ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか   作:ダーク・シリウス

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冒険譚45

レナ・タリーが新たに『異世界食堂』の従業員として働き始めるようになって、天真爛漫に笑い活発的に動くアマゾネスの少女に男性客達は目の保養となりますます賑やかとなった。最初は四苦八苦したものの、今では慣れてきて小柄な体でもあって客達の間でマスコットと化しているレナを、たまに様子を見に訪れる【イシュタル・ファミリア】の団員達がからかいながら食べにくることもある。

 

「おいレナ。コレとコレ、あとコレに酒を頼むよ」

 

「もー!ちょっとは遠慮してよ!」

 

「レナー、あたしらの注文も頼むぜー」

 

「ここの店の肉料理はうめー。あ、レナお代かわり」

 

「「お代わりー!」」

 

「もう待ってってぇー!?」

 

 

「すっかりレナちゃんも馴染んできてますね」

 

お世話係を任命された者として立派に働いている後輩の仕事姿に嬉しそうに笑むシルに返す店主。

 

「上々だろ。一人増えれば客足も増える。レナを目的にあまり見かけないアマゾネスの客も来るようになったし」

 

「もしかして、最初から狙ってました?」

 

「狙ってできるようなもんじゃないさ」

 

打算があって引き取ったわけじゃないと思いながら否定して、シルと目まぐるしく忙しそうに仕事をこなすレナを見守るとポツリと吐露する。

 

「子供か・・・・・もしも仮の話だけどシルと俺の子供はどんな感じになるだろうな」

 

「――――っ」

 

カァアアアと耳まで紅潮するシルが客の方へ歩く店主の背を向いて目を見開いた。

 

「(て、店主さんっ。それはどういう、どういう意味なんですかっ!?)」

 

そんな言動や素振り、意識をしなかった男が突然の仮想の話をしだされて、酷く動揺するシルは置いてけぼりにされ一人悶々と心が落ち着かず、その日はちょっとしたミスを何度もし「店主さんのバカー!」と心中で叫びながらミアに叱られてしまったのだった。

 

来客を告げるベルが開け放たれた扉と同時に鳴り響き、二人組の白妖精(ホワイト・エルフ)黒妖精(ダーク・エルフ)が入ってきて、追従するように四人組の小人族(パルゥム)も来店すると。丁度手が空いた店主が出迎えた。

 

「いらっしゃい。ようこそ『異世界食堂』へ」

 

 

「シルちゃん、今日はどうしたの?珍しく仕事のミスが目立ってたよ」

 

「聞いてくださいよアスナさん。実は店主さんが」

 

休憩が被った二人は、シルは店主に言われたことをアスナに教え同情を誘うとしたが、アスナに近づく女性店員。

 

「どうしたの」

 

「シノのん。んと、シルちゃんがね?」

 

シノンにもシルの話を聞いてもらおうとして説明をしてもらったところ。シノンはこう言い返した。

 

「仮って言ったんだから別に動揺することでもないでしょう。店主だって本気で言ったわけでもないでしょうし。寧ろ、貴方が店主のこと好きだから動揺したんじゃないの?」

 

「―――――ッ」

 

「(あ、図星?)」

 

吃驚したように固まった顔は徐々に赤みが耳まで帯び、アスナはその様子を見て悟った。目の前の彼女も恋する乙女であると。

 

「ふぅん、本当に好きなのね」

 

「ち、ちがッ・・・・・!」

 

「顔が熱いことを自覚してるでしょ?それに別に店主のこと好きか嫌いかなんて珍しい話でもないのだし、隠そうとしている方がおかしく見えるわよ」

 

「うん、自分の気持ちを隠さずに店主と接してみたら?」

 

何故か恋バナに発展。シルはこの急展開、状況に慌てふためいて否定しようと二人には「今更だよ」とばかり反応される。

 

「で、どんなところがいいの?」

 

「えっと、何のこと・・・・・」

 

「好きになったところよ」

 

「私も気になるなぁー?」

 

