ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか   作:ダーク・シリウス

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冒険譚15

小鳥の囀り(さえず)がタケミカヅチ達を目覚めさせる役割を担っていた。早朝、何時ものように朝早く起きたタケミカヅチは一室の中で敷かれた上掛けの布団を押し退けて起き上がる。昨夜、ヒューマンとハイエルフの四人組が一泊を求め、了承して昨日の今日。朝食の準備をするという約束はどうなっているか布団を畳んで襖を開けて部屋から出た瞬間に鼻腔が感じ取った。

 

仄かにタケミカヅチの鼻に美味しそうな香りが伝わってくる。瞑目してスンスンと嗅ぎ、花の甘い香りに釣られて引き寄せられる蝶や蜂のように歩く先は厨房。木製の横に開ける扉が開きっぱなしであった為、そこから匂いが出ているので、顔をひょこっと出して中を覗きこんでみる。厨房の中はというと―――。グツグツ、コトコト、トントン、ザックザック、と一つに結い上げた真紅の髪の少年が朝早くから調理をしている様子が窺える。沸騰する鍋の傍で材料を包丁で切る姿が見受け・・・・・。

 

「イッセー。皮剥いた」

 

「んじゃ、口の中に入れられるぐらいの大きさに切ってくれ―――待て、その剣でじゃなくて包丁でだっ」

 

「味見を頼む」

 

「・・・・・んー薄いな?もう少し醤油を匙2、3杯分入れてくれ」

 

「ご飯炊けた?」

 

「うん、あとは余熱で十分だから炭を端っこにどかしてくれ」

 

ハイエルフの女性と二人のヒューマンと共に調理をしていた。歳を関係無く見ていると、まるで親子のようにも見えなくもない。

 

「オラリオは今『暗黒期』の真っ只中と聞いているが他派閥同士のあの三人は仲が良いな」

 

「そうね」

 

「良い匂いがすると思えば、誰あの子達?」

 

「美味しそう・・・・・」

 

タケミカヅチの頭の上から三つの頭が重なる様に出て来て厨房を独占している三人へ視線が向けられる。ツクヨミ以外の女神達―――アマテラスという神であることを一誠達は知ることになる。

 

「約束通り、朝食を作った。温かいうちに食べてくれ」

 

「「「「おおお・・・・・!」」」」

 

豪勢、というまでにはいかないが、見慣れた料理があればそうでもない料理もある。タケミカヅチ達神々や孤児の子供達は感嘆や驚嘆の声を漏らして机の上に置かれた数々の品に目が釘付けだ。「いただきます」と食べる前の祈りをする一誠達にタケミカヅチ達も習慣としてしてきた同じ祈り方をして一味違う朝食を一口。

 

「う、美味いっ」

 

「この味付け・・・・・一体何なんだろう。舌の広がる風味が口の中でまだ残ってる」

 

「玉子焼きってこんなに甘くてふわふわしたものだったっけ・・・・・?」

 

「むぅ・・・・・」

 

神の舌を唸らせる料理の腕は極東でも発揮し、孤児の子供達は無言でがっついて満腹になるまでお代りを求めた。朝食中、タケミカヅチとは思えない貧乏臭い雰囲気を纏っている神を受け入れ辛く歯切れ悪く訊ねる一誠。

 

「タケ・・・・・ミカヅチ、教えてほしいんだけどいいか?」

 

「おう、俺が教えれることであれば何でも聞け」

 

「じゃあ、この辺に大きな町―――都とかある?」

 

都?少し離れたところに都はあるがどうしてだ?と思いが過ったが、秋しか採れない食材を集めに来たという目的を思い出し、首肯する。

 

「ああ、あるぞ。多分、お前達が欲しがっている食材もあるんじゃないかな?」

 

「なるほど。じゃあ、案内を頼めるか?前回は違う地域で集めていたけどこの辺りは全然土地勘が無いんだ」

 

「前回も来たのか?だが、見たところ特に何も持っていなさそうだが」

 

持ってきてある物を挙げれば得物程度である。どれも売れば数千万以上はくだらない一級品の杖や剣。それ以外は見た限り何も持ってきていない四人に買い物をするにしてもどうするのだ。と思いをぶつけたところ。

 

