ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか   作:ダーク・シリウス

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冒険譚9

全身を動かせなくなって次の日。死者蘇生の反動が未だに影響を及ぼしている最中の朝を迎えた。静かな雰囲気を醸し出す一室の天蓋付きのベッドの中でゆっくりと両眼の瞼を開けて、溜息を吐いた。

 

「今日から退屈な日が迎えたか」

 

そんな少年の気持ちとは真逆に、外は大いに賑やかであった。どこかの【ファミリア】のホームでもなければ神の徽章すら飾っても無い。ならば無人の家であるのかどうか気になり、ギルド側も忽然とオラリオ内に姿を現した巨大な建造物の探索を強制任務(ミッション)として各【ファミリア】に伝達者を放った。無論、それは最大派閥にも例外ではない。

 

「と、そう言うわけで僕等もその任務を与えられてしまったのだけれど・・・・・どうしようか」

 

「反対や反対っ!ただの家捜しならともかく、あそこにおんのはイッセーやで!?」

 

「できれば儂もしたくないのじゃが・・・・・神ヘファイストスはどうするつもりじゃ?一応あの家はあの神の団員の家じゃろう」

 

困った様子のフィンの手に、強制任務(ミッション)の内容を記されている手紙をヒラヒラと見せびらかす。任務(ミッション)放棄で罰則罰金(ペナルティ)を科されても絶対に関わりたくないとロキの言い分にガレスも気が進まないと蓄えた顎髭を触れながら鍛冶神のことを訊く。

 

「分からない。彼女は彼女で動くだろうし、僕等は僕等でこの強制任務(ミッション)を参加の是非をした後の事を考慮したい」

 

「別にうちは名声が地に落ちようと【ファミリア】がなくなるわけじゃないから参加せんでもええんやけれど、フィン。自分はそうもいかへんやろ?」

 

「ああ、ここでどうして僕達だけが参加しなかったのかギルドに追及されるのが火を見るより明らかだ。何より僕等は【フレイヤ・ファミリア】と肩を並ぶほど注目されている。だから、結局は・・・・・」

 

強制任務(ミッション)を受けざるを得ないわけか」

 

その通りだよ、と首肯するフィン。

 

 

 

「―――って、そんな感じでフィン達も来るってリリア?」

 

「最大派閥の団長だ。ギルドからの依頼を正式に断れる理由もなければ従う他ない。どうする、ここはもうバレている」

 

オラリオにいる全ての者達にだ、と言外するリヴェリアと二人きりで天蓋付きのベッドの中で寝転がっている一誠は問題視などしていなかった。

 

「別にこの家に知られちゃいけない物は俺以外ないから特に気にしちゃいない。それより―――」

 

「なんだ?」

 

「俺がここにると知れば、ロキだけじゃなくフレイヤが何かしてきそうだ。それがちょいっと懸念かな」

 

「・・・・・確かにな。だが、状況は変わらない。このまま放っておくのか?」

 

思案顔で天蓋に描かれた真紅と濡羽色の竜に囲まれた地球の絵を見つめ、考えた結果を口にする。

 

「ここが安全な場所だったら問題無いんだよな当然」

 

「ああ、それはそうだが・・・・・策でもあるのか?」

 

「策なんてもんは無い。俺は【ヘファイストス・ファミリア】だぞ?ここは俺個人の家だ。隠していたことそれ以外何の問題点がある?」

 

つまり、一誠がこれからしようとしていることは・・・・・。

 

「まさか、入れるつもりか?」

 

「ああ、それでも家捜しをされるだろうから。触れられたくない物は全部、アジ・ダハーカ達に魔法的な方法で隠してもらっているし造り変えてもらっている。そしてここを一番早く調査してもらいたいのが」

 

濡羽色と金色の双眸がリヴェリアに向け、意図を察して頷いた彼女は腕輪の宝玉を触れ始める。その様子を微笑し、「役者は達者なほど役に立つ」と朱髪糸眼の女神の顔を脳裏に浮かべる。

 

 

「―――分かった。手筈は整えるから君達も戻って来てくれ」

 

腕輪から伝えられる、一誠の企みに承諾するフィンの顔は苦笑いだった。当然、会話の内容が筒抜けなロキとガレスも聞こえている。

 

「ウヒヒ、イッセーのやつ、自作自演もええところやで。道化(ピエロ)みたいでうち好みや」

 

「じゃが、あやつと関わり合っている儂【ロキ・ファミリア】だけでも調査をしてもギルドは納得できるとは思えん」

 

