ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか 作:ダーク・シリウス
「・・・・・そんな理由でイッセーが混乱していたのか」
「うちの仲間が大変申し訳ございませんでした」
『幽玄の白天城』を隠す結界が大爆発と共に解かれ、城に仕えるメイド達からの緊急報告によって急遽駆け付けたリヴェリア達。そこには見知らぬ四人の男女が見るも無残な爆発の痕跡を残す、辿り着いた現場を見て絶句する。頭を抱えて「変態変態変体変態・・・・・」と目の焦点が合っておらず呪詛のごとく呟いている一誠を見てさらに信じられないものを見る目で驚愕する。アミッドの診査の末、精神的不安定な状態であることが分かり、状態異常の回復魔法+回復薬で施し何とか落ち着きを取り戻させるため、一誠の部屋へ安静を強いられている間はカズマ達の尋問をしていた。
「この世界にやってきた転移者達であることは受け入れよう。お前達の所持品を確認させてもらえばこの世界の物ではないことが把握したからな。特にこの冒険者カードという代物を作成する技術はこの世界には存在しない。似ている物は唯一一人だけ作っているがな」
リヴェリアとシャクティがカズマ達の前に座り真摯な面持ちで取り調べをしていた。その場には片手だけでは数えきれない一誠と交流ある神々や冒険者達も見物目的で同席していた。
「あの、俺達は無実だってことで認めてくれるですよね?」
「ああ・・・イッセーに直接何かをしたわけでもないからな。純粋にあの男でも処理しきれないことに混乱していただけだ。お前達を保護するということも私達が拒絶も否定する権利はない」
心から安堵で胸を撫で下ろすカズマだった。もしもこれで追い出されるようなことになれば異世界で生きる術がない四人にとって地獄のような日々を送らねばならない所だ。
「だが、イッセーにあまり刺激を与えてくれるなよ。異世界から来た者達の中であの男が今現在最強の者で、我々では手も足もできず止めることも難しいのだ」
「あの膨大な魔力を鑑みても疑い様はありませんね」
めぐみんの指摘にローブと帽子、杖を考慮して魔法使いの者だと察しつつリヴェリアは首肯する。
「分かるか。異世界の魔法使いの者よ」
「ええ、何せ私は紅魔族随一の天才ですからね」
「紅魔?」と鸚鵡返しをするリヴェリアに呆れた目でめぐみんへ親指を突き立てながら語り出す。
「紅魔族ってのは魔法のエキスパートで凄い上級魔法を放てる上級魔法使いの一族―――何だが、変な名前を持つ頭のおかしいばっかりな人間なんだよ。実際こいつの名前はめぐみんって言うし、他の紅魔族の人と違って頭がおかしいことに爆裂魔法しか使わない一日に一度しか使えず、使った後は魔力切れですぐ戦闘不能になるポンコツだ」
「おい、まるで役に立たない魔法使いのように聞こえるんだがそこらへんもっと詳しく聞こうじゃないか」
「聞こえるんじゃなくて実際そうだろっ!もっと他の魔法を習得しろよな!」
「お断りしますよ。何せ私は爆裂魔法を極める最強の魔法使いめぐみん!どんな相手だろうと巨大な山だろうと全て我が爆裂魔法で吹き飛ばしてみせるのです!」
この瞬間、アスナは悟った。この子、中二病な娘なんだねと。
「魔力切れになるならば、体に合うか分からないが
「なんとっ、この世界には魔力の回復を促すポーションがあるのですか!?魔法使いにとっては福音的なマジックアイテムですね!欲しいです、それはどこで手に入りますか!」
「落ち着けロリっ子!今はそんなことよりもっと大切な話をしている最中だ!」
「誰がロリですか!私なんかよりロリな者はあそこにいるではありませんか!」
アイズ、アリサ、ラトラ、レギン、レイネル、春姫へ指を差すめぐみんに指摘された当人達はロリ?と理解が出来ず首を傾げる。
「話を戻しても構わないか」
「あ、すみませんでした。続けてください」
