ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか   作:ダーク・シリウス

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冒険譚21

【ガネーシャ・ファミリア】が身柄を拘束し、数日に渡って事情聴取・尋問を受けた異邦人等ヒーロー組から様々な情報を得た。聴取に関わったガネーシャやシャクティは、やはり信じられない気持と驚きで胸がいっぱいになる。

 

「・・・・・異世界から来た者達とは。ガネーシャ、神のあなたは異世界の存在は認知していたのか」

 

「ガネーシャ、全然知らない。だが、あの子達の言葉に嘘はない。事実だけを述べているぞシャクティ」

 

全員の尋問を終えて休憩中のシャクティの胸の内は戸惑いの色で渦巻いている。ガネーシャは神として少年少女達が必死に身の潔白を訴えているのを重く考えている様子で腕を組み、眷族にそう言い返す。

 

「あの子達だけではない。アルテミスの眷族全員が異世界から来ていたとは、ガネーシャ超驚きだ」

 

「では、あの話も事実だと言うのか」

 

事情聴取をしている際、他にお前達のような存在はいるのかと尋ねた時。何人も同じ人物の名を告げたのである。

 

―――兵藤一誠、この世界じゃイッセーって名乗っているあいつも異世界から来たやつだ。

 

―――兵藤はただの人間じゃないんだよ!外見は人間に見えても実際は人間じゃなくてドラゴンなんだぜ!

 

「・・・・・」

 

シャクティの言いたいことを察し、静かに頷いた。

 

「本当だ」

 

「・・・・・そうか」

 

何故だか一誠の秘密を知っても動揺していない自分が不思議で堪らなかった。ガネーシャが度々ごちそうを食べに足を運び、愚痴を漏らしながらも食事を用意してくれる姿を何度も見てきたからなのか、とても人の皮を被ったモンスターの様には全然見えないからか?

 

「ヘファイストスの子供の話しを聞いても嘘か本当なのか分からないでいる時があった。下界の子供ならば俺達神々の前では嘘を言えないのに不思議だと思っていた。それがあの子達の話しを聞いて不思議と言う謎がスッキリするほど解消した」

 

「モンスターだから、か、ガネーシャ」

 

「うむ。ガネーシャもそう思う。だから不思議だ。ヘファイストスの子供は俺達神々と人類を欺いていながら、今日まで大人しくしている理由は何なのか気になってしょうがない」

 

主神の発した言葉にシャクティは達観した風に悟った。

 

「確かめに行くのか」

 

「勿論!人とモンスターの融和を築ける機会かもしれないからな!」

 

こうなった主神(ガネーシャ)はもう誰にも止められない。警戒は怠らないが、異世界から来たモンスター・・・どれほどの力を持っているのか、自分達やこの世界の敵になり得るか確かに確かめに行かねばならない事は理解する。

 

「異世界から来た者達の扱いはどうする」

 

「無罪放免!解放してよし!ただし、夜中でな!」

 

「・・・・・団員達を納得させる理由と説得はするのだぞ」

 

「任せろ!」

 

親指を立ててサムズアップ、二カッと笑って輝く綺麗な白い歯を見せて言う主神に溜息を吐く麗人の団長。それから迅速な行動でヘファイストスの下へ訊ね、『幽玄の白天城』に入れるよう許可を貰ってから一誠の家にあがった。

 

「神ガネーシャと【象神の杖(アンクーシャ)】がくるそうだな」

 

「聞いてたか」

 

「あれだけ声が大きければ聞かまいとしても嫌でも聞こえる」

 

魔道具(マジックアイテム)製作工房で何かを作りに掛っている城の主を左右から、斜め後ろから眺め幼女達は興味津々な目で組み立てられる黒い物体を見ながらハイエルフの話しを耳にする。そして好奇心で訊ねた。

 

「イッセー、これはなに?」

 

「魔法を放つ飛び道具を作っている。遠くからでも無詠唱で魔法攻撃ができるようにな」

 

「???」

 

どんな道具が出来て魔法攻撃ができるのか想像(イメージ)が浮かべられないアイズの頭上に疑問符がたくさん浮かぶ。分かりやすく教えようと一誠は指を鉄砲に見立てて構え、指先から魔力を集束させ壁に向かって放った。

 

「今の見た感じを道具でもできるように作ってる」

 

「それならそんな道具を作らずともイッセーならばできるのだろう?」

 

「俺じゃなくて他の皆が出来るようにするんだよ。回復魔法が無い冒険者がもしも使えるとしたら大助かりだろ?魔剣のように放てる数は限りあるけど、様々な魔法効果を付与する攻撃もこれでできるとしたらかなり便利だと俺は思うな」

 

ガチャンと組み終えたそれはL字が横にして作られた漆黒で鉄製のものだった。もしもこれをキリト達に見せたら弓使いのシノンが真っ先に反応する代物―――銃である。が、リヴェリア達からすれば変わった形の道具だと認識する。これで魔法を放つ事が出来るのか?と疑問視をする彼女達にある物の存在を見せつける。先が尖って楕円形の形をした多種多彩な色の小さな物が机の引き出しから無造作に取り出された。

 

「これは精製した魔法石に魔法を籠めた弾丸だ。これを媒体にして魔法が発動する仕組みになっている」

 

「それが、今さっき見せてくれたようになるのか」

 

「そう言うこと。でも、これは命中精度が求められるから外したら無駄撃ちになる。弾も数に限りがあるから打つ時は気をつけなきゃ駄目だし、弾の装填をする時だって無防備になる」

 

使いどころが試される物を作ったそれは果たして戦闘に役立つか、使い手次第。実際にそれを見る時は―――案外遠くなかった。それは何時になるか分からないが、立ち上がる一誠が使う姿を見てみたいのも事実。

 

「来たな」

 

 

来訪者ガネーシャとシャクティをリビングキッチンに招きながら挨拶を交わす。昼食前に来たのでまだ料理を作らない一誠は用件を訊ねた。麗人の表情が何時になく真剣で、真意を追究するように何かを探る目付きをしていた。―――もしや、と心中ある予想をして先に質問をした。

 

「【アルテミス・ファミリア】の団員達から何か聞けたようだな。言っておくが俺はあいつらとは無関係だ」

 

「無関係とは思えない程、お前の事を詳しく教えてくれた。それがすべて嘘だと言いたいのか?」

 

「ああ、あいつらは俺と別の男と被せているだけなんだよ。だからあいつらが俺の事を何を知っていようと親しい感じでいようと俺は―――」

 

シャクティは一誠の話しを遮る。リヴェリア達の目を見開かせるとんでもない言葉を口にして。

 

「人の皮を被った、異世界から来たドラゴン・・・・・兵藤一誠と言う名前が真名なのだろ」

 

