ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか   作:ダーク・シリウス

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冒険譚14

彼は―――ただの人間ではなかった。いや、なくなったと言うべきであろう。平凡な家庭に平凡な暮らし、平凡な人生を過ごすどこにでもいる凡人の一人。学校ではちょっとだけ人気があっても成績は中の中。容姿も十人中四人が「イケるんじゃないか?」的に整っていた。そんな彼に不出来なことが起きた。学校の登校中に飲酒運転の人間から―――学校一のマドンナを守った代償として死亡した。遠退く意識、水の中へ沈んでいく様な感覚と急激な眠気に襲われる最中、自分を見下ろし泣き叫ぶ少女を最後に見て目の前が真っ暗になった。―――その直後、彼は不思議な場所に立ち、美しい女性との出会いを経て―――新たな人生と凡人だった頃では得なかった力に美女達を手にした。

 

「バラ色の人生キター!」

 

白亜の摩天楼施設の前で美女達に囲まれながらそう叫び出す変質者を目撃者多数してから日が経たった。極東では緑葉から赤、黄、橙へと葉色が変わり色鮮やかな紅葉や銀杏が山々を染め上げていた。残暑も無くなり穏やかな気温と心地のいい吹く風は初秋が来たと、四季の季節の変わり目が分からないオラリオに住む一人の冒険者だけが「ああ、もうこんな季節か・・・・・」とハッキリと伝わっていた。

 

「・・・・・故郷の極東に行きたいですって」

 

主神ヘファイストスにその申し出をした少年は首肯する。あまりにも突然の訪問の乞いに左眼をパチクリと瞬いたが、「どうしてなの?」と理由を一先ず訊ねてみた。

 

「この季節になると、調理すれば美味な料理が作れる植物が育っているんだ。その食材を採りに行く為」

 

「それはこのオラリオの市場、交易所にないの?」

 

「あるわけないじゃん。あったら極東に行きたいなんて言わないし」

 

何を当たり前なことを聞くんだ、と呆れ顔で言い返され、無いなら自分で調達するしかないとその意図に食材の調達=料理する=食べたいと変換して悟り、鍛冶神は―――最後に問うた。

 

「それはあなたの手に掛れば美味しいのかしら?」

 

「秋にしか育たない高級な食材だ。故に季節限定で逃せば来年までまたなくちゃいけなくなる。そして、その食材の味を活かした料理は・・・・・絶品だぜ?」

 

不敵な物言いをする一誠は不敵な笑みをヘファイストスに向けた。自信たっぷりな眷族の言葉と季節限定の未知の味を楽しめれることから鍛冶神の主神ヘファイストスは二の返事を下した。

 

「期待を裏切ったら許さないから」

 

「期待にお応えしよう。俺の主神様」

 

と、言うことでギルドに色々と面倒で大変で申請する外出許可の書類等々―――前倒しして。

 

「なぁ、リリア?俺の言いたいこと、分かるな?分かるよな?」

 

「・・・・・心からすまないと思っている」

 

「いざ行かん!極東の高級食材を採りにぃー!」

 

意気揚々とロキがリヴェリアに睥睨する一誠の目の前、で『幽玄の白天城』の扉の前で東方にビシッと指して張り叫んでいた。彼の女神がここにいる理由は二つ。しばらく異世界の料理が食べれなくなる、その理由は極東でしか採れない食材を手に入れに行く為。リヴェリアはロキの執拗な質問攻めに堪らないと言ってしまい、これで納得してくれるかと思いきや一緒に行くと言いだして今に至るのである。

 

「すまないイッセー。僕等も止めたんだけどね」

 

本拠(ホーム)全体にまで聞こえる大声で駄々を捏ねるだけ飽き足らず、『うちも連れて行かんなら舌噛んで死ぬで!』と言い出す始末じゃ」

 

「・・・・・はぁ、いっそ本気(マジ)で舌噛んで天界に行けばいいと思ったのは俺だけだよな」

 

護衛といるフィンとガレスから話を聞いて溜息を零した。ここぞと言うところで我儘を発揮し、眷族達を困らせる主神で大変だろうにとそう思わずにはいられない同情心を込めてまた溜息を吐いた。

