ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか   作:ダーク・シリウス

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冒険譚7

ダンジョン『中層』17階層―――。朝から張って狙っていた『迷宮の孤王(モンスターレックス)』ゴライアスと一人の冒険者が激しい攻防を繰り広げていた。巨大な拳が唸りを上げて圧砕せんと構えられる十字架型の盾に殴るが壊れる気配は感じない。盾を持つ冒険者も同様だ。雄叫びを上げて微動だにしない不動の盾に苛烈な打撃を加えて冒険者の足場をめり込ませていく最中。ゴライアスの足に激痛が走った。赤い相貌を下に向けると防具と一緒に体を纏う風がもう片方の足に直撃して無数の斬撃を与えられた。更にもう片方の足にも果敢に斬撃を見舞う銀髪の少女。明後日の方から冷気の吹雪が襲いかかって巨大な顔の半分が凍りつく現象にゴライアスは堪らないと張りついた霜を剥がそうと攻撃の選択を疎かにした時。盾を持つ冒険者が巨木の如く太い右の足を豪快に守りから攻と切り替える盾で殴り、体を支える支柱の軸を崩し、巨人のモンスターに尻餅を突かせた。17階層の空間が凄まじい衝撃と振動で轟く。一時行動が不能になった彼のモンスターの眼前に突如綺麗な桃色の花弁が。あっという間に視界が奪われ、敵の姿を遮られて手で薙ぎ払い、吹き飛ばそうとしても執拗に纏わり付き桃色一色が続く。そんなゴライアスの顔を覆う桜の花弁が発生する刀を操る冒険者は、巨体に切り刻んでいく三人の仲間の内の一人に呼びかける。

 

「アイズ!」

 

「!」

 

高く跳躍する仲間を見た金眼は意図を察し、金髪をなびかせながら盾を持つ仲間のもとへ跳んだ。その瞬間、鬱陶しく纏わりついていた桜の花弁が一部のモンスターが放つ『咆哮(ハウル)』で吹き飛んだ。霧散する桃色の花弁に紛れて、小さな神風が『迷宮の孤王(モンスターレックス)』ゴライアスの胸部にぶつかった。一撃必殺と過言ではないダンジョンの全モンスターの体内にある魔石破壊を狙った攻撃手段。輝白の剣が分厚い肉体を裂きながら貫き、切っ先に固い感触が両手一瞬で伝わるもそれすら通過点でしかないとばかり風の勢いは留まらず

 

「リル・ラファーガッ!」

 

ゴライアスの背中から飛び出して突貫に成功した穴が風の通り道になった―――。

 

 

「見事な一撃で合ったぞ【剣姫】よ。階層主の体を突貫する威力は魔法とその剣のおかげか」

 

「椿は試し斬と『魔剣』の出来栄えの確認だもんな」

 

「うむ!まだまだ改良の余地があると知れた。一先ず手前の目的は果たせた。【剣姫】も階層主を倒せたことで【ランクアップ】は果たせたやも知れんな」

 

「そうであったら嬉しいな」

 

灰燼と化した階層主のなれの果てから『ドロップアイテム』を回収し、砕けた魔石は本来よりも小さくなっているもそれも回収する。一仕事が終われば、ここまで同行を求めた第一級冒険者の三人にも話しかける。

 

「リリア達、待たせたな」

 

「いや、そうでもなかった。大体5分ぐらいで倒したぞお前達。邪魔が入らなかったおかげだろう」

 

「僕達が他のモンスターを相手にしてたもあるけれど」

 

「お主・・・・・18階層に繋ぐ通路を塞ぐことも無かったじゃろう」

 

【ロキ・ファミリア】幹部達は揃って奥にある通路に顔を向けた。ゴライアスとの戦闘で崩れた―――わけではなく、『(リヴィラ)』から編成された討伐隊が来るのを故意で戦闘になる前に一誠が壁を崩して通路を塞いだのだ。冒険者にもモンスターにも邪魔されない為にだ。ガレスは呆れた風に少年の思惑の意図を理解して指摘したのだが。

 

「邪魔されたくないからな。さて、俺も目的を果たしたから帰ろうかな」

 

「あれ、どかさないのかい?」

 

「18階層にいる連中がどかしてくれるだろ」

 

「「「お前と言う奴は・・・・・」」」

 

瓦礫は放置、出入りしたくば自分達でどかせばいいと言外する一誠にアイズを除いて『何だこの瓦礫は!?邪魔で進めれねぇー!』『さっさとどかしてゴライアスをぶっ倒すぞ!』とかすかに聞こえてくる声達に同情を禁じ得ないフィン達だった。目的の為ならばゲスなことをするも厭わない一誠は帰路に急ごうと足元に転移式魔方陣を展開しようとする直前。この階層に他の冒険者がやってきた。誰だ?と他人事のように向ける視界に入る者達は。

