ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか   作:ダーク・シリウス

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冒険譚44

騎空挺『グレートブルー』を操縦して空の旅を、ヘルメスの水先案内で一誠は目的の場所へと目指していた。風にたなびかれて後ろ髪を引かれる感じで揺らめく中、金髪翠眼の獣人の少女が操縦席に近づいてきた。前後に動かせるUの字の席の前に立つ一誠の後ろには、真紅の髪をたなびかせ大きい背中の後ろ姿を静かに見つめる複数の少女達が座っている。その席に加わるために端から座る少女。舵輪を握りまだまだ見えない目的地を見据えてる男の後ろ姿を見ながら雑談とはいえ会話の花を咲かせる。

 

 

一行の目的地である場所に辿り着いたのは一週間以上の時が過ぎた頃だった。果てしない遥か彼の地に存在する場所へ着いた時―――古代の王国の遺跡が静かに迎え、かつて誇っていただろう栄華はなく王も民もいない忘れ去られた過去が現代に取り残されたままの姿で保っていた。

 

「遺跡の調査、じゃない?」

 

「ああ、俺の目的はこの王国にある物を手に入れるためだ」

 

バラバラに活動することを提案し、多くの女性や少女達には調べた中で目ぼしい物が見つけたなら回収することも告げた少し後、城下町の中で聳え立つ王宮のような建造物に直行した。ついていくヘルメスとアスフィからそれは何だという思いを抱いていると、王宮へ進む道を閉ざす鉄製の巨大な門に阻まれた。触れて押し出すとゆっくりと久方ぶりに開かれただろう門から鈍重の音が鳴る。

 

「それは一体何だい?」

 

「千年前、ここで過ごした若い頃の俺の両親が残したっていう物をだ」

 

「何故、それがここにあると?」

 

「あの日、当の二人に教えられたからだ」

 

 

―――一誠、俺達が造ったピラミッドを攻略したならもう一つ行くべき場所があるぞ

 

―――千年前、一時期私達が過ごした場所の思い出にね。

 

―――思い出の場所・・・・・?

 

―――今もその場所が残っているかわからないが、残っているなら確実にある筈だ。それを手に入れる資格はお前にある。

 

―――絶対に見つけてね。貴方がこの世界に来たのは決して偶然ではない。きっと必ずこの世界にいる意味がある。

 

 

この前教えられた誠と一香から受け継がされた想いを果たすために来たのだと暗に語る一誠。両親が残したという思い出の物を探し取りに来たと知ったヘルメス、アスフィの二人も古代の遺産に興味が沸く。

 

「それはどこにあるのかも教えられたのですか?」

 

「いや、全然」

 

「え、それじゃどんな物かもわからないんじゃないかい?」

 

「いや、正確に言うとどこにあるか教えられたけどそのどこにどこへ置いたのか教えてくれなかった。自分で探し出せってことなんだろうな」

 

そこがここだと、とある古びた部屋の扉の前に足を停め、軽く扉を押し出せば簡単に開いた。中は静寂の雰囲気に包まれた石造りの空間の部屋。朽ち果てた物が永い年月を窺わせ六つの足音だけが一際耳に入る。

 

「・・・・・ピラミッドの時とそうだが、ここにも魔方陣を残していたのか」

 

そして直ぐに足元の石の床に千年も経っても消えていなかった魔方陣を見つめ、きっとこれがそうなのだろうと一瞥して周囲にも見回し、本棚の中にある数多の本を視界に入れると近づいて一冊取り出す。

 

「・・・・・」

 

パラパラとページをめくり全てが『日本語』で綴られた日誌を流し読みで目を通し、直ぐに閉じた。ヘルメスとアスフィに目を向け告げる。

 

「この本棚と魔方陣の床を持ち帰る」

 

「貴方の両親が残した物はそれだと?」

 

「どうやらそのようだ。装丁は見ての通りボロボロだけど中は異世界の文字で書かれてるから間違いない」

 

「後で翻訳して聞かせておくれよイッセー君。千年前の話なんてとても貴重だからね」

 

わかった、と頷き両親が残した古代の遺産をすべて回収し数時間後はオラリオへ帰還した。

 