「せやからあの【ファミリア】も一緒に連れてするんやろ?フレイヤなんぞまでついてこられたらイッセーも堪ったもんではない筈やで」

 

懸念するガレスに悪戯っ子みたいに笑うロキは、一誠の意図を察して考慮する。執務机の上で胡坐を掻く彼女はビシッと指を突き付けて命令する。

 

「ほんじゃ、子供達はざっと10人程度でイッセーの家の捜索隊を編成!ガレスは直ぐにあのやかましい男神とこ行って連携して依頼を受けるように!とーぜん、うちも行くで!」

 

「分かった。その前にこの腕輪は外しておこう。繋がりがあると知れるとこっちまで飛び火が飛んでくる」

 

「じゃな」

 

徐に腕輪を外し、執務机の引き出しの中に仕舞った頃、リヴェリアとアイズ、アリサが戻ってきた。三人にも話を伝えて腕輪を外してもらったところで行動する。しかし、物事は全て順調とはいかないものだ。例えば―――、

 

「何時の間にこんな物が・・・・・?」

 

「それもそうだが、この壁、百Mはある。流石に届かないな」

 

興味や好奇心で既に傍まで来ていた冒険者達がいたり、そんな壁を楽々と空飛ぶ絨毯で超える主神と眷族達がいたり―――。

 

「【ロキ・ファミリア】や【ガネーシャ・ファミリア】に任せても良いのでは」

 

「そうね。でも、あの黄金の輝きが綺麗だから」

 

第一級冒険者を率いて大通りを闊歩する【フレイヤ・ファミリア】までもが向かおうとしている。路地裏から黒い祭服を着た褐色肌の美青年がその様子を窺っていた。上空には透明な巨大な何かが飛んでいて都市の様子を監視するように見ていて―――空から不法侵入しようとしていた【ファミリア】を見つけるや否や、襲いかかって壁の外へと追いやったと報告を発する。

 

「・・・・・マジかよ。面倒くせぇ」

 

一誠に眉根を寄せた報告に豊かな金髪に翠の双眸のメリアがどうするか訊ねる。

 

「敷地内のアイテムの宝庫を奪われもされたら目も当てられない。メリア、椅子に乗せてくれないか?」

 

ベッドの傍にある車輪付きの椅子に、メリアの両手が少年の背中と足の裏を支えるように持ち上げられて乗せられる最中、彼女の豊かな胸とぶつかっても二人は平然とした様子で動き、動かされる。

 

「神ヘファイストスと彼女はどう致しますか?」

 

「連れていく。で、メリアには頼みがあるんだが」

 

同時刻、壁の外側―――。

 

「いきなり突風が吹くなんて、それにしても何かにぶつかったような・・・・・」

 

「あの・・・・・大丈夫ですか?」

 

「うん?あー、大丈夫大丈夫。どこの子供だか分からない君達もここに?」

 

橙黄色の髪を隠していた羽付きの鍔広帽子を押さえながら空を見上げる男神に黒髪黒眼の少年が声を掛ける。

男神の問いに首肯する少年も壁を見上げる。

 

「鍵穴らしいところがないので、どうやったら壁の向こうに行けるのか考えていたところなんですが」

 

「で、俺達が上から侵入を試みようとしたらいきなりの突風。そういうわけね」

 

お互い、興味を持ってここに来たとばかりの共通の気持ちで集まった者同士として名乗り上げ出す。

 

「俺はヘルメス。彼女等の【ヘルメス・ファミリア】の主神だ」

 

「キリト、【アルテミス・ファミリア】の団長です」

 

「へぇ、彼女もオラリオにいたとは知らなかった。今度会ってみたいもんだ。さて、もう風は吹いていないだろうからもう一度再チャレンジと行こうかな」

 

一誠から譲り受け取った徽章付きの魔法の絨毯に乗り、眷族達と壁の向こうへと再び飛び越えようと挑戦した矢先だった。別の空飛ぶ絨毯がヘルメス達の上を飛び巨壁に向かおうとしたが、また突風によって絨毯が吹き飛ばされ乗っていた者達が落下する。

 

「どわぁあああああああああああああっ!?」

 

「ちょっ!?」

 

丁度自分達に目掛けて落ちてきたので眼を見開くヘルメス。回避行動をする暇なくドサッと落ちてきて、落ちてくる人間達が積み重なって、重量オーバーなのか絨毯がヘルメス達を乗せたまま凄まじい勢いで地面に落ちてしまった。

 

「あたた・・・・・って、ロ、ロキ?どこから落ちてきたんだ君は」

 

