ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか 作:ダーク・シリウス
それは、戦いであって戦いでは無かった。少なくとも戦場を駆け抜けてきた極東の冒険者、武士達からすればあまりにも一方的な蹂躙だったからだ。口と口で語る様に刃と刃で武士や侍は心を晒して相手と語り合う、そんな風に拳と拳が交わし合い語り合う筈の二人であったが。
「く、くそっがっ!がっ、ぐ、ぼはっ!?」
顔面に殴られてから男の動きが鈍くなってきている。殴る途中で淡い光を帯びている拳で殴り続ける一誠の一撃を食らう度に体に不調が起きているとしか思えないぐらい、鳩尾を狙った深く重い拳の一撃が突き刺さった。それが止めだったようで男の膝は床に付き、背中を丸めて苦悶に満ちた表情、悶絶を全身で表した。
「最強の力を貰ったわりには、弱いなお前」
「ぐっ・・・・・」
首を掴まれ、片腕で男の体重を軽々と持ち上げる一誠の左眼と男の右眼の視線が零距離でぶつかった。
「力よりもお前はお前より強い奴と全力で戦って神の力とやらをモノにするべきだったな。お前が見ている世界はそんなに狭くも無い。もっと視野を広げて強くなるべきだった」
「―――この俺に説教なんざするんじゃねぇっ!」
怒りが頂点に達して金のオーラ、一誠からすれば闘気、気のオーラが爆発的に高まった男から警戒して距離を置いた際に相手は変化した。金色の髪が獅子の鬣を彷彿するほど豊かに増えオールバックの髪型になってからの全力の砲撃を放った。まともに食らい、イザナギとイザナミの眷族達のように呑み込まれた。目を見開くリヴェリア達の前で一誠がやられた―――と思ったのも束の間。壁の外まで伸びる青白い閃光の中で真紅の光が煌めいた。
「――――なっ」
愕然と見開く眼。伝わってくる。放出しているエネルギーの中から強い気配がどんどん膨れ上がり、自分を呑みこもうとしている何かが。奥歯を噛み締め、それに抗う意思を込めてさらに力を解き放った。真紅の光は一瞬消えて呑みこまれたが、
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!」
青白い光の中から迸る真紅の光が一気に押し返して上衣の服が全く機能していないボロボロの格好の一誠が深い笑みを浮かべて、長髪をたなびかせながら男と同じ攻撃を繰り出した。
「て、てめぇは一体・・・・・っ!?」
「ははははっ!こんな勝負は久しぶりだ!これこそ俺が心底楽しいと思う戦い方だよ!」
押して押されて、拮抗する二つの光を中心に荒れ狂う神座の間。床は激しく抉れ、気流が乱れに乱れリヴェリアとアイズ、三柱の神々に襲いかかる衝撃で吹き飛ばされそうになるが、アマテラスが持つ杖から結界が張られ戦いの結末を見守る他できないでいる。
「お前も、神に転生された奴だったのかよっ!」
「転生―――?否、俺は・・・・・」
皮膚が真紅の鱗に覆われ始め、頭部の形は異形へと変貌し、背中に二対四枚の翼と臀部辺りから尾が生えだし、手足も鋭い爪が伸びて―――。
「この世界とは異なる別の世界、神々が存在している世界から来た元人間で人型のドラゴンだ」
男の気の砲撃を真上に弾いて肉弾戦に持ち込む一誠に、驚愕に囚われたまま応戦する男。
「ハハハッ!さっきよりマシに戦えるようになったな?なんだ、怒りの度合いで変化するってんならまだ隠し玉でもあるのか?ほら、惜しまずさっさと最終段階まで変化してみろ!」
「こ、このっ・・・!
「ああ、お前に合わせてるぞ?俺もまだまだ隠し玉は残してるしな。例えば―――こんな感じだ」
背中からズリュリュリュッ!と四本の腕が入り、計六本の腕で男に殴り掛り始める。ますます化け物染みた一誠相手に男の顔から完璧に余裕が消え失せて一方的に殴られるようになった。六本の腕に対して二本の腕だけで対処するのは厳しい状況の戦いの中、男の意識から逸らされていた第七の手とも言えるもの(尾)が首に巻き付かれて締め付けらる。抵抗する暇も与えまいと床に何度も叩きつけられた後、放り投げられ体勢を直した直後に豪雨という真紅の気の弾丸を放たれた。攻撃に当たらないよう全身を駆使して逸らしたり弾いたり防戦一方と一瞬でも気を緩めない戦いに強いられる最中。力強く男に突き出された拳から強力な拳圧が飛んできて男を吹き飛ばした。城の外に間で飛び出ないよう、防壁の魔方陣で受け止めて床に平伏す男に話しかける。
「もう終わりか?神の特典とやらの力はこんなものか?」
「くっ、ちく、しょううううっ・・・・・・!」
悔恨で身体を震わせながらも立ち上がろうとする男の意地を素直に感嘆し、まだ心が折れていない男の精神力にも称賛して口の端を吊り上げた。
「言っておくが、迷宮都市オラリオには俺以外にも化け物染みた冒険者は・・・・・まぁ、それなりにいるぞ?お前のレベルは第一級冒険者、Lv.5ってところだと思うけどな」
また男の首に尾が巻き付かれ持ち上げられる。戦う力は無くなっているのか無抵抗で顔を苦痛で歪めている敵に思いっきり真上へ放り投げた。
「いや、冒険者と比べるものでもないか。―――楽しかったぜ久々に」
大きく開けた口から極太の魔力を男に放った。迫りくる真紅の塊に成す術もなく直撃し、受け止める事もままならず絶叫の言葉を発しながら攻撃に呑み込まれてしまったのを最後に勝負の幕は閉じたのであった。
―――その一分後。
完全に気を失っている男が落ちてきた。拘束をするわけもなくただ見下ろす一誠に三人は近付く。
「その姿になってまで戦わないといけない程強かったのか」
「いや、これは戦いに興奮して思わずなっちゃっただけだ。強いってのは確かだ。いやー、本当に久々に楽しかったよ。で、二人は何か不機嫌なんだが」
「「・・・・・」」
ボロボロな神座の間でドラゴンに労うハイエルフと片方の頬を膨らませる幼女達。三人に挟まれて幼女の反応に少し不思議そうに首を傾げるドラゴンは三柱の神々に話しかける。
「言いたいことがあるなら、質問に答えるぞ。と、その前に戻しておくか」
異形の指でパチンと音を鳴らした。その音に呼応して戦闘の傷跡に光が帯びて壊れる前の状態に戻る。当然のように驚くアマテラス達は人の姿に戻った一誠を有り得ないものを見る目で視線を送るようになる。
「あ、貴方は一体・・・・・モンスターだったの?」
「元人間、のモンスターだ。モンスターに転生した人間だよ」
「子供がモンスターになるなど有り得ん、有り得ん!」
「異世界から来たんだから信じて欲しいとは思っても無いよ」
「神々がいる世界って言った。本当?」
「同性も同じってわけじゃないが、アマテラス達神々と同じ同名の神々がいる世界から来た。ちょっと俺が知っているイザナギとイザナミの関係は違ってるけどな」
じゃあ、どういう関係なの?とイザナミが問うと。
「夫婦の関係。そっちはどんな関係なんだ実際?」
「んなぁっ!?そんな恐ろしい関係に私は絶対になりたくないぞっ!」
「・・・・・私も、私から逃げたこの男に対して怨みしか持ってない」
「まぁ、詳しく聞かなくても分かるでしょ」
無言で首肯する。関係の良好は最低であって、本当に異世界の『国産み』と『神産み』の関する知識が違っていることから心底不思議がる一誠だった。
「でもま、こっちのイザナミとイザナギさん達も絶縁しちゃってるから違いは変わりないかな。この世界のイザナギがイザナミから逃げてる理由と同じみたいだし」
「そちらの世界の