この二人に聞いたのがやぶ蛇だったかもしれない。笑顔で尋ねるアスナに、黒い瞳を向けてくるシノンの二人はこの後も根掘り葉掘りシルから聞き出し、終始コイバナで休憩時間を過ごした。

 

また店主に対して心中で叫ぶシルを露ほども知らない店主は帝国からの客人達を出迎えていたが、何やら深刻そうな友人に小首をかしげた。

 

「・・・・・墳墓?」

 

一先ずアスナ達がいる休憩室へ案内して訳を聞いたところ、ラーズグリーズから奇妙な話を聞かされることになるとは。

 

「それがどうかしたか?帝国の領土内にあるなら不思議じゃないだろ」

 

「いや、不自然すぎるのだ。侵略と侵攻を繰り返してきた帝国が通ってきた道にある筈がない物がいつの間にか存在していたのだ。しかも草原にだ」

 

「草原に墳墓・・・・・奇妙なことだな。調べたのか?」

 

首を横に振るラーズグリーズ。

 

「現王は墳墓を調べる時間も兵士も渋ってオラリオの冒険者に探索させることをした」

 

「・・・・・俺なわけか」

 

帝国とオラリオを行き来できる術を得ているラーズグリーズに白羽の矢が立ったのだろう。帝国が誇る一級の騎士をあっさりと倒した店主に、探索させた方が効率的で合理的だと現王の食えない判断に辟易する。

 

「理解してくれたようで助かる」

 

心底申し訳なさそうに、現王に対して思うところがあるようで顔を顰めている友を「苦労してんな」と労いつつ依頼内容を復唱する。

 

「帝国内の墳墓の調査をすればいいんだな?全容が明らかになったら現王はどうするつもりだ?」

 

「何もなければ放置するかもしれないが、帝国に仇なすものであったら潰しにかかるだろうな」

 

「そんな感じか。で、報酬は墳墓の中で発見した物全てでいいな?」

 

「構わない。私に依頼を命じた王からは判断を任されているからな」

 

墳墓に莫大な財産が眠っているとは限らないと、共通の認識をした上での会話に店主は帝国からの依頼を引き受けることにした。

 

帝国から離れた東南。町村が複数ある所に満月の月光に照らされながら巨大な空飛ぶ船が通り過ぎる。その艇は真っ直ぐ目的地へと飛んでいく。

 

その場所は帝国領土内に突如として現れたという大墳墓。

 

周囲は六メートルもの高さの厚い壁に守られ、正門と後門の二つの入り口を持つ。正門横にはまだ新しそうなログハウスのような家が建っている。内部の下生えは短く刈り込まれ、綺麗なイメージを持つが、その一方で墓地内の巨木はその枝をたらし、陰鬱とした雰囲気をかもしだしていた。

 

墓石も整列してなく、魔女の歯のように突き出した乱雑さが、下生えの刈り込み具合と相まって強烈な違和感を生み出している。その一方で天使や女神といった細かな彫刻の施されたものも多く見られ、一つの芸術品として評価しても良い箇所もところどころある。

 

そして墓所内には東西南北の四箇所にそこそこの大きさの霊廟を構え、中央に巨大な霊廟があった。

中央の巨大な霊廟の周囲は、十メートルほどの鎧を着た戦士像が八体取り囲んでいた。敷地内に動く者の影は一切無し。

 

 

それが上空から眺めてきた、大墳墓の地上部分の情景である。墳墓上空から三百メートル離れたところで、遠目に観察を行いながら、もたらされた情報に一誠は興味津々と疑問に尽きた。

 

生じた疑問は、何でこんなところに地下墳墓があるのだろうかである。

確かに書面上の調査でも奇怪なものは感じていた。しかし、もう少し隠してあったり、木の伐採跡があったりしたなら理解できたのだ。しかし到着し周囲を見渡せば平野しかない場所だ。墳墓を築くのはあまりにも不向きな場所過ぎる。

 

