ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか   作:ダーク・シリウス

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冒険譚12

湿った空気が漂う岩窟で、乏しい燐光が揺らめきを作る。うっすらとした光によって地面に伸びるのは武装した集団の冒険者達だった。数は約15人未満でこの魔の巣窟こと迷宮に足を踏み入る、酔狂かつ命知らずな侵入者たちを阻まんとするモンスターは一匹も存在しなかった。無数の道が錯綜する洞窟然とした迷路内を、冒険者達は迷宮に潜ってから一度も怪物(モンスター)の遭遇をしていない。

 

「ンー、ミノタウロスすら現れて来ない限り本当にソレは本物なんだね」

 

黄金色の髪に碧眼の小人族(パルゥム)の槍使いが斜め後ろに立つ真っ赤な全身型鎧(フルプレート)を着こむ冒険者を尻目で見た。厳密には首に下げられてる黒曜石のように輝く黒い何らかの鱗のような欠片を首飾りにした装飾品に視線を向けていた。ソレを下げている鎧の人物は同感だと首肯する。

 

「あの商人はいい物を手に入れてくれた。説明書を読んでも疑わしかったがコレは紛れも無く本物のようだな」

 

「ああ、まさか―――十数年前ゼウス・ヘラの【ファミリア】が討伐を果たせなかった『黒龍』の鱗。ソレから放つ威圧的な物が他のモンスターを寄せ付けない効力があるなんて知らなかった」

 

一欠けらでも中層のモンスターを寄せ付けない地からの気配に感嘆する。が、それを持つ当人は深い溜息を吐いた。

 

「まったく、主神からの執拗な命令に同じ内容の大量の冒険者依頼(クエスト)を持って来て強制的に【ロキ・ファミリア】の長期の遠征に付き合わされる羽目になるなんて・・・・・」

 

数日前の朝の事を思い出すその声音から辟易していることが窺える。その【ロキ・ファミリア】の団長は申し訳ないね、と苦笑いをして会話を繋げる。

 

「君自身、今までホームを留守にして遠征にすら参加しなかったんだ。そのツケを払ってもらわないとね」

 

「うん、全然そんなことと気にもしなかった元団長が建前を言う辺り、何か企んでいると分かってるからな。―――なに、このクエストの内容」

 

羊皮紙をフィンに見せつける。冒険者依頼(クエスト)の内容が綴られているそれを読み上げると・・・・・【ロキ・ファミリア】の遠征中の装備の手入れと夜の食事の仕度を求める。

 

「遠征中の武具の手入れならともかく、なんで食事の準備をしなくちゃならないんだ?」

 

「あはは、君の料理を食べれば団員達の士気は向上するだろうと思ってね。あ、今夜はあのカツ丼とカレー、どっちか頼んだよ?」

 

「・・・・・フィン・ディムナの踊り食いを食べさせれば皆、士気どころか力も向上すると思うんだ」

 

腰に佩いていた鞘から剣身を覗かせ、殺気を放つその行為にフィン以下の団員達が慌てふためく。

 

「因みにカツカレーだったら手っ取り早い」

 

「構わないよ。君の作る料理は第一級だからね」

 

そんなこんなで一誠は【ロキ・ファミリア】の遠征に付き合うことになっていたのであった。それからあっという間に中層―――16階層に到達。17階層に続く通路周辺で立ち止まる。

 

「他の皆が集まるまで待機。集合したら―――17階層に進出、階層主ゴライアスと一戦を交える」

 

最大派閥の団長として無駄なことはしない。効率よく長い期間を懸けて団員の成長を導く。見張り役を数人配置させて合流地点のポイントにこのあと来るリヴェリア達同胞を待つフィンに一誠からある物を手渡される。

 

「んじゃ、新作の物を使ってもらおうか」

 

「これは?」

 

「閃光弾。相手の視力を一時的に奪う魔道具(マジックアイテム)。ただし、無茶苦茶に暴れられる可能性があるからこの対大型モンスター用のシビレ槍で使って・・・・・」

 

説明を受けたフィンは、仲間の合流と戦闘準備が整い次第で17階層へ突入。そして試しに閃光弾とシビレ槍を使ってみると巨人型のモンスターの体を這う電流で動きが停まり、その隙を突いて一斉に武器を叩きこんで倒した安全策だったこの連携に一誠へ訊ねた。

 

「これ、他の階層主でも通じるかな?」

 

