ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか   作:ダーク・シリウス

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冒険譚50

「うめええええっ!久しぶりの日本料理が食べられるなんてっ!」

 

『エルドラド・リゾート』での一件を終わらせ、テッドに囲われていた美姫達はギルドと【ガネーシャ・ファミリア】に保護された。何故か一誠に詰め寄って赤い顔で感謝の言葉を送りながら名前と握手を求められたのは、今でも何故なんだと不思議がっている一誠は、城に連れてきたダオスと男神―――転生者にご馳走を振る舞っていた。何故転生者がここにいるのか、それは転生者からの要求を呑んだからだ。

 

 

 

「戦うのか?」と訊いた一誠の問いに男はテッドの逃走あの後、言う事を聞く義理はないばかりと戦う意思はないと首を横に振ったのだ。

 

「このカジノで豪遊していただけの俺が戦う気なんてない」

 

「じゃあ何でこんなところにいる」

 

「俺が願った特典は金や宝石を生み出し黄金を操る能力だ」

 

一誠に向かって突き出す両手からヴァリス金貨と大小、多種多彩な宝石を言葉通り生み出した。

黄金の鎧が形状を崩して細長く鞭のようになる他、刀剣類の形にまでなった。自身の能力を教える転生者は続けて言う。

 

「この能力に加え、オラリオじゃあ有名だって言う賞金稼ぎと暗殺者の用心棒の二人を倒してあのドワーフのオーナーに俺を売り込んだ。自由気ままな豪遊をさせてくれる奴だと見込んでな」

 

「別段、協力関係でもないわけ?」

 

「ああ、金になる木だってほうが意識が高かったみたいで、俺を用心棒にせず豪遊させてくれた。その点だけは感謝するが、悪行三昧していたことがバレてここまで事を大きくしたのか分からないが、あのドワーフが焦って逃げるくらい収拾がつかなくなってるなら、今更俺がどうこうしても意味なんてないだろ」

 

しかし、今の生活が出来なくなると感じてるのか残念そうに溜息を吐いた。

 

「てなわけで俺はお前が人質を救いに行こうとしても一切邪魔をする気はない。ただ、俺を保護してくれないか?俺も悪行なことはしてないのに捕まりたくない」

 

「どうしてお前を保護しなくちゃならない?悪いことしてなければさっさとこの場から逃げればいい。お前の顔を知っているのはここにいる極一部の話だ」

 

「理由は、お前が俺と同じ日本人のよしみとして頼んでいる。俺の能力を知られたら俺より強い奴に攫われて、死ぬまで金を生み出す能力を酷使されそうで嫌なんだ」

 

理解してくれたか?という視線を送る転生者。理由としては納得のいく道理。しかし、すぐに了承していい相手ではない。

 

「俺もお前の能力を酷使するかもしれないぞ?」

 

「いや、しないだろ。異世界の料理を振る舞う店主として働く人間が金の亡者になるわけがない」

 

 

と―――そんな話し合いの末に一時に保護をするか話し合うために連れてきた。ただ何人か凄く転生者を見る目が厳しく「どうして連れてきた」という訴える視線が一誠に向けられる。

 

「俺、ここに住む!久しぶりの日本の料理を食べながら豪遊生活を送る!」

 

「うちは自堕落な生活する人間を置くつもりはねぇよ」

 

「金ならいくらでも生み出すぞ」

 

「肉体労働が必須だ馬鹿野郎」

 

「ところで、俺のこと睨んでくる視線が多い気がするんだけど」

 

「そりゃ、お前と同じ顔の転生者に強姦、レイプされかけたからな」

 

勘違いされても仕方ないという言葉を吐く一誠に顔を顰める転生者。

 

「倒したって言う奴はどこにいる。ちょっとシバき倒したいんだが」

 

「いや、物理的にはもう無理だ」

 

無理?何でだ?と素朴な疑問が疑問を呼び抱いた転生者の心情を悟ってか、虚空を歪ませてできた穴に手を突っ込み、淡い光を放ち続ける三つの球状の何かを閉じ込めてる大きめな鳥籠を一つ取り出して転生者の目の前に置いた。

 

「・・・・・なんだそれ」

 

不思議な物を見せられ窺う視線で鳥籠の中の光球を見ていると、光球が突然活発的に動き出して転生者に向かって鳥籠の柵にぶつかるや否や。

 