 

―――その日の夜。『幽玄の白天城』の中で交流ある神々と冒険者を誘い、古代の王国の遺跡から手に入れた魔方陣の確認をするための場を設け食事会も兼ねて一誠は魔方陣に触れて魔力を流し込んだ。魔力に反応する魔方陣に光が走り、全体に強い閃光を迸らせるとピラミッドで見た若い二人の男女が立体的映像として浮かび上がった。

 

『この魔方陣を見つけた者へ、初めまして俺は兵藤誠っていう者だ。こっちは未来の妻にして最高の魔法使いでもある式森一香。この魔方陣の映像は彼女の魔法で未来のために残そうと思い、今この映像を見ている者達へメッセージと未来の人類へ送る喜劇の英雄達の船である「始まりの英雄(アルゴノゥト)」の物語を』

 

それは―――異世界から突如現れた二人の男女と滑稽な道化の少年の出会いから始まり、血の繋がりがないハーフエルフの少女と英雄を集う人類の最後の楽園へ英雄にならんがために赴く。

 

道中、魔物に襲われる女性を格好よく助けようとしたが滑稽なことに一人の狼人(ウェアウルフ)の青年に自分諸共助けらた。そして同じ目的の場所へ向かうと知れば半ば図々しく同行する。

 

人類の楽園と呼ばれた王都へ辿り着いた際、金髪に澄んだ水色の瞳の絶世の美女と出会う。

 

その後、十人の英雄を決める戦いが始まり無事に勇敢なドワーフ、吟遊詩人のエルフ、孤高の狼人(ウェアウルフ)共々四人は仮初の英雄として勝ち残った。

 

しかし、人類最後の楽園とは裏腹に王の闇の謀略によって巻き込まれていることをこの時の彼等彼女等は知る由もなかった。

 

道化の少年、アルゴノゥトは異世界人の二人と出会った少女アリアを振り回しながら王都の城下町を散策。しかし、アリアを狙う兵士たちと英雄を決める戦いに勝ち残ったアマゾネスによって連れ去られた。

 

未来を視えるという占い師の少女と出会い、運命の相手がすぐ現れると告げられる。ますます謎が多く王都にも疑問を抱くが他国からの侵略に迎撃するため選ばれた英雄達は戦場に身を投じる。王都が誇る人類の最後の楽園を守護者ミノス将軍を筆頭に数多の兵士と共に。

 

戦場は他国の兵士の他、血肉に飢えた魔物の横やりで選ばれた英雄を除き味方の兵士は死屍累々殆ど死に絶えた中、戦場から離れたある場所で英雄達は見てしまった。

 

人類の最後の楽園の守護者にして将軍の正体を―――。

 

鈍い光沢を発する雷の紋章の兜を壊し、攻め入った兵士達を巨大な斧で残滅、殺し、そして人間を食らうミノタウロスこそがミノス将軍という事実を知ってしまった。

 

更にはアリアが王の娘にして姫―――ミノタウロスに支える生贄という事実を占い師オルナから知ったアルゴノゥトは姫を救わんと果敢に動くも王の奸計に兵士は騙され妹の決死の行動により、逃れ共に過ごした仲間達の助けも甲斐があって這う々の体で逃げようと城下町では騙されている民衆にも追われ、とうとう兵士に追い詰められ諦めかけた時に占い師の少女や赤髪の鍛冶師の青年に助けられた。

 

奇妙なパーティのまま力なきアルゴノゥトが力を得るため、精霊を探すことになった。精霊を助け血の恩恵で救われた青年の導きにより雷の大精霊と契約を果たし力を得た。

 

舞台は王都に代わりアルゴノゥトの妹の公開処刑が行われようとしていた。それはアルゴノゥトを誘き出す罠でもあり、王都と王の真実を確実に闇に葬るための計略であった。

 

そこへ―――処刑台に現れた、王都の武器庫から頂戴した装備で身に纏うアルゴノゥト。

 

誰一人として味方する者がいない場に現れた滑稽な道化に嘲笑する王。しかしながらアルゴノゥトのミノス将軍の死とアリア姫の救出と力の権能を受け継いだことを、道化を演じるアルゴノゥトの独壇場によって妹の処刑諸共うやむやにし姫の救出を―――『英雄の時代』を切り拓くための人類の一歩を誓った。