まず単純な墓としての利用性を考えるなら、人里から離れたこんな場所にこれほど立派なものを築くのは奇妙な話だ。あまりにも不便すぎるのだから。では死者を祀る場ではなく、故人の為した業績を後世に伝えるモニュメントとしての目的となると理解できなくも無いが、帝国でも知り得ず名もない墳墓に関してまるで伝わっていないことが違和感を覚えさせた。さらにモニュメントとしてなら、地表部分に墓石が無数にあるというのが理解できない。

 

「・・・・・」

 

しかし、そんな墳墓のことよりもある事に注視していた。注意深く観察していると墳墓の中、更に地下と思しき地中深くから感じる隠しきれない―――禍々しい数多の気配に双眸を細める。

 

・・・・・何かいるな。

 

 

玉座の間―――。

 

壁の基調は白。そこに金を基本とした細工が施されている。天井から吊り下げられた複数の豪華なシャンデリアは七色の宝石で作り出され、幻想的な輝きを放っていた。壁にはいくつもの大きな旗が天井から床まで垂れ下がっている。金と銀をふんだんに使ったような部屋の最奥――突き当たりには、数十段階段を昇った位置に真紅の布に大きく描かれた何かのギルド印がかけられていた。その前に一つの巨大な水晶から切り出された椅子がおかれていた。

 

それこそ―――玉座である。

 

それに座る存在は確かにいる。金と紫で縁取りされた豪奢な漆黒のローブを纏った人物だ。とはいえ普通の人間ではない。ひからびた死体を髣髴とさせる、骨にわずかばかりの皮膚がついたような姿。空っぽな眼窟の中には赤黒い光が揺らめいていた。

 

「空を飛ぶ船か」

 

「はい、恐らく船を動かす者はおりますでしょうが如何致しますか」

 

玉座に座る者へ報告を告げる跪いている者は。身長は二メートルほどもあり、肌は光沢のある赤。刈り揃えられた漆黒の髪は濡れたような輝きを持っていた。赤い瞳は理知的に輝き、無数の邪悪な陰謀を組み立てているのが手に取るように分かった。こめかみの辺りから鋭い、ヤギを思わせる角が頭頂部に向けて伸びており、腰から生えた尻尾が彼が人ではないことを表していた。黒い手袋をはめた手で一本の王錫を握り、真紅の豪華なローブにそのしなやかな身を包む姿はどこかの王を彷彿とさせる威厳に満ちていた。

 

「ふむ、こちらに対する動きはどうだ」

 

「静観、もしくは警戒か様子見でしょう。愚かに土足で侵入せず一定の距離を保ち空中におります故」

 

「なるほどな。未だ去ろうとしていないのは我々と接触を試んでいるやもしれんか」

 

骨の手で顎に触れて思考の海に潜る仕草をする異形の存在は。

 

「(突然また状況が変わってしまったし、ここがどこなのか調べる必要があるしね。それにしても空飛ぶ船か。前いた世界やユグドラシルにもなかった乗り物だな。この世界の技術はかなり発展しているのだろうか?)」

 

穏やかな口調で考え込んで天井を見上げ、空にいる未知の存在を見据えたその後は視線を戻し、目の前の者へ命を下した。

 

「デミウルゴス。空にいる者と交渉して友好的にここまで連れてこい。交渉の際は相手の言い分を殆ど聞いても構わない。しかし戦闘行為は極力避けろ。よいな」

 

「はっ。かしこまりました」

 

立ち上がって玉座の間を後にするデミウルゴスと呼ばれた者の後ろ姿を見ながら異形の王は心中で吐露する。

 

「(まずは様子見をするとしようか)」

 

 

 

墳墓の上空から魔方陣で観察をしていた一誠が乗っている騎空挺にデミウルゴスが近づく。船底から窺う騎空挺の大きさは百Mを優に超え、何を動力にして動いているのだろうかと知的好奇心に擽られつつ船の甲板に乗り込み降り立って直ぐ辺りを見回し―――。

 

「ようやく来てくれたか。待ってたぜ」

 