「イッセーの代理として言わせてもらうが、お前達を保護する代わりにお前達も日々何か活動をしてくれ。ダンジョンの中で探索するもよし、イッセーの店で働くのもよし、異世界で培った経験をこの世界で活かすことも何でもいい。イッセー曰く、自堕落な生活をする者は城から追放する」
うげっ、とカズマとアクアの顔が嫌そうに顔を顰めた。
「あのー、ダンジョンの中ということはやはり洞窟みたいな感じですか?」
「基本的にはそうだ。しかし、天井が高い階層もある。階層を下る度にモンスターの強さも増す他、ダンジョンの罠も冒険者に牙を剥く」
「わ、罠だと・・・・・!一体どんな卑劣な罠がるのか、是非とも知りたいな・・・・・っ」
熱で浮かれたように真っ赤な顔で興奮し出すダクネス。性癖がここで醸し出す彼女にリヴェリア達は怪訝な気持ちを抱いた。
「罠と言っても、突然ダンジョンの全ての空間から大量のモンスターが発生するようなものだ。その状況になったら即座に対応しなければ死ぬのが常識だ」
「大量のモンスターが狭い空間に発生・・・!卑劣な罠にかかった私を襲い掛かって散々私を嬲ったり痛めつけたりした後は、きっとダンジョンの奥にいるだろうボスのところへ連れていかれて身動きが取れないこの私の身体を―――etc」
そこから先は聞くに堪えない内容が語られ続け、これが原因で一誠もおかしくなったのだと理解したくもないがしてしまった。
「妄想癖が激しいのだな・・・・・」
「うちの変態が本当にすみませんっ」
またアスナは悟りを開いたように遠い目で「Mな人なんだね」と心情を抱いた。そこへ一堂に会している皆がいる空間の扉が開き、大量に何かが詰まった四つの亜麻袋を載せた盆を持って入ってきた四人のメイド達の先頭を歩くシルヴィー。
「この『幽玄の白天城』の主、イッセー様から伝言をお伝えしにまいりました。『この金で生活に必要な物を買え、手が空いているならオラリオの街を案内しつつカズマ達の買い物の手伝いをしてやってくれ』以上です。カズマ様達に援助金として五百万ヴァリスを提供いたしますので今日中に必要最低限の物を買い揃えることを我が主のお望みです。その後の日程は歓迎パーティを致しますのでお楽しみにしてください」
「「「「ご、五百万!?」」」」
無一文から小金持ちになった四人がおっかなびっくりで目を丸くする。カズマ達の前に置かれた亜麻袋の紐を解けば、金貨の金の輝きが解き放たれ四人の顔を照らす。
「シルヴィー、イッセーは落ち着いたのか?」
「はい、私達メイドとアミッド様が全力で献身的にイッセー様を癒しましたところ、精神は安定して落ち着きを取り戻しました」
「そうか、感謝する」
「いえ、ようやくメイドらしい事が出来て嬉しい限りです。他のメイド達もイッセー様のお世話が出来て喜んでおりますし」
一誠に救われた女性達の中で一誠に恩を返したいと家政婦となった者もいる。毎夜毎夜、歓楽街に足を運んで人材確保を目論んでいる一誠にとって家政婦にすることはあまり考えていなかったが、臨時に店の方へも回せるように育成もしつつ愛情を込めて接している。
「同時にイッセー様も混乱することもあるのだと知れて新鮮でした」
「・・・・・そうだな」
完璧超人だと思われていた者でも完璧ではない所があった。
「ということだカズマとやら。手が空いている者にオラリオの街を案内させる。順に色々と覚えてもらうがいいな」
「お願いします。あと、イッセーにお礼を言いたいんだけど」
「私から伝えておく。日が暮れる前に買い出しに行くといい。夕食まで終わらせないとイッセーの絶品な料理を食べ損ねるぞ」
「ねぇ、シュワシュワある?あ、ビールならあるって言ってたけどその酒も飲めれるのよね?」
目を輝かせて訊くアクアの言葉に今まで見守っていたロキが飲み仲間が現れたと嬉しそうに口出した。
「おっ、自分酒が好きな口か?勿論あるでー。イッセーなら浴びるほどビールを飲ませてくれる筈や」
