ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか   作:ダーク・シリウス

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冒険譚59

ゼウスとヘラの眷族のザルドとアルフィアがそれぞれの部屋のベッドの上で目を覚まし、昨日の出来事を思い返して起床する。

 

 

 

「はい、これ」

 

朝食後、携帯用の銀色のプレートを二枚持っている一誠から手渡される。何だこれはと奇妙な気持ちを抱きながら受け取ると説明を受ける。

 

「それは『ステータスプレート』といって、これに血を垂らせば疑似的な【神の恩恵(ファルナ)】の効果を発揮してな。それを持って冒険者活動をすれば、自動的に【ステイタス】の更新がして、これがある限り無所属(フリー)でも活動できるぞ」

 

「なんだ、その道具(アイテム)は。神々の存在を危うくさせるような物を作ってギルドは何も言わないのか」

 

「教えていないし。ま、言おうが言うまいが無所属派閥(フリー・ファミリア)の結成は正式にギルドからも許可を貰ってるから問題はない。因みにここにいる大半はそれ持っているから」

 

信じられない道具(アイテム)を作り出していた一誠をかつてゼウスとヘラの【ファミリア】が健在だった頃と比較し・・・・・。

 

「ヘラが知ったら、怒り狂うだろうな」

 

「ああ、うん。絶対そうだろう」

 

「そう?まぁ、今いない神のことなんてどうでもいいとしてだ。二人は今日どう過ごすつもりだ?」

 

「逆に聞くが。お前の今日の予定は?」

 

俺は―――と質問に答えようとした一誠の口が開きかけた時、巌のような巨躯を誇る大男と銀髪の美の女神が近寄ってきた。

 

「イッセー、お話良いかしら?」

 

「なに?」

 

「空の世界、何時行くのか知りたいのだけれど」

 

「あー、そうだな。店が休みの日、アウギュステの海でのんびりとビーチでも楽しむか。もう夏だしな」

 

「確かに、あの島の海はとても綺麗だったわね。楽しみにしているわ」

 

質問の答えに満足したフレイヤは微笑を浮かべ踵を返して三人から遠ざかった。一瞬だけザルドに視線を送るオッタルも主神の背中を追いかけるようにして歩き去っていく。

 

「空の世界?どこだそれは」

 

「遥か空の最果てに空に浮かぶ島々に住んでいる人類やモンスターが存在しているんだよ。そこが空の世界だ」

 

「どうやって空に行く。魔道具(マジックアイテム)か」

 

「そんなところ。ま、楽しみにしててくれ。で、プレートに血を垂らしてみ」

 

針を渡す一誠から促され、指の腹に刺して一滴の血をプレートにつけると。二人の【ステイタス】がプレートにも浮かび上がり、【異龍の恩恵】を得た。

 

「本当に俺達の【ステイタス】が出来上がった」

 

「どうやってこれを作り上げたのだ?」

 

神血(イコル)を素材に試行錯誤して製作した」

 

なんて罰当たりなことをするような冒険者だ、と思う半面納得する部分はあった。

 

「神も『神の恩恵(ファルナ)』を人類に授ける際は神血(イコル)でするから、それの応用とならば納得できるな」

 

「・・・・・こいつが15年前いたらゼウスとヘラが黙っちゃいなかっただろう」

 

もしもそうなったらどうなるのか想像もできないザルド。

 

「・・・・・15年前とは言わず、8年前にオラリオにいたら私も『黒竜』の討伐ができ、妹が同じ不治の病で死ぬこともなかっただろうな」

 

アルフィアの思いを汲んで一誠は苦笑する。

 

「俺が『黒竜』を討伐してたかもしれないなー」

 

「見たことも対峙したこともない者が何を言うか」

 

「だったら、実際はどうだった?どう感じたその黒竜を見てさ」

 

その問いに二人は不自然に静まり返り口を重々し気に開いた。

 

「あれは、絶望だ」

 

「ゼウスとヘラの【ファミリア】の主力の冒険者が殆んど全滅。当時Lv.8の【ゼウス・ファミリア】の団長(マキシマム)も【ヘラ・ファミリア】のあいつも戦って死んだ。あれを倒すのは神に縋るこの時代の、神工の英雄ではダメだと実感した。何より俺達が証明してしまったのだからな」

 

神々をも認めさせる実力を有し、自負に満ち溢れた強者が、そんな彼等彼女等を遥かに上回る強さを、嘲笑うかのように蹂躙した『黒竜』がいともたやすく薙ぎ払った。かつて味わったことのない『蹂躙』を、実際に対峙した者だけが知る痛哭。目の前で仲間が蹂躙される様を見せつけられた二人の中で思い知ったんだろう。