自分の真後ろから、肩に載せられた手と共に声を掛けられた。デミウルゴスは顔に出さないが内心絶句していた。自分が誰かに後ろを取られるとは考えられない事態である。

 

「・・・それにしてもやっぱりというかなんというか、人間じゃないんだな。背中に翼に腰には尻尾、顔は異形だし」

 

「取り敢えず私は君に対して敵対をするつもりはないよ。私は我が至高の御方がナザリック地下大墳墓へご招待を承っている」

 

「ナザリック地下大墳墓・・・・・」

 

墳墓に名があるとは―――否、調べた結果把握した名と同じであるので一誠の中である予想が確定した。

 

「お前達は異世界から来た存在だと認識してもいいんだな。お前自身もこの世界ではお前みたいな存在はいないしよ」

 

「ほう・・・・・それは興味深い話だね。是非ともその先の話も我が主の前に言って欲しいね」

 

「それが目的なんだろ?こっちもお前達の情勢を知りたいから腹の探り合い無で語り合いたいものだ」

 

肩から手を放し、デミウルゴスが一誠の方へ振り返ると力強い眼差しを向けてくる人間からの言葉に感嘆の念を抱いた。ヒントもなしにこちらが望むものを看破して豪胆な物言いをする男に。

 

「因みにここは帝国の領土内だから」

 

「帝国?ここはバハルス帝国の領土かね?」

 

「バハルス?いや、そんな名前の帝国じゃないよ。まぁ、至高の御身という者と会って知っていること全部教えるさ」

 

未知の存在との邂逅を果たした一誠はデミウルゴスの案内の元、ダンジョンの数階層分もある玉座の間へ案内されることになった。

 

「よくぞ来られた名も知らぬ人間よ」

 

「・・・・・」

 

案内された広間にて一誠は圧倒されていた。玉座に座る存在やその両隣に立ち並ぶ統一性のない姿形をした面々や今いる玉座の間も含めてすべてに。この異世界に来て色々なものを見てきた中で一位と二位に争う驚きの出来事であるが、心は高揚感で震え口唇は笑みで浮かべ瞳は純粋無垢の子供のような期待の光を孕ませていた。

 

「どうした?とても嬉しそうな顔をしているではないか」

 

「嬉しいに決まっているさ。今度はどんな存在が現れたのかと思えば予想を遥かに超えた凄い存在だったんだ。この世界の神々より迫力もあるし、俺が神に求めていたもの全てが目の前にあるんだからな」

 

「ほう、神がいるのかこの世界には」

 

「そっちの世界には神はいないのか?えっと、名前はどっちだ?モモンガ・・・・・アインズ・ウール・ゴウン?」

 

と名前を尋ねた矢先に「無礼な!」と叱咤の声が飛んできた。艶のある腰まで伸びた漆黒の髪から山羊のような二本の角を生やす、金色の眼の女性だ。純白のドレスを身に包み一対の漆黒の翼を持つ不思議な存在へ視線を送る。

 

「礼儀知らずで愚かな過当種族の分際で、アインズ様の名を呼び捨てにするなど万死に値する!」

 

「あ、アインズの方なんだな。ありがとう」

 

「なッ!?」

 

一誠から朗らかに感謝の言葉を述べられ怒り心頭で今にも飛び掛かろうとする女性を、玉座に座るアインズ・ウール・ゴウンが幾つも嵌めた指輪の手で制した。

 

「よせ!アルベド。最初に名乗らなかった私が悪い」

 

「それを言うと俺も名乗らなかった。これでは一方的に知ってしまうばかりで不公平だな」

 

「では、改めて名乗ろう。私はこのナザリック地下大墳墓が主アインズ・ウール・ゴウン魔導王だ」

 

「―――イッセー、正式名称は兵藤一誠。生まれは日本だ」

 

互いが自己紹介をし、アインズは一誠の自己紹介に復唱した。

 

「日本だと・・・・・?」

 

「そ、俺も元の世界からこの世界にきた異邦人で日本人なんだ。今年で六年目になるな」

 