床に穴を広げて、そこへ突っ込んだ両手を引っ張り上げると、大きなバックパックと超が付くほど肥満で太ったように膨らんでいる亜麻袋が出て来て見せつける。

 

「大丈夫、あるから」

 

愕然と開いた口が塞がらない神々にお願いする。

 

「都までの案内を頼めるか?」

 

 

 

 

「おおおー」

 

男神に頼んで連れて来てもらった都に辿り着いた。眼前に広がる光景はオラリオとは違う賑やかさが醸し出し、着物を着ているヒューマンや亜人(デミ・ヒューマン)が多く見受けれる。石造りの建物が多いオラリオとは真逆に瓦の屋根に木造の家が軒並に建っている。異世界から来た一誠にとって、この都は江戸時代にタイムスリップしたような感じではしゃぐ。極東に初めて訪れたリヴェリアとアイズも、感嘆の息を漏らして建物や人々を見つめている。―――都の民衆も然りだ。宙に浮いている魔法の絨毯の上に数千万ヴァリスは優に詰められているだろう袋を見て察した者やそうでない者の反応が二手に分かれるほど分かりやすい。

 

「ありがとうタケミカヅチ」

 

「なに、礼には及ばん。想像以上の美味い飯を作ってくれたからな」

 

「なら、今夜も泊らせてもらっていいか?また美味い飯を作るからさ」

 

無料で宿泊できる寝泊まりの場所を抜け目なく確保する。四人を残しタケミカヅチが社へ帰って行く姿を一瞥して目の前の光景に顔を向け直す。

 

「よし、今回も極東にしか無い物を大人買いするぞアリサ!」

 

「うんっ!」

 

「妙に高揚してないかお前達」

 

「楽しそうだね・・・・・」

 

異世界にも極東があることは知っている。そして、この世界の極東に来てどんな品々や人間、文化、建造物があるのか心底興味を抱いていることを気付いている。一誠ほどでもないが彼女達も初めて訪れる極東の都に興味深々だ。

 

「食材は後回ししてまずは物を買い込むぞ。二人とも、着物でも着てみるか?郷に入れば郷に従えってことで俺達も和服を着よう。去年もそうしていたんだ」

 

「・・・・・ありえなくはないが戦闘に臨むことになったら」

 

「俺が一瞬で片づける。三人に手出しさせないさ」

 

「ん・・・・・」

 

絨毯を引き寄せ、アイズとアリサの二人の手を掴んで引っ張り着物を販売している店を探し始める。

 

 

しばらく経った頃。【ロキ・ファミリア】の主神、ロキの腕輪に投影されるリヴェリアとアイズの着物姿に「リ、リヴェリアとアイズたん、アリサたんの着物姿キタァーッッッ!!!!!」と言いつつアルバムに新たな一ページとして残すのだった。

 

 

「うーん、都合良く好みの着物があったな。着心地はどうだ?」

 

「・・・・・お腹がちょっと、キツい」

 

「その上、少々歩き辛いな。これではいざという時には本気で走ることはできない」

 

紅に金の刺繍が絢爛に施されている着物姿のアリサ。鴬が川の傍で生えている桜の木に座っている黄緑色の生地の着物に黒い金の刺繍が入った帯、長い翡翠の髪は後頭部に纏め上げられ金色の髪留めで結い上げたリヴェリア。清流の川を彷彿させる澄んだ水色と青色の生地の着物に窮屈なまで腹部を締め付けている白い帯を綺麗な金の柳眉を寄せ合って触れるアイズ。二人とも普段履いている靴では無く草履だ。直接彼女達を着せ替えした女将や女性らしき店員達が店の出入り口から顔を出して「あそこまで着物に似合う綺麗な人初めて・・・・・」「あの子も可愛いぃ~!」と黄色い声を出すほど、二人は美しく老若男女、種族問わず視線を独り占めしている。対して一誠は黒い肩衣と袴、紅い小袖を組み合わせた裃と言う和服を着こんで腰に刀を佩いている出で立ち。髪をポニーテールにし右眼を覆う眼帯と相まって凛とした雰囲気を醸し出している。

 

「お前もその髪で目立っているな」

 

「自覚してる。さて、本来の目的を果たそうか。気になった物があれば買うから声を掛けてくれ」

 

「ん、わかった」

 

 