 

「二人がそれほどの絶望を実感したなら、未来に懸けるしかないだろうな」

 

「未来だと・・・・・?」

 

「まだ二人の派閥が健在だった頃。今ほど、第一級冒険者はいたかどうかわからないけどさ。『黒竜』を倒す英雄が、未来の時代に現れることを信じて願うか待つしかできないだろ?」

 

「その間、再び『黒竜』が襲ってこないとは限らないぞ」

 

「神でもその予想はできないことを断言できる訳がない。その通りオラリオに襲ってきたらその時はその時だ。二人が倒せない、無理だ―って相手にオッタル達が戦ってもダメだったら諦めるしかないだろ」

 

他人事のように言い放つ一誠を反論や異論も言わず、ザルドとアルフィアもそれは仕方ないと同調するように沈黙で肯定した。

 

「でもま、俺がいる間に襲ってきたら戦ってみたいな」

 

「異世界から来た者でも敵わないだろうよ」

 

「勝てないにしても負けるつもりはないぞ」

 

「その自信は一体何なのだ」

 

「世界中を旅して様々な神々からの修行をしたり、色んな怪物やドラゴンと戦った日々を過ごしたから」

 

・・・・・こいつはどんな人生を過ごしてきたんだ?二人の気持ちが一致した瞬間だった。

 

「それは何時からして来たんだ?」

 

「えっと、5、6歳の頃から」

 

「・・・・・異世界の人間は幼い頃から鍛えて強くなっているのか?」

 

「や、そんなことしているのは多分一握りの奴だけだから」

 

誤解されそうになりかけ訂正するが、その一人握の者がいる為にあながち間違ってはいないので正解でもあった。

 

「にしても、お前の家に複数の主神とその派閥の眷族が一緒に住んでいるのはどういうことだ。私達の時と比べて明らかにおかしな状況だ」

 

「あー、ヘファイストスの場合は彼女の派閥の団長、単眼の巨師(キュクロプス)が俺の異世界風の鍛冶のやり方に興味を持ったからだな。その時の俺は【ヘファイストス・ファミリア】の眷族になってたから」

 

「糞ガキの主神は?」

 

「転生者って連中にホームを破壊され尽くされて、ホームの修繕が終わるまで俺の家に居候してたんだけどそのまま住みつかれた。【アストレア・ファミリア】は・・・・・あの女神が俺に恩義を感じて恩を返すために【ファミリア】を巻き込む形で城に住むようになった」

 

「あの年増のエルフは?」

 

「リリア?いや、リヴェリアのことか?彼女は金髪金眼の少女が俺と一緒に住みたいと言い出したからさ、保護者として一緒に住むことになった。ロキ公認でよ」

 

今思えば随分と住みつかれたなーと、ため息を吐く一誠を何とも言えない感じで見つめるザルドとアルフィア。

 

「・・・・・お前は誰かに好かれやすい体質なのか?」

 

「否定はしない。実際、そんなスキルも発現しているから否定も出来ない」

 

「お前の言動でそうさせているのか・・・・・不思議な奴だ」

 

「異常な奴だーってよーく言われているけどな」

 

もはや言われ慣れた己の体で名を表す『異常』。苦笑いする男に堂々とした挑戦の声が飛んできた。

 

「さぁイッセー!今日も私と爆裂魔法の勝負をしようではありませんか!」

 

「だーかーらー、【ステイタス】が変わってないまま勝負しても意味がないって言ってるだろうが!モンスターを倒してこいっての!」

 

「今回は破壊ではなくカズマに審査をして勝負をする事にしましたので問題ないのです!」

 

二つのボタンを目のように縫い付けた黒いとんがり帽子をかぶり、黒いローブを身につける黒髪ショートに赤い瞳を持つ少女が登場する。二人の会話を聞けば魔法の勝負をしようとしているらしいのだが。

 

「誰だ?」

 

「あー・・・・・名前はめぐみん。こいつは俺が産まれた世界とはまた別の世界からこの世界に摩訶不思議な現象で来てしまった異世界の魔法使い、ウィザード、魔導士だ」

 

「異世界とやらは一つだけではなかったのか?」

 

「一つだけだと言った覚えはないぞ。実際、異世界の魔法は見て飽きることはない。寧ろ知識の糧になる。言っとくけど他にも色んな異世界からやってきた人間達は他にもいるからな?この城にもそういう人間もいるから、異世界のことが気になるなら訊いてみたらいいよ」

