ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか   作:ダーク・シリウス

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冒険譚13

長期の『遠征』で地上から【ロキ・ファミリア】の主力部隊がいなくなって二週間経った。キリト達は今日も変わらない朝を迎え、異邦人達とダンジョンへ繰り出そうとした。相も変わらず異形の姿をした異邦人は鎧やフード付きの外套(フーデットローブ)を着こみ、街中を歩かなければならない窮屈さを強いられているが身の安全のためだと我慢している。

 

「ところでキリト少年。少し教えてほしい事があるのだが」

 

「なんですか?」

 

「この都市には神アルテミス様以外にも神様がいるようだけど、ぶっちゃけどの神様が凄いのかな?最強の【ファミリア】とか存在しているのかな?」

 

オールマイトからの質問に対し肯定と答える。

 

「オラリオの中で一番強い【ファミリア】は二つあります。一つは【ロキ・ファミリア】、もう一つは【フレイヤ・ファミリア】。この二柱の神の派閥が他の【ファミリア】より戦力が高く、冒険者達の間では『二大派閥』と畏怖の念と称賛を籠めて呼ばれている最大派閥が存在します。他にも二大派閥に負けない最大派閥が存在しますよ。と言っても鍛冶系【ファミリア】の【ヘファイストス・ファミリア】や最大派閥の中で冒険者数を保有する【ガネーシャ・ファミリア】、【イシュタル・ファミリア】ぐらいしか知りませんが」

 

「ho、そうなのかい。因みに私達の【ファミリア】は?」

 

「下から数えた方が早いぐらいですね。でも、中堅の下辺りだと自負していますよ。人数が五十人以上もいますし、これから強くなれば中堅以上の【ファミリア】にもなりますからね。そしたらアルテミス様も喜んでくれます」

 

しかし、異邦人たる自分達が元の世界に戻る際は一気に勢力が失って転覆してしまうことを思うと、非常に心苦しいほどに申し訳が無いと思ってしまう。今直ぐとは限らないが、自分達がこうしている間にでも勧誘活動をしてできる限り【ファミリア】の勢力を保つ必要がある。キリト達異邦人と言う足固めされた地盤が最初に築いて、それから少しずつ戦力と勢力を増やさねばと―――中央広場(セントラルパーク)に辿り着いた。

 

「あ、皆。道を開けてくれ」

 

「む、どういうことだ?」

 

白亜の摩天楼施設の出入り口、ダンジョンに続く建物の中から笑っている道化(ピエロ)の旗を掲げて出てくる一段を見た矢先、キリトが皆を催促しながら制する。

 

「最強最大の派閥【ロキ・ファミリア】が長期の遠征から戻ってきたから」

 

「え、嘘っ!?」

 

「あれが、オラリオで一番強い【ファミリア】の冒険者達・・・・・」

 

先頭に歩く黄金色の髪に碧眼の小人族(パルゥム)は【ロキ・ファミリア】の団長フィン・ディムナ。翡翠の長髪に同色の瞳のエルフは副団長のリヴェリア・リヨス・アールヴ、老兵のドワーフのガレス・ランドロックがLv.6の最強の冒険者であることを教えられるオールマイト達はオラリオの代表者達の姿を目に焼き付ける事が叶い―――。

 

「おや、キリトじゃないか」

 

「どうもフィンさん。ダンジョンから帰って来てお疲れ様です」

 

「ああ、問題なく戻って来れたところだ。けれど見ない内に団員が増えたようだね」

 

「ええ、まあ・・・・・俺達と同類だと分かってくれますか?」

 

通り過ぎながら訊かされた意味深なキリトの発言に、碧眼が一瞬だけ丸くしたフィン。だが直ぐに察して誘いの言葉を掛けた。

 

「今夜、夕食を食べ終えたら僕達のホームに来てくれ。それから彼の家で話をしよう」

 

「彼って・・・・・イッセーの?」

 

その問いにフィンは首肯するだけで団員達を引き連れて北部へと向かう。話とは何だろうかと思うがきっと異世界から来た異邦人のことで話をするかもしれないと悟り、長い行列が広場から遠ざかるのを邪魔しないようにダンジョンへ赴く【アルテミス・ファミリア】。