「・・・・・やっぱり、許さない」
「因みに、私は?」
同じアマテラスと名乗る異世界の神に好奇心で自分を指しながら訊ねたので、隠すことも無く自分の知る限りの情報を打ち明ける。絶対に予想を外さず期待通りの反応をしてくれるだろうと思いながらだ。
「んと、太陽の化身って呼ばれてて―――イザナギさんとイザナミさんの、ツクヨミさんとスサノオさんと同じく子供の関係」
「え、ええええええええええええええええっ!?」
「アマテラスとあの二柱が私とイザナミの子、だと・・・・・?」
「そっちの世界の私・・・・・意外」
もしかしたら今日一番の新事実で驚いたかもしれない三柱だったが、そこで呻き声を上げて意識を覚醒した男が目を覚ました。
「あ、気が付いたか」
「ぐっ、お前っ・・・・・!」
「言っとくが暴れるなよ?死にたくなかったらな」
手から光刃を伸ばして男の首を添える。目を覚ましても疲弊しきっている様子で体を動かせないでいる。それを機にアマテラス達は眦を釣り上げて近づく。
「おい貴様!良くも私を騙して色々と奪ってくれたな!」
「今直ぐ返せ」
「私の大事な側近はどこに捕らえているか吐きなさい」
と口々に攻め立てる神々に対して男は顔を逸らして、徐に口を開いた。
「あのババアの居場所は教えるが、騙し取った金や物資はもう返せねえ。使っちまったからな」
「なんだとっ!?」
「・・・・・許さない」
お冠な二柱を他所にアマテラスは催促する。
「どこにいるの?」
「・・・・・とある村に生かしている。その村の住民に監視してもらってな」
アマテラスは意外だったのか「村?」と鸚鵡返しをした。この都だけじゃなくイザナギとイザナミの都の周辺にもいくつか村があるのはわかっている。その村のどこかに彼女の側近はいるのだと予想する。
「随分と生易しい場所にいさせているんだな。てっきりどこかの地下牢か洞窟で幽閉しているのかと思った」
「五月蠅い、捕まえておくにも適した場所が見つからなかっただけだ。戦う前にも言っただろう。死んだら困るって」
「ああ、だから村か。納得したがどこの村だ?」
そう訊ねる一誠は男から居場所を聞き出した。その村の場所は意外にもイザナギとイザナミが過去に戦った場所の近くであったことが判明した。そしてもう一つ。
「金品と物資は何に使ったんだ?」
「そこまで答える必要はあるか?」
「別に?直接その村に行くまでだ。そこに今まで騙し取っていたもんがあるなら、何に使っているのかも分かるだろうし」
魔方陣を展開して宙に浮く魔法の絨毯を召喚する。男をゴミのように乗せ、自分も乗るとリヴェリア達も乗り出す。
「そんじゃ、側近の人を連れてくるから―――」
「「私も行く!」」
「私も行く」
奪われたものを取り返す為にと心を一つに魔法の絨毯へ近づく三柱の神々。若干困ったもんだと思いながらも拒絶はせず一緒に行くことに絨毯を動かした。規制されて神座の間へ行けれなかった家臣達は、後にアマテラスの姿がいなくなっていることを知り、城の中は騒然と化し「イザナギとイザナミの【ファミリア】の仕業だぁっ!」と叫びながら捜索をしていることに一誠達は知る由も無かった。
「す、凄いのね最近のオラリオって・・・・・こんな空飛ぶ布を作るなんて」
「俺が作ったんだ。別にオラリオが凄いわけじゃない」
「む、むぅ・・・・・これがあれば私はどこでも逃げられるというのに」
「そうはさせない・・・・・イザナギ、今さら逃げれると思わないで」
イザナギの「お、おい!私だけ降ろしてくれッ!?」という悲鳴を右から左へ素通りの、イザナミの暴走を抑えるリヴェリアを任せてる一誠は目的の村へ急ぐ。緑豊かな山々を何度も越え、風を受けながらしばらくその瞬間を過ごしていると一つの集落が遠目であるが視界に入った。
「あそこか?」
「・・・・・ああ」
男に確認を取って貰い、肯定だと示せば迷いなく集落へ降りていく。木造の壁と藁の屋根が片手では数え切れないほど建てられており田畑、農園、流れる川が見受けれる。
「こんなところに集落が・・・・・?」
「知らないのも当然だろ。ここはお前達の領地の境の間に挟まれた場所で新しく作られた集落みたいだからな」
集落の歴史はそう長くない、と意味を込めて吐露した男は地上に辿り着くや否や勝手に飛び降りてスタスタと歩き始める。その先には集落を囲む柵に門の様に閉じられている扉を守っている門番の二人がいる。その門番達を視界に入れるとお互い違った鎧を着こんで立っている。一誠達も男の後を追うにつれ―――。
「あ、ああああっ!?」
「な、なんでこんなところに・・・・・!」
門番達が神々を見て蒼白する。オラリオから来た一誠達からすれば「なんだ?」と風に不思議がるが、当の神達も不思議がっていた。
「その鎧・・・・・私の眷族の兵の者だな?何故こんな集落にいる説明しろ」
「貴方も、どうして私のところに戻らずここにいる。返答次第では許さない」
特にイザナギとイザナミが己の眷族であると認知して問い詰めた。門番達は悪戯をバレた子供の様に恐れ、逃げ腰になっている。追及するそんな二柱に対し、男が横から溜息を零しながら一言。
「毎回毎回戦争をしてれば嫌気も差すからだろうが」
「「なに?」」
どういうことだ、と言わんばかりに目を向ける男神と女神に呆れたとまた溜息を吐きだす。
「ここの集落は【イザナギ・ファミリア】と【イザナミ・ファミリア】の戦争で敗れた兵、落ち武者や戦争に巻き込まれ、戦災で住みかを追われた住民や孤児ばかりの村だ。この場所に辿りつけた奴は偶然か奇跡的、または風の噂で聞き付け来ない限り世間から見つかることのない場所でもある」
「成程なぁ・・・・・世間にすら認知してない集落だから側近の人をこの場所にいさせたわけか。こりゃ、見つかりっこない」
「そういうことだ。その上この集落は、この二人の神の眷族の戦争で傷つき合って被害に遭った人間が集った彼等彼女等の安息の土地ってわけだ。俺も昔、ここの住民に助けられたことがある」
短く挙手する男に委縮する門番達は扉を開けて一行を集落に迎え入れる。
「(イッセー・・・・・もしかするとであるが)」
「(ああ、多分リリアと同じ考えだ)」
ある予想を浮かべたリヴェリアと一誠。二つの派閥同士の戦は昔から続けられてきている。戦争に明け暮れて終わりが見えない血みどろの戦いに少なからず嫌気もするはずだ。特に戦場で命を落とし損ね負傷、重傷を負った、疲弊しきった心身の兵達は故郷へ帰る力は無く安息の地を求め彷徨うだろう。そうして偶然か奇跡、風の噂で聞いたとある集落へ向かって辿り着き数も増えていく。
「お前、この集落でどのぐらい住んでいる?」
その問いに「四年前からだ」と答える男の足は一ヶ所に集っている家へ向かうその最中。先程の門番以外人の気配を感じないことから「他の住民は?」と素朴な疑問をぶつけた。
「都に行って買い出しや働きにでも行ってるだろ。ここは落ちぶれた人間が集まる場所だ。必要な物は金で買わなきゃ手に入らねぇからな」
「不用心じゃないか?盗賊でも現れたらどうする」
「言っただろ。そこの神達の眷族もこの集落にいるって。余程の人数でもない限り神の眷族達、総勢百人が守ってくれる」
そう言いつつ「この程度の規模の集落なら、五十人ぐらい守衛する奴がいれば十分過ぎる」と付け加えて集落は【イザナギ・ファミリア】、【イザナミ・ファミリア】の眷族達が主に守ってくれているのだと言う。『恩恵』を受けた眷族が一つの集落を守る程度であれば盗賊を退けるぐらいなら問題ない。それが眷族になった者やそうではない者の力の差と違いだ。
