ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか   作:ダーク・シリウス

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冒険譚8

その日の夜。北部の北端に構えている【ロキ・ファミリア】に女神が訪れた。ウェーブが掛った蜂蜜色の長髪に垂れ目の瞳、フレイヤやヘファイストスを凌駕するほどの母性の塊もとい豊満な双丘。春のイメージのワンピースにサンダルを履いた女神の登場に門番達は目を疑った。

 

「ロキはいるかしら?話がしたいの」

 

女神の来訪に門番の一人は主神ロキに報告をしに行き、しばらくして正門にやってきた。

 

「おー、デメテルやん。どうしたん?」

 

知神に朗らかに「よっ」と手を挙げるフィンとガレスも連れてきたロキににっこりと微笑む女神デメテル。豊穣を司り、農作物をオラリオの郊外で育てて販売している商業系【デメテル・ファミリア】の主神は単刀直入に申し出る。

 

「貴方がくれたビーフシチュー、それを作った子と会ってみたくなっちゃったの。会えるかしら?」

 

「勿論やで。ちょいまってーな」

 

腕を掲げ、嵌めている金色の装飾品の宝玉を触れて操作し、直ぐに通信を入れると数秒後、繋がった。

 

「イッセー、自分に会いたい女神がおるんやけどええか?つーか、今夜も食べに行くつもりやで!」

 

『お前は自重と言う戒めを知るべきだと俺は思う。で、どこのどんな女神?』

 

「デメテルや!ビーフシチューを食べさせた女神で、これから一緒にそっちに行くさかい。門を開けておいてや」

 

『・・・・・着いたらもう一度連絡してくれ』

 

それだけ言って通信は切られた。よし、と納得したロキはデメテルと一緒に北と北西のメインストリートの区画に挟まれた位置、廃墟と化している建物がある場所へ向かった。「また外食か」と門番達に思われ見送られる中でだ。

 

「あ、そうや。ファイたんも声を掛けるけどええ?丁度通る場所におるから」

 

「構わないわ」

 

もう一柱を誘う気満々の朱色の髪の糸目の女神は赤い屋根の武器屋を見据える―――。

 

 

こねた生地が円形状に薄く伸ばされ、巧みに動かす手と指でもっと薄く広がって行く。軽く上に回しながら放り出し受け止めながらある程度まで伸ばしていく少年の様子をアイズ達は驚嘆と感嘆の息を漏らす。伸ばした生地を大の上に置き、白い粉を振り掛けた後は刻んだ野菜や燻製肉のベーコン、果実、チーズ、ソースを掛けて既に同じ物が作られ、何枚も入れられている熱が籠った専用の炉の中に多種多様な具材を受け止めている最後の生地を入れ込んで蓋を閉じる。の、作業が終わるとアイズ達が話しかける。

 

「イッセー、今夜はどんな料理なのだ?」

 

「ピッツァ、いや、ピザって料理だ。パンの生地を薄く広げたその上に肉や野菜を置いて、ソースも掛けた状態で焼く食べ物だ」

 

「ピザ、ふむ、聞いたことのない料理の名前であるな」

 

「絶対に外食してないからだろう。探したらあると思うぞ多分」

 

「「楽しみ・・・・・」」

 

「ああ、楽しみにしてくれ。でも、食べる時は火傷しそうなほど熱いから気を付けて食べてくれ」

 

焼き上がるまで十数分掛る。その間、今日も夕飯をたかりに来る者達とは別に初めてこの家にやってくる女神の分のサラダを用意し、稀少果物(レアフルーツ)を使ったデザートの製作に試みる。

 

数分後、ロキ達が家の前に来たと言う連絡が入り、扉を開けた。敷地内の自然豊かな森と発光する水晶にダンジョン原産の稀少果物(レアフルーツ)や回復道具(アイテム)にも使用される原料(アイテム)等、人工栽培されている植物を目の当たりにしデメテルは驚嘆した。見えない道を通り、水の中に囲まれた神殿まで見えない足場が降下して建物の中にある転移魔方陣を経由して『幽玄の白天城』に辿り着く。

 

「来たでイッセー!」

 

「来たなたかりのロキとその御一行。まだ出来上がって無いから座って少し待ってくれ」

 

ちらっとデメテルを一瞥する一誠にニコリと笑う蜂蜜色の髪の女神。対して会話はせず、各々と席に座って夕食ができるまで待つことにした。

 

「リヴェリア、今夜の夕飯は何やー?」

 

「ピザだそうだ。パンの生地を使って焼いた物らしい」

 

「む?それはパンではないか?」

 

「いや、野菜や肉、果実とチーズを乗せて焼いている。ただのパンではないようだガレス」

 

「へぇ、そんな食べ物は聞いたことが無いや。聞いたことが無い分、どんな料理なのか実に楽しみだ」

 

軽くピザの詳細を伝えられキッチンにいる料理人へ期待の眼差しを向ける。未知の料理に未知の味を堪能できるのは今この場にいる者のみ。今度はどんな味の料理が出てくるのかフィンが口にした通り、期待で胸が躍ると氷水が入れられた透明の大きな容器と人数分の硝子の灰を持ってくる一誠が。

 

「取り敢えずこれと前菜としてきゅうりの一本漬けを食べてくれ」

 

