ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか   作:ダーク・シリウス

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冒険譚58

「これは驚いた。こんなところに貴方方のような人物がいたとは思いもしませんでした」

 

「お前は・・・・・確かヴァベルーと言ったな。昔は世話になったものだ」

 

「彼の【ファミリア】の眷族だった者にまだ覚えて頂いていたとは光栄です」

 

「ここに来たのは相変わらず商売か」

 

「ええ、そうです。私と契約している面白い子供が作る商品を売買するために」

 

「どんな奴だ?」

 

「一言では尽きませんよ。何せ、異世界からやってきた人間でありますからね」

 

「・・・・・異世界だと?なんだそれは?」

 

「気になりますかな?実力も高いですよ。単独で60階層以上踏破するほどですからね」

 

「それは冗談だろう」

 

「いえいえ、ちゃんとその証であるドロップアイテムも提供してくださって貰っていますので間違いないですよ。しかも―――異世界のモンスターを召喚することもできます」

 

「「・・・・・」」

 

「もう一度問います。気になりますかな?ここで朽ち果てるつもりなら、最期を迎える前に一目見てからでも遅くはないですよ。賭けてもいい、きっとあの子供はあなた方にとって必ずいい未来を見させてくれる」

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――【アガリス・アルヴェシンス】!」

 

【アストレア・ファミリア】総勢11名との模擬戦を始め数分たった途中。手や足、剣にまで炎が鎧のように纏う炎の付与魔法(エンチャント)を使ったアリーゼ。

対して一誠も両手に炎を纏わせ拳を繰り出す。炎の拳を作りアリーゼに向かって放つ一誠の攻撃を見て炎を纏う剣で両断する。

 

「フフーン!」

 

「その程度で胸を張るなら、もっと強い方でもいいようだな」

 

一本だけ突き立てた人差し指の先から小さな火球がどんどん膨らみ膨張していき、やがて十Mほどの大きさにまでなるとそれを二人の間に浮かせた。そして―――火球から豪雨のように火の弾丸として放出する。

 

「うわっ、熱!?わわっ!?」

 

「ほらほら、さっきみたいに斬って迎撃して見せろよ。この程度で負けたら【紅の正花(スカーレット・ハーネル)】の名が名折れだぞ」

 

「異世界の魔法ってこんな事できるのー!?」

 

「純粋な魔力ですけど何か」

 

「って、貴方からも攻撃してくるのですか、この炎の雨の中で!?」

 

非常識な行動をする一誠に面を食らい振るってくる炎の剣に炎の剣で受け止め必死に打ち合うもアリーゼの頭上から降り注ぐ炎雨に打たれ顔の表情は痛苦に歪む。

 

「落ちてくる炎の気配を感じて見ろ。どこに落ちてくるか分かれば自然と避けれて回避行動が身につくぞ」

 

「そうしたくてもそうさせてくれないんじゃできないけれど!?」

 

「戦いの中で成長するしかない。人間なら大抵何とかできるもんだぞ?」

 

「はい、難しい事だと思うのだけど!熱っ!」

 

「これくらいのこと、俺の世界じゃ当たり前のように繰り出してくるぞ。というか、喋れる余裕があるならまだイケるな?」

 

前衛、中衛、後衛関係なく炎の雨が容赦なく襲い、彼女達から阿鼻叫喚の声が聞こえてくるにも拘らず攻撃の手を緩めない。接近して殴打、斬撃を与えアリーゼ達も負けじと応戦するも確実に倒されていく。その様子を見守る観客席にいるアスナ達。

 

「えげつなッ!いや、あの宙の火球をどうにかするなら壊せなくもないけどよ」

 

「私は無理だなー。炎の雨を長時間防ぐ自信がないや。避けながら動くのが無難だね」

 

「私は出来るよ?」

 

「アイズは風だから当然だよ」

 

「はい、羨ましい魔法です」

 

「だが、アレをまだ増やせるというならば至難の業だな。いや、できるだろう。対抗するにも火精霊の護布(サラマンダー・ウール)や魔法の障壁・・・・・更には魔道具(マジックアイテム)も必要だろう」

 

「それは相手が魔導士で後衛だったらの話であろう?あ奴は完全に前衛で『魔法剣士』と異なる完全なる個。いや、それ以前に『個』自体が異常(イレギュラー)であるか」

 

「「確かに・・・・・」」

 

「彼を参考にしようとする考え自体が間違っていますね」

 

「しかもまだ本気すら出していないのだから」

 