 

勝負をしましょう、さぁやりましょう、今すぐしましょう!とあまりにもしつこく食って掛かる少女の頭を脇の下に持っていき、一気に腕で締め上げる。

 

「うるさい」

 

「あっ、待ってください!これは冗談抜きで痛いです!頭が締め付けられてぇえええええええ!?」

 

「こらイッセー!めぐみんに何てことをしているんだ!―――するなら私でしろぉっ!」

 

「お前まで来るなよ!余計混沌と化するんだから!」

 

興奮した顔で迫ってくるダクネスに対して悲鳴を上げる。名も知らない金髪美女に小首を傾げる思いで訊くザルド。

 

「・・・・・今度は誰だ?」

 

「めぐみんと同じ世界からやってきた―――ダスティネス・フォード・ララティーナって名前の変態だ」

 

「おい待て、人を変態扱いをするではない!それに私の名前はダクネスだ!」

 

「うっさいララティーナ。で、このララティーナお嬢様の唯一の特技は一撃で死に至るような攻撃じゃない限りどんな攻撃でも耐える防御。こんな風に―――」

 

「その名前で呼ぶなぁあああああああああんっ!!!」

 

ダクネスの手を掴んだ瞬間に一誠から雷撃が伝わって感電するダクネスだったが、淫らな顔で全身から伝わる痛みを快感として興奮する。

 

「こんな感じで受けた攻撃の痛みが快楽に変えてしまう変態でもあるから、躊躇なく攻撃していいから。それがこいつにとって何よりのご褒美らしいからさ」

 

「・・・・・ヘラですら関わりたくない部類かもしれないな」

 

「俺の主神だったら・・・・・どうなのだろうな」

 

そして躊躇なく一誠に蹴り飛ばされるダクネスのために怒り庇う者は―――この場に居なかった。

 

「さて、これで静かになったわけだが・・・・・何を話していたっけ」

 

「私と爆裂魔法を極める話をしていましたよ」

 

「うん、嘘を吐くアークウィザードには魔力と体力を奪う刑に処すか。ドレイン―――」

 

「わーごめんなさい!?それだけは勘弁してくださいお願いします!」

 

危機感を抱き、伸びてくる手を触れさせまいと一誠の腕を掴んで押し留めるめぐみん。

 

「意外と力があるんだな?でも、ほら・・・どんどん俺の手が迫って行くぞー」

 

「カ、カズマ!助けてください!このままではイッセーにカズマのようなことをされてしまいますー!」

 

「おいこら、俺のようなって一体どういうことなのか説明してもらおうか。もれなくお前の背後から俺の『ドレインタッチ』が炸裂するぞ?」

 

「私に味方が!?く、迂闊でしたよっ。ここには無理矢理に魔力と体力を奪ったあと、口では言えないことをしようとするロリコンと私の下着を脱無しか取り柄がないロリコンヒキニート―――」

 

一誠の顔から表情が消え失せた。

 

「・・・・・カズマー」

 

「おう、『ドレインタッチ』」

 

「うわっはあああああああああっ!?」

 

「俺も『ドレインタッチ』」

 

「ちょっ!二人同時に『ドレインタッチ』をしたらああああああああああああああああっ!?」

 

無慈悲なお仕置きを執行する。程なくして体力と魔力を吸い尽くされためぐみんが床に倒れ、それを見下ろす二人がめぐみんの脇腹を小突くように蹴りを入れサッカーボール如く蹴る。

 

「おい、誰がロリコンだコラ」

 

「おい、誰がロリコンヒキニートだコラ」

 

「や、やめっ、無抵抗な人間に蹴りを、入れるなんてとんでもない、クズで鬼畜の行いを、するなんてっ」

 

いたいけな少女を苛める光景に直ぐ二人を止めに入られ、めぐみんは自室に連れて行かれる。

 

「今何をした・・・?」

 

「『ドレインタッチ』のことか?これはめぐみん達の異世界特有のスキルだ。スキルとして魔法もある方法で取得できるらしい。それについてはこのカズマから聞くといい。こいつの方が詳しいから。では、佐藤和真先生。説明をお願いします」

 

「はい、佐藤和真です。『ドレインタッチ』ってのは大雑把に言うと相手の身体に触れて発動すると、体力と魔力を同時に吸収したり譲渡したりすることが出来るスキルです。特に心臓に近い部分に触れてすればもっと効率的です」

 

「それはなんとも魔導士からすれば厄介なスキルだな。アルフィア、お前でも安易に接近戦はできまい?」

 