「「「っ!?」」」

 

「・・・・・ガネーシャ」

 

「すまないがロキの子供達よ。事実なのだな?」

 

神にまで口に出され、一誠の秘密を明かしていいのかまだ幼いアイズとアリサは思わず少年の方へ視線で乞うてしまった。沈黙を貫くリヴェリアもシャクティに肯定として受け取られ「そうなのだな」と認めさせてしまった。

 

「イッセー、いや・・・・・兵藤一誠と呼ぼうか。どうしてモンスターが人の姿でいられ、私達に襲いかからないでいた?何か理由でもあるのか?それとも・・・・・私達を懐柔してから襲うつもりだったのか?」

 

「ヘファイストスの子供よ、どうか質問に答えてほしい」

 

返事を、返答を求める二人を見続けきっと胸の内は穏やかではないかもしれない一誠を見つめるハイエルフと幼女達は成り行きを見守るしかできない。場合によっては自分達も介入する態勢をして。

 

「・・・・・」

 

静寂を保ってしばらく経った。一誠の上半身が倒れてテーブルにゴンと頭をぶつけながらうつ伏せになる。奇異な視線を感じながらも深い溜息、「はぁ・・・・・」と諦観と達観、嘆息が籠った声を吐露した途端。

 

「あいつらの誰かが俺まで告げ口したのか・・・・・最悪、最悪だ。口止めしとけばよかったな。こうも簡単に俺の秘密が知らないところで明るみになるなんて・・・・・面倒事にならないよう隠し続けてきたのに人の苦労も知らないのかよあいつら・・・・・ああぁ~・・・・・もう・・・・・」

 

ゴリゴリと首だけ動かして憂鬱気に愚痴を零し始める。こんな一誠見た事もないと若干引いてしまう五人。心なしか暗くなってはいまいか?

 

「・・・・・本当なのだな。人の皮を被っていると言うのは」

 

「・・・・・はぁ、ああ・・・・・そうだよ、そうだからなに?何か不都合なのかお前等にとって」

 

「さっきの質問に答えてくれ」

 

ぴたりと動きを止めてゆっくりと顔を上げて見える表情は面倒極まりないとしかめっ面だった。

 

「俺はモンスターだぞ。真偽を断定できないガネーシャが俺の嘘を見抜けると思えないな」

 

「少なくとも私はお前の事を信用している」

 

「モンスターだと知る以前の事だろそれって。その目、まるで俺の正体を教えたリヴェリア達みたいだ」

 

「・・・・・【ロキ・ファミリア】も知っていたのだな」

 

三人にも目を向ける麗人にハイエルフは首肯する。

 

「ああ、この世界のモンスターではないからな。こちらから手を出さない限りは無害なモンスターだ。それどころか私達に対して有益にもなっている。できればまた【ファミリア】に戻って来てほしいぐらいにな」

 

「正気なのか・・・・・?バレたらこの都市に居場所がなくなるぞ」

 

「ギルドが最大派閥をオラリオから追放するとでも?仮に【ファミリア】が解散になろうとロキとフィンにガレス、この場にいる私達だけいれば問題ない。イッセーの実力は【猛者(おうじゃ)】を凌駕する力を持っているのだからな。深層、未到達領域なぞあっさり踏破することも容易い。寧ろイッセーの存在はギルドにとっても有益であることだと思うがな」

 

「「んっ」」

 

一誠を絶賛するリヴェリアに「その通りだ」と頷くアイズとアリサに目を丸くし、信じられないとシャクティは一誠に視線を向ける。

 

「【猛者(おうじゃ)】を凌駕するモンスターだと?」

 

「俺からも少し訂正と補正させてもらうけどよ。俺はモンスターに転生した元人間だからな?それとシャクティの質問に答えるなら、襲う理由がないからだ。敵対することも敵視することがなければ意味のない事はしない主義なんだよ」

 

「も、元人間?モンスターに転生・・・・・?」

 

「なんだ、あいつらはそこまで言ってなかったのかよ。説明不足で俺を疑わせる言い方をしやがって迷惑な事だな」

 

本当にその話は聞いていなかったようで大きく口を開けて驚いて固まるガネーシャに言葉を失うシャクティ。

 

「ガネーシャ・・・・・超驚き」

 

「付け加えて言うぞ。俺がこの世界に来る前、元々住んでいた世界はロキやヘファイストス、ガネーシャと同じ名前を持つ神々がいる世界だった」

 

「な、なんだとおおおおおおおおおッ!?」

 

椅子を倒す勢いで立ち上がった男神。ロキもこの話題で食いついてきたが、ガネーシャもロキ以上に食いついた。興奮のあまり、行儀悪くテーブルに乗り出して一誠の前まで四つん這いで近づく。

 

「異世界のガネーシャはどんなガネーシャ!?」

 

「【群衆の主】って見た目が象の神様だ。格好は・・・・・まあ、似てる方だな」

 

それとテーブルに乗るな。と意味を籠めてガネーシャの額にデコピンして吹き飛ばし、「どはっ!?」床に落とす一誠の挙動を目の当たりにしても誰も男神を心配する者はいなかった。

 

「で、理由を教えたがどうなんだ感想は」

 

麗人はこれまでの言動を考慮し、考え・・・考え・・・悩み、答えた。

 

「まだ半信半疑だ」

 

「当然のことだな」

 

「だが、お前の作る料理は私が知るモンスターでは作れないのも確かだ」

 

「元人間だから作れるんでね」

 

「お前を討伐しようとしたら、逆にこちらが滅ぼされかねないのか?」

 

「いんや、オラリオから出て行く。それで安心するだろ?」

 

「・・・・・モンスターになれるか?」

 

お安い御用だと、立ち上がり人の形を崩してガネーシャとシャクティの前で真紅の龍となってみせた。眼前で本性を露わにするドラゴンに驚愕しつつ椅子から腰を上げ、一誠に近づく。姿はもはやモンスターそのもの。ジッと大人しくしている姿でも警戒してスッと腕を伸ばし、異形の腕に触れてみた。生気を感じさせる温もりが手の平に伝わり、もう片方の手も異世界のドラゴンの体を確かめるように触れ始める。

 

「本当に、竜そのものなのだな。ここまでモンスターの体に触れる事が出来たのは初めてだ」

 

「そりゃ俺しかできないだろ。というか、お前よりガネーシャの方がよっぽど触って来ているんだけど」

 

その言葉に顔を上げた麗人の目には、何時の間にかドラゴンの背に乗っているガネーシャの姿。もう少し警戒と躊躇をしてほしいと心から言いたいところだが、この男神に何を言ってもダメであることを悟ってしまう。

 

