ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか   作:ダーク・シリウス

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冒険譚54

「あのアスナさん。お伺いしてもよろしいでしょうか」

 

一誠は仕事でいない『幽玄の白天城』の中、静かな休暇をLDKでメイドに淹れてくれた紅茶を飲み、ネットスーパーで購入した日本の雑誌を読んで過ごしてる栗毛の長髪を伸ばす女性の横から話しかける、ウェーブのかかった顔の右半分に斜めにウェーブのかかった長い茶髪にアホ毛の女性。珍しいと何を聞いてくるのだろうと首を彼女の方へ向ける。

 

「いいですよ。何でしょか?」

 

「イッセーさんの事なんですが・・・・・イッセーさんは人間なんでしょうか?」

 

この城に住む者達の特徴の一つは、一誠の秘密を知る者と知らない者である。ウィズはその後者なので初めて出会った時の事を思い返して悟った。

 

「リッチーのウィズさんなら大丈夫だと思いますけど、イッセーのことどう思ってますか?」

 

「皆さんに慕われているのが率直的な印象ですね。アクア様と出合い頭にいがみ合って喧嘩をしていたバニルさんもそういうこともしなくなったのはイッセーさんがいるからだと思ってます」

 

「アクアさんとバニルさんが喧嘩?」

 

「はい、アクア様は女神ですので悪魔を、逆にバニルさんは悪魔なので神を敵視する存在ですから」

 

そういう事情があったのかと感想を抱き、そういうことならば確かに喧嘩をしているところは見たことが無いと改めて気付いた。

 

「悪魔ってバニルさんのような人の姿をしていますか?」

 

「いえ、確かに人の姿をした悪魔もいますが様々な姿をした悪魔もたくさんいます。中には邪神なんて昔は存在していたとかで」

 

「悪魔はどこで住んでいるんですか?イッセーの世界では冥界にいるようですよ」

 

「バニルさん達悪魔は地獄で生きているのですよ。地上に出てくるのは稀でして、人間が悪魔と契約するために召喚されることもあります」

 

「悪魔が人間に召喚、契約が必要なら代償も?」

 

「必要です。召喚された悪魔によって代償は変わります。バ二ルさんのような悪感情を糧とする悪魔もいるそうで」

 

人の考えていることや秘密を暴露にすることが悪感情になるのかと、あまりいい種族ではないことだけはアクアがバニルに敵視している理由は何となくわかった。

 

「あの人の好む悪感情って何ですか?」

 

「期待を裏切られた残念さと羞恥心が主にですね」

 

「残念さ?」

 

「冒険者が宝箱を見つけると無視できずに開けてしまいますよね?その中身が空っぽだったら残念がる筈です」

 

そういう意味での類の残念さが悪感情?

 

「それって悪魔にとって味とか感じるのかな?何か、『美味である』と言われた気が・・・・・」

 

「悪魔にしか分からないことなので何とも・・・・・」

 

それもそうだ、と理解したいとはあまり思わないアスナは本題の答えを言う。

 

「イッセーは外見は人ですけど、ドラゴンですよ。ただ小さい頃ドラゴンに助けられてドラゴンに転生した元人間です」

 

「ドラゴンに転生、イッセーさんの世界では人を捨ててリッチーのようになれる方法があるんですね。なんだかとても親近感を感じますっ」

 

「今のところドラゴンに転生した人はイッセーだけですけど、他にも悪魔や天使、堕天使に転生できる方法があるみたいですよ。その為の道具がイッセーの手元にあります。今挙げた種族に転生すれば半永久的な寿命も魔力も得れるみたいですし」

 

「すごいっ、異世界の技術はそこまで進歩しているのですね!それが商品化にできればきっと素敵な商品になりますよアスナさん!」

 

え、商品?何を言っているのだろうこの人はと思っていると、バニルがウィズの背後から静かに現れ興味深そうに口を開いた。

 

「それを消費すれば転生できるとは何ともお手頃なアイテムであるか。実に興味深い」

 

「バ、バニルさん!?」

 

「いつの間に・・・・・」

 

「普通に入ったまでだ。初めて主を見てから正体が気になって仕方がないポンコツ店主が、昨夜大変主に可愛がられて甘えに甘えた異世界のエルフに転生した元人間の小娘―――おっと我輩に暴露されて心底羞恥な思いをしているな?これは大変美味、ゴチであるフハハハハ!」

 

―――この人、あんまり好きになれない!

