ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか   作:ダーク・シリウス

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冒険譚5

37階層は『白宮殿(ホワイトパレス)』とも呼ばれている。その名の謂われは白濁色に染まった壁面と、そしてあまりにも巨大な迷宮構造だ。上部(これまで)の階層とは度合い(スケール)そのものが異なり、通路や広間、壁に至るまでのすべての要素が広くて大きい。この階層には休息(レスト)に使用できる小部屋など例外も存在するが、殆どの道や『ルーム』は幅十Mを優に越えている。また円形の階層全体が城塞のごとく五層もの大円壁で構成されており、階層中心に次層への階段が存在する。37階層はその広大さもあってモンスターの数は40階層以上の領域では群を抜いており、次産間隔(インターバル)も非常に短い。

 

 

『ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』

 

「流石は深層、モンスターの強さと数が明らかに違うことを感じ取れるなっ!」

 

 

前衛は一誠とフィン、中衛はリヴェリアとアイズとアリサ、後衛は椿とガレスの配置で37階層のモンスターと戦闘を臨む。巨身のモンスター『バーバリアン』のモンスター専用、ダンジョンの一部の天然武器(ネイチャーウェポン)ごと一刀両断して灰に変えた。資料で得た情報通り、この階層では戦士系(ウォーリアー)のモンスターが多く出現する。猛牛(ミノタウロス)の体格を誇る『バーバリアン』、19階層から現れる蜥蜴人(リザードマン)の上位種『リザードマン・エリート』、黒曜石の体を持つ『オブシディアン・ソルジャー』と人の体と同じ構造を持った中型級以上のモンスターが白宮殿(ホワイト・パレス)を跋扈してる。

 

「!」

 

「アイズ、前に出過ぎるな!」

 

中衛の三人に三匹の『リザードマン・エリート』が奇襲する。37階層のモンスターはLv.3、あるいはLv.4にカテゴライズされる。Lv.2のアイズにとっては絶対の強敵の筈。それが複数同時に襲われることになれば苦戦どころじゃない。Lv.1の冒険者がミノタウロスと戦っているような感じだ。でも、その冒険者とアイズの違いは心構えが出来ているというとこだ。

 

「【母の風よ(エアリエル)】!」

 

攻防一体の風の鎧を身体に纏い、祝福の風剣(リィン・フォースソード)を両手に産まれたてのモンスターへ飛び掛かった。『リザードマン・エリート』の盾が構えられ小さな風の塊を受け止めんとする。リヴェリアの制止を振り切って、下段から上段に剣を振り切る。

 

「「「ガッ!」」」

 

天然武器(ネイチャーウェポン)の盾で防いだ『リザードマン・エリート』の体に血飛沫が迸る。だが、残りの二匹が左右から死を誘う得物が振るられた。金眼が鋭く格上のモンスター達の攻撃を瞬時で膝を折って体勢を崩し瞬間。紙一重で数本の金髪が宙に舞うだけの些細な犠牲を払った少女は、お留守の脚を狙って横薙ぎに剣を振るって両断した。体を支える支柱の軸が無くなると立ってはいられなくなり、バランスを崩して地面に倒れ込むモンスター達を見逃さず、一撃必殺の魔石を狙った攻撃をする。天井に向かって飛び、天着するアイズは矢のように跳躍し、胸部を切り裂いた。灰燼と化するアイズが屠った頃には一誠達も既に倒し切っていた。しかし、そんなパーティに休息の束の間は訪れなかった。椿が何かに気づいたように顔を動かす。ビキリ、と壁に亀裂が入る。モンスターが産まれる予兆だ。一行を包むほどの音と共に壁に生じる亀裂が広大に―――。

 

「ん、またか」

 

「うむ、そのまたかのようであるな。―――怪物の宴(モンスター・パーティ)だ」

 

天井、左右の壁面から一気に『バーバリアン』や『リザ-ドマン・エリート』。流石に囲まれた状態で戦うのは―――。

 