「と、そう言う理由でこの集落に留まっている自分の眷族達に対して感想は?イザナギとイザナミ」
「む、むぅ・・・・・」
「・・・・・」
何とも言えない表情で答え辛く、己の眷族達の敗戦や敗者の末路に責め立てる言葉が喉の奥につっかえているようだ。神が毎日の様に戦争を繰り返す理由は真っ当なものではない。天界の頃から続く追いかけっこが下界に降りても続き、眷族達を巻き込んで無駄に犠牲を出しているようなもの。その犠牲者がこの集落に運よく辿り着き集ってできたのだとイザナギとイザナミは教えられた。
「うーん、騙し取られた金品や物資って、ある意味二人の自業自得的な感じがするのは俺だけか?」
「私の【ファミリア】まで巻き込んだのは未だに許せないけれど、元を辿れば二人が原因なのよね」
「「・・・・・」」
二つの【ファミリア】から巻き上げた金品と物資は、かつて戦争で敗れた眷族達の集落に持ち込まれている。そんな彼ら、死んでいたと思われていたが実は生き残っている眷族達の為に使われているのであれば、神として非難はできない。肩身が狭くなった二柱の神と共に集落から少し離れていて得物を持っている二人の住民、かつての眷族達が一軒家の前に立っているところへ一行は辿り着いた。
「うげっ!?しゅ、主神様が何故ここに・・・・・!?」
「ま、まさかオイラ達を連れ戻しに・・・・・!」
門番と似たような反応を狼狽して青褪める眷族達。二度も歓迎されなかった主神の二人は押し黙る。
「・・・・・神に対してそんな反応とか。眷族達が二人に対してどう思っているのか何となく悟ってきたぞ」
「当然だろう。毎度毎度戦わせる身もなって欲しいと思わない方が不思議だ。ラキアも大概だが、極東も極東で似たようなものか」
男が監視の任を解かさせて主神から逃げるように走る眷族達を一同は一瞥し、男を先導に中へ入る。
「―――おい、ババア。お前に客だ」
無礼な物言いで家の中にいる者に言葉を飛ばした。彼女、老婆は部屋の中心でジッと静かに正座をしていた姿勢を崩し、男の方へ顔を向けた時、アマテラスの姿を糸目がちな目に入る視界に飛び込み、眉根を寄せて申し訳なさそうに声を漏らし出した。
「おおお・・・・・我が主神様っ」
「黒井楚・・・・・」
この集落に捕らえられてどれぐらい経っていたか一誠達は知る由もないが、解放された眷族の老婆は主神の前で跪いて謝罪の念を言葉と共に向け、それを受け入れながら安堵の表情で丸めた身体を抱きしめた。一先ず、一件落着でアマテラスの問題は片付かれた。残る問題は―――。
「で、お前はこれからどうする?捕まる気なんてさらさらないんだろ?」
「当然だ。お前はそうするつもりはないだろうがよ」
「俺は旬の食材を求めに来たオラリオの冒険者だ。正式な依頼でもない限り片付いた問題にこれ以上首を突っ込む気は無い」
お前の好きにしろ、と籠めて向けられた目で見つめられる男は怪訝な面持で一誠を見返す。
「・・・・・一つだけ聞かせろ。俺達みたいに別の地球からこの世界に来た人間はいるか」
「ああ、いるぞ。オラリオで五十人以上も冒険者として、元の世界に帰える望みを抱きながら生きている。きっと他にの国々でお前の様に自分勝手にいきているだろうさ」
同類はいる。男は自分だけがこの状況に置かれている存在ではないと悟り、小さく息を零した。
「俺も聞かせてもらおうか。お前をこの世界にトばした神ってなんなんだ。どうして最強の力を与えられるのかもだ」
「俺が知りたい方だ。死んだと思っていたら神と名乗る女が唐突に『貴方で丁度一万目に人助けをして死んだ幸運の人です。これを祝福として特別に貴方の望む物を全て叶え、二度目の人生を与えます』と言いだして訳の分からないまま望んだ力を言った瞬間に穴に落とされて気が付けばこの国にいた」
「・・・・・なんだそりゃ?」
天界にいるヘファイストス達と同じ神々が別の宇宙の地球の人類と干渉してふざけた感覚で、この異世界に召喚でもしたのか?そもそもそんなことが神でもできるのかと疑問を抱くが、逆になんで二度目の人生はともかく、何でも願いを叶える様なチートを与えようとするのか理解に苦しむ。
「・・・・・貴方」
アマテラスが老婆と肩を並んで声を掛け、頭を垂らした。
「貴方が極東に来てくれなかったら今頃、裏切りで都は壊滅させられて奪われていた上に私の側近を助けることもできなかった。貴方は極東の、私の恩人。何かお礼をさせて」
「じゃあ、松茸と筍―――今の時季でしか手に入らない食材を売ってくれ!」
報酬が貰える。その言葉を待っていたかのように左眼を輝かせて望みを乞うた。が、アマテラスは困惑した。それが望みなのかと。
「う、売って欲しいって・・・・・しかもお金じゃなくて食べ物が欲しいの?」
「この男と一緒で俺は別の世界から来た。生まれた場所はここと同じ日本、極東でさ。極東の食材を扱う料理ができるんだ。それをオラリオで個人的に作りたくて極東に来たんだ」
「同じ同名の神々がいるだけじゃなく、極東も存在しているんだ」
「そう。だから極東の神々には興味があったんだけど・・・・・色々と驚かされたよ」
「それは良いことか悪いこと分からないけれど、本当にそんなものでいいの?私の命の恩人なのだからもう少し欲深くても・・・・・」
都と主神、眷族を救ってくれた功績はかなり高いとアマテラスは考える。旬の食材だけ欲してそれ以外は無用だと言い切る少年に、他にはないのかと困惑する。
「・・・・・主神様、少し外へよろしいでしょうか」
「?」
老婆が主神を外へ連れ出す。何か大事な話でもするのかと思いながらアマテラス達から意識を外し、イザナギとイザナミへ意識を向ける。
「で、今度は二人なんだけど。もうこれで懲りたら戦争なんて止めろよな。眷族を殺しているようなもんだぞ」
「だ、だがなっ。イザナミが私を放っておいてくれない限り抵抗しないわけには!」
「・・・・・イザナギを捕まえるまで戦争は続ける」
今回の事件の原因の一端でもある主神達に諭すが、どちらも相手をどうにかしない限り戦いは止められないとのこと。「だからこんな神だからこの集落ができるんだよ」と男がぼやき、呆れ返る。
「・・・・・イッセー、どうするの?」
「んー、どっちか天界に送還して手っ取り早く戦争を終わらせてもいいんだけど、それじゃ根本的に解決したわけじゃないからなぁ」
「そうだな。戦争は二度と起きなくなるが、神同士の問題は解決したわけではあるまい。未だに怨恨が残ったままだ」
「でも、戦わされる人は可哀想だよ」
その通りだ、と首を縦に振る一誠は戦争と戦災を度々起こすこの二柱の神々に困ったものだと眉根を寄せる。これ以上関わるのはよくないと思いつつも、また戦争をしかねないイザナギとイザナミを放っておくこともできない。
「イザナミ、イザナギをどうしたいんだ具体的に。積年の恨みを晴らすって言うが、肉体的にダメージを与えたいのかそれとも精神的にダメージを与えたいのかどっちだ?」
「両方」
間も置かず断言した女神は心の内を明かす。
「・・・・・私がこの醜顔になった時の痛みと、天界にいた頃に他の神の者達から怖がられ、侮蔑や嘲笑を向けられ精神的にも苦しんでいたのに、幼馴染のイザナギだけは私の味方だと思っていたのに・・・・・こいつは他の神と同じように怖がって逃げだした。その時の心の痛みをこいつに思い知らせる」
