ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか   作:ダーク・シリウス

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冒険譚10

一誠の家の調査から早くも五日が経ち、何とか歩けれる状態にまで回復した。久方ぶりに自分で歩き、朝食の準備をしようとリビングキッチンにフラフラと赴くと同じ通路の部屋からリヴェリアが出て来て、覚束ない足取りの少年の腕を掴んで己の肩を貸す。

 

「無理をするな。まだしっかりと歩けるまで回復していないのだろ」

 

「それでも歩ける様になったから歩かなくちゃ駄目なんだって。何時までも寝込んでいたら不安がられて申し訳が無いんだよ」

 

「・・・・・人の姿をしたモンスターとは思えないな。お前はやはり」

 

「元人間だったから当然だろ?」

 

彼女達に心配は掛けられないと、強がり、見栄を張る少年をハイエルフは目的のリビングキッチンへ連れて行く。朝食の準備をするだろうと思い、彼女も一緒に隣で仕度する。

 

「意外だな、リリアが慣れているなんて」

 

「まだ私達が三人だった頃。交代制で料理を作っていた時にな。ガレスは大雑把でぞんざいで、焼いただけの酷い料理だった。フィンは健康的を重視した料理だが、ドワーフの腹の足しにもならず質素な料理だと不満と愚痴を零していた。私の場合は二人より酷かったがな。まったく料理と言うレベルにすらならない物を作ってしまうことが多々あって二人の顔は引き攣っていた」

 

「おおう、そんな過去があったとは意外だ」

 

「アイズも言われたよ。仲が悪かった時の話をしたらな」

 

「あー、エルフとドワーフって性格と考えが真逆だもんな。俺の世界のエルフとドワーフもそうだったかもしれないけれど喧嘩してるところは見たことなかったなぁ」

 

他愛のない、昔話を懐かしみながら一誠に語り、住んでいた世界に存在している彼女等の同族をリヴェリアに語っている内に朝食が出来上がりつつあった。

 

「私の様なハイエルフ、王族はやはりいるものか?」

 

「ん?ああ、いたなぁ。ただ住む国によって人間を毛嫌いするエルフの一族やエルフを忌避する人間達もいたよ」

 

「そうなのか」

 

異世界に行けるものなら、言って真っ先に同族を会ってみたいなと淡い願望を胸にした。未知の世界を見て回りたいと言う理由で故郷から出た彼女にとって異世界はまさに未知に満ちた世界だ。

 

「・・・・・イッセー。もしも異世界に帰る時、私も連れてってはくれまいか?」

 

「え、でも【ファミリア】はどうするんだ?」

 

「私は死ぬまで冒険者として生きるつもりではない。無論、私の後釜となり得る魔導師(メイジ)を育てた上でお前の世界に行ってみたいのだ」

 

そう言って提案を述べるリヴェリアに、どこかに困ったように喉の奥から笑う一誠。

 

「その後釜とやらが現れず元の世界に一足早く戻ってしまっても知らないぞ」

 

「運が悪かったと諦めるしかないな。だが、予約はしたからなイッセー」

 

「あいよ。しっかし、そうなったら俺の世界の文字の読み書きを教える側になるかぁー」

 

「だったら暇なときにお前の世界の文字を教えてほしい。直ぐに覚えてやろう」

 

不敵に知識量が豊富だから頭の理解力も高いと自負する彼女に目を丸くさせた。

 

「言っておくけど、俺の世界の文字と言葉は数十種類以上あるぞ?漢字という文字なんて数万以上だ」

 

「・・・・・なに?」

 

異世界の言葉の知識量が想像を絶するほど遥かに上回っていることを、後に改めて現物を突き付けられたリヴェリアは驚きのあまりに開いた口が塞がらなかった。

 

 

 

「イッセー、イッセー」

 

「ん?どうしたアイズ」

 

「尻尾、触りたい」

 

朝食の後、のんびりとゆとりの時間を満喫していた。永久社長兼主神のヘファイストスは支店に、椿は試作品に没頭中。リヴェリアは次回の『遠征』に向けての会議と準備でいない最中。部屋のベッドの上で寛いでいた時、部屋に入ってきたアイズとアリサに開口一番でそう強請られたのであった。

 

「ん、ほれ」

 

臀部辺りからシュルリと九つの狐の尾が生えだし、嬉しそうに眼を輝いて少女等はベッドに上がって一つの尻尾を触れたり、抱きしめたりと心行くまで楽しみ堪能する。そんな少女に尾を動かし包み込んでやったり、時折くすぐったりとして構った。

