ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか   作:ダーク・シリウス

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冒険譚4

運び込まれた気絶しているアイズを空き室のベッドに横たわらせ一誠はロキとリヴェリアから説明を受けた。ロキ達はアイズがここに移り住む気でいることを悟って、本気でいるならそれ相応の対応をするフィンとガレス達の壁を超えることができるかできないか、彼女の今後の事を考えた上で賭けをすると。

 

「ファイたんの子供がまさか介入してくるとは思わんかったからなぁ。きっとフィンも引き分けと判断しとると思う。まさかイッセーの差し金とちゃうやろうな?」

 

「阿呆か。人ん家の前でドンパチされた方だぞ。寧ろお前らが連絡をしてこなかったらこっちが大暴れしてた方だ。それと団長のその荷物は何だと俺は訊きたい」

 

今まで黙っている彼女に話を振り、訊ねる。椿はバックパックに触れながら理由を語った。

 

「うむ、手前もここに移り住むつもりで用意した荷物だ。主神様の許しも得ておるから異論は聞かん。団長命令だ」

 

「ここまで横暴な女は何時以来だ・・・・・」

 

抗議をする気力も失せた、と心の底から溜息を吐いて頭を垂らす。会いに行って文句の一つでも言おうと考えたところでロキとリヴェリアにも訊ねる。

 

「で、違う派閥の個人的な家に住まわせる気なのかお二人さんは。賭けごと云々無しでだ」

 

二人は顔を見合わせ、少し困った表情で肩を竦める。

 

「相手がファイたんの子供かうちの知らん子供だったら反対やで?ま、イッセーなら問題ないと思っとる。脱退するわけでもあらへんしな」

 

「ここまで派手にやらかしてしまった手前だ。連れ戻したらこの子はまた去年の様に反発して家出するだろう」

 

暗に一誠だったらいいと気絶してるアイズの想いは成就した。普通は駄目だろ、と思いながら椿に視線を変える。

 

「他派閥の冒険者が一緒に住むことになるらしいけどいいのか団長さんよ」

 

「手前は問題ないが?直接派閥に関わるのであれば考えたが、この小娘はそうではなかろう【九魔姫(ナイン・ヘル)】?」

 

「ああ、その子がそうする筈もないしする理由もない」

 

であれば、問題無いと断言する椿に諦めの嘆息を零す。

 

「寝泊まり程度ならともかく、アリサ以外誰かと住むなんてする気なかったのに」

 

「その上でアイズは、お前と一緒にいたかったのだ。好かれている証拠でもあるのだぞ、少しは喜べ」

 

「うん、複雑極まりないと返しておこうかリリア」

 

聞き慣れないリヴェリアに対する呼び方を椿は「リリアとは?」反応する。

 

「リヴェリアの名前から取った渾名と愛称やで」

 

「ほう、かのオラリオ最強の魔導師にそう呼ぶ者が現れるとは感服する。お主ら、手前が思っているよりも仲が良いのだな」

 

カラカラと笑う椿に「こいつが勝手にそう呼んでいるだけだ」と溜息を吐くリヴェリアは言い返すが、椿は笑みを固める。一誠も呼び方を変える気はないし、ロキも止めようとするどころか可愛いと称賛する始末だ。さっさと諦めた方が賢明か、と悩む彼女の心情を知らない三人に話をあからさまに戻す。

 

「だが、アイズはまだ子供だ。椿とイッセーは他派閥の団員。問題が無いにしろそんな中で一人だけ住まわせるわけにはいかん。しばらくは私もここに住まわせてもらうぞロキ、イッセー」

 

「「え」」

 

驚かない椿を除いて二人は間抜けな反応をした。ここで思いもしなかったリヴェリアの申し出には、後で言われたフィンとガレスも少なからず驚かされたその日の夜から一夜を明けて―――翌朝、アイズは目を覚まし、持ってきた荷物もあることと一誠から昨夜で決まった話を聞かされ、把握した。

 

「迷惑・・・・・だった?」

 

「驚いた方だ。そして、複雑だな。モンスターの俺とここまでして一緒にいたいだなんてさ」

 

「・・・・・貴方を独りにしたくなかった。私は独りじゃないことを気付かせてくれたイッセーが独りだなんて」

 

「しょうもないことさ。この世界じゃあな」

 