夫婦以前に幼馴染だったとは・・・・・。一誠は夫婦の関係だったと伝えた時に意外そうな反応した理由を理解した。イザナミの過去を打ち明けられてイザナギは居心地が悪く、居た堪れないと女神から目を逸らす。
「うーん、個人的な意見でイザナギが八割悪いと見た。怖がるのはしょうがないと思うが逃げるのはダメだな」
「「可哀想」」
「「・・・・・」」
一誠とアイズとアリサはイザナギが悪いと判断し、リヴェリアと男は無言であるが二人の判断と似た考えを浮かべていた。しかし、異議ありとイザナギが食って掛かった。
「な、ならばお前達もイザナミの顔を見てまた同じこと言えるのか!」
「と、言ってるから見てもいいか?」
「・・・・・駄目、眷族にすら見させてない。見せられないこの酷い顔はきっと子供も怯える」
首を横に振るイザナミにもう一人の『醜顔』を持つ女神の名を漏らした。
「ヘファイストスの傷も見た」
「えっ・・・?」
「俺は【ヘファイストス・ファミリア】の眷族だ。彼女の昔のことを少しだけ聞くことができてな、その上で強引に『醜顔』を見せてもらったが拍子抜けだった」
一歩近づくと一歩後退したイザナミにさらに近づき、イザナミは近づいてくる一誠から逃げるように後ろへ下がる。
「俺より酷い顔じゃなかったから別に怖くなかった。何せ俺はモンスターだからな。人間や神より綺麗でもなければ美しくも無い、人を怯えさせるだけの恐い顔さ」
とうとう背中は壁とぶつかって逃げ場が無くなった。そして眼の前は己の『醜顔』を晒そうとする者が。迫られ、醜い顔を見られたくないという意思表示を子供の様に体を縮める。無理やり仮面を剥ぎ取られる、とそう思っていたが女神の思いを反して黒髪に触れられた。
「・・・・・?」
恐る恐る顔を上げると、優しい眼差しを向ける強い意志が籠っている青白いを直視した。
「ん、大丈夫。怖がる必要は無い」
青白い長髪に同色の輪っか、青白い六対十二枚の翼を背中から生やしてイザナミを包み込む。仮面の中で目を見開き、神の力を発する目の前の者に驚いている間。あっさりと仮面を顔から剥がされた。
「あ―――ッ」
天界の神以外見せた事が無い女神の素顔が晒された。動揺の声を発したが既に遅く初めて見る彼女の両の眼。そして視界に飛び込んでくる女神の素顔。己より身長の低い、瞳を揺らす彼女をジッと見つめる一誠は、『醜顔』に手を伸ばし、神クラスの癒しの金色の光を帯びたまま温かく包むように添えた。
「俺の世界のイザナミさんも顔に仮面を被ってた。とてもじゃないが俺には見せられない素顔だっていって見せてくれなかったけど、こーいうことか」
―――初めての試みだけが、その傷を治してみせる。
「これ、どういうこと?」
側近と外で話をしていたアマテラスが突然神の力を感じ取って、中に戻ってみれば青白い翼が繭の様に成していた。一体何なのか理解できないが、一誠とイザナミがおらずあの繭の中にいるのかとイザナギに訊ねようと口を開き掛けた時。青白い繭が解かれ、十二枚の翼を生やす、頭上の輪っかや髪、目の色が金色じゃない一誠や、仮面を外されているイザナミが現わす。
「あ、貴方・・・その神聖な力は・・・・・ッ」
「神の力を振るえる程度だ。神になったわけじゃない」
「い、異世界の神の力を・・・・・!?」
ちょっと違うけどなぁ、と思いを過らせるが教えたらまた混乱させてしまいそうなので一先ず肯定も否定もせずイザナミの背中を押す。
「その力で試行錯誤して、何とか彼女の傷を治してみた。意外と治るもんなんだな」
魔方陣の展開して鏡代わりにイザナミに自分の顔を見させた。醜顔は完全に美しく変わり果てて、彼女のことを蔑む神々はもういないだろうと自負する一誠が思うほど以前の彼女では無いのだ。
「イ、イザナミ・・・・・」
「イザナギ・・・・・」
久しく見なかった素顔をイザナギは目を見開く。醜顔になってから仮面を被って見せなかったイザナミ―――。
「―――覚悟、できてる?」
「えっ、はっ!?ま、待てイザナミ!傷が治ったのだから逃げることはしない―――って、その包丁は何なのだ!?ま、待ってっ、待ってくれえええええええっ!」
「ウヒ、ウヒヒヒヒヒッ!」
何時の間にか出刃包丁を持ってイザナギに飛び掛かるイザナミは、仮面を被っているよりも積年の恨みが浮かんだ素顔の方が恐ろしかったと、集落で追いかけっこを始めた光景を見るアマテラス達はそう思わずにはいられず、その気持ちを抱くに禁じ得なかった。
「俺、余計なことしたか・・・・・?」
「何とも言えない・・・・・」
†―――†―――†
その日の夜―――。三つの都を収める三柱の神々が同盟を結ぶ会談を行った。その際、様々な
「最後に【ヘファイストス・ファミリア】のイッセー。前へ」
黒井楚の促しに正装を着こんだアマテラスの眼前に近づき、跪く。神座の間では重臣達やイザナギ、イザナミとその眷族達も集まって成り行きを見守る姿勢を貫いている。
「他派閥の眷族でありながら、貴殿は我等の主神だけでなく都も救ってくれた。この功績を無視して【アマテラス・ファミリア】はこの先も都を栄えることはできない。よって貴殿にはオラリオの冒険者であるが、貴族の称号、【アマテラス・ファミリア】が治める領地の一部と金品を授与する!」
授与式も程なくして終わり、三つの【ファミリア】の同盟に祝して食事会も行われる。あまり歓迎の雰囲気ではなかったが、戦争はもう二度と起きないその安堵感が重臣達から醸し出していた。その中でひっそりと、極東の料理をパクリと食べていた一誠は隣に座っているアマテラスに進言する。
「なぁ、俺は食材が欲しいだけなのにどうして貴族の位と土地まで貰わなきゃならない?極東に住むわけじゃないんだぞ」
「貴方はそれぐらいのことをした。私を守った事実は皆知れ渡っている。何も与えず帰しては私が困る。だけどあれでもまだ足りないぐらいよ」
「部外者に大層な褒美を授与して納得できない眷族や大神に仕える者もいるだろう。それでもか?」
「役人達のことなら気にしなくてもいい。貴方がいなければ都は壊滅、役人達の家も蹂躙されていただろうし寧ろ感謝するべき方よ」
オラリオでは箸を使って食べることはあまりないが、そんなこと知らないアマテラスは綺麗に箸を扱って料理を口の中に運ぶ。女神の食べている様子を横目で見ながら「そうか」と短く相槌を打った。何Mも長大な机を挟んで一誠の目の前に座るリヴェリアとアイズもアリサも極東の料理を静かに食べつつ味わっている。
「貴方の欲しがっている物は後日用意するのだけれど、極東には何時まで滞在するつもりでいる?」
「後四日以内だな。一昨日来て、昨日は買い物で一日を費やして、今日は戦争を止めた。だから残り四日は食材集めに専念するつもり」
と、今日の本来の予定とは違ってしまったが、明日から仕切り直しだと言わんばかりに打ち明ける。
「そう、後四日・・・・・なら、こちらで求めている食材を集めておくから、その貴方・・・・・」
「イッセー、だ」
「えっ?」
「何時までも他人行儀で呼ばれてほしくないもんだ。こうして食事を共にしているんだから名前を呼んでくれたっていいだろ?」
酒は飲めず果実を搾った飲み物をアマテラスに掲げる。最初は何をしたいのかキョトンと呆けたが、少し経ってようやく察した女神は酒が入ったお猪口を手にして掲げる。
「分かったわ、イッセー」
「ん、アマテラス。乾杯」
軽く小突いて小さく音を鳴らす。また一つ、他派閥の主神と交流を交わすことができた一誠は笑みを浮かべ、釣られて笑むアマテラス達の背後に―――もう一人の女神が音も無く近寄ってきた。