 

 

「リヴェリア、ガレス。聞いてたね?」

 

「ああ、また異世界から来た者達が現れたのだな」

 

「本当にロキ達が何かしたのではないかと勘繰ってしまうのぉ」

 

去年は一誠とアリサ、キリト達。今年は名も知らぬ異邦人達数十人。段々人数が増えてきた異邦人の来訪にフィン達はこの世界が何かがおかしいと考慮するも仕方が無かった。

 

「イッセーも驚くだろうね。新しい異邦人達の存在に」

 

 

夜、『幽玄の白天城』でフィン達がキリト達を連れて来るのを待つその最中。新たな異邦人の存在を教えても、相手は淡白的な反応で相槌を打たれ、少し拍子抜けしてしまったリヴェリア。それほど重要視していないのか、興味が無いのか、はたまた両方なのか分からないが一誠は溜め息を零した。

 

「フィンも面倒なことをするな。別に話し合いの場を設けなくても何時か出会って話す機会が来るのに」

 

「今がそれではないのか。それに早めにお互い認識すれば色々と都合がいいだろう」

 

「まあ、不仲な関係になるよりはマシだけどよ」

 

と、そう零す一誠を視界に入れるリヴェリアの腕輪の宝玉が点滅をし始めた。フィン達が来たと言う合図で『幽玄の白天城』の主に巨壁の扉を開けてもらうよう願った。

 

 

†―――†―――†

 

 

「お、おおおおっ!?」

 

「何もないところに森が・・・・・」

 

「摩訶不思議」

 

巨大な森林、地面や木々の傍で淡い燐光を灯しながら道標として生えている数多の水晶(クォーツ)群。光る苔も確認できて幻想的な光景にも見えなくもなく、中まで潜ったことが無いキリト達も驚嘆と感嘆の息を漏らす。フィン、ガレス、ロキの先導でついていく異邦人の集団は珍しさと好奇心で高まる高揚を抑えきれずキョロキョロと目を周囲に向ける。ここはもう一つのダンジョンではないか?と思っても仕方が無いぐらいだ。

 

「キリト君、凄いねイッセー君の家って」

 

「ああ、同じ異邦人としての格の違いを見せつけられてるな。これ全部一人で造ったのか・・・・・」

 

歩いてしばらくすれば、巨大な湖がある場所に辿り着いた。そこでも淡い光を発する水晶(クォーツ)道具(アイテム)原料(アイテム)となるダンジョン原産の植物や宝石を実る木々や希少(レア)な果実等を照らし、フィン達を除く一行を驚かせた。更によく見渡せば、それらの周囲の地面に突き刺さって何かの液体が入っている巨大な硝子の容器があった。一つだけじゃない、複数以上もだ。まるで植物の栄養剤の様であるとキリト達が思い始めたのは少し先になる。

 

「お、おいキリの字。ありゃ、噂に聞く宝石の実を宿す樹って奴なんじゃねーのか?」

 

「フィンさん、どうなんですか?」

 

「うん、間違いないよ。あれは中層に生えて滅多にお目にかかれない宝石樹―――僕達冒険者にとって金の卵もとい金になる樹だ」

 

「そ、それがあんなにたくさん群集しているんですかっ?」

 

赤や青、多彩な色の美しい宝石が実っている木々に目を奪われがちになってるアスナ。何度かその宝石樹を目的に探索したことがある【アルテミス・ファミリア】でも見つけることが困難を極め、結局は泣く泣く諦めたことは何度だったか・・・・・。そんな【ファミリア】を嘲笑うかのように片手では数え切れない宝石樹が群集している光景を目の当たりにされ、瞠目するなと言われても無理な話である。

 

「他にも地上に持ち帰って商業系の【ファミリア】や商人、ギルドに渡せば少なくない額で換金できるものばかりだ。つまりこの一帯は彼にとってお金を稼ぐ栽培場所なんだ」

 

「い、一本だけ宝石樹を貰えないかな・・・・・」

 

「ンー、君の交渉術がどこまで通用するかだね」

 

