」

 

「助言とは余裕だな」

 

「舐めてかかるか、オッタル!」

 

「そうではない。ただ、上背を伸ばすだけでも戦略の幅は広がる」

 

「「「「お前今全世界の小人族(パルゥム)を敵に回したからな?」」」」

 

「・・・・・すまん」

 

目から(ハイライト)を消し、かつてないほどの殺意を帯びる四つ子に、オッタルは素直に謝った。

 

「なぁオッタル、オッタル。今の発言フィンにも言ってもいい?絶対にこやかな顔とは裏腹な殺意で漲った攻撃をしてくると思うんだ」

 

「言うな」

 

想像しやすかったか先ほどの謝罪より間も置かず直ぐに言い返した。

 

「【永久(とわ)に滅ぼせ、魔の剣威をもって】」

 

その直後、横手から超短文詠唱が響き渡った。

 

「【バーン・ダイン】!」

 

突き出された黒妖精(ダーク・エルフ)の右腕から炎の咆哮が放たれる。射程は超短距離(ショートレンジ)、その代わり効果範囲内にいる数多の敵を根こそぎ吹き飛ばす威力特化の爆炎魔法。足元に展開された黒の魔法円(マジックサークル)によって更に威力が増幅された紅蓮の輝きに―――一誠は深い笑みを浮かべて身をもってその威力を全身で味わった。その威力を味わった瞬間に爆炎の中から飛び出し黒妖精(ダーク・エルフ)の顔面を突き出した手で鷲掴みにした。

 

「っ!?」

 

「火力が足りない」

 

片腕で掴んだまま振り回して円窪地(クレーター)を生むほどの力で陸に叩きつけ、そして水晶の破片が巻き上げられる。無数の欠片によって視界が遮られ、一誠が目を眇めた一瞬後、白妖精(ホワイト・エルフ)と雷の龍の威力に耐えきったアレンが隙を見逃さず攻めかかった。

 

「「ッ!?」」

 

不意に攻めを不自然に中断した。そんな二人にどうした?と首をかしげる思いでいた一誠にアレンが化け物を見る目と顔を歪め発した。

 

「てめぇその顔は何だッ・・・・・!!!」

 

「顔?」

 

黒妖精(ダーク・エルフ)から手を放し、後ろに回した手にはどこから取り出したか分からない手鏡でもって顔を確認する。先ほどの爆炎魔法の影響か―――顔半分の皮膚も破れて隠れていた真紅の鱗が見えていた。濡れ羽色のドラゴンの瞳と鋭い牙が露になっていた。人間体の眼と違って、眼力は凄まじい。

 

「・・・・・あー」

 

他人事のように気のない声を漏らし周囲を見渡す。戦闘音が不自然すぎるぐらい止み、オッタルとアレンを除き一誠を見る六人は愕然で瞳孔が開くほど目を丸くし信じられないものを見ている目で思考を停止しかけていた。

 

「異世界人イッセー、貴方はモンスターなのですか?」

 

「・・・・・さて、どうだろうな?」

 

手で皮膚が破れた顔半分を覆い、拭うように動かすと人間の肌が元通り直り真紅の鱗を隠した。それを見て白妖精(ホワイト・エルフ)が眼鏡を触れながら淡々と述べる。

 

「人間の皮を被ったモンスターだとしたら、貴方は我々人類を欺いていることになりますね。オッタル、彼の正体を知っていましたねか。フレイヤ様も認知しているのですか」

 

「どうなんだ、教えやがれオッタル!」

 

アレンもオッタルへ追求し黒妖精(ダーク・エルフ)と四兄弟の小人族(パルゥム)も耳を傾ける。静かに佇み事実を隠しているオッタルに複数の視線が向けられる中。

 

「ああ、俺もフレイヤ様も全て容認している」

 

「「「「「「「・・・・・」」」」」」」

 

「だから敢えて言う。それがどうかしたか」

 

なにっ!と食って掛かりそうな不穏な雰囲気にオッタルは言い続けた。

 

「イッセーはこの世界のモンスターではない。異なる世界から来た異邦人として見初めたフレイヤ様は、深い信用と信頼で寵愛を与えて続けている」

 