「うっさいわボケッ!つぅーか自分、この絨毯はどうしたんや!これはうちの子供しか作れへん物やぞ!」

 

「君の元子供から条件付きで作って貰ったんだよ。これで行こうとしたら君と同じで突風に吹き飛ばされてしまってね。あー死ぬかと思った」

 

百Mの高さから落ちても冒険者達は何とか生き残っていた。対して初めて高いところから落ちた衝撃と経験をして動悸が激しい中、生きている喜びを噛み締める。

 

「・・・・・で、自分。なんでここにおんねん。うちらはギルドからの依頼で来とるんやけど自分等はそんなもんで動いているわけ無いやろ」

 

「うん、好奇心で動いているのは事実だ。何か不都合なことでも?」

 

「大有りやっ」と内心舌打ちするロキ。清々しいまでに断言したこの男神というより、こんなに早く他の派閥が来るとは予想以上だったと打ち合わせ通りにならなくなって―――。

 

「ロキ、それに珍しくヘルメスもいるのね?」

 

「・・・・・げっ、自分も来たんかい」

 

最大派閥【フレイヤ・ファミリア】の主神と眷族達の登場にとうとうロキは嫌そうな顔を浮かべた。絶対に一騒動が起きると確信して。

 

「自分、うちかガネーシャに任せるんじゃなかったのかい。そう予想しておったんやけどなぁ・・・・・」

 

「この壁の向こうに綺麗な黄金の輝きを発しているの。それを直で見たくて」

 

「あーそうかい。んじゃ、うちらがその黄金を取りに行くからやる気無い色ボケ女神はここで大人しく待っておれ」

 

シッシッと手を振るうロキに変わらない微笑のフレイヤ達の上空から「俺がガネーシャだァッ!」と自己主張する象頭の仮面を被った筋骨隆々で褐色肌の男神とその眷族達を魔法の絨毯に乗せたガレスがやってきたと同じ時で赤髪の少女や覆面の冒険者と女神達が色んな所から集まってきた。

 

「・・・・・フィン、これは流石に」

 

「ンー、彼の手腕に掛ってるねこれは」

 

招集してしまった神と【ファミリア】の数に流石のフィンもコレをどうすることもできない。極力声を殺して会話をするリヴェリアとフィンは全て一誠に掛っていると悟る。

 

「あらロキ。面白い物持っているのね。どうしたのかしら?」

 

「それはお前、うちの子供が作ってくれたんや。欲しいといってもくれてやらへんからな」

 

地面に降り立つガレスと男神達を乗せる絨毯を目にするフレイヤ。宙に浮く絨毯を魔道具(マジックアイテム)と認識してロキにくれてやるかと言われてしまっても、ヘルメスへ銀瞳を向ける。

 

「ヘルメスも持っているのね?」

 

「ああ、そうなんだよフレイヤ様。これはオレの宝物として大事に使わせてもらっているんだ」

 

「素敵。貴方の徽章まで編みあげられている。これほど素晴らしい物を作ったのはどこの誰なのかしら?」

 

「俺も教えてほしいゾウ!ヘルメス!因みに俺は【ガネーシャ・ファミリア】のガネーシャッ!!!だっ!!!」

 

「「ど、どうも・・・・・」」

 

自己主張の激しい男神に気圧されるキリトとアスナ達【アルテミス・ファミリア】。【群衆の主】として存在していた神を知っているか知らなかったか定かではないが、この瞬間ガネーシャの印象が「五月蠅い・騒々しい神」と植え付けられた。

 

「んなことより、うちらはこの壁の向こうの中をどうやって行くか考えるのが先決やろ。うちらとヘルメスは空から壁を越えようとしたんやけど、突風で邪魔されて落とされたんや二度もな」

 

「俺もロキも体験したから嘘じゃないよ。だから、こうなれば壁を破って突破するか穴を掘って壁を超えるかの2つの選択になってしまうが、ロキとフレイヤ様頼みになってしまうと思うと俺は心が痛いぜ」

 

申し訳なさそうに帽子を取って胸に添え、恭しく腰を軽く折って謝罪の念を伝える彼の男神は墓穴を掘った。

 

「ほー、そんじゃ穴掘る時は自分も手伝え。心が痛むんなら神一倍掘って貰うのが当然やで」

 

「頑張ってねヘルメス。今手元に穴を掘る道具は無いから用意してくれるかしら?」

 

「ファイトだヘルメス!」

 