「試したことはないけど、ウダイオスとそれ以上の階層主は通じないと思う」

 

「ンー、『アンフィス・バエナ』までか。でも、それでも効果があるなら使う手はないね」

 

「ん、毎度あり」

 

 

【ロキ・ファミリア】の主力と一誠がいなくなった数日後の地上―――。【アルテミス・ファミリア】の団員達はギルドから出て来る異邦人達。周りの視線をあからさまに気にしながら早足で遠ざかるその姿は更に奇異な視線を向けられるが、キリト達がここにやってきていたのは冒険者登録をしにいくためだ。ただし異形の姿をした者は手袋や全身に鎧を着込む方法で正体をバレないよう工夫しないと外に出歩けれないため、金属を擦りつけながら向かうしかなかった。

 

「うぇ~、歩き辛い」

 

「仕方が無いですわ。そうでもしないとバレてしまいますもの」

 

「だけど、これで俺達は冒険者になったんだな」

 

異世界の文字、共通語(コイネー)すら書けない異邦人達は受け付けの人に変わって書いてもらって登録を果たした。少年少女達をここまで連れてきたキリトとアスナは何だか不思議な気分に浸っていた。自分達に異邦人の後輩が出来たんだな、と。

 

「なぁなぁ、神様の眷族になったら俺達は今よりも強くなれるんだよな?」

 

「ああ、その通りだ。君達の世界にもゲームがあるなら、強くなれる手段や方法もわかるな?」

 

「モンスターを倒して経験値を溜めてレベルアップするんだろ?ゲームみたいに簡単に強く―――」

 

「「簡単じゃないよ、強くなるって」」

 

黄色い髪に色々と軽そうな少年に揃って否定する言葉で遮った。足を止めて振り返ったキリトとアスナに対して「へ?」と間の抜けた声を漏らす少年はこう言われた。

 

「いま俺達がいるのは仮想世界じゃなくて現実世界だ。決してゲームの感覚でいちゃならないんだ」

 

「この世界に生きる事もモンスターとの戦いも生半可な覚悟でいられるほど、優しくないよ。気を抜いたら死んじゃうかもしれない」

 

真剣な面持ちで諭され少年は半ば唖然とする。

 

「他の皆も、死にたくなければ必死に生きる事を足掻く覚悟と努力をするべきだ」

 

「じゃないと、元の世界に帰れなくなるよ?私達も君達も、お互いね」

 

「「「「「・・・・・」」」」」

 

どんな世界でも死は平等。自分達よりも一年長くこの世界で生活をしていた二人は凄く逞しい事を思い知らされた異邦人の一行。

 

「さ、早速ダンジョンにでも行ってみるか?特殊な能力を持っているなら上層のモンスターぐらい倒せるだろうし」

 

「えっと、どんなモンスターがいるんですか?」

 

「ゴブリンとかウェアウルフ、カエルのモンスターとか影のモンスターとか色々だな」

 

「魔石の集め方も教えるね?冒険者もお金が無いと生きていけれないから」

 

職業や就職、賭博して得られる収入の他にもダンジョンで集める魔石や怪物の宝(ドロップアイテム)で収入源を確保、収集しなければならないことを事前に教わっている。異邦人達は全員、冒険者として生きる事を選んだことで冒険者の苦労を今日から味わうのである。

 

「でも、上層の階層の下、中層はもっと手強いモンスターが存在するから中層から先は命懸けの戦いの本番だ。強さに自身が無いなら中層に行かないことをお勧めするよ」

 

「キリトさん達はどこまで行ったんですか?」

 

「27階層の下層。とてもじゃないが、一日で往復できるような距離じゃない。ダンジョンの中で寝泊まりする必要がある。だから色々と手間と時間、下準備を整えてからじゃないと27階層まで行って戻っては来れない」

 

「だ、大丈夫なんですか?モンスターがいる迷宮の中で寝泊まりするなんて」

 

「各階層にモンスターが出て来ない階層、安全階層(セーフティポイント)が存在する。そこにいれば一先ず安全だが、それ以外の階層だと見張りをする人間がいない中寝る事は難しいな。―――例外を除いて」

 

例外?何のことだろうと思っていると、地下迷宮に続く摩天楼施設の塔に辿り着いていた。街のどこからでも見る事が出来る巨大で壮大な天を衝かんとばかりする塔。

 

「アスナ、人数を分けて行こう。時間は三十分後、またここで落ち合おう」

 

「うん、わかった」

 