自嘲的な笑みを浮かべる少年に幼い少女は「だから」と口を開いた。

 

「貴方も独りじゃないって、私もいるってことを伝えたかった。異世界から来たモンスターの貴方はこの世界のモンスターとは違うって分かったから」

 

「モンスターなのは変わりないがな?」

 

「でもイッセーは元人間だった。だから、人間の心を持ってるあなたとならずっと一緒にいたい」

 

手を伸ばして一誠の手を握る。小さな手だった。人の皮を覆っているモンスターの手を人間が触れている。人の温もりと変わらない何故か安心する温かい手を頬に寄せた。

 

「ん、温かい・・・・・お父さんみたいな優しい手」

 

「・・・・・」

 

酔狂な、と野暮な思いは抱けない。少女の本心が伝わり、否定することもできやしない。まだ感情も幼い少女の成長を見守り、数年後改めて問おうと己の手をすりすりされる感触を覚えながら考えた数十分後。荷物を纏め持参してきたリヴェリアがやってきた。

 

「ほい、アイズとリヴェリア、椿の腕輪に転移の魔法も加えておいた」

 

何も変わらない金色の腕輪を返された。三人は受け取りどこか変わったのかと腕輪の変化を探す眼差しで調べても目立ったところはなかった。

 

「魔法が掛けられてる様子はないぞ」

 

「自分で魔法を発動するんだから目立った変化はないに決まってる。やり方は通信する時と同じだ。転移場所先という選択が増えてるから」

 

宝玉に触れ、立体化した影像に指で動かし、確かに増えている。共通語(コイネー)で転移場所先と。それを確認と押して見ると「幽玄の白天城」と名前が直ぐに出てきた。

 

「確認はできたな?この城は俺以外合言葉を言わない限り扉は開かない。だからそれができないリリア達は、魔法による移動で直接入らなきゃいけない。それを可能にしたのがソレだ」

 

「何故にそういう風にこの城を造ったのだ?」

 

「企業秘密」

 

それ以上話を聞けない三人は、一誠からこれからどうするんだと訪ねられた。答えは必然的なものだった。

 

「手前はもう少し部屋を整える」

 

「ん、私も」

 

「来たばかりの私もだぞ」

 

本来の本拠(ホーム)から移り住む自分達の部屋作りを一日費やす三人とは違う一誠は、手助けをしようかと訊くと揃って頷かれた。

 

「持ち切れなかった物や家具はまだ【ファミリア】に置いてある。取りに行かなければならないのだが」

 

「分かった。繋げるから運ぼう」

 

「繋げる?」

 

何も知らないリヴェリアは小首を傾げ、何でどこを繋げるのだろうか頭上に疑問符を浮かべた。アイズと椿もいる手前で一誠は手を誰もいない虚空に掲げ、空間を捻じ曲げる。グニャリと歪む空間は穴を作り、別の場所へと繋がった光景を見て、とても見慣れた場所と繋がったことでリヴェリアとアイズ、アリサの目は丸くなった。

 

「私の、部屋?」

 

「これで楽だろ?」

 

唖然とするハイエルフの背後に回って背中を押し、彼女の部屋を繋げる穴の中へ潜る。潜った穴の向こうからアイズを手招き、手を引いて部屋に入れる。

 

「・・・・・どうなっている。これもお前の魔法なのか」

 

「ん、ちょっと違うかな。これは魔方陣で介して移動する方法とはまた異なるやり方だ。何て言えばいいかな。リヴェリアの部屋から執務室まで距離はあるだろう?その距離を無くす方法でこうやって来てるんだ」

 

そう言って一誠はまた同じやり方で別の場所を繋げる。机の上で座り、事務の仕事をしているフィンに雑談をかわすロキとその会話に交るガレスの姿が目に入る。

 

「ん?なんや、この穴―――ってイッセーとリヴェリア?」

 

主神が気付くと二人も穴の向こうにいる二人の存在を知ったところで、バイバイと手を振る意図的に一誠が穴を閉じた。

 

「こんな感じでな」

 

「・・・・・」

 

異世界の魔法、もはや何でもありだな。瞼を閉じて静かに吐息を漏らす。『神の恩恵(ファルナ)』で発現した魔法では空間魔法など希少魔法(レアマジック)を得ることは極めて難しいかもしれない。異世界の魔導師(メイジ)達はそんな行為の魔法をほいほいと行使できるのだろうか?気になって訊ねてみたところ。