周りからの意地の悪い笑みと声援に対してやっちまったぜ、と乾いた笑みと引き攣る頬のヘルメスにアスフィ達は心底呆れた風に溜息を吐いた―――その時、鈍重の音が響き始めた。音の発生源は、巨大な壁が左右に分かれ隙間を作って開かれようとしていたところだった。主神を守り得物を構える眷族達。扉の向こうから何が出てくるのか、警戒して人一人分ほど通れる広さに開いた扉の向こうからカラカラと音を鳴らして出てきた者と対面した。

 

「・・・・・何、この集まりは」

 

「あら・・・・・」

 

椿に椅子を押されて扉から出て来た一誠だった。意外な人物の登場に、銀髪の美神は顔を嬉しそうに浮かべ、ロキはすまなさそうに両手を合わせ、ヘルメスは興味深々で意味深な笑みを浮かべた。そして扉の奥からヘファイストス、も出てきたことで把握した。

 

「ヘファイストス。この建物は君の、【ヘファイストス・ファミリア】の所有物だったのか?」

 

「少し違うわヘルメス。この建物はこの子の個人的な家なの。だから私達【ヘファイストス・ファミリア】の物とは別なの。私がロキから受け入れたその後にこの子がどうやって用意したのか教えてくれないのだけれど、ここに家を構えたの」

 

「というと、ロキ。君は知っていたのかな?」

 

「おい、なに聞いておんねん。うちの後やぞ。知るわけあらへん・・・・・ってそこ、色ボケ女神!イッセーを連れて行こうとすんなや!」

 

猪人(ボアズ)の獣人に迫られている一誠を見て激しく突っ込むロキに突っ込まれたフレイヤは「まだしてないわよ」と余裕の態度で言い返した。

 

「それにしてもどうして椅子に座っているのかしら?」

 

魔力枯渇(マインドゼロ)でしばらく体が動かせれないから、俺を連れて行こうとするなよ」

 

「・・・・・そう、動けない体になっちゃったのね?」

 

好いこと聞いた、と妖艶な微笑をする美神をめっちゃくちゃ不安に駆られる一誠は、指摘する。

 

「で、大方俺の家を調べに来たんだろ」

 

「ああ、そうだよ」

 

「イッセー、この男神の言葉は無視しとけ。全部嘘やからな」

 

酷いなぁ、と漏らして苦笑いするヘルメスを置いといてロキは首肯する。

 

「まさかとは思うけれど、何かうちらに見られて不味いもんはあるわけないんやろうなぁ?」

 

「綺麗な物ならたくさんあるけど・・・・・こんなに大勢来られちゃいい迷惑だ。だから、俺の家に入りたかったらそれぞれの【ファミリア】から神と団長と副団長だけ通らす。それ以外は通す気は無い」

 

「えっと、もしそれを無視して入ったら?」

 

「入ってみれば?そうしたら気付かない間に自分の大切な物が壊されていたりするけれど」

 

ニヤァ、と邪な笑みを浮かべだした少年に冷や汗を流すヘルメスであった。

 

「この家は俺個人の物だけどヘファイストスと団長の椿と住んでもいるから、見せれない場所もある。第二の【ヘファイストス・ファミリア】の本拠(ホーム)だと思って下手なことをするなよ。例え中に何があろうとだ」

 

警告する一誠の前でロキ達は団長、副団長だけを選び、他は待機させる。打ち合わせ通りにならなかったが、こうする他あるまいと一誠やロキ達は内心そう思った。そして、決められた神と人数と一緒に扉の中へ戻り潜って行く先は―――巨大な森の大自然が一行を迎えた。真っ直ぐ続く土の道に進む一行を挟む巨大な木々や植えられている水晶の数々。剣と翼の徽章(エンブレム)を身に着けた覆面の冒険者の空色の瞳は驚きで目を見開き、赤髪の少女と正義と秩序を司る女神も愕然と回りを見回す。森の中に入った瞬間、雰囲気がガラリと変わったような気がする。澄んだ空気が漂い包まれてる自然の中は、まるで神聖な聖域の地に踏み込んだような気を思わせる。

 

「故郷を思い出すな」

 

「・・・・・ええ」

 

リヴェリアの呟きに思わずと覆面の冒険者が相槌を打った。それでも警戒しながらどこまでも伸びる土の道を歩き続けて数分経った頃。直径百Mはある湖がある場所に辿り着いた。湖の周辺にはダンジョンでしか採取できない稀少果物(レアフルーツ)や貴重な採取道具(アイテム)、回復道具(アイテム)にも使用される植物や宝石の実が育つ数多の宝石樹など様々な物が人工的に栽培されている事に度肝を抜かされた。

 