「どれだけ強いのだ。そして、どんな世界で生まれ育ったんだあいつはと思わずにはいられないな」

 

「「「「・・・・・」」」」

 

「アルガナお姉様たちが凄く戦いたがってる」

 

「今にも飛び出して戦いに交じりたがってるね」

 

「旦那様、凄いわー」

 

「うん、それに楽しそう」

 

「はい」

 

18階層の治療院で活動しているアミッド、ナァーザ、ダフネとカサンドラ以外のメンバーが集い一誠と【アストレア・ファミリア】の戦いを観戦しつつ分析していた。しかしながら、根本的に違いがあるのでフィリアの言う通り参考は出来ない故、観戦という形で戦っている姿を眺めていたところ・・・・・不意に一誠が動きを停め宙の火球をも消した。

 

「ん?終わったか?」

 

「違う・・・誰かが連絡してきたみたい」

 

「誰だろうと不思議ではない」

 

腕輪に向かって口唇を動かす一誠を見つめてれば、観客席のとこにいる一同に振り返る一誠が言う。

 

「ヴァベルーからだ。客を連れてくるから会ってくれってさ」

 

「お客さん?一体誰?」

 

「さぁ、俺にも分からん。教えてくれなかったし」

 

トレーニングルームにいる一同は揃って不思議に思ったり首を傾げたりする。商業系【ファミリア】故、相手は商人なんじゃないかという予想や想像が浮上するも、兎にも角にも会って見なければわからない。そして、引き合わせようとするヴァベルーの意図も判らないまま数時間が過ぎ、オラリオは常闇に支配され魔石製の街灯で暗闇を引き裂くように街中の大通りを照らす時刻。

 

「・・・・・何もない空間から森?」

 

「私も初めて入りますので実に楽しみですよ」

 

「一体オラリオにどんな変化が起きているのか」

 

護衛に二人の眷族を引きつれ、ヴァベルーはオラリオに連れて来た客人達と一緒に開いた扉の奥から窺える一誠の庭園の中に足を動かして進む。

 

「ダンジョン産の水晶で淡くも光で道標を作っている他、至る所にも木々を照らしている。幻想的な印象を抱かせますね」

 

「本当にオラリオの中なのかと疑うほどの植物だらけだな」

 

「外の喧騒が聞こえなくなっている。この中は不気味なほど静寂だが、嫌いではないな」

 

長い光の道標に導かれながら歩み続けた先にはダンジョン産の植物が群生している庭へ辿り着き、愕然とする。

 

「ダンジョンの植物を地上に持ち出して育てているだと?かつて俺達でも考えもしなかったことをしている奴がいるとはな」

 

「ほうほう、これは凄く興味深いです。あの方はこうして定期的に利益を稼いでいたとは・・・・・勉強になりますよ」

 

「一体どんな【ファミリア】の冒険者か・・・・・」

 

湖の近くまで近づく一行に湖の中から浮かんでくるように真紅の長髪の男が現れた。驚くヴァベルー達に水の上を歩いているように見せながら朗らかに話しかけた。

 

「ヴァベルー、久しぶり。その二人が客人?」

 

「お久しぶりでございます。ええ、そうですとも。そして今、水の上を歩きませんでした?」

 

「そう見えて実際は透明の足場の上に歩いていただけだ。俺の後ろについて来れば湖に落ちないから」

 

「そういうことでしたか。では、案内をお願いします」

 

踵を返して湖の中心に戻る一誠の後を追うヴァベルー。呆気に取られた客人達と眷族達は我に返って追従する。全員が中心に佇むと見えない足場が降下する。周囲は水で囲まれ白亜の神殿がある場所まで降りていく。

 

「何だこれは、一体どうなっている?」

 

「一言で言えば魔法だよ」

 

「・・・・・こんな魔法は聞いたことが無い。お前は冒険者なのか?」

 

「酒場の店主も兼ねて冒険者活動もしてるなー」

 

「「・・・・・」」

 

何だこいつは、という気持ちが一致した客人。ニコニコと笑むヴァベルーは庭園についてあれやこれやと訊きだし始める。商魂魂に火が付いた様子だ。そして神殿がある水底に到着、真紅の長髪の男について行く形で神殿の中に展開している魔方陣の中に足を踏み込めば視界が一瞬で真っ白に染まり、次いでオラリオを一望できるバベルの塔の次に高い断崖絶壁の石造りの通路の上に立っていたことに気付く。

 

「・・・・・理解に苦しむ」

 

「ああ・・・・・私も同感だ」

 