深緑色で細長い野菜を切ったものを皆の前に箸と一緒に置きだす。キュウリノイッポンヅケ?初めて聞く名前に見慣れた野菜に一同は小首を傾げる。だが、信頼している料理人が作った料理は期待を裏切らない筈だと、摘んでシャキッとした触感と、程良い塩気。いや、塩味だけではない。美味く説明できないが、一度味わった野菜に伸ばす手が、止まらない。シャキ、シャキ、シャキ・・・・・。

 

「む、もう無くなってしもうたわ」

 

「ああ、僕もだ。何時の間にってぐらい夢中で食べていたようだね」

 

ロキ達も同様か、空になった皿を前に座って名残惜しそうに見ていた。

 

「・・・・・」

 

唯一、直ぐに食べるのは勿体無いとデメテルの皿だけはまだ三分の一の両が残っている。瞑目して口の中で確りと味わう彼女は美味しそうに食べているのであった。

 

「―――おまたせ、今日のメイン。ピザの出来上がりだ」

 

大皿の上に、更に焼いたパンの生地の上にこんがりと熱せられた彩りある食材の数々が我が物顔でテーブルに置かれる。今の今まで鼻腔を刺激しなかった香りが、ようやく香ばしい匂いと共に湯気が昇る。赤と黄色、緑、茶色、白と様々な色で絵を描いたような料理から放つ香りに、ほう・・・・・と息を吐く。

 

「これがピザかぁ~。パンを具材の皿にするなんて珍しい発想をするんやなイッセー」

 

「絶対にオラリオのどこかで同じのがある筈だから。無かったら他の国だ」

 

専用の器具でピザを人数分に裂き分けながら「同じ物を作っているに過ぎない」と言外する一誠の手で切り分けられる。

 

「見ての通り、全部で四枚だ。こっちは野菜を中心にしたピザ、こっちは肉とガーリックをメインにした、こっちは魚介類を主に焼いた。そしてこっちは海外から輸入してもらった果物とベーコン、コーンで焼いて見た」

 

四種類のピザに使用した具材を一つ一つ説明しながら皿を置き、一誠も座り出す。

 

「それじゃ、熱い内に食べよう。いただきます」

 

食べる前の祈りをする一誠に倣ってロキ達も同じ祈りをしてからピザに手を伸ばす。

 

「あら、溶けたチーズが伸びるわ」

 

「しかし、熱い。焼き立てだからだろうな」

 

溶けたチーズを伸ばしながら切れた、手を火傷しそうなほど熱いそれに皿へ移し、片手で豪快に開けた口の中に入れるか、上品に両手で持って食べるかそれぞれの食べ方で初めてピザの味を堪能する。

 

「ん!?」

 

一同揃って一口、ピザをかじった瞬間に硬直した。溶けたチーズの少し酸味がある乳の味と、確りと焼かれて程良く脂が抜けた、上質の燻製肉の味。それを引き立てる、生のまま焼かれたのであろう玉葱の僅かな辛みと、上に乗せられた緑の野菜の独特の苦み。それらの具材の土台に使われている薄いパンは、表面は良く焼かれて堅くなっているが素晴らしく柔らかく、質のいい小麦と塩と水だけでこね上げられたシンプルで淡白なパンの味が、それぞれの具の強い合い味を支えている。さらに酸味があって、同時にとてつもない旨味を含んだトマトソースが使われているのでとても美味しく感じさせる。ロキ達はそれらの強調と味の秘訣はなんなのか知ってか知らずか、「うまい!」と歓喜した。

 

「好評で何よりだ」

 

「好評も何もないでイッセー!これ、パンみたいなもんやろ?こんな温かくて色んな具材をいっぺんに食べれるのはこのピザっちゅうだけでめっちゃ美味しいわ!」

 

「うむ、これは酒に合うとは思わんかガレス」

 

「そうじゃな。この独特の味のチーズがそう思わせてくれる。残念じゃ」

 

他のピザにも手を出し始めるガレスと椿にアイズとアリサは海外から取り寄せた果物で作ったピザが気に入ったのか、二枚目に突入していた。リヴェリアとデメテルは野菜中心のピザ、ロキとヘファイストスは海鮮のピザにも食べ始める。

 

「この果物は食べた事が無いわ。これは何て名前の果物なの?」

 

「パイナップルって言う。多年草だから何度か収穫できるけどその度に身が小さくなって3年以上はあまり使えないんだ」

 

どこからともなくパイナップルの実物を取り出してテーブルの上に置くとすかさず横からひょいっとロキが掴み取った。

 

「ふんふん、これがパイナップルちゅう果物か?どうやって食べるん?」

 

「皮を剥いで中心の軸も切り落として食べるんだ」

 

「成程なー。これ、後で食べるとしてデメテル。このパイナップルを栽培できるん?」

 

更にデメテルの方へ手に渡り、蜂蜜色の瞳は観察眼の眼差しを向けるようになって調べる女神。

 

「見た目だけじゃ何とも。この栽培方法が分かれば子供達に任せられるのだけれど」

 

「ああ、土壌の依存がない株で二年以上育てて実る果物だ。問題は無い筈。株も商人に頼んで輸入してもらってあるからあげようか?」

 