「むー・・・・・」
「え、イザナミ。貴女、眷族達と一緒にいたんじゃ?」
「アマテラス、ずるい。私もこの子と仲良くしたい」
後ろから首に腕を回して抱き付くイザナミ。集落であんなに走り回っていたと言うのに体力はまだまだ有り余っている様子で元気だった。猫のようにスリスリと頬を擦り付けるイザナミの顔には仮面を被っていた。
「貴女、彼に顔を治してもらったのにどうして仮面を被ってるの?」
「・・・・・ずっと肌身離さず被っていたものだから、愛着も湧く。それに、いざ外したまま誰かに顔を見られると何故か恥ずかしい。だから、この子の前だけ外すことにした」
ギュッと密着するイザナミは、イザナギを恐ろしい顔で追いかけていたとは思えない懐いた猫のように甘える。
「むーっ!」
「・・・・・むぅ」
膨れっ面で嫉妬心を剥きだしのアイズとアリサ。大事な宝物を奪われた気持ちが芽生えてから普通の少女の様に感情を露わにするようになり、隣人の
「貴方の名前、教えて」
「え?ああ、自己紹介してなかったっけ。【ヘファイストス・ファミリア】の眷族イッセーだ」
「イッセー、イッセー・・・・・オラリオにまだ帰らないなら一緒にいて欲しい」
「えーと、まだ四日も帰らないのは確かだけど、やりたいことがあるからそれはちょっと無理だ」
申し訳なさそうにやんわりと断る一誠だがイザナミは退かない、食いつく。
「じゃあ、一緒に手伝う。そしたら一緒にいられる」
離れる気はないと行動でも示す。「んしょ」と一誠の胡坐の上に腰を下ろして胸に背中を預ける格好で座り出したイザナミ。アマテラスの目が見開く。
「ん、ふふ・・・・・温かい」
幸せそうに口角を緩むイザナミ。こんな彼女は何億年も見たこと無いと信じられないものを見る目で視界に入れ続けていると、アマテラスだけじゃなく一誠やリヴェリアの耳にプチンッと変な音を拾ったその後。食事会に金髪の幼女が風を迸らせ、銀髪の幼女が剣に炎を纏わせて暴れ出したことにより、極東の三大派閥の重臣達の間で、オラリオの冒険者は想像以上に恐ろしい奴だと認識してしまった。
「まさか、アイズ達がキレるとは思いもしなかったな・・・・・」
食事会の後、【アマテラス・ファミリア】の城のとある一室。今夜は泊って欲しいと女神の好意を汲んで、三人は別々に宛てられた部屋で一夜を過ごすことに決めた。
「まぁ、昔のあいつ等と比べれば女の子らしくなってきたって思えば微笑ましいか」
ただ、嫉妬して魔法と剣で暴れるのは止めさせなければいけない。その度にリヴェリアの拳骨が炸裂して更に極東の主神の眷族達がオラリオの冒険者に対して畏怖の念を抱いてしまう。
「(だが、問題はそこじゃない。俺やキリト達以外にも別の世界から来た人間がいる。しかも、神が干渉していたことだ)」
ロキ達はそんなことはできないと言っていた。なら、あの男の望みの能力を与えてこの世界に二度目の人生を与えた神はどこの神だ?どんな理由でそんなことをしたのか会えるものなら会って聞きたい。薄暗い部屋の中、布団の上で仰向けのまま天井を見詰めたまま思考の海に飛び込んでいると静かに眠気が襲ってきた。考えても仕方がない、オラリオに帰ったらキリト達と話し合ってみようと自己完結して瞼を閉じて眠る―――事は叶わなかった。
「・・・・・イッセー、起きてる?」
「うおおおおおおっ!?」
天井の板をずらして覗き込んでくる幽霊、もとい仮面を被っている女神イザナミが静かに話しかけて一誠を驚かせた。どうしてそんなところから入ってくるのか、どうしてアマテラスの城なのに自分の城の様に天井に忍び込むことができたのか気になることが一杯になった。部屋に入ってくるイザナミは天井に向かって「ありがとう」と発すると、天井の屋根が一人でカタカタと動いて元に戻って唖然とその様子を見守っていた一誠は聞いた。
「・・・・・眷族と一緒に来てたのか?」
「情報を集めるのに諜報活動は欠かせない。私の【ファミリア】はアマテラスとイザナギより諜報が長けている」
白い和服を着こんだ姿で一誠の隣にちょこんと座る。
「で、何で普通に通路から来ないんだ?」
「同盟を結んだといっても、直ぐに信用されるわけじゃない。単独で行動すれば怪しまれる」
「天井裏から忍び込んできた方が怪しまれるって」
そうツッコムも「そう?」と首を傾げる女神は天然なのか?と思わせる反応をする。上半身を起こして呆れた風に顔を向ける一誠の前で仮面を外し、素顔を見せる。両の目は赤い眼だ。黒髪に赤眼、どこか幼馴染の武人と元暗殺者の少女を彷彿させる特徴に懐かしみの気持ちが湧いた。床に仮面を置いて暗闇の部屋の中で素顔を晒したイザナミは、四つん這いで近寄る。
「イッセーは不思議。モンスターなのに人の姿をしていると思えば、【
「俺がモンスターで天使になれるのは、ロキとロキの幹部だけが知っている。でも、神の力を振るえることだけはオラリオの神々の誰も、冒険者すら知らない。俺の連れも今日まで知らなかった」
「じゃあ、私達はロキ達よりも知っちゃったんだ。フフフ・・・・・優越感」
暗い部屋の中だから暗い笑みを浮かべているのかもしれないと、そう思い込む一誠は肩を寄せてくるイザナミにイザナギのことを訊ねた。
「もう同盟関係だからイザナギを襲うなよ?」
「・・・・・分かってる。子供達をこれ以上戦わせない約束をしたからには、私もあの男神もアマテラスの様に自分の都を発展させなきゃいけない」
肩を並んで座る時間は短かった。女神は少年の肩を押し姿勢を崩してそのまま体の上に倒れ込んだ。長い黒髪がカーテンのように垂れて一誠の顔を体と一緒に覆い、金眼と赤眼が暗い空間の中で見つめ合う。
「私の顔、今でも醜い?」
「何とか治しておいて醜い筈がないだろ。女神らしく綺麗な顔だよ」
「・・・・・そんなこと言ってくれる神や子供達はいなかった。だから貴方だけ、イッセーだけが私の心を開かせた。だから私は貴方のことが・・・・・好き、大好き、愛しくなった」
「俺はモンスターだぞ。人間でもなければこの世界で生まれた存在じゃない上に、神と人類からすれば天敵だ」
「構わない。私は貴方を受け入れる。ヘファイストスが貴方を受け入れなかったら、私が引き取る。そしたら一緒に暮らして一緒に都を発展と繁栄を築き続け、一緒に心と体を溶け合わせる日を、朝昼晩ずっとずっとずーっと過ごして子供も百人ぐらい作ろう?」
気付いた。このイザナミと言う女神は―――ヤンデレの性格だ。元の世界にいる家族の中には存在しなかった部類の性格の女性。それでも心から自分を好いてくれる女性は一誠にとって突き離さず迎い入れ愛するに値する。
「この世界に来てそこまで熱烈な
「他の女神達の目が腐ってるからイッセーの良さが分からないだけ。でも、逆にそれは私にとって好都合かも」
「や、俺ってばフレイヤやデメテル、ヘファイストスとかアストレアやロキと交流していて、特にフレイヤとデメテル、ヘファイストスが俺を気に入っちゃってるから」
「・・・・・それって秘密を知らないからでしょ?秘密を知ってる私なら貴方のこと愛せるよ」
その証明をここでしてあげる、と言ってはばからないイザナミが和服に手を掛け、一気に脱ごうした気配と別の気配を感じ取って一誠は起き上がりそれを阻止した。それでも胸元が肌蹴てしまって着やせする方なのか、豊満に膨らんだ胸に谷間が見えてしまってる。白い柔肌を覗かせる女神は寂しそうに喋る。
「・・・・・私じゃ嫌なの?」
「いや、横」