 

「それで、極東に辿り着いたと仮定して君はどのぐらいいるつもりでいるのかな」

 

「とんぼ返りをするつもりは無いな。大雑把で一週間以内は戻るつもりだ。だから数日は戻らないと思ってくれ」

 

「そうか。となるとロキ。最大派閥の主神である貴方が数日間も本拠(ホーム)からいなくなれば団員達が騒ぐ。今日の内に戻って来なければ僕達は困る」

 

「うちもそこまでイッセーとおるつもりはないでフィン。イッセーの魔法でパパッと戻ってくるんから安心せぇな。因みにこっから極東までどのぐらい時間掛るん?」

 

「全力で行けば多分今日中には辿り着くと思う」

 

オラリオから船で海を渡り、航海して海を跨いでようやく東方にある島国へ辿りつける。異世界に来た少年は推測して答える。

 

「というわけで、さっさと行かないと日が暮れるかもしれない。行くぞ」

 

傍で浮いている魔法の絨毯に乗れと促す。軽々と絨毯へ乗り出すロキに続き一誠やアリサも乗るとアイズ、リヴェリアまでもが乗ってきた。

 

「・・・・・お二人さん?」

 

「未踏の島国へ主神自ら行くのだ。護衛役を担う眷族は必然的にいなくてはならない」

 

「私も、一緒に行く」

 

と、建前を立てて同行すると言うリヴェリアにアイズも乗せる魔法の絨毯は、フィンとガレスに見送られる『幽玄の白天城』から遠ざかり、東へと飛行を始める。オラリオから南西、数キロ先にある漁業や海外から輸入される品々が交易所に送りだされる前に集まる港街―――『メレン』を通り過ぎたところで一誠が立ちあがった。

 

「さて、絨毯でのんびりと行っても今日中に辿り着けないからな」

 

「うん?自分、何かするつもりなん?」

 

「こうするつもりだ」

 

四人の目の前で、あっさりと躊躇も無く青一色の海原へ身を投げ出す。ぎょっと目を張る彼女等が絨毯から顔を突きだして下を覗きこんだ。直後。八つの目が真紅の光に染まった。あまりにも眩い閃光に腕で目を覆い、光を遮ったが、直ぐに消光したその直後。巨大な真紅の塊が目の前に飛び込んできた。その正体は何なのか巨大過ぎて最初は理解できなかったが、ソレは一度ロキ達から遠ざかり己の全貌を晒し旋回し続けた後に戻り、真下に下がると巨大な頭部に絨毯ごと彼女達を載せる。そして、そのまま何事も無いように大海原の上で、大空の下で飛び続ける。

 

「ま、まさか・・・・・イッセー、なんなん?」

 

絨毯から動けず、震える声で呟いたロキの発した言葉は下からハッキリと返された。

 

『ああ、そうだ。この姿こそがある意味本当の姿だ』

 

「馬鹿な・・・・・お前はここまで大きくなかった筈だ」

 

『阿呆か。この巨体の状態で「龍化」したらオラリオは大騒ぎになるだろうが。体を小さくしていたんだよ』

 

「「・・・・・『龍化』?」」

 

『人からドラゴンの姿に変えることだ。その逆もドラゴンから人の姿に変える『人化』というものができる』

 

下から聞こえる一誠の声音は変わらないでいる。人類の天敵の姿に変わり果てても変わらないところがあった。その声と心だけ変わって無いことを察してロキは安堵で胸を撫で下ろし、驚いたリヴェリアとアイズ、アリサも受け入れた。

 

「だが、この巨体で極東に近づけば嫌でも誰でも気づくぞ」

 

『こっちの方が早いんだよ。というわけで、そこから動くなよ。少し寄り道をする』

 

「寄り道?」

 

二対四枚の翼を羽ばたかせた一誠の体は、絨毯なんかよりも凄い勢いと速度で飛行したのであった。三人に襲う風圧と衝撃は見えない結界によって阻まれ、一誠がどれだけ激しく動こうと彼女等に影響は皆無だった。

 