ギルドから支給された武器で初めてダンジョンに挑む異邦人達は、この世界で生きる厳しさを思い知ることになる。純粋無垢な子供にとって例えモンスターであろうと『殺す』経験をしなくてはいけないことをこの時でもまだ知らないでいるからだ。

 

 

 

 

 

「右へ緊急回避っ!」

 

フィンの叫びと疾呼で団員達は焦燥に駆られた気持ちと死に物狂いの顔で避けたその直後。壁面から何かが飛び出して団員達が今さっきまでいた場所へ襲いかかった。が、直ぐに地面に穴を開けて潜り出した。その光景に【ロキ・ファミリア】達は戦慄と警戒の面持ちで見つめ周囲を警戒する。

 

「下層に来てまで厄介なモンスターに出くわしてしまった」

 

「初めて見るモンスターだ。あれは何だ?」

 

「深層出身の蛇型モンスター、『大蛇の井戸(ワーム・ウェール)』だ。冒険者達がつけた渾名もあって『凶兆(ラムトン)』とも呼ばれてる」

 

深層のモンスターがどうして上層、この下層に上がってくる?と不思議に思いながらも足の裏から感じ取れる移動する巨大な気配を感知と探知―――。

 

「フィン、リリア達がいる地面から来る」

 

「君のその能力は称賛に値するよ。リヴェリア!そっちに襲いかかってくる!」

 

「後退だ下がれ!」

 

三秒後、深い青色の何かがリヴェリア達がいた地面から飛び出してきた。一誠の探知の能力で回避できながら攻撃を加える上級冒険者と第一級の冒険者のドワーフに二人の幼女であるが、素早い動きの上に巨大で長大な体躯だ。狙いがズレれば決定打を与えられない。しかも『ワーム・ウェール』は蛇型モンスター。元来の生物同様、獲物を狙う執着心を兼ね備えている。全ての獲物を呑み込まんとするモンスター相手に―――。

 

「―――ア、アリシアが喰われたっす!」

 

【ロキ・ファミリア】でさえただでは済まないのである。犠牲者が出た報告が悲鳴と共に伝わり、フィンの心情は槍の柄を握ることで露わにする。

 

「生きたままならまだ大丈夫だな」

 

が、その隣であっけらかんと物言う一誠に真意を問う。

 

「どうしてそう言い切れる?」

 

「ん、俺も子供の頃そう言う経験をしたことがあるから。―――横から来るぞ」

 

「・・・・・君は一体どういう人生を過ごしてきたんだい」

 

震動を察知し一人だけ前進する一誠に何とも言えない気持ちを抱くフィンは、団員達を後退させながらこう言う。

 

「頼めるかな?」

 

「ああ、お安い御用だ。魔石とドロップアイテムも持って戻ってくるよ」

 

秒を待たず、群れから離れた獲物を狙う狩人(ハンター)は側面の壁面をブチ抜いて『ワーム・ウェール』が突撃を仕掛けてきた。

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』

 

そして一誠の姿が顎を開けた大口の中へと掻き消えた瞬間を、アイズとアリサは限界まで見開いて見てしまった。

 

「「イッセー・・・・・!?」」

 

 

下層で起きた凶兆の出来事を上層にいる冒険者達にとっては関係のない話。キリトとアスナの班に分かれてそれぞれ初のモンスターとの戦闘を臨もうとしていた異邦人達。

 

「・・・・・キリトさん」

 

「どうした?」

 

「モンスターを倒すって、殺さないといけないんですか」

 

手始めにキリトがゴブリンを斬り捨てて、胸部から紫紺の欠片『魔石』を取り出すやり方を見せた辺りから異邦人達の表情は強張ったり引き攣ったりした。キリトはワカメ頭にそばかすがある少年の問い掛けに当然のように首肯する。

 

「そうだ。もしかして、ゲームのように勝手に消滅してくれると考えてたか?」

 

「・・・・・はい」

 

そばかすの少年の肯定にキリトは呆れも小馬鹿にすることもなく同意した。

 

「そうだな。その気持ちは俺も最初に抱いたよ。でも、この世界の人間・・・冒険者達はお前達の年頃の子供でもこうやってモンスターを殺して魔石を集めてお金を稼ぎつつ強くなっているんだ。俺達異世界から来た人間にとって衝撃的で残酷な話だけどな。けれど、冒険者として生きるなら他の冒険者と同じことをしなくちゃならないんだってそう思うと、自然とモンスターを殺すことに躊躇わずするようになった」