魔剣創造(ソードバース)

 

面倒くさいの一言に尽きる一誠による、ダンジョンの地面から数多で様々な武器が飛び出して串刺しの刑。天井まで伸びてモンスター等は武器の餌食と成って灰と還す。

 

「・・・・・」

 

「おおう、やっぱり摩訶不思議であるぞこれを見る度に」

 

目の前で飛び出す武器にアイズは茫然と立ち尽くし、興味深々に魔剣を触れる椿。

 

「名前を付けるなら鍛冶殺しか?」

 

「手前らの存在意義を失わせるか。それは何とも皮肉な」

 

苦笑を浮かべる椿に釣られて笑む。ほどなくして全ての武器は勝手に砕け散り、まだ灰と成ってないモンスターの死骸が落ちる。魔石とドロップアイテムを収集し終えると移動を再開する。迷宮の陥穽(ダンジョン・ギミック)から静寂が支配する通路を進んで行くと、やがてこれまでより大規模な『ルーム』に辿り着いた。アイズを庇いつつ広間の中にいた大量のモンスターと交戦するものの数分でモンスターを全滅させる。一息つくと、そこへビキリ、と。「またか」視線を床に下ろし、亀裂音が響き蜘蛛の巣に似た罅割れを広げながら、次には十以上のモンスターが地中より生まれ出る光景を目の当たりにする。肉も皮も存在しない、白骨だけの姿。

 

「骸骨?」

 

見た事のないモンスターに率直的に思った事を口にしたアイズ。肋や骨盤が剥き出しになっていて、全身の骨格は随所で鎧のように鋭く隆起して、尖っていた。それぞれが骨の剣や骨の斧、骨の盾を最初から装備して現れたのは、骸骨のモンスター。椿が言う『スパイルトイ』

 

「はい、魔剣創造(ソードバース)

 

広範囲攻撃で一気に殲滅。あっという間に静けさを取り戻してその場で腰を下ろす。

 

「結局ここまで来たけど、フィン達も来ることは無かったと思うぞ」

 

「でも、アイズも一緒に行きたいと求められたんだろう?お目付役として僕達も同行する以外にも君の戦いぶりをこの目で見たかった」

 

「イッセーと行けば手前も一人では直ぐに収穫できない武器素材(ドロップアイテム)を手に入れるのだ。ダンジョンに行くのであれば手前はついていくぞ」

 

二人の思いを聞き、それ以上何もいわなかった一誠はこのパーティでダンジョンに行くことになった経緯を思い出す。それは数時間前のこと―――。

 

「イッセー、模擬戦したい」

 

「わかった。でもその前にダンジョンに行きたいからその後でもいいか?今日は目的の『ドロップアイテム』を集めたいのとあの日だから」

 

「あの日?」

 

「ん、階層主が出てくる日だから魔石と『ドロップアイテム』を手に入れたい。そう時間も掛けないから直ぐに戻ってくる」

 

リヴェリアと椿の前で今日の予定を打ち明けた朝食時。食べ終えて食器を片づける少年に乞うた少女がダンジョンという単語を耳にした矢先、椅子から降りて一誠の脚衣を掴んでクイクイと引っ張った。

 

「私も行きたい」

 

「駄目だ」

 

すかさずリヴェリアが許さなかった。目を瞑っている己の師の一人に不満げな顔と目を向けるアイズに彼女は諭す様に言う。

 

「『深層』に行くならば私が許さない。イッセー、どこの階層に行く気でいるか教えろ」

 

「そのまさしく『深層』。ウダイオスを討伐しに行く気だ」

 

「む、そこまで行く気なら尚更手前もついて行くぞ」

 