 

「って、アスナさんエルフじゃなくて元は人だったんですかバニルさん?」

 

「その通りだ。転生した理由は―――」

 

「バニルさん?それ以上言ったらイッセーに言いつけますよ。きっと私の為に怒ってくれてこの前のようにまたバニルさんをボロボロに、いえ、それ以上なことをしてくれます」

 

笑みを浮かべる反面、有無を言わせないプレッシャーを放つアスナから怒気を感じても余裕の態度でバニルは言い続ける。

 

「それは勘弁してもらおうか。我輩とて主の折檻はもう受けたくないのでな。これにて失敬!」

 

懐から丸い玉を取り出して床に叩きつけた矢先、大量の煙が発生してバニルの姿が見えなくなった。驚く二人も包む煙が晴れた頃にはやはりバニルがいなくなっていた。

 

「い、今のは・・・・・」

 

「多分、イッセーさんから得た知識を商品化にできた一つだと思います。すみませんでした」

 

よもや、それを見せつけたくて話を誘導させたのではないだろうか?ウィズの謝罪を受け止めながら気にしないでと、紅茶を飲もうとポットに手を伸ばすが飲み切っていたことを思い出して伸ばした手を戻す。その仕草を見たウィズが買って出た。

 

「私が用意しますね。誰かに淹れることは慣れてますので」

 

「え、すみません」

 

「いえいえ、このお城に住まわせてもらってますからこのぐらいは当然です。本音を言えば、時間を持て余しているので何かしたいと思っていたところなんですよ」

 

ティーポットを手に取って台所へ持っていくウィズ。慣れた手つきと仕草が窺えるので言葉通り本当なのだと感心する。

 

「ウィズさん、リッチーってあなたの世界では人々に受け入れられているのですか?」

 

「絶対とは言えませんね。私も昔は凄腕のアークウィザードとして冒険者の生業を日々に励んで生きていました。ですが、とある魔族との戦闘で死ぬ運命しかなかった時に、当時敵対していたある悪魔から助言をいただきましてリッチーになったのです」

 

「敵対していた悪魔から・・・・・」

 

「変な言い方ですけど、今では命の恩人みたいな方です。そしてリッチーになってまで生き永らえた私は生き恥を晒してでも成し遂げたい事がありますから感謝しているのですよ」

 

入れ直した紅茶をポットに注いで運んでくるウィズに素朴な質問を投げた。

 

「それってどんなことですか?」

 

「昔の冒険仲間と再会することです」

 

どうぞ、とカップの中に淹れるウィズに感謝の言葉を送って、飲みやすい適度な温度の紅茶をしてくれたウィズの腕前に感嘆の念を抱きながら口に含んだ―――。

 

「ブッ!え、すっぱっ!?あ、辛くなってきたっ!」

 

「え?酸っぱい?辛い?そんな、紅茶自体は確かに教えられた戸棚から・・・・・失礼します。・・・・・酸っぱい!あ、辛っ!?ど、どうして~!?」

 

淹れた本人ですらも困惑する事態。なぜこうなったのか、全く見当が付かない。軽く身悶える二人がいる部屋に一誠が入ってきた。

 

「・・・・・どうしたんだ?」

 

「イッセーさん、実は淹れた紅茶が酸っぱくて辛い味に・・・・・」

 

「紅茶が?昨日いい紅茶を買ってきたのか?」

 

「ウィズさんが淹れてくれる前は美味しかったんだけど・・・・・」

 

理解に苦しむ二人からの説明を聞き、ポットから直に行儀悪く口の中に紅茶を流し込んで、味わってから飲むと首を傾げる。

 

「これ自体は酸っぱくも辛くもないぞ?」

 

「へ?じゃ、じゃあ・・・・・このカップが?」

 

「貸してみろ」

 

カップを受け取ってジィーと観察する。一誠もカップで飲むと二人と同様に酸っぱさと辛さが舌に広がる。縁に擦り付けた指の腹を舐めて怪訝な表情を浮かべる。

 

「この場に他に誰かいたか?」

 

「えっと、先ほどまでにバニルさんが」

 

「バニル?・・・・・因みに聞くが、悪魔は呪いの類は人や物に掛けることは?」

 

「できますが・・・あっ!」

 

思い当たる節があるようで目を丸くして何かに気付いた様子のウィズ。内心、やっぱりな―――カップから異質な力が帯びているのを感じて問うた一誠は、赤い宝玉のある紫色の籠手の『幻想殺しの籠手(イマジン・ブレイカー)』でカップに触れて、異質な力を無効化した。もう一度飲み直せば美味しい紅茶の味に戻っていた。