 

何時か元の世界に戻るために様々な覚悟を心して掛らないといけない。キリトの話を聞いていた異邦人達は促される。

 

「さ、今度は君達の番だ。冒険者になったからには自堕落な生活はできないからな。生活費も小遣いもその他諸々、自分の手で稼がなくちゃ」

 

 

一方、アスナの班でも似た反応をされていた。

 

「僕達はヒーローを目指す学生なんだけど!?この世界の冒険者はこんなことしているのかい!」

 

「私達も知った時は驚いたよ。でも、この世界の歴史の紐を解くと千年以上前からモンスターが人類の天敵として世界中に跋扈し続けていたんだって」

 

「せ、千年も昔から・・・・・っ!?」

 

「うん、だからこうしてモンスターと命懸けの戦いを、死闘を繰り返し続けてきた人類にとってモンスターは戦って殺して当たり前の認識なんだよ。あの白亜の塔がダンジョンの穴を塞ぐように建造されて、迷宮都市オラリオが完成されてからモンスターの地上の進出を防いでいるんだってアルテミス様からそう聞いたんだ」

 

『ギィッ!』

 

同胞を殺した侵入者へ爪を立てて襲いかかるゴブリンに、素早い突きで胸部の魔石を破壊した。すると色素が失ったように灰色と化して、次に灰燼と化したモンスターの末路を見せつけられる異邦人達は目を見開く。

 

「こうやって冒険者達は千年前から何千回、何万回、何億回もモンスターを倒し続けた。異世界から来た私達にとって壮絶で気が遠くなる凄いことだと思ってるよ。しかも、ゲームや本でよく出るダンジョンの攻略を自分達もできる事に驚きと感動をしたのも事実」

 

異邦人達に屈託のない微笑みを向け、鼓舞を打つ。

 

「だから皆も頑張ろう?元の世界に帰るその日まで」

 

 

 

鳴り響く、岩盤を打ち砕く音。岩石の雨と共に巨躯が落下する。猛烈な空気を裂く音の後、地面から激突音が奏でられた。その衝撃に階層が振動する。舞い上がる煙の奥、できあがった窪地の中で蠢くのは青白い長躯。大蛇のモンスター『ワーム・ウェール』である。

 

『―――――アアァ!?』

 

凶兆(ラムトン)』の名を冠する怪物は暴れた。この世で最も度し難い苦痛を与えられたかのようにもがき苦しむ。だが次の瞬間、体躯の青白い表面に光の軌跡が走った。一拍遅れて長躯の胴体が真っ二つに裂け、『ワーム・ウェール』の最期の悲鳴は程なくして止まったと同時に力尽き、傲然と大地に横たわった。そして。真っ二つになった胴体からどろり、と体内にしまっていた贓物が紅の水と共に一緒に溢れだす。直後、内臓からバシャバシャと水を蹴るように音が鳴り、一息と共に出てきた。紅の血を全身で浴びたかのように真紅の鎧の冒険者が腕の中で意識を失っている耳が長い種族、エルフの少女を一瞥した。彼女の全身は溶けていた。露出した瑞々しいエルフの肌に醜い火傷にぽつぽつと犯されているのを始め、戦闘衣(バトル・クロス)も殆どが溶解し、服としての機能はもはや役に立たない。その綺麗な金髪も煙を上げている。最初に呑み込まれたモンスターの胃袋の中で、強烈な毒の酸が少女を焼いて両の手足も半ばまで消失していた。容体を確認した少女から視線を外し、今いる場所を把握したその目は、駆け出しの冒険者にとって絶望と恐怖の象徴が映り込んだ。

 

「・・・・・」

 

『・・・・・』

 

潜在能力(ポテンシャル)Lv.6の階層主、ウダイオスの目と全身鎧の冒険者こと一誠の目とぶつかりあった。―――間の悪い事に自分達(ふたり)がいる階層は床や壁面、階層そのものの色は―――白濁色。『深層』37階層であることが目の前の化け物の存在に気付かされる。

 

「・・・・・えーと、どうも」

 

『・・・・・(コクリ)』

 

ウダイオスも少なからず驚いていた。己の領域に突如岩盤から出てきた同胞がもがき苦しんでるかと思えば死に絶え、輪切りされた胴体からモンスターを産む母体に侵入する酔狂かつ命知らずの冒険者が現れた光景には、流石のウダイオスも目を疑った。そして声を掛けられて思わず反応してしまった。次の瞬間。先に行動した者こそが勝敗を決すると言っても過言ではなかった。