挙手する椿も同行したいと願う。目的は二つ、打った試作品の試し切りと怪物のお宝(ドロップアイテム)の収拾に他ならない。椿ならまだいい。だが、アイズはまだ幼く強く在りたいと言う強い憧憬を抱いて自分の体を顧みない危ういところがある。それなのに『深層』に行かせたら身を滅ぼしかねない。「まだお前は早すぎる」とアイズの安否を考慮した上で反対するリヴェリア。が、当の少女は「行くっ、連れてって」と一誠に駄々をこねる。アリサも強くなりたいと目で訴える。

 

「アイズ、お前が行けばイッセーの足手まといになる。邪魔をしかねない。何より、あの階層主と戦うなど私が絶対に許さん」

 

「邪魔なんてならない、足手まといにもならないっ。イッセーと一緒にダンジョンに行きたいっ」

 

「アイズッ」

 

我儘を言う娘に母親は心を鬼して怒る。鬼気迫る勢いで立ち上がり、近づいてくるハイエルフの彼女に必死の抵抗とばかり全身を使って一誠の脚に抱きつくようにしがみついた。

 

「イッセー、お前からもアイズを説得しろ」

 

「イッセー、連れてって!」

 

何この状況。まるで母と娘から求められる父親の様な図だとこの瞬間、椿もそんな感想を抱いていた心が一致した時―――腕輪の宝玉が点滅した。通信相手はフィンだった。金髪に碧眼の小人族(パルゥム)の姿が立体映像に映る。

 

『やぁおはようイッセー。今話しても大丈夫かな』

 

「今丁度、親娘喧嘩の渦中に立たされていたところだ」

 

現在の状況を知らせるとフィンは苦笑を浮かべた。どこに行っても二人は変わらないね、とそんな表情だった。

 

『何となく推測できるよ。だからこそ僕とガレスは今やることがないから一緒にダンジョンにでもどうかなって君達に誘いを持ちかけてみた。どうかな?』

 

「・・・・・フィン」

 

「・・・・・!」

 

タイミングが悪かったな、と顔を片手で覆い嘆息するリヴェリアに対して目を輝かすアイズと相反する反応にそう思った一誠。

 

 

 

そんなこんなで結局はアイズの願いが叶って終始ご満悦だ。そして張り切ってモンスターをバッタバッタ斬り伏せていく。残骸として残る『ドロップアイテム』は椿の背嚢の中に収められていく。彼女もご満悦だ。アリサも格上のモンスター相手に四苦八苦して一誠達に守られつつも魔石破壊で何とか倒す。

 

「ところでイッセー。『オブシディアン・ソルジャー』のアイテムだけ集めているようだけど、また何か作るのかな?」

 

「魔法の耐性があるんだろ?俺もその専用の武器や武具を作ってみたくなった」

 

「だから『深層』にも足を運ぼうとしたわけか」

 

「まだまだ量が欲しいから付き合ってもらうぞ三人とも。そんでこの戦いにもな」

 

不意に。小さな、本当に僅かな振動が、皆の体を揺らした。その現象の意味は何なのかアイズとアリサ以外の皆は知っていた。

 

「来たようだな」

 

「アイズ、アリサ。お前達は絶対に私達の傍から離れるな」

 

立ち上がり、戦闘準備をした。地面が揺れ、少しずつその振動は大きくなっていく。やがて―――ビキッ、と。岩の悲鳴と共に、夥しい亀裂が生じた。地割れの如く、大地が割れる。周囲に走り抜ける裂け目は留まる事を知らず、次には目を疑うような漆黒の巨石が地面を破り、はるか頭上までその身を伸ばしていく。巨石に引っ掛かった岩と土砂が揺れ落ち、土石流のよう降り注いだ。広間の揺れは一向に収まらない最中、獣―――モンスターの牙の様なものが中から岩の表面を突き破り、亀裂音が生じる巨石は牙かと思ったそれに左右へ剥がされる中で姿を露わした漆黒の怪物。

 

「・・・・・こいつが、この階層の主か。噂通りの姿であるな」

 

「「っ・・・・・」」

 

全貌をさせる37階層に君臨する『迷宮の孤王(モンスターレックス)』。

 