「モンスターに寵愛だと?ふざけるのも大概にしろ!化け物は化け物だろうが!異世界から来ただなんだのと狂った妄言をほざいている糞な野郎にてめぇはずっと何もしないでいたのかっ!?」

 

「フレイヤ様の神意に逆らう理由などない」

 

短く当然のように言い返す。苦虫を噛み潰したかのような苦い面持ちのアレン。牙を剥き睨んだだけで人を殺せればという睥睨で一誠に向けて銀槍をギリッと握る。

 

「オッタル、てめぇとフレイヤ様以外知る者はいるのか」

 

「【イシュタル・ファミリア】を除く最大派閥。【ロキ・ファミリア】と【ガネーシャ・ファミリア】の一部の幹部以外他にもいる」

 

「・・・・・彼等と神々も周知だったとは。何も知らなかった我々が間抜けに思わされる」

 

「異界から来たモンスターか」

 

「人類に化けるモンスターだとは」

 

「モンスターでも第三級冒険者にまでなれるのか」

 

「それ以前に僕達第一級冒険者と渡り合ってる時点で強さの基準が破綻してる」

 

「異なる世界から来訪しせし異形の輩の真の強さを知る好機。これから真の姿に顕現する異邦の異形を倒し、オッタルをも倒す」

 

相手が誰であれ闘いは続行する姿勢の彼等に苦笑する一誠。

 

「それが望みならまだオッタルともしてない闘いをしてやるよ」

 

そう言った次の瞬間。一誠の全身から、かつてないほどのプレッシャーと真紅のオーラ解放され、広間(ルーム)が、水流が、大気が、27階層が、『水の都』全体がゴゴゴゴと大きく震動し始める。ここで戦闘をしていたオッタル達の全視線を集める中で、一誠の身体に変化が訪れる。腕が、足が、背中が、腹部が、そして頭部が、本来あるべきドラゴンの姿に戻っていったのだ。真紅のオーラを全身から放ちながら、ドラゴンの二対四枚の両翼をバッと雄大に広げる一体の巨大な生物―――。巨体の陰に覆われたアレン達は今度こそ絶句して己を見下ろす怪物を見上げた時だった。一誠は大きく息を吸った後に限界まで顎を開いて―――声を迸らせた。

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッ!!!!!』

 

「「「「「「「「ぐっ―――――!!!!」」」」」」」」

 

冒険者として生きて以来、飽きるほど聞いてきたモンスターの咆哮(ハウル)を凌駕する。それは『水の都』のみならず18階層の『リヴィラの街』を越え、『上層』―――バベルの塔、地上を闊歩していた神々と人類の心を震わせる程の弩級の咆哮が届く声量。大瀑布の声をかき消すほどの雄叫びの音塊は衝撃波にも伴いオッタル達の身を一杯に仰け反らせ吹き飛ばさんとした。

 

『―――――』

 

翼をはためかせ、宙に浮き25階層まで飛び上がる一誠の光景を見て白妖精(ホワイト・エルフ)は思考を停止しかけた。何故ならば、次の行動を読めてしまったからだ。同時にその思考はアレン達も同じく思っていたか瞳を凍結させていた。

 

『死ぬなよ?』

 

不敵にオッタル達へ送った言葉の後。その巨体を真っ逆さまに物凄い速度で真紅のオーラを覆いながら落とす。オッタル達の逃げ場はない。仮に直撃を免れても第二次災害、第三次災害が直ぐに襲い掛かってくるだろう。

 

そして―――。

 

一誠が顏から27階層の地盤を穿ち、ダンジョンに激しい震動を轟かせ、超広大な大穴を作りながら勢いが止まらないまま『中層』、『下層』、『深層』の階層の地盤を貫きながら降っていく。それに巻き込まれるオッタル達も奈落の底へと吸い込まれて消えていった。

 

―――ダンジョンが、哭いた。

 

「―――――」

 

「これは・・・・・?」

 