 

「「あっ」」

 

顔見知り―――同じ境遇の冒険者と久方ぶりにダンジョンの中で再会を果たす。

 

 

「改めて、久しぶりだなイッセー。元気にしてたか」

 

「こっちの台詞でもあるんだけどお互い息災で何よりだキリト」

 

 

(リヴィラ)の青水晶と白水晶の二つが生えた広い場所で異なる世界から来た者同士が腰を落ち着かせる。キリト達と話をする為に通路の瓦礫を除去した後。スタコラサッサと17階層から逃げるように冒険者が築き上げた街へ入り今に至る。彼等【アルテミス・ファミリア】の一行であると以前、異世界から来た一団がいると教えられたが、初めて対面して、自己紹介がされる。

 

「こっちの五人は【ロキ・ファミリア】の団長と副団長のフィン・ディムナとリヴェリア・リヨス・アールヴにガレス・ランドロック、アイズ・ヴァレンシュタイン、アリサ・イリーニチア・アミエーラ。そしていま俺が所属している【ヘファイストス・ファミリア】の団長の椿・コルブランドだ」

 

「・・・・・他派閥同士の干渉はしないんじゃないのか?」

 

「基本的はそうだよ。でも、絶対にではないし僕らは彼といるとそういう規則(ルール)は気にしていられなくなる」

 

「主に俺の飯をたかりに元主神がくるからだがな」

 

「否定できんのぉ・・・・・」

 

何とも言えない会話の前にキリト達は最大派閥に対する威厳が和らいだ気がした。

 

「えっと、イッセー達は何をしていたんだ?」

 

「階層主の討伐に兼ねた作った武具の試し」

 

十字架型の盾と桜の刀、そして今まで使わなかった背中の弓を見せつける。

 

「その盾、随分と大きいな。扱えるのか?」

 

「それを試していたんだ。機能と性能は申し分なかった。売っても問題ないぐらいだ。数千万ヴァリスか一億でな」

 

たかっ!と声が上がったが使ってる金属が金属なのでそれぐらいはすると、椿は心中同意していた。

 

「ね、ねぇあんたって鍛冶師なんだよね?」

 

「鍛冶師の【ファミリア】にいるのに、そうじゃなきゃなんだって話だけど、なんだ?」

 

恐る恐ると一人の少女がキリトの背中から話し掛けてきた。茶髪に同色の目、体の各部分に軽装の(アーマー)やサポーターを身に付けメイスを装備している少女は申し訳なさそうに申し出た。

 

「あたし、鍛冶スキ―――じゃない、鍛冶師(スミス)を目指しているんだけど、その工具とか揃えるのが大変でお金も掛かるのよ」

 

「?【ヘファイストス・ファミリア】に入れば解決できるだろ」

 

「いやー、ま、そうなんだけど・・・・・他の派閥に入団したらアスナ達と行動が出来辛くなるじゃん」

 

「む?イッセーは普通にフィン達【ロキ・ファミリア】と行動しておるからそれほどでもないぞ。主神方針によるが、そちらの主神アルテミスは厳しいのか?」

 

椿がこれまでの一誠の言動を顧みて、【ヘファイストス・ファミリア】もそこまで厳しくはない、と鍛冶師(スミス)になりないなら入団すればいいと団長として言外、付け加えた。歯切れ悪く、曖昧に話を濁す彼女の意図を読めないまま。

 

「あーもうっ、あたしは鍛冶をしたいから工房が必要なの!だから、何とか貸してくれるか、用意してもらえないかお願いしたいのっ!」

 

「・・・・・?」

 

結局、一誠や椿は思うところは同じだ。鍛冶の【ファミリア】所属の二人は不思議な顔を見合わせてから当然のように言った。

 

「「【ヘファイストス・ファミリア】に入団するべきだ」」

 

「・・・・・あたしが馬鹿だったわ」

 

謎の少女の頼みの綱は切れた、とばかりに頭を垂らし、肩を残念そうに落とすのでキリトが助け船を出す。

 

「リズは俺達の為に鍛冶師(スミス)を目指しているんだ。その為にはどうしても工房が必要だ。だから鍛冶師(スミス)のイッセーに頼めないかって話なんだよ」

 

噛み砕いて説明された一誠達は何を今さらな話だ的な雰囲気を醸し出す。

 

