ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか   作:ダーク・シリウス

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冒険譚16

極東で二日目の朝を迎える。今日も都で買い物をしようと足を運んだ四人の目には、恐怖と焦燥で家財や家具を荷台に乗せたり、背負ったり、抱えたりして一人から複数、家族と城下町を後にしようとしている光景が飛び込んできた。

 

「うーん・・・・・本当なんだな。他派閥に攻め込まれるって話」

 

「そうなの?」

 

「だから皆、慌てて?」

 

「ああ、戦いに巻き込まれたくないから安全な場所まで逃げようとしているんだ。これじゃ買い物なんてできるわけもない」

 

オラリオにも他国から何度も攻め込まれている経験はあるが、毎度その度に最大派閥を筆頭に様々な派閥がギルドからの強制依頼(ミッション)を撃退してみせているのでの住民達は避難する必要性もない。世界で唯一存在するダンジョンで器を昇華し、超人的な身体能力や魔法を得る冒険者と違い、他の国ではオラリオの冒険者のように強く成長することは難しい。ので第三者側として見ればオラリオの冒険者が戦争で負ける事はほぼないのだ。住民達は何となくそれを理解し変わらない安全で平和な日常を過ごせる故に、この都の民達のように非難をする必要は皆無なのである。現在身を置いている都市から離れ、この緊張感を肌と目で感じ取ったリヴェリア達は真面目に現状を受け入れる。

 

「どうする。お前の欲する食材は手に入らなくなるが」

 

「ん、そりゃあ決まってるだろ?」

 

当然のように一誠は三人に向かって言いきった。

 

「横やり入れて戦争を何が何でも止める。食材の確保のためにな」

 

そう言い切りながら城の方へ目を向ける。リヴェリア達も釣られて一誠と同じ物を視界に入れ動き始めた。

 

 

 

「も、申し上げます!イザナギ、イザナミの軍勢が予想より速い進軍で各砦が突破されていきます!」

 

三柱の神の【ファミリア】が大規模な戦争を勃発する話は言伝や風の噂で瞬く間に極東中に広がった。攻め込まれる前に都を中心に近辺の村々に住むヒューマンや亜人(デミ・ヒューマン)達は持てれるだけの私財や家具を持って、それぞれが思った安全な場所へと求め大移動をする最中、沈黙を保つ城の中では切羽詰まった張り叫ぶ声や焦燥の色を浮かべる文官、役人達で慌ただしかった。

 

「な、なんだと、もう西門が突破され砦の陥落の報告がっ!?」

 

「東方の村々が敵【ファミリア】に蹂躙!」

 

「北方からも襲撃!援軍の要請!」

 

「傘下の【ファミリア】が反旗を翻しこの都に攻め入っているとの情報がっ!」

 

「同じく傘下の【ファミリア】が壊走!他の【ファミリア】も敵前逃亡!」

 

「な、なんじゃとっ!?」

 

眼下に繰り広げられる絶望的なやり取りを見守るアマテラス。戦力差に圧倒されるどころか、敗北が濃い戦場で最悪な事態がトントン拍子で起き続けている。まだ都の地域外であるが自領の人間達が、己の神血(イコル)で刻んだ『恩恵』がアマテラスの中でフッと次々に感じ無くなり続けていく。戦場で赴いて大切な者、大切な場所の為に命懸けて守るその思いを踏み躙るかのように消えていく。

 

(早すぎる・・・・・)

 

宣戦布告を受けて昨日の今日。前もって準備をしていたとしか思えない程迅速な進撃の侵略。否、相手が待ってくれと言っても待つ【ファミリア】と主神ではないことは承知の上だった。しかし、攻めてくることを想定して極東に降臨してから直ぐに建造した防壁や砦は容易く突破されている。天然の地形を利用した場所もあるにも拘らずだ。半刻も経たず都に攻め入る敵勢に何故か疑問を浮かんでしまう。

 

「わ、我が主神よ!このままでは一日も経たずこの都まで攻め来られます!何か手を打たなければ―――!」

 

「分かってます。ですがその前に、この場にいない彼女の行方は?」

 

「・・・・・未だに発見したとの報告はございません」

 