 

ミノタウロスが現れた場に赴く英雄候補達。共に人工の迷宮(ラビリンス)へ足を踏み入れた。中は英雄達を阻む兵士達と女戦士(アマゾネス)に残りの選ばれた英雄の二人が待ち構え、アルゴノゥト等を襲撃した。

 

―――異世界人の二人の無双によって殆んどの敵は返り討ちに遭い、英雄候補達は生贄の姫の下へ向かう。無事に間に合いミノタウロスから救ったアルゴノゥトは六人の英雄達に見守られながら一騎打ちで挑む。

 

だが、精霊の力は代償なくして振るえるものではなかった。

 

身体に迸る雷で肉体はボロボロに魂をも削り、ついには視力も失った。それでもアルゴノゥトは諦めなかった。周りからの声援を受け、オルナの笑顔―――そして最後にアリアと共に精霊の剣でミノタウロスをとうとう討ち果たした。

 

その後の英雄候補達は真の英雄として民衆達から帰還を祝福されアルゴノゥトの妹フィーナ、狼人(ウェアウルフ)のユーリ、ドワーフのガムルス、エルフのリュールゥを改めウィーシェ、後の語り部オルナ。余談であるが闘国(テルスキュア)出身の女戦士(アマゾネス)のエルミナ改めてウィーガ。

 

それから彼等彼女等は『英雄神話』の中心としてモンスターを輩出する大穴へと数多の人類に発破かけ次の冒険へと臨んだところで映像は途切れた。代わりに再び若い男女が浮かび上がった。

 

『どうだったかな?未来の人々達。この映像を見て感想を聞かせてほしいが生憎俺達はそれを聞くことができないから残念だ』

 

『私達の友達の子孫や末裔、もしくは魂を受け継ぐ人が見ていたら嬉しいわ。皆の先祖は悲劇と絶望の時代の中でも逞しく生きていたことを知って貰えるからね』

 

『因みにこの映像は永久保存版として残している。また見たかったら魔力を流せば大丈夫だ』

 

『それと私達の部屋にある本棚には、友達の日誌や精霊の剣を封じた本もあるからよかったらそれも受け取ってね。もしも使うならこの映像を見て分かってると思うけれど、変態な精霊のジジイだけど強力なのは確かだから。うん』

 

最後は何とも言えないが、最後に未来の人類に向けてアルゴノゥト達から直々のメッセージを聞くことに。一誠達は彼らの言葉を胸に留め、古代の偉人達の言葉を忘れないと決意の思いを胸に抱いた。

 

『それじゃあ、そろそろ俺達は冒険に行ってくるぜ!』

 

『さくっとモンスターが排出する場所に向かいながら喜劇を繰り広げてね!』

 

『『それじゃさようなら!』』

 

今度こそ映像はそこで途絶え、静まり返ったリビングキッチン。古代の冒険を見た一誠は心が震え、精神が高揚していることを自覚しながらも笑いが堪え切れなかった。純粋無垢な子供のように笑顔を浮かべた後・・・・・皆に背を向けてどこかへと行こうとするので尋ねられた。

 

「どこに行くの?」

 

「トレーニングルームだ」

 

そう言葉を残してリビングキッチンからいなくなった一誠を誰も止めなかった。否、それどころかアイズとアリサが続いて追いかけ、Lv.6の女戦士(アルガナ)達が瞳に戦意の光を孕ませ立ち上がると。

 

「オッタル、久々に一勝負どうかな?」

 

「あの映像を見て何とも思えんような男ではなかろう」

 

「・・・・・」

 

フィン、ガレス、オッタルも立ち上がってトレーニングルームへ向かおうとしだす。

 

『・・・・・』

 

神々は古代の戦いの熱に当てられたと悟り静かに笑みを浮かべた。他にもトレーニングルームへ行こうとする者達を見送って。そんな彼等はトレーニングルームで激しい闘争を繰り広げていた。

 

「なぁ、お前らぁっ!」

 