Lv.6、『ウダイオス』。

 

『スパルトイ』をそのまま巨大化させたかのような骸骨のモンスター。全身が漆黒に染まっている。黒い骨格は見ているだけで中に吸い込まれそうであり、不気味とも剣呑とも取れる鋭い光沢を帯びていた。下半身は地面に埋めたまま、骨盤から上のみの体はそれだけで十Mに迫るほどで、前のめりに折れ曲がる背骨―――無数の椎骨が震えながら意思を持ったように波打っている。頭部には(オウガ)を彷彿させる捻じれた二本の角を生やしており、闇が充満する眼窩の奥では、朱色の怪火が小さく揺らめいていた。巨躯の中心、胸部内部では、今まで見たことのない規格外の大きさの魔石が太く分厚い胸骨と肋骨に守られているように存在している。初めて見る階層主を対峙するアイズとアリサは心底から戦慄する。あれは今の自分では絶対に勝てない怪物(モンスター)だと得物の柄を握る手が固く握りしめながら恐怖する。父親達が相手にしていたという階層主と相見えて初めて怖いと感じた。

 

「イッセー、一応聞くけど大丈夫なんだろうね?」

 

「何度も相手をしているから問題ない」

 

「がははっ、頼もしい限りじゃわい」

 

「私達もできる限りサポートはするが、無茶だけはするな」

 

フィン、ガレス、リヴェリアの順に言葉を掛けられ、それを最後に17階層と27階層の階層主より強いウダイオスに歩み寄る。その途中、段々と速く走り、駆け出して一直線、敵の懐へ飛びこむ。

 

「―――ふんっ!」

 

正拳突きを必殺技に昇華させた、彼の少女の技を繰り出し、ウダイオスの胸骨に突き出した。

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!?』

 

一瞬で一撃を食らったウダイオスの上半身が後ろへ倒れ一瞬の硬直後、揺らめく朱色の怪火(ひとみ)に真紅色の影が視界に映り込む。

 

「どうした、もう終わりか?」

 

真紅色の影を睨め付け、剥き出しの長骨が黒く照る歪な両腕、その巨大な鈍器を押し潰さんと左右から槍のように突き出す。一誠は両腕を左右に突き出し、ウダイオスの漆黒の巨手の突きを全身に衝撃が伝わりながらも受け止め、まだ攻撃手段を残している片足を真上に掲げ、勢いよく振り下ろしてウダイオスの胸骨を踏みつけた。

 

『ウゥゥッ!?』

 

伝わる凄まじい衝撃にウダイオスを警告させた。何度も踏まれれば自分の身は危ういと感じさせた程、衝撃が強かった。上半身をバネのように起こし上げ一誠を押さえつけたまま胸骨から遠ざける。このまま攻撃をさせず押し潰す気でいる階層主相手に不敵の笑みを浮かべる。階層主の手を押さえる両手から真紅の魔力が放たれ、弾かれる様にしてウダイオスは両手を広げてしまった。魔力は遠く離れた壁にぶつかって大きな穴を残して貫いたその威力は、初めて見るオラリオ最強の魔導師のハイエルフの翡翠の双眸を見開かせた。詠唱も無しに、魔法名も言わず巨大な穴を作る魔法攻撃は眼前の骸骨の王にも向けられる。怪火(ひとみ)は真紅の一色に染まった。

 

『ルゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!?』

 

腕を交差して魔力の砲撃を受け止めるウダイオスは、地面から漆黒の剣山、逆杭(パイル)を放って一誠を貫いた。下からの奇襲に対応が遅れたのか、真紅の砲撃が突然止む。両腕全体に罅が生じて動かせば軋み、破片が零れ落ちる。だが、相手は今の攻撃だ確実に―――と眼前に差されている筈の人間の姿は無かった。交差する漆黒の逆杭(パイル)だけが残っていた。―――奴はどこに?と眼窩の奥で灯る怪火(ひとみ)は真紅を探そうとした。直後。顎の下から視界が激しく揺さぶられる衝撃が襲った。