意味深に襖の方へ眼を向ける一誠に疑問符を浮かべた。何が?と釣られて視線を追って見ると。
「イザナミ・・・・・勝手に部屋から抜けられると困るのだけれど」
腕を組んで、蒼色の双眸を上から目線でイザナミを睨むアマテラスが寝間着の和服姿で立っていた。一誠が起き上がって服を脱がそうとしなかったのは彼女が来ていたからだと納得できたが、邪魔して欲しくなかったと不満げに目を細めた。
「アマテラス、どうしてイッセーの部屋に?」
「その台詞、そのまま返していい?同盟を組んだ派閥の主神だからって私の城に独断で動かれちゃ他の眷族達が怪しまれる。行動を自重して頂戴。ましてや、イッセーとは話がある約束があってこの部屋に来たに過ぎない」
・・・・・え、そんな約束した覚えは・・・・・。と彼女の言葉に疑問を抱くが女神達の口は閉じることはないまま言い争いにまで発展した。
「私はイッセーに
「イッセーは【ヘファイストス・ファミリア】の眷族よ。貴方がそうしたところで付き合うことはできない」
「ヘファイストスがイッセーはモンスターだと知らない。モンスターだと知って手放すなら話は別」
真正面から首の後ろに腕を回し肌蹴た胸元へ引き寄せて抱きしめるイザナミ。彼女の求愛行動にアマテラスと一誠はここまで今日初めての相手に心を開いたのかと心中驚かされている。
「この子は私の顔を治した。私の閉ざした心をも開いた。誰にでもできなかったことをしてみせた『偉業』。私だけの英雄・・・・・だから、ヘファイストスが何時かこの子の正体を知って、手放した時は私の【ファミリア】が引き取る」
確固たる強い意志が言葉に籠っている。抱き寄せる力も増して、若干呼吸困難に陥る一誠を気付かない二柱の女神の間で何か譲れない勝負をしているかのように火花を散らしている。
「・・・・・折角同盟を結んで極東を共により良く平和にしていけれる仲間と仲良くできそうと思った矢先に、譲れない勝負をすることになるとは思いもしなった」
「アマテラス・・・・・?」
「この子は私の命の恩人。貴方達から都も救ってくれた私の英雄のような者。【アマテラス・ファミリア】の主神と都を守ってあの程度の褒美で私が満足するはずがない。アマテラスの名に懸けて、私は最大の褒美をイッセーに捧げる。その為に私はこの場に来た」
開けっぱなしの襖を閉じたアマテラス。そして、部屋の中でどうなったのかは三人だけの秘密。
†―――†―――†
「み、みつからーんっ!!!!」
翌朝のオラリオ。一誠のワインを勝手に飲んでしまった主犯の一人は千年も熟成したワインを求めオラリオ中に探し回ったが、結果は良くなかった。最悪である。とある最大派閥の主神が鬼気迫る勢いで酒屋に訊ねているという噂が流れても本神はそれどころではない。
「フィ~ン、ガレス~・・・・・どないしよう。千年ものの
「異世界の『太古』の人間達は、その昔から造酒技術があったんじゃろう。しかし、途方も無い永く造って保存していた酒なんぞ、そうそうある筈も無いのが当り前じゃて」
「僕達も彼の
冒険者通りにトボトボと肩を落とす主神を護衛に兼ねて付き添う
「他の連中も何を用意しているんやろう・・・・・」
「自分の力、【ファミリア】の総力を挙げて用意できる物だろうと、予想はできないね」
「神フレイヤは高価な物で間違いないじゃろう。儂等でも手を出せない何かじゃろうがな」
それで許してくれるかどうか分からず、一誠の判断次第だ。なればこそ。
「ロキが一年も禁酒で許されるなら僕はそれに叶えたい」
「同感じゃわい」
「ちょっ、うちから酒を取り上げたら何も残らんわっ!しかも一年は長過ぎやっ!?一ヵ月もしない内に天界に送還してしまうー!」
焦る彼女にとって死活問題な
首まで伸びる柔らかい金髪に、微笑めば異性は思わず蕩けてしまうだろう甘い
「・・・・・ロキ?」
「・・・・・ディオニュソスか?」
ばったりと顔を突き合わせた神同士は、久方ぶりに会って再会に喜ぶこともなく軽く「久しぶり」と声を掛け合った。
「あの噂は本当とはな。何やら上等の
「知るかんなもんっ!こっちは本気で困っているっちゅうにうちを暇潰しのネタに使いおって、神の気も知らん奴は能天気で困るばかり奴ばかりや!」
「はは、それは私も含まれているのか気になるところだが丁度いい。噂の中心の君と出会えたからには聞きたかったところだ。酒好きのロキが特定の
「欲しいもんを探し回るのは当然やろうが。それが無いんやから探しているんや」
「千年も熟成した酒を?流石に世界中から、『太古』の時から時間を掛けて造られた酒を見つけ出したとしても、片手で数えるぐらいか、全く無いに等しいと思うぞ?」
言わなくても分かっている事を改めて指摘されると腹が立つ、とロキは苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべ、男神を睥睨する。
「自分、仮にも『太古』と同じ年月の酒があったとして、それはどのぐらいの価値があるか分かるんなら教えろや」
「ふむ・・・・・私の見立てでよければ・・・・・軽く一億ヴァリスは超えるんじゃないかな」
「い、一億超え・・・・・」
顎に指を添えて、価値を見出すディオニュソスにヒクッ、と頬を引き攣らせた。だから一誠は調理に使う酒でもあんなに憤怒に形相を歪めたのだろうかと、ますます同等の物を探さなければいけなくなったロキ。
「もしかして、君はその誰かの千年ものの
「・・・・・だからなんや」
「―――その味はどうだった?」
その場に居合わせれなかった事を悔みつつ酒好きなロキの舌を信頼して、何気に真剣な表情で問うたディオニュソス。ロキは何を呑気なことを言っとるんや!と言い返したかったが思わずその味を思い出してしまった。
「・・・・・今まで飲んできた酒より別格やったわ。あの酒で作ったビーフシチューの味も、さらに上手くなるとイッセーが―――」
「待てロキ、それ以上言ったら・・・・・」
「ビーフシチュー?イッセー?」
「・・・・・フィン、遅かったようじゃ」
聞き慣れない単語を不思議そうに鸚鵡返しするディオニュソス。ビーフシチューの味と言うからには
「成程・・・・・そういうことか」
「わ、忘れるんやっ!?今うちは何も言っとらん、言ってないったら言ってないんやーっ!?」
最大派閥の主神が脱兎の如く逃げた。その逃げっぷりに二人の眷族は揃って深い溜息を吐き、ディオニュソスと眷族の横を通り過ぎてロキを追いかける、そんな三人に数多の奇異な視線を向ける冒険者や民衆達と一緒に男神達も見送ると。
「イッセーという冒険者を調べるぞ」
「はい」
何かある、そう踏んでギルドに赴き【ヘファイストス・ファミリア】所属のヒューマンであることが分かると二人の足は、再び冒険者通りに戻り、そのメインストリートにある武器店の支店で仕事をしている鍛冶神と面会し、にこやかに笑みを浮かべた顔で乞うた。
「
「・・・・・それ、誰から聞いたの?」
「親切に教えてくれた酒好きの美しい女神さ」
―――ロキね。
ヘファイストスは断言した。そしてまた神が増えて眷族も含めて二人分も作らなきゃいけない羽目になった少年は、朱髪糸目の女神に何時までも睨み続けるだろう。口が軽くて余計なことを言いやがってからに、と未来予知をした。
「「・・・・・イッセー?」」
「いきなり顰めた顔をしてどうした」
「何でだろう、オラリオに戻ったら面倒くさいことが増えているような感がした」
「帰りたくないならまだここにいてもいいわよ」