 

「先手必勝!」

 

『ッッッ!?』

 

左目を妖しく輝かせウダイオスを見た瞬間。彼のモンスターが金縛りを受けたように全身が硬直状態の後、真紅の魔力の塊に頭部を粉砕され数秒で撃破された。

 

「・・・・・倒しても経験値にならないんだよなぁ」

 

落胆の息を漏らす一誠。もしもこの場にフィン達がいたら失笑する発言だったが本人はそんなこと知る由も無く作業に入る。

 

 

 

「・・・・・フィン」

 

下層の安全階層(セーフティポイント)で野営の準備をする【ロキ・ファミリア】を見渡せる位置に居座る首領の小人族(パルゥム)に、金髪金眼の幼女と銀髪青眼の幼女が訴えるような眼差しで追究した。

 

「イッセーの事なら心配する必要はないよ。彼はこの階層に目指して向かって来ている」

 

「「・・・・・」」

 

それでも目の前でモンスターに呑み込まれた光景を目の当たりにして、穏やかで色と言われてできるはずが無い。あれから数時間も経過している。生存の連絡も無く音信不通。二人の心情は不安とこのまま戻って来ないんじゃないかという恐れで気持ちが落ち着かない。それを察している様子でフィンは朗らかに笑みを浮かべる。

 

「彼なら大丈夫だと僕は思うね。それともアイズとアリサはイッセーの実力を信用してないかな?」

 

「そんなこと」

 

「ない」

 

間も置かず否定した二人の気持ちは嘘ではない。何時も一誠と一緒にいる時間が多いのは自分達(アイズとアリサ)なのだ。師であり片想恋慕の相手を信用と信頼、絆はフィン達が思っているより高いのだと胸を張って自負したいほどだ。それを信用していないだと言われてちょっとお冠な二人は無言の抗議の視線を飛ばす。

 

「ふふっ、なら信じてあげないと彼が可哀想だよ?それに帰ってきたら心配させたお詫びとしていっぱい甘えればいい」

 

ザッザッザッ・・・・・・。と、こちらに近づく足音が三人の耳朶を刺激する。誰が来たのかとアイズとアリサが足音の方へ目を向ければ、竜を彷彿させる真紅の全身鎧を着込んだ一誠が変わらない姿で近づいて来ていた。

 

「なんだ、俺は死んだと思われていたのか?心外だなそりゃ」

 

「今まで音信不通だったから君の可愛いお姫様達がお冠だったんだよ」

 

「あーそりゃ悪かったな。蛇の胃液で溶かされちゃったんだ」

 

三人に見せびらかす形状がボロボロな金の腕輪。フィン達にこれで通信を繋げるというのは酷な話だろう。理解した小人族(パルゥム)の目の前で一誠に抱きつく幼女達を微笑ましく見つめた。

 

「それで彼女は?」

 

「黒髪のキャットピープルの少女に任せてある」

 

「【ロキ・ファミリア】の団長として仲間を助けてくれたことに深く感謝するよイッセー」

 

「どういたしまして。それじゃ、野営の準備がとっくに終わっているようだし夜食の準備をしなくちゃな」

 

踵を返してアイズ達に抱きつかれたまま野営地の方へ向かう。それから急ピッチで調理を始める際、食欲をそそる香りに釣られる団員達が集まった姿を小高いところから視認するフィンとリヴェリア、ガレス。離れた位置でも食べたことがある香りが三人の鼻腔を悟らせた。

 

「フィン、今夜はカレーか?」

 

「いや、カツカレーだってさ」

 

「なんと!?カツ丼のカツにカレーとは面白い趣向じゃ!」

 

後に―――異世界の料理は【ロキ・ファミリア】の胃袋を鷲掴みにしたのは別の話である。そして何故だか・・・。

 

「あ、おはようございます!」

 

「今夜の食事楽しみにしてますよ!」

 

一部の団員達から料理のスキルの高さに尊敬の眼差しを向けられるようになった。それがある日、とある神の耳に入り神会(デナトゥス)で暴走、『オラリオ一料理決定戦』等と催しを始めそれに巻き込まれることをこの時のフィン達はまだ気づくことはなかった。

 

「それにしても、よくあのモンスターから無事に戻って来たね。その鎧も全然溶けてないし」

 