「『魔法』を吸収できるわけでもあるまい。近づかせることもなく迎撃すればいいだけの話だ」

 

問題視すらしていない発言をするアルフィアから自信がありふれていた。そんな彼女に補足を加えるのが一誠。

 

「因みにだが・・・・・『スティール』というスキルがあって。それは相手が所持している物をランダムで奪えることが出来るとか」

 

「だからどうした。魔導士の杖を奪うことが出来るというなら、私は杖を使わず魔法を使うぞ」

 

「いや、うちの家族の一人がそのスキルの餌食になってさ。・・・・・女の服や下着も奪えるようだぞ?何度もそんなことされればさ、相手を丸裸にして戦えさせない状況にさせてしまうってこと」

 

それを聞いたザルドは主神が欲しがりそうな能力だと達観した。もしもそんなことが出来る眷族がいたら、喜々として使わせるのが容易に想像できてしまうあたり変態爺の主神だったなぁと思っていた。

 

「実際に体験してみるか?」

 

「しなくていい。したらアルフィアの魔法が飛んでくるぞ」

 

「アルフィアの魔法かー。どんなの?」

 

「実際にその身で味わうといい」

 

ザルドの真意を深く読まず、アルフィアに模擬戦を申し込む一誠。軽く了承を得てもらったので地下のトレーニングルームへと赴いた。辿り着くと階段状の席から飛び降りて中心で向き合うように対峙する。

 

「この城にこんな広い空間があるとはな」

 

「大抵の模擬戦はこの場所で行うんだ。本気か全力だったら別のところでするけれど」

 

「ここはそうではないというのか」

 

「おいおい、第一級冒険者の全力はその場の周囲の風景や地形を変えてしまう強さだってこと忘れてるのか第一級冒険者さん?」

 

「ああ、そうだったな。だが、異世界の魔法でもできるだろ?」

 

人によっちゃあ小島や山を消し飛ばすぐらいは、と簡単に言うと二人は口を閉ざした。

 

「本当にできるのか。【神の恩恵(ステイタス)】を神から与えられないでそれほどの破壊力を、お前の世界の人類はそこまでの強さを有しているのか」

 

「興味があるなら何時か二人も連れて行ってやるよ。さて、何時でもいいか?ザルドも参加する気かよ?」

 

「構わない。お前の異世界の特有の力、強さを見せてもらう」

 

「俺は観戦するだけだ。直ぐに終わるのだろう?」

 

「あー、直ぐではない。アルフィアのこと知りたいから色々とするつもり。―――だから、まずは小手調べだ」

 

足元の影が異様に広がり出す。一誠の影の異常に二人はすぐに距離を置いて警戒しつつ様子を見守る。トレーニングルームを埋め尽くさんとする黒い闇が円状で広がりながら、闇影から黒い異形が続々と創造され産まれていくその光景にザルドとアルフィアは言葉を失った。

 

「影からモンスターだと・・・・・?」

 

「ダンジョンのモンスターじゃないから安心してくれ。この異形の怪物達は俺の能力で創造されているから俺の命令に従う」

 

「魔法、いや、異世界の能力か・・・・・」

 

「そ、魔石がないモンスターだけど問題なく倒せれるだろ」

 

全ての黒い異形の怪物達をアルフィアに嗾ける。異形達は口を大きく開き、魔力の砲撃を放った。

 

「【魂の平静(アタラクシア)】」

 

対してアルフィアは片腕を前に突き出し、たったの一声(ワン・ワード)で迎撃、全ての魔法の砲撃を無効化した。それはとても物珍しく、一誠は興味深そうに漏らした。

 

「初めてだ。この世界で俺の魔法が無効化されたのは」

 

「その割には驚いていないようだが?」

 

「少なからず驚いているぞー?でも、それ以上に楽しくなりそうだとわくわくしているんだ」

 

「戦闘狂か」

 

「『未知』に興味津々なだけだ。なら、今度は物量でいこう」

 

咆哮を上げ爪や牙で攻撃する異形の怪物達。長文による詠唱の魔法だったら発動する間もなく数の暴力に呑み込まれて華奢な体に牙を突き付けられ、爪で引き裂かれ命を落とす。

 

福音(ゴスペル)

 

だが―――女の一声(ワン・ワード)で、ゴォンと鳴る鐘の音と共に異形の怪物達は見えない魔法による攻撃で衝撃波を受けたように、ことごとく葬られた。

 

「一撃かよ・・・・・いや、わかり切ってたことだけどやっぱ、この世界の人類も侮れないし馬鹿にできないなー」

 