「イ、イッセー君・・・・・こ、これって君一人で育てているのかな?」

 

「ん、そうだよ。わざわざダンジョンに行かずとも自分の手で育てて地上で商人と売買する、金を稼ぐ必勝の方法を考えた結果だこれだ」

 

自慢げに語ったあと「真似すんなよ」と意地の悪いことを言われても、ダンジョンから木を丸ごと地上に持ち出す労力は自分達に無いとアスフィと副団長は首を横に振る。そんな驚きの物が広がる光景の中で、ここが行き止まりだと悟る一行は聳え立つ崖の上にある城へ行く道はどこであろうと周囲に目を配らすが、それらしき道や入り口、階段は見当たらないでいると、ヘファイストスと椿は一誠を乗せた椅子ごと押して―――湖の上に歩き始める。

 

「えっと・・・・・歩けるのかなヘファイストス?」

 

「私達の後に歩ければ大丈夫よ。それ以外は湖の中に落ちてしまうから気をつけなさい」

 

と、言う鍛冶神にフィンが湖の水面を突くように槍の穂先を振り下ろすと、ガッと何かとぶつかるような音が生じた。それを何度もし続けて道の幅を確かめ、見えない足場を横薙ぎに擦りつつ前に進む【勇者(ブレイバー)】の背中を追いかけるロキとリヴェリア。三人の通った透明の足場を倣って他の者達も乗って歩き、湖の中心まで移動した途端。足場が降下する先にある白亜の神殿の中にある光り輝く魔法円(マジックサークル)に辿り着く。

 

「あの魔法円(マジックサークル)の中に入れば目的の家に着くわ」

 

「永続的に展開しているのですかあれは。消費する魔力も少なくないはず」

 

アスフィの疑問は尤もであるが、ヘファイストスや一誠は受け答えはせず魔法円(マジックサークル)の中へ椿と一緒に突き進んだところで姿を消した。

 

「消えたっ?」

 

「うーん、オレ達が最終目的の場所に着くと言っていたからこの魔法で離れた場所に移動できるってことなんだろうね。もし、それがダンジョンの中でもできるんだったら希少魔法(レアマジック)もいいところだ。欲しいなぁ」

 

何時までも立ち尽くすわけにはいかない故に「お先に行ってくるゾウ!」と足を揃えて跳躍して消えた主神を追いかける団長と副団長に、フィン達も続く。そして、一瞬でオラリオの街の全容を眺められる崖の上にある城から離れた、円形状で幾つものの石柱で間隔的に空けて石造の屋根を支えている広い空間に移動した。先行くへファイスト達から少しばかり初めて見るオラリオの街の全容に目を奪われる。

 

「おおおおおれええええええがあああああガネエエエエエエエエシャアアアアアアアアだああああああああっ!!!!!」

 

「「五月蠅い主神で誠に申し訳ございません」」

 

「自分等、ホント苦労する主神で大変やな・・・・・」

 

叫ばずにはいられないと口の周りを両手で添え、絶叫するガネーシャに団長と副団長が揃ってロキ達に謝罪するほど恥ずかしい思いをしているのであった。同情の念を禁じ得ないロキは「うっさいわボケッ!」と叫ぶ男神の背中に蹴りを入れる。

 

「・・・・・ヘファイストス、今の声を出したのがガネーシャ?」

 

「ええ、そうよ。天界でもあんな感じだったわ」

 

耳キーンになりかけたヘファイストス達は巨大な黄金の鐘楼を横切る途中でロキ達を待つ。やがて、男神女神、彼等彼女等が腰辺りまである胸壁の通路に進んで来て、巨大鐘を見上げ圧巻。

 

「イッセー君、これって本物の黄金でできているのかい?」

 

「うん、全部純金だ。総額は億ヴァリス並みじゃないか?俺の家の最大で最高の宝物だから、掘って持ち帰ろうとするなよヘルメス」

 

「あはは、オレが君に対してそんなことするわけ無いじゃないかー」

 

君とオレの仲じゃないか、と笑って友人のように接するヘルメスにロキの辛辣が飛んでいく。

 

「この中で一番信用ができない神はヘルメスだけやから、イッセーが警戒と疑うんのも無理ないで」

 

「じゃあ、私が一番信用されているのね?」

 

「ぷっぷーっ、残念やなフレイヤ。うちが【フレイヤ・ファミリア】の主神は誰彼構わず魅了する危険神物だって伝えておいておるから一番避けられとるわ」

 

「ロキは女神なのに女神じゃない印象だけどな。主に女の象徴が無い時点で」

 