 

「バニルが味を変化させる呪いをカップに掛けてたようだ。味を戻しといたぞ」

 

「そんなことも出来るの?悪魔の呪いって悪戯程度の呪いしか出来ないのかな」

 

「いえ、人を呪い殺せることはできます。ただ、バニルさんの場合は人から放つ悪感情を得たいがために、悪戯目的で呪いを振りまいたことが魔王城にいた時よくしてました」

 

「・・・・・後でお仕置きだな」

 

是非そうして欲しいと改めて元に戻った味の紅茶を飲みながら心から願うアスナであった。

 

「ところでイッセー、今日はお店でお仕事なんじゃ?」

 

「ビールの補充をしに来たんだよ。その途中で何やら酸っぱいだの辛いだのって聞こえたから」

 

「あ、そうなんだ。ごめんね?」

 

「気にするな」

 

じゃーな、と一言残して製造したビール工場に向かう一誠。これだ万事解決と気を緩めてウィズも誘う言葉を述べる。

 

「ウィズさんも一緒にどうですか?」

 

「よろしいので?では、お言葉に甘えますね」

 

「あ、確かお菓子もあったと思いますから一緒に食べましょう」

 

「いいですね!ああ、他の女性と穏やかに話し合うのは久しぶりですよー」

 

素直に喜ぶウィズに微笑んで一緒に台所へ赴き追加のカップと菓子を用意して、その日のアスナは穏やかな時間を過ごした。

 

 

「ぷはー!美味しいわねこのお酒っ!結構高級品なんじゃないの?」

 

「わかるかー?ウチのオキニの一つの酒なんやで。ほれ、イッセーの世界の酒のつまみも食うてみぃ」

 

「あ、お酒の味と合って美味しいわね。でも、霜降り赤ガニのおミソを酒と一緒に飲むのも絶品よ?」

 

「ゴクッ、聞いたことのない食べ方や。もっと詳しく教えてくれへん?」

 

元の世界へ帰るまで充当されたアクアの部屋の中、酒気で充満してる部屋の中で昼間っから酒盛りしている二柱の水色と朱色の神の女神達。住む世界が違えど吐くほど酒が大好きな事から直ぐに意気投合、飲み仲間として毎日どちらかのホームに招いたり招かれたりしては浴びるほど飲み明かす日々を過ごしていた。

 

「だったら実際に食べた方が早いわ。ねぇ、この世界には蟹はいるの?」

 

「おるにはおるんやけど、オラリオには届かんのや。極東にいかんと食べれへんなー」

 

「そこってどこなの?」

 

「海を越えた東の島国や。でも、イッセーが作った列車で数時間ぐらいで行けるようにしとってくれたから食べに行けるで。それかアマテラス達に頼んでみるかや」

 

「食べられるなら頼みましょうよ!ロキ、美味しい食べ方を教えてあげるからお願いね!」

 

真っ赤な顔で満面の笑みを浮かべながら他力本願するアクアに、未知の酒の飲み方に興味深々なロキは前向きで乗り気になってアマテラスに連絡をしたのだったが。

 

『極東の蟹は特別な日に向けて以外は獲らないからそのお願い聞けないわ。イザナギ、イザナミも同様よ』

 

バッサリと断りの一刀両断で切り捨てられた。しかし、希望はまだあると残念で項垂れた首を持ち上げた。

 

「せや、イッセーに頼む!」

 

「どうして?」

 

「ぐふふ、イッセーは異世界のありとあらゆる物資を購入できるチートなスキルがあるんや。毎日自分等が食べとる料理の食材や調味料も大半はそのスキルで買っておるんや」

 

「それって日本の買い物もできるってこと?」

 

「ニホンちゅうのは何なのか分からへんけど、イッセーの手に掛かればできないことは何でもないんや。蟹もすぐに食べれるでアクア」

 

ロキがそこまで言うなら期待できると楽しみが胸の中で膨らみ、夜の時用意してもらおうと考えて酒瓶を手に取りジョッキに注ごうと傾けた。

 

「あ、もうないわ」

 

「こっちもないで。今日はもうお開きやなー」

 

「えー、もっと飲みたいのに・・・・・あ、そういえばこのお城でお酒を造ってる工場があったわよね?あそこで飲みましょうよ」

 