「・・・・・先程、教えてもいない私の名を正確に言った理由は何だ」

 

「鑑定の能力だ。情報収集は怠れなく集めるのが常識だからさ」

 

「私に悟られず魔法かスキルを使っていたとはな。お前はどういう存在だ?」

 

「冒険者だ。第三級のな」

 

自慢するわけもなく言うと「第三級?高いの低いの?」「微妙な位でありんすね」「人間の間ではまぁまぁの実力なのでしょう」とこの世界の常識を知らない存在等が疑問をぶつけあう中、アインズからも問いを投げてきた。

 

「その位はどれぐらいの強さに当てはまるのだ」

 

「ピラミッド式で言うと一番下から二つ三つだ。ようやくミノタウロスを倒せれるレベルって言えば納得できる?」

 

「そうか。ではこの世界にはモンスターはいるのか?」

 

「いるよ。世界で唯一のダンジョンもある。ま、アインズ達からすれば『深層』のモンスターですら雑魚だろうよ」

 

「お前、またアインズ様を呼び捨て―――!」

 

「・・・・・この世界にいる限り赤の他人の俺からすればアインズに対して敬意も畏怖も値しない。同じ別の世界から来た者同士として同じ立場で話し合いをさせてもらう。だというのに―――二度も横から口出ししてそんなに主の邪魔をしたいのか?」

 

睨みつけてくる一誠をアルベドは憤慨、しかし指摘されたアインズ様の邪魔することは許されないことにより、以降のアルベドは苦虫を嚙み潰したような顔で握り拳を作り奥歯を噛みしめて怒りを堪える。

 

「で、様を付けた方がいいわけ?」

 

「いや付けなくてよい。お前の言う通り、この世界は我々がいた世界ではない。身内ならともかく他の者達にこちらの流儀を押し付ける真似はする気ない」

 

「当然だけど失礼のない言動はさせてもらうよ。お互いにな」

 

「ああ、そうだな。では、話の続きだ。この世界は―――」

 

アインズからの山のような質問に一つ一つ答えていき、一誠からの質問にはアインズも丁寧に教えては情報を共有する。相槌を打っては疑問と興味ある話だと追究し納得して二人は己が知識を許される時間まで明かしていった。

 

「兵藤一誠。そちらの情報は我々にとって莫大な財宝と同等の知識として得れた。感謝するぞ」

 

「こっちもアインズ達の事も知れたし感謝するよ。やー、住んでいる世界が違えば様々な意味で違ってくるもんだな。やっぱりこういう出会いができると楽しくていいなー」

 

「我々も異世界から来た異邦人の出会いは貴重だ。今後とも交流を築き友好的な関係を続けていきたい」

 

「願ったり叶ったりだ。困りごとや聞きたいことがあれば相談してくれ。それで、今後のナザリックはこの世界でどう過ごすか考えているんだ?」

 

その問いに知恵ある者達は一誠の真意を探り主のアインズの返答にも耳を傾ける。

 

「しばらくは情報を集めることに決めている。それが終わり次第元の世界に帰還する方法を探してみるつもりだ」

 

「なるほど。しばらくはこの世界でエンジョイするのも悪くないよな。かくいう俺も異世界で楽しくエンジョイしている真っ最中だし」

 

「元の世界に帰る方法を探さないのか」

 

「もう見つけているからいつでも帰れるから問題ない」

 

さらっとカミングアウトした本人へアインズの眼窩の奥の妖しい光が強まった。

 

「それはどうやって見つけれたのか教えてもらえるかな?」

 

「この世界の魔法で発現したんだ」

 

「つまり、この世界の神の眷族の魔法ということか」

 

一誠に頷かれ自分達では到底異世界の魔法を会得することができない結果に黙り込んだ。期待した分の反動はそれ相応でこの世界でしばらく生活を強いられる状況となった故で。

 

「アインズ様、彼との会話のご許可をお許し願いますか」

 

「許そう」

 