『はははっ!久々にこの姿で飛ぶのも楽しいもんだなっ!』

 

急に飛行する方角を―――上に変えだし、ぐんぐんと天へ昇る一匹のドラゴンは分厚い雲の中へと飛び込んだ。どこへ行くつもりだと思いながらも一誠に身を任せるしかない彼女達は雲から抜け出し、蒼天が一行を出迎えた。魔法の絨毯で地上の世界を見たリヴェリアは次にどこまでも広がる空の世界を始めて目の当たりにした。その翡翠の双眸は驚きで大きく見開き、目が奪われ心は感動で震える。そして笑みを浮かべた。空の果てと呼ぶに値するこの場所は神々でさえ来たことが無い。その場所にロキ達は来て―――見てしまったのだ。

 

さらに上空から点々と見える小さくともはっきりと浮いている大地の塊の『ソレ』を。

 

「イッセー、あそこに何かが・・・・・」

 

『そこにこれから向かうところだ』

 

リヴェリアの思いに応えるように翼を羽ばたく。さらに上へ向かって飛び続けていく。速く、速く飛んで行くつれにどんどん小さい大地の塊は大きくなり、やがては下から崖のような壁を昇り、ついに飛び越えた。空に浮く巨大な大地の塊から。ロキ達は確りとその目に焼き付けた。岩壁に囲まれた緑豊かな森の上に浮かぶ雲。人工的に造られたのではないと感じさせるそれらは異世界から来た一誠でもこの世界の神と人類のロキとリヴェリア、アイズですら「自然に浮いている島」と認識する。

 

『ロキ、写真を撮らないのか?』

 

「お、おおっ、そうやなっ」

 

この目で見た物の証拠を収めようと首に下げたカメラで何度もシャッターを押し続けるロキやリヴェリア達は徐々に島へ降下して初めて気づく。民家らしき家や柵、門、畑などが視界に映り込み、平和そのものといった感じで暮らしている人と変わらない姿をしている人間達も見つけた。

 

「・・・・・うちら神々でもこんな場所に子供がおったなんて知りもしなかったで」

 

「何だと言うのだこの島は・・・・・」

 

「どうやって今まで生きていたんだろ・・・・・?」

 

「不思議・・・・・」

 

巨大な化け物が降りて来る様を気付かない村人はいない。青い草原に着地する一誠の下まで集まり出して―――歓迎する姿勢で出迎えた。

 

 

「ザンクティンゼル?それがこの島の名前なん?」

 

「ええ、こんな田舎風の島の名前なんて知らない方が当然かもね?」

 

麗しい女性と普通に会話も交わせる事ができる。心の中で驚きつつロキはこの島の事を知ろうと村人達から根掘り葉掘りと訊きだす。その間、空の住人に色々と贈り物を渡している一誠以外のリヴェリア達は興味の眼差しで眼前の人間とこの島の風景を見回していた。加えてモンスターも受け入れる心の持ち主がいるのだという事実に凄まじい衝撃を受ける。

 

「長耳の女性は綺麗だなー」

 

「ああ、どんな種族だ?長耳族?」

 

「んな変な種族じゃないだろ。長耳なんて村の外にいる魔物じゃあるまいし」

 

何気なく自分のことは長耳の女性とエルフを知らない村人達の悪意のない言葉に、聞かなかったことにしようと「長耳」と連呼され続ける中で無視を決め込むその時であった。

 

「おーい!オイラの仲間がいるって本当かぁー?」

 

どこからか聞こえてくる声は人垣を飛び越えてロキ達の前に現れた。二本の角に一対の羽、小動物を彷彿させる体に尾が生えているその生物は人間では無く見た目だけで判断すればモンスターそのものだ。

 

「「・・・・・トカゲ?」」

 

「オイラはトカゲじゃねぇー!寧ろお前の方がそっちだろー!」

 

「俺だってトカゲじゃねぇよっ!?どこからどう見てもドラゴンだ!」

 

同胞(?)からトカゲと言われてとうとう一瞬でブチ切れた一誠は龍化して牙を剥き、口から炎の残滓までも漏れる。普通に対話をしているモンスター同士をロキ達はもはや言葉も出ないでいる。

