ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか 作:ダーク・シリウス
18階層―――。
異世界食堂の常連であるヒューマン、獣人、ドワーフの三人組がリヴィアの街の白と水色の双子水晶の台座に腰を落としてこれから水の都へ冒険をする前の腹ごしらえをしていた。地上で事前に購入した魔法道具の弁当箱の蓋を開け、それぞれの好みの料理を温かい状態で食してから小休止する。
「ふぃー食った食った・・・・・」
「何時食っても美味いよな異世界食堂のメシ。まさかダンジョンの中まで食べられるようになったのは嬉しいぜ。モンスターを倒す活力が漲るってもんよ」
「まぁ、そのおかげで異世界食堂の酒がいつもより進んで飲んでしまうんじゃがな。ゴクゴクゴク・・・・・ぷはぁっー!」
販売されるようになった缶ビールと、高額で購入できる魔道具のカードの中に収納してまで飲むほどビール好きになったドワーフの口臭が嗅ぎ慣れたビールのもので、ヒューマンと獣人からツッコミを入れられた。
「「ここで飲むなよ!」」
「五月蠅い! 冒険前にこれを飲むと調子が出るんじゃわしは!」
「そうじゃねぇって! お前が飲んでる酒はダンジョンの中じゃ飲めない酒なんだ。簡単に手に入らないソーマの酒と同じぐらい価値あるんだぞ」
「ほら見ろよ。お前が飲んでる酒の匂いに釣られて飲みたそうな獣人が集まってくるじゃないか」
「なんじゃと? わしの酒を奪う奴はこの斧の錆にしてくれるわぁー!!」
「「止めろこのバカ!!!」」
すっかり異世界の酒の虜になったドワーフが暴れ狂う前に全力で押さえ付ける相棒達の苦労は今に始まったことではないが、好物を奪う者ならば相手が神であろうと容赦はしないのは異世界共通であった。
そんなリヴィラの街の何時もの日常とは他所に、東の最奥で氷漬けにされている不自然なオブジェクトを監視する一誠の分身体。木の上に寝転びここ一ヵ月以上は音沙汰もなく問題はなかったが・・・・・ついにその時が迎えてしまった。
ドォオオオオオオォォォォォォォォォンッ!!
神殿を埋めた土と氷漬けにした氷塊の一部が『爆発』した。すぐさま本体と視界を共有して成り行きを・・・・・蛇が出るか鬼が出るか待ち構える。粉砕された氷が穴を開き、神殿の奥から何やら音が聞こえてきた。ーーーとても聞き覚えがある駆動音、エンジンのーーー。
「おいおい、まさか・・・・・」
中途半端に残っていたとは氷の破片を物ともせず、その巨体と頑丈に作られた鋼鉄の装甲で押し退けるように砕き、巨体に比例して鈍重に関わらず、幾つもの鉄の車輌がゆっくりと鉄の塊を前進させる。それだけでなく鋼鉄で長い筒状の砲身が備わってあることから、分身体は失笑した。
「戦車・・・・・どこぞの自衛隊まで異世界に乗り込んでくるのかよ」
なお、その現実に本体が硬直した後にアスナと海堂を休憩室に呼びつけ神殿から戦車が現れたことを打ち明けた。
「せ、戦車ぁ~!?!!?」
「本当にイッセー!?」
本気で吃驚する二人に首肯する。
「大真面目に本当だ。ヤベー、異世界のどの国と相手しなくちゃならないのかよ今度は・・・・・」
「ど、どうするんだこれから?」
「これからすぐに向かう。分身体と入れ替わって対応する。最悪の展開、異世界同士の戦争だけは避けないとダメだってこれ」
「ですよねー!?」
「イッセーだけで大丈夫?」
「他の誰かを連れていったら確実に人質にされかねないから一人で行く。それでも構わないなら連れていくが?」
人質にされて一誠の邪魔になりかねないと察するアスナと海堂は拒み、分身体と入れ替わり安否を気にする二人に見送られながら18階層へと転移した矢先に。木の枝に立っている一誠とキュポーラから顔を出す茶色と緑のまだら色の服とヘルメットを被ったアジア系の中年男性と目があった。
「・・・・・(ペコ)」
「・・・・・(ペコ)」
何となく会釈すると男性も会釈して返した初コンタクトは成立した二人であった。
「・・・・・ん?」
ウィーン、と戦車の砲身が一誠に向けられ射撃をされそうになっていることに気づき、焦燥に駆られて共通語で制止の言葉をかけた。
「待て待て! 撃ったらこっちも応戦するぞ! 人ではないが俺にそんなもんを向けるな!」
両手で×を作りながら叫ぶ。キュポーラから上半身を出してる男性が初めて言葉を口にした。