新たな果物の株の提供の提案に目を丸くするが、豊穣を司る女神はオラリオに無い作物を育ててみたいと思いで少年からの提案を受け入れた。その後、サラダや稀少果物(レアフルーツ)水晶飴(クリスタル・ドロップ)を用いたゼリーも出され、特にゼリーはデメテルを驚嘆させたほど澄んだ味わいであった。

 

「美味しいもの食べさせてくれてありがとう。パイナップルを立派に育てられたら誰よりも早く一番目に食べさせてあげるわ」

 

「ん、首を長くして待ってる」

 

食事の後、ロキとヘファイストス達は帰宅しようと敷地内に繋ぐ魔方陣の前に立っていた。箱の中にある数多の株を抱えて感謝の言葉を送る女神は行動でも感謝の思いを示した。

 

「これはほんのお礼」

 

一誠に近づき、顔を寄せて耳元で囁き、瑞々しい唇を少年の頬に押し付けた。

 

「デ、デメテル貴方・・・・・」

 

「ごめんなさいヘファイストス。ふふっ、この子のことが気に入っちゃったわ。もしも、改宗(コンバージョン)をする機会があったら私のところに来てくれるかしら?一杯可愛がってあげちゃう」

 

柔和に笑みを浮かべて残した言葉を最後に一足早く白の前からいなくなったデメテル、

 

「イッセーってもしかして色ボケ女神みたいに子供だけじゃなくて女神を魅了するんかいなー?」

 

「気に入られるならともかく、口付されるほど仲を深めた覚えはない」

 

「うん、それはよーわかっとる。ほんじゃ、また食べにくるで!」

 

ロキもデメテルを追いかけるように魔方陣の中へ入って消えた。

 

「・・・・・イッセー」

 

「おう」

 

最後まで残ったヘファイストスは、両手を伸ばし、眷族の顔を添えるように包むと、デメテルが唇を落とした頬の個所に上書きするように彼女も唇を押し付けた。

 

「貴方は私の眷族、私の子供。だから他派閥の女神に誘惑されないように気をつけなさい」

 

「うーん、誘惑はされないけど俺自身、両親が言うには同性異性問わず好意を向けられやすい体質だって言われてる。だからそれだけは目を瞑ってくれないかな?」

 

「何その変な体質は・・・・・でも、その体質は馬鹿に出来ないみたいね」

 

改宗(コンバージョン)を果たした後でも一誠と接触することを止まないロキ達。更に一誠と住みたいとアイズ、リヴェリア、椿が同棲をしている。皆から好かれやすいと言う体質はあながち間違ってない。そして自分もその一柱―――。

 

「・・・・・ねぇ、私もここに住みたいて言ったら貴方は困るかしら?」

 

「は?店の方はどうするんだ?」

 

「この家から通えばいいだけよ。それでどうなの?」

 

「まぁ、困ることがあるとすれば俺の秘密程度だし、【ヘファイストス・ファミリア】の団員としている俺の家だから主神のヘファイストスが住んでいてもおかしくない。寧ろ歓迎。ただ、他の先輩達の反応が気になるけど」

 

と、要は住んでいいと了承を得たのでヘファイストスは「分かったわ」と言葉を最後に別れてこの場を後にした。

 

―――その数日後。主神が引っ越してきた出来事に団長は目を瞬きし、ハイエルフと金髪金眼、銀髪青目の幼女は若干戸惑ったものの、日常生活に一柱が加わった程度で遠慮なく接するようにと言われたこともあり、何時も通りの生活を送ることになる。

 

(うーん、何だか賑やかになる予感が)

 

 

 

翌朝一年という期間でLv.2に【ランクアップ】をを果たした異例の成長ぶりを見せる少女には驚嘆と感嘆、畏敬と畏怖の念が向けられていた。彼女に対する想いと感情は様々であるが、何年もダンジョンに冒険して来た彼等彼女等よりもあっさり器を昇華させた場も弁えないまだ幼い少女達に対する―――嫉妬が一人の冒険者を突き動かした。

 

 

もう直ぐ【ヘファイストス・ファミリア】に入団して二ヵ月が経とうとしている。オラリオの街は相も変わらず闇派閥(イルヴィス)の襲撃騒動から小さなイザコザまで起きて非力な民衆達に不安と恐怖を煽らせる。そんな民衆と混沌を臨む邪神とその使徒達の為にギルド側の派閥達が太陽が出る日中にも拘らず鎮圧せんと行動する。

 

「なぁ、フィン?【ヘファイストス・ファミリア】から鎮圧に駆り出されている冒険者って一人しかいないって知ってたか?」

 

「うん、知ってるよ。いま僕の隣に立っている者こそがそうだ。ありがたい限りだね。直ぐに鎮圧活動が終わりそうだ」

 

手を上に掲げ、上空に展開する広大な魔方陣から雨のように降り注ぐ雷が闇派閥(イルヴィス)の使徒達を直撃し、意識を狩る。彼等が請け負った区域で暴れている邪神の使徒は今の一撃で路地裏に潜んでいる者達も沈んだ。【ロキ・ファミリア】の団員達に捕縛の指示を下すフィンの隣でまだどこもかしこも悲鳴と戦闘音が聞こえてくる報に顔を向ける。あっさり邪神の使徒達を倒したので別の区域へ足を運ぼうとする。

 

「ガレスんとこ行ってみる」

 

「分かった。ここはもう大丈夫そうだから行っていいよ」

 