都の中心部、そこには石塚の上に建造された大きな城が一つだけ存在する。直径一Kの広い敷地を誇る城はとある主神が構える本拠(ホーム)でもあった。城下町で買い物を楽しむオラリオから来た四人は露も知らず、本拠(ホーム)に戻った主神は裃を着こんだ眷族達に出迎えられている。本殿の中へ入り、数段も重なれた畳の上に腰を下ろしたところで一人の白髪に黒眼、黒い着物を着こんだ女神の下まで近づく老婆が恭しく頭を垂らす。

 

「お帰りなさいませ大神(アマテラス)様」

 

「ええ、何か報告はありますか?」

 

栗色の長い髪をサイドテールに結い、深い蒼色の双眸の女神アマテラスは眷族の一人に訊ねた。

 

「城下町の方は変わらず平和でございます。しかし、またあの神々が戦を」

 

「そう・・・・・」

 

この極東に君臨してから彼の女神以外にも多くの神々が極東に降臨し、土地を支配し人類を集め、町や都を作り発展、繁栄を齎した。だがしかし、何かしらの原因で仲が悪かったり元々悪かった神々が衝突をすると戦が始まる。それに伴って生じる災いが―――。

 

(戦災―――。まだ子供達に傷を残しちゃったのね)

 

眷族同士を戦わせ、対敵する【ファミリア】を滅ぼすまで戦を止めない神々を筆頭とする神は二柱いる。頭の中でその二柱の顔を思い浮かべ、困ったように肘掛けで突いた肘に寄り掛るよう頬杖するアマテラスに報告は続けられる。着物の懐から白い紙を二つ取り出し見せつける。

 

「アマテラス様、また手紙を送られました」

 

「見るまでも無い。『自分達の陣営に加わり、敵対する【ファミリア】の打倒に協力せよ』。でしょ?」

 

もううんざりと嫌そうに溜息を吐いて捨てさせる命令を下す。辟易と顔に浮かぶほど彼女に送りつけられる手紙の内容は既に三桁は届きそうになっている。何時だったからか忘れてしまったが、最初は冗談ではないかと己が築き上げた都の発展と繁栄に真摯で励んでいた故に、極東に存在する三大都の一つと称される様になるまで成長したのだ。今さら戦争なんてして大事な都の住民に命を落とさせるなんてことは、向こうから仕掛けてこない限り絶対にしないアマテラスの思いは揺らいだ。

 

「・・・・・違います」

 

「え?」

 

先に拝見をしたのか、老婆の表情は暗く曇っていた。予想した内容は異なっていると否定されて呆ける大神は続きを促す視線を送った。なにが違うのだと。糸目に皺くちゃな顔に反して瑞々しい唇口が重々しく開き、手紙の真実の内容を零した。

 

「『協力の要請を拒み続ける御神は不穏分子とみなし、【イザナギ・ファミリア】は【アマテラス・ファミリア】に対して遺憾ながら戦争を臨まんとする』・・・・・こちらの手紙も酷似した内容でございました」

 

「なっ・・・・・!?」

 

度肝を抜かれた。焦燥に駆られて立ち上がり、畳の階段を一気に飛び降りて頭を垂らし、二通の手紙を差しだす老婆の手から奪うように手に取り、見る気もなかった二通の紙をそれぞれ見比べて信じられないものを見る目が凍結する。

 

「・・・・・何故こっちにまで飛び火が・・・・・」

 

手紙を握る手に力が籠る。愕然と立ち尽くす主神に頭を垂らしたまま声を掛ける。

 

「誠に申し訳にくくも進言します。どちらも拒み続ければいずれこうなることは、予想されておられた筈です」

 

「・・・・・っ」

 

「ご決断をアマテラス様。なにもせずにいればたちまちこの都は二柱の神の【ファミリア】によって蹂躙され滅ぼされまする」

 

―――アマテラスは気づかない。人の手が入った木造の床に目を落とす老婆の唇口が三日月のように歪んでいる事に。一誠達も気付いていない。極東に訪れた瞬間、陰謀の渦に巻き込まれている事に。

 

 

「・・・・・リヴェリア」

 

「何も言うな」

 