 

「あ、あははっ、く、くすぐったい、」

 

「イッセー・・・くすぐったいっ、くふふっ」

 

「笑わすためにくすぐっているんだから当然だろ?ほらほら、ここを擦れば―――」

 

「「あっあはっ、あははははは―――――っ!?」」

 

その一分後、全身で息をして無理矢理笑わされ笑い疲れた少女達は仕返しとばかり涙目で少年の体に飛び付くが、「甘い」と軽くあしらわれて枕をぶつけられた瞬間に枕ごと抱きしめられ、尻尾も背中に回され身動きができなくなった。

 

「うーっ!?」

 

「俺の上に跨ろうなんて十年早い。まだまだ修行が足りんよ」

 

「絶対に強くなって仕返しするっ」

 

「ははっ、ああ、首を長くして待ってるよ。お前はその素質は俺よりあるからな」

 

ポンポンと金と銀の髪に優しく触れつつ梳かす様にして撫でる一誠の手を感じながら不思議に感じた事を口にした。

 

「・・・・・イッセーがまだ人間だった頃。本当に私より弱かったの?」

 

「弱かったと言うか、俺の世界の神々は『神の恩恵(ファルナ)』なんて技術がないから成長を促進する力は与えられず、自分自身の生身の身体と技、魔法と技術、才能のみで高め、高め合って成長していくのが常だったんだ。だから『神の恩恵(ファルナ)』を与えられた者とそうでない者の実力の差がハッキリと浮かんでいる」

 

それはアイズも自覚して認識している。今の自分は無所属(フリー)の民衆達を何十人も相手にしても勝てると自信がある。その気持ちこそが神の眷族になった者とそうでない者の差であることも。

 

アリサも神の眷族に成ってから実力がメキメキとついてきた。本当に神の力は凄いと今でも驚嘆の念を抱いている。眷族に成る前の弱い自分を完全に置いて前へ進んで行ってしまっていることも。

 

「だから強くなれる素質があると俺は確信してる。俺が『神の恩恵(ファルナ)』を与えられる代わりにドラゴンに転生してドラゴンの力を得たから強くなったようにな」

 

「・・・・・モンスターになれて、嬉しいの?」

 

「うーん、正直モンスターになれて嬉しいと言うより感謝の念が強い。甦らせてくれたから俺は誰よりも負けない強さが欲しかった。純粋にそれだけを思えるようになったからな」

 

強くなりたい。その思いだけがアイズと同じで、初めて会った時から自分とどこか似ていると共感した。

 

「だからさ、この体をくれたドラゴン達には感謝している。このドラゴンの体でこれからもずっと強くなって大切な人達を守って行く。それが俺の強さの秘訣であり望みでもある」

 

「守りたい人がいると強くなれるの?」

 

「当然だ。自分の為に強くなるのも、相手を倒す為に強くなるのもいい。だけど、誰かの為に強くなったその質が他と違って高く―――英雄のように強くなる」

 

アイズは一誠の顔を覗きこんだ。優しげな眼差しが金眼から送られる。しかし、その瞳の奥には哀愁も滲んでいた。

 

「俺はモンスターだから英雄にはなれない。だから、大切な人を守るモンスターになることに決めた。ま、この世界じゃそれすらできないがな」

 

「イッセー・・・・・」

 

「っ・・・・・」

 

「お前等、幸せになる方法を間違えるなよ」

 

悲しい現実を突き付けられ、少女の心はチクリと痛みが。少年は正体を明かせば手の平を返す様にオラリオは天敵とみなし全力で討伐を臨むだろう。その時自分は―――人間側に立たなくてはならないのだと思い知らされる。

 

(私の幸せ・・・・・ってなに?)