「これは魔力で鎧に具現化したものなんだ。モンスターの酸程度じゃ溶けないよ」

 

「異世界の魔力はそんなこともできるのか。とても信じ難い話しだ」

 

「武器にも具現化できるぞ」

 

「おお、斧になりおったわい」

 

フィンが寝るテントの中で一時の遊戯を楽しむ四人。他にもアイズとアリサがいるものの、一誠の傍ですぴすぴと寝息を立てて寝ている。

 

「―――ドロフォー!」

 

「悪いね、ドロフォー返し」

 

「同じくドロフォー」

 

「儂もじゃ」

 

「ノォオオオオッ!?」

 

UNOをしている四人は何気なく盛り上がりを見せていた。やり方を教わり、手始めにやってみると新鮮さと面白さが相乗して既に五回目に突入しているが、一誠が負け越しているのであった。

 

「・・・・・お前等、狙ってるだろ」

 

「「「たまたまだ」」」

 

三回目の敗北を味わい愚痴を零しつつカードをシャッフルする。

 

「うーん、カードゲームは戦略と頭脳戦だから楽しいや」

 

「儂はカードなど頭使う遊びは好まないが、こういうカードゲームは面白い」

 

「シンプル故にな」

 

高評価を貰っても勝たなければ面白くない。と思いながら手札を配り、場にも数枚カードを置いて六回目を始める途中、老兵のドワーフが不意に口にした。

 

「そう言えば異世界から来た者達はどうしておるのじゃ?」

 

「ああ、キリトと言う冒険者とその仲間達か。イッセー、どうなんだい?」

 

「俺も久しく会ってない。でも、元気にしてるだろ。中層でも問題なく進行したし」

 

「お前と同じLv.1の駆け出しの冒険者であるのだが、あの者達にも何かしらの秘密があるのかもな」

 

それこそお前と同じように、と付け加えるリヴェリアに「あいつら全員、正真正銘人間だからな」とカードを置きながらキリト達の保証を守る一誠。

 

「地上に戻ったら、元の世界に帰る方法を探してみようかな」

 

「どうやってじゃ?」

 

「その方法を探すんだよ。方法も手段も無い零からさ。まぁ、この世界の魔法で次元と時空を超える様なものがあったらいいんだけど」

 

「それはもはや神の領域だイッセー」

 

「ンー、魔法は千差万別だからね。絶対にそう言う魔法はないと断言できないから強く否定することもできないや」

 

そうかと相槌を打ちながらリヴェリアに問う。

 

「【ステイタス】に魔法の空欄があるけど、魔法を習得する、会得する方法はあるのか?」

 

「スキルと同じ要領であるな。例外を除いて冒険をし続ければ魔法は突然発現する」

 

その例外は?と訊く少年にフィンが答えに応じる。

 

「知っての通りリヴェリアはエルフの中でも更に高位のハイエルフ、亜人(デミ・ヒューマン)でもあり魔法種族(マジックユーザ)だ。彼女の種族は儀式的な方法で魔法を習得したり種族所以に魔法を覚えやすいのが特徴だ。ただし、例外はこれじゃない」

 

「イッセー、魔導書(グリモア)を知っておるか?」

 

「・・・・・グリモア?魔導書のことか」

 

知っていると肯定する一誠の世界にも魔導書が存在することを知った三人は、本題に集中して語り続ける。

 

魔導書(グリモア)は魔導と神秘のスキルを兼ね備え極めた者しか作製できない希少な道具(アイテム)

 

「たった一冊だけでも値段は一億ヴァリス以上じゃ。その値段で落札されることは当たり前なんじゃ」

 

「その理由は強制的に魔法を発現するからだ。だが、一度使用すればグリモアは効能を失う奇天烈書(ガラクタ)と化すがな」

 

そんな貴重な使い捨ての魔法の本があるとは知らなかった一誠は「へぇ」と短く漏らしただけだった。

 

「それってオラリオでもあって売られているんだよな?」

 

「無論だ。興味があるなら探してみるか?私が良く杖の整備を頼む店に販売されているかもしれん。そこへ案内しよう」

 

「あ、頼むな」

 

地上に戻る時が楽しみになった一誠は魔法専門店の店だろうと察し、左眼を純粋な子供のように輝かせる。

 

「あ、UNOだ」

 

「悪いけどイッセー。そう簡単には勝たせないよ?ドロフォー」

 

「「ドロフォー」」

 

「お前等、嫌いだっ」

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