古参の側近の助力すら求められない。都を繁栄するためには戦もしなければいけなかった時、あの老婆の側近の戦略で何時も勝利を導いてくれた。アマテラスの要と行っても過言ではない存在がこの大変な状況で不在というのはおかし過ぎる。何か遭ったのではないのだろうかと思っていても、参謀の文官に乞われても今の女神に出来ることは何一つない。このまま何も出来ず、自分は天界に送還されるのだろうかと『神の力(アルカナム)』を封じて無力である己を今日まで悔しいとは思ったことは無い。

 

「・・・・・」

 

 

――――――んじゃ、敵将を倒して捕まえれば相手も大人しくなるかね。

 

――――――なにを言ってるの?まさか、協力するなど言うつもり?

 

――――――え、駄目?これでも実力は自信があるんだけどな。

 

 

「(今更ね・・・・・)」

 

今頃になって昨夜の会話を思い出す。しかしLv.1と足軽の兵達並みの実力しか持たない彼の少年に協力を求めても戦況が変わるとは思えない。【ロキ・ファミリア】の最強魔導師もいたが、他派閥同士は不干渉が基本。助力を乞うても主神に無断で応じることもできない筈だ。結局・・・・・自分達にこの絶望的な状況を打破する術は元からなかったのだ。

 

「ア、アマテラス様!す、直ぐにお逃げくだ―――」

 

汗だくで神座の間の空間に飛び込んできたこの城の警護をしていた者の言葉は、背後から苦無に首を切り裂かれ最後まで言えず息絶えた。

 

「っ!?」

 

文官や役人達の顔は蒼白となって、警護の者の首を引き裂いた黒尽くめの忍び装束を着込んだ一人の男を視界に入れる。

 

「も、もうここまで・・・・・!?」

 

「馬鹿な!?他の防壁や砦を無視して攻め入ったと言うのか!」

 

一固まりになって感情が無い殺戮の人形と化した忍びの登場に他の忍び達も続々と神座の間に侵入して逃げ場を塞ぐ。彼らの目的は唯一つ。アマテラスの命。目に付く汚い囀りを放つ者達は無視して任務を全うする。ただそれだけで邪魔する警護の者達の命を屠りつつ侵入を果たしたのだ。多くの兵を戦場に向かわせ守りが手薄状態となったこの状況を逃さずにだ。

 

「ま、待ってくれっ!こ、殺さないでくれっ!?」

 

「儂を誰だと思っておるッ!?長年アマテラス様にお仕えしてる由緒名高い家系の―――!」

 

耳障りな雑音を抹消し、神座に立っている女神へ―――毒が仕込まれた苦無を四方から投擲する。如何に神といえど、体を蝕み命を奪うほどの毒を掠りでもすれば命の保証は無い。この場に主神を守る腕の立つ眷族がいないことは把握している。忍び達は任務達成の喜びを浸ることも無く最後まで主神の天界送還の光景を目の当たりにするまで気を引きしめる。

 

「・・・・・」

 

―――ここでお終いか。

 

飛んでくる死の苦無を紙一重でかわしたところで第二の襲撃を間も置かずしてくるだろう。単純に天界に送還される時間が遅くなったに過ぎない。自分がいなくなればこの都は、一体どうなってしまうのだろうか。それだけが心残りだと瞼を下ろし、女神の体に襲いかかる痛みを待った。

 

「―――もう大丈夫だ、俺が来た」

 

しかし、待っていたのとは違う全身を包む太陽のような温かさと安心させる自信に満ちた声。四方から放たれた苦無は全て弾き返された。忍び達は信じられないものを見る目でアマテラスでは無く、彼の女神を守る美しい異形の人間を釘付けになる。金の長髪の頭上に金色の輪っかが浮かんでおり、右眼を覆う漆黒の眼帯とは対照的に左は蒼色の瞳。背中は女神を守る金色の十二枚の翼を生している。

 

なんだアレは、人か?モンスターなのか?