 

もしも、幸せになれる方法を選べれるなら。自分は・・・・・どうするべきか、まだ幼い少女は早すぎる考えに悩んでしまった。

 

(分からない・・・・・でも、イッセーとずっと一緒にいたいって気持ち、嘘じゃないよ)

 

 

その日の夕方頃。中央広場(セントラルパーク)を見下ろす、『バベル』の最上階からの銀瞳。銀髪の美神の視界に映る冒険者や民衆の魂の色はどれもこれも彼女に見初められず、北西と西の間の方角にある筈の建物に銀色の瞳を向けると、その家は何故か消えていた。

 

「ビーフシチュー・・・・・」

 

消えた家を見ながらお気に入りの子供が作る上品な味わいが楽しめる料理。不意にそう口に出して思い出した。そうヘファイストスから聞き、今だ食べた事のない女神からすれば気になって仕方がない。あの少年は体を動かせれないから作れないと言っていたが、あれから数日も経った。今なら己の為に作れるのではないか?と淡い期待をしてしまう。

 

「オッタル」

 

「はっ」

 

二Mもある巌のような巨躯を誇る獣人は、窓際から離れた己が絶対の忠誠心を向ける主神の魔石昇降設備(エレベーター)に向かおうとする行動に従ってついていく。

 

顔を隠しても隠しきれない『美』のオーラは老若男女、種族問わず本神はその気が無くても魅了してしまう。彼女が通った道は、微かな『美』の残り香にあてられた者達の魂まで魅了された顔と案山子のように立ち尽くしている。『バベル』から現れたフレイヤの姿を見て誰一人、抗えず『美』の虜になってしまっても彼女は気にせず目的の鍛冶神の支店へ足を運んでいると、とある女神と鉢合わせした。

 

「デメテル?」

 

「あら、お散歩?フレイヤ」

 

豊穣を司る女神、豊かな蜂蜜色の髪と同色の瞳、フレイヤと会って足を止めた際にぷるん、と揺れる豊満な胸の持ち主のデメテルは柔和に笑って声を掛けた。フレイヤは彼女の問いに首肯する。

 

「ええ、ちょっとヘファイストスのところへ」

 

「あら、私もなの。もしかしてヘファイストスの子供に会いに行くかしら?」

 

デメテルの手に持っている物はバスケット意外に透明な蓋がある箱。自分と同じ目的であると発したデメテルに意外にそうに訪ねた。

 

「あの子と会ったことがあるの?」

 

「ロキからあの子が作ったって言うビーフシチューをお裾分けしてくれてね?その味が凄く美味しくて興味が湧いたからロキに頼んでヘファイストスを通じて会わせてくれたのよ。そしたら私が知らない味のピザをご馳走になっちゃって・・・・・とっても美味しかったの」

 

ほぅ・・・・・と恋する乙女のように熱い吐息を溢したデメテルの話を聞き、ロキはずっと前から一誠の料理をたかっているのだと分かり、あの強制任務(ミッション)時の言動は演技であったことすら、何となくであるが察した。

 

「それで、ビーフシチューを入れたこの箱を返して、ご馳走になったお礼に子供に作って貰ったパンやお菓子をあげに行こうかと思ってヘファイストスの所へ向かっていたの」

 

「そう、それじゃ、私も便乗させてもらうけれどいいかしら?」

 

「ええ、構わないわフレイヤ」

 

ロキに色々と問いたださなければいけなくなっちゃったわね。と嫌な顔をせず、同行を共にすることを許したデメテルの他所に心の奥底から、そう思ったフレイヤは彼女と共に北西に構えられている武器屋の支店に向かったのであったが―――。

 

 

「・・・・・ヘファイストス。ここ最近俺の家は神の来訪が多い気がしてくるんだが・・・・・」

 

「・・・・・どうしてでしょうね。私も薄々そう感じてきてるの」

 

一誠とヘファイストスは、チラリとある神物達へ視線を送った。

 

 

「こんばんわロキ。『今日も』イッセーの『手料理を食べに来た』のね?」

 

「うーん?なんのことやぁ?うちにはさっぱり身に覚えのないことやでぇ?」

 

「はい、ヘルメスも食べる?【ファミリア】で作ったパンとお菓子よ」

 

「ああ、ありがとうデメテル。いただくとするよ」

 

「俺がガネーシャだぁっ!」

 

「またこの顔触れで会うことになるなんてね」

 

―――何故、五日前と同じ神々が人の夕食をたかりにきたのだろうか。

 

「・・・・・ヘファイストス」

 

「・・・・・ごめんなさい」

 

そして、ロキやデメテルならいざ知らず。まさかのフレイヤ達までもがヘファイストスのもとに訊ねて来て、この家に案内してほしいと頼まれ、断わり切れず連れて来てしまった主神に「何で連れてきた」と非難めいた目の眼差しは堪えたようで体を委縮する鍛冶神。

 

「まぁまぁ、イッセー。神ヘファイストスだって断わり切れなかったんだ。今回は仕方がないと思って・・・・・」

 