激戦の中、始終笑みを浮かべ踊るように武器を振るい、拳と足を振るいながら叫ぶ一誠に耳を傾ける。

 

「最高だな始まりの英雄は、アルゴノゥトは!滑稽な道化なのに喜劇で周囲の皆を笑顔にしてみせる!道化を演じれない俺からすれば最高の偉人だ憧れるぜ、ははははっ!」

 

だから、だからと笑顔で宣言した。

 

「俺はモンスターだけど、この世界で英雄になってみせる。アルゴノゥトのようにな!この世界に来て初めてできた目標だ!」

 

元の世界に帰るのは目標ではなく必然。一誠は心から強く純粋にそう想いを抱いて抱いて―――新たなスキルを発現してみせたのだった。

 

英雄憧憬(アルゴノゥト)】 ・能動的行動(アクティブアクション)に対するチャージ実行権。

 

 

―――――†―――――†―――――†―――――

 

今年で12歳を迎えるアイズは更新した【ステイタス】のプレートを確認して貰っていた。十六歳まで第一級冒険者の実力になれる、と断言した一誠を見上げて答えを求める視線を向けていたら話し掛けられた。

 

「この六年で第二級冒険者になったか。予想通り強くなったなアイズ」

 

「まだまだ強くなれる?イッセーが言っていた十六歳になったらイッセーみたいな強さになれる?」

 

「俺と同じなのは流石に無理だ。俺は異邦人でありドラゴンだからよ。でも、これかも強く思えば必ずなれる。アイズが積み上げてきた結果は絶対に裏切らせない」

 

「ん!」

 

「ん、わかったなら早速模擬戦をしようか。昔のアイズと比べると中々戦い渡れるようになってきたから嬉しいよ」

 

「んっ!」

 

強さだけじゃなく身長も成長して、まだ幼かった頃のアイズを懐かしくなるも少し寂しい一誠の横顔を「お父さんだ」「父親だな」とリビングキッチンにいた女性達からそんな感想を向けられていたのを本人は気づかなかった。

 

「アイズちゃん、もう第二級冒険者なんだね」

 

「あの子は七歳の頃から冒険者になった。青少年や青年、成人した者達より時間は多く誰よりも強さを望んでいたことも付け加えると当然の結果かもしれぬな」

 

「イッセーも十年近く修行していたという話だったから五歳か六歳の頃・・・・・」

 

「そうなるな。いずれにしろ、第一級冒険者程の強さを身につけるには十年かそれ以上の歳月を有することは明らかだ」

 

途方もない話だと他人事ではない話をリヴェリアと交え、自分達とは比較にならない人生を歩んできた者達に対する感嘆の念を抱く。

 

「今年もバレンタインとやらをするのか?」

 

「するみたいですよ。だけどイッセー、またたくさんのチョコを食べることになりそうだなー」

 

「その日に食べなければならないのだろう。食べるのに苦労するのならば、大きさと形をもう少し小さくするべきか」

 

「そうですね。皆にも伝えます」

 

アスナの言葉にリヴェリアも頷き、二人は各々動き皆に伝えていった。イッセーに送る今年のバレンタインのチョコは小さくするべきだと。

 

 

二度目のバレンタインデー。その流行(ブーム)は『異世界食堂』が主催するという故にオラリオ中に風習として根付き広まりつつあった

 

「近日『異世界食堂』でバレンタインデーをしまーす!男性の方は無料でチョコをあげます!意中の異性に手作りチョコを渡したい女性の方は『異世界食堂』でチョコ作りの応募を募集しています!作りたい女性は是非名簿にサインをお願いします!ただし募集は今日の夕方まででーす!」

 

『異世界食堂』の女性従業員達が二組になり片や宣伝、片やチラシ配りをして歩き回り広告していった。それが人から人へとさらに水の波紋のように伝播していって、冒険者や一般市民の女性達が『異世界食堂』へと足を運び特別な自分だけのチョコ作りをしたく名簿にサインするのであった。

 

「なぁ店主。今回は最初から作ったチョコレートを売らないのか?」

 

海童の質問に店主は肯定した。

 

「ああ、前回同様今年も同じ商品が完売するとは限らないし、本来だったら女性が想いを込めた手作りチョコの方が受けもいいだろ」

 