 

この場にいる全員が翼を生やす者に対して判断ができず当惑した。その翼に守られている当の女神も愕然と少年の顔を見上げる。見間違う筈がない。この子供は一昨日と昨夜、タケミカヅチ達の社に居座っている【ヘファイストス・ファミリア】の眷族だ。何故ここにいて、何故無力な自分を頼んでも無いのに守ってくれたのか、何故―――疑問が尽きない彼女に少年はただこう言う。

 

「人間の心を照らす太陽と言う光の象徴が極東からいなくなってしまえば、この国は戦乱の渦中に飲み込まれて今よりもっと戦災で孤児が増え続ける。それだけは絶対に遭ってはならないことだ」

 

投擲では確実に殺せないと忍び達は判断し、苦無の他に刀を構えて自ら襲いかかりに飛び掛かってきた。それを目の当たりにして少年は六対十二枚の翼をばさっと動かす。

 

「だから、お前を守る為に勝手ながら協力をさせてもらう」

 

刹那。全ての忍び達の肉眼が捉えきれない、金色の翼が一瞬ブレたかと思えば全身に襲う衝撃で布で隠された顔の表情は苦悶に満ちた。吹っ飛ぶことも無くその場で倒れ込み、駄目押しとばかり翼から発する雷に打たれ、舌を噛み切るという自害をする暇もなく気を失った。

 

ほぼ秒殺で女神の命を狩る影の使徒達を無力化にした事実を目の当たりにする女神達。

 

 

「(Lv.1の足軽並みの子供では無かったの・・・・・?)」

 

 

そう思わずにはいられないし何故か目が離せれないアマテラスは、少年が手招く先に姿を見せる【ロキ・ファミリア】の最強魔導士と幼い剣士の少女達を視認する。

 

「それじゃ、行ってくる」

 

「ああ、直ぐに終わらせて来い」

 

女神の身の安全は渡された金色の杖から発する結界に守られた。下手な暗殺者が再び襲いかかっても彼女の命を場うことはできないだろう。守りを万全にしたあと、同行を強く望む幼女達を抱え金色の軌跡を残して戦場へと飛びだった。

 

「イッセー、すごい数」

 

「あれ、全部人?」

 

「そうだ、と言いたいところだけどもうとっくに戦場と化しているな。途中で鉢合わせして衝突した感がある」

 

阿鼻叫喚、両陣営から放たれる魔法や弓矢、怒声に混じる悲鳴。集団規模の戦いをアイズとアリサは初めて見る光景で眼下の光景を目に焼き付ける風に凝視している。戦況は見る限り拮抗している様子だった。戦力はほぼ互角と感じで足軽の兵達が冒険者達と違う戦いざまを見させてくれる。だから強さを望む少女達にとって目が離せない戦場であった。

 

「さて、とっとと終わらせよう」

 

「戦うの?」

 

「残っていたらそうせざるを得ないかな」

 

「残る?」

 

二人からの疑問に「まぁ、見てろ」と述べて―――威圧を解き放った。直ぐ近くにいるアイズ達は本能で感じ取って目を見開き絶句する。だが、相手を驚かすだけでおさまらなかった。戦場の殆どの兵士達が、白目を剥き口から泡を吹いたりして意識を失い、気絶する者が一斉に現れ地面に倒れる。あれだけ壮絶な戦いと騒音を繰り広げる戦場はあっという間に静寂となり嘘のように静まり返った。ただの威圧で人間を無力化にした本人へ信じられないと言う目で見上げ「何をしたの?」と訊かずにはいられなかった。

 

「ただの威圧だ」

 

「いあつ?」

 

「ん、後で教える。今は目的に集中」

 

「うん、わかった」

 

その後の行動は素早かった。直ぐに終わらせる為に総大将と言うべき顔の半分を隠す仮面を被っている黒髪の女神と、上唇と顎に髭を蓄えている黒い長髪の男神の他、襲いかかってくる第一級から第二級冒険者並みの実力を誇る眷族を全員捕縛し、二柱の【ファミリア】の軍勢を無力化して戻ってきた少年にアマテラスは完全に度肝を抜かれたのだった。

 

 

 

「イィ~ザァ~ナァ~ギィ~・・・・・」

 

「ひぃいいいいいいいいいいっ!?」

 