最大派閥の団長空の了承を得たのでガレスが担当している地域へと跳躍して移動する。さっさとこの騒動を終わらせる為に。

 

「リヴェリア、今のあれ・・・・・」

 

「イッセーだろうな。詠唱無しであれほどまでの魔法を放たれて敵対しているとはいえご愁傷様だ」

 

「凄い・・・・・」

 

フィン、ガレス、リヴェリアと隊を三つに分け対処していた一つのリヴェリア達のところでも稲妻を放つ魔方陣が見えていた。闇派閥(イルヴィス)はあの魔法で一網打尽にされた筈だ。

 

「・・・・・できる?」

 

「いや、無理だろう。我々の魔法は『神の恩恵(ファルナ)』で発現し詠唱・無詠唱で放つに対し、イッセーは魔法のスキルを発現しないままで無詠唱で魔法を放っている。我々の場合は後天的に得た魔法であり、イッセーは先天的に元々魔法を得ている状態なのだ」

 

最強魔導師も一誠みたいにできるかと暗に問われたことを察し、背中の中部当たりまで伸びてきた翡翠の髪を揺らしながら首を横に振る。それが一誠とリヴェリア達魔導師(メイジ)の違いだと教えられ、熱い太陽の顔を覗かせる蒼い空を見上げる。もう一つの世界―――アイズの想像を超えるロキ達同名の神がいる世界はどんな世界なのだろうか・・・・・。

 

「リヴェリア、異世界行ってみたい?」

 

「ああ、できるものならばな。私がオラリオに来たのもまだ見た事のない世界をこの目で見たかったからだ。言っておくが、冒険者になどなる気は無かったのだ」

 

ロキにハメられたのだ。と過去の自分を思い出し、若干悔しそうに声が低く力が入って無かった。意外な彼女の冒険者になった理由にアイズと「え?」と漏らすアリサは耳を疑った。

 

「私とフィン、ガレスのみの【ロキ・ファミリア】は顔を見合わせる度にいがみ合っていたものだ」

 

「嘘・・・・・」

 

「本当だ。生真面目で融通の聞かないエルフと野蛮で粗暴なドワーフ、小さな体のくせに不釣り合いな野望を抱き、生意気で上から目線で言う小人族(パルゥム)が何時もお互い認めようとせず、数えるのが億劫しい程、ロキに仲裁されたものだ」

 

その話をアイズから聞かされ、フィン達三人は一誠の手であることをされ一騒動が起きたのは少し先の話になる。

 

「信じられない話だろう?」

 

「・・・・・うん。そんな風に見えない」

 

「だろうな。他の団員達に教えてもアイズと同じ反応をするだろう」

 

上空に広範囲の魔方陣が空に出現し、また稲妻が地上に降り注ぎ、少なくない数の悲鳴が上がった。全員の意識はそちらに向き、副団長の「あれは味方の魔法だ」と言う言葉で警戒心を解く。

 

「ん、リヴェリア。イッセーのところに行ってもいい?」

 

「居場所は分かるか?」

 

「飛んで探す」

 

「あ、私も」

 

背中から魔法の翼を展開して宙に浮く。広域で混沌をもたらす邪神の使徒達を鎮圧している場所は少なくない。今でも戦いの空気が和らがず、悲鳴と怒声、戦闘音が色んな場所から聞こえてくる。文句を言いながら駆り出された一誠がさっさと終わらせる為に別の場所へ赴いているかもしれない。擦れ違いになる考慮をして空から探すことにしたアイズとアリサにリヴェリアは了承する。翼を羽ばたかせ、高いところから見つけようとする少女らはキョロキョロと真紅を求める。

 

「・・・・・あ」

 

金眼は真紅を捉えた、わけではなかった。危険区域内に一人の小さな少女が大通りの真ん中で蹲っている姿を見つけて漏らした声だった。聞こえてくる泣き声にどっちを最優先するべきか、考えて申し訳なさそうに片方を謝って・・・・・。

 

「・・・・・大丈夫?」

 

泣く少女に手を差し伸べる。アイズ達が声を掛けた少女は犬人(シアンスロープ)だった。話を聞くと親と買い物の最中に闇派閥(イルヴィス)の襲撃に直面して逃げていたが、

 

「お母さんっ、お母さん・・・・・」

 

泣きじゃくる犬人(シアンスロープ)がこの場で蹲っていた理由は、母親と思しき血の海に沈んだ女性から離れようとしていなかったからだ。背中から深い傷を負って出血多量で・・・・・。

 

「・・・・・」

 

―――これで二度目だと直面する人の死。自分のことではないが大切な人を無くした痛みと思いは同じだとアリサは犬人(シアンスロープ)の少女を見つめる。この少女もまた悲しい事件で親を失い、自分と同じ境遇となった。その気持ちは痛いほどよくわかる。悲しみに暮れた自分を直ぐ手が差し伸べられた。だが、今この状況でこの子にそういう存在はいない。

 

―――今回の件でこの少女は親を奪った者に怒りを抱くだろう。黒い炎に焦がれてしまうかもしれない。それは復讐―――。大切な人を奪った相手を許してはならない憎悪にもなりうる。この少女もそうであってほしくないのに、どうすればいいか分からない。モンスターを屠るだけなら簡単なのにどうやってこの子の心を救えばいいのか、その方法を知らない無力なアイズは悔しい思いで手を握る。