驚くのも疲れてきたとばかり呟く客人達。そしてさり気無くヴァベルーと朗らかに話し合う男を品定めする視線で視界に入れる。

 

「4、いや・・・・・5か」

 

「妥当だろうな」

 

何か勝手に勘違いされてるーと内心苦い気持ちを抱く男は白亜の城の前に鎮座している黄金の大鐘楼の横を通り過ぎ、城の門の片方だけ押し開いて客人達を招く。

 

「あ、靴脱いでから上がってくれ」

 

「「・・・・・」」

 

やはり、おかしいと思わずにはいられなかった客人達だった。それでも言うとおりに裸足になってから城の中を進むと、途中に扉がない部屋の空間に入るとどんな客人なのか興味がある城の同居人や同棲、居候の住民達がヴァベルー達を出迎えた。

 

「「!?」」

 

「「っ!?」」

 

目を見開くか丸くした者がそれぞれ女神と眷族だった。それもほんの一部―――リヴェリア、オッタル、椿、フレイヤ、ヘファイストス、アストレア。

 

「まさか・・・・・」

 

「お前は・・・・・」

 

うん?知り合い?と自然と交互に二人の客人とリヴェリア達を見る何も知らない一同。二人の客人達は意外そうに口を開く。

 

「こんなところで知った顔の奴と会えるとは思いもしなかったな」

 

「そうだな。そして数年前から変わっていないようだ」

 

「・・・・・知り合いっぽいけど、誰なんだ?冒険者みたいだけどリリア、オッタル」

 

男―――一誠の問いにリヴェリアは重々し気に口を開く。

 

「・・・・・男は【暴食】のザルド・・・・・。女の方は【静寂】のアルフィア。アルフィアは神時代以降、眷族の中で最も『才能』に愛された女・・・・・『才能の権化』にして、『災禍の』怪物・・・・・。【静寂】のアルフィアとザルドはかつて【ゼウス・ファミリア】と【ヘラ・ファミリア】の眷族でLv.7の冒険者だった」

 

『っ―――!?』

 

【ゼウス・ファミリア】、【ヘラ・ファミリア】・・・・・。【ロキ・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】が都市最強派閥と名乗る前に存在していたという三大冒険者依頼(クエスト)の最後の一体、『黒竜』に敗れて都市から去った最強の二大派閥の冒険者。客人達の正体の事実に一誠達は吃驚して目を見開いた。

 

「ヴァベルー、知ってて敢えて言わなかったな?驚かすつもりで」

 

「ふふ、ええ、その通りです」

 

傑物を連れてくるとは誰も予想だにしなかったことだった。顔に複数の傷がある黒い鎧で身に包む大男、灰色の長い髪に身に纏う漆黒のドレスの妙齢の女性・・・・・。彼の二人がゼウスとヘラの眷族だった最強の冒険者―――。

 

「質問いい?主神は天界に送還されてる?」

 

「いや、まだ送還されていない」

 

「この身にまだ【ステイタス】は封印されていないことが証明している」

 

「そっか、じゃあどこかにいるんだな。会って見たいなー」

 

あんな主神を会って見たい等と言う酔狂な者が目の前にいた。

 

「取り敢えず立ちっぱなしもなんだし何か食べる?何が食べたい?作るぞ」

 

「肉を所望する」

 

「何でもいい」

 

「タダで食べられるとは嬉しいですね。私達にはチーズハンバーグをお願いします」

 

「ハンバーグか。んじゃ、ザルドもそれにするとして、何でもいいというアルフィアは肉を使わない豆腐ステーキにするか」

 

ハンバーグ?豆腐ステーキ?

 

「・・・・・聞いたこともない名だ。それは肉料理なのか?」

 

「ハンバーグは豚の肉を挽いたもので狐色になるまで炒めた玉ねぎ、つなぎに卵とパン粉を一緒に混ぜながら楕円形に形を整えながら空気を抜いてそれからじっくりと焼いたり煮込んだりする。豆腐ステーキ、豆腐の方は大豆、豆を原料にして作られる。大豆の搾り汁(豆乳)を凝固剤(にがり、その他)によって固めた加工食品で―――」

 

料理の準備をしながら説明口調で語り続ける一誠。凄く興味深いと耳を傾けるザルドを見るリヴェリアとオッタルからすればとても珍しい光景だった。

 

「私達は座りましょうか」

 

「・・・・・」

 

「ああ」

 