第四勢力の介入によって都は守られた現在、アマテラス達は神座の間で集っている。戦後の後始末として【アマテラス・ファミリア】の都に攻め入った【イザナギ・ファミリア】と【イザナミ・ファミリア】の処罰、神罰を下す為に関係者以外立ち入りを厳禁にして。が、そんなアマテラスを前にして情けない悲鳴を上げる男神に仮面の女神は誰かに制してもらわないと近づこうとする。改めてヘファイストスが言っていたことはあながち間違っていなかった様子で、アマテラスにどうする?と視線で訴えた。少年の視線の意図を察しているかどうか定かではないが、まずは再会の言葉を送る女神。

 

「こうして顔を見合わせるのお互い久しぶりね。それで、どうして私に何度も協力を求めた?」

 

アマテラスの質問に男神イザナギが唾を飛ばす勢いで返答した。

 

「イ、イザナミを私から遠ざける為だ!?下界まで私を追いかけて来てもううんざりなんだ!だから天界に送還させたかったのだ!」

 

「・・・・・イザナミは?」

 

予想通りの返事だったのか意識を女神の方へ向ける。彼女はイザナギに向けていた顔をアマテラスへ振り向き言う。その声音は無骨な仮面を被っているとは思えない程、玲瓏で透き通ったものだった。

 

「イザナギを捕まえるの手伝ってほしかった。イザナギを捕まえれば私は満足できる」

 

「捕まえた後、どうする気でいるの?」

 

「・・・・・何億年も私から逃げ続けた恨みを晴らす・・・・・っ!」

 

歯を剥きだしに積年の恨みを晴らさんと呪詛が籠り出す。アマテラスはどっちも案の定の理由ねと溜息を吐いた。

 

「私はあなた達に協力する気は無い。だと言うのにどうして物分かりが良い二人は私の都に攻め入ることになるわけ?手紙を受け取ったその日の内に協力はしないと伝達者に手紙を送り返した筈なのだけれど。しかも今日に限っては、今日まで戦争を繰り広げていた二人が同時に攻め入ってくるなんてタイミングが良過ぎでしょう」

 

ここに来て両派閥が連携でもしない限りできない侵攻。仲が良いのか悪いのか分からない同時に侵攻をしてきたのか気になっていた。アマテラスのその質問に対し、イザナギとイザナミは怪訝に言い返した。

 

「・・・・・何を言っている?使者を送って金品や物資を用意すれば手伝ってやらんことも無いと誘いかけてきたのはそっち」

 

「払えなければ相手側について攻め入るぞ、と脅してな」

 

「え?」

 

そんな脅迫みたいなことをして金品を巻き上げていた等、アマテラス自身は全然身に覚えのない話だ。そんなことすれば攻められるに決まっている愚かな指示をしたことすら一度も無い。

 

「待って、それは本当に?」

 

「本当だ。お前の徽章(エンブレム)がある恰好をした使者と何度も謁見したぞ。お前の子供である確かな証を前にして疑う余地は無かった。だから要求を呑んで協力を要請したと言うのにお前は協定を破り拒み続けた」

 

「そんな中・・・・・使者がやってきてこう言った。『お前達はまんまと我が主神の計略に騙された。数日後、我等【アマテラス・ファミリア】は同盟を結んだ【ファミリア】と攻め入ってくれる』・・・・・って」

 

二柱の神から告げられる衝撃の実話。慌ててアマテラスは、使者を向けた覚えも金品や物資を巻き上げた覚えは無いと必死に弁解するが、イザナギとイザナミは彼女の言葉に耳を傾けない。

 

「・・・・・どうなってるの?」

 

「神アマテラスの反応からして嘘ではなさそうだが、神イザナギと神イザナミも嘘を言っている様子では無い」

 

「だよな」

 

「んー・・・・・・」

 

他派閥からすれば奇妙な話だ。アマテラスの家臣が二柱の神と謁見で要求を呑めば協力すると無断、それも独断でしているとしか思えない。三柱の会話を探る四人は耳を傾けながら疑問を浮かべるが、平行線の話を聞いている内に解決の糸口は見つからないと判断し介入する。