湖に光る足場の上に移動して中央まで進み一同が集うと、足場が昇降施設(エレベーター)のように降下する。

 

†―――†―――†

 

「来たな」

 

「そうなのか。しかし不思議なものだな。お前の探知能力はどうなってるのだ?」

 

「アイズやアリサに教えている気の応用。相手の気を遠くからでも感じ取れるんだ。流石に神の気は感じられないがな」

 

「それは修行すれば私達でも習得できるのか?」

 

「ん、できると思う」

 

そうして話している内に一誠達がいるリビングキッチンの扉が開き、キリト達を連れてきたフィン等が入ってきた。その後ぞろぞろと【アルテミス・ファミリア】の顔見知りメンバーが入って来て、最後は見覚えのない、全身をフード付きの外套で隠したり鎧を着込んだ―――。

 

「兵藤、くん・・・・・?」

 

「っ?」

 

ワカメ頭のそばかすの少年が一誠の姓を信じられないように吐露した。言われた当人も最初は疑問を抱いたがキリトかアスナが教えたんだろうと納得した直後。

 

「は?何でお前がここにいるんだよ兵藤!?」

 

「ええええええええっ!」

 

「どういうことだ・・・・・?」

 

少年少女達の一誠を見る目が明らかにおかしい。言動も自分を知っている風でフィン達やキリト達が「知り合いなのか?」と言う眼差しを向けて来る。本人もこれには怪訝な気持ちになる。おまけに鎧と外套を外した者達の姿が人と異なる出で立ちで、フイン達は驚きを隠せなかった。

 

「・・・・・お前等、誰なんだ?」

 

「は?」

 

「え?」

 

訊ねられた側は「何を言っているんだ?」的に不思議そうな気持ちで苦い笑みを浮かべた。

 

「お、おいおい。俺達の事を忘れたわけじゃないだろ?一緒にヒーローを目指している友達によ」

 

「ヒーロー?生憎俺はお前等が別の世界から来た異邦人だとしても誰一人お前等の事を知らないんだけど。てか、そいつらは人間じゃないだろ。よく街中を歩けるな」

 

「な、何を言っているんだい兵藤君?僕達が変な穴に吸い込まれそうになったところを必死に助けようとしてくれたではないか」

 

「変な穴?もしかしてお前等もそれでこの世界に来たのか。てか、助けた覚えなんてないし」

 

「じょ、冗談も大概にしろって!」

 

「いや、至極真面目に言っている。お前等、俺の何を知っているんだ?」

 

話しの食い違い、平行線が続き蚊帳の外に置かれているフィン達もこれには疑問を抱いた。片や知って片や知らない。ロキに新たな異邦人達が嘘を言っているのか目で訊ねると首を横に振った。彼等彼女等は嘘を言っていないということ実証した。

 

「・・・・・兵藤、少し確認だ」

 

「見知らぬ人に好きじゃない呼ばれ方をされるのは少々癪だな」

 

小汚い印象を与える無精髭の中年の男性にそう言い返し、その言い方、やはり自分達が知っている人物と同じじゃないか。と思わずにはいられなかった。

 

「お前の名前は兵藤一誠。違うか?」

 

「そうだ」

 

「お前は別の世界から来た―――人型ドラゴン、神器(セイクリッド・ギア)という摩訶不思議な能力を数多く宿している。違うか?」

 

―――ロキ達にすら打ち明けていない秘密の一つを看破する風に述べた男に一誠の中の警戒度が高まった。押し黙って沈黙で肯定する間にも訊ねてくる。

 

「お前の中には色んなドラゴンを宿している。その中で俺が知っているのはグレンデルと言う巨人のような化け物だが、どうなんだ?」

 

「・・・・・何でそこまで知っているんだって思うほど当たってるよ」

 

【ロキ・ファミリア】の一部しか教えていない一誠の秘密を知った風に述べる中年の男性に警戒する眼差しを向ける。そしてある推測が浮上した。

 

「・・・こんな事があるのか、思いもしなかったな」

 

「どういう意味だ」

 

それは異邦人達にとっても衝撃のことだった。

 