女性は身支度を整えると同じぐらい買い物に時間が掛るという。外出して恥ずかしくない姿で楽しい一時を過ごしたい思いから納得のいくまでおめかしをするのだが、そんなものに無縁なドラゴンこと一誠は都でしか売られていない多種多様で多彩な品々を一軒一軒見て回り、蓄えられている在庫ごと全部買い占めて異様な興奮を冷めないまま楽しんだ。

 

「おおっ、水飴じゃん!これは金平糖!はははっ!この世界にもあるものはあるんだなっ!?」

 

肉食の野獣のように視界に入るは、オラリオには無い珍しい品々に全力で反応して、たまに金で物を言わせて買い占め続けても持ってきた金の半分以下も使い切れないまま夜を迎えた。凄く嬉しそうだな、とずっと見守り続けていたハイエルフと幼女の傍には今日の成果の夜食用の食材が置かれてる。現在、空飛ぶ魔法の絨毯でタケミカヅチ達が住んでいる社へ向かっており、山の麓にある屋敷の裏山とは目と鼻の先まで近づいている。

 

「タケミカヅチ、ツクヨミ達。ただいまー」

 

「おお、戻ってきたか。目的の食材は手に入ったか?」

 

「いや、全然。見つからなかったよ。市場には出回って無いって言われたから地道に山狩りをする他なさそうだ。あと、これお土産」

 

バックパックから取り出したのは、赤と青、黄、白と小さい飴玉が詰まった瓶を武人に投げ渡した。受け取ったそれは何なのか直ぐに悟り目を丸くする。

 

「お、おいこれ・・・・・」

 

「子供達に食わせてやれ。それと服も買っといたから後で着させるよーに」

 

ドサリと当惑する男神へ一方的に都で買い占めた山のような大量の服を預けさせる。あまりにも多さに服の山の中に埋もれながら、何故昨日の今日で出会ったばかりの自分達にここまで・・・・・と厨房へ向かう一誠に呼び止めて訳を聞きたいと服の山から顔を出して口開こうとしたがハイエルフに遮られた。

 

「気にするなと言うのは無理があるだろう。目的の食材が無い代わりに都で売られている品々を買い占めた後、まだ残っている資金を貴方達の為に浸かってこそ有意義があると買ったのだ」

 

「だ、だがっ。弱小もなにも【ファミリア】すら呼べないような俺達にここまでして何の得があると言うんだ?ヘファイストスは分かっているのか?」

 

「神ヘファイストスは分かって無い。あいつの独断であり、あいつは損得など考えてもいない。ただの自己満足、偽善だろう。だが、あいつは―――『そうしたかった』。その一言で私達の疑問を一蹴された。善意や偽善も関係ない。自分の心に従っただけに過ぎないだろう」

 

純粋。一誠は純粋に行動しているとリヴェリアから聞いている内に頭の中で過った。極度のお人好しにも聞こえるがタケミカヅチは、善意の偽善も関係なく心に従ったという少年に間抜けな面を晒す。

 

 

「そら育ち盛りのお前達。今日は特別に作ったカレーを堪能しやがれ!」

 

泥の様な茶色いスープに人参、ジャガイモ、玉葱、肉と炊きあがった米が盛られた皿から食欲を促す鼻を刺激する香りがアイズと同じぐらいの年頃の少年少女達の前に漂う。社の中にある長大な木製の机の前に正座する面々、タケミカヅチ達は見慣れない料理を前に不思議そうな面持で見下ろす。

 

「カレー・・・・・?」

 

「ロキやヘファイストスが絶賛する一品だ。俺しか作れないからある意味幻の様な料理だから食べてくれ。いただきます」

 

リヴェリアとアイズに挟まれて食べ始める。二人も匙を手にして甘辛いカレーを口に運ぶ。武人達も顔を見合わせ恐る恐るとカレーを匙で掬いあげる。

 

「・・・・・むぅっ!?」

 

「まぁ・・・・・っ」

 

生まれて初めて食べるそれに、大いに好奇心を刺激された。肉や野菜や多種多様の香辛料に大量の水で作り上げたスープから未知の味に神々と孤児達は目を丸くする。食べやすく辛さは控えめに調節されたスープの風味は口の中に広がり鼻からも伝わり、一度味を占めたら手が止まらなくなる。育ち盛りな孤児達は一生懸命頬張り、空になった皿を突きだしながら「お代り!」と所望する。