「食材の費用や参加費も取らずなんて、赤字じゃね?」

 

「おいおい、金で愛を買えるのか海童?」

 

「・・・・・女にモテる男の言葉は違うなぁ」

 

人望と言え人望と。二人しかいない男の会話は応募してきた女性達の和気藹々な声に埋もれた。

 

 

 

 

 

「雫ちゃんっ、雫ちゃんっ。知ってる?バレンタインデーをやるんだってっ」

 

「聞いたわよ。まさか異世界でバレンタインデーの風習を広めているとは驚きだったわ」

 

「うん、私もびっくりしたよ。でね、雫ちゃんはどうする?無料でチョコ作りができるみたいだよ?」

 

異邦人の二人の少女、白崎香織と八重樫雫の耳にもバレンタインデーの話題は入っていて、親友に尋ねた香織は期待に満ち合眼差しを向けていた。その深意は一緒にチョコ作りをしない?ということを察する雫は微苦笑を浮かべ、首肯した。

 

「異世界でチョコ作り、ね。私も作って渡そうかしら。香織は南雲君に、でしょ?」

 

「うん!雫ちゃんは?光輝君と龍太郎君に?」

 

「龍太郎はともかく光輝にチョコをあげなくても、他のクラスメートの女子達があげるでしょうから必要ないわよ」

 

学校の時だってかなりもらっているんだから、と結果を悟っている雫が誰に渡すか消去法で脳裏にクラスメートの男子の顔を浮かべた途端―――不穏な雰囲気を纏いだした。

 

「・・・・・まさか南雲君に?」

 

「香織!?目からハイライトが消えてるっ。そんな暗い顔をしなくても私は―――!」

 

ふと、脳裏に浮かぶ恩人の顏の名を呟いた。

 

「イッセーさんにお礼のチョコでもあげるから邪魔しないって」

 

「あっ、そうだね。あの人のおかげで不便な生活をしなくなったから、私もそうしよっと」

 

不穏な雰囲気が晴れて可愛い笑顔をする雫。同意を得られてホッと胸を撫で下ろす心中の雫は香織に引っ張られながら『異世界食堂』へと足を運んだ。

 

「うわ、意外といるわね。お店って今日は確かお休みの筈だったわよね」

 

「それだけ告白したい人がいるってことだよ」

 

長蛇の列を作り店の仲間で並ぶ女性達。中で参加名簿にサインして店から出てくる女性達を見ながら最後尾へと向かえば、同じクラスメートの女子が先に並んでいることを知り目的は一緒なのだろうと察する。

 

「あ、ここだ!」

 

明るい少女の声が並んでいた香織と雫の横を通り過ぎ後ろに並ぶ幼いアマゾネスの少女。成熟した肢体には遠い、細い褐色の体。胸もまだ膨らみかけもいいところだ。衣装は短い胴着(チョッキ)にこれまた際どい腰布など、琥珀色が近い橙真珠橙真珠(オレンジパール)のごとき双眸の彼女の出で立ちに二人はぎょっと目を丸くした。殆んど水着のような格好で幼くも瑞々しい裸体をこれでもかと見せつける、まだ彼女の事を知らない二人からすれば恥かしくないの!?と羞恥心を覚えさせられる対象だ。

 

「うん?なーに?」

 

「えっと、恥ずかしくないの?その恰好」

 

「全然?アマゾネスは皆こんな格好をしてるよ?」

 

「アマゾネス・・・・・?」

 

聞いたことがない単語だと首をひねる香織は、種族の事だろうかと思いながら前進する列に呼応して進む。

 

「知らない?夜の繁華街や歓楽街に行けばたくさんいるよ?」

 

「そ、そうなのね。ところで貴女は冒険者?」

 

「そうだよ。まだ駆け出しなんだけどね」

 

自分達と同じ冒険者とわかり驚嘆の念をアマゾネスのレナに向ける。話の流れで異邦人であることを伏せてお互い自己紹介し、雑談の花を咲かせつつ並んでいるとようやく店の中へ入れた。

 

「あ、イッセー!」

 

「・・・・・何でお前がいる」

 