「そっちが俺を知っているのに俺はお前等の事を知らない。単純に考えれば俺じゃないもう一人の俺がお前等の世界にいると言うことになる。つまりは並行世界、パラレルワールドの原理だろうな」

 

「・・・・・お前は俺達の事を知らない、もう一人の兵藤一誠という存在。そう言いたいのか?」

 

「ああ、まさしくその通りだ」

 

絶句する異邦人達。そして今だに理解に苦しむ異邦人達もいればフィン達も疑わしいと質問をぶつけた。

 

「イッセー、僕達にも説明してくれるかな。君は彼等と同じ世界から来た者じゃないのかい?」

 

「違う。どうやら別の世界のもう一人の俺自身が今の俺と同じ状況―――異世界にいるようだ。こいつ等の世界にな」

 

「んーなんや、わけがわからんでぇ?一体全体どういうことなん?」

 

後で説明する。とロキ達にそう告げて気持ちの整理をする意味も含めて深い息を吐いた。

 

「とにかく、お前らが俺の事を知っていようと俺自身はお前らの事は何一つ知らない兵藤一誠だ。俺の事は別人だと思ってくれ」

 

「でも、一誠君は一誠君なんやよね?」

 

「それこそ知るかって話だ。俺は俺だ。お前らが知る兵藤一誠じゃないんだ。もう一人の兵藤一誠と同じかもしれないだろうが、俺はお前らとは友達とかそんな関係でもない赤の他人だ」

 

もう一人の自分(ひょうどういっせい)と被らせないよう、深入りさせないよう一歩二歩も線を刻んで隔てる。そうしなければこの異邦人達は勘違いすると一誠は確信していた。

 

「それと、俺は些細なことで助けるつもりもないぞ。自分達の力で生き抜けこの世界を」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれよ!じゃあ常闇達の姿とかもどうにかしてくれないのか!?」

 

「姿?ああ、その姿じゃ満足に歩くこともできないか。それぐらいなら魔法の道具でなんとかしてやるよ。時間は掛かるけど」

 

「助かる。それとお前も異世界から来たというならば戻る手段はまだ見つけてないのか?」

 

「見つけてたらとっくに俺やキリト達はお前達を残して元の世界に戻っている。そう簡単に見つけられるかよ。舐めてんのか」

 

尤もな話で「すまん」と謝る中年の男性。それから異邦人達からキリトとアスナに意識を変える。

 

「結構な人数になったようだけどホームの方は問題ないのか?」

 

「ぶっちゃけ、財政が厳しい。毎日ダンジョンに行かないと金が直ぐ底を尽く。主に食費でな。それに簡易の寝場所を作ってどうにか過ごしてもらっている」

 

「だろうよ。急激に大勢の団員を抱え込んだ末路だな。零細派閥として火の車状態になるのは火を見るより明らかだ」

 

リビングキッチンを後にし、「ちょっと待ってろ」と言い残していなくなる一誠がしばらくして戻ってきたら、肩下げの鞄を二つ持っていた。それを無造作にキリトへ投げ渡す。思った以上の重さに体の重心がズレて、床に尻餅をついた少年は何事かと目を丸くする。

 

「え、これって?」

 

「飢え死にで天界に昇天なんて笑えないからな。特別にくれてやるよ」

 

鞄のチャックを開けてみると亜麻袋がギッシリ詰まっていた。その袋の中身は何なのかと悟ると絶句の面持ちで一誠に顔を向ける。

 

「こ、こんなにくれるのか?でも、お前は大丈夫なのかよ」

 

「湖のところ、見ただろ。売れば直ぐに金になるから金銭問題に縁がない俺からすればはした金だ」

 

「・・・・・俺もいつかそういう言葉を言いたいな」

 

遠い目でどこか尊敬の眼差しも籠っていたキリトに「頑張りたまえ少年」と朗らかに言う一誠であった。

 

「え、これ全部お金なの?・・・・・大きな工房ができるわよねこれで」

 

「はわわわっ、す、凄いです。一気に私達お金持ちになっちゃいましたよっ」

 

「デキる男は違うのね」

 

「でも、後で取り立てにこないよね?」

 

「まさか、そんなことあるわけが。ねぇ一誠君?」

 