 

「はっ!」

 

すかさず回し蹴りで、ウダイオスの胸骨に罅が生じながら後ろに倒れ込んだ。同時に一誠は皆の所へ戻った。

 

「・・・・・普通に問題無く戦ってるね。LV.6の潜在能力(ポテンシャル)のモンスター相手に」

 

「じゃあ、俺はそれ以上だってことだろう?」

 

不意にウダイオスが吠えた。まるで母体(ダンジョン)に呼び掛けるように地面へ手を当てて咆哮し、次には、王を守る雑兵のように大量の『スパルトイ』が地面から産まれ出た。武器を携えた白骨の戦士達が一誠達の行く手を阻む。

 

「そんじゃ、雑兵の相手は任せるぞ」

 

「さっさと倒してこい」

 

黄金の剣、約束された勝利の剣(エクスカリバー)を腰に佩いていた鞘から抜剣し数多の『スパルトイ』に飛び込んで、一緒に来たガレスとフィンの斧と槍の一振るいで生きた屍は殆どただの屍と化して宙に舞った。白い破片の中で突き進み、近づけさせないと漆黒の逆杭(パイル)が飛び出して伸びる最中に切り捨てられる。それだけで終わる筈もなく四方八方から射出する死の長槍に貫かれ―――る前、瞬間的に一誠の姿が掻き消えた。

 

「黒き骸王ウダイオス。王と名乗るなら剣をまた手に取り戦えよ」

 

そのまま超高速による攻撃をするまでも無く、眼前に立ち止まって剣をウダイオスに突きつける一誠。

 

「お前を簡単に屠ることは容易いけどそれじゃダメだ。だから願い望む。王と称されているならば、王と名乗るならばまた剣を手にしろ、そこから這い上がって―――心躍る最高の死闘を繰り広げようウダイオス!」

 

モンスター相手に何を言っているんだ、常識人な冒険者達がここにいれば呆れ果てていただろう。相手は階層主。殺戮と蹂躙、破壊衝動しかない人類の敵だ。一誠の口頭に応じる筈が・・・・・。

 

『ウゥゥ・・・・』

 

漆黒の骸骨は、眼窩の中の炎を燃やしながら、一本の逆杭(パルス)を大地から召喚する。一誠の思想に応じたのかどうか定かではないが、伸びて、伸びて、まだ伸びるそれは長大な漆黒の柱としてウダイオスの眼前に現れた。轟く漆黒の指骨が掴み、抜き取る、同色の柱―――一本の剣。全長は六M。一誠達からすれば極圧厚の長剣。ウダイオスからしてみれば細枝にも満たない短剣。その短剣を持つ反対側の指骨が地面に当てた。スパルトイを召喚するかと思っていたフィン達だったが―――ウダイオスは咆哮しながら、力を入れるように上半身を震わす。ズ・・・ズズズッ・・・・・!骨盤の下から地面に埋まっていたウダイオスの下半身が、植物の根っこを地面から引き剥がされたように少しずつ、少しずつ脚の長骨を覗かせ始める。

 

 

そして、ウダイオスは―――初めて冒険をする。

 

 

『――――!!』

 

『ルーム』全土が攻撃範囲だったウダイオスが自らそれを放棄し、37階層に君臨する『骸王』として『二本の足』でさらに威厳と王としての風格を得た。十数Mの巨躯を誇るようになったウダイオスと歓喜の瞳を左目に宿し、黄金の剣ことエクスカリバーを前に構える一誠。

 

 

「ウダイオスが、立った・・・・・?」

 

「有り得ん、そんな情報はギルドにですらなかった」

 

「じゃが、目の前の現実を受け入れる他ない。まったく、イッセーとおると毎度毎度驚かされるわい」

 

 

「よっしゃー!来いウダイオスッ!」

 

『ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!』

 

 

「あやつ、心底楽しがっておるようだの【人形姫】」

 

「・・・・・私も、強くなる・・・・・っ」

 

「わ、私だって・・・・・!」

 

そう言ってアイズとアリサが―――ウダイオスに飛び掛かって、あっさり足蹴りを受けて「「「「アイズ!?アリサ!?」」」」と椿を除いて一誠達に悲鳴を上げさせたのであった。

 

一行の探検は極めて異例で異常な光景を最後に終わった。ギルドには敢えて伝えない。伝えたところでこれからもあの階層主が同じ行動をするとは限らないとフィンの考えで決まった故に。一度【ステイタス】の更新にロキのもとへ戻るアイズと別れる一誠もへファイストのもとへ訪れた。

 

それから【ヘファイストス・ファミリア】に転属して一ヵ月後。何度も『遠征』を経ても―――。

 

「・・・・・全然変わんないわね、貴方。本当に今日もダンジョンに行ったの?」

 

「・・・・・Oh」

 

 

相変わらず【ステイタス】が伸びない堪った不満と鬱憤で―――工房に籠って『オブシディアン・ソルジャー』の『ドロップアイテム』と希少金属(レアメタル)を主に素材として何かを作り出す一誠を、吹き抜けの扉から顔を覗かせる四人。リヴェリアとアイズ、アリサは一誠の停滞の理由を知っているが、それを何も知らない椿に口にすることはできず慰めの言葉を送れずにいた。

 

「今日で一週間目であるぞ。そろそろ手前はイッセーの料理が恋しくなってきていると言うのに、あやつは何かに取り憑かれたかのように一心不乱に打っておるが・・・・・」

 

「不眠不休でずっとあの調子だ。何やら盾のようなものを作っているようだがな」

 

「イッセー・・・・・」

 

「・・・・・」

 

心配そうな目で見守られていることすら気付かず、熱した塊に振り上げて振り下ろす鎚で力強く叩き、不純物を取り除く一誠の顔は鬼気迫っていたので声を掛けることはできまいとそっと工房から離れる四人だった。

 

彼の者の状態をへファイストの耳に入った。どうにかならないかと椿からの相談で顎を組んだ両手に乗せて、執務机に肘をついて「そうね・・・・・」と相槌を打つ。

 

「何も変わらないけれどもう少し様子を見守った方が良いんじゃないかしら?完成したら否が応でもあの子は動くでしょうし」

 

「やはりそうなるか。しかしそれだと何時になればイッセーの手料理を食べれるのだろうかと思ってしまうぞ主神様よ」

 

「貴方、それが一番心配してるでしょう」

 

何時の間に鍛冶師(スミス)から食道者(グルメ)になったのかこの眷族は、と嘆息する。よっぽど気に入ったのか、これまで食べてきた料理の感想と説明をし出す始末だ。それこそ鍛冶神が食べたことが無い物ばかり。あからさまに自慢話しを聞かされている感じでならないので、仕方なく、仕方なくだ。

 

「・・・・・分かったわよ。そこまで言うなら私から一言だけ言うわ。それでいいでしょ」

 

「おお、ありがたい。では早速」

 

丁度昼前、腹が空腹を訴える前に行動をする。あわよくばそのまま一誠の手料理を食べようと女神はちょっぴりだけ思ったのは椿が知る由もない。

 

そんなこんなでヘファイストスは椿と共に今でも工房で籠っているだろう一誠のもとへ侵入不可の家に腕輪の機能でやってきた。真っ直ぐ工房に足を運んで見るが、一誠の姿は無くもぬけの殻だった。

 

「いないじゃない」

 

「朝はいたのだが・・・・・」

 

部屋か?と予想で工房を後にし、少年の自室に椿はヘファイストスを案内して行ってみる。上階へ繋がる階段を上って通路の中部当たりの黒檀の扉まで近づき、静かに開けてみたところ。部屋の中に顔だけ入れて周囲を見渡す紅眼は天蓋付きのベッドの中で寝ている一誠を見つけた。

