ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか 作:ダーク・シリウス
冒険譚1
【ヘファイストス・ファミリア】から脱退して一日目、今年は【ガネーシャ・ファミリア】の眷族として貢献する日々が始まった早朝―――。一誠は朝食の準備を済ませて一息吐く暇も無いまま西沿いに建てた店の下準備に取り掛かる。店を切り盛りしなくてはならない。
「―――さて、店を構えるからにはオラリオ一繁盛する店を目指すぞ。他の店が赤字で潰れようがお構いなしだ」
パン生地をコネながら言う一誠が立つ調理場では、魔法で具現化した一誠の分身体達も開店時間前まで下準備に取り掛っていた。
「おはようっ!我が料理上手な子供よ!」
「俺の第一印象はそれなのね・・・・・おはよう主神と団長」
「そう!俺がガネーシャだっ!」
「「知ってるよ」」
異口同音で返す。今日からこのテンションの高い男神の眷族かと、この者も苦労をするだろうなと、少年と女団長は似た気持ちを抱いていたことを知らない。
「改めて名乗ろう。私は【ガネーシャ・ファミリア】団長シャクティ・ヴァルマだ。一年間だけの付き合いとなるがよろしく頼む」
「ん、よろしく。何か買ってく?作りたてだから温かくて美味しいぞ」
「食べる!朝食を抜いてきたからガネーシャお腹ペコペコ!」
高らかに断言した男神の真意に「マジか?」「ああ、そうだ」と「全部二つずつ買うゾウ!」と注文する主神を他所に言葉を交わし合う。販売の為に創られた料理の種類は軽く十種類超えている。どれを限定に買うかではなく纏めて全部味わいたいと大人買いをする主神の要望に
「立って食べるのもなんだから、そこにある階段を上って屋根に設けた椅子に座って食べてくれ・・・ってもう食べてるし」
「うんまーいっ!」
歓喜で声を上げる男神の口の中に収まっているのは、細かく刻んだ玉葱と肉をパン粉と卵で包むように付けて、高温の油で揚げ、甘辛いソースをたっぷり染み込ませたものと、肉だけ飽きさせない為に千切りしたシャキシャキと噛む度に口の中で鳴るキャベツを挟んだパンの一品。まだガネーシャが食べた事のないサンドウィッチは口の中で溢れ出る肉汁を堪能しながら咀嚼する。二口目も豪快に食べてゴクリと胃の中へ送ったその口は既に持っていた次のサンドウィッチを捕捉していた。女団長もまだ食べた事のない一品を味を堪能して、微笑んだ。
「(へぇ、笑うと綺麗だな団長。作った甲斐があるってもんだ)」
カウンターで頬杖をしながら食べる様子を見ていた時に初めて見た彼女の笑みは、一枚の絵画に収めても邪魔にならない美しさだった。感想を漏らした一誠の言葉に知る由も無く無言で食べる女団長。
「―――あかんっ!先にガネーシャの奴に一番乗りを奪われてもた!しかももう何か食っとるしぃっ!?」
空気を裂く訊き慣れた関西弁の女と騒々しい気配が近づいてくる。更に別の方角から優男神と異国の王子風の男神、極東の神々や蜂蜜色の豊かな髪と豊満な双丘を揺らす女神、正義と秩序を司る女神と眷族―――何時もの顔が揃って集まった頃にはヘファイストスとフレイヤも様子を見に来た。
「・・・・・足りるか?」
あまりにも数に
オラリオ南西、交易所付近。最大構成員数を誇る【ガネーシャ・ファミリア】のホームが構えられていた。主神ガネーシャと女団長シャクティ・ヴァルマと共にだだっ広い敷地の草原にある煉瓦造りのホームへ足を運んだ。一時的とはいえ【ガネーシャ・ファミリア】の一員として過ごす一誠の存在感を
「存外に広いんだな。意外と遊園地も作れそうだ」
「遊園地?」
「子供から大人まで大人気の巨大な娯楽施設の名前。遊園地が完成したらオラリオはもっと賑やかになるかもしれないな」
「その話、もっと詳しく教えてもらうゾウ!」
三人は煉瓦の