「これを機に毎度毎度来られたらこっちは堪ったもんじゃないんですがねぇ?つぅか、お前がそれを言うかたかり二号のフィン?」

 

ロキ同様に夕食をたかりに来たフィンとガレスも似たようなもんだと睨みつけられて、苦笑を浮かべる小さな団長がカウンター席用に急遽設けられたその場所に座っている目の前で。

 

「―――こっちはそのおかげで、急いで全員分の料理を作らなきゃいけない羽目になってるんだ!くそったれめ!」

 

茹でた大量の麺を氷水で冷やしている間、野菜や燻製肉(ベーコン)を切ったり、透明で精緻に意匠が凝った硝子の皿に氷を敷き詰めて、冷えた麺や野菜と肉を盛ると・・・・・。

 

「ほら、外はそろそろ暑くなってきたから冷えた料理―――冷やし中華だ」

 

一口サイズに切られたトマトと千切りされた胡瓜と燻製肉(ベーコン)と厚焼き卵の下には綺麗な川のように一本一本細い麺が大量の氷の上に置かれてこれ以上ない程冷えている。そんな冷たい料理は食べた事無いと常連のロキ達やヘファイストスと椿は当然として、フレイヤ達も一種の芸術品見たいだと凝視していた。

 

「それと、麺はこの液を付けて食べてくれ。麺自体に味はないからな」

 

底が深い硝子製の器に入れられている黒っぽくも茶色にも見える液体の事を言いながら一同の前に置かれれば、興味深々に見つめる。

 

「これ、飲めるん?」

 

「飲めることは飲めるが、味が濃過ぎるから飲むことはお勧めできないな」

 

「そんなものに麺を付けて食べろって、これは本当に美味しいのかい?」

 

「嫌なら食うな。帰れよ」

 

何時に無く辛辣な一誠に【ロキ・ファミリア】はこれ以上気を触れてはならないと食べる前に祈りをしてからフォークを手にして、麺を絡め、液に浸し、口の中へずるずると音を立てて吸って食べた途端。

 

「ん、んー!確かにこの液っっちゅうのは味が濃いんやけど麺と一緒に食べると薄まって美味しく感じる!不思議な味で冷たくて美味しいわ!」

 

「野菜も一緒に食べるとまたいいね。口の中で液の味とは違う野菜の味と感触がするよ。麺だけを飽きさせないってのが良く分かってくる」

 

「暑い日でも食べるもんは温かい料理か冷えた酒やサラダなんじゃが、最初っから冷たいもんを食べれるとは驚いたわい」

 

「パスタとは違う作りで完成された麺は初めて食べた。しかも澄んだ味わいでこれはいい。私の好みとしよう」

 

「ん!」

 

と、【ロキ・ファミリア】からの評価を聞き、ヘファイストスと椿も食べては驚き、ずるずると夢中になって食べ続ければフレイヤ達もおずおずと食べ・・・・・。

 

「まぁ!」

 

「うーん、ロキ達が夢中になるのも分かる気がするなぁ」

 

「美味しいぞぉー!」

 

「うふふっ・・・・・」

 

「こんな味は初めてだわ。とっても美味しい」

 

男神女神達の舌を唸らせ、美味であると太鼓判を押させた。急いで作った甲斐があると溜息を吐き、自分も冷やし中華を一口食べて直ぐに「おかわり!」と求められた。

 

「もっと味わって食ってくれよ・・・・・お代りするのもいいけど腹を冷過ぎて腹壊すなよ」

 

「む、そうじゃな」

 

お代りはあると分かり、注意もして2杯お代りした神や団員がいれば、3杯もお代りした者もいた。

 

「・・・・・オッタル、普通に美味しかったんだな。4杯も食べるとは一番意外だったわ」

 

「気に入ったみたいよ?勿論、私もね?」

 

元々大食いか、それとも食べた事のない味の料理を堪能したからか思った以上食べた、食べるとは思わなかった獣人に驚嘆する一誠に微笑するフレイヤは乞うた。

 

「ねぇ?今度私の為にビーフシチューを作ってちょうだい?お礼は何だってするわ」

 

「うん?ビーフシチュー?知らない料理の名前かな?オレも食べてみたいなー。ってフレイヤ様、笑みが怖いよ。イッセー君が怖がっちゃうぜ」

 