 

「んや、普通は魔方陣で移動する方が常識なんだ。空間を介して行うなんて上級者がするもんだよ」

 

「なら、お前は魔導師(メイジ)ではないのに何故できる」

 

「練習あるのみ」

 

努力で頑張ってできるようにした、と言わんばかりに言い返されてしまった。実際にどうやってできる様にしたか定かではないが、一誠は努力家で頑張り屋さんなのだとこの瞬間知った。椿も穴から潜ってきたところでリヴェリアの荷物運びが始まる。それからアイズと椿の部屋作りにも精を出して日が暮れる前に終わらせたのだった。

 

「イッセー、思っていた以上に早く終えることができた。感謝する」

 

「手前も感謝するぞ」

 

「ありがとう」

 

三者三様から感謝の言葉が送られ、軽く相槌を打つ。

 

「さて、俺はそろっと夕食の準備でもしてるから後はのんびりと過ごしてくれ」

 

「因みに、何を作る気でいる」

 

「ンー、そうだな」と献立を頭の中で考えようとしたところで一誠の腕輪の宝玉が点滅し、触れてみると光と共に目の前で浮かぶロキの立体映像。

 

『イッセー!今夜の夕飯はなんやー?うちらそっちで食べに行くから多めに作っておいてやー!』

 

言いたいことだけ言い残して通信を切るロキに無表情な一誠。「すまない」と一応謝っておくリヴェリアに。

 

「のう、主神様も食べにくるそうだが良いかイッセーよ」

 

椿からもヘファイストスの来訪の話がされて、「俺の家は居酒屋か料理店か何かかよ」と深い溜息を吐いた。

 

「・・・・・そういえば、ジャガイモがまだ大量に残ってるんだったな」

 

「ふむ、で、どんな料理をするつもりだ?」

 

椿が問い、視界に彼女が入ると意味深に黒髪赤眼を見つめ献立を決めた。

 

「・・・・・うん、おふくろの味にしよう」

 

「「「「おふくろの味?」」」」

 

興味深々だが訊き慣れない料理名に四人を置いてリビングキッチンに向かう一誠にやはり疑問符を浮かべるリヴェリア達。どんな料理なのか分からないが好奇心で作る姿を見たいと後を追う―――数時間後。

 

すっかり暗くなったオラリオの時刻は夜の六時過ぎ。欠けた月が顔を出して幻想的な月光を地上に照らして夜の街に繰り出す一般人や冒険者達を見下ろす。仕事を終え、仕事帰りに酒を一杯飲み、気を許した者と酒をかわし、料理の味を楽しみ今日という日を〆ようと騒ぐ光景は変わらない街から視点を変えて、一誠の家に集まる二柱の女神とその幹部の眷族達はテーブルに置かれた大量のジャガイモと人参、玉葱や隠元、肉など盛られた光景に言葉を失う。

 

「イッセー、これがおふくろの味というやつかの?」

 

「通称は肉じゃがと言う。極東の料理でもある」

 

「手前の故郷の料理・・・・・」

 

=異世界の料理と繋げられるのは【ロキ・ファミリア】のみの話になる。人数分の箸と蓮華、ほかほかと湯気が昇る大盛り小盛りの白い極東原産の米を入れた茶碗を配膳されたら食事前の祈りをする。

 

「いただきます」

 

と、言った一誠がすっと蓮華を取って山盛りの肉じゃがから掬って受け皿に入れた後で白いご飯と一緒に美味しそうに食べる。それを見てロキ達も見よう見まねで食べてみれば。

 

「ほう・・・・・何故か分からんが、食べて安心する料理など思ってもみなかったわい」

 

「温かくて安心できる料理・・・・・ね」

 

「う~ん、まさしくママの味やなぁ~・・・・・」

 

美味しい以外にも食べた人の心も温かさを伝える。ジャガイモをそっと割ると、程良く煮続けられたことで荷崩れせずに汁気をたっぷり含んだ芋は、芋本来の味の他にもあまじょっぱい汁の味がしっかりと浸透して美味しい。これが何時も食べているジャガイモなのかと疑うがこのねっとりとした触感は間違いなく芋だ。ここまで味の染みた味わいの料理は初めかもしれないロキ達は、途中から席を外していなくなった一誠から新たな料理をテーブルに置かれる。