 

「なぁ、あの空飛んでるモンスター。喋れるんやな?それに自分等を襲わないのってどういうことや?」

 

「モンスター?ビィちゃんは確かに魔物だけれど大人しいし可愛いから、こういう魔物がいるんだって皆は受け入れているのよ」

 

「大人しい魔物やて?襲う魔物もおるんやろ?大丈夫なん?」

 

「うふふ、心配してくれてありがとう。でも、ビィちゃんはリンゴが大好きで優しい魔物だから私達を襲わないの」

 

ビィと言う魔物らしき生物は「まだ火を吐けていないのか!そんなこと出来ないお前の方がただのトカゲだ!」「なにをぉーっ!?」と低レベルな言い争いをして、村の人達からまぁまぁと宥められつつ苦笑いを向けられている。

 

「・・・・・斬っちゃ、駄目なのかな」

 

「どうやら駄目のようだアイズ」

 

「なんか、可愛いかも」

 

目を疑う光景であるがな、と内心当惑するリヴェリアも直ぐに受け入れ難い現実だった。人垣の足元から現れる金髪にピンクのワンピースを着た少女と出会うのも直ぐだった。

 

「で、一つ聞きたいんやけど。こーいう空に浮いとる島は他にあるんか?」

 

情報収集に精を出す。もしもここ以外にも島があるとすれば天界に生きる神々は認知していなかったことになる。必然的に地上で生きる神や人類、モンスターですら空にも世界があると言うことを知る由も無い。

 

「勿論あるぜ」

 

「ほー、そうなんか」

 

「あんたらも地上から来た人達なんだろ?話は聞いてるぜ」

 

「イッセーから聞いたん?」

 

「ああ、去年突然この島にやってきてな。彼は物凄く好奇心で色々と尋ねて来たん」

 

と、村人の発言はアイズ達にあることを思い出ださせた。【ロキ・ファミリア】の団員だった時、一誠はアリサと出会う前の半年間にいなくなっていたときにどこで何をしていたのかの話しの中で―――空の世界に行っていたと教えてくれたことを。

 

(嘘じゃ、なかった?)

 

信じられなかった三人は嘘や作り話だと思い込んでいた。それから一年後、一誠が語った話しは真であるとこうして実証されては現実として受け入れなければならない。どうやら知らないようだった。

 

「ねぇねぇ、空の底ってどんな場所なの?教えておくれよ」

 

「住んでいる場所は?」

 

「どんな食べ物があるの?」

 

「もっといろんな話を聞かせてほしいな」

 

―――ロキ達に質問攻めという集中砲火を受ける。それらを一つ一つ答えているとすっかり日が暮れそうになっている時間まで、好意で村人が用意してくれた料理や酒など飲食しながら留まってしまった。ロキは帰らなければならないので、最後にビィも含めた村人全員での集合写真を撮影することとなった。それが終われば、一誠の転移式魔方陣で地上に送りだされる。見送られる中で帰ったロキの後、また再びこの地に来れるように村人の許可を得て転移式魔方陣を描く。

 

「それじゃ、俺達はそろそろ目的地に向かわないといけないので」

 

「残念だな。泊っても良かったのに」

 

「またいずれ来ます。おいビィ、次俺が来る時は火を吹くようにできとけよ」

 

「へんだ!そんなのあっという間にできてみせるぜ!」

 

別れの言葉も言い残し、金髪の少女を一瞥して、空へ跳躍した瞬間に全長100Mはある真紅のドラゴンと姿を変え、アイズアリサ、リヴェリアを手の中に乗せて空へと飛翔する。ビィは悔しげに巨大化した一誠を見送る。まだまだ成熟していない己の体よりなんて立派な姿なのだろうと思いを込めて空に向かって叫ぶ。

 

「くっそ~!オイラだって絶対に大きくなってやるんだからなぁっ~!」

 

「・・・・・また、来てくれないかな」

 

 

 

『あのチビトカゲ。次会ったらどうしてくれようか』

 

「落ち着け。お前の凄さは私達が良く知っている」

 