 

「イザナギとイザナミ、アマテラスの眷族と謁見したって言うけどどんな奴だったわけ?それが分かればアマテラスも分かると思うんだが」

 

「分からない。全身の肌を隠してアマテラスの徽章(エンブレム)を付けた黒装束。神の前では嘘を付けないから真実。声は女だった」

 

「私のところに来た使者の声は男のものだったぞ」

 

―――謎が深まるばかり。眷族達にも話を訊ねてみれば、その場に居合わせていたから間違いないと肯定した。

 

「どう思うイッセー」

 

「アマテラスの知らないところで陰謀のような感じがするかな」

 

「陰謀?神アマテラスの名を騙って堂々と二柱の【ファミリア】から金品と物資を巻き上げたと言うのか?」

 

「神の名を騙った、というのは嘘じゃないだろう。実際、本当にアマテラスの眷族が他派閥に乗り込んだ様子だ。となると、俺はこう思う」

 

人差し指を立てて己の推測を三柱の神々達にも聞かせるように口を開いた。

 

「イザナミがイザナギを固執、執念深く追い求めていて、イザナギがイザナミから解放されたがっている。だけどお互いほぼ戦力が拮抗して中々決着がつかないでいる。―――そこに両派閥のどっちかに第三勢力が加わることで戦況は一気に変わる筈だ。それを頭が回る上に狡猾で狡賢い誰かが【アマテラス・ファミリア】という極上の餌を目の前に釣り下げることでどんな要求でも続く限り応えてくれるだろうって察したんじゃないのか?」

 

アマテラスは自分の都の繁栄と発展に夢中で好んで戦争を仕掛ける女神では無い。その上で陰謀を企てた何者かが行動を起こしたのだと付け加える。

 

「で、散々絞りに絞り取られた二人が痺れを切らした頃合いを見計らって【アマテラス・ファミリア】に戦争を仕掛けさせた。敵対する【ファミリア】側についたと思いこませてだ。だから攻め込まれる前にこちらから攻めようとする二つの【ファミリア】同時に攻められたら、流石に都は守り切れず彼女は天界に送還される」

 

「じゃあ、残された都はどっちの【ファミリア】の領地となる?それともアマテラスの遺志を継ぐ為、神の代わりに人の王が誕生となるか?―――この状況を心待ちにしていた他の【ファミリア】の神がこの都の王に君臨するか?」

 

長々と仮定と推測と予想を述べる少年にアマテラス達極東の神々は信じられないといった表情となった。もしも、それが真実であれば自分達は何者かの掌の上で踊らされていたということになる。だが、それは一体誰なのかは知る由もない。

 

「陰謀を企てた者が、私の眷族達の中にいる・・・・・?」

 

「そうなるな。でなければ、この二人がアマテラスの眷族と交渉したとは言わないし」

 

話を纏めるとそうなる、と思いを込めて首肯する。愕然と言葉を失い、凄まじい衝撃を受けたのか目が動揺で揺れている。彼女自身も気づかなかった企み。自分に長年仕えていた眷族の中に己の欲望の為に【ファミリア】を売った行為に等しいことをされて、深い悲しみと絶望が顔にありありと浮かびあがるアマテラスにイザナギとイザナミは責める言葉を掛けられずにいた。

 

「我が主神様、誠に申し訳ございません。失礼します」

 

そんな中、女の声が神座の間に静かに響く。アマテラスの許しを貰う前に出入り口から一歩だけ入ってきたのは、黒い着物を着こんだ老婆。女神の側近の一人だ。絶望から抜け出せないままその老婆に蒼色の双眸を向ける。

 

「今は大事な謁見・・・・・立ち入りは厳禁だと伝えられた筈。いえ、貴女は今までどこにいたの。都の壊滅の危機だった時に」

 

「申し訳ございませぬ。急な用事ができてしまい城から離れておりました。そしてこの場に参ったのはそのお許しを得に・・・・・」

 

「私や他の同胞に何も言わず、都の壊滅の危機であることを知っていた上で己の私的を優先にするほどの用事とは何か、言いなさい。いくら貴女でも私達を見捨てたに等しい行為に看過できない」