「浴びるほど!?こうしちゃいられないわね。ほら皆。さっさと買い物を終わらせるわよ!ついでにこのお金でこの世界のお酒も買っちゃおうかしら」
「アホか!生活できる環境を整えろって言われたばかりだろ!すみませーん、誰かこの馬鹿が大切な資金を酒に替えないように見張ってもらえませんか!」
「ウチが見張ってやろうか」
「アンタから駄女神と似た何かを感じるから駄目だ。・・・・・失礼ですけど女性ですか」
「おい、今ウチのどこを見て訊いたのか説明してもらおうか自分」
そんなこんなで買い出しに出るカズマ達に付き合う面々。付き合わない面々は解散して自由に時間を過ごす。リヴェリアとアスナは一誠の部屋へと訪れる。ノックすれば扉をメイドが開けて中に入れてくれ、数えれない人数のメイドが甲斐甲斐しく一誠の介護をしていた。というより上半身裸で天使の翼を生やす一誠が、バルコニーで日光浴をしつつメイド達に翼の手入れをさせていた。一誠の看病していたアミッドは胡坐を掻いた足の上で対面に座らされて抱きしめられながら真紅の頭を撫でている。
「・・・・・行ったようだな」
「ああ、お前の指示通りに動いている」
「イッセー、大丈夫?」
「ん、落ち着いた」
アミッドを優しく放してゆっくりと立ち上がり、面倒をかけたと念を込めてメイド達に感謝の言葉を送り抱擁を一人ずつして部屋から退室してもらった。全員、顔を赤らめていたがリヴェリア達は気にせず上着を羽織るように着る男に目を向け続ける。
「あのダクネスという者とは少々接するのは控えた方がいい。お前が混乱してしまうのも無理はないこともわかった」
「リリアはドMって概念を知らないだろうから言うが、罵りや痛みを快楽として得る性癖の一種だ。俺の魔法の攻撃でも痛みよりも快楽として感じてしまう生粋の変態だから、そんな相手をどう黙らせばいいのかわからなかったんだ」
「イッセーの魔法が通じない?それって凄くない?」
「あの性癖だから、変態だから耐えた。全力じゃなかったとはいえ、変態なだけで耐えれるそんな事実は受け入れられなかったんだよ・・・・・ドMの対処方法は知らなかった俺のミスだ」
「逆に知っていたら凄いけど、これからもこのお城に住むんでしょ?大丈夫?」
「ん・・・遠慮なく対処してもいいってカズマから了承を得てる。これから手加減なしでやる。接し方も俺の普段通りにする。もう混乱はしない」
なら良かった安心するアスナ。リヴェリアは更に問う。
「イッセー、あの四人のこれからの活動に何か指摘することはあるか?」
「特にはない。今はオラリオの街を慣れてもらう。頃合いを見てしばらく自由にさせておく」
「お前がそう言うならそうしよう。それと彼等の持ち物にお前が興味を持つ物があったぞ。冒険者カードという『ステータスプレート』と似た物だった」
「異世界の『ステータスプレート』・・・・・確かに興味があるな。一度それを教えてもらって更に改良できたら・・・・・」
顔を輝かせながら職人顔となった一誠。本調子に戻った様子を見て一安心するも、またとんでもない物を作り出そうとする男に三人は見守る。
「あ、そうだイッセー。このお城を隠す結界が消えちゃって見えてるよ」
「ん?ああ、俺が混乱しちゃって制御が出来なくなったからか」
一誠が指を弾くと、魔法の結界が再び丸見えの状態だった城と外壁を隠す様は空気のように溶け込んでいった。最初からそこになかったように消失した長大な建造物を。
「ねぇ、君って結界を斬れる魔法あるんだっけ?」
「え?ライト・オブ・セイバーならできますけど、どうしました?」
「気になる物を見つけちゃってね。それを暴いてみたくなっちゃったんだよ」
銀髪に頬に傷跡がある少女が見た消えた建造物の方へセミロングの黒髪をリボンで束ねた紅目の少女と西の方へと赴く。詳しく教えてもらえず分からないままついて行く黒髪の少女は、共に北西と西の間の廃墟しかない寂れた区画まで銀髪の少女が忙しなく目で何かを探し出す。
「確かこの辺りだったんだよね」
