ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか   作:ダーク・シリウス

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冒険譚55

ビールが全て水になった事件は城の中にいる全員の耳に入り吃驚する。どうしてそうなったのか調べる余裕はないと一誠の話で犯人捜しは〝今は〟しないと声明した。

 

「ただし、これだけは言う。―――俺は常に怒ってる。泣いて謝っても許さないし今回は相手の人権なんて無視した体罰をする。誰かに止められようとこれで皆に嫌われようと体罰はし続ける。いいな」

 

緊張で息を呑む。三人の転生者以来の怒りを感じ取った被害者だったリヴェリア達は目を瞑って犯人に同情する。神でも止められないドラゴンの逆鱗に触れてしまったのだから自業自得としか言いようがないのだ。

 

「因みに酒を水にしてしまうほどの魔法か異能の力を持った奴はこの場に居る皆の中でいないとは思っている。最近暮らし始めたカズマ達も同様だがとにかく何か分かったことがあったら教えてくれ。犯人を匿うなんてことをしたら庇ったそいつも同様の体罰をするから、変な情を抱かないように頼む」

 

「「「・・・・・」」」

 

「っ・・・・・」

 

翌日の朝に聞かされた一誠からの話の中、『ビールを水にしてしまう魔法か異能』という言葉に思い当たる節があるカズマとめぐみん、ダクネスは水色の髪と瞳の美少女へ視線を送ると、その美少女は一人顔を青ざめて挙動不審、百面相をしていた。

 

「―――おい、心当たりがあるようだな。いえ」

 

朝食後、カズマ達はアクアの部屋に押し入ってみればベッドの上で体育座りしていたアクアがビクリと震わせた。

 

「はい・・・・・あのシュワシュワを製造する工場があるじゃないですか」

 

「うん」

 

「ロキと一緒に飲んでいたらお酒を飲みつくしちゃって、でもまだ飲みたくて、出来立てのシュワシュワがある工場にロキと一緒に行ったんです」

 

「うん」

 

「ジョッキで直に掬って飲んだら凄く美味しかったので、満足するまで何度も飲んでいたら美味しいシュワシュワを浄化しちゃい・・・まし・・・た」

 

白状したアクアの発言にカズマだけじゃなくめぐみんとダクネスも揃って頭を垂らしてため息を吐いた。

 

「―――お前、なんてことを仕出かしたんだぁっ!?あの工場は入って良いが勝手に飲むなって教えられただろうが!しかも全部浄化しちまったなんて異世界に来てもどこまで駄女神なんだお前は!!!」

 

「流石にこれはフォローのしようもありません。何より庇ったら私達まで体罰をされます」

 

「わ、私は望むところだがなっ!アクア、安心しろ。お前の責任は全て私が引き受けて見せる!」

 

興奮した顔でアクアの身代わりに買って出ようとしたダクネスの真意を読んでの指摘をするカズマ。

 

「お前、また痛覚と興奮が感じなくなりたいのか?今度は三日じゃなくて一年もされたら耐えられるのか?」

 

「・・・・・すまない。アクア、自己責任として罪を償ってくれ」

 

生き甲斐を失われたくないばかりに手のひらを反すダクネスにアクアの味方はこの場に誰もいなかった。

 

「ね、ねぇ・・・私これからどうすればいい?どうなっちゃうの?あいつ怒ってるって言ってたし」

 

「店に使う酒を全部浄化したんだから・・・・・この世界に来てもまた借金を押し付けられるだけでもマシだと思え」

 

「それも嫌~!?異世界に来てもまた借金なんて!どうにかしてよカズマさ~ん!」

 

「アホ言え!今回ばかりは俺でもどうしようもならないことなんだよ!庇うことはできないが一緒に謝れば許してもらえずとも何とか穏便に済ませるしかないだろ」

 

泣きじゃくって縋るアクアとは腐れ縁なので見捨てるほど冷酷で鬼畜じゃないカズマは、アクアの手を取って引っ張る。

 