「ありがとうございます。兵藤一誠、その魔法は我々のために使う気はないかね?もしくは条件があるのか聞かせてほしい」

 

「前者の答えは勿論使うつもりだ。後者の答えは無い、だ。ただちょっと問題がある」

 

問題とは?とデミウルゴスが訊き返すと人差し指を床に差す一誠にアインズ達は疑問符を頭に浮かべる。

 

「俺の異世界転移魔法は個しか送ることができない。流石にこのナザリック地下大墳墓ごと元の世界へ送ることは不可能なんだ。だから皆の思い出があるだろうナザリックをこの世界に置いて捨てていかないと駄目だ」

 

「何だとっ!!!!」

 

愕然と玉座から勢いよく立ち上がってしまうぐらいアインズにとって信じられない話だ。このナザリック地下大墳墓を捨てるだと、そんなことできるはずがないだろう!と彼の想いは控えている者達も同じ気持ちで、吃驚した表情で激しく動揺していた。

 

「どうしても無理かね」

 

「絶対に無理。試した結果は変わりない。逆に魔導王と名乗るのだからそっちが何か解決策はないのかアインズ」

 

「現状ナザリック地下大墳墓を丸ごと移動させる術がない」

 

嘆息の声が漏れる。そこまで面倒見る気はないと首を横に振る一誠。

 

「じゃあ無理」

 

項垂れるアインズ・ウール・ゴウンに配下の者達は憐みと心配な眼差しを向ける。帰るだけならまだましも、墳墓もとなると話が変わる。どうしようもないこと、どうすることもできないことを駄々こねられてもできないことはできないのだと一誠は言外して言う。

 

「デミウルゴス、他に訊きたいことは?」

 

「この世界の神でもどうにかならないかね」

 

「それも無理だなー。話を聞いていただろ?神は力を封印しているんだ。神頼みは無駄だ」

 

「そうか。では私からは以上だよ」

 

「アインズは?」

 

「私もない。・・・・・いや、一つ聞いてもよいか」

 

玉座に腰を落ち着かせるアインズからの質問は何だろうと話の続きに意識を向ける。

 

「あの空飛ぶ艇はどこで造られている?かなりの技術がある国で違いないだろうからな」

 

「騎空艇って名前であの艇は俺が造った」

 

「お前は冒険者なのだろう。職人の真似事もできるのか?」

 

できる、と自信満々に胸を張ってドヤ顔を見せつける。

 

「空を飛ぶ騎空艇を始め、高速で地上を駆ける列車や武具、マジックアイテムとか作成できるぞ」

 

冒険者って何だっけ・・・・・・と心中で吐露するアインズ。

 

「聞く限りお前はとても優秀なのだな。その能力を神の眷族として―――」

 

「ああ、今の俺は神の眷族になってないぞ。フリーの冒険者だ」

 

「どういうことだ?神の眷族にならなければ冒険者になれない話だったろう」

 

訊いた話の中で知ったこの世界の常識の一つを再確認するアインズは、フリーの冒険者でいられる理由を問う。一誠は隠さずに説明する。

 

「『ステータスプレート』って物を作った。それに自分の血を垂らして登録すれば神の恩恵と同じ効果が発現して自動的にステータスが更新される。だから神がいなくても他の冒険者と同じく成長、強さが昇華していけれるのさ」

 

「それは実に素晴らしい物なのだな。だから言葉通りフリーの冒険者ということか」

 

神の理から外れた存在として興味を抱く。

 

「ならば兵藤一誠。その能力をこの私のために使うつもりはないか」

 

「全然ない」

 

にっこりと満面の笑みで間も置かずに拒絶の言葉を送ったと同じ時に幾人の配下から不穏な雰囲気が漂う。

 

「同じ穴の狢のよしみとして相談や協力はすれど、誰かに仕えるつもりはない。それ以前にお互い元の世界に帰るんだ、なのにアインズの下で生きるなんて論外だろ」

 

「それもそうか。いや、すまなかったな。私は珍しい物や強者をコレクター気分で手元に置く性分でな。つい勧誘してしまった」

 