 

「―――ゲゲゲッ!まさか、こんなところで会えるとはねぇ~」

 

「・・・・・えっ?」

 

地面を踏み鳴らす音と共に声がした方へ見上げた矢先。金眼と青眼が瞠目する。三Mを超える、巨漢ならぬ巨女。狩猟着に似た赤黒の衣装から覗く褐色肌の短い腕と短い脚は比喩抜きで筋肉の塊だった。身の丈もさることながら横幅も太いずんぐりとした体型で、手足と胴体との釣り合いがおかしい。極めつけは、その大きな顔。黒髪のおかっぱ頭で、ギョロギョロ蠢く目玉と横に裂けた口唇は、こう言ってはアレだが、アイズは思わずにいられなかった。ヒキガエルの様な―――。

 

(地上に、モンスター!?)

 

(カ、カエル・・・・・?)

 

心の中で叫喚する失礼な反応するアイズとアリサを知らない巨女はニヤァ、とえくぼ、と呼ぶには醜怪なほど頬にたくさんの皺が寄る。その笑みに何とも言えない気分に陥り、母親を失ったばかりの犬人(シアンスロープ)の少女は恐怖で顔を青褪めていた。

 

「『人形姫』~。そしてお前も、最近調子こいているようじゃないかぁ~?そんなお前らにアタイら冒険者を舐めた態度をしているとどうなるか、この美しいフリュネ・ジャミールが直々に骨の髄まで教えてやるよぉっ~!」

 

『洗礼』という言葉を過らせる前に巨女(フリュネ)が手にしていた大戦斧に血が滴り落ちたのを見て悪い予感を覚えて聞いた。

 

「・・・・・それは」

 

「あん?ああ、闇派閥(イルヴィス)共にアタイの美に酔いしれて狂ったのか、襲いかかって来たもんだから美味しく頂いた後に殺したやつさぁ~」

 

一般人に手を出したわけではないと、アイズはどこか安堵して、敵意を向けてくる相手と戦いにこの少女を巻き込むわけにはいかないとアリサと眼を合わせて頷く。

 

「喰らいなぁ~!」

 

他は眼中にないと大戦斧を振り下ろしたフリュネに目を見開き、二つの剣を重ねるように掲げた。が、直撃する斧から伝わる衝撃と重さにあっさりと膝を崩してしまい、尻餅をついてしまったところで視界が褐色に染まった。ドッ!と小柄な体につま先が突き刺さり、あまりにも強過ぎる脚力で口から胃液と交じって血反吐が出る。

 

「かっはっ・・・・・!?」

 

「うっ、あっ・・・!」

 

哄笑の声と共に蹴り飛ばされ、建物の一角にぶつかった。意識が朦朧とする目に強い意志を絶やし、フリュネの動きが見えなかった、見た目に騙された気分を陥り、初撃を受けた瞬間、直感した。

 

フィン達や一誠みたいに私より強い―――第一級冒険者かもしれないと。

 

「ゲゲゲゲッ!たった一年で【ランクアップ】したわりには、手も足も出ないじゃないか~!当然さ!アタイはお前等より強く、お前より美しいのだからぁ~!」

 

小さな少女達を覆い被さる絶対の敵の影。散々痛めつけ、これ以上生意気なことはさせまいと冒険者の規則(ルール)に則って洗礼を与えんとする。

 

「ゲゲゲッ!ぶっ倒れちまいな!」

 

 

 

 

同時刻。

 

「ふむ、お主がやるとあっという間に終わるな。今後とも手伝ってはくれまいか?」

 

「こっちはやることがあるってのにそうそう手伝えるかよ。今日の夜は豚カツにする予定だから買い物に行くつもりだったのに」

 

「豚カツ?カツ丼みたいな似た名前じゃの」

 

「実際そうだぞ。豚肉を使った揚げ物だからガレスが好むかも」

 

鎮圧活動はそこそこ終わりを迎え、明後日の方からやってくるフィン隊に手を挙げながらそう話す一誠とガレス。

 

「ほほう、それは楽しみじゃ。今夜もたかりに行くからよろしく頼む」

 

「なんだい、今夜の食事の話でもしていたのかいガレス」

 

「おう、今夜は豚カツと言う肉料理の様じゃぞフィン」

 

「そうか。でも、リヴェリアはあまり肉料理は食べないから作るのは大変じゃないかい?」

 

「へぇ、そうだったんだ。じゃあ、リヴェリアだけは小さくして他のを作っておこうかな」

 

今夜の夕食の献立を考え、どんな料理をしようか脳裏に思い描く一誠と今夜も楽しみだ、とフィンとガレス達に絶世の美女のハイエルフが姿を見せて近づいてきた。

 

「何の話をしているのだ」

 

「うん?リリアが肉料理はあまり好まないって聞いたところ」

 

「嫌いではないが、あまりに肉料理が続くのは困るだけだが・・・・・アイズ達はいないのか?」

 

「「「アイズ達?」」」と三人は顔を見合わせる。ここにいない二人の少女はリヴェリアと同じ隊に組まれていた筈。逆にそっちにいたのではないのかと目を向けると、事情を聞かされる。

 

「あらかた鎮圧は終わったのでな。イッセーのところに行くと言って飛んで行ったのだが、来ていないのか?」

 