「ほら、何時までも隠し通せるようなことじゃないんだ。寧ろ長引けば長引くほどイッセーの怒りが収まらず他の人に迷惑が掛かるんだ。こういう時はさっさと素直に謝った方が痛い目も遭わずに済むから行くぞ」

 

「う、ううっ・・・・・」

 

「仕方がありませんね。私も一緒に謝ります。同じパーティーメンバーですから」

 

「庇うことはできないが誠心誠意に謝罪することぐらいはできる」

 

「ごめんね・・・・・ごめんねぇ・・・・・」

 

泣きながら謝罪と感謝の念を込めた言葉を仲間に言い、と共に一誠のところへ謝罪しに向かう。

 

 

LDKにいた一誠の前に並んで「「「「ごめんなさい」」」」と異口同音で同時に頭を下げながら謝罪。突然のことで一誠やアスナ達は不思議そうにカズマ達を見つめた。

 

「・・・・・何だ?」

 

「ビールを全部水に浄化した犯人はこいつです」

 

アクアが犯人だと教えるカズマ。途端に一誠の目つきが鋭く、精神が押し潰されそうな威圧感が感じるようになった。カズマ一行だけじゃなくLDKにいた他の面々も感じて冷や汗を流す。

 

「浄化した?どういうことか説明しろ」

 

「アクアは水の女神と自称するだけあって、体の一部でも触れると何でも水やお湯に浄化してしまうんだ。それこそ温泉の源泉の成分すらも浄化してただのお湯にしてしまう」

 

「・・・・・」

 

胡乱気な目でアクアを一瞥して椅子から立ち上がって冷蔵庫に足を運び出す。冷蔵庫から取り出したコップの中にコーラを注ぐとそれを持ってアクアに突き出した。

 

「これも浄化できるのか」

 

「はい・・・・・」

 

人差し指だけコップの中に突っ込み、掻き混ぜるようにして動かすと見る見るうちにコーラの成分が無くなっていき、黒かったコーラが透き通った水になっていった。浄化された元コーラを飲んでみると水の味しかしなくなった。

 

「自称水を司る女神なだけあって相応の能力だな。で、何でそれを理解して酒を全部駄目にした」

 

「すみませんでした。お酒が飲み足りなくなってつい、ロキと一緒にシュワシュワを飲みたくなりました」

 

「・・・・・ロキだと?」

 

眦が裂き、声音のトーンが更に低くなった。無言で話を聞いていただろうリヴェリアへ振り向き、この城にロキを召喚するように視線で促した。

 

「イッセー、どうか、穏便にお願いできないか」

 

「アクアも悪気はなかったとはいえ、大事なお酒を台無しにしたのは事実ですが」

 

「借金でも何でも、煮ても焼いても構わないから心ばかりの恩情をどうか」

 

「ご、ごめんなさい・・・・・!お願いします・・・・・・!酷い事だけは勘弁してください・・・・・!」

 

揃って頭を垂らして懇願する四人に睨み付け、感情が消えた顔を向ける。

 

「・・・・・イッセー」

 

「黙ってくれないか」

 

最愛の家族の言葉を無情に切り捨て、椅子に座り直す。

 

「おい、浄化以外に何ができる」

 

「アンデッドや呪いを浄化する以外は宴会芸の披露に物を創ることができます」

 

「物を創るとは具体的になんだ」

 

「人を模した石鹸や紙パックで模型を創れたり他にも色々と・・・・・はい」

 

アクアの神としてのスキルなのかと疑いたくなる事であるが、やりようによっては無駄ではないのは確か。

 

「・・・・・取り敢えずお前、借金な。本来提供する筈の酒を全部台無しにされたんだからな」

 

「・・・・・えっと、どのぐらいでしょうか」

 

「三千万」

 

と言った矢先にアクアに近づき、手を突きつけると魔方陣を展開したと思えば彼女の青い衣や下着など全て破壊して丸裸にした。突然のことで唖然としたが、素っ裸にされたことに気づいたのは数秒を要いたアクア。