「んー、それはいくらなんでも虫が良過ぎるぞ。協力するとは言ったが他派閥の設備の増設まで協力する気はない。鍛冶をしたければ鍛冶を生業としている【ファミリア】に入団するか金を貯めて工房を増設するべきだ。それが普通じゃないのか?」

 

「・・・・・ご尤もだ」

 

言い返す言葉も見つからない、と正論を論破されたキリトは瞑目して一誠の言い分に肯定した。ならばいい、と椿に話を振る。

 

「実際、鍛冶師(スミス)の工房ってどのくらいかかるんだ?」

 

「規模の大きさに寄るなぁ。それに必要な器具を全て揃えると十万は軽く超える。工房を作ってもらうには【ゴブニュ・ファミリア】が一番であるから、手前の推測では一〇〇〇万以下、数百万ヴァリスが妥当だろう」

 

それを聞いて拍子抜けだと溜息を吐いた。

 

「何回か『下層』を中心に『ドロップアイテム』を集めて商人に売り続ければ直ぐな額だな。去年、真珠と珊瑚をたくさん集めたら三〇〇万ヴァリスは稼げたし、他にもマーメイドの血、体力回復効果がある希少な血は破格な値段で取引されるんだが」

 

ふと、あることを思いつきフィンに訊ねた。

 

「フィン、まだ時間に余裕あるか?」

 

「ンー?まだ続行かな?」

 

「ん、マーメイドの血が欲しくなった」

 

また何か知らの道具(アイテム)を作る気になったのか、とこれまでの魔道具(マジックアイテム)を考慮して、極めて高い完成度の物が見られるかもしれない。その時、貰えたらいいなぁーと淡い想像をしつつ首肯する。

 

「わかった。今日中に辿り着く階層でもあるし、時間の許される限り同行するよ」

 

「決まりだな。キリト、ついでにお前らを『協力』する」

 

「協力だって・・・・・?」

 

「俺達とくればお宝の取り放題だ。小さな工房ぐらいは増設できるぐらいの金額が手に入るかもしれないし、どうだ?」

 

突然の誘いに【アルテミス・ファミリア】は目を丸くする。最大派閥と同行して『下層』の『ドロップアイテム』を手に入れる機会はもうあるか無いかのこの瞬間。キリトはアスナ達を見渡し、意見を求める視線を来る。返事は直ぐに戻ってきた。

 

「分かった。協力してくれ」

 

「ついで、だからな」

 

【ヘファイストス・ファミリア】【ロキ・ファミリア】【アルテミス・ファミリア】の混同パーティが結成され、一行は25階層の『下層』へ―――転移式魔方陣で一気に移動した。

 

「はい、到着」

 

『・・・・・はいっ?』

 

呆けるキリト達を他所に、目の前は傲然と音を奏でる、凄まじいまでの大瀑布。谷や崖を形成するのは水晶の頂。霧のごとく飛び散る水しぶきとともに空中を羽ばたく半人半鳥(ハーピィー)歌人鳥(セイレーン)。高い啼き声が高らかに響き、舞い散る羽の軌跡が開けた大空洞を横切って行く。大いなる25階層、通称『水の楽園』が、そこに存在した。

 

「すげえ・・・・・」

 

一誠達の後ろでキリト達も立ちつくし、その光景を目の当たりにする。ダンジョンの中に存在する大自然の景色に誰もが放心する中、特に皆の目を奪うのが、視界の正面に位置する大瀑布だ。離れているとはいえどうどうという地響きにも似た音が、何百Mも離れた一行のもとにも届いて鼓膜を震わせてくる。

 

 

巨蒼の滝(グレート・フォール)

 

下層域25階層から始まる文字通り巨大な飛瀑。目算でも幅は約四百M、高さは優にその倍はあるだろう。光の反射の関係か、流れ落ちる水は緑玉蒼色(エメラルドブルー)。惚れ惚れとするほど美しい滝はここが危険なダンジョンであることすら忘れさせるほどだ。キリト達に感動と同時に胸に覚えるのは震えるほどの畏怖―――恐怖でもある。滝とちょうど対面位置、一行が立つ水晶の崖の真下に広がるのは大きな滝壺だ。落ちたら上級冒険者でも一溜まりもないことはもとより、目を疑ってしまうのはその滝壺からさらに瀑布が下へと続いていることだ。そう、丁度階段のように、滝は25階層から下部の階層へ貫通しているのだ。

 

「さて、一固まりになって捜索するより二手で捜索した方が効率的にいいと思うけど」

 

「アイズを除いて僕達と君は初見ではないから問題なくできるからね。僕とガレスが【アルテミス・ファミリア】と行動しよう。キリトという名前だっけ。君達のパーティからも何人か彼等と行動してもらいたい」