「うんうん。イッセーは凄い」

 

「イッセーは凄くつよいよ?」

 

憤慨する巨大なドラゴンの頭部の上からハイエルフと幼女のヒューマン達が宥める。ドラゴンがトカゲなどと言われて無視できないのだろう。彼の者にも誇り(プライド)というものがあったようだ。珍しくイラついていて三人もよもや慰めることになるとは思わなかった。それから一誠の上で飛び続け、朱色に染まる空の彼方を見つめながら唐突に耳にする。

 

『ああ、地上だけじゃなく空にも見た事が無い世界があるなんて、元の世界に帰るのが惜しくなってしまった』

 

「そうか。お前もその気持ちを知っているのだな」

 

嬉しそうに微笑むリヴェリアは、まだ見ぬ世界を目にするため旅に出ていたのだとアイズ達は聞いたことがあった。だから気持ちが分かって貰えたからか笑みを浮かべたのだろうか。空と大地。今だ誰も制覇した者はいないだろう二つの世界にはどんな出会いと別れ、発見が待っているだろうとアイズは大海原の彼方に沈んでいく夕日を見つめそう思った。

 

「―――ありがとう」

 

『ん・・・?』

 

「お前と出会わなければ、私は空にもまだ見ぬ世界があると死んでも気付けなかっただろう。だから、お前との出会いに深く感謝の念を抱いた」

 

岩肌のようにゴツゴツとした真紅の体に手で触れ撫でるリヴェリアは、出会いを司る神がいたら感謝せねばなと心の中で呟き、少女達が見ている手前で彼女は思ったことを口にした。

 

「だからこれからも、お前と一緒に同じ世界や景色を見て回りたい。何時かお前だけの【ファミリア】に改宗(コンバージョン)をしても共に世界を見て回りたいものだ。こうしてお前の背中に乗せてもらってな」

 

一誠は軽い調子でハイエルフの隣にいる少女等にも指摘する。

 

『ははっ、もしも本当に【ファミリア】を結成したら、リリアだけじゃなくアイズもアリサもロキから引き抜こうかな?』

 

「ほう、できるのならば期待して待っているぞ。この二人ももお前と離れる気は無いだろうしな」

 

「「んっ!」」

 

ハイエルフの提案にドラゴンは朗らかに笑って、二人の少女もその通りだと頷く。

 

『―――さぁ、速度を上げるぞ。極東の食材が俺達を待っている。な、アリサ』

 

「極東、久しぶりだねイッセー」

 

 

 

 

オラリオから遥か遠くにある極東、島国のとある都から数(キルロ)離れた山の中。闇色に塗られたように外や森は心が恐怖に浸食してしまうぐらい暗くなっており、灯り無くては大人でも山の中を歩くことを躊躇するだろう。そんな山から窺えば、山の麓にはいくつものの光が漏れている大小様々な建物に、広大な田畑と月明かりで照らされている川がある光景が一望できる。

 

その反対側には、山の麓の屋敷の裏山にポツンと社―――神社があった。昔、誰かが建てただろう色んな所が古びているが雨を凌ぎ、雨戸は完備されて隙間風は殆ど感じさせず、それなりに広くて大きい彼の神社には現在、男神女神達の他、人格者の神々に拾われた孤児達が質素に暮らしていた。

 

「子供達は寝ているな」

 

「食料を援助してくれる子供のお陰で飢える思いもしなくなったから」

 

黒い瞳に角髪(みずら)という変わった髪方をしている男神と濡羽色の長髪、髪と同色の双眸の女神の視線の先は使い古したボロボロな布団の中で子供達がぐっすりと寝ている。そっと襖を閉じ静かに離れる際、時を刻んだ人の手が入った木製の床から悲鳴染みた軋んだ音を鳴らさないよう気を配って歩く。

 

「けれど、援助してくれている麓の屋敷の子供にこれ以上迷惑を掛けないようにね」

 

「迷惑を掛けた時はいくらでも俺の頭で良ければ下げてやる」

 

「神が簡単に頭を下げていいわけではないのだけれど・・・・・」

 