「うん、居て欲しいかな」
具体的に分からずとも、直感でオラリオから遠く離れている極東の都で買い物中の少年に嫌な予感を覚えさせた程、彼にとって面倒事が増えたのは確かだった。
【アマテラス・ファミリア】の都を巻き込んだ戦争から早三日目。極東に辿り着いてから六日目の朝を迎えた一誠はアマテラスの権力を借りて欲しい食材を根こそぎ掻き集めて、ご満悦の表情で積み重なっている米俵や用意された野菜、魚に抱き付いている。
「大麦、小麦にもち米に米―――穀物、他にも調味料や海の幸の食材がまたこんなに大量に手に入るなんて!しかも欲しかった物も!これだけあればあんな料理やこんな料理が、懐かしい料理が作れるーっ!ふふふ、あははははっ!いよっしゃあああッ!」
「「「「「「本当に心から嬉しそうに喜んでいる・・・・・」」」」」」
極東の三大主神、リヴェリアとアイズとアリサが異口同音で言うほど、一誠は満面の笑みで若干引くほど夢中になって、様々な食材を触れたり抱きしめたりと喜びを体現している。ただ一人、一誠と戦った転生者の男は呆れ顔だった。
「たかが食材で喜ぶかよ普通」
「ふーん・・・・・俺はまだ未成年だから飲めないけど、大麦でビールが作れるのにそれすら喜ばないと?」
「・・・・・(ゴクッ)」
男はこの世界では飲むことができない、懐かしの酒の味を舌で思いだしたようで唾を飲んだ。その反応に満足げな少年は「大人しくしていれば、完成した暁に最初に飲ませてやる」と約束を交わす。
「・・・・・絶対だぞ」
「納得できる酒ができたらな」
それが何時になるか分からないが、作ると言ったからにはとことん納得のいく酒を作るつもりの一誠は微笑する。
「ビールとは?」
「ラガーと同じ酒の一種。大麦の種類と酒造の仕方によって味と喉越しさが変わるんだ。完成するのに時間は掛かるが美味しいぞ。飲んだことないがな」
「何で飲んだことないの?」
「悪酒みたいで、飲んだあとの記憶がないしに絶対飲むなって親から懇願された。というか、それ以前に俺は未成年だから飲めない」
「そうなんだ」
一体何をしでかしたのかこの男は、という気持ちが一つになったところで、腕輪の宝玉が点滅した。操作して通信を繋げてみれば、立体的な影像にヘファイストスの顔が映りだす。どこか不安げに窺う目で口を開いた。
『イッセー、今日あたりに帰ってくる・・・って、アマテラス達も一緒にいたのね。それにイザナギ、イザナミと一緒だなんて・・・・・もしかしてとうとう捕まったのかしら?』
「捕まっておらんっ!同盟を結んだことで開放されたのだっ!」
どういうこと?と疑問を抱いた様子の鍛冶神。極東の神々の事はあまり話題が上がらない為か、知らない冒険者や神は大半もいる。なので、極東で起きた戦争も一部を除いてオラリオに情報が入って来ないのだ。
「オラリオにとってはどーでもいい話だろ。で、今日中に帰ってくるつもりだ」
『そう・・・・・なら貴方に伝えなきゃいけないことができたから言うわね。ビーフシチューを食べたいって男神が私に訪ねてきたの。だからその神に作ってあげれない?』
予想は的中!一体誰が、ビーフシチューを教えたのだろうか。優しい(怒り)笑みを作ってオラリオから連絡してきたヘファイストスに問うた。
「誰が教えたのかな?」
『・・・・・とある神よ』
「わかった―――そっちに帰ったら真っ先にその神の
『ちょっ、待ち―――』と焦りの声が不自然に途絶えた。通信を遮断して音信不通の状態に設定し終えると・・・・・。
「やってくれやがったな、絶対にそいつの神だけは激辛の料理を何時か食わせてやる」
とある神―――としか言ってなかったのに、一誠は頭の中で言い触らした神は誰なのか一気に絞って、優男神と
「はぁ・・・冒険者やめて、店を開こうかな」
「っ!?いやっ、やめちゃ駄目っ・・・!」
「お願いっ!」
足元から切に彼の少年のポツリと零れた言葉は、少女を突き動かした。一緒にダンジョンで強くなりたいと強い憧憬を抱いているが故に、慕っているドラゴンと共に戦えば強くなれるという、ロキにからかわれた『レアスキル』は彼がいなくては発動しない。冒険者を止められては自分の望みと幸せな一時が得られなくなり、それを嫌がるのだった。
「・・・・・お前、ビーフシチューを作れるのか?」
「食材が揃っているなら知らない料理以外は大抵作れると自負できる。なんだ、何か食べたいのあるのか?」
訊ねられた男の目が泳ぎ、逡巡するように押し黙って十数秒後。口を開いた。
「・・・・・牛丼、作れるか」
「トッピングは?」
「玉子と葱、七味唐辛子」
「OK、任せろ。夕食はそれで決まりだな」
数時間後、極東から三柱の神と異世界から転生した名も知らぬ男をオラリオに招くことが決まった。今日中に帰ればヘファイストスも文句は言わまいと時間になるまで城下町を散策する一行。
「さーて、他のところも見て回るぞ」
「ああ」
「「んっ」」
朱色に染まり切る天空。加工された魔石灯に光が発して夜に支配される準備を整い始める。賑やかな大通りは冒険者や一般の民衆達の数が減っていくにつれ、穏やかに静まっていきやがて酒場から漏れる光に吸い寄せられる虫の如く、足を運んで大いに振る舞われる酒と料理を楽しんで今日一日の締めをしようとする。
それは人気のない寂れた廃墟しかない区画に足を運ぶ、片手では数え切れない神と眷族達も同じだった。
「・・・・・ロキ、君達が揃って何もないこの場所に何時も来ているのか?」
「せやで、ほれ、この間ちっとばかし騒ぎになったことがあったやろ。突然出てきた『バベル』の次に高い建造物が」
「ああ、その後また消えたが」
「んー、消えたと言うより隠されたって言った方が適切やなぁー。うちら神でも子供達でも目では見つけれないようにされとるんや」
隠した?一体誰が?新参のディオニュソスは不思議そうに硝子色に似た瞳を周囲にも向ける。主にダンジョンの入り口を塞ぐ役割も担わっているあの
「君達、一体何を持ってきているのだ?」
ディオニュソスの指摘に、何人か体を強張らせた。自分で持ってもいれば眷族に持ってもらっている大なり小なりの手土産のようなものを訊ねた彼以外全員持参して来ている。自分だけが重要なことを教えてもらえずハブられているのか?と勘繰ってしまうが、羽付きの鍔広帽子に指を添えながら苦笑いするヘルメスが答えた。
「オレ達が会う一人の子供に渡すものさ。この前、怒らせちゃったからその謝罪を籠めた
「子供?ビーフシチューを作れる子供のことか?お前達は一体何をしたんだ」
「アハハ、そのビーフシチューを作る為に必要な
「うちだけ悪者扱いすんなヘルメスッ!自分かて『代わりの物を用意すれば怒られないから大丈夫』って言ってやたやろうっ!?己、全部代わりの酒用意できたんやろうな!」
「一本だけ除いて、大枚はたいてなんとかね。で、そういうロキや皆は何を用意したんだい?」
「
『じゅ、十冊・・・・・っ!?』
総額十億は優に超える貴重な本を惜しみなく持ってきた美神に戦慄するロキ達。一冊、【ヘファイストス・ファミリア】の第一級装備品の同等の値段かそれ以上の価値ある本は―――魔法を一つ習得できるという希少価値が高い
「待て待て待て、フレイヤ。一冊で十分やろっ、なに十冊も持ってくる必要あるんやっ」
「あの子の
才能かそれに秘めた者の魂を色として見分けて勧誘、もしくは他派閥から奪うフレイヤを知る神々は、「嫌われたくないから」と言わしめる人間はこの先現れないかもしれないと思いを走らせた。