「「(露骨に面倒くさそうな顔を・・・・・)」」

 

「運命の再会っ、私と子供を作ろうよ!」

 

「「ええええええええええええっ!?」」

 

抱き着こうと飛びかかるレナの大爆発に香織と雫だけでなく、従業員達からの驚きの声が店内に轟くその直後。ガシィッ!と問題発言をした者への体罰を実行した。

 

「それを言うために仕事の邪魔をしに来たのかな?ん?んー?」

 

「痛だだだっ!!!顔が、顔が歪むぅうううううううーっ!あ、今メキッて聞えた!?本気で握り潰そうとしてない!?」

 

「―――手作りチョコの参加したいなら名簿にサイン書いてくれるか?」

 

「「は、はいっ!」」

 

笑っていない表情で片手で顔を掴みレナを持ち上げ、明後日の方へ店内の奥にゴミのごとく放り投げた店主の所業に逆らったら絶対にダメだ!という恐怖で急ぎ漢字で名簿に名前を書き店を後にした。改めてあの人を怒らせてはならない存在だと思い知った二人である。

 

それから数時間後の夕暮れの時。応募を締め切りシルが店の扉を閉めた他所にまだいるレナに対して溜息を吐き、ホールに奇異と好奇の視線を向ける従業員達と含め事情聴取を始めた。

 

「それでお前もチョコ作りの参加を希望しに来たってことでいいのか」

 

「それもあるけど―――」

 

熱い視線を店主へ向け、媚びるような仕草をする。

 

「私、貴方の子供を作りに―――」

 

「神楽、この馬鹿を冷凍庫にぶち込んどけ。凍ったら主神のところに放り投げる。終わったら高いデザート一品だけ食わしてやる」

 

「わかったアル」

 

「わー!待って待って、ふざけてないけど真面目に言うから!?」

 

テーブルにしがみついて掴みかかる神楽に必死で抵抗するレナ。それが何とも言えない光景にシルが助け舟を出した。

 

「一応、話だけでも聞いてはどうですか?」

 

「単刀直入に言えば済む話なんだよ。この頭がお花畑のこいつがそれをしないのが悪い」

 

「俺が知っているアマゾネスってこんな感じじゃないような気がする・・・・・」

 

知識と現実の差に戸惑う海童の言葉を聞き流し、神楽をレナの背後に立たせて再度改めて問い詰める。「余計なことを言わず本題を言え。じゃないと本当に冷凍庫にぶち込むぞ」と脅しで釘差して。レナはここに来た目的を小振りな口唇から言葉にして告げた。

 

「イッセーと別れてからイシュタル様に何度もお願いしてね?イッセーに迷惑させないために【ファミリア】からやっと脱退してきたんだよ」

 

「はぁ、本気(マジ)か」

 

「うん、マジもマジ!だからこれで晴れてイッセーと子供を―――じゃなくて傍に居られるようになったから引き取って欲しいなって!」

 

一瞬、般若の顔をしてレナの発言を遮らせ、言い改めさせた店主の顔を見た従業員は冷や汗をかいた。

―――だってすっごく怖いんだもん。

 

「・・・・・はぁ、別に脱退しろ何て一言も言っていないし望んでもいなかったんだがな」

 

「まさか本当に脱退しちゃうなんてね・・・・・。どうする?イッセー」

 

心底呆れるも彼女の行動力にレナと出会った場に居たアスナ共々感嘆する。薄々だがこの後の結果は決して酷いことではないことを察するアスナは決断を求めたら。

 

「・・・・・しょうがないだろ。俺の周囲で起きた事は責任持たないと駄目だ」

 

「じゃあ―――!」

 

「ただし」

 

歓喜で顔を明るくするレナに入団の条件を突き付けた。

 

「最初はこの店に貢献をしてもらうために働かせるからな。お前の行動力を買って主神がいない【フリー・ファミリア】に入団させるがその前の試験だと思ってくれ」

 

「【フリー・ファミリア】?え、イッセーって【フレイヤ・ファミリア】じゃないの?主神がいない【ファミリア】って何なの?」

 

「ああ、公にしていないから知る筈がないか。その辺は追々説明するよ。ま、そんなわけでよろしく」

 