私の邪魔をするな、と気配を醸し出して笑む銀髪の女神に引き攣った笑みを浮かべ、やんわりと諭す優男神を他所に、デメテルが一誠の傍により、【ファミリア】で作ったお菓子を改めて渡した。

 

「美味しかったわ。私達が育てた野菜を美味しくしてくれて嬉しいわ」

 

「まだまだ野菜を使った料理はあるけどね。って言ったらどうする?」

 

「勿論、食べてみたいわ。貴方の料理を真似して【ファミリア】でも作ってみたい」

 

ああ、言った傍からやっぱりコレか。どこか後の祭りのように若干後悔する。一人くれば数人便乗してくるだろうと―――今後もこんな感じが続くかもしれないと悟り、貰ったお菓子、リンゴを使ったパイを食べた瞬間に口の中でリンゴの風味が広がり、

 

「美味い!」

 

少年が大好物のアップルパイを久しく食べれた喜びに、真紅の髪を分けて生えた狐耳と、臀部辺りから伸びた九つの尾が喜びを露わにフルフルと揺れる。子供のように目を輝かせ、パイを咀嚼し堪能するそんな少年が―――突然小さくなった。ので「いや~ん、可愛いぃ~!」「え、ヒューマンじゃないのっ!?てか、小さくなった!」「あやつでもあんな顔をするのか」「種族を変えられるのですか・・・・・?」「可愛い・・・・・」「オッタル、捕まえてちょうだい。連れて帰るわ」等と騒がしくなった。最後に物騒な声が聞こえたので全力でフィンとガレスが阻んだのは別の話である。

 

「はふぅ・・・・・アップルパイ美味しかった・・・・・ごちそうさまデメテル・・・・・離れてくれない?」

 

「あ~ん、イッセーちゃんが可愛くて尻尾がフワフワして気持ちいぃ~。もう最高っ・・・・・」

 

「「イッセーと尻尾は、渡さないっ!」」

 

もうすっかり小さい狐人(ルナール)になった一誠にメロメロなデメテルは尻尾を愛でて、金髪金眼と銀髪青眼の幼女の嫉妬を買ってしまっていた。その瞬間を逃さないのがシャッターを押すロキであった。

 

「・・・・・イッセー、体が小さくなっているがどういうことだ」

 

「小さいとたくさん食べれるから効率的に体を小さくして食べるんだ。特に大好物のものだとな」

 

リヴェリアの指摘で、あっという間に元の大きさに戻って皆を驚かすが本人は知ったこっちゃないと態度をする。

 

「・・・・・アップルパイ、ね」

 

「うふふ、アップルパイ・・・・・」

 

が、しかし。不穏な気配を醸し出す神がちらほらと意味深な笑みを浮かべていた。

 

「うーん、ん、思いもしなかった好物をくれたデメテルにアレをあげるかな」

 

意味深な言い方でキッチンの方へ向かう一誠。大きな銀色の箱を開けてゴソゴソと漁り出した。それは茶色いソースがとろりとかかった、黄色くて柔らかな塊でそれを持ってデメテルに近づき手渡す。

 

「売られていると思うけど、プリンをあげる」

 

「・・・・・プリン?」

 

軽く動かすだけで皿の上のプリンは揺れる。デザートの一種か、ケーキやアイスの類ならば知っているが、こんな可愛らしいデザートは知らないと渡される銀色の匙を受け取り、茶色いソースに覆われた、卵色をしたプリンに押し当てる。それに対し、プリンはぷるりと震え・・・・・中に匙を潜り込ませる。そのままスプーンを上げ、プリンを掬い上げると驚くほど抵抗力がないように抉り取れた。銀のスプーンの上に築かれた、茶色と卵色の丘。それをそっと口に運び、舌の上へと載せて、転がす。舌の上に広がるのは、この菓子だけが持つ滑らかな触感、茶色いソースの少しだけ苦みを含んだハッキリとした甘さ、そしてプリンと言うデザート自体が持つ、濃厚な卵と乳の風味を含んだ甘み。ソースの味をプリン本体が柔らかく受け止め、プリンの味をソースが引き締める。この圧倒的な組み合わせ。口の中でとけいていくそれに、デメテルを魅了した。

 

「~~~っ」

 

また、未知の味と柔らかくて冷たい感触に肩を震わせ、歓喜で蜂蜜色の瞳を輝かす。

 

「美味しいっ!まさしくこれは至高の組み合わせと言ってもいい甘い物(デザート)だわっ!」

 