「いや、俺はフィンのところが終わってからずっとガレスのところにいたぞ」

 

「うん、そうだよ」

 

「儂もイッセーの言った通り、ここを鎮圧しておった」

 

どちらにも二人の姿は見ていないと語り、リヴェリアは目を細めた。

 

「・・・・・あの子等の身に、何か遭っているのか」

 

三人は視線を一誠に向ける。空を見上げ、少しばかりそうしていると「いた」と言って駆け出す。

 

「フィン」

 

「ああ、頼んだよ」

 

長い付き合いだ。何を言いたいのか言わずとも聞かずとも気持ちを察してフィンはリヴェリアに許可を与える。ガレスも念のためにと二人で一誠の後を追うその十数秒前、一足早く少女がいる大通りに辿り着き、血の海に沈んでいる女性と涙流している幼女、巨女に一方的な攻撃を受けている二人の幼女を見て一瞬で判断した。

 

「そこまでにしろ」

 

幼い冒険者達に振り下ろす大戦斧を片手で受け止め、フリュネを鎧の中で睨みつける。いきなり現れ、己の得物を掴み取った真紅の全身型鎧(フルプレート)の者に訝しい目つきで見下ろすフリュネだったが、

 

「お前、確か『人形姫』の腰巾着だったかぁ?」

 

金髪金眼の幼女の傍には何時も竜を模した真紅の鎧を着込んだ冒険者がいる。そいう話や噂が忘れた頃に聞くフリュネは思いだしたように訊ねた。

 

「一つ聞く、お前が殺したか?」

 

「同じ事言わすんじゃないよぉ~。アタイが理由もなく不細工どもを殺すほど暇じゃないのさァー」

 

「・・・・・そうか、少なからず酌量の余地はあるようだな」

 

「あ?何言って―――」

 

「いい大人が子供に攻撃するのは見逃さないがな」

 

掴んでいた手斧の斧身に罅が生じた瞬間、砕けた。

 

「お前、アタイの斧を―――っ!」

 

「これ以上この二人を傷付けるなら、(りゅう)の逆鱗に触れることになると思え」

 

敵味方関係なく瞠目する。臀部辺りから九つの獣の尾が生えだし、その一つがアイズとアリサを守る様に包み込み、残りの全てはフリュネに切っ先を向け、何時でも迎撃できる構えを取った。体勢を低くし、広げて構える両の手の平に炎が発現する。

 

「―――狐人(ルナール)っ!?」

 

頭部の鎧を突き破るようにひょこっと生えだす狐耳も見て、フリュネは素っ頓狂な声を上げた。極一部の地域に住まう魔法種族(マジックユーザー)の意味で口にした彼女は、彼の種族に九つの尾を生やす者がいるなど聞いたこと無いと絶句してもいた。

 

「フリュネ・ジャミール」

 

静かな声音で彼女を呼ぶ、一誠を追いかけてこの場に来たリヴェリアとガレス。

 

「一度だけ言う。早々に我々の前から立ち去れ。さもなくば、私とガレスより厄介な相手に蹂躙されることになる。それでも構わないのであれば我々もお前を、私達の【ファミリア】の団員を傷付けた正当な理由で粛清させてもらう」

 

「【九魔姫(ナイン・ヘル)】に【重傑(エルガルム)】・・・・・」

 

ちっ、と舌打ちをして使い物にならなくなった大戦斧を地面にたたき付ける。

 

「傷付けただなんてとんでもない言い草だねぇ。暇だったからアタイの遊び相手にしてもらっていただけなのによぉ。だけど、遊びに出掛けた甲斐があったってもんさぁ」

 

ギョロリ、と一誠に目を向け、ふかぁい笑みを浮かべた。

 

「九つの尾の狐人(ルナール)ゥ・・・・・その綺麗な尻尾と同様にお前もさぞかし整った顔をしているんだろぉう?ゲゲゲゲッ!アタイに会いたかったら南東の歓楽街にきなぁ?たぁーっぷりと可愛がってやるからよぉー」

 

捨て台詞を言い残し、軽く地響きを鳴らしてこの場から遠ざかるフリュネを見送る一同。不意に、立ち止まって尻目で一誠を見つめ、哄笑しながら完全に去った。

 

「・・・・・」

 

ブルリッ、と今さら全ての尾が身震いした。尾に包まれているアイズとアリサはどうしたんだろう?と少年の背中を見つめた時。これは一種の恐怖で震えているのだと後に気付く。

 

「絶対行くもんかっ、ぜってぇー骨の髄まで喰われるのが目に見えてるし!」

 

「・・・・・目をつけられてしまったな。同情に値する」

 

「儂もあやつとだけは良好の関係にならんわ」

 

溜息を吐き近づく二人。珍しくリヴェリアが同情の眼差しを送って一誠の肩に手を乗せた程、不憫に思ったのだろう。信じられないものを見る目で見てしまった彼女のことを知らな少年は居ても立っても居られないと二人に問い詰めた。

 

「ていうか、あいつ誰!?あんなカエルのようなモンスターが冒険者なんて嘘だろ!」

 

「「・・・・・っ(コクコク!)」」

 

地上に現れたモンスターと深く印象付けられたアイズとアリサも同意見だと尻尾の中で首肯する。初めて相対した三人の気持ちは分からなくはない、と心中で呟くリヴェリアは語った。