「隊長、相手は戦う意思がないようです。聞き覚えがない言語ですがこちらの戦車を知っている模様です」
「って、日本人の自衛隊かい!」
「っ!? 日本語ッ、キミも日本人なのか!?」
久し振りに日本語で語る一誠に男性も驚きで目を見開いた。すると、他の戦車のキュポーラから続々と顔を出す自衛隊の男性達に苦笑いする。
「おいおい、神殿と繋がっている場所は異世界の日本なのかよ」
「異世界の・・・・・? すまないが降りてきて話を聞かせてくれないか」
戦車の上に飛び乗り、軽々と着地してみせた一誠は男性に尋ねた。
「先にこちらの質問に答えてほしい。ここに来た自衛隊の目的は?」
「我々は怪物の駆除とこの場所の調査を目的としている。先日、突如として日本に現れた神殿から怪物の群れが溢れだし、多くの民間人が命を落とした」
「へぇ、モンスターを全て倒せたのか?」
「・・・・・全てではないが、ほぼ駆逐したと思っている。未だにどこかに隠れ潜んでいる可能性も大にある」
一誠もそれには同感だと首肯する。
「次はこちらの質問を答えてくれ。ここはどこでどこにある場所だ? 日本人のキミがいるから日本なのか?」
「残念なから、ここは日本ではなくて異世界だ。しかもそっちの世界に侵出した怪物達が巣食う地下迷宮、異世界で唯一のダンジョンの中だよ」
「異世界の地下迷宮、ダンジョン!?」
「そ、しかも俺達が今いるところは地上から18階層下の迷宮な。上に行くにも下に行くにも、戦車や戦闘機は持ち込んでも出入り口が小さいし、ダンジョンの中は数多のモンスターが跋扈してるからこれ以上走らせることも飛ばすことも不可能。だから俺達冒険者は自分の足でダンジョンの中を歩き回るのが主流だ」
自衛隊達が信じられない事実にざわめく最中、これからどうするのか一人の隊員に委ねられた。
「失礼、もっとこの世界のことを詳しく教えてくれないか」
浅黒い肌にちょび髭の中年男性が一誠と男性がいる戦車に登りながら話に加わる。
「どちら様?」
「特地派遣方面隊方面総監。陸将の狭間 浩一郎だ。この隊の指揮官でもある」
「自衛隊の代表者か。俺は兵藤一誠だ。冒険者の名前ではイッセーと名乗っている」
「ではイッセー君と呼ばせてもらうよ」
構わないと握手を交わし合う。
「先に訊きたいのだが、キミのような人間・・・日本人は他にもいるのかね?」
「大人から子供まで俺が確認しただけでも二十人以上はいる。それも全員それぞれ異世界の日本からこの世界に二通りの方法で転移している。それについてはまた後で教えるよ。俺自身も元の世界からこの世界に転移した一人であるから」
「なるほど、深い事情があるのだな。イッセー君、ダンジョンとはどういったものだね?」
「自衛隊の中に漫画やアニメ、ゲームが好きな人間がいれば直ぐにわかることだけど。ダンジョンは千年以上前から存在しているモンスターが産まれる場所だ」
「モンスターが産まれる・・・では、我々が通ったこの神殿、ゲートから出てきた怪物達はダンジョンから産まれたモンスターであると認識でいいのだね?」
頷く一誠は人為的ではなく完全なる自然災害に等しいと説明する。
「この世界とそっちの世界を繋ぐ神殿が突然出現する予測は誰もできなかった。故にこちらも対処が遅れて申し訳ないが、神殿にこれ以上のモンスターの進出を防ぐため厳重に埋め立てたんだが・・・・・」
「・・・・・」
神殿の奥まで戦車や車が続いて停車している。これでは塞いだ意味がなく、再び異世界へモンスターが進出してしまうことになってしまった。一誠と狭間は揃って神殿の方へ意味深に視線を送った。
「見事に自分達からまた危険を招くことしたな。どーするつもりなんだ?」
「あのゲートを中心に拠点を作り、モンスターを駆除するつもりだ」
「それ、無理だぞ。この中はダンジョンでモンスターが無限に等しく産まれるんだ。持参してきた装備でモンスターを倒しても一時しのぎにしかならないぞ」
「では、他に方法はないのかね」
「ゲートの出入り口を塞ぐほかない。18階層のモンスターはそこまで強くはないから、硬度の高い金属で囲えばそっちの世界に行くことができない。それが最善の方法。だから狭間さん達は元の世界へ帰還することを勧めるよ。ダンジョンの中に素人が長居したって死ぬだけだから」