『おい!何でそこに俺の身体があるんだっ!それは俺の身体だ、寄こせっ!』

 

「はっ!?」

 

光球が喋り出して転生者だけじゃなく一誠を除く一同がここで初めて反応を示した。疑問と驚愕の二つの色を顔に浮かべ好奇心に負けて近づいてくる。

 

「イッセー、今の声は・・・・・」

 

「元【イシュタル・ファミリア】に所属していた三人の転生者だ。肉体が滅ぼされても魂までは滅ぼされてない、生きているとも言えないこんな状態で閉じ込めている」

 

『てめぇの仕業か!』

 

『俺達をここから出せ!』

 

『こんなことして許されると思っているのか!』

 

「はっはっはっ、負け犬より可愛い生まれたての鶏の雛の鳴き声だな。その鳥籠はお前等の魂を封じているんだ。お前等の生死は俺の手に委ねられていることを忘れるなよ。ついでにお前の目の前にいる男は転生者だ」

 

発光する輝きが増すと籠の中で暴れ出す転生者の魂。

 

『同じ転生者なら助けてくれ!こいつは俺達を殺した化け物を―――!』

 

「うるさい」

 

鳥籠に雷が纏う炎を放ち『や、やめぎゃあああ!!!』と転生者の魂を苦しめる。

 

「お前らをまだ生かしてやっているのは俺の小さな恩情だ。本当の意味で死にたいならとある異世界の魔王にお前らをプレゼントしてやる。それが嫌なら大人しく黙っていろ」

 

多分聞いていないんじゃないかと、すっかり大人しくなった三つの光球。

 

「てなわけで、こんな状態だから物理的にどうこうすることはできないから」

 

「わ、わかった・・・・・」

 

怯える風に何度も頷き、こいつはヤバいと感じ取った転生者。海童が話に加わる。

 

「うちの店主に逆らうようなことをしない限り無害だぞ。俺もお前と同じ転生者だから言うが、この城に住みたいなら働きつつ豪遊すれば文句は言わないと思う」

 

「お前も転生者だったのか?」

 

「他にも転生者の知り合いがいるぞ。そこにいる女性と男も転生者だし異世界転移した日本人だ」

 

アスナとカズマの事を教え転生者に妥協案を示す。

 

「豪華な引き籠り生活をするよりも働くか冒険者していた方がお前を楽しませてくれるぜ。なんせ店主は人を楽しませることに長けてるからな」

 

「・・・・・」

 

「この城でグータラ生活をしようならば追い出されるのがオチだぞ。ま、転生者のお前ならオラリオにいる神々から勧誘の嵐に巻き込まれ衣食住には困らないだろうけどな」

 

どうすると尋ねられ考える仕草をして悩む転生者を見て別の方からも声が挙がった。

 

「さっきから聞く転生者ってのは何だ?」

 

帝国の主神の素朴な質問だった。簡潔に説明して目の前の転生者の特典の能力を教えると、口端を吊り上げる帝国の主神。

 

「そいつがいらないなら帝国が引き取ってやってもいいぜ。大好きな豪遊を死ぬまで好きなだけさせてやってやる」

 

「金を生み出す能力が欲しいからか?」

 

「当然だろ?それがあれば国が豊かになる。ついでにダオスの力にもなるだろ。この坊ちゃん、最近帝国領内の路上生活(ストリートチルドレン)のガキ共に仕事の紹介や斡旋、お涙頂戴の物資の援助を自分の父親にも隠れてしてるんだぜ?」

 

ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべた主神の話を聞いて黙っていられなかったか、目を見開いたダオスが食って掛かった。いけない隠し事が親にバレた子供のように慌てる様を周囲に晒しながらだ。

 

「ど、どうしてそれを知っているんだ主神様っ!」

 

「はっはっはっ、神に隠し事なんてこの世界の子供として生まれた時点で絶対無理無理。全てお見通しだぜ。な、偉いだろ?そんなことしてるのは現王を含めて数多くの兄と姉妹の中でこいつだけがまるで希少動物みたいしててよ、誰にもバレてないだろうって隠れながらコソコソと動いているこいつを見てて面白すぎだわって思いつつ暖かい眼差しで見守ってたわけだ」

 

「・・・・・っっっ」

 

主神の言うことは本当だと、俯く顔は真っ赤で身体を震わせながら押し黙っても、それは一誠の嗜虐心を刺激させるだけであった。

 