怪物怪物(モンスター)を産む亀裂音ではない。異常事態(イレギュラー)を巻き起こす地震(まえぶれ)でもない。比喩ではなく、哭いている。とてつもない無機的な高音域。まるで引き絞った銀の弦に刃を走らせたかのような、鼓膜を貫く甲高い音響。もしも女性が、世界そのものに匹敵するほど大きくなったら上げるような、そんな声域(ソプラノ)の音。本能が真っ赤に明滅するほど、それは確かに、途轍もない迷宮のなにかが『哭く声』だった。だったが、どこまでも落ちていくオッタル達は不自然なまでにその哭く声音が止んだ予測不明な現象に怪訝そうに眉間を寄せた。

 

 

59階層―――『氷河の領域』

 

天井が崩壊間もなく真紅のドラゴンが飛び出した。体勢を変えてゆっくりと着地するその目の前で八つ分の影が遅れて落ちてきた。白銀の世界が広がる空間の階層に初めて訪れたオッタル達は、冷たくて白い雪景色に目を奪われがちで。肌に突き刺さる極寒の冷気に眉間にしわを寄せる。

 

「ここは―――」

 

『59階層、「氷河の領域」だ。ここなら思う存分に暴れられる』

 

そう言いながら何十人分の分身体を作り上げ、天井の大穴へ飛んでいき上層の異変、異常事態の対処へと動かした。

 

『第一級冒険者をも凍てつかせる冷気の空間の中で、どこまで動けれるだろうな?ま、直ぐに暖まるだろ。これから激しい運動をするんだからなぁ』

 

一誠の隣に深緑の魔法円(マジックサークル)が発現。それが何なのかオッタルだけしか分からない事態に目を細めアレン達に警告した。

 

「気を付けろ」

 

「オッタル、一体何にだ」

 

「奴は複数の異世界のドラゴンを宿している」

 

「何を言っている。モンスターがモンスターを宿すなんてあり得るはずが―――」

 

光り輝く魔法円(マジックサークル)が更に強く最高潮に達すると眩い閃光を放つ―――!

 

『グッハッハッハッハァッ!!!久しぶりだな猪野郎ォッ!あん時の続きをしようぜ!!!』

 

哄笑を上げながら戦意の光をギラギラと銀の双眸に孕ませ、口端を吊り上げる。浅黒い鱗に覆われた巨人型のドラゴン、グレンデルがオッタルに話しかけた。

 

『前回と同じだグレンデル。今回は俺も交ざらせてもらうが思う存分に戦え。頃合いになったら止めるがな』

 

『他のチビ共もぶっ殺していいんだな?いいよな?』

 

『できるなら、な。ついでに頭の中の片隅に手加減というものを思い出してくれ』

 

『はっ、無理だな!』

 

新たなモンスターの登場にアレン達は言葉を失いかける暇もなく、一誠とグレンデルの猛攻に晒される。

慣れていない環境と初見のモンスターとの戦闘でオッタル達は、それでも善戦していた。

 

「ぬんっ!」

 

「くそがっ!」

 

「硬いっ!」

 

「動きにくい!」

 

「モンスターの動きではない!」

 

「厄介極まりない!」

 

「魔法もあまり効果がないとは・・・・・!」

 

「異界のドラゴンこれほどとは・・・・・!」

 

しかし、一誠とグレンデルを倒すまでには至らず・・・・・隙を見せたら見逃さず一誠が巨体でありながら鋭く素早く、曲芸のように動き問答無用で物理攻撃を繰り出される。グレンデルの最硬の鱗の前では第一等級武装も斬れず刃毀れするか弾かれ、魔法すら効果がない。

 

『チッ、滅茶苦茶速い上にちょろちょろと鼠のように動き回って!』

 

『しょうがねぇだろ小回りが利くんだから、なっ!』

 

口腔から魔力の塊を放ち、オッタル達にかわされながら遥か奥に聳える標高が高い雪山を貫き、真紅の一瞬の閃光後に大爆発。その衝撃波は戦場として戦っている一同の方にまで押し寄せて襲い掛かった。

 

「っ、山が消滅した!?」

 

「なんて威力だ・・・・・!」

 

直撃すれば間違いなく自分達も消滅する破壊力を有する一誠に危険度が高まるばかり。今まで屠ってきたモンスターとは逸脱した異世界のモンスターに、アレン達第一級冒険者が総出で襲っても倒せない相手にぎりっと歯軋り奥歯を悔しげに噛みしめた。

 

『今のは牽制(ジャブ)だから』

 