というかそうしてくれない? と狭間を説得する一誠であるが、彼は首を横に振った。
「私の一存では決められない。総理にイッセー君の話を伝えて指示を仰がねばならないのだ」
「じゃあ、今すぐそうしてくれない?」
「無論そうする。が、隊員達と拠点の建設に入らねばならない」
「マジで拠点を作る気なのか。まさか、ショベルカーまで引っ張ってくる気か?」
「そのつもりだ。何か不都合なことでもあるのかね?」
不都合・・・・・と腕を組んで考える仕草をする一誠は、しばらく思考の海から戻り狭間に問いかける。
「どのぐらいの規模の拠点を構築するつもりだ?」
「我々に必要な施設を設ける為には、やはりこの辺りの木々を切り拓いて更地にしなくてはいけないな」
「だよなー。言っておくが、ダンジョンの中に群生している植物は時間が経つと再生するぞ。もちろん地面や壁もだ」
「再生・・・・・とはどういうことだ?」
「文字通りの意味だ。ダンジョンはダンジョン内の構造物が破壊されようと時間を掛けて自動的に修復する仕組みになっているんだ」
徐に東の最奥の位置からでも見れる大樹を指す一誠。
「あそこに見える巨大樹ですら一週間以内に再生して元に戻るぞ」
「・・・・・信じられん。植物の生命力の神秘どころのはなしではないぞそれは」
「無限にモンスターを生み続けるダンジョンなんだから、傷ついたダンジョンを人間の臓器の如く自然に直すのは別段不思議ではないんだ。というか、異世界の可能性を考慮してなかったのか?」
そこで狭間なあることに気付く。
「つまりは、この辺りの木々を伐採しても一定の時間に経つと再び伐採が可能、そういうループを繰り返すのか?」
「無限に資源を確保できるぞ。ダンジョンの中の全ての資源がな。あー、さすがに石油とかはないけどな」
今更ながら自分達はとんでもない場所へ来てしまったことに気付いた自衛隊達を気にせず、戦車から降りる一誠は木の上に戻りそのまま座り込んだ。
「取り敢えず、狭間さん達の邪魔はしないつもりだけどこのまま監視はさせてもらうよ」
「我々と敵対する可能性があるからか? 私達を監視しろと誰かの命令を受けて?」
「いや、これは俺の独断だ。そもそも俺は狭間さん達のような異世界から来た人間の対応と生殺与奪の権利を丸投げされているから義務を果たしているだけだ。当然ながら狭間さん達の存在をギルドに報告させてもらうがな」
「ギルド?」
「オラリオの都市運営、冒険者および迷宮の管理、魔石の売買を司る機関―――オラリオってのはダンジョンの上に存在している都市の名前だ覚えておいて」
ダンジョンの上に都市があるのか、と自衛隊員から聞こえてくる驚きの声。初めて訪れ最初に侵入した先は異世界のダンジョンの中。モンスターが巣食うダンジョンの上に国や都市、町村があるなど考えもしなかった。
「イッセー君、オラリオの代表者と話を求めたいと言ったら可能かね」
「できなくはない、と言っておく。それより拠点の建設の作業をしなくていいのか? この話の続きはそれが終わってからにさせてもらうよ」
「・・・わかった。こちらとしてもこれ以上の遅れを取るわけにもいかない」
それから一誠が木の上で監視している間に自衛隊達は拠点作りに精を出した。開拓されていく、舗装されていく、簡易の建物が増えていく様を時間が許す限り見守り続けた。時には一誠も協力したり、モンスターの襲撃から守ったりしていく内に、戦車や戦闘機などの大型兵器は持ち込まれなくなった代わりに人員と物資が大量に完成した拠点に置かれた。
異世界―――日本
「総理、特地での拠点は無事に完了した模様です」
「ではいよいよ自衛隊はダンジョンの外に出られ、オラリオの代表との謁見が叶うのですね」
「オラリオの情勢は意図的に秘匿されていますが、それ意外では無限に資源を確保できるダンジョンの情報は今にも信じがたいです」
「しかし、自衛隊からの報告では嘘偽りない事実。現にダンジョンの資源を惜しみ無く提供してくれている」
「それらを大学と企業、研究員の地質学者と鉱物学者、植物学者から現地の調査の許可の連絡が止まりませんが」
「今はまだ自衛隊のみしか許可できないと返答するように。彼、異世界の日本人の兵藤一誠君が我々と異世界に住んでいる唯一の架け橋となってくれている状況に、仕事を増やしてはいけないですから」
「かしこまりました」