 

「きゃぁっ!?ちょ、なっ、何をするのよぉっ!?」

 

「黙れ、その体を使って借金を返済するのがお前の役目だ。しっかりと俺が満足するまで頑張ってもらうからな」

 

「ひっ!わ、私の体で卑猥なことをする気なのねっ!?この鬼!悪魔!カズマ!」

 

「おい、どうして俺の名前が出てくるのか説明してもらおうか?」

 

「そんで叩くぞ。お前、全然反省していないみたいだな」

 

魔法でアクアを中に浮かせ、肩に担いだ状態で思いっきり鞭のように腕を振るって全力で尻をパーンッ!と音を鳴らすほど叩いたので、アクアがあまりの痛さに泣く。

 

「痛いっ!や、止めてお願いだから止めてよ!痛い、痛いー!止め、う、うわあああんっ!わあああんっ!」

 

女神を泣かして一誠はどこかへ連れて行った。

 

「・・・・・あの、アクアはどうなってしまいますか?」

 

「さっきの言葉通りになっちゃうのかわからない・・・・・」 

 

「朝の言葉も考慮すれば、本気でしかねないが」

 

めぐみんの不安は更に現実的になると匂わせ、顔を強張らせる。

 

「止めに行ってきますっ」

 

居ても立ってもいられないと一誠の後を追いかけに行くめぐみん。ダクネスとカズマも顔を見合わせてめぐみんに続く。

 

「仲間思いなんだね・・・・・」

 

「そのようだな。アスナ、行くのか」

 

「イッセーを信じますけど、過激なことはさせないようにしてみます。自信はないですけど」

 

「すまない、私はロキを捕まえに行かねばならない。どうやら逃走したらしいのでな」

 

確信犯であるのは間違いない。頭を抱えそうになり、城を後にするリヴェリアと分かれアスナは一誠の所へ向かった。しかし、一誠の部屋にはいなかった。ならばお風呂?と思って中に入ると立ち尽くすカズマ達の背中が視界に映り込んだ。

 

「どうたの・・・・?イッセーとアクアさんは・・・・・」

 

「あれ・・・・・」

 

「・・・・・え?」

 

三人が見ていた先にアスナも釣られて見てしまった光景は。

 

 

「おら、全力で浄化魔法をしやがれっ!適当にしているとお前の尻に酒瓶を突っ込んでやるぞっ!」

 

「ピュリフィケーション!ピュリフィケーション!ピュリフィケーション!」

 

 

縁に仁王立ちする一誠が泣いているアクアを湯に浸からせた状態で何かの魔法を発動させていた。

 

「・・・・・アクアさんが何してるのかわかる?」

 

「アクアが得意とする浄化魔法です。ですが、ただのお湯のお風呂に浄化魔法を使わせる理由がわかりません」

 

「何がしたいんだろうかイッセーは」

 

「わからん。アクアの能力で一体何がしたいんだ?」

 

三者三様、一誠の考えが読めず理解に苦しんで小首を傾げる。兎に角、アクアに対して酷い事だけはしてないことはわかって一安心するが、強制的な事をしているのは確かだ。その理由はアスナもわからないのだが。

 

「・・・・・イッセー、何してるの?アクアさんに浄化魔法を使わせて」

 

「台無しにしたビールの弁償をさせている」

 

「ごめん、理解できないんだけど」

 

心底から困惑しているアスナへ振り返り、現状の経緯を説明口調で語り出した。

 

「アクアは異世界の女神だよな」

 

「え、うん。そうみたいだね」

 

「女神らしく神聖な魔力と浄化魔法があるよな」

 

「今日初めて聞いたけど、うん、そうみたいだね」

 

「んで、アクアは水を司る女神」

 

「・・・・・?」

 

それが何なの?と言いたげに苦難の色を顔に出すアスナ。一誠の意図が読めず分からないでいると一誠は言った。

 