 

「えっ、ああ、じゃあ・・・・・」

 

「キリト君、彼と話があるから一緒に行かせて?」

 

栗色の長髪にはしばみ色の瞳が特徴の―――。

 

「え、キリトの美人妻がこっちにくんの?夫に嫉妬されて剣を振り回されたくないんだが・・・・・」

 

アスナが積極的に自分から加わると言うので、驚いたキリトに心底そう思った一誠がそう言った途端に、照れた彼女は「キリト君はそんなことしません!」と否定するが。

 

「へぇ、君達は夫婦の関係なんだ」

 

「ふむ、最近の若い者は早いのじゃな。知らんかったわい」

 

「若いからこそ、早いうちに様々な経験をして良き関係を築くことができるようになるのさガレス」

 

「これは祝いの言葉を向けるべきか?」

 

「・・・・・お父さんとお母さんになるの?」

 

「えっと、おめでとう?」

 

フィン達から生温かい眼差しを向けられ、二人は居た堪れないと気恥ずかしい思いが胸に一杯となる。

 

「じゃあ、他の女達って―――キリトの愛人?」

 

「ぶっ!?お、おまっ、何を言うんだ!そんなわけ―――」

 

「えー?一緒に夜を過ごしたり、ピンチなところを助けたり、一緒に戦って心を開いたりしたら少なからずお前に対する感情と気持ちが変化すると思うぞ?」

 

キリトはその指摘を受け、うぐっとぐうの音も出なかった。何気に自覚があるどころか・・・・・。

 

「「「「・・・・・」」」」

 

「うん?何でピンポイントに自分達のその時の心境を言うんだろうかこの男はって顔しているなそこの四人は」

 

「・・・・・本当に君って何気に言い当てちゃうから感心するよ」

 

「成程、アスナもその一人だったわけだ」

 

「っ!」

 

感嘆したが墓穴を掘ったアスナはかぁーと赤く染まり、そんな彼女等にフィン達からの眼差しは「若いね」「若いのぉ」「若い」と変わらない温かさで送られる。

 

「ちょ、み、皆さんそんな目で私達を見ないでください!」

 

「ははは、すまない。でも、若いうちに失敗しながら強く生きることは大切だよ。何時か二人の間に生まれる子供の為にもね」

 

「「っ―――――」」

 

「フィン、それはちょっと気が早いかなって。ほら、二人が顔を赤くしている・・・・・って、その反応はもう?」

 

「イッセー、敢えて訊くのはよくない。さっさと『ドロップアイテム』を収拾しに行くぞ」

 

促すリヴェリアの一言で、キリトのパーティからアスナと眼鏡を掛けた少女がフィンとガレスの代わりに同行することになった。

 

「よろしく。早速マーメイドがいる場所に行こうか」

 

十字架型の盾を持って、何故かその言葉は緑玉蒼色(エメラルドブルー)の水を直下させる大瀑布が落ちる先に向けられていた。リヴェリアは、まさか、と思って訊ねた。

 

「お前、どこから行こうと考えている?」

 

「ん?こっから」

 

数百Mの滝壺に指を突き付ける。―――落ちて直接向かうつもりでいる一誠に誰もが言葉を失った。

 

「駄目だ。そんな危険な移動は私が許さない」

 

「もしかして落ちて行こうって思われてる?」

 

「それ以外どんな方法で行くつもりでいるのだ」

 

「ん、こんな風に」

 

指を弾いて甲高く鳴らした。その直後。一誠の足元に魔方陣が展開し、そこから魔法の絨毯が出てきた。見覚えのないアスナや少女は不思議と訝しい目でこの絨毯をどうするのかと思った。

 

「俺が作った魔道具(マジックアイテム)、空飛ぶ魔法の絨毯だ」

 

乗り出す少年に呼応して絨毯は一人で浮き始める。アイズとアリサと椿、溜息を吐くリヴェリアも慣れた動きで乗り、二人を待つ。

 

「おい、早く乗れ」

 

「え、う、うん」

 

催促され、アスナ達も緊張しつつも乗ってから絨毯はゆっくりとした動きで滝壺の真下へ直下する。キリト達に見下ろされ、見送られる隣では緑玉蒼色(エメラルドブルー)の水の大瀑布。今にでも襲いかかってきそうな勢いの膨大な水に圧倒される最中。本当に飛んでいる絨毯に驚嘆する。

 

「これ、どうやって作ったの?」

 

「企業秘密だ。教えたところで作れるとは思えないけど」

 

「そうだね。それじゃ、お願いがあるんだけど。君が持っている調味料を分けてほしいの」

 