「フレイヤ様、イッセー君のことまだ夢中なんだね」
「ええ、あの子は私を夢中にさせてくれる素敵なものを持ってるものだから」
艶やかに色気を振り撒く美神は熱く潤う瞳で微笑んだ。そう、絶対に忘れるなど有り得ない魂の風景と景色。そして一人一つしかない筈の魂は、あの少年の中に多種多彩の魂が宿っていた。それだけでも十分自分を好奇心と興味を抱かせると言うのに、色ではなく景色を見せられては無視はできない。
「(ああ・・・・・あの子を抱きしめて、あの子の温もりを感じたい・・・・・っ)」
あわよくば、天使の姿でそうされたいと恋い焦がれる乙女の様に・・・・・。
「ふ、ふふっ、ふふふっ、ふふふふっ・・・・・!」
見えない扉が皆を迎え入れる為に開いている間、乙女を行き過ぎて不気味に笑う(神から見れば)怪しい神者になりかけていた。
同時刻。敷地内に神々と眷族達が侵入してきたことを察知しながら、興味深々や好奇心の視線に寄せられる最中の一誠。
何時も通り、料理を作っているのは一人―――ではなく、
「くぅっ~!まさか、松茸が食べられるなんて夢じゃねぇよなキリの字ッ!」
「夢だったら儚いよクライン。これは
「大きさや重さによって一本万単位もする高級食材をよくもまぁ集めてきたな」
「こら男共っ、自分達の仕事を集中しなさいよ。料理を作るのジャマジャマ」
「う~ん、松茸って良い香りがするよ~。初めて食べるからドキドキしちゃうっ」
「はい、私もです!松茸じゃなく栗ご飯も食べられますしね!」
「アスナ、味見してくれる?」
「いいよ。・・・うん、バッチリ。イッセー君の調理場は色んな調味料が豊富だから色んな物が作れちゃうなぁ~、羨ましい」
別世界からやってきた【アルテミス・ファミリア】の眷族、キリト達(女性陣)も共に夕餉の準備をしていた。極東の食材を集めたから、手伝ってくれるなら食べさせてやる。と一誠からの提案に、松茸や筍を見せびらかされた彼等は開口一番に「手伝うッ!」と乗ったのだった。極東の食材、所謂
「米俵一俵以上も初日から使う羽目になるとはなぁ・・・・・」
「迷惑だった?」
「いや、迷惑だったら呼んでも無い」
「ふふっ、ありがとうイッセー君」
『幽玄の白天城』の敷地内にて、キャンプをしに来た一団が見せる風景を醸し出している一誠達を邪魔しないように遠くから見守る主神や極東の神々。料理が出来上がるまで昔話を語っている様子を一瞥し、暗闇に包まれる自然豊かな森を照らすダンジョンの発光する
「よ、よぉ・・・イッセー、久しぶりやな・・・・・」
「・・・・・呼んだ覚えのない奴等がいるな。それとも、もうあの件を忘れた能天気な連中だったか?」
鋭く睨み付けるてくるドラゴンの怒のオーラが陽炎のようにゆらりと赤く醸し出した。辛辣な言葉で迎えられた神々と眷族達は主にビクッと委縮して、ここで許してもらえなければずっと不穏な態度で接せられる不安を胸に抱きながら、各々と持ってきた手土産を突き出す。
「・・・・・なに?」
「勝手に飲んで悪かったよイッセー君。これはオレ達が謝罪の念を込めて選り抜きで持ってきた品々だ。これが君の酒の代わりになるとは思ってもないけれど、何時までもこのままじゃいけないってだけは思っているんだ。君もそう思っているだろ?」
皆の心を代弁して語るヘルメス。怪訝な目で耳を傾ける少年へ朗らかな笑みを固めて寄り、アスフィから数本の
「あの千年ものの
「・・・・・」
籠から一つ一つ取り出して確認する眼差しで向けていき、無言で優男神を意味深に視線を送る。内心、冷や冷やしているヘルメスは何か言ってくれないかな~と居た堪れない気分と冷や汗が笑みで固めた顔の裏に浮かんでいた。
「―――二度目は無いぞ」
「あ、ああ、うん。勿論だ。このヘルメス、二度と同じ過ちはしないと誓うよ」
「したら天界に連れてってもらうからな?」
警告の言葉を零した後。暗に、地上から送還するぞと言われたことに察し、引き攣る頬と乾いた笑みを発するしかできないヘルメスの横を通り過ぎ、ロキ達からも受け取りに行った。
「・・・・・首の皮一枚、ってところで仲直りできて良かったですねヘルメス様」
「下級冒険者の子供の筈なのに、嫌でもそうとは思えない立ち振る舞い、言動と存在感を放つからオレだけじゃなく他の神連中も対等の立場で接しちゃうんだ。不思議な力だ。フレイヤ様のような魅了を持っても無いのに放っておけない魅力を感じてしょうがない」
だからだろう、極東の神々まで集めてこの場で食事会を開こうとしているのは。ただの一人の冒険者が神も巻き込んでこうして集わせるのは今まであったことがない。
「・・・・・これも英雄の器に必要な素質なのか?・・・・・ゼウスよ」
「うんんんまあああああああいっ!」
食事会はロキの絶賛の言葉を皮切りに始まった。極東の食材を主に作った料理は、食べた事のない神々や眷族からすれば、未知の味に等しい。ほかほかに炊きあがった米の中に交ざった松茸や筍、栗の炊き込みご飯。調味料を掛けたり足したりして素焼きにした魚介類、お吸い物や穀物で作った
「ほれ、牛丼だ。お代りもあるから残さず食べろよ」
「数年振りの牛丼っ・・・・・!」
獣肉と玉ねぎを甘く炒めつつ煮込んだご飯と合う一品が男の前に置かれる。歓喜と感動で目が揺れ、素早く一緒に用意されたトッピングに手を伸ばし、丼ぶりの中へ投入すると行儀が悪いと言われてもしょうがない、ガツガツと懐かしの味を口の中で一杯堪能しながら掻き込んでいく。
「・・・のう、イッセー。あの男が食べておるモノ、儂も食べて良いか?」
「駄目、あいつ専用のだからまた今度。ガレスはこっちの肉うどんを食え」
「む、肉うどんとは聞いたこのとない料理じゃな。おお、白い麺の他にも肉が入っておるわい」
幸せそうで美味そうに顔を綻ぶ男を見て興味が湧いたガレスは、メインの炊き込みご飯以外にも作って用意した極東の料理を突きだされ意識はそっちに向く。冷やし中華の冷たい液と似たようなものが今度は温かくされ、長くて子供の指と同じぐらい太さの白い麺や煮込まれている肉と葱、卵が入ってる底が深い器の中を覗きこみながら鼻腔の中に嗅いだことが無い香りをまず味わい、そして口に肉と一緒に麺を一口食べた。
直接地面に座って食べるか、立って食べているかで夕餉の時間を過ごす一同とは違い、設けられたテーブルと椅子の一つを占領して、ずっとこの瞬間を望んでやまなかったビーフシチューを前にフレイヤは香りを嗅いだだけで恍惚とした表情で熱い吐息を零した。皿から芳醇な香りが立ち昇るその料理、美神を陶酔させる程の魅惑的何かが詰まっている。問題の味の方はどうなのだろうか?女神の銀髪の美しさを前にして劣る銀色の匙でスープを掬い上げ・・・・・一口。口の中に広がるのは、濃厚な、肉と野菜の旨みが凝縮されたスープ。
さらに美神を虜にしたビーフシチューを食べてみたのちの世、
顔を輝かさせ、林檎パイを小動物の様に頬を膨らませながら夢中で食べるちっちゃくなった一誠の臀部辺り、九つの尾が嬉しそうに振ってるそんな彼をホッコリと穏やかな気持ちを抱く神々や眷族等がいた。ちゃっかり、揺れる毛並みが良く温かな尻尾の傍に居座って当たる度、くすぐったそうに顔を綻ばす金髪金眼の幼女や好奇心で尾を触ってみる極東の神、ビーフシチューを食べながら恍惚の表情で眺める美神。
新参の神と眷族にとって忘れられない一時はまだまだ始まったばかりだ。
多くの他派閥が一堂に集まるオラリオはまた寒い季節を迎えるのであった。