「何でも浄化してしまうアクアの力は呪いや毒といった状態異常を回復させることが出来る。なら、それを手軽に携帯できる物―――聖水が作れるかもしれないと憶測を立てた」

 

「聖水ってあの特別な水の?」

 

「特別な水というよりかは、大雑把で言えば神を信仰する教会の使徒がよく儀式に使ったり、悪魔やアンデット退治するためにも使われる神聖な水だ。その効果のある聖水が手に入るなら色々と試しに使ってみたくなってな」

 

聖水を欲する一誠の私欲でアクアに浄化魔法を使わせている。という理屈が分かった。

 

「聖水って浄化魔法で出来るのですか?」

 

「お前達の世界にいる普通の信者じゃあ無理だろうけどアクアなら可能の筈だ。アクアの身体から出る出汁で出来た水は料理にも使えそうだしな。浄化された水も水質が極めて高いかもしれないし更に美味い酒が出来上がるかもしれない。―――そんなわけだからもっと必死こいて浄化魔法を使えアクアァッ!」

 

「うううっ!完全にイッセーの私欲じゃないの!女神の私にそんな理由でコキ使うなんて罰当たりなことするんじゃないわよ!」

 

涙目で抗議したアクアだったが次の瞬間。一誠の怒声が風呂中に轟いた。

 

「ああん!?酒を台無しにした責任はカズマ達の願いを聞いてやって、恩情で酌んでこの程度で済ましてやろうと思ってんのにその態度はなんだ!だったらいいよ、文字通りその身体を犯して犯しまくって、孕ませてやろうか?それとも俺が気が済むまでサンドバックにしてやろうか?それともお前だけ知らない土地に放り出してやろうか?なんなら一人だけ元の世界に帰るか?こっちはモンスターのいる湖のところで浄化してもらってもいいんだぞ!さぁ、選べ今すぐ選べ、そしたらすぐにしてやっからよ!」

 

「うわあああ!ごめんなさい、一生懸命頑張ります!頑張りますからそれだけはいやーぁっ!」

 

「言っておくが、俺が満足する量はまだまだだからな。この風呂の湯が全部聖水になったら今度はプールの水にも浄化魔法を使ってもらう。それが終わったらまた何度でも聖水の生産に励んでもらうから覚悟しろよ!」

 

「そ、そんなー!?」

 

・・・・・結論。

 

「戻るぞ」

 

「そうですね。浄化魔法をするだけで借金が返済されるなら私達の手助けは必要ないですし」

 

「うむ、アクアの得意分野だからな。私達はしばらく終わるまで待つとしよう」

 

カズマ達は心配することではないとばかりこの場から立ち去った。しばらく見守っていたアスナも問題なしと判断して引き下がる。

 

「・・・・・イッセー、怒ってた?」

 

一誠の様子を見に行ったアスナにアイズ達は心配そうに尋ねてきた。

 

「うん、今日はそっとしてあげてね?今アクアさんにお仕置き中だから」

 

「どんなお仕置き・・・・・?」

 

「とても疲れることかな?でも、酷い事じゃないから大丈夫だよ」

 

「ん、わかった。あとリヴェリアから伝言。『ロキが捕まらない。しばらくかかる』って」

 

全力で逃げ回っているのかなぁーと思いつつ伝言を受け取ったアスナはイッセーの怒りが早く収まって欲しいことを願うばかりだった。

 

 

「まったく、ロキも困ったことをしてくれる」

 

「本神は飲んでいないと主張していたけど、本当の事なんだろうとイッセーにとっては現場にいた犯人の一人と数えられてしまってる」

 

「あ奴の怒りに応じて今度ばかりは禁酒をさせてもよいじゃろう。それで万事解決になるならばな」

 