既に前科がある意味深で呆れた会話を交わし合いながら、自分達も就寝に入ろうと自室へ向かう二柱の神。そこで気付いた。闇に紛れてこの社の壁に影が四つ、音をたたさず静かに侵入しているところを。戦災に敗れて落ち武者になった者か、それとも盗賊の類の人間か。どちらにせよ守るべき者がいる社に無断で侵入したからには放っておけないと勇ましく男神は縁から降りて裸足で近づく。

 

「お前達、どこの誰だか知らないが入る場所が違うぞ。入ってくるなら正門から堂々と入れ」

 

ここで武器を取って襲いかかってくるのであれば子供達を置いて天界に送還されてたまるかと、神の力(アルカナム)を封じた神の意地というやつを見せつけなければならない。四つの影に飛ばした声は、苦笑いする声で返された。

 

「ごめんな。何分、ここで一泊したいところだけど勝手に入ったら迷惑を掛けてしまうだろうなぁと思ったところ、二人がいたから入って来てしまったよ」

 

近づいてくる四つの足音。雲に隠れていた満月が月光を地上に照らし始めた頃、男神と三つの影の姿が明らかになった。一人は翡翠の長髪に耳の先が尖った女性、もう一人は背中に剣を背負っている金髪金眼と銀髪青眼の幼女、そしてもう一人は真紅の長髪に右眼は眼帯で覆われ左が金眼の少年。

 

「初めまして、俺達はとある理由でオラリオから来た冒険者だ」

 

「冒険者?冒険者がわざわざ極東まで来てなにが目的だ?」

 

オラリオの冒険者。世界の中心とも世界で唯一モンスターの巣窟、地下迷宮(ダンジョン)があるあの都市から来た四人組に怪訝な目で問う男神は聞いた。

 

「うん、秋の季節しか採れない食材集め」

 

「・・・・・はっ?」

 

何とも冒険者らしくない目的だったが、冒険者依頼(クエスト)でもやってきたのかと考える。風の噂で力のない人間が冒険者に頼みごとをするということを耳にしたことがあったから故に男神は四人はそれで来たのかも知れにと思った。

 

「で、お前達はどこの【ファミリア】なのだ?」

 

「俺は【ヘファイストス・ファミリア】、こっちの三人は【ロキ・ファミリア】」

 

「ぶっ!?」

 

さ、最大派閥の冒険者じゃないか!?と思わず噴いてしまった男神に、縁のほうで目を丸くしている女神も驚いていた。何故、世界中でも有名な【ファミリア】がこんな極東まできて食材を集めに来るんだと度肝を抜かされた男神は本当に彼の【ファミリア】なのかと耳を疑ってしまうが、後に自己紹介されて嘘ではないと分からされる。

 

「そ、それでお前達は・・・・・何の依頼を受けて食材を集めに?」

 

「いや、個人的な私情(プライベート)で集めに来たんだよ」

 

そんな話があるかっ!?と思わず口に出してしまった。最大派閥の団員がこの極東まで来て食材集めなんて財政難な筈がないと信じられなかった。本当に単純に集めに来たのであれば、四人の考えには理解ができない。

 

「まぁ、ともかく今夜一泊させてくれないか?今夜のお礼は明日の朝食の準備をするってことで」

 

「料理が作れるのか?」

 

「作るのは俺。だから食材も調理する場所を見させて欲しいんだけどな」

 

提案を受ける男神は自分一人で決めることはできないと、感じて縁の方にいる女神に求める視線を送った。彼等を一泊させるか否かを女神も男神の視線に籠った思いを察して、静かに頷いた。

 

「分かった。ただし、子供達と社を傷付けることだけは止めてくれよ」

 

「ん、感謝する。えーと、誰だっけ?」

 

「ああ、自己紹介してなかったな。俺はタケミカヅチだ。で、彼女はツクヨミ。よろしく」

 

―――幸薄い雰囲気を纏っている男があの『武神』なのだと知り、この世界の『武神』タケミカヅチの存在を認知した少年は、酷く虚しさを覚えたのであった。俺の世界の『武神』の方が格好良かったのに、コレはないだろう・・・・・と。

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