「商人に頼めば手に入る物があるんだがなぁ。交易所に言った事無いのか?」

 

「交易所?ううん、行ったことが無いなぁ・・・・・」

 

「ないのか。まぁ、オラリオに来てまだ浅いもんな。来慣れた場所以外、中々行かないものか。この収拾が終わったら案内するよ。そうすれば手に入らないものも手に入る」

 

絶対に金よりも貴重な調味料は渡さんと心情の一誠を知らず、「ありがとう」と純粋に感謝の言葉を送るアスナ。絨毯が滝壺に降下して早数分。もう見慣れた大瀑布から響く轟音をアスナと雑談をかわしている時。汚い啼き声が翼を羽ばたかせ羽を落としながら近づいてきた。

 

「イッセー、モンスターが来る」

 

「だろうな。堂々と降りているから来ない方が不思議だ。てなわけで、ここで新武器の登場」

 

背中の弓を掴み、一体の半人半鳥(ハーピィー)に狙いを定めようとする少年に少女が怪訝に指摘する。

 

「矢が無いじゃない」

 

「必要無い。この弓だけで十分だ」

 

弦を摘むように引っ張った。矢を番えずただ弦を引っ張ってどうやってモンスターを射るつもりなのだろうと見ていたら、矢を番うところに光が収束し、鋭く細長い一本の矢と化したところで、手を離し、放たれた矢は半人半鳥(ハーピィー)の胸の魔石を貫き、風穴を開けたまま大瀑布の中へ飛んで行き消失する。

 

『シャアアアアアアアアアッ!』

 

『――――――――――アァッ!』

 

同胞を消した敵に他の半人半鳥(ハーピィー)歌人鳥(セイレーン)が気付き、空飛ぶ絨毯の上にいる六人に襲いかかる最中。もう一度弦を引っ張り、光の矢を番うと、更に弦を引っ張ったら矢が二倍にも大きくなった。その矢を人型モンスター等に目掛けて放った時、飛翔する矢が分裂し炎に包まれた。

 

『ア、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?』

 

炎の矢に当たった『ハーピィー』と『セイレーン』は、その身を炎に包まれ、体が燃え尽きる前に水を求めた結果。大瀑布に飛び込んでそのまま滝壺に落ちる凄まじい水の勢いに逆らえず飲み込まれた。あっという間の空中戦に彼女達は唖然とする。

 

「矢も無しになんで・・・・・」

 

「この弓の名前は魔導弓。文字通り、魔法の弓で使い手の魔力を消費して弓を具現化、自分の思念次第で太さや強度、属性攻撃が可能になる。通常の矢でも使えるから何気に使い勝手が良い。ついでに射程距離は大体二百M。『深層』の蜘蛛のモンスターから得た糸を特殊な編み方でしたからかなり丈夫だ」

 

商人が集めて来てくれた希少な木材の材質が良かったから作れた逸品だと、自慢げに笑む少年から手にする椿。

 

「・・・・・また奇妙な武器を作ったな。魔導師(メイジ)専用の弓と言うことか」

 

「魔力があれば誰でもできるし、通常の使い方もできるから特別専用でもない」

 

「なるほどな。っと、また来おったぞイッセー」

 

上空からモンスターの接近に気付く椿から弓を受け取ることは叶わなかった。アスナと同行する少女が「貸して」と横から奪うように取って立ち上がった。背中に掛けている大量の矢が入っている背嚢から一本抜き取り、弦に番え、狙いを定めたモンスターから射る。空気を引き裂く一矢に気付いた時は既に遅く醜顔の眉間に突き刺さり、全身の力が抜けたように『巨蒼の滝(グレート・フォール)』の滝壺へ落下していく。また同胞がやられた様子を見る間もなく、ドッドッドッと三本の矢が三体の『ハーピィー』と『セイレーン』の肩、胸部、顔面に刺さって最初の一体と同じ末路を迎える。

 

一通り終えた狩りは大瀑布の轟音のみ聞こえない状況の中で絨毯の上に立ち、矢を射った少女は構えを解き冷静な面持ちで弓を見下ろす。

 

「いいわねこれ。ギルドから支給された弓なんかと全然性能が違うわ。良く飛ぶ」

 

静まる絨毯の上で独白する少女は一誠に顔を向けて提案を述べる。

 

「これ、欲しいのだけれど。どのぐらいお金がいる?」

 

「・・・・・いや、それはタダでやるよ。俺を驚かせたサービスだ」

 

「・・・・・いいの?リズの工房の件を蹴ったのに」

 