元も含めて【ロキ・ファミリア】古参の三人が顔を突き合いだしてロキの発見、捕縛の報が来るまで待機中だった。始めはリヴェリアからの通信を受け取ったフィンがロキに尋ね、一緒に城へ行こうと同行の話を持ち掛けた途端に、事情を知らないフィンに言葉巧みで騙して雲隠れをして以来、団員達にも手伝ってもらい目下捜索中。

 

「今更だが、夜になれば忍び込んで帰ってくるのではないか」

 

「ンー、そうなんだけど、イッセーの作ってた酒を全部女神アクアの能力で水にしてしまった現場にいたんなら、イッセーからすれば止められなかった結果で同罪にするつもりだと思うよ」

 

「つまり?」

 

「ロキには前科があるから、時間が過ぎれば過ぎるほどにイッセーの怒りが増すばかりだ。ずっと来ないなら・・・・・このホームを破壊する様を見せつけてでも来させる方法をやりかねないと僕は思う」

 

そこまでするか、と言いたいリヴェリアの脳裏に転生者三人との戦いが不意に過ってしまい一末の不安要素が浮上した。フィンもガレスもイッセーがそんなことするとは・・・と思ってから神妙な面持ちで互いの顔を見合わせた。

 

「全力で見つけ出そう」

 

「そうじゃな」

 

「ああ、こうなれば【ガネーシャ・ファミリア】に協力要請をしよう。オラリオは広い、一派閥だけでは全ての場所を探し出すのは骨が折れる」

 

 

 

 

西区―――冒険者通り

 

 

「うーん?何か雰囲気がおかしいな」

 

街の探索の最中、建物の屋根から行き交う一般市民の人々や足を運ぶ冒険者達。盗賊の生業をしていたクリス自身の感知能力が異変を伝えていた。観察してみれば一部の冒険者達が走り回って何かを探す目つきをしていた。

 

「事件かな?」

 

路地裏に屋根から飛び降りて表の通りに出る。メインストリートに歩く一人として紛れ込み話声を盗み聞きする。

 

「そっちはどうだ」

 

「いなかった。まったく主神様はどこに行ったんだ」

 

「とにかくもっと探すぞ。ロキを見つけ次第団長のところに連れて行くんだ」

 

どうやら主神を探している模様だった。しかもロキときた。しかし、何でまた団員達が探し回っているのだろうか?

 

「もしかして、イッセーの酒を台無しにした犯人?」

 

まさかね、と思い改め人混みの中に紛れて探索の続きをした。

 

 

 

 

全裸な疲労困憊のアクアが全身で息をしてプールサイドでぐったりしてるすぐ傍に、一誠がプールの水を自作した魔道具(マジックアイテム)で吸収していた。予測通り、アクアの浄化魔法は聖水を作るほどまでの効力があり、聖水を素材にして様々な物を作ろうと脳内で試行錯誤してたところで、虫の息のアクアが絶え絶えでながら話しかけてきた。

 

「こ、これで借金は・・・・・なくなった・・・・・のよね」

 

「は?何バカなこと言ってんの?まだに決まってるだろ。これから毎日聖水の生産に励んでしっかり借金を返済してもらうからな」

 

「・・・・・ぐすっ」

 

もう心が折れそうっ・・・・・!とアクアの心情を露知らずな一誠は労いの言葉を送る。

 

「今日はもういいぞ。お疲れ、また明日も聖水の量産をしてもらうからな」

 

「ううっ・・・・・シクシク」

 

「・・・・・」

 

メソメソ泣く女神を見つめ、こんなのが異世界の女神として存在してる超越者なのかと疑いたくなる。無言でアクアの自室に魔方陣で送った。

 

「さて・・・・・残りはロキだな」

 

フィンに連絡してロキを連れてきて欲しいと頼むが、行方を暗ましてホームからいなくなってしまったと申し訳なさそうに言い返された。額に青筋を浮かべる男の表情を見て親指が痙攣、フィンは団員総出で探していると伝えるが。

 

「それでも見つかっていないんなら、見つからない自信がある場所に身を潜めているんだろうな。だったらこっちにも考えがある。絶対に見つけ出してやるからなロキ」

 