 

「あの者も歴とした冒険者だ。名前はフリュネ・ジャミール。【イシュタル・ファミリア】のアマゾネスであり第一級冒険者の団長だ」

 

「嘘だぁー!?俺の知っているアマゾネスはあんな肉の塊じゃない!しかも第一級冒険者かよ!?完っ全に見た目だけで騙されたっ!人生の中で一番でだっ!」

 

「・・・・・そこまで驚くか。いや、儂らも当初初めて相対した時は似たような思いをしたのじゃが」

 

フリュネの正体を知って半狂乱する一誠を呆れ顔で同感するガレスだった。

 

「それでお主、何じゃその尻尾は。本物か?」

 

「ん・・・?ああ、これ?本物だ。何か狐人(ルナール)って言われたけど、この世界に狐みたいな種族がいるわけ?」

 

「極東に住んでいると話や噂で聞いたことがある。実際に見た事は無いがな」

 

「極東に、ねぇ。ますます興味が湧いてきたところで・・・・・」

 

尾からアイズ等を解放してやって、既に生命が無い肉の塊と化している女性のもとへ近づく。耳と尻尾を隠す様に鎧の中に消えた直後、鎧が一瞬の閃光と共に消失して生身の姿を晒す一誠は跪いて犬人(シアンスロープ)の子供に話しかける。

 

「大丈夫だ、お前のお母さんは元気を取り戻すよ」

 

「・・・・・本当に?」

 

「ん、本当だ。お母さんに元気を上げるからちょっと離れててくれ」

 

母親をチラチラと見て逡巡する幼女の頭を撫でて、温かい眼差しと優しい声音、安心させる微笑みでそう囁いた後。アイズ達にそっと離れさせてもらい立ち上がった一誠に声を掛けられる。

 

「何をするつもりだ。お前が何をしようとその女性はもう甦ったりはしないぞ」

 

「俺さ、大切な人がどんな形であれ奪われるのは一番嫌いなんだ。その次に理不尽な運命に強いられるのが嫌いでな」

 

「イッセー、何を言っておる」

 

「俺の目の前で無関係な人でも大切な人を奪われる痛みと悲しさは分かるし、自分と被せてしまうんだ」

 

徐に眼帯を外し、濡羽色の目を光の世界に開眼させると魔方陣を浮かべた。怪訝な面持で見守るエルフとドワーフに背を向けたまま、黒と紫の魔方陣が少年の左右に展開して、光と共に跪いた状態の二人の男が現れた。

 

「悪い、アレ、やるから迷惑を掛ける」

 

「「はっ」」

 

天に掲げる手の中に十字架型に三対六枚の金色の翼を生やす杖が眩い閃光の中から「お前もな」と杖に語り掛けながら手にする一誠にますます理解できない時―――一誠の体が神々しい光に包まれ始まる。眩しいほどの光量ではない。淡い光の衣に覆われているかのような発光。その光は神聖―――神が放つ輝きのような綺麗で美しいもの。見る者を一瞬、魅入らせ、見惚れさせる光に包まれた一誠に変化が起きる。真紅の長髪は金色に、左眼は蒼色に、極めつけは背中から六対十二枚の金色の翼を生やし、頭上に金色の輪っかが具現化した。その姿はまさしく―――。

 

「【天使(テ・シーオ)】・・・・・」

 

神の使いとして語られる一つの存在を翡翠の目をあらん限りに見開くリヴェリアの口から漏れた。ガレスとアイズとアリサ、幼女も言葉を失ってこれから少年がすることを邪魔してはならないと本能が告げている。

 

「―――さて、やるか」

 

巧みに振り回して地面に突き刺した杖の翼が神々しく光を放つと呼応して、十二枚の翼も光り―――女性の遺体と共に一誠から放たれる、地面に広がる金色の魔法円(マジックサークル)と異世界の『奇跡』の魔法の輝き。金色の魔力光は巨大で一条の光柱の光輝となって天へと昇る。蒼天の空に突き立つ光の柱を、オラリオにいる誰もが目撃した。

 

 

「主神様よ、あれは・・・・・」

 

「神の送還?いえ、違うわ!」

 

店舗(テナント)から出て椿に示されたその光柱を目にしたヘファイストス。

 

「ヘルメス様、あの光は・・・・・」

 

「奇跡に違いないさ」

 

 

魔法の絨毯を脇に抱えて眷族と天を仰ぐ旅行帽を被る男神は、目を細めた。

 

 

「・・・・・」

 

とある老神は瞑目し、何かを悟った。

 

「ああ、ああっ!何て素敵なの、何て素晴らしいの、あの子は!?」

 

巨塔から全て見ている銀髪の美神は紅潮させた顔で興奮し、

 

「・・・・・イッセーなのか?」

 

 

朱髪の女神は屋根の上で胡坐を掻き、予想する。

 

 

やがて、光柱は細まり、ついに消失した。その中心に立っていた少年は、最後の魔力を振り絞って、杖を展開した金色の魔法円(マジックサークル)に置くと、杖が一瞬の閃光と共に豊かな金髪で美しい女性に変貌した。それを見届け、全て終えたとばかり―――翼が霧散し、輪っかが虚空に消えて髪と目の色は戻って・・・・・地面に倒れる一誠の体を寸前で青年が腕で受け止め、慣れた手つきで横抱きに体を支えられる一誠は「すまん」と苦笑を浮かべた。