「何が?」
「大きな石壁に塔みたいな物があったでしょ?あれが蜃気楼のように消えて見えなくなったんだよ」
「そう言えば、爆発音も聞こえてましたね」
「うん、最初は何だろうと思ってたんだけどかなり遠くにいたから敢えて気にしなかったけど、私の視界から消えたから気になったんだ。うーん・・・・・」
彼女が消えたという建物の痕跡は見当たらず、寂れた廃墟の区画は物静かだった。古びた教会の中を探ってもこれといっておかしなものはなく、銀髪の少女の中で疑問が尽きない。協会から出てあの巨大な石壁が
「ねっ、試しに魔法を使ってくれない?」
「ここでですか?わかりました。ライト・オブ・セイバーッ!」
手刀の先から光の剣を具現化させて何もない虚空に向かって振った。何もなければそれでよし、しかし逆ならどうする―――?と光剣を振るう少女を見ながら考え事をしていた銀髪の少女の目の前で魔法の光剣は何かを『斬った』。
「っ!?」
城の中で寛いでいた一誠が酷く焦燥に駆られた様子で椅子を弾き飛ばしながら立ち上がった。
「イ、イッセー?どうしたの?」
「・・・・・張った結界が消された」
「消された?この城を隠す結界は干渉を受けるのか?」
「結界だからな。城そのものを隠して守護していた。この城の外壁まで近づくと見えない壁みたいなものを触れる感覚をするんだ。以前、ヘルメスとロキが上空から侵入しようとした経験をされたから半球状の結界に張り直した。いや、それよりもこんな事できる奴がこの城を暴いた。結界破りの魔法か何かで消したんだろうが、何の目的だ?」
監視用の魔方陣を展開して外の様子を監視する。すると、目の前に現れた巨大な石壁を見上げる銀髪の少女と黒髪に紅目の少女の二人が見上げていた。
「こいつらか」
「あれ、この紅い目の娘・・・・・めぐみんちゃんに似てない?」
「身に纏っているローブも加味してな。まさかだとは思うが、この者達も異世界から来たのでは?」
二人の言葉は無視できまいと調べる必要があると外壁を開け放った。
「開いたっ・・・!」
「中に入ってこいってことだね」
「もしかして誰かがどこかで見ているんじゃあ・・・・・?」
「それを調べる為に進むしかないよ」
腰に佩いていた得物を手にして慎重に進む銀髪の少女と、スタッフを両手で握り外壁の向こうの森林へ足を進める黒髪紅目の少女達。
「ほう・・・・・我輩達もあの中に入ることを吉と出ているな。行くぞ店主」
「ええっ、中に何があるのかわかりませんよ?」
「たわけ、これ以上の聞き込みは意味を無くし途方に暮れていたポンコツ店主の今後の運命を左右する時ぞ。いいから行くぞ、もうじきあの扉が閉まってしまうではないか」
「うん?招かれざる者が二人追加だな」
「どうする?」
「じゃあ、こうしてくれ」
二人が警戒しながらも自然豊かで道標として青水晶と白水晶で埋められ作られたルートに沿って歩いていく。モンスターの気配は一切感じさせない鳥の囀りと木漏れ日で幾分か警戒が和らぎ、一体ここは何なんだろうと思いながらも突き進めば、湖がある庭園の前に辿り着いた。
「果樹が生えていますね。もしかして果樹園?」
「そうかもしれない。美味しそう・・・・・」
そして実る宝石を見て職業柄欲しいと欲を抱いた時、湖を背に一つの真紅の魔方陣が発現して栗色の長髪と榛色の瞳、腰に唯一無二のレイピアを佩いたアスナと深緑の長い髪で
「ここまで不法侵入してこられたのは三度目だな」
「不法侵入って、扉が開いたら気になって入ってしまうよ」
「結界を破ったから自動的に開いてしまう仕組みなのだ。何も知らず好奇心で私達の家の敷地に入り込んだお前達に反論も異論も許されない。―――理不尽だと思われようとこの世界はそういう世界だ」
「あ、あの待ってください!私達は―――」
問答無用とアスナは黒髪紅眼の少女にレイピアを鋭く突き付けた。驚きで瞠目して身体が硬直した彼女を守ろうと銀髪の少女が滑り込み、ダガーで攻撃の軌道を逸らし庇った。