 

「これも極東の汁物に海の海藻を入れた。味わってくれ」

 

と、茶色の汁物の中に深緑の海藻が漂っている。試しにとずずっと音を立たせて飲むと。

 

「これもまた、味わったことのない独特的な味だが美味いな」

 

好評を受け、嬉しそうに微笑む一誠だった。茶碗の中が空となると、一誠にお代りを求める声が挙がる。

 

「肉じゃがの方もまだまだ作ってあるから遠慮なくな」

 

「うむ、手前はこの肉じゃがが気に入ったぞ。遠慮なく食べさせてもらう」

 

「イッセーの料理は美味しいね。前回のカレーも美味しかったけど、この落ち着いた料理もいい」

 

「あの何でもかんでも力で解決する不良店主が作れんじゃろう料理じゃわい」

 

「本人の前で言うなよ」

 

「・・・・・っっっ」

 

「この子、震えているけれどどうしたの?」

 

「あ、あー。アイズたん、ちょっと店の中でおイタしてなぁー。拳骨をもらってしもうたんや」

 

客を殴る店があるのかと二柱の女神の話に耳を傾けて唖然とする一誠だった。想像が安易に浮かべれるのは不思議でしょうがなかったのはどうしてだろうか。

 

しばらく経った頃。大量に作っていた肉じゃがは殆どなくなった。予備に作っていた肉じゃがも完食され、三皿目の肉じゃがを食べたところで皆の箸がテーブルに置いて誰も食べようとはしなかった。

 

「多めに作っておいてと言ったうちなんやけど、流石に作り過ぎとちゃうかぁ~?」

 

「ガレスと団長が一番食べそうだったから」

 

「おう、間違いなく食べたわい」

 

「しばらく芋はいらん程にの」

 

ジャガイモの感触はもう覚えたと言外する二人の言うとおり。一誠の予想も当たって三分の二まで減ったがまだそれなりに残っている肉じゃがはどうするか、既に処理方法を思い付いている少年は徐に残り物になろうとしているそれを手にした。

 

「んじゃあ、温かいうちに知り合いにもおすそ分けしてくるわ」

 

「知り合いって・・・・・あ、アルテミたんとこか?」

 

「え、アルテミス。彼女がいるの?」

 

「うん、ダイダロス通りに拠点を構えてる」

 

一誠の背後の空間が大きく歪み、ポッカリと開いた穴の向こうは暗闇に包まれた教会の外。そして、外で夕餉の時間を楽しんでいる少年少女と男性、一柱の女神の姿をロキ達は確かに見た。穴を潜る際、鎧を纏って外へ出て開口一番。

 

「よー、お邪魔するぞー」

 

「え?って、イッセーっ!?」

 

携帯用の魔石灯の光で灯りと確保しての食事をしていた少年が背後の少年に気付き、素っ頓狂な声を上げた。アスナや他の団員達も食事を止め、何時の間にか現れた相手に度肝を抜かされた。

 

「用件を単刀直入で言わせてもらう。コレ、食べない?」

 

「・・・・・肉じゃが?」

 

「そ、余ってな。捨てるのももったいないしどうかなって」

 

「お、おお・・・・・ありがたく貰うよ」

 

「ご協力感謝する。そんじゃ、また何時かな」

 

ほぼ一方的な話で、まだ熱が籠っている肉じゃがをキリトに手渡し、颯爽と空間の穴の中へと戻り閉じた。一方、手の中の料理を他所に半ば唖然と立ち続ける少年は少女に意識を戻される。

 

「キリト君。取り敢えず、温かいうちに食べましょう?折角懐かしい料理をくれたんだから」

 

「そうだな・・・・・あいつ、元の世界の料理も作れるのかよ。羨ましい限りだ」

 

「調味料とか分けてくれるならもっと私達の世界の料理が作れるのだけれどね。今度会ったら頼んでみようか一緒に」

 

「それはアスナに任した」

 

 

 

 

リヴェリア、アイズ、椿が『幽玄の白天城』に移り住んで早五日が経過した。だんだんと住み慣れる間は、仕事の通勤のように本拠(ホーム)へ戻るハイエルフを見送り、少女達は連絡が来るまで自主練をしていたり、少年の仕事の手伝いをして時間を過ごしている。一誠の方は【ヘファイストス・ファミリア】の団員として武具や道具作製に時間を費やし、主神や椿を驚かせる。そして鍛冶をしている一誠の隣でジッと赤眼を向け様子を見守る椿。今彼女は血のように赤い槍を完成させた末端の鍛冶師(スミス)の姿を見て訊いた。