遠慮なく背凭れがある椅子に座り込むヴァベルー達。が、ザルドは一誠がいる厨房へと足を運び邪魔にならない位置で調理中の一誠の様子を観察する目で見つめる。

 

「・・・・・?」

 

「俺の事は気にするな」

 

「オッタルみたいな大男が傍に居られると気にするんだけど?それとも手伝ってくれるわけ?」

 

「ハンバーグとやらの作り方を教えてくれればしてやろう。俺は料理も作れるから邪魔にはならんぞ」

 

と、そんな風には見えない男の提案に半信半疑だが、突っ立っていられるよりはいいと一緒に調理をしてもらうことにした。

 

「「・・・・・」」

 

奇妙なことになっている目の前の光景にリヴェリアとオッタルは何とも言えず、神妙な面持ちで見ていることしかできなかった。

 

「マジで手慣れてるし」

 

「これくらいは造作もない」

 

「店に雇いたい人材だなー」

 

「酒場の店主だったな。冒険者が今時店を構えるとは珍しい事だ。俺がまだオラリオにいた頃はそんな冒険者はいなかったというのに」

 

「俺の料理を集りに来る神々が毎度言ってくるからな」

 

「それほどお前の料理は美味いのか、期待できるな」

 

「その時、一番食べるのはオッタルです」

 

「はっ!糞ガキがか。だが、俺の二つ名の【暴食】を体現するほどの胃袋を持っているぞ。糞ガキ程度に負けはせん」

 

「オッタルを糞ガキ扱いする人初めて見たわー。昔のオッタルってどんな感じだった?」

 

和んでいる。いや、お互い初対面の筈なのに会話を弾ませ笑いながら料理を作っている。

 

「オッタル、どう思う」

 

「・・・・・わからん」

 

だろうな。私もわからん。いや、一つ言えることがあるなとリヴェリアは思った。

 

「イッセーだから、か」

 

「・・・・・」

 

オッタルも肯定する雰囲気を発し、楕円形に整えた肉の塊を熱したフライパンに投入した際に鳴る焼く音が耳朶に刺激させた。

 

 

「―――美味い!」

 

完成したチーズハンバーグと豆腐ステーキを食すヴァベルー達。ザルトが一口食べた瞬間に吼えた。

 

「こんな肉料理がこの世に他にもあったとは知らなかった。割ったハンバーグの断面から溢れる肉汁は食欲をそそる香ばしい香りをも発し、熱で蕩けた四種のチーズの味がハンバーグの味とよく合っている」

 

「この豆腐とやら、これが豆で作られたモノとは思えない美味しいさだな」

 

「美味しいですなぁ」

 

「美味しく食べてくれるのは嬉しい。けど、ザルドさんや。一口で丸ごと食べないでくれ。あっという間に減ってる減ってる」

 

ザルドの前だけ山盛りに載せられたチーズハンバーグが本当にあっという間に、残り片手で数えるぐらいしか食べ尽くす勢いで胃の中に収めていくのを一誠はあっけらかんとした。

 

「む、もうなくなりそうか。では、名残惜しむことのないようゆっくり咀嚼するとしよう。ライスの大盛りのお代わりを頼む」

 

今度はゆっくりと味を噛み締めて堪能するザルドが食べ終えるまで、リヴェリアが呼んだようで、ロキとフィンにガレスが城の中に入ってきてザルドとアルフィアを見て信じられなさそうに目を丸くした。

 

「馳走になった。実に美味だったぞ」

 

「本当にな。炊いといた米も神楽以外食べ尽くすとは思わなかった」

 

「神楽?」

 

山盛りのごはんに卵と醤油を掛けて食べてる女性に指差す。

 

「うちで一、二番を争う大食い」

 

「そうか。・・・・・お前達も来たか。久しいな勇者のガキに老けたドワーフ、酔いどれ女神」

 

「話に聞いたとおり本当にいるとはね。また再びこの地を踏みくるなんて驚いたよ」

 

「久しぶりじゃのザルド」

 

「自分ら、何をしにここに戻ってきたんや?」

 

ロキの問いにザルドは言い返す。

 

「ヴァベルーの口車に乗っただけだ。ここに来ればいい未来を見せてくれると言うからな。それと異世界から来た人間と言うやつも会いに来た」

 

十中八九、一誠イッセーのことか、と悟る。

 

「いい未来って何だ?」

 

「さぁな。俺達にもわからん。だが、異世界の人間が『氷河の領域』まで進んだ話の真意は知りたいところだ」

 

「ヴァベルー、どんな話をして連れてきたんだよ?」

 