周りが驚くほど、デメテルは声を上げて称賛した。彼女がここまで声を張り上げるのは初めて聞いたかもしれないヘファイストス達は、必然的にプリンと言うデザートに意識を向ける。好奇心、興味深々、食欲もである。

 

「・・・・・イッセー、このデザート、私達のもある?」

 

「これは俺の分だから残りはヘファイストス、椿、リリア、アイズ、アリサの五つだけだ。冷蔵庫の中にあんぞ」

 

鍛冶神達の分だけならあると伝えられた五人は、冷気が籠っている箱へと向かい、お目当てのプリンを見つけ・・・・・試食した。ぱくり、と口の中に入れた瞬間、苦みが含んだ甘みと、濃厚な卵と乳の風味を含んだ甘みが広がって。

 

「「「「「お、美味しい・・・・・っ」」」」」

 

冷蔵庫の前で打ち震える女性達。もうこれは、気になってしょうがないとロキ達が騒ぎ出す。

 

「イッセー、うちのも、うちのプリンはないん!?ないんやったら今直ぐ作ってぇな!」

 

「・・・・・デメテル、一口ちょうだい?」

 

「イッセー君。調理方法を教えてくれないかい?無論タダとは言わないよ?」

 

「デメテルが声を出すほど美味しいのね・・・・・その、私も一口を」

 

「ガネーシャも食べたいゾウ!」

 

賢い神は分けてもらったプリンの味に思わず体が震えるほど美味しいと反応する。一人で大いに食べたいと求める神は少年に懇願する。が。

 

「俺は料理人じゃない」

 

真顔で拒絶された。―――しかし、再び彼は冷蔵庫の方へ向かう。既に完食したアイズ達の目の前で扉を開け、冷気の靄に包まれた箱の奥からズッとソレを取り出す。

 

「でも、どーせお前らみたいな反応をヘファイストス達がするだろうと思って大量に作っといて良かったよ」

 

「「「おおーっ!」」」

 

食べれなかったロキ、ヘルメス、ガネーシャが感動の喜びを示したのは、完成しているプリンが入っている小瓶の数々を目にしたからだ。大きさはデメテルのより小さいがそれでもプリンであることには変わりない。自分達も食べられると喜びで一緒に持って来られたスプーンを手にいそいそと食べ出す。

 

「―――んあまーいっ!」

 

「はっはっはっはっ、思わず笑ってしまうほどの甘さと美味しさだ。今まで食べてきた甘い物とは異なってるよ」

 

「おかわりっ!」

 

「早いわボケッ!」「オウッ!?」と突っ込み、突っ込まれる二柱の神を脇に他派閥の主神の眷族達にも一誠から配られ、食べた瞬間。殆ど女性だった為、表情を変えないオッタル以外、目を丸くして驚嘆と感嘆の息を漏らす。

 

「うーん、イッセー君。お店を構える気は無いかな?オレ、毎日通っちゃうよ」

 

「冒険者が店を構えるってどうよ?」

 

「うん?イッセーは知らんかったっけ?フレイヤんとこの子供が店を構えておるで?」

 

「へぇ、意外だけど俺は絶対に料理人なんてなる気は無い」

 

腕を組んで「絶対にな」ともう一度、現状を変える気は毛頭もないと断固として発するそんな少年に、ロキは人差し指でツンツンと突き指摘する。

 

「でも自分。この味を知ってしまったヘルメス達がうちらみたいに毎日のようにたかりにくるで?まだ食べた事のない未知の料理を堪能しに」

 

「―――――」

 

しまった、と顔を浮かべる一誠は重大なミスをした。最初にロキがたかりに来るようになったのも一誠がビーフシチューやカレーといった神々が食べた事のない料理を作ってしまったからだ。娯楽に飢えた神々が地上に降臨してから千年経っても、何億年も天界で生きていても一口すら食してない未知の料理と味を。

 

「イッセー・・・・・店を構えようが構えまいが、やってることは同じやで。しかも、ガネーシャ達が他の神連中に言い回したら想像は難しくないんやけど、そこんとこどうする気なんや?」

 

そんな未来を脳裏に思い浮かべ・・・・・和気藹々と喧騒で盛り上がる店内。殺到する注文に忙しなく手を動かして料理を作って持って行けば出迎えてくれるヘファイストス達。楽しくはあるだろうが、その反面。それだと自分のゆとりの時間が無くなったのも当然であると悟る。―――しかし、そこで突然思いつく。異世界の料理を知らないこの世界の神々と人類以外には同じ狢の穴の存在ともいえる異世界から来てしまった者達がいる。この料理の存在を世界中にいる同胞のところまで知れ渡り、何時しか良し悪し関係なく食べに求めて現れれば、情報を得られるのではないか?と。