「おいおい、人を物扱いにしてくれるなって。人権って大切だぞ」

 

苦笑を浮かべ、そして思わずといった感じで耳に入る嘲笑の声。

 

「下等種の人間ごときに人権なんてないも当然ではありんせんでしょうに」

 

白蝋染みた肌を身に包んだボールガウンやフィンガーレスグローブで露出させず、長い銀の髪と真紅の瞳を持った非常に端正な面立ちをしている少女へ―――不信感を抱く。

 

「・・・・・アインズ、俺からも質問だ。魔導王と名乗る者として人間に対してどの程度に思っている?」

 

「・・・・・」

 

真っ直ぐ、そして真剣なオッドアイの眼差しに―――お前の言い分次第でこの先の未来が分かれるぞ、と念が籠った。アインズはナザリック地下大墳墓の主として答え、自分の質問に「そうか」とそれだけ言って空間に広げた穴から宝玉付きの腕輪を取り出す。宙に浮かせてデミウルゴスへと送る。

 

「その腕輪は俺が造った通信手段だ。もしも相談したいことがあればそれを使って連絡してくれ」

 

「とても貴重なものではないのか?」

 

「確かに一部の交流ある人間や神にしか作ってないからありふれた物でもないが。それでもこの世界で気楽に訊ける相手の一人や二人は欲しいだろ?」

 

「そうだな。このままお前を帰しても違う世界から来た我々は右も左もわからぬし、この世界でもまた情報を集めながら一から国を創るのも時間と労力を費やすことになる」

 

建国する気だこの魔導王は、と今後に懸念する一誠の心中を露知らないアインズはデミウルゴスに血のように赤い宝石の指輪を手渡し、それを持ってデミウルゴスが近づいてきた。

 

「これは?」

 

「リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンというマジックアイテムだ。本来は私のメンバーしか所持を許されないものでありナザリック地下大墳墓内しか使えない物だが、それを持っている限り私との繋がりがある証としてお前に授ける」

 

「へぇ、そうなんだ。あ、こんな感じか」

 

何?と思ったところで一誠が目の前で消えてしまい、空白の数秒間は思考が停止した。そして、ちょっと待てぇぇいっ!?と叫ぶアインズが配下の者達に一誠の捜索を命じたのは言うまでもないが、それでもしばらく経っても見つからずナザリック地下大墳墓に働くメイドや召喚されたスケルトンを用意ても発見は敵わず―――最終的に捜索はデミウルゴスが受け取った腕輪の宝玉が光るまで続いた。

 

「アインズ様。あの人間はもう艇に戻って帰ると」

 

「そうか。ならばいい。ところでデミウルゴス。お前から兵藤一誠に関してどう思う」

 

「利用する価値は十分にあるかと。私達がいた世界へ戻せる魔法も使えます故に。この世界のマジックアイテムも造れるという能力も捨て置けないでしょう」

 

「そうだな。では、今後のナザリック地下大墳墓は奴の情報を元にこの世界の仕組みを調べるとしよう。それが終わり次第行ってみるか―――地下迷宮都市オラリオにな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――異世界から魔王が現れた」

 

「えっ?魔王?」

 

「いや、冗談だろ?」

 

「俺が冗談を言うわけないことぐらいは分かっているはずだが?」

 

「仮に本当だとして、その魔王に勝てるか?」

 

「調べたらロクでもない魔法ばかり行使できるからなぁ。即死魔法とか記憶操作に精神に関する魔法に爆発魔法や属性魔法に・・・・・もう挙げてもキリがない数十種の魔法を見た瞬間、『あっ、こいつヤベぇ』の一言に尽きた。まだ転生者の方が可愛げがある。本人は魔導王と称しているがな」

 

「「ぶっ!ま、魔導王って・・・・・!」」

 

「イッセー、肝心な話を聞いてないよ。その、イッセーは倒せるの?」

 

「魔法を封じれば問題ない。要は初見殺しをすればいいだけ。あの魔王は異邦人だったら分かる話、ゲームのキャラクターで異世界転移してしまった存在だしな」

 