「・・・・・少し飛ぶ。乗れシャクティ」

 

「は?」

 

ガネーシャを背に載せたままリビングキッチンを後にしようと扉に手を掛けて開ける一誠に唖然と見つめる。一拍ののちに慌てて追いかけて―――玄関の扉の間から外へ出て翼を羽ばたかせたドラゴンが宙に浮きだすところを、全力で乗った直後に敷地内を勢いよく飛翔する。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!」

 

「―――ッ!?」

 

背中から振り落とされないようにしているのか、それとも落とさないよう、なにかしているのか分からないが巨大な森の中をスイスイと敷地内を何週も飛び続けた。モンスターの背中に乗って飛ぶ事になるなど冒険者として、一人の人間として絶対にない事だと思っていた麗人は、この日を持って常識を覆された一人になった。

 

「―――とまぁ、こんな感じで体験してみたがどうだった?」

 

「超・最・高!」

 

「・・・・・驚かされた」

 

「ん、ありがとう。これで俺は無害なドラゴンだってわかってくれて嬉しい限りだ」

 

ホームへ戻る二人を見送り、今回の件は他の皆に内緒と言うことで約束してくれた。

 

「ヘファイストスの子供よ。これからもこのガネーシャと仲良くしてくれ!そして次の【改宗(コンバージョン)】は是非とも【ガネーシャ・ファミリア】で!」

 

「俺自身がそれを決めるわけじゃないんだが・・・・・ま、そうなったらよろしくな」

 

「そうなればお前の事をもっと知ることができるのだな・・・・・少し不安だが、お前の事を良く知れる機会だと思う」

 

「お互いに、な。あ、あいつらを解放してくれると助かる」

 

勿論今夜そうするつもりだと、ガネーシャが不思議な姿勢(ポーズ)をしてからシャクティを引き連れて去って行った。

 

「よかったなイッセー。あの二人に受け入れられて」

 

「まだ全面的に信用と信頼されているわけじゃないだろうけど、取り敢えずは安心できた」

 

安堵で撫で下ろす気分に浸る暇もなくホームの中へと戻りながら扉を閉める。

 

「―――まだ不安の種は残っているがな」

 

【アルテミス・ファミリア】の異邦人達が簡単に一誠の秘密を明かしたことに杞憂しているのだろうか。一瞬だけ厳しい顔と目となった少年を横から窺え、寄り添うように隣を歩く。

 

「できる限りの事を尽くしてお前を守ってみせる。ロキとフィンに頼み込んでな」

 

「ロキはどうでもいいけどフィンに申し訳ないって」

 

「お前には大きな貸しと恩がある。それを返せないようではあいつの野望以前に【勇者(ブレイバー)】の二つ名が廃るだろうさ」

 

そうか、と相槌を打つと「ああ」と返される。真紅と翡翠の長髪を背中に流しながら歩く二人を出迎える金と銀の幼い少女達を見て自然と微笑んでしまう。―――そしてその日の夜。深夜になってようやく解放された異邦人達もキリト達の下へ帰って来られ人安心し、手渡される装飾品を見て異形の異邦人達も別の意味で不安が解消され次の日から堂々と街中を歩けれるようになったのであった。だが・・・・・少なからず知らずの内に一誠の反惑を買ってしまったのは知る由もなかった。

 

「(だが、それは建前だ。一人の女として愛しい男のために守りたいのだ。イッセー、愛するお前をな)」

 

†―――†―――†

 

「イッセー、クリスマスするでー!」

 

話しは唐突に始まる。気温が急激に下がり吐く息が真っ白、肌に突きささる冷たい空気、体の芯まで凍えそうになる季節、冬になって半月がたった頃・・・・・ダンジョンから戻ってきた一行にロキが出迎えながら開口一番で一誠にそう話しかけた。

 

「クリスマス?この世界にもそんな催しの概念があるんだな」

 

「ほー、異世界にもクリスマスが流行っておるんやなー?」

 

「で?本音は俺の料理なんだろ?特にこの季節しか作れない様な酒のつまみになるやつ」

 

「うちの気持ちを分かってくれるイッセーは大好きや!当然、あるんやろぉ~?」

 

なくはないが、神聖なイベントを建前にして不純な動機で作るのは些か気が滅入る。

 

「そんな暇ないだろ。闇派閥(イルヴィス)がまだ街のどこかで潜んでいるだろうし、その抗争で住民が被害に遭って恐怖で怯えたり住む家を失くして路上に彷徨っている人間もいるんだ。そっちの対策を優先するべきだろ」

 

「うぐっ・・・・・」

 

「それにロキのホームもまだ崩壊したままだ。団員達が寒い中復興作業をしているのに主神だけ楽しい思いをしていいわけ?」

 

反省した様子で縮こまる最大派閥の主神に溜息を吐くリヴェリア。「ということで却下」とトドメの言葉で刺してホームの中に入る一誠から離れ、アリサがロキに乞うた。

 

「【ステイタス】の更新して」

 

 

アリサ・イリーニチア・アミエーラ

 

Lv.2

 

力:C623→630

 

耐久:D502→511

 

器用:E432→437

 

敏捷:E421→425

 

魔力:I0

 

 

「・・・・・」

 

『力』アビリティをCにしなければならない条件は達していた。あの剣を振るえるようになった喜びは今も覚えている半面、今の【ステイタス】の結果を写した羊皮紙に厳しい目付きで「(低過ぎるっ・・・・)」と焦燥に似た何とも言えない気持ちを抱き、『基本アビリティ』の数値、すなわち熟練度の限界値(カウンターストップ)は999。これが種族としてのアリサの上限。【ロキ・ファミリア】に入団してちょうど三年を迎えようとしている冬。アリサは、壁に直面していた。そんな中でロキが今気付いた風に声を出した。

 

「そうそうアリサたん。初のスキルが発現したで?」

 

「え、スキル?」

 

 

【異龍一途】

 

・早熟する。

 

・懸想が続く限り効果持続。

 

・結ばれ相思相愛の丈によりさらに効果向上。

 

 

銀目が固まるアリサを見てスキルの内容がアレな故にロキは、内心複雑であるも、変態親父(セクハラおやじ)のような相貌を崩した笑みを浮かべる。新しいおもちゃを手に入れた子供のように全力で淡い恋心を暴露された幼女をからかうために。

 

「アリサた~ん、こ~んなスキルが発現するほどイッセーのこと好きなんやなぁ~?」

 

「っ!?っ!?」

 

「あ、待って。恥ずかしいからってうちを殴ろうとせんといてやっ!?」

 

ぎゃああああっ!という悲鳴が防音が整っている部屋から表で待っているアイズの耳に間まで漏れる事はなかった。

 