もう一つの鞄のチャックを開けて中身を確認したアスナ達も驚きで息を呑む。不意に思った考えを口にして問うたら。

 

「ん?落ち着いたら返済してくれても構わないぞ。数千万ヴァリス」

 

ニヤリと不敵に笑う少年にアスナ達に戦慄が走ったのは言うまでなかった。

 

 

†―――†―――†

 

 

「いいのか?」

 

「何がだ?」

 

臨時収入を得たキリト達が『幽玄の白天城』を後にしていく姿を見送りながら訪ねられた。

 

「お前ではないお前を知る者達だ。少なからずお前のことを理解してくれるのではないのか?」

 

「俺であって俺じゃない。俺を俺として見てくれないならこの家に住まわせたくもない。リリア達だけでいい」

 

そう言葉と一緒に視線を向けてくる一誠にフッと小さくリヴェリアは笑った。

 

「意外とお前にも幼いところがあるのだな」

 

「・・・・・敢えて聞かないからな」

 

「ふふ、言っても構わないぞ?」

 

「遠慮する」

 

 

森を抜け外に出た直後にズズン・・・・・と見えない巨壁が森林の空間を閉じ込め、閉まっていくのを目にしながら見つめるキリト達。【アルテミス・ファミリア】の財政問題が解決し心の中は安堵で胸を撫で下ろす気分だが、異邦人達オールマイト等の心情は曇っていた。

 

「・・・・・一誠君」

 

「あいつは俺達の事を知らない者だ。悲観に浸る暇は無い」

 

「でもよ相澤先生。せっかく兵藤と出会えたのに離れて暮らすのですか?」

 

「【ファミリア】同士の接触は問題を起こしかねないと説明されたはずだ。今の俺達は【アルテミス・ファミリア】の団員。あの兵藤は別の【ファミリア】の団員だ。必要以上に深入りはできん」

 

「「「・・・・・」」」

 

先行くキリト達が進む暗闇に前を向いて歩く無精髭の男性に諭される少年少女達。口を閉ざし、遠ざかりつつも名残惜しげに虚空へ視線を向ける。自分達の事を知らなくてもこれから知ってもらえば解ってくれる。そう思わずにはいられない心と気持ちをぐっと胸の中に押し込んで帰路に着く。

 

「行くぞ」

 

「「「「「「・・・・・」」」」」

 

†―――†―――†

 

新たな異邦人達との出会いを経て翌日―――。リヴェリアは杖の整備を出している店へ一誠達を案内した。北西のメインストリートを曲がった路地裏の奥深く。地下への階段を下り、痛んだ木の扉を開けた先にその怪しげな店はあった。室内は広く、薄暗い。天井にぶら下がったまるで火の玉のような魔石灯が、作り付けの棚に置かれた蛇や蜥蜴、蠍などといった不気味な生き物の瓶詰を照らし出している。店の奥では何か煮詰めているのか、大きな黒い鍋から赤い湯気が立ち上っていた。

 

「お、おお・・・・・っ!」

 

この薄暗さに相まって醸し出している雰囲気と店内の商品や置物などがまさしくアレだったため、この世界に来て久しく感動と感激を覚えた一誠だった。

 

「・・・・・感想は?」

 

「魔法使いの部屋っ、懐かしいなぁ・・・・・」

 

「そうか」

 

滅茶苦茶純粋に目を輝かせて物に触れないよう物色を始め出す。アイズとアリサもきょろきょろと落ち着きなく店内を見回す中、カウンターの奥から人影が蠢いた。黒いローブに長い白髪、そして鉤鼻に皺だらけの口の老婆がリヴェリアを見るなり話しかけた。

 

「なんだい、リヴェリア、また『遠征』で魔法石をダメにしたのか」

 

「いや、この店に連れを案内したのだ。レノアのところに魔導書(グリモア)があるかもしれんと思ってな」

 

「いひひっ、生憎この店には置いてないよ。ただ、近々魔法大国(アルテナ)にいる知人からよしみで一冊分けてもらう予定はあるけどね」

 

「アルテナ?もしかして魔法の国のことか?」

 