本命(ストレート)は―――と言いかけた一誠の視界に、白い煙を立ち昇らせる大量の何かがここに迫ってきているのを映り込んだので不自然に言葉を止めた。

 

『勝負は一旦中止だ』

 

『あ?』

 

『この階層のモンスターが来ている』

 

一誠が向いている視線の先にオッタル達も肉眼で捉え、グレンデルは喜々と笑んだ。大小様々で中には階層主並みの巨大なモンスターも多く駆けて来ている。全てオッタル達にとっては所見のモンスターである。

 

『うほっ!大量じゃねぇか!嬲り殺し甲斐があるぜッ!』

 

『全部Lv.5であれだからな。―――もしかするとオッタル達も倒し続けたら【ランクアップ】するかもな』

 

足を前に運びズシン!と鈍重な足踏みの音を鳴らしながら進む一誠にグレンデル。

 

『まぁ、そんな簡単にさせるわけないがな?』

 

『邪魔するなよ?したら纏めて殺すからな。グハハハハハッ!』

 

オッタル達を放置し、何百という数の群れのモンスターに優先する二体のドラゴンの背中を見送って黙って―――。

 

「やるぞ」

 

いられるほど素直ではないし従う義理もない上に、言われるまでもないと各々勝手に動き『深層』のモンスターの群れに接敵して攻撃を始める。

 

『よーし、纏めて殺してやる!ぶっ殺してやるぜ特に猪野郎!』

 

『止めてやれ』

 

それから半日も無尽蔵に湧く59階層のモンスターやオッタル達との闘争を繰り広げた。時間が経つにつれ被弾、ダメージが負い負傷するオッタル達を巻き込む攻撃を躊躇なくする二体のドラゴン達。

 

「それで、結局イッセーを倒せず勝てずに皆して【ランクアップ】を果たしたのね?」

 

オッタルとアレン、黒妖精(ダーク・エルフ)白妖精(ホワイト・エルフ)を除いて、四つ子の小人族(パルゥム)達が更なる器の昇華を果たした話がオラリオ中に知れ渡った夜。そのことをオッタルと一誠に向けて話しかけるフレイヤ。美の女神の自室で―――何故か『幽玄の白天城』内でアレンが四つ這いで女神の椅子代わりにされていることをツッコミたくて仕方がない。

 

「悔しがってたけどな。下級の冒険者と異世界のモンスター相手に第一級冒険者が倒せなかったんだから。今回の一件、何気に俺のおかげ?って感じだし」

 

「ふふ、そうね。貴方が関わると何でも予想異常なことが起きることは知っていたつもりだけど、改めてそれが本当にすごいって思っちゃうわ」

 

「そうかい。・・・・・でさ、どーしてそこの猫人(キャットピープル)を椅子代わりに?ご褒美のつもり?」

 

そういう趣味があったのかと理解に苦しむ表情を、眉根を寄せて聞くと微笑を浮かべながら否定した。

 

「違うわ。お仕置きのつもりよ?だって、イッセーに手を出してはダメよって私のお願いを無視したのだから」

 

「どうせだったらオッタルを座らせればいいのに。あ、俺だったら耳と尻尾を触れたいな」

 

何気なく願望も混ぜて言ってみると椅子代わりにされているアレンから不穏な雰囲気を醸し出してきた。肉付きのいい太ももに杖のように肘を立てて両掌に顎を乗せた姿勢で二人に銀の瞳を向けながら、本題を追求した。

 

「それで、わざわざダンジョンの中で戦いに赴いた理由は他にもあるんじゃない?」

 

「それはオッタルの要望でな」

 

「オッタル?」

 

「ウダイオスのドロップアイテムを手に入れたく」

 

「へぇ、手に入れたの?」

 

「はい。今はイッセーに預けています」

 

肯定し後で数億ヴァリスをふんだくるとも宣言した一誠に、くすっと口元を緩めて笑う女神は次いである事を要求した。

 

「そう言えばイッセー。ここ最近、空の世界には行っていないわね?久しぶりに行ってみたいのだけれど。まだ行ったことがない島や美味しい料理やお酒を知りたいわ」

 

「ああ、そう言われると本当にしばらく行ってなかったな。また今度行くとしようか」

 