 

「寝ておるわ」

 

「一週間も不眠不休でしてたのでしょ?寝ていても不思議じゃないわ」

 

部屋の中に入り、直ぐ隣まで近づき寝顔を見下ろす。疲れの色が出ている一誠の顔。深い眠りに入っているようで一向に起きる気配はないので周囲を見渡すと椿は大きな盾を見つけた。

 

「主神様よ」

 

「それがそうなのね?随分と変わった盾ね・・・・・」

 

身の丈ほどもある十字架型の盾が椿の手に握られる。一目で見て希少金属(レアメタル)が使われた防具であることがわかる。触れれば十字架の部分は超硬金属(アダマンダイト)の刃、盾の部分は最硬金属(オリハルコン)でどちらも魔法に対する耐性の効果を持つ黒曜石が交ぜられている。

 

「攻守一体の盾と言うわけか。それに魔法の耐性を持つ盾は珍しくは無いが、盾に刃を備えさせる発想は手前でも思いつかん」

 

「持ってみてどうなの?」

 

「重い。ドワーフか力に自信のある冒険者にしか扱えんよこれは」

 

その場で軽く盾の内側につけられているグリップの部分を持って振るい回すと、通常の盾ならともかく刃付きなので安易に近づくことはできない。

 

「ふむ、イッセーは奇妙な物を作る。が、手前は嫌いではない。鍛冶師(スミス)の常識の斜め上を行き、常識はずれなことをするからかこういう物を作れるのだろう主神様よ」

 

「貴方にとっていい刺激になるかしらね」

 

椿は笑みで返す。やはり面白い。鍛冶師(スミス)として一誠の言動と発想は刺激的でいっぱいだ。次はどんな発想をして常識を超える物を作るのか、もっと傍で見てみたくなった。

 

「それにしてもこの子、どうする?」

 

「むぅ、寝ているなら起こすべきではないだろうが・・・食堂の方へ行ってみる。何かあるかも知れんからな」

 

盾を置いて部屋からいなくなった椿を見送ったヘファイストスは今も眠っている少年のベッドの縁に腰を下ろして、左の紅眼で見つめる。ロキが曖昧に言葉を濁す一誠の秘密は謎だらけだが、こうして寝顔を見ているとまだ幼いところが抜けていない気を感じさせる。ふと、眷族の寝顔を見るのは今回が初めてではないだろうか?だとすると、今とても貴重な状況だろうと眠る少年に珍しく悪戯心が湧いた。少年の一房を掬い取って毛先を鼻の方へ持ってくすぐり刺激を与える。

 

「・・・・・んんっ」

 

「ふふっ・・・・・」

 

とても嫌そうに眉根を寄せて女神に背中を向け反対側に寝返る。その反応が初々しくて、初めて眷族を悪戯するという好奇心にヘファイストスはベッドに乗り出してもう少しだけ楽しみたいと、また鼻をくすぐる。

 

「うんんっ・・・・・」

 

くすぐられる鼻が堪らないと布団の中に隠れつつベッドの縁まで再び寝返った。このままくすぐってベッドから落ちたら笑うのは必須だろうと彼女は―――それが見たくて距離を詰めて隙間からくすぐる。そして、一誠は女神の想像通り・・・・・とはいかなかった。布団からヘファイストスの腕を掴む手が飛び出して「え?」と驚く女神は勢い良く引っ張られ体勢を崩されるとそのまま布団の中に引きずり込まれた。温もりが籠る薄暗い布団の中でこの状況に若干理解が追いつけない時、己を覆い被さる少年の開いた眼が据わっていた。眠っているところを悪戯されて不愉快と不機嫌な表情を浮かべてもいる。怒らしちゃった、と思ってももはや後の祭りだ。

 

「・・・・・人の安眠を悪戯で妨害されると・・・・・凄くイラつくんだけど」

 