「こ、これは・・・・・」

 

「?」

 

 

【禁断の憧憬一途】

 

・早熟する。

 

・懸想が続く限り効果持続。

 

・人の道から外れ禁忌を犯し続ける限り効果持続。また懸想の丈により効果向上。

 

 

「(これは絶対に表に出しちゃいかんやつやっ!?)」

 

速攻でそう思わずにはいられなかった。モンスター、とりわけ半人半蛇(ラミア)など人型の異形種に怪物に欲情する以上性癖である『怪物趣味』。人類側では最大級の蔑称とされ、忌避されている。つまりこのスキル【禁断の憧憬一途】は―――人が怪物に恋した意味を表しているのだ。アイズが一誠に人として間違っている恋をしている。スキルに発現するほど、一誠を好きになっているアイズ。しかし幸い少女は二つ目のスキルの事をまだ気づいていない。ならば、彼女が墓に入るまでこの禁忌すべきスキルの事は隠し通す必要がある。フィン達にも語る事は許されない自分だけが抱えるべき幼女の秘密を。

 

「どうしたの?」

 

「い、いや何でもあらへんで?ただアイズたんのアビリティが目を見張るほど凄く成長しているから驚いただけや」

 

嘘は言っていない。実際に【ステータス】を写した羊皮紙に―――二つ目のスキルを消去して見せつけると、アイズは驚きと歓喜の色を顔に浮かべ急いで服を着だす。一誠に結果を報告したいのか嬉しそうに部屋から飛び出していく様を、とんでもないスキルが発現しなかったら素直に喜べたロキだった。

 

「はぁ・・・・・この調子じゃ他の子供もアイズたんみたいなとんでもないスキルを発現しそうやで」

 

 

 

「・・・・・むぅ」

 

冷蔵庫の扉を開けっぱなしで中身を食い入るように見つめている一誠がいた。困った様に眉根を寄せて、食事を作る前に足りない食材を記していくとますます眉間に皺が寄る一方だった。

 

「参ったな・・・・・この世界じゃ手に入らない食材と調味料ばかり予想以上早く底が尽きかけている。ロキんとこの女性団員達が来て一気に減りが加速したか。まぁ、明日はあの日だから手に入らない物や無くなり掛けた物を中心に、前以ってアノ代価として頼んで用意してもらってるから大丈夫だけど・・・・・」

 

「―――あの日って何?」

 

む?と横に視線を向ける視界に小さな小女達が立っていた。「どした?」と訊いてみると相手は「プリン」と短く答えた。冷蔵庫の前に突っ立っている一誠はそのデザートを取り出して手渡す。

 

「イッセー、あの日って何?」

 

「まぁ・・・・・一言で言えば食材を調達する日の事だよ。一ヶ月に一度だけしか頼めれない貴重な日だ」

 

「食材?お店じゃ買えない物?」

 

「そうだな。特に異世界でしか手に入らない食材と調味料ばかりだ。アイズ達の好きな料理もそれに含まれてる。それらが無くなると流石に俺も作れなくなる。嫌だろ?」

 

うん、と心から頷いた。もしかしたらプリンを作る為に必要な食材と調味料が含まれているかもしれない。それが無くて作れなくなると思うと、二度と食べれない寂しさと残念さで軽くショックを受けること間違いなしだ。そう思いながら、焦げ茶色のソースごと卵色をしたプリンをスプーンで沈めつつ掬い取ってパクっと甘さと仄かな苦みを楽しむ。

 

「それってどこにあるの?」

 

「うーん・・・・・どうせ信じてくれないだろうから言わない」

 

「信じるっ」

 

「いや、信じてくれなかっただろ。―――月に食堂があるって話をした時にさ」

 

翌朝―――。アイズとアリサは自然体で動く一誠をずっと見続けていつ月へ向かうのか観察したが、意外とあっさり皆の前で出掛けると告げたので行動に移った。あの空の果てにある月までどうやって行くのか何となく想像できるが、この機を逃してなるものかと二人は皆の前でそう言った。

 

「イッセー、月に行くの。私も行く」

 

「連れてって」

 

「・・・・・お、お前等」

 

皆の前でどうしてそれを言うんだ。―――ほら、何かあると好奇心と興味津々で目を向けたり意味深に笑みを浮かべたりしている連中がいるじゃないか。

 

「イッセー?自分、うちらに内緒でどこか楽しいところに行こうとしているんのかぁ~?」

 

「私に隠れて何をしようとしているのかしらね?」

 

「是非とも根掘り葉掘り教えてもらおうじゃない」

 

三柱の女神達が追究しながら眷族に指示を出して取り囲ませる。このままでは本当に質問攻めを受けて『間に合わなくなる』。それだけは絶対にあってはならない。

 

「・・・・・リリア、アイズ、アリサ―――アリシアだけ連れてく。いいな、文句は言わせない。こっちも時間通りに行かないといけないんだ。だからこれ以上俺をこの場に留まらせる気ならば、二度とお前等に料理を作らないしこの城から追い出すぞ。別に俺は遊び目的で行くわけじゃないんだからな」

 

「「「「・・・・・」」」」」

 

マジで言っている眼をしていて、ロキ達は息を呑んだ。誰も異論も唱えず、直ぐに身支度をしろと一誠に言われた四人はバックパックを収納したカードを持参する少年の下へ集う。青白い方ではない金色の天使と化した一誠。金眼から蒼色の眼、金色の長髪になって頭上に輪っかが浮かび上がり、背中から六対十二枚の金色の翼が生える。その姿に見惚れている間、四人の体を包み込んで翼を羽ばたかせ空へと凄まじい速度で飛翔した一誠。数十秒であっという間にオラリオが小さく見えるほどまで上昇した四人はその光景を見つめ続けている内に、とうとう見えなくなるところまで飛ぶ一誠が顔を向けている先へ視線を向ける。空飛ぶ鳥や有翼モンスターよりも高く、雲より高く、高く、高くどこまでも飛んで、昇り続け、ついには大気圏へ突入し、その奥にはどこまでも暗い暗黒の世界が見えた。

 

「え、夜・・・・・?」

 

「違う、これから突入する場所は宇宙と言う空間だ」

 

「宇宙・・・・・?」

 

「極論的に言うと、神でも住めない死を齎す。俺でも息苦しい空間」

 

五人を包む淡い金色の光の膜。これで四人に齎されるはずの死を守ると言う意味が込められ、膜から出れば命の保証はできないと言外に言っている。大気圏内を突破しついにリヴェリア、アイズ、アリサとアリシアは全人類で初めて宇宙空間へ侵入した。

 

「見てみろ、これが迷宮都市オラリオがある世界の全貌だ」

 