「この二人に好奇心を待たせる話を少々。イッセー殿が召喚したモンスターのことも」

 

「おい」

 

こいつか?ザルドの意識と視線が一誠に向いた。

 

「お前が異世界の人間だったのか」

 

「他にも数人この場にいるけどな」

 

「異世界とは何なのだ?」

 

「この世界と違う世界、あるいは同じ世界だけど違いがある別の世界。俺は、この世界に存在する同じ名前の神々が存在する世界からやって来たんだ」

 

訳が解らないと理解に苦しむザルド。まだ解り切っていない様子に噛み砕いて言う。

 

「オラリオと冒険者がいない世界から来た、と言えば何となくでも解ってくれるか」

 

「オラリオと冒険者がいない世界?神がいるというにか」

 

「モンスターと魔法と剣は存在してるよ。だから、俺が操る魔法はこの世界の魔法と大きく異なる」

 

属性の魔法を詠唱も名前も口に出さず、発現して形を竜に変えたり、鳥に変えたり、獣にも変えて見せる。ザルドとアルフィアは信じられないといった表情を浮かべる。リヴェリア達は自分達もそうだったと懐かしげに遠い目をした。

 

「理解してくれた?」

 

「証明した以上は受け止めるしかない。だが、異世界の魔法はその程度なのか?」

 

「他にも色々とあるぞ。それを教えるのは時間が掛かるけどな」

 

「お前が深層、俺とアルフィア・・・・・ゼウスとヘラの【ファミリア】しか踏破していない59階層を踏破できるというならレベルは5、もしくは6か7か?」

 

「3だ」

 

何てことの無さげに現在のレベルを述べる一誠。ザルドとアルフィアの耳に届いた数字に疑う。

 

「冗談だろ」

 

「いや本当だ。デタラメを言ってないぞ」

 

「・・・・・糞ガキか勇者の【ファミリア】の遠征、いや、そもそもお前はどこの【ファミリア】だ?」

 

「九、八年前は【ロキ・ファミリア】、七年前は【ヘファイストス・ファミリア】。六年前は【ガネーシャ・ファミリア】。去年は【フレイヤ・ファミリア】だったけど、今は無所属ですがなにか」

 

ザルドは米神を摘まみ何かに耐えるよう瞑目し、アルフィアはヴァベルーに顔を向ける。

 

「このような雑音が私達にとっていい未来になるとは思えんな」

 

「決してそんなことはございませんよ。今後も彼と交流すれば必ずや納得してくれると、賭けてもいいですよ」

 

「一年ごと【ファミリア】を鞍替えし続ける精神に理解が苦しませるこいつが俺達を納得させるか・・・・・」

 

そこまで一誠を買うヴァベルーの心情は神ゆえ解らないが、信用しているようだった。ならば、他の者はどうなのだと目をリヴェリア達に向けた。

 

「糞ガキ、こいつはお前にとってなんだ」

 

「いつか必ず倒すフレイヤ様がお見初めた男だ」

 

「倒す?まさか、上級冒険者相手にお前が勝てないでいるのか?」

 

「見た目で判断していると、足元を掬われるぞザルド。こいつはこの世界のありとあらゆる常識や概念など通用しないイレギュラーを体現している」

 

真っ直ぐ思っていることを語るオッタルの言葉に耳を傾けるザルドにフィン達も加わってきた。

 

「今持っている物差しで測るべきではないよ。この世界で得られる強さとは異なって、彼が住んでいた異世界で得た力はオッタルも言ってた通り僕達の常識を凌駕する」

 

「おう、こやつの事を知りたいのなら話で聞くより行動で示させた方が手っ取り早いぞザルド、アルフィアよ」

 

「この場に居る全員はこの者の言動で深い信用と信頼を寄せている。そして心優しさと強さもだ」

 

今は無所属の冒険者だが、そこまで信用と信頼されている男を気になるようになったザルドは腰を上げた。

 

「イッセーと言ったな。異世界特有の力を見せてもらおうか」

 

「それはいいけど、ザルド質問いい?初めて出会った時からすんごい毒の気配を感じるんだけど、まさか毒に侵されてる?それも毒妖蛆(ポイズン・ウェルミス)の毒の方が可愛いぐらいの」

 

驚くザルドとやはり気付いていたかというフィン達の神妙な表情が浮かぶ。

 

「やはり、癒えておらんかったかザルドよ。ならばおぬしもそうじゃなアルフィア」

 