カウンターに近づく好奇心が刺激した一誠に、レノアという老婆はこいつの事かと言う視線を送った。その視線に無言で首肯し、少年の肩に手を置きながら紹介した。

 

「レノア、聞いて驚くなよ。この冒険者はな、異世界から来た者なのだ」

 

「って、おい。何言い出すんだよ」

 

「安心しろ、レノアは信用に値する。イッセー、試しに魔法を見せてくれまいか?」

 

人の了承も無く勝手に秘密をバラしたハイエルフが何を考えているのか理解に苦しみ、何故魔法を見せなければならないのかと思いながらも六属性の魔法や魔方陣を発現した途端。レノアの目が丸くなった。

 

「これが異世界の魔法・・・・・久しく興味と好奇心が湧いたよ。他にも何かできたりするのかい」

 

「遠くの場所に移動する転移魔法とか離れた所でも相手と会話ができる通信魔法、無詠唱で攻撃と防御もできるし他にも色々」

 

「聞いただけではとても信じ難い魔法ばかりだね。魔法大国(アルテナ)の魔導士や魔術師(メイジ)が聞いたら嘲笑されるよ。そんな魔法はありもしないとね」

 

「魔力があって知識も備えてれば誰でもできるのになぁ。あ、因みに異世界の魔導書って興味ある?」

 

「「あるに決まっている」」

 

レノアだけじゃなく生粋の魔導士のリヴェリアまで食いついた。

 

「あるのかイッセー?」

 

「異世界の文字で書かれてるけど、それでもいいなら」

 

空間に開けた穴に手を突っ込んで取り出した分厚い本をカウンターに置く。最初のページを開いて見せると、見慣れない外国の、異世界の文字に綺麗な柳眉を寄せながらも何とか理解しようとする。

 

「この図面は魔法の術式だってことはわかるねぇ。いひひっ、長生きはするものだ。異世界の魔法の知識をこの目で見られるとは。だけど、確かに読むことはできないねこれは。何て書かれているのかさっぱりわからないよ」

 

「確かにな」

 

ページをめくる手は止まらず、何時しか本の虫になり掛けていた魔導士と魔術師(メイジ)の顔は魔導書の持ち主に向いた。

 

「小僧、異世界から来たのならば共通語(コイネー)に翻訳できるだろう?翻訳した魔導書を作製してくれるなら、私のできることであれば何だってしてやる。当然無償でだ」

 

「おお、本当に?じゃあ、魔術師(メイジ)の技術を学びたいな」

 

「魔法石の作製もかい?」

 

「うん、全部―――でこんなことあろうかと、異世界の魔導書の共通語(コイネー)版を作製した甲斐があったな。何時かリリアに見せる為に作ったんだ」

 

それもカウンターに置いて二人に見せると、異世界の魔導書と同じ内容が複製されていたことに驚嘆の息を漏らした。読み続けて一分後ぐらい経った時、徐にこの世界の言葉に翻訳した魔導書を閉じたレノアは大事そうに抱えて一誠に誘いの言葉を掛けた。

 

「こっちにきな。毎度『遠征』で魔法石を壊すバカエルフにも私の苦労を教えるいい機会だ。私の技術の全てを教えてやるよ」

 

「ありがとう!」

 

「・・・・・すまん」

 

うきうきとカウンターの奥に入る一誠と対照的にバツ悪そうに謝罪するリヴェリア。その二人についていくアイズとアリサ―――その後に【ヘファイストス・ファミリア】から異様な武具が販売されるようになった。

 

†―――†―――†

 

「ふっふっふ、これでまた新しい作品が作れるぞ。魔法の剣を作れるかもしれないな」

 

「魔法の剣、だと?魔剣とはどう違うのだ」

 

「それは俺も分からん。これから高い完成度で出来上がったら・・・もしかすると魔剣を上回るかもしれない」

 

「ほう・・・・・拝見させてもらおうか」

 

「「・・・・・」」

 