 

「・・・・・店か。悪くないか?でも、店を構えるにしても改宗(コンバージョン)の後だな」

 

『っ!?』

 

意外にもまんざらでもなさそうに述べた少年に鍛冶神は左眼を見開き、朱髪の女神は何か企んどるなと探る目付きで視線を送る。そして一年単位で別の派閥に移る気でいる心情を知らない神々と眷族達も目を丸くする。

 

「え、イッセー君。ヘファイストスの【ファミリア】から抜ける気でいるのかい?とてもじゃないが、最大派閥にいて不満は無いと思うんだけどなぁ」

 

「ロキの時もそうだけど【ヘファイストス・ファミリア】が全部ってわけじゃないんだ。契約で交わした一年という期間が終われば、俺は自分の【ファミリア】を持つまで点々と別の【ファミリア】に改宗(コンバージョン)する気でいる。去年、そんな感じで【ロキ・ファミリア】から脱退しているわけ」

 

理由は分からないし、一年毎に改宗(コンバージョン)をする考えも精神も理解できない。だが―――!

 

第一級冒険者以上の実力を持ち。

 

便利な魔道具(マジックアイテム)を作ることができ、ヘファイストスや椿も認める鍛冶の技術の持ち主。

 

作る料理はまさしく第一級。

 

加えて身長が高く容姿も整って誰からでも好かれる体質を持っている。

 

―――この超優良物件が今年の一年を迎えることになれば、自分達の【ファミリア】の一員になるという可能性が浮上した瞬間。

 

(なるほどなるほど・・・・・これは良いこと聞いた)

 

(ふふっ、ふふふっ・・・・・!)

 

(毎日イッセーちゃんと育てて甘い物を作って・・・・・)

 

(ガネーシャッ、絶対GETだぜっ!)

 

(あの娘達と共に平和と秩序を守って行く姿を見るのも素敵ですね)

 

「あ、ロキ。一度離れたからさ、またそっちに厄介になるかもしれないぞ」

 

「マジでっ!?ファイたん!期待しとるから絶対にうちんとこに当ててぇーなっ!」

 

「当てるって、どんな方法で選んでいるの貴方」

 

一誠を狙う神々は様々な思いと野望を抱き、僅かな可能性を信じて小さく笑みを浮かべた。もしも、【ファミリア】に来てくれたらその年の一年は間違いなく、楽しい思い出で溢れるだろう。

 

「んじゃ、もう解散。ヘルメス達はもう来ないように他派閥同士の間の規則(ルール)を守ろう」

 

「「「「だが断わる」」」」

 

「・・・・・この場で天界に送還してやろうか」

 

貴重な食材があっという間に無くなりかねない為、魔力で具現化した鎧を纏い、本気(マジ)で光刃を構えた一誠にフィンとガレス、リヴェリアが何気なく必死で宥める労力を発揮するのであった。

 

「イッセー、諦めぃ。自分が料理を食べさせた時点でもう運命が決まったのも当然やで」

 

「澄ました顔で言うけどなっ。お前が食べられる料理の取り分をこいつらが減らしているようなもんだぞ。それでもいいのか?」

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

そう指摘を受けて、自分にとって不都合なこと、その原因は何たるか一分弱も思考の海に飛び込んで考えた結論は、あまりにも横暴なことであった。

 

「うしっ!ヘルメス達はうちの許可なく食べたら【ファミリア】潰す、決定事項や。特にフレイヤ、お前は二度とくんな。異論は認めへんで」

 

「あら、そんなこと言われてしまうなんて悲しいわ。―――貴方を潰さなきゃ『私の』イッセーの料理を食べれないなんて、仕方ないわよね?」

 

朱色と銀色の炎を背負ってオラリオ最強最大派閥の二柱が、戦意のという火花を散らし神威すら迸らせた。

 

「「「イッセーの料理一つで派閥同士の闘争が勃発しかけるなんて・・・・・」」」

 

「めっちゃくちゃくだらない理由で?アホらしい」

 

異世界の料理、恐るべしとフィン達は戦慄、対して一誠は心底呆れ顔で息を吐いた。

 

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