「随分乱暴だねっ。勝手に入った私達が悪いだろうけどさっ」
「ごめんね。でも、誰も破ったことがない結界を破った二人には警戒しなくちゃいけないの」
「好奇心が仇になっちゃったってわけだ。ごめんねゆんゆん」
「ライト・オブ・セイバー!」
横に跳ぶ銀髪の少女の後ろにいた、手刀の先から光剣を具現化して振るうゆんゆんと呼ばれた黒髪紅眼の少女。直接当てず後方へ飛び退くアスナをけん制する形で地面に切り裂いた。
「私、人に向けて魔法を撃ちたくありません。ですからどうか話を―――」
「すまないがそういう訳にはいかない事情がある。お前達の力量を図るためだ」
「ある程度戦ったら分かってくれるってことかな?」
「それがこのお城の主からの要望であるからね。リヴェリアさん、魔法使いの娘をお願いしますね」
「え?ええ?」
未だ理解できずこちらに近づいてくるリヴェリアに困惑するゆんゆん。一方、離れたところでダガーとレイピアの攻防戦を繰り広げるアスナと銀髪の少女。
「その身のこなさし、戦い慣れてるんだね」
「鍛練だけは欠かしてないわ。そう言う貴女こそ、軽々と動くわね。魔法もあるんでしょ?」
突き続けられるレイピアを受け流し、見極めて回避する銀髪の少女もただの人間じゃないことを察するアスナ。鎌をかける意味で言うと、銀髪の少女が挑発に乗ったように新たな動きを見せた。
「お見通し?なら、遠慮なくっ!『バインド』!」
突きだした掌から数本の縄がアスナに向かって飛び出す。己を拘束する魔法だと察し、レイピアに魔力を帯びさせて横凪に一閃。縄を斬った。
「嘘、斬られたっ!?んじゃ、『スティール』!」
繰り出す別の魔法に警戒するアスナだったが、手の中の柄を握る感触が不意に無くなって、レイピアが手の中に無いことに驚きを隠せなかった。アスナのレイピアは銀髪の少女の手の中に収まっており、勝利を確信した不敵な笑みを浮かべている。
「降参する?」
「今のって相手の持ち物を任意で奪う魔法?」
「ふふ、どうだろうね。さ、まだ戦いを続ける?」
相手の武器を奪い戦闘は有利に引き込めた―――手の中から光の剣を具現化するアスナを見るまではそう思った。
「魔力で作った剣も奪えるかな?」
「参ったねー・・・・・いいことを教えてあげるよ。さっきの『スティール』はランダムで相手から物を奪うんだ。それは衣服や下着だってね」
「えっ?」
「丸裸にされる勇気があるなら、喜んで戦ってあげるよ。『スティール』!」
「まっ―――!」
焦燥に駆られ思わず制止の声を発するアスナから離れてゆんゆん相手に挑もうとしたリヴェリアは。
「名前はゆんゆん、出身地は紅魔の里に産まれた紅魔族、アクセルの街で冒険者家業をしている。間違いないのだな」
「は、はい・・・・・」
「それを証明するものはあるか?」
「え、えっとこれです」
「・・・・・冒険者カード。めぐみんという者を知っているか?」
「めぐみんを知っているんですか?」
「異世界から来た者として保護した。他のパーティーのメンバーもな」
ゆんゆんから情報を得る為に事情聴取をしていた。
「どうやってこの世界に?」
「わかりません。突然光に包まれたと思えばアクセルの街じゃない街中にいて、あ、クリスさんという人と情報を集めていました」
そのクリスというのが・・・・・とアスナと戦っている銀髪の少女の事だろうと横目で見たら。
アスナがスカートを片手で抑え、もう片方を攻撃の意思があると光剣を突き付ける。何故その姿勢でいるのか、彼女の黒い三角形の布を握り締めているクリスと硬直状態になっていた。
「返してくれないかなっ」
「じゃあ、私の勝ちってことでいいね?じゃないと、どんどん服を奪っちゃうよぉ~?」
「く・・・ううう・・・・・っ!参りました、私の負けですっ・・・・・!だから早く返してっ」