 

 

「ううう・・・・・なんでウチこんなことしとるんやろうか」

 

「確かにな。ロキ、そなたが急に暫く匿って欲しいと言われたときは何事だと思った。一体どういう事情でそうなったのか教えて欲しい物だ」

 

「すまんミアハ、今だけは何も聞かんといてくれ・・・・・あと、ウチのこと聞いてくる子供やイッセー達が尋ねて来てもいないと言ってくれや」

 

「喧嘩でもしたのならば素直に謝れば済む話であろう」

 

「喧嘩だったらミアハんとこに来ないわっ。それ以上に恐ろしいことをして・・・・・いや、ウチはしておらんよ。でもなぁ~・・・・・ああぁ~・・・・・」

 

何やら悩み事を抱えている様子。頭を抱えては左右に振ってブツブツと何か言いだしてもミアハからすれば訳が分からず、何時まで経ってもホームからいなくなってくれる気配が感じがない時―――。

 

ピン ポン パン ポーン

 

という軽やかな音がオラリオ中に響き渡った直後。

 

『オラリオに住む皆さん、こんにちは「異世界食堂」の店主です。突然の放送に驚かせてしまったなら申し訳ございません』

 

「・・・・・イッセー?」

 

「ヒッ!?」

 

『ただいま朱色の髪に胸が男のように全くない糸目の目をした女神を探しています。見つけた方には賞金―――一千万ヴァリス、一千万ヴァリスを与えます。中央広場に連れてきてくれた者にだけ賞金を授与します。なお、街中で騒動を起こした場合は【ガネーシャ・ファミリア】が介入しますのでご注意を。女神を捕らえた者以外は素直に諦めて引き下がってください。繰り返します―――ただいま朱色の髪に―――』

 

翻訳―――ロキ、何時までもオラリオの中で逃げられると思ってんなよ。さっさと顔を出さないと酷い目に遭わせてあるからな。

 

という幻聴が聞こえたような聞えなかったような。兎に角、この瞬間、ロキの居場所は確実に潰されて行こうとしており、真っ青な顔で呆然と化するロキ。全てではないが何となく悟ったミアハは口を開いた。

 

「そなた、イッセーに何かしたのだな」

 

「う、ウチは直接何にもしてへん!本当や!」

 

「ならばどうして自分のホームから離れ、私に匿って欲しいのか理由を教えてくれぬか」

 

「あの主神様、今の声明は・・・・・あっ」

 

追究しようとしていたところ、ミアハの眷族が顔を出してギクリと震えるロキを発見。

 

「・・・・・捕まえますか?」

 

「そうするのも吝かではないが、ここは素直にイッセーに直接連絡した方がよいだろう。彼に恩があるのだからな」

 

「ちょっ―――!」

 

袖をめくって腕を晒せば嵌めていた金色の腕輪に触れるミアハ。しかしその時だった。『青の薬舗』に訪れた冒険者のパーティがやってきた。

 

二属性回復薬(デュアル・ポーション)ってありま・・・・・」

 

「「あっ・・・・・」」

 

店内に朱色の髪で糸目の目、まな板のような胸の女神が店内にいた。回復薬(ポーション)を買い求めに来たら一千万ヴァリスの賞金を懸けられている者がいたとしたら・・・・・。

 

「「「い、一千万ヴァリスを見つけたぁー!?」」」

 

 

 

『という経緯でロキは逃げてしまった。連絡が遅れてすまないイッセー』

 

「気にするな。寧ろ教えてくれた方が感謝してる」

 

中央広場(セントラルパーク)に山のように積んだヴァリス金貨を背にして椅子に座っている一誠。大金を盗ませないためにアルガナ達を配置して遠巻きで見ている面々に睨みを利かせてもらっている中、先ほどの放送で躍起になってロキを探し出すようになった者達が増えていくのが、各区画中に展開している遠見の魔方陣を介して把握しているところ。

 