「癒えてないおらんかった?どういうことだ?」

 

「イッセー、君は知らないから教える必要があるね。ザルドは三大冒険者依頼(クエスト)の『ベヒーモス』を討伐する際、陸の王者(ベヒーモス)の肉を食らった。しかも全てを蝕み、全てを溶かし、全てを殺す古の怪物の毒肉をだ」

 

ガレスに続き、フィンとリヴェリアも補足を加えながら紡ぐように語る。

 

「ザルドは修羅と化し一撃で敵を倒した立役者になったが見返りがあまりにも大きかった。喰らって取り込んだ陸の王者(ベヒーモス)の肉は呪いのごとくザルドを体内から腐らせるようになり、男の身体を蝕むようになった」

 

「そしてアルフィアは生まれた時から『不治の病』を患っている。恩恵を得ても改善は出来ず、むしろとある悪種(スキル)として発現してしまったらしい。魔法や道具(アイテム)を使っても決して癒えることはなかった」

 

二人のことを知らない殆どの者達は息を呑み、場が緊張しているかのように張り詰めた。そんな状態で今まで生きていたとは逆に信じられず、今度は一誠達の方が愕然した。特に一誠が一番驚愕していた。昔、神の毒を何度も食らった経験があるので他人事ではないのだ。

 

「アホかっ!そんなえげつない毒に侵された状態で戦おうだなんて大馬鹿野郎だな!?頭の中まで毒で侵されているのかお前!」

 

「お、大馬鹿・・・・・」

 

「アミッド、ナァーザ!直ぐにこの大馬鹿の毒の解毒剤を準備するぞ!最悪、アクアの力で試す!」

 

「「は、はいっ!」」

 

「大馬鹿野郎も来い!ベヒーモスの毒のサンプルが必要なんだからな!」

 

有無を言わさず、問答無用でザルドの鎧を掴み力尽くで引きずり出す。怒った顔の一誠の鬼気迫る勢いに圧され無抵抗のまま連れ出されるザルドと部屋を後にする三人を呆気に取られる一同は。

 

「あのザルドを大馬鹿野郎と言ったのは、ゼウスとヘラの派閥(ファミリア)以外でイッセーが初めてだろうね」

 

「奴も流石に気圧されておったぞ」

 

「私達もそうだがな」

 

「・・・・・あれが、そうだというのか」

 

アルフィアが今窺わせた一誠の言動にお前達が信用と信頼させたものなのかと言外すると、フィン達は揃って頷いた。

 

「えっと、多分ですけどアルフィアさんの不治の病もイッセーが治すかもしれませんよ?」

 

「何を馬鹿なことを言う。同じ腹から生まれた妹さえ殺した忌々しい死の病だ。決して癒えることはない」

 

「イッセーは異世界から来た異邦人です。異世界特有の方法で治すことが出来ると思います」

 

「世迷言を・・・・・」

 

と吐き捨てるアルフィアに真摯な眼差しを向けるリヴェリア。

 

「世迷言はどうか、お前の目で確かめるがいい。奴は死者をも蘇らすこともできる」

 

「―――――」

 

「お前の妹も、頼めば蘇らすこともできるだろう」

 

ザルドが一誠の手によってどこかへ連れ出されてから十数分が経過した頃だった。何となく皆で待っていると一誠達が戻ってきた。

 

「どうだ?」

 

「ベヒーモスの毒のサンプルを採取して今まで作った回復薬(ポーション)を俺の能力で強化したので試したら、その内の一つが少しだけど効果があって成功した。これからも定期的に時間を掛けて飲んでもらえば、いずれ解毒できて完治するだろう」

 

「・・・・・ザルド」

 

「ああ、本当だ。俺も驚いている。お前と同じで魔法や道具(アイテム)を使っても決して癒えることがなかったというのに。八年前のオラリオより随分小粒が揃っているようだ」

 

「ということで次はアルフィアな。スキルに発現するほどだから・・・・・そのスキルをどうにかした上ですればいいか?」

 

何を言い出すのだこの男は・・・・・と、怪しい者を見る目で見ていれば一誠の背後の空間から数多の鎖が生えるように出てきた。アルフィアは閉じていた目を右目が翡翠、左目が髪と同じ灰色の瞳が開いた。

 

「なんだ、それは」

 

「相手の能力を封印する能力だ。―――神の恩恵、【ステイタス】も封印できるぞ?」

 

意思を持っているかのように鎖が動き出してアルフィアに迫る。そして―――。

 

「あ、避けんな!ていうか、地味に初めて避けられたし!」

 