涙目で羞恥により耳まで真っ赤なアスナの敗北宣言により戦闘は幕を下ろした。不憫でならない彼女に憐みを禁じ得ないリヴェリアに―――高笑いする声が聞こえた。
「フハハハハハハ!相手の衣類をはぎ取り勝利ももぎ取るその所業、正しくあの小僧に初めて盗賊スキルを覚えさせたパンツ脱がせ魔の師に相応しいな!」
「なっ、誰がパンツ脱がせ魔の師だよ!」
黒のタキシードを着て白のネクタイをした大柄な人物。半々に分かれた黒と白の仮面を被り、蒼白な顔色にウェーブのかかった顔の右半分に斜めにウェーブのかかった長い茶髪にアホ毛、茶色目の巨乳の美女。紫色を基調としたローブで身に包む出で立ちで樹木の影から姿を現した。
「お前達は何者だ?」
「初めましてだ。我輩は地獄の侯爵にしてこの世の全てを見通す大悪魔、バニルである。そしてこっちはへっぽこ店主だ」
「違います!酷いですバニルさん!私はウィズと申します」
悪魔という単語にリヴェリアは眉根を寄せた。
「悪魔だと・・・?」
「その通りだ。そこの小娘達と同じ世界に存在していた我輩バニルさんである。我輩達も同じ現象でこの世界に来たのだ。故に我輩の登場で興味津々に覗いている貴様らが慕っている者に用がある。異世界に繋げる魔法を得ているのだろう?」
「「っ!?」」
何故それを、と二人は心中動揺した。
「フハハハ、動揺するのも無理もない。我輩は全てを見通す悪魔だ。この世の全てを、何でも見通す悪魔であるからして―――昨夜すんごく可愛がられて、今夜じゃなくても昼間からでもどこでもとてつもなく気持ちいいことをしてもらいたいなと思っている男に魂まで夢中な娘達よ」
「な、なななななぁっ!?」
「―――【週末の前触れよ、白き雪よ―――】」
そこまで見通されちゃうの!?と人生で一番恥かしい思いをするアスナと口封じに永久に氷漬けしようと魔法を唱えだすリヴェリア。
「そこをどいてもらおうか。我輩達は先ほども申したように―――」
「リリア、魔法を放つのは止めてくれ。今のリリアの魔法はここら一帯が氷の世界になりかねない」
上空からドラゴンの翼を生やして降下する一誠がリヴェリアを制止する。
「ほう、貴様ただの人間ではないな?実に興味深い」
「異世界に悪魔も興味津々だ。そっちの女性も人間じゃないんだろ?んーんと・・・・・リッチーか」
「貴様も見通す力を・・・・・いや、鑑定のスキルで調べたな?」
一誠は肩を竦める。神の前で嘘は吐けないが、この悪魔の前ではそれ以上に隠し事はできないなと。
「本当に何でも見通されるのは厄介だな。で、俺の魔法で元の世界に戻してもらうのが予定なんだろ」
「如何にもだ。しかし、我輩達のような他の人間達もいるためそ奴らから順に元の世界に帰すから我輩達は後回しにするのであろう?」
「そういうことだ。それを分かっているなら、次は交渉か?それとも悪魔らしく契約でも結ぶか?」
「我輩ら悪魔と異なる悪魔や魔王と交流ある者から契約を申し出とはな。うむ、確かに交渉を臨んでいる。契約は後程な」
足を動かしバニルは一誠に近寄る。
「貴様の権限で我輩達も保護をしてくれぬか?その代わり我輩達は貴様の下で色々と協力をしよう」
「実力は?」
異世界の悪魔の強さを知りたい心情で問うた質問に対して、顎に手をやってバニルは説明する。
「ふむ、我輩が爆発する量産型『バニル人形』に当たれば死ぬ『バニル式殺人光線』等々、攻撃手段は備えている。相手が人間であれば我輩は負けることはない。このへっぽこ店主もリッチー故に弱くはない程度だ」
「そっちの人間の強さはわからないけど、こっちの冒険者の強さ舐めない方がいいぞ。素手で岩を砕くぐらい強くなるからな」
「ほう、世界のレベルがどうやら違うようであるな。実に興味深い。因みにこの世界に悪魔はいるかね?」
「本来の力を封印した神はこの街の至る所にいるが悪魔はいないようだぞ。異世界から来た魔王を除いて」
「フハハハ!この世界は他の異世界から様々な人種を集めるのが好きなようだ。実に愉快愉快。して、我輩の申し出はいかがかな?」