振り返り彼女達に見させた光景は、殆ど青い海で埋め尽くされている青い球状の星の姿。その大きさと地上と思しき茶色や緑、雲と思しき様々な形をしている白い綿のようなもの。明るいところがあれば闇に支配されたかのように暗い影に覆われた大陸と海域が見える。しかし、その闇に負けないようにポツポツと光が鮮明に輝いている。

 

「すごい・・・・・」

 

「これが、私達が生まれ育ち、生きていた世界の本当の姿・・・・・」

 

「丸くて青い世界・・・・・」

 

「綺麗だ・・・・・」

 

「絶景だろ?ここへは何度来ても見飽きない」

 

しかし、一誠にとって四人を連れていく場所はここではない。ここは通過点でしかない為、直ぐに振り返ってモンスターの最後の末路として残る灰燼と化したそれが膨大な量で固められたような灰色の球体へ飛んで行く。暗い空間の中を時間をかけて目的の月に辿り着き、月面の地面を踏みしめる一誠。四人も歩けれるように光の膜を更に広げてから降ろす。

 

「イッセー、ここが月?」

 

「そ、この灰色の塊がそうなんだ。夜に浮かぶ月は太陽の光を反対側から照らされることで幻想的に光っているように見えるんだ。実際、月に来てみればこんな感じだよ」

 

「・・・・・あんなに綺麗な月がまるでモンスターの灰で固められたような感じだなんて、少し残念です」

 

月に辿り着き、次は食材の調達。それが目的でここまで来たことを彼女達は忘れていない。だけどやはり、こんな灰色の塊の場所に一誠が望むような物はあるとは思えない、その気持ちがますます強くなって足を前に運ぶ少年についていく。己が生まれた地球を見ながらそれなりに歩くと、一行は奇異な物を発見した。

 

「・・・・・なに、あれ?」

 

「あれが、俺が月に一度だけ必要な食料や調味料等を調達できる場所だ」

 

「あの、扉が?」

 

人が住めない宇宙空間に浮かぶ月面にポツンと静かに五人を出迎えるように佇んでいる扉があった。樫の木で作られた黒い扉に年代物の真鍮の取っ手、招き猫のみたいに右前足を上げた猫の絵が描かれ、アリシアを除いてリヴェリア達が見たことがある読めない文字で書かれた看板に結ばれた紐を銜えているそんな猫の絵。―――本当に月に扉があった。一誠の言っていた事は嘘ではなかった。そんな思いを浮かべて猫の扉を見つめている彼女達に確認の問いを投げられた。

 

「入る前に言っとくけど、俺は扉の向こうで一日過ごすことになっている。その間皆は暇な思いをさせるがそれでも一緒に来るか?」

 

「私達でも手伝えることがあれば手伝いますよ」

 

「ああ、そうだな」

 

「「うん」」

 

「うーん・・・・・まあ、取り敢えず入ろうか」

 

真鍮の取っ手を掴み黒い扉を開けた瞬間。チリンチリンと来訪者が来た事を知らせる鈴の音が鳴り響く。

 

「おはようございまーす」

 

「おう、おはよう坊主。ん?その嬢ちゃん達は誰だ」

 

最初に一誠を出迎えたのは白髪頭に白い髭を生やす初老の男性だった。年老いても未だに活発な気配を醸し出し、リヴェリア達を視界に入れて不思議に訊ねた。

 

「俺が今住んでいる異世界の住民で、今日だけ連れて来たんだ。店の邪魔はしないから居させてくれるか?」

 

「客として飯を食うなら別に構わないぜ」

 

「よかった。それと今日は俺の給料日だけど、用意できてる?何分こっちの世界じゃ手に入らない物が多くてさ」

 

「今日もしっかり働いてくれれば渡してやるよ。坊主が働く報酬の代わりにうちで色んな物を用意する約束だからな」

 

話しからして、一誠はこの店の中で食材や調味料を調達している風な感じであった。しかし、月に扉があって扉の向こうにどうしてこんな初老の男と何かの店のような空間があるのだろうか?興味深々で、怪訝な思いで周囲を見渡していた皆に一誠が話しかけた。

 

「ここは洋食のねこやって名前の料理を出す店だ」

 

「料理店?月にどうして料理店なんて・・・・・」

 

「ぶっちゃけ、俺達は異世界に来ているんだ」

 

「異世界?異世界って・・・・・もしかして貴方の世界の?」

 

「いや、残念ながらそう思って異世界の外を軽く見て回ってみたんだけど俺の世界じゃなかった。俺の世界じゃなかったけれど嬉しい事に同じ食材と調味料等があったからさ、この店の店主に頼んでこの異世界の食堂で働く代わりに給金じゃなくて料理に使う必要なもの全てを可能な限り用意してもらう契約をしているんだ」

 

自分の服を掴んで、バッと一瞬で服を脱ぎ払うとあっという間にこの店の制服を着こんだ一誠。出で立ちは執事が着こなしていそうな燕尾服。長い髪は一つに結んで眼帯も外し濡羽色の瞳を晒している。女性達は初めて見るその姿に目を奪われてた。

 

「俺と孫が相手をしている客達の世界とはまた別の世界から入って来て、更に坊主が別の世界から来たドラゴンだって訊かされた時は珍しい事もあるんだなって思ったぜ」

 

「え、イッセーの事知っているんですか?」

 

「おう、坊主と交流してもう二年も経ってるぜ嬢ちゃん」

 

二年、つまり一誠が【ロキ・ファミリア】に入団した当初からと言う事になる。その時のアリシアは一誠のこと等、名前すら耳にした事が無かった。半年間、ダンジョンに籠っていたと言う時期があったが、もしかするとその半年間の間にこの食堂を知ったのかもしれない。

 

「イッセー、ここで働くの?」

 

「唯一、元の世界と同じ必要な物を調達できる店だからな。働いて手に入れないと店も続かないどころかたかりにくる連中に料理が作れない」

 

「異世界食堂って店を構えるつもりなんだろ?どうなんだ?上手くいきそうか?」

 

短くない付き合いの二人だ。異世界同士の情報ぐらい教え合って状況を把握している。異世界で異世界の料理を振る舞おうとしている一誠に問うた初老の男性へ朗らかで答えた。

 

「俺の店に毎日足を運んでくれる客は既に確保しているさ」

 

「成程な。洋食のねこやも坊主がいる今の世界で二号店として構えたら繁盛間違い無しってわけか」

 

「その時はライバル店となるなぁ」

 

「フッ、負けないぜ坊主?」

 

不敵に笑みを浮かべ合う二人。一誠の正体を知った上で親しげに接する初老の男性―――山方大樹はある種、一誠にとってまたかけがえのない友人の一人として数えられている。

 