「どうした、この程度か?お前自身はかかってこないのか?」

 

「まずは相手の情報を収集するのが俺の戦術なのさ。それに、この程度じゃないぞ」

 

今度は十五M級の巨人型の怪物を影から産み出す。

 

「ほう、大きなモノも出せるのか。木偶の坊でないことを期待するが」

 

「・・・・・これでもまだ本気でもないぞ。言っただろ、ここは本気でも全力でもしない場所だって」

 

大咆哮を発する大型怪物が口から魔力の光線を放つ。極太の柱のように伸びる光線を前にしてまた一声(ワン・ワード)

 

魂の平静(アタラクシア)

 

「―――それ、永続の魔法に対して効果があるのかな?」

 

「――――――」

 

魔法の無効化が途切れることもなく、無尽蔵のごとく、途絶えない魔力の塊を無効化し続けるアルフィアの行動を観察していた一誠の中で定まった。

 

「・・・・・身を纏う付与魔法(エンチャント)か。だとしたらこのまま攻撃を続ければそれ相応に魔力も消費するよな。魔導士の弱点の一つを攻めてみるか?」

 

影から再び、それも今度は四体も大型級の異形の怪物達が産まれ、アルフィアに魔力の塊を放った。

 

「面倒だな」

 

届く前に宙に舞う羽のように軽やかにかわすアルフィアに、巨体での質量を無視した跳躍力でアルフィアの真上から潰そうとする巨大異形が落ちてくるが、難なく避ける。

 

福音(ゴスペル)

 

無慈悲な魔法攻撃が炸裂し、異形の怪物達を葬ったつもりが凄まじい耐久力で原型は留まっている上に傷が、ダメージが再生、回復して何事もなかったかのようにアルフィアへ強襲を仕掛ける。

 

「再生の能力まで備わっていたとは・・・・・階層主よりも厄介なモンスターだな」

 

「実際、階層主より強いモンスターを創ったからな。まぁ、ウダイオスよりは。知ってた?ウダイオス、ソロで倒すとドロップアイテムが手に入るんだけど」

 

「なんだと?・・・いや、確かに派閥(ファミリア)が健在だった頃はソロで倒したことが無かったな。今度、俺も倒しに行くとするか」

 

ところで、と異形の怪物達を見ながらザルドは言う。

 

「あれは、血肉があるのか?」

 

「あったらどうするつもりだ?」

 

「異世界のモンスターの血肉を味わってみたいと思ってな」

 

「・・・・・ダンジョンのモンスターって糞不味いぞ?『氷河の領域』の鳥モンスターを焼いて食べたけど食えない不味さだった。25階層の蟹も食べれなかったし」

 

試した経験を口にする一誠に振り向き、そしておかしそうに笑いだした。

 

「はははははっ!そうか、お前もモンスターを喰ったのか!俺みたいなことをする冒険者など後にも先にも俺だけだろうと断定したが、まさか他にもいたとはな!」

 

「いやだって、見た目が食えそうなのいるじゃん?モンスターとは言えど生物の一種だし、食べられるかなーって思うじゃん?」

 

「俺は万物を喰らうことで能力値(ステイタス)に反映するから食っているに過ぎないが、純粋な気持ちでそんなことする冒険者はお前が初めてだと思うぞ。まぁ、不味さは俺も認めているがな」

 

食に関して同じ体験した者同士の会話に花が咲き、料理に関する話になるまで時間は掛からなかったところで・・・・・そっちのけ状態のアルフィアが二人に向かって【福音(ゴスペル)】を放つのも時間の問題だった。

 

「うおっ!?」

 

「いったぁっー!?あ、耳がキーンってする。衝撃波の魔法かと思ったら『音』かっ!」

 

「ザルドはともかく・・・・・Lv.3の上級冒険者が原形を保ってる上に殆んどダメージがないのは異常だな」

 

「いや、耳鳴りとか色々とダメージが少なからず通じてるから。そういう風に見えていないだけだアルフィア」

 

そうか、とまたしても魔法名を紡ごうとするアルフィア。否―――!