「マジでっ!?それじゃ転生者よりも強いって言われても当然だよなぁ・・・・・因みにLv.は?」

 

「カンスト100レベル」

 

「「「ひゃ、100ぅっ!?」」」

 

「しかも今日出会った配下も同じレベルだから面倒極まりない。でも、ゲームで培ったステータスと経験はリアルで強くなっている俺達冒険者が簡単に蹂躙されるとは思っていないぞ」

 

「でも不安だよ。魔王達は基本的に人類の絶対悪だから異世界の魔王も実際、どうなの?」

 

「聞いてきた。元の世界にいた頃は世界征服をしていて城一つ乗っ取ってた。この世界でも建国しようとしてるし、もう世界征服をしようとならば警戒せずにいられないだろ」

 

「イッセー、貴方の異世界転移魔法で送り返せれないの?」

 

「大墳墓を捨て置けないらしいから無理だ」

 

「墳墓、え、墓?魔王が住む所にしては・・・・・」

 

「ゲーム時代で手に入れた墳墓だ。中の構造は迷宮のようで階層は調べた限り10階層までだ」

 

「意外と少ないな」

 

「その分、トラップが鬼畜だぞ?家探しをしたらそのうちの一つを作動してしまって・・・・・」

 

「しまって・・・・・?」

 

「・・・・・黒い台所の悪魔で埋め尽くされた部屋に転移した。体中這いずり回されて何とも耐え難い体験したときはそれはもう・・・・・ふ、ふふふふ・・・・・・」

 

「「「ひっ・・・・・!」」」

 

「虹蜂の蜜をたっぷり掛けた虹色の実を餌にして難を逃れたけど、今頃虹色の身体になってカラフルボールみたく目が痛いほど輝いているだろうな」

 

「・・・・・確かに蜂蜜を摂取してあれだからな。ちょっとした意趣返しをしたことになるか」

 

「黒いGがレインボーGって・・・・・・」

 

「とにかく、魔王軍がオラリオに何時来てもおかしくない。連中は人類を下等種として見下しているから基本的に仲良くなろうとは思っていないしなれない。だからお前らは最大限まで警戒しているだけでいい。冒険者のレベルとゲームのレベルの違いがどこまで差があるのかまだわからないから、言われずとも喧嘩売るような真似だけはするなよ」

 

「誰もおっかない奴と好き好んで話しかけることもしないと思うぜ。でも現存する武器で倒せれるのか不安だな。自称勇者の神の武器もどうなんだ?」

 

「通用してくれないと意味ないだろ。何のための勇者何だって話だ。にしても嘘から誠になってしまったな」

 

「どういうこと?」

 

「集団転移してきた学生達の主神が妄言のことだ」

 

「あ」

 

「でもま、今の連中にとって今更な話だろ?魔王がいないって話で決まってんだから」

 

「だから教えても意味がない。相手は死を超越した存在と謂われてるが、この世に生を持った時点で死ねないなんてあり得ないんだよ。不死も不老不死も能力次第だったりその固定概念を覆されることをされればな」

 

「それができないから強いんじゃ?」

 

「そうだな。でも、できるなら話は別だろ?今後現れる転生者に死を越えた能力を願わないとは限らないから」

 

「うーん、人の願いは様々だからそんなこと願う奴がいるのかわからないな」

 

「だな。皆自分の欲望に忠実だから」

 

「その代表的な神に欲望を叶えた奴が目の前にいるんだけど?」

 

「「いやー、はっはっはっ!」」

 

「二人共、多分イッセーは褒めてないよ」

 

「ま、馬鹿にはしないさ。欲望もあって人間なんだからな。さて、俺は未来の分岐点の一つに進んでしまった時のために武具を作ってくるよ」

 

「それって・・・・・」

 

「ありえなくない話だ。オラリオを乗っ取って支配しないという保証は接触した俺だから分かる」

 

ないとは限らないんだからな。


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