「あの、異世界の人。私を見て何とも思わないのですか?ヒューマンではないのですが」

 

一誠の事に関しては心が広い人間、もしくは外見が人型だから大して気にしないでいるのかもしれない初老の男性に人間より尖ってる耳の事を言外して訊いてみると。

 

「あん?うちは一週間に一度、特別な客にだけ料理を振る舞っている店でもあるんだ。嬢ちゃんみたいな人間じゃない相手にも飯を出してるぜ」

 

「・・・・・イッセー。どういうことだ」

 

「まぁ、直ぐに分かるよ。それじゃ、俺も食材確保の為に頑張って仕事をしようかな」

 

「キッチリと働かねーと給料やらねーからな坊主」

 

「喜んで働かせてもらうよ店主」

 

結局四人は異世界の食堂で働きだす一誠を手伝う暇も無くただただ一日見守ることしかできない。その理由は三十分も経たずに起きた。扉の内側に掛けられた鈴が鳴り響いた。すかさず一誠が来客を対応する。

 

「いらっしゃい」

 

「うむ、また世話になるぞ」

 

「注文は先にライスとツケモノ、それからテリヤキチキンにセイシュで?」

 

「ああ、頼む」

 

「かしこまりました」

 

最初にやってきた客はガタイが良い男だった。黒い着物を着こなし、修羅場を何度も潜り抜けた証として感じる気配は、冒険者として生きているアイズとアリシアが「この人強い」と率直的な感想を抱かせた。腰に佩いている刀と男を見比べて剣士の人かなと興味が湧くアイズだった。

 

「む?」

 

卓の席に座って直ぐ、向けられる純粋な好奇心の眼差しを察知した男はアイズに目を向けた。男もアイズの目を見て、何かを感じ取ったのか感心した風に口角を上げた。

 

(あの者の連れか?まだ幼子であるにも拘らず中々どうして、強い光を宿しておるな)

 

「アイズに興味あるのかタツゴロウさん」

 

ライスとツケモノ、そして味噌汁を持ってきた一誠が彼の前に置きながらそう聞くと、素直に頷いた。

 

「俺が今住んでいる異世界の子供で剣士なんだ。今、鍛えている最中で遠くない未来、かなり強い存在になると踏んでいる」

 

「お主もその若さで弟子を取ったか」

 

「弟子にしたつもりはないんだけどな。でも、タツゴロウさんの弟子と一度剣を交えさせたいね」

 

「ふん、私の弟子は簡単に負けはせんぞ」

 

「うちのアイズも簡単に負けはしないぞ」

 

好戦的に眼から放つ火花が散る睨み合いはそこそこ終わってフッと笑みを零す。それぞれの時間に戻り、タツゴロウと言う男は食事をする。

 

樫の木の扉が鳴り響く鈴の音と共に開き出す。次には言ってきたのはローブを着こんだ初老の男性だった。白い髪に白い髭、杖のような物を持って一誠の案内でタツゴロウの隣に座り注文した。

 

「ビールとロースカツじゃ」

 

「かしこまりました」

 

その初老の男性から感じる魔力も凄まじいとリヴェリアとアリシアは察した。冒険者でもないのに、神の恩恵を受けてもいないのにどうして人間が魔力を有しているのか、異世界とはこういう人達が当たり前のようにいるのだろうか?

 

「のう、テリヤキ。あの子供とエルフは何じゃ」

 

「イッセーの連れらしいぞロースカツ」

 

「ほう、となると儂等の世界とは別の世界の者と言うことか。異世界にもエルフがおるようじゃな」

 

聞こえてくる会話はとても気になるものだった。この世界にもエルフがいる?なら、この店にエルフがやってくるのだろうか?アリシアはそう考えているとまた誰かが店に入ってきた。今度は言ってきた客はヘルメスみたいな軽装の旅人服を着こんだ初老の男性であった。その傍には可愛らしい幼女が佇んでいた。

 

「いらっしゃいませ」

 

「おう、来たぜ!早速だがイッセー、何時ものを頼むのとあの魔道具(マジックアイテム)とやらは中々便利だったぞ。色んな所にスイスイと飛んで行けて未開の大陸まで行けてしまったからな」

 

「それは凄いな。後で冒険の話を聞かせてくれ。それと、また新しいの持ってきたから鑑定した上で買ってくれるか?」

 

「わかった。後で見せてくれよ。お前が良いものを持ってくるから孫娘を連れてきてくれってその通りにしたんだからな」

 

その男もまたテリヤキとロースカツを頼んだ男達の方へ旧友と久しく会ったかのように、挙手をしながら近づいて座り出した。一誠はカウンターの奥へと消え、酒と料理を運んでタツゴロウの前に置いたそれは、リヴェリア達が食べた事のあるテリヤキチキンや一誠が作ったビール。

 

「「「かんぱいっ!」」」

 

仲良く酒を交わし合い、飲み始める三人。一週間に一度だけ特別な客を招くと言う話を聞いたが、この店に来る客は一体どんな人達なのか―――四度目に開き出した扉の向こうから入ってくる客を視界に入れた四人の目は、驚きで限界まで見開いた。

 

「来たぞ店主!注文は何時も通りカツドンだ!直ぐに持ってきてくれ!今日も腹一杯食うからな!」

 

 

異様な風体の男であった―――。首から上が獅子の姿をしており、全身に獣毛が生えたその男は、傷だらけで筋肉が浮き出た身体を見せつけるように薄着で、歴戦の傷がついた巨大な鋼の剣を背負っている。一見してもアイズ達の世界でも獣がそのまま人の体格でどこかの大陸に住んでいると言う話は無い。その男は、生まれ落ちた時からとある強い加護を得たある一族である。

 

 

「なんだ、奴は一体・・・・・」

 

亜人(デミ・ヒューマン)、ですか・・・・・?」

 

「モンスター・・・・・?」

 

「・・・・・(固)」

 

どっちも違うと苦笑いで一誠は否定するだろう。さらに遅れて入ってきた者も驚きだった。一言で表すなら、ダンジョンで出現する蜥蜴人(リザードマン)そのものだった。2メートルはある鍛え抜かれ、筋肉が発達した肢体。青みを帯びた緑の堅い鱗が生えた皮には、あちこち治りきった傷の痕が刻まれている。リザードマンは一誠を見やるや口を開く。

 

『オムライス。オオモリ。オムレツ、三コ、モチカエリ』

 

「かしこまりました。空いている席へご自由に座ってくれ」

 

『ム』

 