 

「早くもイッセーの料理の味に魅了されたか」

 

「「私もお代り」」

 

悟っていた風に述べるリヴェリアの長い耳に聞き慣れた負けじと少年に皿を突き出す幼女の声が届く。強さや人柄、原動、容姿で魅了するのではなく料理で胃袋と共に心を掴む彼のドラゴンを称賛に値する。そして彼女自身もお代りを要求するのだった。

 

 

「はぁー、あんなに美味い料理を食ったのは初めてだ。ありがとうヘファイストスの子供。オラリオじゃああんな料理は作られているのか?」

 

「店を構えてないぞ。だから俺しか作れない幻の料理の様なもんだから安易に食べれもしない」

 

「そっか。ロキ達も羨ましがりそうだな。知られたら後で怖そうだ」

 

社の中に浴場は無い。天然の露天風呂で入るタケミカヅチ達は山の中へと行ってしまった女性人達が戻ってくるまで思い思いに寛いでいた。

 

「そう言えば、目的の食材って何なのか聞いてなかったな。どんなのだ?」

 

「松茸と筍」

 

「ぶっ!?」

 

何気なく聞いたタケミカヅチが唾を噴いた。その二つのうち一つ、松茸はとある【ファミリア】しか食べられない高級な食材で育つ山を丸ごと占領している故、城下町の庶民の口には無縁な食材として食べられることは絶対にない。

 

「お、お前・・・・・なんてものを求めているのだ」

 

「だって秋の季節と言えばそういう旬の食材を食べる時期だろ?年に一度ぐらいは食べたいじゃんか」

 

「食べられないぞ。筍はともかく松茸は極東に君臨している神、その【ファミリア】が独占してるからな。もしも無断で松茸を採ったら死罪か島流しにされるそうだぞ」

 

オラリオからやって来た彼は知らないと三大都の一つの付近に住まう人間達を縛る規則(ルール)を説明した武人の隣で縁に肩を並べて座る一誠は夜空に浮かぶ三日月を見据えながら零す。

 

「・・・・・たかが松茸されど松茸、か。だから買いに来たのに市場に出回って無いのはそう言うことか。しかし、おっかない法律を考えたのはどこの【ファミリア】だよ?」

 

「―――ごめんなさいね。おっかない法律を決めて」

 

突如聞こえた第三者の返答に反応する。横へ目を向けると共に朝食を食べた女神―――アマテラスが近づいて来ていた。タケミカヅチは不思議そうに立ち上がって縁から声を掛ける。

 

「アマテラスどうした?忘れ物をしたわけでもないのにその日の内に二度も来るなんて珍しいじゃないか」

 

「そんなに珍しいのか?」

 

「ああ、極東の大神でもあるからおいそれと城から離れることは難しいんだ」

 

話を聞くとアマテラスは領地に住まう神々の様子を一定の周期で見にやってくることがあるらしい。そうなのかと納得した一誠を他所に女神は厳しい面持ちで口を開く。

 

「都が危機に陥ってしまった。だから、その危険を知らせに来たの」

 

「なにが遭った?」

 

冗談で言う女神ではないと真摯な面持ちで訊ねる。「実は・・・」と語り始める彼女に静観する少年も耳を傾ける。協力を拒み続けた結果、二柱の神から同時に攻め込まれるという話を聞きタケミカヅチは瞠目する。

 

「ここもいずれ戦場となるからタケミカヅチ達も安全な場所へ避難して欲しい」

 

「安全な場所と言っても、俺達はどこへ・・・・・なんとかならないのか」

 

「急なことで城内は慌ただしく、迎撃の準備をしているわ。でも、二つの派閥が同時に攻め込まれたら流石に私の【ファミリア】だけでは対応できない。この機に乗じて他の小・中堅派閥も攻め込んでくる可能性もある」

 

敗北は必須。絶望的な状況に立たされていると言っても過言ではないアマテラスはそう言外する。事の重大さを聞かされ何とも言えないタケミカヅチ。悲しげに降臨した日からずっと築き上げた都を蹂躙される光景を目に浮かべるアマテラスも悔しげに―――蚊帳の外に立たされている一誠から提案を述べられた。

 