 

「随分と赤い槍であるなそれは」

 

「炎属性にしたから赤いだろ」

 

完成した槍をその場で振るうと槍の穂先がボッと命が吹き込まれたかのように炎が発生した。続けて激しく振るえば炎の輪が出来上がり、渦巻く炎が槍から解き放たれ天井にぶつかった。

 

「・・・・・それは魔剣か?」

 

「『鍛冶』のアビリティもないのにどうやって打てるんだ?」

 

火の粉が舞い散り、霧散する工房の中で槍の出来栄えに満足する一誠は、【ファミリア】に納品する為に作っていた他の武器と一緒に樽の中へ入れた。

 

「団長でもできるだろこれぐらい」

 

「うむ、無理だな。何故か知らんが手前とイッセーの打ち方はどうやら異なっておる。真に不思議だ」

 

「ふーん、そうなんだ」

 

(であるからお前に興味を持っているのだがな)

 

一人の鍛冶師(スミス)として一誠の鍛冶の技術を見極めんという椿の心情を露知らず、納品する分の武器をまた作り始める一誠。今度はどんな武器を作る為に異なる技術を振るうのか隣で邪魔はしないと静かに見守る椿。

 

「イッセー、ここにもう一つ手前用に鍛冶場を増やしてはくれぬか?」

 

「だったら道具を全部持ってこい」

 

後日、増設した工房の中。一誠の隣で【ヘファイストス・ファミリア】の団長が一緒に武具を打つ姿を小さく笑いながら見守るヘファイストスがいた。

 

 

―――とある日。

 

 

リヴェリア達三人はそれぞれ【ファミリア】の用事で家からいなくなった日のこと。久しぶりに二人になった日に限って特にやることがないまま街に出向くことにした。アリサと魔法の絨毯の上に寝転がってのんびりとして行く宛ても目的も無く、摩天楼施設(バベル)の最上階からおかしそうに見ている美の女神を他所に移動していた。絨毯の上で久々のゆとりを満喫していたそんな一誠達を照らしていた太陽が突如、黒い影に遮られた。

 

「?」

 

影が絨毯の上に踊る感じで乗って少年の視界に―――水色が見えた。それが何の水色なのか始めは理解できず「水色?」と呟いた。

 

その直後。

 

何故か、体に衝撃が走って絨毯から蹴飛ばされ、そのまま大通りのど真ん中で周囲の民衆や冒険者達がギョッと目を見開いて視線を集める中で潰れた蛙のように落ちた。ざわめきに囲まれる中、どうしてこうなったのか分からず、自動(オート)的に飛び続ける魔法の絨毯は「イッセー!」と顔を出しながら叫ぶ幼女を乗せたまま生みの親を置いてどこかへ行ってしまう様子を視界に入れる。周りのどよめきなど感知もせず絨毯のみを意識する。少し膝を折って、凄まじい脚力で跳躍、あっという間に移動を続ける絨毯の真上に戻った。その際、アリサと己が地上に叩き落とされた原因とその元凶が碧眼の双眸を見開いていた。

 

「おいこら、よくも蹴落としてくれやがったな」

 

―――空色(アクアブルー)の髪に碧眼の瞳の少女の前で「俺は怒っているぞ」と雰囲気を纏って睨みつける。相手は誰だか知らないが、いきなり乗り込んで蹴られたら誰だって好い思いはしない。真逆の方だ。

 

「お返しだ」

 

ここから蹴落とすと右足を女性に対して容赦なく振るった。地上に落ちて彼女がどうなろうが知ったことではないと気持ちで華奢な体に蹴る―――。

 

「ま、待ってください!」

 

少女の悲鳴染みた制止の叫びに思わず条件反射で脚を止めた。鎧の中で怪訝な目をして足の甲が彼女の脇腹と触れるか触れないかの距離を維持して口を開く。

 

「何だ?謝罪なら受け付けないぞ。ここから落として仕返しぐらいしなきゃ気が収まらない」

 

「あ、貴方を落としてしまった事は申し訳ないと思ってます。で、でも貴方が私の・・・・・」

 