見間違う筈も無いモンスターまでこの店の料理を食べにくる異様な空間に、もしも得物を持って来ていたら臨戦態勢を取っていたかもしれない。パクパクと口を開閉するアリシアに凍結する金眼のアイズ、言葉を失うリヴェリアとアリサ。どちらも椅子を二つ分使って腰を下ろし、注文した料理をひたすら静かに待ち続けるその姿勢に食い入るように見てしまう。しばらくして、一誠が作ったことがある料理が次々と出され、異世界の人間やモンスターらしき者達は目を輝かせ、箸やスプーン、フォーク等を手にして開けた口の中へ頬張るように入れる。感想は「美味い!」の一言だった。

 

そして間もなく鈴の音を鳴り響かせながら異世界からいろんな客達が入ってくる。中には幼子連れの初老の男性もやってきて、その子供が一誠に微笑みながら話しかけられると、恥ずかしがっているのか顔を赤くして俯いた。

 

「して、コロッケの作り方は―――」

 

「ああ、それは―――」

 

「ふむ、挽いた肉も入れると更に―――」

 

「他にもダンシャクの実を使った料理があってこれも美味しい―――」

 

「ふむふむ―――」

 

何やら初老の男性から話しかけられそれに応じると初老の人は熱心に聞き逃しはしないとメモをし出す。一誠はそうして来客してきた者達に対応して料理を運び、たまに話し相手として異世界の事をちょくちょく聞き出している。オラリオで構えている店と何ら変わりない風景を見つつ二人は昼時まで店の隅にひっそりと座り続けた。

 

「悪いな。ずっと退屈だったろ」

 

「いえ、寧ろこの店は一体何なのか気になって仕方がありませんでした・・・・・。お仕事の方は?」

 

「俺は休憩だから、食材を使わせてもらって賄いを作った。皆の分もあるぞ」

 

出来たての料理を持って来てリヴェリア達がいる席に座り配る。

 

「イッセー、ここは一体何なのだ。明らかにモンスターまで美味しそうにオムライスとかカツ丼とか食べている」

 

彼女の疑問に「俺達にとって少しややこしい話になるけどな」とこう答える。

 

「この店は洋食のねこやって食堂だけど、俺達が入ってきたあの扉には異世界に繋がる魔法が施されているんだ」

 

樫の扉に五つの視線が向けられる時。新たな客が入ってくる際、扉の向こう側は別の場所の風景が一瞬だけ見えた。五人が月まで来て扉を潜った場所とは異なっている場所だ。

 

「つまり、あの人達も私達が住んでいる世界とは違う別の世界から来ている人達なのですか?」

 

「そいうことだ。それとあのリザードマンとか獅子男のことは、異世界では魔族という種族なんだってさ。他にも様々な種族もいるそうだ」

 

「・・・・・モンスターじゃないんだ」

 

「モンスターっぽいけどモンスターじゃないからなアイズ」

 

もしも魔物がダンジョンにでも現れたら嬉々として切り捨てそうな幼女を、やんわりと訂正しつつ食事を交えながら自分の知る限りの事を打ち明ける。アリシアの前では言えないことを隠しつつ。二年前、月まで来て異世界を調べていた時に偶然見つけた扉は、別の世界と繋がっている異世界の洋食屋であることを知り、この店で働く代わりに一月働いた分の給金で望んだものを集めてくれる契約を交わしたことを。一週間に一度、ロキ達に秘密でこの二年間、そうしていたことも。

 

「おーい、そろそろ帰るから魔導具(マジックアイテム)を見せてくれ」

 

話しをしていると旅人の格好をした男がこちらに声を掛けた。立ち上がってカードからバックパックを召喚。それを担いでテーブルを囲んで食事をしている男達に近寄る。

 

「今日の道具はなんだ?」

 

「孫がいるなら何らかの形でもその日の姿を残したいよな?」

 

「ああ、俺のサラは絵画に閉じ込めても目が痛くない程可愛いからな!」

 

「何を言うメンチカツ、公国で一番の愛らしさを誇っているこの儂の孫娘が一番に決まっておろう?」

 

親バカなところを発揮して、言い合いも始めた。仲裁する「お祖父ちゃん、何を言ってるのよ!喧嘩しないの!」「あの、お祖父様、恥ずかしいですっ」孫娘達を恥ずかしがらせた。それを微笑ましげに笑い、一誠しか作れない作品を教える。

 

「時間を掛けて絵に残すより手軽に出来る道具を持ってきた。その名もカメラだ」

 

「「「カメラ?」」」

 

何処からともなく二つの羊皮紙を取り出して、テーブルの上に置く。そして何時も首に下げてるロキのカメラと同じ魔導具(マジックアイテム)の性能を見せつけんと、二人の孫娘にカメラを向けてシャッター押す。その後に羊皮紙にレンズを向けて撮った少女達姿を投影する。

 

「おおっー」

 

「羊皮紙に色鮮やかで孫娘達の絵が絵画のように・・・・・」

 

「ほう、儂等の世界にない魔法じゃな」

 

『ロースカツ』を食べてた初老の男性も感嘆の息を漏らし、興味深げに羊皮紙を見つめる。その他にも遠距離でも連絡ができる腕輪や永久保存が可能なカードのデッキ等々、バックパックから取り出しては見せつける。

 

「ふむふむ、異世界の道具を作る技術は達者の様だな。実際に扱い方を見せてもらうと中々便利のようだ」

 

「俺のお勧めはこの腕輪だけど、どうだウィリアムさん?買ってくれる?」

 

「勿論、全部まとめて買ってやろうじゃないか。ゴールド家の家宝として大切に使わせてもらうぜ。値段はそうだな、どこでも連絡ができるって優れ物だから金貨100枚でいいか?」

 

「十円の千倍、日本円にして一枚一万で軽く計算すっと百万ってわけだから・・・・・んー、異世界じゃ腕輪一つで数百万も価値なんだよなーこれ。作った本人としては大赤字もいいところだけど、ま、その値段でいいかな」

 

難色を浮かべるも一誠は用意して来た魔導具(マジックアイテム)をメンチカツを頼んだ男性に金貨百枚で交渉成立する。それを見ていたコロッケの初老の男性はどこか物欲しそうな面持ちで口を開いた。

 

「その道具、儂にも売ってくれぬか?」

 

「ん?まだあるからいいけど、誰と話をするんだ?」

 

「何、遠くから離れていても会話ができるのであれば孫娘と話もできると思うと欲しくなってしまうのでな」

 

「ああ、そういうこと。だったら丁度顔見せ合ったことだし、二人の孫娘とこれからも会話ができるようにしてやろうか?」

 

その提案に『コロッケ』と『メンチカツ』はどちらからでもなく顔を見合わせた。

 

「だ、そうだがメンチカツよ。構わぬか?何分、儂の孫娘アーデルハイドは友がいない故に会話だけでも楽しませてやりたい」

 