目を丸くする少女の中で一誠は厳しい同じ狢の穴の人だと印象だった。なのに、作った弓を無償で譲るお人好しの様なことをするのだから一瞬だけ何か企んでいるのではないかと疑ってしまった。

 

「あれは単に甘えてきたからだ。弓を譲るのとは違う。使い手が良いなら安心して譲る。それ、一応試作品でもあるからな。完成した弓だったら数百万ヴァリスで売るつもりだった」

 

コレが試作品と聞き、これ以上の弓を作る気でいる一誠の好意を素直に受け取り、「じゃあ、遠慮なく使わせてもらうね」とニコリと笑みを浮かべて弓を大事そうに持つ。

 

「あ、自己紹介してなかったわね。私はシノン。よろしくイッセー」

 

「おう、よろしく。今度魔法の矢でも作ってやるよ」

 

「・・・・・期待して待ってるわ。弓使い(アーチャー)の見せどころが増えるしね」

 

握手を交わし合う二人は笑みを浮かべあった。二人のやり取りにどこか羨望な眼差しの目で見て、コッソリと椿に訊ねるアスナ。

 

「・・・・・あの、試作品だったら私にも貰えるんでしょうか?」

 

「さて、今のように腕の立つところを見せれば可能性は無くは無いと思うぞ?試作品とはいえ、【ヘファイストス・ファミリア】の団長の手前が太鼓判を打つ武具であるからなぁ。ダンジョンの捜索に当たって生還率の一つは武器の性能も左右すると過言ではない。だからお主も欲しいのであればやることは一つだ」

 

「そうですか。じゃ、頑張って認めてもらいますっ」

 

隻眼の一流鍛冶師(スミス)の話にふんす、と両手を握って張り切る意欲を見せるアスナ。ここで認めてもらえば今の武器より性能が高い武器が手に入るかもしれない。そうすればダンジョンの捜索も楽になり得るのだ。

 

「因みにお主の武器は?」

 

「レイピアです」

 

 

一方、地上組のフィン達は、25階層から27階層に出現する金属系のモンスターに分類(カテゴライズ)される『ブルークラブ』と戦闘していた。個体によって左、あるいは右の鉗脚(かんきゃく)が異常発達したモンスターの鉄槌(ハンマー)のごとき攻撃は脅威であった。前衛(ウォール)が構えていた盾に罅が入るか冒険者の体勢を崩す程の力がある他、キリトや赤髪の青年の斬撃をものともしない金属の鋼殻に傷一つ付かない。

 

「キ、キリの字!この蟹!蟹なのに前進するしめっちゃくちゃ硬ぇぞ!どうなってやがるんだ!?」

 

「分かってる!ライン、繋ぎ目を斬るしかない!」

 

「お兄ちゃん、私もやるっ!」

 

「私もです!」

 

「蟹のくせに硬いなんて叩き潰し甲斐があるじゃないのよッ!」

 

「てめぇら!蟹に負けてんじゃねぇっ!男を見せろぉっ!」

 

「「「「「うっ、おおおおおおおおおおおおおおっ!!!」」」」」

 

アスナとシノンがいない【アルテミス・ファミリア】11名の戦闘をフィンとガレスは見守っていた。異世界の人間達の力を見てみたいとキリトに提案したところで複数の金属蟹(ブルークラブ)に襲われ、やむを得なしと対応に当たって今に至る。

 

「フィン、どう見る?」

 

「妙に戦い慣れているようだ。粗いけれど連携は中々といったところ」

 

「イッセーの世界のように神々がおる世界じゃからか、あるいは殺伐とした世界に戦いがあるのか」

 

「後で彼等に訊くとして、彼等のLv.にも疑問が浮かぶ。もしかしたら何か秘密があるのかもね」

 

去年結成した、一誠から聞いた【アルテミス・ファミリア】の団員達のLv.は殆ど駆け出しの冒険者並みの筈だ。金属蟹(ブルークラブ)潜在能力(ポテンシャル)は個体によってLv.2か3。駆け出しの冒険者がとても倒せるとは思えないモンスター相手に踏ん張って、的確に繋ぎ目を斬り、確実に料理していく。そうやって幾度も無く戦ってようやく戦闘は終わりを迎えた。

 

「ぜぇ、ぜぇ・・・あんたら強いのに俺達だけ戦わせやがって」

 

「青二才が、まだまだへばるのは早いぞ。ほれ、さっさと『ドロップアイテム』を集めて陣形を組め。また次のモンスターが近くにおるぞ」

 

「僕とガレスは本当に危ないと思った時だけ戦わせてもらうよ。僕等が助けたら君達の成長を邪魔してしまうから助言だけはさせてもらう」

 