次はどんな場所かなーと楽しみに考えていればフレイヤも同感の言葉を述べた。

 

「ふふ、楽しみにしているわ。仮の眷族とはいえども私の想いを応え夢中にさせる。他の子とは大違いね」

 

「お褒めの言葉恐悦至極と言わせたいか?でもって後者の言葉に対しては、自由奔放の女神の心配をするのも眷族の思いやりだと思うぞ」

 

「あら、貴方も私を鳥籠に閉じ込めて自由を奪って満足したいのね?」

 

「や、無理だろ。鳥籠に閉じ込めていたのは美しい鳥じゃなくて、風だ風。鳥籠の隙間から抜け出てどこへでも自由で誰にも止めることが適わない、自由な美の神風だ。だから止められないだったら祈るか思うしかできないから口で言うしかないんだよ。な?」

 

呆れた風にフレイヤはそういう存在だと断言してから視線でオッタルに同意を求める。不意にアレンから腰を上げて「下がってちょうだい」と言い出すフレイヤ。二人はそれに従おうと足を動かした矢先。

 

「イッセーはこのまま残ってちょうだい。まだ話がしたいから」

 

「はっ」

 

「・・・・・」

 

一誠を傍に置きたい思いでか主神の神命に従い身を起こしたアレンと共々退出した。残された二人は、片方から一方的に抱擁を受けた。当然抱きしめる側はフレイヤ。

 

「今の言葉、元の世界にいる私に対しての感想?」

 

「この世界のフレイヤに対してだ。ずっと側で見てきたからわかってくる。オッタル達もそうさ」

 

「きっとそうね。けれど、直接口にしたのは貴方が初めてよ。だから心の底から嬉しかった」

 

「これからも楽しませ、喜ばしてみせるよ。まぁ可能な限りな?」

 

優しい手つきで銀色の長髪を梳かすように撫でながらフレイヤの瞳を真っ直ぐ見つめて言う。女神も笑い返し艶やかに一誠の手を引いて天蓋付きのベッドへと誘う。

 

 

 

 

 

 

 

あれからその後の【フレイヤ・ファミリア】の幹部達との闘戦以降、関係が少し変わった。今まで接触をしてこなかったオッタルを除く第一級冒険者達が店に訪れるようになったり、オッタルを介して再挑戦を申し込んできたりと一誠は何とも言えない気持ちで一笑した。

 

「ほらオッタル。お望みの専用武装(オーダーメイド)

 

「感謝する」

 

工房で初代の漆黒の大剣と変わらない武器を作り上げた一誠から受け取り補足を付け足された。

 

「最初に作ったのと同じ魔力・魔法を吸収・斬るに特化した」

 

「吸収・・・・・?」

 

「吸収した魔力は大剣の宝玉に蓄積(チャージ)して、最大三つも溜まるとウダイオスの必殺の攻撃の真似事ができるようになる。まぁ、自身の魔力やモンスターの魔石でも吸収して放てるけどな」

 

見てみるか?と誘いに頷くオッタルとトレーニングルームで実験する。大量の案山子を用意してその前に黒大剣を振りかぶる。真紅の魔力のオーラが黒大剣に纏うと宝玉が吸収し燃え盛る星のごとく輝きを発し―――それに呼応して一誠は腕の筋肉を盛り上げ柄を握る握力を更に強く剣を力強く薙ぎ払った。注ぎ込まれた大量の『魔力』の爆発、そして一誠(ドラゴン)の膂力。その二つが組み合わさった波光の斬撃に、案山子等は黒大剣の威力によって全て弾け飛んだ。

 

「とまぁ、こんな感じの必殺技をできる大剣だ。理解した?ウダイオスの本来の必殺技より縮小して威力も落ちてるけど、階層主以下のモンスターなら大抵一発で屠れるだろ。お前らしい武器だ。壊してくれるなよ?」

 

とんでもない武器を作り上げたことを後に知った神鍛冶と隻眼の最上鍛冶師(マスター・スミス)のハーフドワーフから、深いため息を吐かれたのは別の話。更にフレイヤから『覇黒(はこう)』という銘の名を頂戴したオッタルの鬼に金棒的なチート具合を知るフィンとガレスから専用武装(オーダーメイド)の発注されるのであった。

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