「そんな眉唾な能力に信用できるか」

 

「んだったら強引でもさせてもらうぞ」

 

双眸を妖しく煌めかせた途端、時が停まったかのようにアルフィアの身体が停止した。アルフィアは意識までも停止されているようでピクリとも動かなくなった。ザルドは訊く。

 

「・・・・・アルフィアに何をした?」

 

「今のは対象の時を停める能力を使った。俺が解除しない限りは石化したように動かないぞ」

 

「あのヘラの眷族でさえ逆らえない能力・・・・・自分、チート過ぎるやろ!?」

 

「だから極力よほどでもない限り使わないようにしてんだよ。戦闘に使ったらあっけなく勝ってしまうからつまらないし」

 

逆に言えば使えば楽に第一級冒険者を圧倒して勝つことが出来る。誰にも抗えない無慈悲な能力の強さを見せつけられた一同は改めて一誠の実力を思い知った。

 

「さて今の内に済ませておくか」

 

そう言って鎖をアルフィアの体に巻き付け、体の内に沈み込ませた。だが、全てではなく彼女の体内に伸びて沈んだ鎖を掴み思いっきり引っ張ると、雁字搦めで縛られた光が華奢な体から抜けて出てきた。それからアルフィアの時を停めていた能力を解除して意識を戻す。

 

「一瞬、意識がなくした感覚を感じた・・・・・私に何をした」

 

「時を停めた」

 

「・・・・・それで、私の不治の病を治したのか」

 

「いや、これを飲め。俺が作った幻黎の雫って言う回復薬(ポーション)だ。損傷した体を復元するし不治の病をも治す特効薬。効果は抜群だぞ」

 

どこからともなく取り出した回復薬(ポーション)をアルフィアに手渡す。

 

「今更、回復薬(これ)を飲んで治るとは限らんと思うがな」

 

「そいつは何時の話をしているんだ?もう今は昔の時代じゃないんだ。時が進み未来まで時代が変わるにつれ人は進歩するもんだ。人間は日々を積み重ねて成長していくもんだぞ」

 

「・・・・・それは『黒竜』を打ち滅ぼすことが出来る者もいずれ現れるという意味か」

 

「いつそうなるか分からないけど、いずれは現れるだろうさ。人間は失敗を糧に成長して進化する生き物。そう思わないか英雄?」

 

手の中にある回復薬(ポーション)を見下ろすアルフィアに一誠は言う。

 

「そういうわけで飲め。それでもダメだったら他の方法でする」

 

「他にもあるのか」

 

「嘘は言わん」

 

飲め、と目で訴える一誠に仕方がないと風に折れたアルフィアは幻黎の雫を飲み始める。全て飲み干したアルフィアは自身しか感じられない感覚を感じ取った。

 

「どうだ、アルフィア」

 

「・・・・・にわかに信じ難い。が、確かに死の病が消えた事だけは確かだ。・・・・・本当に信じられない」

 

長年の痛苦からの開放感。死ぬまで決して癒えることはないだろうと悟っていた考えを覆す、信じられない出来事だっただろう。してやったりとヴァベルーは二人に訊ねた。

 

「どうです?お二人にとって良い未来を迎えたでしょう」

 

「最初は何を言っているんだこの神は、と思っていたがそれが本当になるとはな」

 

「神は全員が全員、胡散臭い連中ばかりだからな。まともな神格者なんて一握りしかいないだろう」

 

「それについては俺も深く同意見だ。因みにゼウスとヘラってどんな神だった?」

 

二人はそれに答えた。

 

「どうしようもない主神だったぞ。サポーターのヒューマンと女湯を覗きに行くわ、他派閥の女冒険者にセクハラするわ、訳の分からんこともする変態爺だった」

 

「ヘラは気性が激しい姑のような奴だったよ。何度も私の胸に手を突っ込もうとした狒々爺の好々爺を魔法で迎撃した後はチクって折檻させたことか。・・・・・何故聞いて落ち込みだす」

 

暗い表情で肩を落とす一誠。

 

「俺の知っているゼウスのお爺ちゃんじゃない・・・・・」

 

「何を言っているんだお前は」

 

「彼が産まれた世界には同名の神々が存在していることを教えたよね」

 

フィンが助け舟を出して説明を買って出た。

 

「この世界と異世界の同名のゼウスと違ってイッセーは残念がっているだけなんだ」

 

「ほう?では、異世界のゼウスはどんな神なのか教えてもらおうか?」

 