「話し相手がいなきゃこの腕輪の効果は発揮できないしな」

 

『メンチカツ』が了承したのを聞くと、早速とばかり腕輪に登録を済ませる最中。思いだしたように付け加える。

 

「ああ、そうそう。この腕輪は通信意外にも、登録した相手の場所にまで転移できる能力もあるんだ。事前に今いる場所を登録すれば、何時でも何処でも登録した場所に行き来できるから試してみてほしいな」

 

「「便利過ぎるではないかっ!?」」

 

「ほう・・・つまり、異世界食堂の扉がある場所に登録すれば・・・・・」

 

「ふむ、苦労せず移動できるわけか」

 

『テリヤキ』と『ロースカツ』の人達が腕輪の力の真髄を見抜いた様子で、自分達も購入の要望を口にしたのであった。そんな祖父や大人達を見ていた二人の幼女は必然的に言葉を交わす。

 

「・・・・・アーデルハイドって言うんだってね?私はサラって言うけど、これから話し相手になるそうだね」

 

「は、はい。よろしくお願いしますサラさん」

 

「呼び捨てで良いわよアーデルハイド」

 

「分かったわ、サラ」

 

笑みを浮かべ合い、確りと友好を結ぶ握手を交わした二人に一誠から贈物を受け取った。十四枚のカード、それぞれ七枚ずつ配られる。その理由を教えられると片や感謝の言葉を述べ、片やほんのりと顔を紅潮させ感謝の念を言葉にしながら頭を垂らした。腕輪の扱い方を教え、彼等は満足した顔で扉を開け自分達の世界へ戻って行く。その後の洋食のねこや、異世界食堂に異世界からやって来た客は、好物の料理を食べまた自分の世界or住みかへと帰って行く繰り返しをしていると、時計の針は何時の間にか午後の夜の時間帯にまで回っていた。

 

「さて、坊主。そろそろお前さんの給料を渡しておこうか」

 

「ん、待ってました」

 

「おいバカ孫。これから来る最後の客に粗相のないようにな」

 

「バカ孫は余計だよ爺ちゃん!」

 

キッチンにもう一人誰かがいたのか、直ぐに声が返ってきた。一誠は店主と一緒にキッチンの方へと赴き、いなくなって少し経った頃に扉が開きだした。

 

「「「「!」」」」」

 

入ってきた客は、女王の品格とその気配を醸し出す女性だった。赤いドレスを身に纏い、その髪は燃え盛る炎のように赤く輝き、その肌は磨き抜かれた銅の色をしている。年の頃はまさに女の盛りといったところ。そして、炎のような赤い瞳の中で縦に割れた黄金の瞳孔と、耳の上辺りから生えた、真紅の立派な二本の角が女の正体を如実に表していた。

 

(・・・・・イッセーと同じ、ドラゴン、なのかな)

 

(魔族の類であることは間違いないないようだな)

 

女性はまだ年若い青年の店員と一言二言の会話のやり取りをした後、席に座って注文した料理が来るまで待機した。一瞬、アイズ達の方へ赤い双眸を向けたが一瞥、直ぐに顔を逸らして待つ姿勢に入った。

 

「さーてお前等。貰うものは貰ったから帰るぞ」

 

少しして戻ってきた一誠が四人に声を掛けた。元の世界に戻って早く夕食を作ってやろうと心情の少年を知らずとも促しの言葉に応じて立ち上がる彼女達。魔物の女性の傍に通り、扉へ近づくと―――。

 

「なんじゃ、もう帰るのか」

 

不意に女性が声を掛けてきた。

 

「ああ、連れがいるからな。飯を作らなきゃならんし」

 

「六柱のうちの一柱の妾の誘いよりもその耳長と小娘を優先するというわけか」

 

「俺が何時までもここにいたら二人は帰れないだろう。その誘いはまた七日後にな」

 

「そう言って誘いを断ってははぐらかし続けるお主を許す妾の懐の広さと寛大に感謝せよ?妾の体に傷跡をつけた責任を必ずしてもらう故に」

 

その言葉を最後に聞き、五人は扉を潜って月へ戻った。暗黒の世界に存在する青い地球が見受けれる場所へ。皆が出ると樫の扉が虚空に消えた瞬間を見て見開く。まるで今までいた場所が夢か幻だったかのように消えてなくなり、触れようとしても何もなければ手に感触が無く空ぶって終わる。

 

「イッセー、あの魔物と知り合いなの?」

 

異世界の地球に戻る最中。アイズが一誠の腕の中で疑問をぶつける。リヴェリア達も気になっている様子で目線を少年の顔に向けて耳を傾けていた。

 

「一度だけ喧嘩をしてな。それ以来何かと誘ってくるようになったんだ」

 

「喧嘩したのですか?どんな理由で?」

 

「喧嘩と言っても一方的な逆恨み、いや、横取りされた腹いせ・・・・・食べ物の恨み的な感じで攻撃されて仕方なく応戦したんだ。異世界で」

 

「あの、その後は・・・・・?」

 

「うん、彼女の正体は異世界で神として崇められている六柱のうちの一柱のドラゴンだったんだけどさ。まぁ、強くて強くて楽しかったよ。最後は武器で斬ったり殴り飛ばしたりして圧勝したけどな」

 

それから七日後になるまで軽く焦りながら異世界に暮らしていた。と朗らかに語る。二年前、そんなことがあったなんて露も知らなかった四人は新事実を聞かされ、目を丸くするのだった。

 

「強いって階層主より強かったのですか?」

 

「普通に強い。吐く炎もヘルハウンドより熱いし、性格は好戦的であの洋食のねこやに来る度に勝負の誘いをするようになったしな」

 

「誘いって、勝負だったんだ・・・・・」

 

この世界では得られないドラゴン同士の激しい戦闘。久しぶりに感じた戦いはまたしてみたいと言う気持ちが無いと言えば嘘になる。一誠は七日後、魔法で創りだした分身体を残して異世界に行ってみるのも悪くないかもしれないと口唇を薄く釣り上げた。その後、月で何をしていたのかロキ達にも伝わって震撼させるほど驚愕したのは言うまでもない。

 

「異世界に繋がっている扉に」

 

「イッセーと同じ料理を作る店があって」

 

「さらには別の異世界に繋がっていて、ヒューマンや魔物が飯を食べにくるじゃと?」

 

「・・・・・信じられない。嘘を言っていないのは分かるけどそれでも信じられない話よ」

 

「ふむぅ・・・・・何とも言えん・・・・・」

 

「ふふっ、未知が溢れているのは下界だけじゃなく世界の外側にも未知が溢れているなんてね。興味が湧いたわ」

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