 

「お前達は一体・・・・・」

 

「俺の中にいたドラゴンだ」

 

「なんじゃとっ!?では、こやつらもそうなのか。じゃが、一体何のために・・・・・」

 

「我が主をお世話するのと、守るためです」

 

金髪の女性が翠の目を一誠に向けながら語る。

 

「主は今、全てを消費した状態であり、指先すら動かせれません。なので、私達が現世に出て主を守らなければなりません」

 

「全てを消費した?イッセーは一体、何をしたのだ。あの光も一体、何だったのだ」

 

「今、それが分かります」

 

そう言う彼女は血の海に沈んだままの女性へ視線を変える。リヴェリア達も釣られて彼女へ目を向けた。もはや身動ぎしない躯を見て何が起きると言うのだ?怪訝な気持ちで時が少しだけ過ぎた―――華奢な指先が、気付いた風にピクリと動いた。そして、絶句と驚愕の目を見開かれ見守られる中で女性は血の海からゆっくりと起き上がり、朦朧とした表情で・・・・・。

 

「・・・・・何で私、生きて・・・・・?」

 

「―――お母さんっ!」

 

歓喜極まり、涙を流して血で汚れても構わないと甦った母親に抱き付く幼女。母親も何が何だか分からないまま、抱き付く幼女を笑って抱きしめる。そんな感動の光景を信じられないと見守るリヴェリアとガレス。

 

「馬鹿な、死者が、甦っただとっ・・・・・」

 

「何たることじゃ。儂等は夢でも見ておるのか?いや、夢でも現実でも、直ぐに受け入れる光景ではないぞこれは」

 

「・・・・・・っ」

 

凄まじい衝撃を受けたリヴェリア達。―――死者蘇生という唯一無二の希少魔法(レアマジック)はまさに『奇跡の魔法』と呼称されても過言ではない。彼は、少年は、一誠と言う者は、今、死んだものを甦らせたのだ。

 

「分かっていただけましたね?」

 

成り行きを見守っていた金髪の女性は微笑みながら語り掛ける。

 

「我が主は、死んだものを生き返らす術を得ております。その代償は高く、命すら消費してしまうもの。それでも顧みず、主は他者を甦らすことに躊躇しません」

 

「待て、命を消費する?―――自分の命を削ったってことなのかお前はっ!?」

 

「代価も無しに人を復活させることはできないよ。等価交換ってやつだ」

 

「馬鹿者がっ!己の命を何だと思って・・・・・っ」

 

「我が主の事を知りもしないで知った風に説教など何様だドワーフ」

 

紫色の発光現象がする黒髪の青年がガレスを睨みつける。

 

「主の過去を知った程度で、己は我が主の全てを知っていると思っているのであれば笑止千万だ。甚だしい。あの時、あの場にいなかった貴様等が主が抱いた思いまで分かったつもりでいるなら、さらに許し難い話だ」

 

「なんじゃと、喧嘩を売っておるのならば買うぞ」

 

「待てガレス!止めろ、この者達に手を出すな!」

 

「アジ・ダハーカ、主への忠誠心も行き過ぎれば他者に迷惑をかけます。主も望んでいませんよ」

 

「・・・・・今は主を安全な場所に連れて行くのが最優先だ。さっさと行け」

 

剣呑な展開になりかねないとリヴェリアとドラゴン達が仲介し諭し、催促する。

 

「そう言うわけだ、アジ・ダハーカ。連れてってくれ」

 

「はっ、我が主よ」

 

黒い魔方陣を足元に展開して、少年と青年はリヴェリア達と別れ一足早く家へ戻って行った。それを見届ける二人のドラゴンも後を追おうとする。

 

「では我等もこれで。この場で起きた事は信用できる者のみにお伝えして下さい。神ヘファイストス達に主の状態を追及されても本当のことを言わないであげてください」

 

「随分と慎重なのじゃな。そこまでイッセーを大切であるか」

 

金髪の女性は綺麗な笑みでこう答えた。

 

「はい、この世界が滅んでも構わないぐらいにです」

 

「主は望んでないがな。自分の命を削って助ける極度のお人好し故だからな」

 

「ゾラード、そこがいいじゃないですか。主の魅了の根源はまさにそれではなくて?」

 

「助けられた相手は堪ったものではないだろう。メリア、そんな愛は重すぎると」

 

アジ・ダハーカと同じく転移式魔方陣でこの場から姿を暗ます最後に呼びあったメリアとゾラード。人型ドラゴン達を見送る視界の端に、北西のメインストリートと、西のメインストリートの区画に挟まれた位置に何時の間にかあの家が見えていることを映し込んだ。

 

「・・・・・ガレス、あれを見ろ」

 

「む?イッセーの家が丸見えになっとる。もしや、魔力も無くなっておるからか」

 

「大きい壁に囲まれて、いたんだ・・・・・・」

 

二つの方角の間に挟まれている区画まるごと、楕円形に立ち並ぶ百Mもある大きな壁から飛び出す崖の上に白亜の城が聳え立っている。それすらオラリオにいる誰もが目撃していた。あんな場所にあんな壁があると。

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