ガーンッ!思いもしなかったところからの言われた一撃にとショックを受ける元主神に誰も慰めようとはいない。変えられない、変えようのない事実を指摘されてはそうではないと言い切る神は皆無に等しい。

 

「イッセー、ロキを弄ばないの」

 

「でも実際はそうだろ」

 

と、事実の有無を問われた鍛冶神はフッと悟った目で語り出す。

 

「・・・・・そうね。天界にいた頃、ヘスティアって女神と喧嘩していてどっちも何が悲しくて自分のコンプレックスを傷付けられ、傷つけ合ってる皮肉な言い争いをしている光景は神々の間ではもう有名よ。顔を見合わせたらロキ無乳とロリ巨乳の言い争う見世物(ショー)が見れるって程にね」

 

「ファイたんんっ!?今のは聞き捨て出来ひんで!?」

 

この世界のヘスティアは体が小さくて胸が大きいのか、とロキの悲鳴がどこ吹く風の様に別の事を考えていた一誠の耳には入っていなかった。家捜しをする筈なのに何故か賑やかになってしまい、真面目にできるのかと心配になってきた他派閥の冒険者は城の中へ通ずる扉の前に辿り着きながら見上げた。白亜の城でどこか遠い国の城の様だと思わせる造りを何故自分達は今まで気づかなかったのだろうかと不思議に思っていれば扉が椿の手で開かれて行く。

 

一行はいよいよ城の中へ侵入を果たす。白亜の壁面と天井の下は大理石の床となっている。数本の巨大な石柱は間隔的に立てられているだけで他は変わったところは何もない。

 

「こっから先は靴を脱いで入って貰うぞ」

 

「え、靴を脱ぐ?何でだい」

 

「人の家に土足で上がられるのが嫌なだけだ。誰が掃除をすると思っているんだよ。俺の家に入るからには俺の家の規則(ルール)を守って貰わないと困る。守る気ないなら出てけ」

 

椿に室内用の車輪付きの椅子に乗せ換えられながら、ヘファイストスと椿も靴を脱いで、裸足となって段差がある床に足を踏み込んだ。

 

「しゃーないな」

 

ロキが渋々と、そんな演技をして靴を脱いでから大理石の床の上を歩く。フィンとリヴェリアも靴を脱いで玄関ホールと思しきこの空間の中を踏み入り催促する。

 

「ほれ、自分等もさっさと脱ぐんや。何時まで経っても調べられへんで」

 

「・・・・・そうだね。ここは彼の家だ。友人の言うことは聞かないとな」

 

「何時あの子の友人となったのですかヘルメス様」

 

「そりゃ、友情の印として絨毯をくれたあの日からだぜ?アスフィだってあの子からその腕輪を貰っているから似たような関係なんだろ?」

 

左腕に嵌められている金色の腕輪を指摘された水色(アクアブルー)の髪に眼鏡を掛けた碧眼の少女は言い返す言葉が無く押し黙ってしまった。

 

「ふぅん・・・・・あの子に絨毯を作って貰ったのねヘルメス。それで友情を築けただなんて凄く世渡り上手ね。私も見習いたいわ。後で教えてくれないかしら・・・・・?」

 

「あ、あれ、フレイヤ様?綺麗で美しい笑みからかつてない怒気と殺気(オーラ)が迸っておられる?」

 

が、優男神に危険なオーラが。ヘルメスは知らない。今の銀髪の美神はこの世で一番欲しているものを。全てを魅了し虜にする側の美の化身たるフレイヤが魅了し、なおかつ第一級冒険者の眷族の一人を倒し己を啖呵を切って挑発した初めての相手を、全力で手に入れる気持ちを抱いている事もだ。お気に入りの者からの贈り物をロキならともかく、今所属している【ファミリア】のヘファイストスにもともかく、赤の他神が自分を差し置いて手作りの魔道具(マジックアイテム)を受け取っていたことに軽く、嫉妬(はらがたった)。―――ぶっちゃけ、フレイヤは一誠に片想恋慕(ぞっこん)なのだ。

 

「おーい、こっちはそろそろ昼飯を食べたいんだからよ。さっさと終わらせてくれるか?」

 

「せや、さっさと終わらせてうちもイッセーの昼飯をありたいんやー」

 

「貴方は自分の本拠(ホーム)で食べなさいよ」

 

と、ロキ達と一誠達は玄関に固まっている面々に声を掛けた。言われた通り、(ブーツ)やサンダルを脱いで、大理石の床を裸足で歩き、一誠とヘファイストス、椿は広い玄関ルームから直ぐにあるリビングキッチンの扉を開け放って中に入る。