「なぁ、相手が一柱の【ファミリア】だけなら何とかなるか?」

 

「え?ええ、それならなんとか・・・・・」

 

唐突に聞かれてしまい、一瞬呆けるアマテラスは戦力差だけならほぼ戦争に明け暮れている二柱の神の【ファミリア】より勝っていると暗に答える。だが、問題は質だ。

 

「オラリオから来た貴方は知っているかどうか分からないけれど、私の兵士にはオラリオでいう第二級冒険者はいるのだけど。都に攻め込んでくる二柱の神にはそれぞれ第二級以上の冒険者がこちらより抱えている」

 

「一番の多いのは?」

 

「【イザナミ・ファミリア】の四雷竜と四炎蛇、八人の第2級冒険者の家臣がおります。対して【イザナギ・ファミリア】には第一級冒険者が一人に第二級冒険者が四人の家臣」

 

国産みと神産みの神々の名前が出た途端に「マジかよ・・・・・」と心中零す。

 

「・・・・・それが何か?現状、今さらどちら側についても状況は変わらない。多勢に無勢のこの戦況を知ったところであなたに何かできると言うの?」

 

「できる。敵将を倒して主神を捕まえれば相手も大人しくなるから」

 

「なにを言ってるのですか?まさか、協力するなど言うつもり?」

 

「え、駄目?これでも実力は自信があるんだけどな」

 

朗らかに協力をすると申し出されアマテラスは怪訝な目で少年を見つめる。鍛冶最大派閥(ヘファイストス・ファミリア)鍛冶師(スミス)が戦場に出て何になると思いながら問うた。

 

「貴方のLv.は?」

 

「Lv.1」

 

「・・・・・タケミカヅチ。そういうことだから都からもっと離れた安全な場所へ避難して。私の城に匿ってあげたいところだけど」

 

話にならないとタケミカヅチへ意識を向け、促すアマテラスは言いたいことだけ言って「貴方も早くオラリオに戻りなさい」と言い残し二人から遠ざかって暗闇に包まれた森の中へと消えていく。

 

「露骨にすげー呆れられたし」

 

「いや、仕方ないだろう。お前のLv.ではせいぜい足軽程度にしかならないぞ?」

 

「・・・・・そりゃあ、さ。Lv.だけ判断されても仕方ないけど、見た目で判断するなと言いたくなるぞ俺は」

 

しかし、一誠のことを知らない神や人類からすれば見た目で判断してしまう。行動で証明するしかない、身近で勃発する戦争を見過ごせず自身の力を行動で示す意思を固める。

 

「しかし、安全な場所にと言ってもな。港に行って海へ避難でもしない限り・・・・・」

 

隣で難しい顔を浮かべ腕を組んでどこに避難すればいいか悩む武神。そんな苦悩する武神の肩をポンポンと叩く。

 

「一時的だったら俺の家に来るか?」

 

「家?オラリオにか?」

 

「ん、ヘファイストスもいるから事情を説明しとく」

 

虚空へ手を翳し、歪みだす空間は別の空間の場所と繋がった。そこは丁度―――。

 

「おいこら、俺のいない間に随分と・・・・・楽しんでいるようだな」

 

人の家で酒盛りをして盛り上がっている七柱の男神女神に睥睨する。テーブルの下にはいくつもの酒瓶が転がっており、テーブルの上には自前で持ってきたのか様々な料理がある。神々の宴に同伴している眷族達は空間の穴の向こう側にいる一誠に気づくとヘファイストス達も気付く。

 

「おっ、イッセー君じゃないか!それにタケミカヅチ!久しぶりだな、相変わらず幸薄そうな感じじゃないか!」

 

「久しぶりに会った神に対して開口一番にそれかヘルメス!というか、ここはどこでどうしてお前達が酒を飲んでいるんだ」

 

穴から潜って中に入る一誠と一緒にタケミカヅチ。穴は開いたままで幻では無く現実的なものだと知らしめされ他派閥同士の主神が肩を並んで(テーブル)を囲み酒を交わし合っている様子は何かのパーティをしているのではないかと勘繰る。

 

「オレ達はイッセー君絡みで仲良くなっているだけさ。お前も何か食べただろ?今まで食べた事のない彼の料理をさ」

 

「・・・・・カレーのことか?確かに美味かったが」

 