魔導士専門店でレノアの持ち得る全ての技術を時間掛けて学んだ一誠は、自分で作り上げた魔法石を用いてさっそく武器の作製に入った。使用するモンスターの素材は―――自身の身体の一部であることをリヴェリアは気付かない。広い屋内の壁際、激しく燃え立つ大型の炉が真っ赤な炎を猛らせ、むわっとした熱気を立ち込めさせる。その中に居て眼前に居座り込む少年の手の中にある鎚が鉄床(アンビル)の上に置かれている上質な精製金属(インゴット)に叩き込まれ、武器の鍛錬に励んでいる。カァン、カァン、と高い金属音を響かせる見習い鍛冶師(スミス)の背中を、リヴェリアや椿、アイズとアリサはじっと見据えた。一つに纏めて結った真紅の長髪が鎚を振る度に緩慢的に揺れ、叩き込まれる金属は飛び散る火花と共に不純物が取り除かれ、鍛冶師の熱意と意志が代わりに籠められていく。そんな中、まだ幼い子供の合図とアリサが汗でべっとりと前髪が額に張り付き、暑苦しげに息を荒げ、熱中症になり掛けてもおかしくないところ。薄ら汗を浮かべるリヴェリアと椿と比較し―――猛る炎を前にして汗一つ浮かべていない一誠。人型ドラゴン故か熱に対する耐性が備わっているのかとどこかそう思うハイエルフの心情を知る由もないまま武器の完成に精を注ぐ―――。

 

「ふー・・・・・んっ、完成!」

 

数時間も費やしてこの世に新たに作られた一本の剣。全体が炎のように赤い、それより鮮やかな紅色。刃の部分は黒い。剣の形状は大きく長いロングブレード。剣身に赤色の魔宝石が両面に計六つ埋め込まれており、これが一誠曰く魔法の剣である。

 

「奇怪であるな。魔導士が杖に備える魔法石に魔力伝導率が高い『ミスリル』で作り上げた剣とは。手前ですら思い付かない以前に打ったことが無い代物で―――凄く興味がある」

 

「そうなのか?でもまぁ、これなら付与魔法(エンチャント)が出来ると思う。アリサ、素材の保管庫から大きな竜の牙を持ってきてくれ」

 

深層のモンスターのドロップアイテムで試し斬を臨もうとする。小さい体で保管庫から身の丈を超える牙を引きずりながら持ってきたアリサから受け取り、ロングブレードを椿に手渡す。

 

「試し斬を頼んだ」

 

「うむ、頼まれた」

 

ウキウキと両手で柄を握り前に構える次の瞬間。剣身が炎に包まれた。作り主が魔宝石に炎の魔力を閉じ込め、それを解放してみせているからなのだが、リヴェリア達はそれに気付くことはない。後でタネ明かしされるがそれでも魔導士と鍛冶師からすれば驚愕ものである。

 

「お、おおっ・・・・・!これが魔法石と『ミスリル』の相乗効果によるものなのかっ・・・・・」

 

「確かに、魔力が剣から感じ取れる。持ち主の意志に呼応して発揮しているのか」

 

「それも含めて他にも仕込んである。それじゃ団長、ほいっ」

 

「―――せいっ!」

 

宙に放り投げた牙が放射線を描いて椿に向かう。慣れた仕草で上段から振り下ろして斬撃を牙に当てると、真っ二つに裂けた断面から燃え上がる炎。アイズとアリサは驚嘆の思いで目を丸くし、床に落ち炎に包まれて表面が黒く焦げるその光景を目に焼き付ける。

 

「どうだ団長」

 

「悪くない、悪くないぞイッセー。これは実に面白い、のだが・・・・・これが魔法の剣とやらなのか?」

 

想像していたのと違う、と不思議そうに燃える剣を眺める椿の心情を察し、左の金目がリヴェリアにまで向いた。

 

「今度はリリアの番、頼んだ」

 

「イッセー、私は魔導士であることを忘れたのか?」

 

「リリアに剣術や剣技なんて一瞬でも期待してない。ただ剣に魔力を込めながら思いっきり振り下ろしてくれれば十分だ」

 

何気に中傷されたリヴェリアの手にもロングブレードが渡り、言われた通りに実践してみると・・・・・不思議なことが起きた。剣から炎が放たれ、火炎の濁流にもなって逃げ場がない工房内を一気に焼きつくす。