とジョッキを持って立ち上がって提案をしたアクアの言葉に酒気帯びていた真っ赤な顔が、見る見るうちに真っ青になって焦燥に駆られたロキが待ったをかけた。しかし、ルンルン気分で先に部屋から出て行ってしまったので止めにロキも慌てて追いかける。

 

「だ、駄目や!あれは黙って勝手に飲んだらイッセーが怒る!」

 

「いいじゃない、ちょっとぐらい。それに怒るって言ってもお小言程度でしょ?えっと・・・あ、ここだったわね」

 

「アクアはイッセーの怒りを知らんだけや!イッセーと交流している神々の間でも絶対に怒らしたらダメなアレなんや!あ、待ってやアクア!」

 

工場専用の空間に入ってしまい、ロキの必死の制止の声を聞き流してどこで飲めれるか見たことのない設備に興味深々ながら探し回り、階段にも上がって酒を溜めているそれらしき設備のタンクを求め足を運び続けた。

 

「ここかしら?」

 

「おおーい!?」

 

開閉できる部分があるタンクの表面に気付き、開けては中を覗き込む。視界いっぱいに映り込む黄金色とアルコールの臭い、これだ!と疑いもせずにジョッキで直接掬い上げて飲みだす。

 

「美味ーい!この世界のシュワシュワは出来たてなのが一番美味しいのね!ほら、ロキも!」

 

「う、ウチは遠慮する。というか、イッセーが帰ってくる前に部屋に戻ろ?な?」

 

「イッセーは夜になるまで帰ってこないんでしょ?ならまだ帰ってこないから大丈夫よー」

 

ロキの分も掬い取ってジョッキを突き出す。ブンブンと横に振り飲まない意思を示すロキに付き合いが悪いわねーと程度に思いながらまた飲むアクアだった。

 

それが―――何度も何度も繰り返していくうちにタンクの中が変質しているのを気付かず、途中でそれに気づいたのがジョッキの中が見事な透明度の水質だった時だ。

 

「あ、シュワシュワが浄化しちゃった」

 

「じょ、浄化?どういうこっちゃ?」

 

「私は水の女神なのよ。体質も含めて能力によって私が触れた物はみーんな浄化しちゃうの。沼に入れば綺麗な水溜まりになったり、飲めないほど汚れて悪い水質や毒液だって私に掛かれば透き通った水にしてみせるの。欠点は紅茶やお酒、ジュースといった飲料水に指が触れちゃうとお湯やお水に変質しちゃうのが困りものね」

 

「―――――」

 

いま、なんて言った・・・・・?酒を水に変える・・・・・?もしもそうなら、タンクの中の酒が全部水に変質しているのでは?

 

「ちょ、貸してみぃっ!?」

 

アクアからジョッキを奪い取ってロキもタンクの中へ手を突っ込んで掬い取ってみれば・・・・・綺麗な水がたっぷりとジョッキの中に入っていた。―――ヤバい、嫌な予感がしないっ!!!この場にフィンがいたら親指が激しく痛くなるほど疼いていただろう。それだけ自分達が何を仕出かしたか、自覚してしまう分とんでもないことをしたのだと自覚した。

 

「どうしたの?ロキも飲みたくなったならもう無理よ、浄化してしまったもの」

 

「おま、アクアッ。自分、誰の酒を台無しにしたのかまだわかっておらへんのかいな!?てか、ここから早く離れるで!」

 

幸い、『異世界食堂』で働いている者達以外はここに来ない。酒を補充しにしか来ないためバレることはない。強引にアクアの手を掴んで引っ張り急いで工場から逃げるようにして駆け出すロキ。

 

―――これまでの事は一誠がビールを補充しにやってくる五分前の事だった。

 

そして一誠が工場に足を踏み入れ、客の為にビールの補充の作業に入った時・・・異変を感じ取った。大樽にビールを流し込むためにチューブを何時ものように介して注ぎ込む時に見える筈の黄金色が水のように透き通っていたのだ。これは流石に誰であれおかしいと実感する。原因の追究をとタンクのもとへ一瞬で移動して中身を確認した途端、一誠の思考に空白が生まれた。完全にタンクの中身が入れ替わったかのように水になっていたのだ。自分のいない間に誰がどうやってしたのか・・・・・兎にも角にも一誠は言わずにはいられなかった。

 

「だ、誰だぁあああああああああああっ!!!!!酒を水に変えやがった奴はぁあああああああっ!!!!」

 