「・・・?」

 

私の、何だ?と訳が分からない一誠は心底から小首を傾げる。しかし、鎧で顔の表情が見えない少女はしらばっくれているのか、と勘繰ってしまいそうになるがこの状況は自分に非があると喉から出そうになった思いを抑え込んだ。

 

「・・・・・何でもありません。ですが、謝罪をさせてください」

 

「いや、謝罪はいいから用件を言ってくれるか。蹴落とすぞ」

 

「わ、分かりました・・・・・」

 

足を戻して少女の話を聞く。少女は名乗った。

 

「私は【ヘルメス・ファミリア】の団長、アスフィ・アル・アンドロメダです。貴方に接触したのは主神の命で貴方を連れてくることでして」

 

「その割には俺を蹴落としたよな。それともなんだ、随分と野蛮な連れ方をしようとしたのか?」

 

「そ、それは―――!本当に貴方は、その、何も分かっておられないのですかっ」

 

「だから何がだよ?こっちはいきなり人の絨毯に乗られて訳も分からないまま蹴飛ばされたんだぞ」

 

うっ、と申し訳なさそうに体を委縮して「すみません」と謝罪の言葉を発する。どうして彼女、アスフィが一誠を蹴落としたのかは羞恥で思わずとしか言えない。

 

「それで、申し訳ないのですが私の主神様のもとへ来てくれますか?」

 

「一発殴って良いなら」

 

「構いません」

 

清々しいほどアスフィが心から了承したので、鳩に豆鉄砲をくらったような顔となる一誠は思わず訊ねた。

 

「他派閥の主神を殴ったら問題になるんじゃ?」

 

「大丈夫です。ヘルメス様ですから。私の代わりに思いっきり殴って下さい」

 

「・・・・・」

 

関係は良好じゃないのかなぁ・・・・・。そう思わずにはいられない彼女と神の間柄にちょっと心配になったのは別の話。それから旋回してアスフィの主神がいる大通りに案内してもらうと、羽付きの鍔広帽を被る橙黄色の神と同色の瞳、旅人の軽装服を身に包んだ優男神が手で傘を作って魔法の絨毯に乗っている二人を見上げている姿が見えた。

 

「お疲れアスフィ。何かヘファイストスの子供が絨毯から落ちたけど何かあったのかな?」

 

「・・・・・聞かないでください」

 

全面的に悪いのはこちらなのだからここで説明をしたら隣にいる少年から嫌味を言われるのが目に見えている。そしてその少年が言葉通り行動した。

 

「ふんっ!」

 

ゴッ!!!!!

 

 

「え、えっとー俺はヘルメス。アスフィ達の【ヘルメス・ファミリア】の主神だ。よろしくねヘファイストスの子供君。イッセー君って呼んでもいいかな」

 

帽子を取らないといけない程、男神の頭部は巨大なタンコブができていた。神の命で自分のゆとりの一時を邪魔された揚句、こうして会わされることになって思いっきり殴るのではなく踵落としで決めさせてもらった。アスフィの表情はどこか今までの鬱憤が晴れた様に少し満足げだったのは気にしない一誠。

 

「で、何か用なのか。俺に会いたいと言うんだからくだらない話だったらもう一回殴る」

 

「あはは、それは嫌だな。うん、もう痛いのはゴメンだから単刀直入に言わせてもらうよ。イッセー君の作った魔道具(マジックアイテム)、もしよければ【ヘルメス・ファミリア(こっちで)】販売させてくれないかな?」

 

男神の目的。それは今まで一誠がロキ達に作った魔道具(マジックアイテム)の売買の交渉だった。

 

「俺の【ファミリア】は探索系が主流だけど、商業にもちょっと手を出してもいる。主にアスフィが作った道具(アイテム)でね。これでもうちのアスフィの名前は商業系の【ファミリア】の間じゃあそれなりに有名なんだ」

 

「主神は何かしないのか?」

 

「俺はヘルメスだ。【ヘルメス・ファミリア】に持ち込まれる依頼を請け負い、依頼人の要望に応えて全うする。俺自身も必要あらばオラリオの外に出て情報や物など持ってくるよ」

 

どこぞの何でも屋の家族の友人を思い出す一誠。ヘルメスと言う神もあながち違いは無く、どこか飄々としながらも思っていたよりも堕神ではなかったことに安堵で胸を撫で下ろす気分を浸った。