「え、う、うん。よろしくね」

 

微妙な顔で店主から伸ばされた手を思わず掴んで握手を交わす。そんなこんなで『異世界食堂』に新たな従業員が増えたことに店主はにこりと笑う。

 

「・・・・・今の会話のやり取りってさ」

 

「絶対労働力を増やすための口車を乗せるものニャ」

 

「絶対に断らせないためだよね」

 

「あくどい、あくどいニャ。ミャー達の店主は」

 

ヒソヒソと事の成り行きを見守っていた女性従業員達の間で声を殺して囁く言葉の会話を、しっかり耳に届いている店主はぐりんと首だけを後ろに回した。

 

「今俺に対して言った四人?三ヵ月給料の減額に加え、通常の三倍働かされるか素直に土下座して謝るか今すぐ選べ」

 

「「「「ごめんなさい(ニャ)!」」」」

 

後者を選びその場で土下座して謝罪した四人と店主の力の関係にレナはうわーとヒく。

 

「シル、レナをウェイトレスにする。指導してやれ」

 

「わかりました。よろしくねレナちゃん」

 

「うん、よろしくね!ちなみに聞くけどイッセーを狙ってる女の人ってこの中にいたりする?」

 

「レナ?仕事に関係する話か?うん?」

 

「あ、ごめんなさい。聞かなかったことにしてください」

 

恐怖を刷り込みされ始めたレナに同情や憐みの眼差しを送られるようになる。それでも笑い溢れるようになるだろうと誰もがわかっていて、レナを歓迎した。

 

そしてバレンタインデー前日。旧『豊穣の女主人』の建物と離れを利用して、数多の女性客達と甘い甘い世界で一つの自分だけの特別なチョコレートを作り出しては当日、見目麗しく可愛い女性店員達からのささやかなプレゼントを求め集まる男達と、意中の異性に手作りチョコを渡しながら告白する女性達がオラリオ各地で見受けれるようになった中で。

 

「俺に?」

 

「はい、最初に助けてもらいお世話になったお礼です」

 

「これからもお世話になると思うので、義理ですけどお礼チョコとして受け取ってください」

 

香織と雫から義理チョコ兼お礼チョコを渡され、渡してくる二人に意外と思いながら受け取る。

 

「律儀だな。ありがたくもらうよ」

 

「来年もバレンタインデーをするんですか?」

 

「元の世界の風習をこの世界にでもやってみたいからな。他にもするぞ運動会とか」

 

「「運動会!?」」とおっかなびっくりする二人に詳細を教える。

 

「まぁ、それに参加するためには【ファミリア】に上級冒険者がいなくちゃダメなんだがな。お前らも参加したいなら【ランクアップ】する必要がある」

 

「それってギルドが中心にするんですか?」

 

「いーや、俺だ。今までは【ファミリア】同士の決闘は神の代理戦争、冒険者同士が戦う『戦争遊戯(ウォーゲーム)』でしていたが。平等な戦いをするために俺が神々も参加できる運動会を提案したことが切っ掛けで去年からするようにしたんだ。因みにバレンタインも去年からだ」

 

「一体どんな状況でそんな展開になったのか不思議を通り越して凄いと思うわ。でも、準備とかどうするの?」

 

「俺一人でやっている。もう殆んど下準備は終えて後は運動会をする―――夏の日を待つだけだ」

 

異世界で行われる運動会。果たして自分達が知る運動会か、それとも予想外な運動会になるか気になる二人は夏の日まで上級冒険者になれたら参加してみたいという思いが芽吹く。

 

「個人的にはお前達にも参加してほしいと願ってるよ」

 

「どうしてですか?」

 

「他の皆には秘密だ。いいな?誰にも言うなよ。親しい友人でも教師や他のクラスメートには絶対に言うな」

 

何故か念を押され釘を刺されたが、話してくれるならば約束を守るために秘密にすると頷くと一誠が―――。

 

「俺は他の異世界へ行き来できる魔法を使える。つまり元の世界に帰れたりお前達の世界へ送ることもできる」

 

「「っ!?」」

 

二人にとって衝撃的な事実を教えた。

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