「ん、今度俺もその様子をまぜてニヤニヤしながら見させてくれね?(ニヤニヤ)」

 

「おう、いいぜ。一緒にニヤニヤしながら物陰から見守ってやろうぜ。いやー、そういうこと共感できる奴が一緒にいると更に面白味が増して楽しくなるな(ニヤニヤ)」

 

「来るなっ!見に来るなっ!?」

 

ダオスの善行が主神と一誠の遊びにされては堪らないと全力で止めに掛かる。

 

「ところで、片手では数えきれないぐらいの人間に援助しているんだとしたら、どれだけ私財を抱えてるんだ?王族といえど莫大な富を持ってるわけないだろ」

 

「こいつ、賭け事の駆け引きがめっぽう強くてな。帝国内の賭博(カジノ)で荒稼ぎした金で援助しているんだ。今日も賭博(カジノ)で大勝ちしたし、その金で援助するんだろうよ。それ以前にこの前悪事を働いてた多くのガキ共が王族としての地位をはく奪されてよ、そいつらの私財も全て国に没収されずダオスに流されたんだ。前王のジジイの差し金でな」

 

「へぇ、そうだったんだ」

 

「そういうわけで、いらないなら貰うぜ」

 

「ああ、いいぞ持ってけ持ってけ。ここに住まわせるよりはこいつの能力を活かせ大いに役立つ場所があるならそっちに行かせた方がいい」

 

豪遊できる環境ならこいつも文句は言わないだろう。という率直的な感想を込めて転生者を帝国送りに決定した。

 

「俺の意見は?」

 

「諦めろ。話に入れなかった時点でお前の処遇は決まったも当然だ。豪遊できるなら別にいいだろ」

 

「それはそうだが・・・・・釈然としない」

 

こうして帝国へ赴く三人を見送ってようやく最大賭博場(グラン・カジノ)の件は幕を下ろした。

 

「あ、そうだ。イッセー、お店であるご夫婦の娘が賭博(ギャンブル)で負け続けて質にしてしまったって話を聞いたの」

 

「穏やかな話じゃないな」

 

「うん、そうなっちゃったのは複数の冒険者のならず者達なんだって。結局ご夫婦の娘、アンナさんは負け続けて払えぐらいになったお金を担保代わりにされて家まで奪われちゃったんだって」

 

「・・・・・アンナ?」

 

どこかで聞いたような?

 

「うん、この西地区の間じゃあ、凄い評判なんだって」

 

「どういう意味でだ?」

 

「きっと美人だからじゃない?男の神様から求婚されちゃうって話だったから」

 

美人・・・・・アンナという娘の名前に美人・・・・・一誠の中でごく最近知ったとある少女の顔を浮かべた。

 

「多分、心配しなくていいと思うぞ」

 

「イッセー?どういうこと?」

 

「ん、多分だが・・・明日になれば分かると思う」

 

不思議そうに小首を傾げるアスナに、今頃【ガネーシャ・ファミリア】が何とかしてくれているだろうと思いながらそんな言葉を送った。

 

翌朝―――。

 

開店準備に追われ、裏側でも表側でも店内は賑やかな声が絶えずにいた。特に二人の少女達の声がいつもより活が籠っているようにも気がする。

 

「ちょっと、まだ濡れてるじゃん!もっと力を入れて拭きなよ、こんなんじゃあお客に座らさせれないってば!」

 

「は、はいっ!失礼しましたルノアさん!」

 

昨夜、強制的に新しく『異世界食堂』で働かされることになった偽者の『黒拳』と『黒猫』の二人。ルノアとクロエの下でしばらく監視下に置かれつつ、指導を受けながら先輩ウェイターの海童の後輩ウェイターとして頑張ってる姿を視野に入れて・・・・・。

 

「ほらほら、テキパキ ミャーの分まで働くニャ。散々ミャーの名前を騙って良いご身分でいた分、しっかり働いて返すんだニャ」

 

「そうでアル!まったく使えない新人でアルな!」

 

「―――おい、なにサボってるんだい?」

 

「今この瞬間、どっちが使えないか一目瞭然だよな?」

 

椅子に座ってふんぞり返っているクロエと神楽の頭や顔を鷲掴み、お仕置きを受けて酷い悲鳴の声を上げさせる店主と副店主。

 