 

「で、どうかな?正直、この空を飛ぶ絨毯は個神的に欲しいんだ。コレの上で移動できれば山を越え海を越え国すら軽々と越えられる。俺も仕事が捗るってもんさ」

 

「ふーん。でもこれ、非売品なんだけど。それに―――」

 

そこで腕輪の宝玉が点滅した。一柱と一人に見られながら宝玉に触れるとヘファイストスを映す立体的な映像が浮かび出した。

 

『イッセー、今大丈夫かしら?あら、そこにいるのヘルメス?久しぶりね』

 

「おおっ!何だこれは、ヘファイストスと話ができるのかい!?これも魔道具(マジックアイテム)なのか!」

 

『・・・・・顔近いわよヘルメス。今はイッセーと話をしたいのだから邪魔しないで』

 

鬱陶しいそうに顔を顰める現在の主神と会話を臨む為に絨毯の上に乗る。

 

「どした?武器の納品のことか?あれ、この流れ前もしたような・・・・・」

 

『ええ、武器の納品の事だけれどもう用意してある?』

 

「大丈夫、用意できてるぞ」

 

『わかった。ただそれだけを聞きたかっただけだから。それとヘルメスは何を考えているか分からない神って私達の印象だから一応気をつけなさい?』

 

酷いなーと背後で苦笑いを浮かべている男神に対して首肯する一誠。ヘファイストスのと通信はそこで終わり、映像を切って振り返る。

 

「で、この絨毯の話だったな。さっきも言いかけたけどこれは非売品だ。誰にも売る気はないよ」

 

「じゃあ、俺だけに創ってはくれないかな?もしも創ってくれるなら俺は君限定で依頼の報酬は無しで何でも依頼を請け負うよ。君が望む全ての物をこのヘルメスが持ってこよう」

 

芝居がかかったように帽子を持って胸に添え、紳士のように立ち振る舞うヘルメス。その提案にアスフィは二人の間で立って見守り、様子見する。そして一誠は静寂を保ち、三本の指を立てた。「条件が三つ」と唇に転がして男神に向かって言った。

 

「一つ、俺だけじゃなく何時か結成するかもしれない俺の【ファミリア】限定でさっきの条件を呑んでもらう。二つ、依頼した際の期限は最高でも一ヵ月以内だ。この二つの条件ができないなら絨毯は創らない。どうだ?」

 

「ああ、分かった。約束しよう。ヘルメスの名に懸けて。それで、三つ目の条件は?」

 

三本指を立てていた手を広げ、ヘルメスに差し伸べた。

 

「【ファミリア】の徽章(エンブレム)が欲しい。それが三つ目の条件」

 

数日後、十人は余裕で乗れる【ヘルメス・ファミリア】の徽章(エンブレム)を基に織った絨毯を完成させ、一誠との永久契約が交わされた。

 

「気に入った!これ、俺の宝物にするよイッセー君!それじゃ、早速俺は旅に出かけるから使わせてもらうよ。じゃあね!」

 

意気揚々と魔法の絨毯に乗り颯爽と飛んで行くヘルメスを見送るアスフィと一誠。こうしてヘルメスは超高性能な足と言う翼を手に入れたのであった。

 

「なんだか申し訳ございませんでした。主神様の我儘で非売品の物を創って貰って・・・・・」

 

「他の主神だったらしなかったがな。あの神様だったらまぁ、役に立つからしたに過ぎない」

 

「何気に買っているのですか?」

 

「神格はどうかなーだけど、行動力の広い神は素直に称賛している。オラリオだけが世界じゃないからな」

 

「・・・・・そうですね。その考えは私も同感です。あのイッセー」

 

「ん?」

 

「これからもできれば私と交流をしてくれませんか?同じ魔道具製作者(アイテムメイカー)、二人で様々な道具(アイテム)を作ってみたいです。私達しか作れないだろう最高の道具(アイテム)を作ってみたいです。私達しか作れないだろう最高の物を」

 

綺麗に微笑む少女の乞いは面白そうだと、彼女の手を取って腕輪を置いた。その腕輪はロキ達も腕に差して同じ機能を持っている代物だ。

 

「え、これって・・・・・」

 

「それがあれば何時でも何所でも俺と話ができる。用がある時だけ使ってくれよアスフィ」

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