 

感じる―――アルフィアから初めて途轍もないほどの魔力の総量が。まるで何かに閉じ込められて解放された喜びを表すように荒れ狂う風と化して。

 

「解いたか」

 

「解いた?」

 

何を?という一誠の気持ちを読み取った風にザルドは説明する。

 

「魔法無効化の付与魔法(エンチャント)はアルフィア自身にも影響が出ている。無効化までとはいかないが、本来の魔法の威力を著しく低下させる。今までの【福音(ゴスペル)】は力を封じ込められた末端に過ぎない」

 

『真の威力』ではない―――。ザルドから教えられた情報を信じられないと感じつつアルフィアに目を向け直した矢先だった。

 

「【福音(ゴスペル)】―――【サタナス・ヴェーリオン】」

 

五体の巨大異形が先ほどまでの魔法の比ではない『真の威力』の魔法によって、再生が追い付かないほどの威力によって原形どころか完全に消し飛んだ。

 

「あ―――俺でも食らいたくない部類だ」

 

「誰でもそうだろうよ」

 

これで終わったとばかりのアルフィアは振り返って話しかけてくる。

 

「倒したぞ。あれが創造できるモンスターではなかろうが私でも倒せることが分かった」

 

「まぁ・・・あの程度のモンスターにてこずって倒せないようじゃ、俺の世界の強者達にも通用はしないって話だけどな」

 

「それは神も含まれているのか」

 

「当然だ」

 

断言され今度は一誠に攻撃を仕掛けようとする。

 

「ならば、その世界から来たという強者の一人であるお前自身の力も味わうとしよう」

 

「え?」

 

いつの間にかザルドは観客席に避難していた状態で【福音(ゴスペル)】の威力を味わうこととなった。

 

「【福音(ゴスペル)】」

 

「~~~~~っ!?」

 

不意打ちも不意打ち。全身を襲う音の衝撃に身体は悲鳴を上げる―――こともなく耐え抜いた。耐久の能力値(アビリティ)オール∞は伊逹ではなかった。

 

「・・・・・これでも耐え忍ぶとは驚いた」

 

「こんの・・・・・やってくれたな!」

 

「見せてみろ、お前の力を」

 

「上等だよ・・・・・だけど、ここで勝負するのは華がない。場所を変えるぞ」

 

指を弾き音を鳴らすと、一誠とアルフィアの足元に魔方陣が浮かびそしてどこかへと転移して姿を消した。その後、ザルドが観覧できるための虚空に立体的な投影の映像がトレーニングルームに展開して、その映像には無人のオラリオの中央広場(セントラルパーク)に佇む二人が映り込んだ。

 

「・・・・・ここは、オラリオか?」

 

「そうだ。といってもここが全力で戦うために作った特殊な空間だ。人類も神々もいない上に使い捨てのトレーニングルーム。どれだけ建物を破壊をしようが全力で戦っても問題ないから遠慮しなくてもいいぞ。戦い終わったら元の場所に戻れるから安心もしてくれ」

 

「・・・・・異世界の者は何でもありなのか。都市一つを創れるとは凄まじい魔法だ」

 

「ま、死者を蘇らすことも出来るからその認識は合ってるぞ。―――じゃあ、()ろうか」

 

腰を低く素手喧嘩(ステゴロ)の戦闘スタイルで臨もうとする一誠に無詠唱の魔法を口にしようとしたアルフィアの意識の途中―――音もなく一瞬で彼女の懐に飛び込んだ時には、一誠の拳がアルフィアの腹部に突き刺し殴り飛ばした。

 

「【福音(ゴスペル)】の『ゴ』という単語を口にして『ス』に繋げようとするその瞬間の時間は、俺にとっては相手の懐に飛び込む時間まで猶予がある。―――無詠唱だろうと俺の世界の魔法使い達は、詠唱の有無関係なく口にせず自由に魔法を使うことが出来るぞ」

 

聞えちゃいないだろうけどな。次々と建物に穴を開けながら吹っ飛んでいくアルフィアに向かって言葉を口にする。

 

「さっきの不意打ちの仕返しだ。これでチャラなアルフィア」

 

片腕を突き出し、極太の魔力の砲撃を畳みかけて放った。更に直線状の建造物を呑み込みながら破壊し尽くす魔法攻撃のあと、遠くで大爆発が聞こえてくる。これで終わりか?と相手の出方を少し待っていると―――。

 

「【祝福の禍根、誕生の呪い。半身喰らい我が身の原罪―――禊はなく。浄化はなく。救いはなく。鳴り響く天の音色こそ私の罰。神々の喇叭、精霊の竪琴。光の旋律、すなわち罪過の烙印】」

 

短文ではなく、長文の詠唱を紡ぐ玲瓏の声が・・・・アルフィアの声が聞こえてくる。

 

「【箱庭に愛されし我が運命よ―――砕け散れ。私は貴様を憎んでいる】!【代償はここに。罪の証をもって万物を滅す】―――【哭け、聖鐘楼】!」

 

魔力の臨界。ゴォオオンと鐘楼が鳴り響いた直後。

 