「お前ら二人は人の二倍分働け。先輩ならそれぐらいは余裕だよな?出来なきゃ今月の給金は三割にしてやるから」

 

「「お、横―――!」」

 

「あ?」

 

「「喜んで働かせていただきます!」」

 

何時もの日常が繰り返す店内は、明日も変わらないだろう。もしかすると違うのかもしれない『異世界食堂』の扉に叩くノックの音が聞こえて、アスナが扉を開けに足を運ぶ。開く扉の向こうから無精髭を生やした中年の男と亜麻色の髪を結んだ姥桜の女性と、その女性に似た若い少女が入ってきた。

 

「あ、あの・・・・・こちらに店主さんはいますか?」

 

「おー、いるぞ。俺が店主だ」

 

女性の人を伺う声に店主が足を運び、少女に目線を向ければ少女が深々と亜麻色の髪を揺らしながら折る腰と共に揺らした。遅れて中年の男性と女性がお辞儀し出した。

 

「昨夜、娘を助けていただきありがとうございました!」

 

「本当にありがとうございます!」

 

娘、アンナが夫妻の下へ帰ってきた報告とともに感謝の言葉を言いに訪れたのだと知る。朗らかに店主は言い返す。

 

「意図もせず偶然助けただけだ。お二人の事情を知らない上でだ」

 

「それでもありがとうございました。おかげで娘も家も取り戻せて安心して暮らせます」

 

「それは何よりだ。なら、そのお祝いに飯でも食っていくか?まだ開店してないが俺の奢りだ好きなだけ食べて行ってくれ」

 

「い、いやいや!そこまでして頂くことはございません。すぐに帰りますから」

 

「お邪魔してすみませんでした。アンナ、貴女も」

 

今まで黙っていたアンナが店主の前に一歩踏み出して、ジッと下から覗き込む形で上目遣いする。

 

「あ、あの!」

 

思わずと感じで大声を出すアンナは熱い眼差しを一誠に注視するぐらい向けていた。

少女の大声で反応する後ろに控えている従業員達はなんだなんだと仕事をする作業の手を止めて様子を窺う。シルはアンナの登場で店主の横に移動してきた。

 

「と、突然このようなことを言うのは迷惑だと重々承知しています!でも、それでも私はっ、身を挺して守ってくれた貴方が・・・・・!」

 

店主は、瞬きを繰り返した。アスナとシルは、きょとんとしていた。アンナは、『恋する乙女』のように店主へ熱い眼差しをそそいでいた。途端、店主は悟ったように遠い目になった。

 

「私は、貴方に恋を・・・しました」

 

目の前で瞳を潤わせる少女が視界に映しているのは、身の危険を顧みず助けに来た天使の翼を生やした騎士(ナイト)。目の前で(アンナ)の突然の告白を聞いた夫妻は吃驚して目を見開いた。

 

『ええええええええっ!?』

 

まさかこの店で店主が告白されるとは想像もしていなかった。様子を窺っていた女性従業員達が心の底から吃驚したその表情を驚倒一色に染めた。テッドが見初めた可憐で美しい街娘からの告白に店主は困ったような表情を浮かべた。

 

「・・・・・一応言うが。俺は主神がいない【ファミリア】を結成している団長的な立場だ。ギルドも公認している。だが、見ての通りこうして西地区で超有名な店の店主としてもいる。だからアンナの気持ちに尊重したいがその想いに応える暇はないかもしれない。それでもいいなら、俺の家族(ファミリア)の一人として加わってくれ」

 

述べられた提案に店主を見つめつつ、意を決した目でアンナは胸の前に両手を組んで頷いた。

 

「はい!私は戦えませんが、料理なら作れます。貴方のお役に立って頑張ります。不束者ですが、よろしくお願いしますっ!」

 

「ということで、お二人の娘さんをうちで預かることになったがいいかな?」

 

問われた夫妻は、はっと我に返って条件反射的に何度も頷いた。

 

「え、ええっ!至らぬ所があるかもしれませんがどうぞ娘をよろしくお願いします!ほら、アンタも!」

 

「あ、ああっ。その、俺達には勿体ない娘だが、どうか幸せにしてくれ」

 

「ん、毎日笑顔で暮らしてもらえるよう大切にする」

 

傍から見れば娘を嫁に出す光景と言動に見えるのだが、アンナの告白を遠回しに答えていないことを何人気付いたことだろうか。


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