 

厳しい面持ちで問いだたすアマテラスに老婆は頭を垂らしたまま。答えようとしない眷族に近づいて再度問い詰めようとした彼女の背後から声が飛んできた。

 

「貴女のその声・・・・・聞き覚えがある。私に交渉を持ちかけたアマテラスの眷族の声と同じ」

 

双眸を隠す仮面で老婆に向かってそう言う。声が女の使者が【ファミリア】に来たと言うイザナミと眷族だけが知る事実は老婆であると証明した。信じられないと反射的にイザナミへ振り返り否定的な発言を述べる。

 

「なん、ですって・・・・・イザナミ、冗談を言わないで。彼女は私に仕える眷族の中で古参の一人よ」

 

「間違いない。素顔を見るのは初めてだけど、声は何度も聞いたから分かる。でしょ?」

 

老婆へ向ける言葉に確信が籠っていた。ここで疑いを掛けられた老婆は頭を上げようとせず、ジッと姿勢を崩さない。アマテラスの問いと同様に答える気配をさせない。イザナミは絶対に口を開かせる問いを突き刺した。

 

「答えない?答えられない?なら、これだけ答えて。私と会ったことがあるか否か。沈黙は肯定とみなす」

 

神の前では嘘は絶対に吐けない。真意を問うイザナミと応じなければならない老婆の会話のやり取りに、緊迫する神座の間で不安げで見守るアマテラスや一誠達。―――すると、徐に息を零した老婆の口調が・・・・・。

 

「あぁ~あ、疑われない為に顔を出したのが失敗だったなぁ・・・・・」

 

そう言いながら垂らした頭を上げた老婆は女の声音では無く、男の声音にガラリと変わり出した。それにはアマテラスは瞳を愕然と凍結。一誠達も老婆から男の声が出るとは予期もせずに驚く最中、バレたら仕方がないと風に口から紡ぐは魔法の詠唱。

 

「『夢は儚く目覚める』」

 

老婆の相貌が崩れ、別の顔が本来のモノとして変わり始める。黒髪に黒眼と極東出身の人間である特徴を持つ男となり、黒い着物を剥ぎ取って軽装の衣服に早着替えをした。正体を現したその男に「お前は・・・・・」と呟くアマテラス。

 

「んーと、誰?」

 

「・・・・・一年前、兵として志願してきた子供。お前、私の古参の側近はどうした」

 

「成り済ます為に必要だったからまだ生かしているぜ。殺したら神のあんたら気付くんだろ?殺してあのババアに成り代わって近づいたら疑われちまうからな」

 

「その声は、私のところに来たアマテラスの使者と同じ声!」

 

イザナギもイザナミと同じ反応をして立ち上がった。故に心中「ははは、ほんと、狡賢くて頭が回る奴だったのかよ」と思わず苦笑を浮かべる一誠。だが、まだ生存していると分かって安堵で胸を撫で下ろすアマテラスは厳しい目つきで男に言葉を投げた。

 

「此度の戦争はお前が裏で私達を操ったのか」

 

「最初は随分と苦労したけど、そこの昔の男を追いかける女に、情けなく女から逃げる男の神との交渉は随分と楽だったよ。よっぽど猫の手も借りたかったようだったし俺を疑いすらしなかった」

 

「私の眷族になったのも疑いをさせない為か・・・・・っ!」

 

「そうだ。神の前では嘘が吐けれないんだろう?嘘に気付かれない為にはその神の眷族になる他ない。この都の王となる為に必要だったからな」

 

都の乗っ取り―――それが真の目的であったと男の愉快に笑む表情はアマテラスだけでなく、散々物資や金品をだまし取られたイザナギとイザナミの怒りを買った。

 

「貴様っ、他派閥の手先であるのか!?」

 

「ないない、だって、この近くで一番有力な派閥はこの場にいる三つの派閥だけだし、他はよわっちい【ファミリア】や貧乏暮しをしている神だけだぜ?だから、手っ取り早く勝ち馬の【ファミリア】に取り入って強大な【ファミリア】同士を潰し合わせてコッソリ裏から神を天界に送還させる―――っつぅ魂胆だったんだけどよぉ」