 

「俺とヘファイストス、椿以外の部屋以外なら好きに入って調べても構わない。後、この家には俺個人的で家族的な人間がいるから手を出すなよ」

 

「―――主、丁度できました」

 

「因みに家族の一人がこのメリアだ」

 

白い皿に米と茶色い液体に様々な野菜や肉など交じっている料理の一品を持ってくる、豊かな金髪に翠の双眸、金色と白色を主にしたドレスを身に包む絶世のヒューマンを紹介する。

 

「おおっ!カレーではないか!」

 

「久しぶりね」

 

既に食べた事がある料理の名を嬉しそうに発する椿に、食欲をそそる香ばしい匂いに口元を緩ますヘファイストス。【ロキ・ファミリア】以外の神々と冒険者は、あんな茶色い食べ物は見たことが無いと興味深々で、鼻腔を刺激する嗅いだ事のない香りに好奇心を覚える。

 

「イッセー、うち等にも食べさせてほしいなーなんて・・・・・元うちの子供のよしみでぇー。なっ?」

 

「ええぇ・・・・・じゃあ、俺の家は安全だって言ってくれるなら食べさせてやるよ」

 

「よっしゃー!フィン、リヴェリア。うちがくるまでここで待機や!」

 

【ロキ・ファミリア】が食べ物で買収された!主神自ら壁の外に待機しているドワーフと幼女達を呼びに飛び出していく様に唖然と見守るヘルメス。

 

「・・・・・イッセー君、意外と君って腹黒いね。神を買収するとか、オレ達がギルドに報告されたら困るんじゃないのかな」

 

「別に後ろめたさも見られて困るようなものは一切ない。主神ヘファイストスに誓ってもいい。それに買収とかそういうわけじゃない。言ってただろ、元眷族のよしみで、だと。付け加えて言わせてもらえば、買収ってのは他の輩に知られてはいけない事実を隠蔽するためだったり、弱みを握られる承知の上でするか、自分に有利な状況にするためにするもんだ。寧ろ、ロキに信用されていないヘルメスの【ファミリア】に隠し事があるんじゃないのか?」

 

ジトーと見つめる一誠に「そんなことないよー」と朗らかに笑って否定するも。

 

「―――確か、神の前では人間は嘘が吐けないって聞いたんだけど、実際に本当かアスフィで試していい?」

 

「っ!?」

 

ヘルメスの頬が引き攣ったのを見逃さない一誠は邪な笑みを浮かべ、ヘファイストスに横目で頼もうと口開こうとした瞬間。優男神が「さ、さぁギルドの依頼を終わらせようじゃないか!」とアスフィと副団長を引っ張る形でこの場から逃げるようにいなくなった。あの慌てっぷりはもう肯定しているようなものであったので、「あいつ、何を企んでいるんだ」と疑心の目を向けられるようになる。その後、ガネーシャ達も家捜しを始めた。

 

「主、五人分を用意致しました」

 

「ん、ありがとう・・・・・そしてフレイヤさん。何故俺の隣にお座りになるのだろうか?」

 

「私も貴方に買収されてあげるわ」

 

当然のようにオッタルが背凭れ付きの椅子を引いて、座らせやすいようにして主神を一誠の隣に腰を下ろさせた。ロキ達の分のカレーをさも自分の為に用意されたと自然に銀色のスプーンを手にして、一口食べた瞬間。

 

「カレーよ!うちは帰還した―――ってうぉおおいフレイヤ!何自分、カレーを食っとんねんっ!?」

 

右にヘファイストス、左にフレイヤと女神に囲まれた一誠の状況と食す美の女神に気に食わないと突っ込むロキ以上に、一誠の隣を奪われたとアイズとアリサが「むーっ!」とぷりぷり怒った。

 

「・・・・・今まで食べた事のない美味しいさだわ」

 

「そうでしょ?彼の故郷の料理だそうよ。中にはワインを使った料理を食べた時は驚いたわ」

 

葡萄酒(ワイン)を・・・・・?」

 

スプーンを魔力で動かせれる程度ならば回復している一誠の、カレーを食べている様子に「そうなの?」と不思議そうに美神の視線が向けられる。

 

「ええ、ビーフシチューと言ってとっても上品な味わいだったわ。フレイヤも気に入るかも」

 

「そう、興味が湧いたわ。その料理、私も食べてみたいのだけれど」

 

「無理。体が動かせれないから。あー、メリア。オッタル達にも用意してやってくれ。道連れだ」

 