と、そう言ってヘルメス達がこの場にいるのは、ここで少年の手料理を食べて味を占めた男神女神達がロキに絡まれている少年の帰りを待っているのかもしれないと何となく察した。

 

「イッセー!例の高級食材は手に入ったん!?」

 

「いや、アマテラスが独占しているっていうから交渉でもしない限り手に入らない。手に入れて戻るつもりだから安心しろ。つーか、酒臭い!」

 

「久しぶりに聞く名前だわ。元気にしてた?」

 

「変わらずと言った方が良いか?それよりも極東で大変なことが起きてさ」

 

他派閥の主神も交えて極東の現況を説明する。それ故タケミカヅチ達をここオラリオに一時的に避難させることも加えて告げた。

 

「イザナミとイザナギが?アマテラスに戦いを臨むなんて・・・・・」

 

「天界にいた頃から仲が悪かったのか?正直、会った事は無いけれどそう思えないんだがな」

 

「・・・・・そうね。一言で言えば彼女、イザナミは私のように傷がある女神よ」

 

ヘファイストスに訊ね、イザナミは鍛冶神のように『醜顔』であることを言外する。完全完璧である筈の神が有する欠陥だと。

 

「それが原因で二人は仲が悪くなったって聞いたわ。イザナミはイザナギを憎むようになってイザナギはイザナミを恐れて逃げてる。顔を見合わせれば体力が続くまで追いかけ逃げるの鬼ごっこをしてたわ。ヘルメスを筆頭に今日は逃げ切れるか捕まえられるか娯楽として楽しんでもいたわね?」

 

「ヘルメス、サイテー。料理作ってやんねー」

 

「いやいや!?オレは何度か仲裁したってば!だから料理を作らないって言わないでおくれイッセー君!」

 

慌てふためくヘルメスが立ち上がって、床に転がっていた酒瓶は椅子を押し退けた拍子にぶつかってしまった。クルクルと一誠の視界に入りながら回り、少しして回転力が失うと止まる酒瓶は・・・・・左の目が凍結するほど一誠が大切に料理用として保管していた上質のワインであった事に気づく。無言でそのワインまで近づき、手に取った。異様に軽い。感覚で確かめるまでもなく中身はすっからかんだった。

 

「あ、イッセー。その葡萄酒(ワイン)、結構美味しかったでー?他の酒もゴチになったから」

 

「・・・・・他の?」

 

上機嫌に話しかけるロキの言葉にまさか、と嫌な予感を覚え・・・キッチンの方へ足を運んでその目で見てしまった。酒瓶を収める編み状の木製の棚にある筈の葡萄酒(ワイン)が殆ど無くなっていることに。あのテーブルの下に転がっている酒瓶は・・・・・飲み干された自分の物だと悟るのに難しくなかった。神々の胃の中に異世界の葡萄酒(ワイン)は最後の一本を残してなくなってしまった。その事実を実感した一誠は幽鬼のようにユラリとキッチンから出て来てヘファイストス達の前に戻った。

 

「そうだ。イッセー君、折角戻ってきたのだからなんか作って欲しいなー」

 

バキャンッ!

 

「―――なんて・・・・・」

 

酒瓶を片手の握力で割って、甲高い音がヘルメスの話を遮った。顔を俯く一誠の様子がようやくおかしいと気付いた時は、既に遅かった。

 

「お前らが飲み干した葡萄酒(ワイン)、『調理用』にとっておいた上質の葡萄酒(ワイン)だったんだけどなぁ・・・・・100年掛けて熟成したそれすら飲んでしまったわけか」

 

因みに―――硝子片だけが床に散らばったその酒瓶こそが100年ものの葡萄酒(ワイン)だったのだ。

 

「イ、イッセー・・・・・?」

 

嫌な汗腺がダラダラと背中まで伝って流れる。酒で高揚した気分は急激に氷点下まで下がり、空気も重苦しくなってきた。敏感に威圧を発する一誠に警戒して主神を守る眷族ですら、頬に汗を浮かべている。

 

「ただの酒ならともかく、俺が愛用している調理用の酒を何も考えなく飲まれてしまうと―――相手が誰であろうと許す気すらならないなぁ」

 

ドス黒く禍々しい魔力が一誠から迸る他、彼の少年を中心に床や壁、天井、グラスや皿までに亀裂が入るか割れるかなど現象が起きて、ロキ達を驚かせる。部屋全体すら地震が発生したように震え、激しく揺れ始まる。

 

 

(((―――異世界のドラゴンの逆鱗に触れたっ!)))