「イッセー、こんなことして後でギルドに何か言われないか?」

 

「正式に行っているつもりだが?ちゃんとオラリオに冒険者依頼(クエスト)を発注してるしガネーシャにも協力をしてもらっている」

 

「行動力がすげーよマジで」

 

大和が呆れ混じりで一誠に向かってそう言い、金貨の山を一瞥する。

 

「一人の女神のためにこんな大金、俺だったらしないぞこんなこと」

 

「ぶっちゃけ、運動会の二番煎じ的な意味でのイベントを行っているだけだ。お前は参加しないのか?アマテラス達への手土産になる額だが」

 

「お前から得た物だったら『甘えて得た物を受け取る気はない』って言われそうだから遠慮する。それに大金は興味ないし」

 

「今時珍しい転生者だな」

 

 

大通りを駆けるロキ。全力疾走で必死な顔を浮かべ、背後にいる老若男女の種族の垣根を越えた集団に追いかけられ逃げていた。

 

「いたっ、いたぞーっ!一千万ヴァリスがー!」

 

「へいへいロキ様、俺と一緒にいいところに行こうぜ!」

 

「ロキ、是非私と一緒に!」

 

「待てぇっー!」

 

飛び掛かってくる金の亡者を躱し、躱し、躱し続ける。追いかけてくる者達は減らないどころか増えていく一方。建物の上、屋根から虎視眈々と飛び移りながら狙っている神々や冒険者までいるのだから、ロキを味方にする者はオラリオに一人もいないことを悟らせる。ロキは何時までも逃げられないことを自覚してある手段に出た。

 

「お前等、一旦止まれぇっ!」

 

神威を開放、神々以外はロキから放つ異様な威圧に足が竦んで止まらざるを得なかった。

 

「よし、止まったな。ウチを見逃してくれたモンには倍の額を払うで!ウチの名に懸けて絶対や!」

 

金には金をと交渉の話を持ち出すロキ。彼等彼女等からざわめきが聞こえて効果はあったが。

 

「倍の額ってどのぐらいですかねぇ?」

 

「それを聞かんことには聞けない相談ですなぁ」

 

ジリジリと詰め寄る集団はまだいた。顔を強張らせてロキは数字を提示する。

 

「二倍の二千万!どや!」

 

「「「「「・・・・・・」」」」」

 

ピタリと音が止み、納得してくれた?と希望が見えた気がしたロキに―――。

 

『ほほう、二千万でこの状況を覆せると思っているのか』

 

「―――――」

 

『俺の財力を侮っていないか?そして行動力もな。目的のためなら散財は惜しまないことも』

 

絶望が希望の光を覆い隠した。

 

『報酬の額を変更する。一千万から―――――ロキを捕まえた者には―――――一億ヴァリスを払う。しかも「異世界食堂」一週間分の無料の権利も追加してやる。さぁ、ロキ、お前の【ファミリア】が俺より上の額を払えるだけの財力がお有りならどうぞ上乗せしてもいいぞ。こっちは更にその上の額を提示してやるからな。三億でも五億でもな。フハハハハハハッ!!!!!』

 

魔王のごとき圧倒的な力で捻じ伏せて見せつけられた。ロキの甘言に惑わされた、惑わされかけた一同は最早ロキの言葉に耳を傾けない。ニヤリ、と邪な笑みを浮かべだした。

 

「「「「「いっち億、いっち億、ランランラ~ン!いっち億、いっち億、ランランラ~ン!」」」」」

 

清々しい笑みでロキにスキップしながら迫る。相手が都市最大派閥の主神?んなもんしっちゃこっちゃねぇー!と勢いで皆仲良く肩を組んでスキップして命賭けてでも捕まえるだけの価値がある故に、ロキを追い詰める。

 

「ち、ちくしょうおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」

 

涙流して再び逃走劇を続けるロキはその日の一日、下界に降りてから初めて走り続けたと一誠のお仕置きを受けた後でポツリとフィンに零した。

 

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