「―――全知全能の神。天空を支配する天空神で、人類と神々双方の秩序を守護・支配する神々の王だってさ。それでこっちの世界のゼウスはこんな感じ」

 

変身の魔法で筋骨隆々の老神の姿になってみせた一誠に、異世界の神を見せてもらったことあるアスナと海童以外の面々は驚嘆と感嘆の念を抱く。そんな異世界のゼウスの姿を見てザルドは一言。

 

「異世界のゼウスの眷族になりたかったな・・・・・」

 

「私も聞こうか。異世界のヘラは?」

 

「んと、ゼウスのお爺ちゃんの姉であって、妻だよ。ヘラって意味はさ、とある国の古い古典で『貴婦人、女主人』なんだってさ。ゼウスのお爺ちゃんと同じオリュンポス十二神の一人で、神々の女王とも言われて嫉妬深い性格であり、ゼウスのお爺ちゃんの浮気相手やその間の子供に苛烈な罰を科しては様々な悲劇を引き起こした。夫婦仲も良いとは言えず、ゼウスのお爺ちゃんとよくケンカしているって」

 

さらっとこの世界のゼウスとヘラの関係が似ている部分を言う一誠に神々は興味を抱いた。

 

「異世界のゼウスとヘラは夫婦関係やったとはなぁ・・・・・こっちじゃあ夫婦漫才をしとったけど、あながちお似合いだったんちゃうん?」

 

「ヘラに殺されるわよロキ?」

 

「というか、天界で十二神を決めた事をどうしてイッセーが知っているのか最初は不思議だったけれど。異世界も同じなら知っていてもおかしくないわね?」

 

「ヘファイストスもそうだよな。それとヘスティア、いやディオニュソスに十二神の席を譲っているならヘスティアは違うな。あとアポロンとアレスにデメテルとアルテミス、ヘルメスにポセイドン、アテネやアプロディーテー・・・アフロディーテか?」

 

「良く知っているわね。感心するわ。彼女の名前はアプロディーテで間違いないわよ」

 

元の世界じゃあ常識だから。実在しているし、と当然のように言う一誠の口から出た神々の名前にアスナと海童は知識量の差は凄く開いているなーと実感した。元の姿に戻る一誠にまた訊く。

 

「異世界とやらにも神々がいることは分かった。ならば問おう。お前の世界の最強は誰だ?」

 

「ドラゴン」

 

「・・・・・黒竜か?」

 

「黒竜もいるけど、世界最強は真紅の身体のドラゴンだよ。夢幻を司るドラゴンで最強のドラゴンを負かすほど強いよ」

 

誇らしげに語る一誠は微笑みを浮かべた。

 

「襲われないのか?」

 

「天界のような人類が住んでいる世界とは異なる世界にしか生息していないからな。殆んど人間界にはモンスターは存在しないんだ。魔獣っていうモンスターや人類の敵みたいな異形の存在はいるけどな。まぁ、力ある人間が対処できるから最悪な状況にはなってないし至って平穏だぞ人間界は」

 

「神々がいるのに冒険者がいないのにか。どうやって強くなっているのだ?」

 

「冒険者と変わらないかな?体一つで自己の鍛錬、武装、魔法、技と駆け引きをして強くなっている。そして、人類に神の恩恵みたいな摩訶不思議な能力も与えられているから、それを覚醒できれば冒険者にも劣らない強さを得られるし」

 

つまり、一誠の世界にはその身一つで摩訶不思議な能力を授かり得ていたとしても、『神の恩恵(ファルナ)』をなど授からずに強者に至ることが当たり前のようにできるということなのか。

 

「「・・・・・」」

 

何という世界。自分達の力のみで、英雄に至るまで強くなれるのか。ザルドとアルフィアは、かつて『黒竜』に敗北したあの時の光景を脳裏に過らせ、自分達とは異なる強さを持っている一誠が今、その強さを得ているならあるいは・・・・・。

 

「お前に興味が沸いた。やはり、俺と勝負してもらおうか。アルフィア、お前はどうする?」

 

「異世界で得た強さを私にも証明してもらう」

 

何故か戦う気になりだすザルドとアルフィア。しかし一誠は否定した。

 

「ザルドはまだ毒が残っているから駄目だ。アルフィアも病み上がりで本調子じゃないだろ。大人しく今日はもう寝ろ」

 

半ば強引に用意した個室にそれぞれ二人を押し込んでその日は就寝した。ヴァベルーは眷族と一緒にホームへと帰路についた。

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