「流石は第一級冒険者、最大派閥の団長・・・・・シビアだ」

 

一緒に戦える、と18階層で感嘆した自分に会って「甘くないぞ」と言いたくなったキリト。『ブルークラブの鋼殻』を3つ背嚢に入れてキリトとフィンが前衛で歩き始める。

 

「水の中に落ちないように。モンスターは水の中で潜み、飛び出して僕達冒険者を襲うから警戒を忘れるな」

 

こうして培った経験を教授して25階層の中を探索するフィン。先達者の言葉に【アルテミス・ファミリア】の団員達は息を呑み、嫌な汗を掻いて自分達を虎視眈々と狙っているだろうモンスター達が潜んでいる、フィン達が進む通路と並んで、流れている水流に目を向ける。水晶の色を受けて美しい蒼色に輝く水面はまた幻想的だったが、彼の小さな勇者(ブレイバー)の言葉で認識が変わってしまった。

 

「仮に落ちてしまったら?」

 

「陸に上がることが最優先だ。人間が魚を陸上で調理するように魚が水中で人間を調理する。水中はモンスター達の世界だから、君達が水中で戦おうと言うなら圧倒的地形の不利の中で無残に殺されるだけになる。ましてや君達一人も『水精霊の護布(ウンディーネ・クロス)』を用意していない」

 

冒険者の先輩としてフィンから指摘された『水精霊の護布(ウンディーネ・クロス)』。キリトおろか他のパーティの少女と男性達は聞いたことが無いと気配を醸し出し、「それとも、知らなかったのかな?」と訊ねられる団長のキリトは困り顔で後頭部に手を回し、沈黙で肯定する。

 

「皆を纏める団長なら、もう少し調べるべきだ。地図(マップ)だけ頼らず、ダンジョンの中で何がありどんなモンスターがいるのか情報収集も大切だよキリト。団員達を死なせたくなかったら、元の世界に帰りたかったら尚更だ」

 

秘匿していた事実が露見されていたことに「っ、どうしてそれを・・・・・」と思わず訊き返してしまった。

 

「イッセーから聞いた。彼も君達とは違う世界から来た存在であることも【ロキ・ファミリア】の主神と極一部の団員だけ打ち明けてくれた。だから僕達は君達に興味がある。異なる世界から来た人類の実力を」

 

そう語ったフィンがキリトに顔を向けた時―――水面が勢いよく『爆発』しキリトに向かって牙を剥く長大な影―――大蛇のモンスター『アクア・サーペント』。薄緑(ライトグリーン)の鱗と蛇の頭を持つ大型級。大きな鰭を有する頭部の威容はいっそ竜にも見える。ギルドに蓄えられた情報によれば、その体長は―――最大で一〇Mである。

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ』

 

双眸をぎらつかせながら顎を開く。フィンの隣に立つキリトが振り返って目を大きく見開き、背中の剣の柄を握る前に水中から出現したモンスターのキリトを噛み砕かんとする顎の方が早かった。しかし、それ以上に―――。

 

高く跳躍したフィンが天井に着天、槍の穂先を真下の薄緑(ライトグリーン)の頭部に目掛けて構え、天井から勢いよく跳躍して大水蛇(アクア・サーペント)の顎まで貫きながら頭部を足で粉砕、キリトの眼前で仕留めて見せた。キリトからすれば、全然見えなかった。何時の間にか凄まじい勢いでモンスターの上から奇襲して倒した。それしか分からなかった。

 

「油断するな、イッセーだったらこう言うよ。僕もだけど」

 

「・・・・・っ」

 

「君達の世界はどんな世界なのか分からないけれど、ここはモンスターの巣窟がある迷宮都市。モンスターだけじゃなく邪な心を抱いている冒険者や人間、神すらもいる。決して油断してはならないよ。君の大切な友人達や妻が何時奪われてもおかしくない」

 

そう言いながら槍を抜き取り、キリトの横に飛び降りると息絶えた大蛇のモンスターは水流の流れに身を任せ水中に引きずり込まれて消える。あのまま流されていけば巨蒼の滝(グレート・フォール)の滝壺に落ちて行く大瀑布へと向かうだろう。それを見送らず、点滅する腕輪の宝玉に目を落とすフィン。宝玉から立体映像が浮かび、一誠の姿が映る。

 

『フィン、こっちは目的の「ドロップアイテム」を手に入れたぞ。そっちはどうだ』

 

「こっちはまぁまぁかな。どうする?もう少し探索していくかい」

 

『まぁまぁならした方が良いだろ。このまま俺達は27階層に向かう。そこで落ち合おう』

 

「分かった。彼の妻に傷をつけないでいてね」

 