「【ジェノス・アンジェラス】」

 

刹那―――アルフィアがいるであろう遠くから膨れ上がる音の魔法の嵐の攻撃が、射程(レンジ)範囲内の全ての建造物を文字通り粉砕しながら一誠がいるところまで迫った。

 

「―――受けて立つ!」

 

深い笑みを浮かべ、かつての最強の【ファミリア】のLv.7の眷族の魔導士の魔法の破壊力をこの身で味わい、体験・経験をするべく逃げもせず躱しもせず―――自ら音の暴力に向かって飛び出した。そして―――。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 

 

 

 

 

「・・・・・」

 

アルフィアが放った三つ目の魔法の影響で見晴らしがよくなった瓦礫の荒野。破片と化した石や木片を踏みしめながら中央広場(セントラルパーク)に戻るアルフィアは、一誠を探すまでもなく見つけた。

 

「・・・・・本当に、異常な奴だなお前は。私の最後の魔法、海の覇王(リヴァイアサン)に止めを刺した【ジェノス・アンジェラス】を受けたのだろう」

 

殆ど無傷の一誠が五体満足の身体で仁王立ちしていた。もはや、一誠の強さを認めるしかないと思い考えるアルフィアはある程度まで近づいた時に気付いた。一誠の右手が白く輝いている。【ステイタス】で強化された五感の一つ、聴力で聞えてくるリン、リン、という(チャイム)の音が、ゴォン、ゴォォン、という大鐘楼(グランドベル)の音になり変わる。荘厳(そうごん)な鐘の音が、二人の間で高く鳴り響いていった。高く、遥か頭上にまで昇る、壮大な大鐘楼(グランドベル)の音色。

 

「・・・・・その音色は」

 

思わずと言った感じで雑音を掻き消す美しい音色に耳を傾ける。

 

「とある優男風の神に聞いた話なんだけど」

 

その中、唐突に語り掛ける一誠の言葉にも意識を向ける。

 

「この世界の魔法の詠唱分って、今まで生きていた中での人生・・・詠唱分を含め、魔法は本人の資質、そして心に持っている思いを反映するそうだな。さっきのアルフィアの詠唱分・・・・・自分が咎人だと言ってそう思っているんだな。半身喰らい我が身の原罪―――もう一人の妹か弟かは知らないけど、生きているならもう一人分の才能を奪ったから、自分で罪人の烙印を押してるんだな」

 

「・・・・・それがどうかしたか」

 

「いや、俺も糞忌々しい兄に才能を奪われたから脆弱なまで同期の中で一番弱かったのかなぁーって感じただけだ。そのおかげで兄弟仲なんて最悪で俺はクズの兄に殺された経験があったからな。その時まだ5、6歳の幼少の頃だ。信じられないだろ?」

 

「・・・・・」

 

「生を受け、産まれた瞬間が呪いで才能を奪ってしまったことが罪だっていうなら、お前は謝るべきだったんじゃないのか?もうしたのかどうかわからないけどな」

 

「お前は自分の兄にそうさせたのか?」

 

アルフィアの指摘に真顔で間も置かずこう答えた。

 

「この手で殺したよ」

 

「―――――」

 

「当然だ。最初から兄弟の絆がなければお互い忌々しい感情しか抱けない。片や産まれた時から才能に恵まれているのに無能だった弟に嫉妬する兄。日頃から恵まれた才能を傲慢的になっていつでもどこでも暴力を振るわれ憎悪しか与えられなかった弟。そんな生活の中、どうやって仲良く暮らせれるのかって話だよ」

 

だから、と男は言い続けた。

 

「本当の意味で更なる力を求め悪に鞍替えした糞兄が本気で俺に殺しかかって来た時は、兄弟殺しの血と罪を犯した。一切の後悔や反省はしなかったし感じなかったから、糞兄に対してはそんな程度の存在だったのだと知った時は失笑ものだったね」

 

だから、と男は尋ねた。

 

「他の家族の才能を奪ってしまっても、俺と違ってアルフィアは愛してた?そこら辺を知りたい」

 

「・・・・・」

 

答えは沈黙で返した。が、一誠はアルフィアの返答に追求せず足に力を入れた瞬間に飛び込んだ。

 

 

懐に入り込んできた男の踏み込みが気付かず、Lv.の差とは一体何だと思いながら体術を駆使する相手の拳や足をいなしていく。

 

「【福音(ゴスペル)】」

 

射程距離が関係ない魔法を口にして発動する。不可視の魔法攻撃故に回避することは不可能に近い。だがしかし、一誠は魔法名を口にする際の口唇の動きを見て一瞬でアルフィアの背後に回り抱え出すとそのままバックドロップ。

 

「ぐっ!?」

 

今まで経験したことが無い技を食らい、一瞬だけ意識が遠のいたが持ち前の精神力ですぐに体勢を立て直して一誠を見やるや否や、巨大な光の塊が目と鼻先まで迫っていた。

 

零距離―――防げん―――!