 

 

ロキとフィン、ガレスはそう感じた瞬間。無様な姿を晒そうと全力で説得や制止の声を張り叫ぶ。

 

「す、すまんイッセー!許してほしいとは言わへんから怒らへんで!?」

 

「ここで暴れたら君はオラリオにいられなくなるよ。飲んでしまった葡萄酒(ワイン)は弁償するか代わりを用意する。だから怒りを収めて欲しい」

 

「それでも気が済まないのであれば儂等がお主の言うことを何でも聞く」

 

あの【ロキ・ファミリア】が本気で説得している。目を疑う光景だが少年の怒りは尋常ではないことを悟って息を呑んで様子を見守る。

 

「・・・・・代わりの物を用意する?」

 

「せ、せやっ!百年ものの酒ならオラリオにもある!今直ぐ必要だって言うなら―――」

 

「―――千年も熟成したものも飲んだよな?」

 

ひくっと頬を引き攣るロキの脇に、テーブルの下に転がっている1000と数字が書かれたロゴマークがある酒瓶を手にする。軽く振ると一滴しか残っていないことを悟り物凄く残念そうに嘆息した。

 

「あーあー・・・・・これで作ったビーフシチュー、美味しいのに飲んじゃったわけか」

 

「え、えっと・・・・・」

 

「で、どうなんだ?お前らが飲んだ葡萄酒(ワイン)。耳揃えて代わりを用意できるのなら許す。当然、千年ものの酒もだ。言っとくが、俺の目は誤魔化されないからな」

 

瞳の瞳孔が更に細まり、冗談ではないとロキ達を睨みつける。目だけではない。奔流し続ける禍々しい黒いオーラが凶暴で凶悪なドラゴンの様な顔に成り、血のように赤い瞳孔が開く。

 

『っ―――!?』

 

駆け出しの冒険者、Lv.1の人間が放つモノではない。可視化するほど少年の背後に浮かぶモンスターの顔のようなものを醸し出す目の前の人間は一体・・・・・。正体を知らない神と冒険者達は一誠に対して警戒と畏怖、好奇心を改めて覚えたところで、穴の向こうから二人の幼女と絶世の美女ハイエルフが現れたと思えば徐に一誠の肩を掴んだ。

 

「次はお前が入る番だぞ。さっさと入れ」

 

「・・・・・」

 

邪魔をするなと左眼で睨みつけられても、一瞬でも怯まず逆に真っ直ぐ見詰める。翡翠の双眸の奥に揺らがない強い意志の光を宿すハイエルフはもう一度催促する。

 

「お前が来ない限り事は進まない。ロキ達がお前に対して許されないことをしたかもしれないが、今はこちらの方が優先しなければいけない。その為に極東まで来たのだろう」

 

「・・・・・」

 

「イッセー」

 

念を押すリヴェリアの目を睨み続け十数秒。禍々しいオーラが霧散した途端に重苦しい空気も和らいだ。重圧から解放されたロキ達はどっと安堵で胸を撫で下ろす気分に浸る他所でタケミカヅチを肩で担ぎ上げ、極東へ繋がる空間の穴へと向かう途中。

 

「誰がお前らの為何かに極東の料理を作るかよ」

 

それだけ言い残して、リヴェリアとアイズと穴の向こうへ移動した直後。閉じた。緊張の糸が解れ言葉も出せれなかった面々は各々と口にする。

 

「アハハ・・・・・イッセー君って、怖いね・・・・・ロキ、ヘファイストス。あの子って何者?」

 

「知らないわよ。それよりもあの子の機嫌をどうにかして治さなきゃいけないでしょ」

 

「林檎のパイを作っても駄目かしら・・・・・?」

 

「そんな単純な子供だったら絶対に苦労はせんで絶対に・・・・・っ」

 

「ガネーシャ、ちょっとチビった・・・・・」

 

「―――うふふっ、怒るところも素敵だったわ」

 

「フレイヤ、貴方も相当ね・・・・・」

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