『分かってるよ。んじゃ、またな』

 

通信を切り、「これは本当に便利だね」と初めてダンジョン内で使用した腕輪の機能に感想を零した。相手の状況を知ることができる唯一の代物。今度の【ロキ・ファミリア】の『遠征』で大いに役立つだろう。

 

「ンー、もう少しだけ作って貰えないかな」

 

 

―――その数時間後。『下層』で大いに『ドロップアイテム』を手に入れ、数百万と言う額を一気に稼いだキリト達は『下層』の価値に圧倒された。地上に戻った時は既に空が夕日に染まり切っていた頃だった。

 

「うおおおおおっ!?すげぇー大金!マジでか!」

 

「こ、これで工房が増設できたらなぁ・・・・・なんて」

 

「私はしばらくこの弓で活躍するよ。魔力ってどうやって増やすんだろう?」

 

「え、シノンさん。その弓どうしたんですか?」

 

「イッセーから貰ったんだよ。私も試作品のレイピア、打って欲しかったなぁ・・・・・」

 

亜麻袋を複数抱えて大通りを歩くキリト達。地上に持ち帰った迷宮珊瑚(アンダー・コーラル)迷宮真珠(アンダー・パール)を商人に交渉したことで得た大金だ。三五〇万ヴァリス。【アルテミス・ファミリア】初の大金獲得である。

 

「だけど、一日でこんなに稼げれたのはイッセーの魔法のお陰だよね。何、転移魔法って。凄く便利過ぎるじゃない」

 

「ああ、わざわざ歩かず一気に移動できる魔法だ。本当ならもっと時間が掛っていた筈なのに予想以上早く戻って来られた」

 

シノンの言い分に尤もだと褐色肌の禿げの男性が首肯し、付き添いとしてついてきた真紅の龍を模した全身型鎧(フルプレート)を着込んだ、自分達と同じ境遇者を見下ろす。

 

「なぁ、お前の世界はどんな感じなんだ?」

 

「そんな話を民衆がいる前でするな。怪しまれるぞ。神々何か知られたらアルテミスに迷惑に掛る。娯楽に飢えた神はこの世界に無い唯一無二の物に目が無くて反応しやすいようだぞ」

 

「なんだそりゃ?」

 

「何だも何も、子供のように、全力で興味を持って全力でちょっかいを掛けたがるってロキから聞いた。物凄くニヤニヤしながらだって。だから俺達が異世界から来た存在だーって知られたら、娯楽に飢えた神々は全力で執拗にストーカーの如く追いかけ回される。―――いやだろ?」

 

確かに・・・・・。キリト達の心は一つとなった。

 

「私達、自分達のことはアルテミス様以外誰にも教えないようにしているけど、本当に言わない方が良いのね」

 

「当たり前だ。珍しいあまりに誘拐されても不思議じゃないって聞くし、自分が大切なら常に警戒するのが当然だろう。信頼できる相手しか言わないこと薦める。それともう一つ」

 

朱色の空へ指を衝き付ける。まだ何かあるのか、と耳を傾けた一行は。

 

「そんなあからさまに大通りのど真ん中、それも民衆がいる中でお前らは警戒心が無さすぎ」

 

そう言われた時。彼等彼女等が通る道の先から強面の男達、暗い路地裏から得物を手にして現れるゴロツキ達の登場で空気が一変した。

 

「な、なんだぁこいつ等は?」

 

「ハイエナって言えば分かるか?」

 

「人が苦労して手に入れた大金を横取りしようとするわけここの冒険者は!?」

 

信じられない!とリズが悲鳴染みた叫びを上げてメイスを構える。キリト達も武器を構え円陣を組む。一触即発と緊迫状態となった街中で、まさか地上でも戦闘が勃発するのかと臨戦態勢の中。

 

「なぁ?その金を譲ってくれないかぁ?俺達、金に困ってて大変なんだよ」

 

「ついでに綺麗な嬢ちゃん達も来てくれたらうんと可愛がってやるぜ?」

 

「ヒヒヒ、今日はツイて―――」

 

ヒュンッ!と一人のゴロツキが突如姿を消した。それだけじゃなく、キリト達を取り囲んでいたならず者達も地面に開いた暗い穴の底へと訳も分からないまま成す術もなくあっという間に落ちてしまい穴は閉じた。

 

「・・・・・あの人達、なんだったわけ?」

 

唖然と呆けるシノンの一言に「さあ・・・・・・」とキリト達。ただ一人、鎧の中で表情が見えない一誠は口端を釣り上げていた。―――今頃、一階層のダンジョンの中でモンスターに追われているだろうと。

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