城中に響き渡るドラゴンの怒りの咆哮。城の中にいたアスナやウィズ、メイド達は勿論のこと。恐怖で身体を震わせて怯えるロキや、今の叫び声を聞いてようやく自分が何を仕出かしたのか理解して後悔しだしたアクア。

 

「ね、ねぇロキ・・・もしかしてこれ、結構ヤバい・・・・・?」

 

「ヤバいってもんじゃあらへん・・・・・!殺される、確実に殺しにかかるお仕置きがされる・・・・・!う、ウチは止めようとしたんやから責任はないで?アクア、全部自分の責任取るんや!」

 

「あ、酷い!?こんなことになるならもっと止めてくれてよ!」

 

「アホいえ!自分の身体が常時何でも浄化してしまうことを知っとる癖に、そうなることを分かっててどうして手を突っ込んだんや!」

 

「だって美味しそうだったんだもの!仕方がないじゃない!」

 

責任のなすりつけ合いが勃発するが、誰もが言うだろう。両成敗だと。

 

 

―――『異世界食堂』。

 

 

「えええっ!ビールが水になっていた!?」

 

「・・・・・ああ、実際に見ないと信じてもらえないだろうけど完全に水になってた。だから今そっちにあるビールしか今後提供できない」

 

店主からの報告で裏側(バックヤード)にいたシルがミアと共に聞かされ素っ頓狂に驚いた。一体全体何がどうすれば大量の酒が水になるのだろうかと言うぐらいにだ。暗い表情を浮かべてる店主に向かってミアは今後どうするのか問いの言葉を掛けたところ。

 

「ビールの提供は店にある物全て使い切る前に早くビールの製造をしなくちゃならない。が、虜になってる飲兵衛達が一人五杯以上飲むこともあるから、一人が飲む制限をする。当然、疑問と不満を抱くだろうからしばらく店の料理の代金は二割減らす。それとお詫びの品を提供する」

 

「それでも文句を言う客がいたらどうするんだい」

 

「そうならないよう俺から説明する。それでもミアの言うとおりになったら土下座して謝るよ」

 

「店主さん、何もそこまで・・・・」

 

「する必要があるんだよ。楽しみを減らされてしまうのは誰でも嫌なんだからな。管理能力が至らなかったのは事実だから文句言われても仕方がない」

 

至らなかったとはいえ、どうして水になっていたのか未だ不明のまま。兎にも角にも、今するべきことをしなくてはならない店主はホールに出て客達全員に聞こえるようにビールの提供の制限の報告と説明をした。やはり当然と言うべきか、疑問や疑心を抱く客は多くいたものの理解してくれた客達から納得の声が挙がり店主は申し訳なさを込めて感謝の念を皆に伝えた。

 

「それとまた以前のように提供できるまでの間のお詫びの品は、ホームでも飲める小型のビールを送るけど・・・・・許してくれるか?」

 

『寧ろ俺(私)(僕)がずっと望んで待っていた!ありがとう店主!』

 

イヤッホーイッ!と急にハイテンションになった客達に面を食らう。対してシル達から良かったですねと労いの言葉を送り、心なしかビールの注文を増やす客達の対応に追われる。

 

諸事情によりビールの注文の制限は、翌日店の前で置かれた掲示板で来店する客達に見てもらい、店内でも店員達からも一言告げられて了承を得るようになった。そして案の定、ビールの製造が完成する前に店で貯蓄していたビールが無くなり、それ以降もお詫びの品とビール缶を二ダース分入れた保冷機能の魔道具(マジックアイテム)を提供し続けた。

 

「店主、この缶ビールって小さなビールを商品にした方がいいと思うよ。確実に儲かる。缶ビール目当てに来る客が目立ってきてるからね」

 

「まぁ、確かに無料で酒を提供しているようなもんだしな。そうするよ」

 

ミアの提案に乗る店主に件の話もされる。

 

「で、犯人は分かってるのかい」

 

「まだわかってない。今はビールの完成に急いでいるんだ、他のことに時間を割いている暇はない。が、妙におかしな態度の奴が一人いるから目星は付いている」

 

「だったらさっさとケリを付けなよ」

 

「そうするつもりだ。・・・・・許す気はないんだからなぁ」

 

オッドアイの瞳の奥で瞋恚の炎を燃やす店主の犯人捜しはまだ先であるが、その時になったら確実に酷い目に遭うのは間違いないであろう。泣いて叫んでも何度も謝罪してでも、血も涙もない恐ろしいお仕置きが待っているのだから。

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