「畏まりました」

 

「うちの分も用意しといてやー!」

 

三大派閥の三柱とその眷族達と食事会が始まった不思議な空間の中で、カレーはやはり好評価だった。そんな一同を他所に生真面目に屋内の中を調べているヘルメス達も驚かされていた。

 

「ここ、鍛冶の工房だと分かるんだけどさ。こんな無造作にゴロゴロと『オリハルコン』と『アダマンダイト』が大量に置かれている光景をオレは見た事無いよ・・・・・」

 

「私達もですよ」

 

工房の中を確認している【ヘルメス・ファミリア】と違うところで調べている【ガネーシャ・ファミリア】は。

 

「・・・・・貴様等は何をしに来ているのだ?」

 

「「・・・・・」」

 

地下の水泳施設(プール)で大いに下着一丁ではしゃいで楽しんでいる主神の姿に目も当てられないと団長と副団長は、監視を目的に廊下で出会った黒髪に時折紫色の発光現象を起こす金眼の青年に白い目でそう言われてますます恥ずかしさと申し訳なさで主神を問答無用に本拠(ホーム)へ連れ戻すことにした。

 

「うーん、ここまで高いところはオラリオに来て初めての場所ねー」

 

赤髪の少女が熱い陽光に顔を照らされながらも誰にも止められない、阻めない自由に吹く心地のいい風を受けて髪がたなびく中で迷宮都市を全貌できる一番高い最上階に来ていた剣と翼のエンブレムの【ファミリア】の眷族と女神。特に何もない場所の最上階であるが、『白亜の摩天楼施設(バベル)』の次に高い場所から窺えるオラリオの街並みを見ながら吹く風に堪能していた。赤髪の少女は高い場所を好み、調査している内にここを見つけたのだ。

 

「・・・・・アリーゼ、そろそろ他の場所も見なければいけません」

 

「あともうちょっとだけ。私、ここが気に入っちゃったんだから。いいでしょう?アストレア様」

 

「もう、仕方ありませんね。しかし、私達の目的は既に果たしました」

 

赤髪の長髪にドレスを身に包む女神もオラリオの街を眺める。

 

「貴方達が見たと言う昨日の光柱の正体はあの子で間違いないですね?」

 

「「はい」」と主神の問いに肯定する二人。突如、天に昇る光柱を目の当たりにして確認を急いで近くまで来たこの二人は、見てしまったのだ。血の海に沈んでいた女性が眠りから覚めたように起き上がったところを。そしてその直前に神々しい姿をしていた少年もだ。

 

「あの騒動で罪のない子供が命を落とした。しかし、その命をあの子供は天界に向かう筈の命を喚び戻し甦らせた・・・・・」

 

「今でも信じられません。ですが、私達は事実をこの目で見ました」

 

「【ロキ・ファミリア】から転属して今では【ヘファイストス・ファミリア】の下級冒険者、イッセー。特に目新しく目立った功績はありません。が、やはり不思議と謎が深まるばかりです」

 

下級冒険者なのに異常なことばかりが周辺に起きている。この家もそう、あの【天使(テ・シーオ)】の姿もそうだ。彼女等の常識を超えた何かが一誠に秘められているのだと察するのだが、結局は分からずじまい。何時か接触を図ろうと考えていた時に千載一遇とばかりの強制任務(ミッション)の発令がきたのだ。これを機に少年を知ろうとここまで来たのであるが。

 

「【ヘファイストス・ファミリア】の団員であるから邪な者ではないのですが」

 

「なんか色んな神に好かれている印象だったわね」

 

「あのフレイヤもお気に入りみたい。意外だわ、まだ手を出していないなんて」

 

口を付けたスプーンで「あーん」とフレイヤにされそうになっている一誠にとうとう爆発したアイズとアリサ。少年を懸けた女の戦いが勃発して一騒動が起きている事をアストレア達は気づかない。

 

「ギルドに報告しに行きますよ」

 

「え、もうですか?こうしていてもまだ調べる気でいたのですけど」

 

「ヘファイストスの眷族に悪しき考えをする子供は皆無に等しい。あのイッセーと言う子も例外ではなかった。それだけの話です」

 

―――正義と秩序を司る【アストレア・ファミリア】は静かに去った。

 

そして、調査しに来た【ファミリア】は全員その日の内にギルドへ報告をした。口を揃えて『問題は無かった。【ヘファイストス・ファミリア】の団員の個人の家であった』と。皆からの報告を受け、ギルド長もこれを承諾。ただの家なら問題はあるまいとあっさり問題視をしなくなった。

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