 

全身が凄まじい衝撃に襲われ後方へ吹っ飛ぶ。決河の勢いで空を駆ける身体が今度は真上に吹き飛ばされた。何が起きたと疑問と警戒するもいつの間にか自分の目の前に先回りしていた一誠が、上から足を伸ばした状態でアルフィアの腹部に叩きつけた。

 

「―――っ!!!」

 

そのまま地上に落ちて地面にクレーターを作るほどの力と衝撃がアルフィアにも伝わる。しかしそれだけでなく、上空から極太で極光の白光が槍のように落ちてきて二人丸ごと呑み込むように地上を突き刺した。

 

 

 

「というわけで、勝ってやったぜ」

 

「「・・・・・」」

 

一方的ではなくとも、アルフィアが誰かに負ける想像が出来なかったザルドは今でも信じられないでいた。アルフィア自身も殆んど自分の魔法が通用しなかったことに対する衝撃がまだ抜けきっていなかった。

 

「お前、本当に何者なんだ・・・・・?あのアルフィアの魔法を食らってもピンピンしているとは」

 

「アルフィア並みの魔法の威力を放つ魔法使いが元の世界にいるから。他にも理由はあるけれどな」

 

「【ステイタス】を与えられずにか・・・・・やはり凄まじいところだが、他にも理由とは?」

 

自身の『ステータスプレート』を二人に見せびらかし、思考を停止させた。最初は意味が解らず一誠に聞いてしまったのだ

 

「色々と言いたいことはあるが・・・・・この、∞は何だ?初めて見るが」

 

「無限って意味だよ」

 

「無限・・・・・は?」

 

固まる二人を置いといて先にトレーニングルームを後にする。半々に分かれた黒と白の道化のような仮面を被る、黒のタキシードを着て白のネクタイをした大柄な者、バニルが見通していたかの如く一誠を迎えに来た。

 

「我が主よ。もしも蘇らせたい者がいるなら我輩が案内してやるがいかがかな?」

 

「道案内できる訳?」

 

「モチのロンである。しかし、その代わりではあるがお願いがあるのだがよろしいかな?」

 

「内容によるけど言ってみ」

 

「最近、ポンコツ店主が退屈しのぎで街中を彷徨っているのだが、その際に道具店を強く興味を持ち出しこの世界でも元の世界に帰るまでの間でいいから店を持ちたいという願望が芽生えている」

 

そういうことかと納得の面持ちをする反面、不思議そうな反応を示す。

 

「自由に活動や行動をしてくれてもいいと伝えたはずだが、どうして直ぐに行動を移さないでいるんだ?」

 

「我輩が止めているからだ。元の世界ではないため、人の役に立つどころか真逆なモノ、はたまたは一体何を使うモノなのか分からない商品を仕入れてくる。故にこの世界でもポンコツを発揮されては困るのでな」

 

「自作は?」

 

「それも含めて言っているのだ」

 

マジか。とだとしたら目に見えている失敗をさせるつもりはないバニルの判断はさほど間違ってはないのか、と思いながら・・・・・。

 

「道具店に関しては、アミッドが中心のダンジョンの中で道具店兼出張治療院を構えているんだけど。そこで働くってのはどうだ?」

 

「ふむ、ダンジョンの中で店を構えるという発想は実に興味深い。法外な売買をしている冒険者が築き上げた街があると聞いている」

 

「後半の辺に関してはバニルの独壇場だと思うけどな?」

 

「フハハハ!否定はしない。無法地帯の場所は実に好き放題やりたい放題とまさに我輩の遊び場であるな。して主よ、その店にポンコツ店主も働かせる口添えをしてもらってもよろしいかな?」

 

「俺からじゃなくてもアミッドに直接言えば軽く了承してくれるはずだぞ」

 

では、そうさせてもらおうとバニルはこの話を打ち切り一誠をある場所へと案内する。二人はオラリオの外へと外出した。空飛ぶ絨毯を駆使して遥か遠くの場所へと向かう二人がオラリオに戻って来た時―――三人に増えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――メーテリア・・・・・?」

 

「姉さん、久しぶり」

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