「ゴメンなさい・・・・・もうしないわ。だから、退いてくれると嬉しいのだけれど」

 

「・・・・・嫌だ。俺もお前に悪戯をする」

 

仕返しだと一誠は・・・・・ヘファイストスに顔を落として、あろうことか何億年も守ってきた形で誰にも奪われたことが無い唇を重ねて奪ってしまった。

 

「―――――」

 

異性や動性すらしたことがない口付を眷族になってまだ数ヵ月の相手としてしまったその事実と衝撃は計り知れない。停止しかけた思考は、口の中で蠢く生温かい蛇の様な動きをする触感を嫌でも伝わって戻った。

 

「んん―――っ!?」

 

口付をしたことのない初心なヘファイストスは、椿が作り置きしていた揚げ物を半分ぐらい食してから戻ってくるまで、丁寧で優しく、そして激しく情熱的な一誠のキスに翻弄と蹂躙をされつくされ瞳は熱い眼差しで一誠に潤った瞳を晒し、熱く荒い息を断続的にしながら蕩けた顔、女の顔を自覚も気付くこともなく晒す。そして、二人の唇が離れ粘着性を持つ銀糸の橋が出来上がった。これで終わり・・・?と淡い希望を抱いて安堵する女神の思いは裏切られる。

 

「・・・・・ヘファイストス、可愛い」

 

「あっ―――!?」

 

 

 

「あいや、すまんな主神様。待たせてしまった」

 

「・・・・・遅かったわね。あったの」

 

「うむ、あった。美味しそうであったのでついつまみ食いをしていたら遅くなってしまったのだが、顔が赤いぞどうした?首も押さえて」

 

「な、何でもないわ。それより私は急用ができたから店舗(テナント)に戻るわよ」

 

「昼食は?」

 

「いらないっ」

 

腕輪の機能で椿の目の前から姿を消すヘファイストス。一体どうしたのだろうかと不思議で小首を傾げるが、持ってきた料理の香りに意識を覚醒した一誠がゆっくりと身を起こす。

 

「・・・・・飯か」

 

「おお、イッセー。起きたか。ほれ、お前が作った物を持って来てやったぞ」

 

「・・・・・他に誰かいたか?」

 

「おう、主神様が今さっきまでいたが用事で直ぐに帰ってしまったぞ」

 

「ん、そっか。何か赤い眼をした女性とキス、口付をした夢を見たんだけどそれが凄く現実的だったんだ」

 

「・・・・・それはもしかして、手前のことかの?」

 

「どうだろ、今曖昧で良く顔が浮かんでこない」

 

 

 

執務室に戻り、未だに引かない紅潮は紅髪と紅眼より赤かった。まさか、悪戯でキスをされることになるとは思っても見なく、抵抗できた筈なのに何故か抵抗しなかった自分に当惑して混乱する。指で触れる唇にまだ残っている少年の唇の感触。重なった唇の間で己の口は彼の少年の舌で弄ばれた。形容しがたい快感が女神の脳髄に焼き付け全て夢ではないことを突き付ける。それらが彼女の心臓を激しく、五月蠅く高鳴らせキスした記憶が鮮明に脳裏で甦る。

 

「――――っ」

 

まだ好意を抱いてもいないのに強引で唇を奪われた。それは事実だ。しかし、ヘファイストス自身は本当に混乱していた。何故か嫌ではなかった。寧ろ成されるがままでい続けたら自分はどうなっていたのだろうかと気になっていた。もしかして、自分は受け入れていたのだろうか―――?

 

「どうしよう・・・・・私、あの子の顔を見れないかもしれない」

 

熱くなっている顔を自覚しながら両手で包むように添えて、羞恥でいっぱいでいる彼女と同じ頃。終始見ていたドラゴン達が面白おかしくヘファイストスに何をしたか説明させ、「俺は何てことをっ」と似た反応をしていたのだった。

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