 

男は心底気に食わないと言った表情で神や眷族達の縄を解いている一誠やリヴェリア、アイズにアリサと極東の部外者に視線を向けた。

 

「誰だよお前ら?良くも俺の愉快な作戦を潰してくれやがって。部外者は引っ込んでいやがれよ」

 

「知るか、俺達はただ松茸と筍の他に秋の旬の食材を集めに来ただけだぞ」

 

「はぁっ!?たかがそれだけの為に俺の作戦は潰されたってのかよ!」

 

「それこそ知るか、だ。アマテラスが松茸を独占しているって言うから交渉しに来たらこの様だぞ」

 

やれやれと肩を竦められて男は苦虫を噛み潰したかのような表情で睨みを更に鋭くする。つまり、ついでで己の企みは阻まれたのだと言われたようなものだ。イザナギとイザナミから巻き上げた物資と金品を隠した場所へと赴き、それを持って野望を果たそうとした考えは二の次となった男は、憤慨で吼えた。

 

「ふっざけんなっ!?神から特典貰ったまでは良いがこんな訳も分からないこの世界にトばされて、クソッタレな人生をこの都を奪って変えてやろうとしたこの俺の作戦はたかが松茸で邪魔されてたまるかよ!?」

 

「・・・・・神?特典?この世界にトばされた?」

 

怒りで訳の分からないことを口走ってアマテラス達を訝しませたが、唯一、愕然の色を浮かべ左眼を見開いる者が一人いた。―――一誠だ。

 

「気が変わった。この場でテメェラ全員ブチのめして神を天界に送還してやる!」

 

「貴方は足軽の兵達と同じLv.のままのはずよ。イザナギとイザナミの眷族相手にそれが可能なの?」

 

眷族の【ステイタス】の更新をし続けているアマテラスならではの把握と記憶力。どれぐらい更新をしていたのか一誠達には分からないが、まだ駆け出しの冒険者並みのLv.であると直接口にしたので察するに難しくなかったものの、男は余裕の態度で言い返した。

 

「はっ!この世界はLv.の強さが全てだろうがそんなの俺の前じゃ何の意味もねぇ!」

 

「なら、試してやる。―――殺せ」

 

「お前達も行け。私達を謀った怒りをぶつけてやれ」

 

イザナギとイザナミが眷族達で仕掛けさせた。第一級から第三級までいる十数人の眷族達がこの瞬間だけ共闘を臨み自分達を欺き、主神に害を成そうとする敵に素手喧嘩(ステゴロ)で蹂躙しようと飛び掛かった。

 

「はぁあああああああああっ!」

 

男は気合の入った雄叫びを発した。その直後。髪と眉毛、目の色が可視化するほどの金色のオーラを全身から迸らせたと同時に変わった。腰を低く落とし前に構える突き出した両手から青白い光の塊が具現化した瞬間を見た一誠は、アマテラス達を転移魔方陣で部屋の隅へ移動した一瞬の間に眷族達の全身に加護の魔法を張った。それでも敵は構わずそれを放った。眷族達の視界は真っ白に染まったと思えば真正面から凄まじい衝撃を食らい、そのまま押される形で神座の間の壁を突き破る大きな光柱は悲鳴を上げる間も無い眷族達を呑みこんだ。

 

「「「・・・・・」」」

 

無詠唱の魔法、ではない何かの一撃が眷族を消した。壁にぽっかりと外まで穴が続いて外を窺える光景に思考が停止した。二柱の眷族達が一瞬で光の柱に呑み込まれて消えてしまい、言葉を失うほど目の前の光景を信じられなかったイザナギとイザナミ。戦いに明け暮れて器を昇華、【ランクアップ】してきた自慢の眷族がアマテラスが言うLv.1の者に敗れるなど想像できようか。

 

「言っただろ。俺の前じゃLv.は無意味だってよ」

 

「うん、同感だが死んでも無いぞ?」

 

当然のように倒したと言ってはばからない敵に対して当然のように言う一誠。

 

「・・・・・なんだと?」

 