バニルとウィズを交互に見比べアスナとリヴェリアを手招き、離れたところで話し合いを始めた。
「保護する前提で俺は面白いから成立してもいいけど二人は?」
「わ、私達のプライベートをバラされるのは凄く嫌っ!」
「ロキと絶対に組ませてはならない。どうにかならないかイッセー」
おおっと、バニルを忌避していらっしゃるな。二人の意見に物珍しいと思いを抱く一誠も思うところがあるわけで。
「おいバニル。俺達家族の事を全て見通す言動は一切やめてくれないか?」
「それは難しい相談であるな。我輩、人間の悪感情を糧にする悪魔でな」
「悪感情?」
「我輩は絶望や恐怖の悪感情ではなく、期待を裏切られる残念の感情や羞恥と言った方の悪感情が好みである。なので、遠いかなたの地からやってきた男のこの世界の人類や神々には決して言えない秘密をバラして―――」
次の瞬間。バニルの身体を手を太いドラゴンの手に変えて鷲掴む一誠が一瞬で移動してきた。
「悪感情を糧とするならば、怒りも好みかな?ん?どうかな?」
「フハハハ!怒りの悪感情は我輩の好みではないぞ?幼い頃、実の兄に虐待され瀕死の重傷を負わされた際にドラゴンよって救われ―――」
「なぁ、大悪魔さん。ドラゴンの逆鱗を味わったことが無いだろう?―――味わわせてやるよ。その仮面を少しずつ消滅させながら魂も削り取って欠片になるまで痛みと恐怖と絶望の悪感情をその身に覚えさせてやる」
静かにキレた一誠の頭部が、身体が、四肢がドラゴンに変貌して口から炎の残滓を零した。背中と腰に二対四枚の翼と尾を生やし、人からドラゴンに変身した光景を目の当たりにゆんゆんとクリス、ウィズは開いた口が塞がらず目も限界に見開いた。
「ウィズ、我輩のサポートをしてくれまいか?なに簡単なことだ。この者に我輩と謝罪をするだけだ」
「・・・・・(ブンブン!)」
相方に助けを求めたバニルの言葉に背中から三頭の首の黒い龍が生え、バニルを取り囲みつつ彼女へ消滅させる魔力を集束した状態で脅す最中、涙目で否定したウィズを見て笑みで浮かべた口の端が引きつった。
『愚かで無知な異世界の悪魔よ。我が主の秘密や過去を口にした時点で貴様の命運は決まった。潔いよく受け入れろ』
「この者の内に宿る邪龍であるな?汝の主によろしく言ってはくれまいか」
『たかが悪魔に従う義理はない。それに、我が主と数日過ごすだけのこと。誰一人いない場所で仲を深めるいい運動をしながらな』
「そう言うことだバニル。魔力で構築した土の体なら苦痛も疲弊も感じないから激しい運動もOKだろ?ほら、一緒に逝こうか」
いつの間にかバニルを掴む手のもう片方の手の中にスノードームが握って、二人は光を解き放つそのスノードームの中に吸い込まれ、地に落ちた。しばらくして・・・・・ウィズが口を開いた。
「あの、あのお二人は・・・・・」
「その中にいるよ。いつ戻ってくるかは・・・・・分からないけれど」
アスナが問いに答えた途端にスノードームの中で大爆発が発生して激しく揺れた。中で壮絶な運動をしているのだろうと推測して一同はしばらくその場に佇んだのだった。それから日が暮れた頃に、全身が血肉や骨に臓器がない代わりに土くれの身体が酷くボロボロ、白黒の仮面の八割以上が削れなくなっているバニルとスッキリした顔の一誠が出てきて、城に戻ってきたカズマ達のための歓迎会の準備を始めた。
「おいバニル。さっさと元の状態に修復して手伝え」
「畏まりました我が主様!このバニル、我が主様の為に
―――一体何が起きた?ウィズは語る。
「バニルさんでなくとも力がなければ悪魔を契約できません。見た感じではバニルさんとあの方との間で契約が結ばれているわけではないようですが・・・・・不思議ですね」
「「(きっとイッセーに何度も殺されかけて心が折れたからだと思う)」」
一誠の強さと恐ろしさを知る者以外、二人の間で何が起きたのかも知らない者以外、理由は知り得もしない。