 

「「「「・・・・・」」」」

 

「うん―――予想通りの出来栄えのようだ。これぞ魔法の剣ってやつだな」

 

火炎の熱気で焼かれないよう結界を張って、リヴェリア達を守りながら魔法の剣の性能を見て満足のいく結果として一誠の中で評価は高かった。

 

「剣から魔法が・・・・・まるで魔剣ではないのか?」

 

「一定数を超えると壊れる魔剣と違ってこっちは魔法石に魔力を込めれば魔法を発動する。威力は劣っているかもしれないけど、今後改良を積み重ねれば魔剣を上回る魔法の剣が完成するだろうさ。―――だけど、量産化はまだできないな」

 

最後の一言に椿とリヴェリアが不思議そうに反応した。

 

「何故だ?手前でも文句のつけようのない出来映えであるというのに」

 

闇派閥(イルヴィス)の手に渡ったら目が向けられないからだよ。前回のこともある」

 

再びヘファイストスが誘拐され今度は魔法の剣を作れと言い出されたら堪ったものではない。と言外する一誠の真意を悟り納得する椿。リヴェリアもそれなら同意と目を瞑る。

 

「量産化をするなら敵が完全にいなくなってからだ。それまでは魔法の剣を打たない」

 

「では、それはお蔵行きというのか。実に惜しい」

 

「・・・・・んー、そうとも限らないぞ」

 

目線を下に、銀髪青眼の小さな冒険者が一誠のズボンを掴み、剣を物欲しげに見上げていた様子がリヴェリアと椿の目に映り込む。

 

「欲しいのか?」

 

「うん、使いたい」

 

「重いぞ」

 

柄の方を掴ませて持たせてみれば、顔が必死に全身を震わせながらロングブレードを持つアリサ。顔をひきつらせながら「だ、大丈夫っ」と言うあたり、重いのだ。

 

「持てないならダメだな」

 

「持てるよっ」

 

「そんな必死そうでだとダメだ。剣に振り回されて傷つくのはお前だぞ。もう少し体が大きくなってからでも遅くない」

 

「絶対に使えるようにするから、お願い・・・・・っ」

 

手にしようとする一誠から取られたくないと頑なに欲しがるアリサ。そんな言動に翡翠の眼が金髪金眼の少女に向け、「お前と同じだな」と風に込めて送る視線に居心地悪そうに年長者のエルフから顔をそらされた。

 

「・・・・・アリサ」

 

「いやっ」

 

「いや、そこまで言うならあげるぞ」

 

返せと言われるのを思っていたところ、手の平を返す如く真逆な事を言われ疑わしい目で一誠を見上げる。

 

「・・・・・くれるの?」

 

「ただし、条件付きだがな」

 

膝を折ってアリサと視線を合わせながら条件を指摘した。

 

「それはお前に預ける。ただし自分の力で振るえるまでは使ってはいけない。それが条件だ」

 

「・・・・・」

 

「これはまだ弱いアリサのために言ってる。強い武器が欲しいならその武器を持つにピッタリになるぐらい努力をしなくちゃダメだ。大まかに言えば『力』のアビリティをC以上だな」

 

指定された『力』の能力値(アビリティ)C以上。それは今の幼女では過酷極まると思っても仕方がないことであるにも拘わらず、アリサはそれを受け入れた。

 

「いいな?」

 

「うんっ!」

 

「・・・・・アリサ、いいな。直ぐもらえて」

 

「お前よりアリサは物事を理解している。それでもイッセーは厳しくしているのだ」

 

「魔法石と『ミスリル』の組み合わせ・・・・・いはやは、これは手前もしてみたくなったものだ」

 

 

後にヘファイストスの耳に魔法の剣のことが入り、触れて確かめたら困った風に息を吐いた。

 

「武器を打つ度に完成度が高く増しているわね。椿、あなた近い内に追い越されるわよ。うかうかしていられないんじゃないかしら?」

 

「構わん。あやつは思いもしなかった組み合わせで可能性を見出したのだ。手前もそれに見習い様々な武具を打ってみるだけよ。最高で至高のな」

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