「加護の魔法を張っておいた。今の攻撃程度なら吹き飛ばされてているだけの筈。しっかし・・・・・まさかお前みたいな奴もいるんだな。これは警戒していた方がよさそうだ」

 

今度は自分が相手をしてやる、と男の前に移動して対峙する。

 

「お前、違う世界から来た人間だろ?」

 

「・・・・・」

 

「元の世界に帰りたいと思うなら帰る方法でも探さないのか?」

 

ある種―――これが最後の警告であると一誠は男を試した。己やキリト達のように望んで別の世界に来たわけではないなら念の為に声を掛けた方が良いだろうと提案を述べたところ、男は鼻で鳴らした。

 

「元の世界に帰りたいだぁ?冗談じゃない!」

 

「元の世界じゃあ女にモテるほど成績優秀、頭脳明晰、運動も万能ってわけじゃなければ容姿も整ったわけでもない。平凡に暮らすそこらへんの一般人と変わらない人間だったんだ」

 

「そんな俺が人助けなんて慣れないことをして死んでみたらどうだ。神と名乗る女が俺に願いを叶えるって言うじゃないか!」

 

「だから俺は望んだ!クソッタレな人生からバラ色の人生を謳歌できる容姿と最強の力を!」

 

芝居みたいに過去の出来事をペラペラと喋り、提案を拒絶する。

 

「今の俺はこの世界で誰よりも強い最強の人間!だから俺はこの世界で酒池肉林の人生を手に入れる!邪魔する奴は例え神であろうと許さねぇっ!」

 

敵意と攻撃の矛先を一誠に向け「てめぇもだっ!」と一歩前に踏み込んだ瞬間に爆発的な跳躍力で懐に飛び込んだ。男が握った拳で振りかざし、殴ろうとする構えをした途端。頬に拳が突き刺さって―――逆に殴られ、あっさり過ぎる殴り合いは拳を交えるまでも無く終わる。視界がブレた男の目は何が起きたのか理解できないまま壁まで吹き飛び、木造の壁を突き破った。

 

「・・・・・神から貰った最強の力・・・・・?―――そんな力があるのに偉くお前自身は弱いなおい」

 

殴った握り拳を振った状態のまま期待外れもいいところだと風に呆れ顔を浮かべている彼は断言した。

 

「最強という座布団の上で胡坐を掻いているだけの奴は、大抵お前みたいに強者にやられるのがオチだ。井の中の蛙君よ」

 

返事は極太の気のエネルギー砲で返されたが、片手で真上に振り上げた手がバシンッ!と甲高く砲撃の軌道を反らし天井の屋根を突き破って天へと消えていく。

 

「これが最強の一撃だって言うんなら・・・・・お前、最強をナメてんな」

 

「黙れっ!」

 

壁の向こうから男が飛び出して殴りかかる。虚仮にする人間は許すまじと拳に金色のオーラを纏って破壊力を底上げした打撃は、直径五十Mの岩塊を軽々と粉砕した威力を誇っている事を脳裏に過らせる。訳も分からないこの世界に来て以来、情報を集め、神の力を把握する為に村を襲う盗賊のような輩を相手にして点々と移動しつつ、村々を助けて過ごしている内に異世界の情勢を理解できた。故に、付け入る隙があると崇めるべきの神を利用して最高の人生を謳歌しようと考えた男が取った行動は早かった。だが、男が思ったほど世界は甘くなかった。

 

「―――宝の持ち腐れだ。零から出直してこい」

 

人の皮を被った化け物と言う異常(イレギュラー)に出会わなければ思惑通りに行ったであろう。

 

(なっ―――)

 

幻視をしてしまったのかもしれない。殴りかかろうとしている相手から己がちっぽけに思わせるほどの威圧が具現化したように凶悪な牙を持つ巨大な真紅のドラゴンの顔が男の目にハッキリと映っている。

 

(なんだ、このバケモノは―――っ!?)

 

「『なにを』見て余所見してるんだ?」

 

「ッ―――!?」

 

我に返った時は既に目と鼻の先まで拳が近づいていた。顔面に突き刺さり視界は黒一色―――。男はまた殴り飛ばされた。

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