「・・・・・何か、歓迎されているような雰囲気じゃないな?」
「お前が思っているようなものではないと弁解させてもらう」
団員達の心情を察した女団長は「気にするな」とガネーシャの神室へと促す。数多の扉を横切り、象頭が描かれている他の扉より一際大きい扉へ直行してその部屋の中に入ると、圧倒された。壁の至るところに飾っている同じ象頭仮面。寝具や家具等あるものの、それ以上に
「ようこそ【ガネーシャ・ファミリア】へ!俺がこの【ファミリア】の主神ガネーシャだっ!新たな眷族が増えてガネーシャ、超・感激!以上、俺からの歓迎の言葉は終わりだ!」
「・・・・・」
このテンションについていけないと思ったのは生まれて初めてかもしれない。シャクティへ視線を向け、「よくこの神と長い付き合いができるな」と称賛が籠った視線に彼女は「慣れは怖いものだぞ」と視線で返してきた。
「今日から一年間だけの間だが、俺の子供としていっぱい料理を作ってくれよ!無論、
「前者はともかく、後者は役に立たせてもらうよ主神」
「うむ、頼んだぞ。ではさっそく俺の
何時でも何所でも
イッセー
【ステイタス】
Lv・1
力 :I0
耐久:I0
器用:I0
敏捷:I0
魔力:I0
『魔法』
『ネオ・ワールド・ドア』
・移動系魔法。
・継続時間と大きさは魔力数値に依存、憧憬によって過去・現在・未来の異なる望む世界へ行き来できる。
・強い憧憬である程、成功率上昇。
『スキル』
『
戦闘時のみ発動。
『恋愛一途』
・早熟する。
・懸想が続く限り効果維持。
・懸想の丈と異性との相思相愛の情を続けることで効果向上。
『魅了成就』
・魅了する。
・異性と同性、特定の者と交流し続ける限り効果維持。
・神・老若男女、人種問わず関係が良好、異性と触れ合い魅了し続けることで効果上昇。
『三技一体』
以下の三つのスキルが一つとしてそれぞれの発動条件が満たされると一時発現する。
『
・調理道具の装備時、発展アビリティ『料理』の一時発現。
・補正効果は『器用』と『敏捷』のアビリティ数値に依存する。
『神伝鍛冶』
・鍛冶道具の装備時、発展アビリティ『鍛冶』の一時発現。
・作製した武具の品質の向上は『器用』アビリティ値に依存する。
『
・
・一定以上の
【ロキ・ファミリア】から【ヘファイストス・ファミリア】。この二年で発現した前代未聞の
「やっぱ、ロキの家と違って広さも構造も異なるな。でも、ガネーシャの部屋を見たらこの
「むむっ!それは素晴らしい発想ではないか!よしっ、何時か俺を象った家に作り変えてみようかな!」
「・・・・・止めてくれガネーシャ。団員達が泣き崩れる」
数年後、【ガネーシャ・ファミリア】はとんでもない
「何時もこんな感じなのか?」
「他の騒がしい団員も加わると更に混沌と化する」
「へぇ、ロキやヘファイストスのところじゃあ感じられなかった騒がしさがここにあったか」
その混沌とやらを体験してみたいな、と何も知らず呑気に言うと思わず出る欠伸は抑えられなかった。
朝早くから朝食作り~店の商品作りまでしたからか、まだ少し眠り足りなさそうな隣人に尋ねる。
「寝不足か」
「何十食分の朝食を作らなくならなきゃいけなくなった上に店の事もあるからな。どこか昼寝する快適な場所ってある?」
そんな場所は実在しない、と現在はまだ寒い冬の季節。外で昼寝などしたら体に悪影響だと首を横に振って否定する女団長に「あっそ」と気にした様子も無く相槌を打った。
「じゃあ、外の敷地で少し寝ているわ。日も出てるし」
「なに?」
「・・・・・本当に寝るとは」
【ガネーシャ・ファミリア】の敷地内の青い草原―――牧草で埋め尽くされているその場所で太陽の光を浴びるように仰向けでスヤスヤと夢の中へ旅立った少年を見下ろし、少し呆れるシャクティ。体を染み渡らせるような肌寒さを覚えつつも眠っている者から離れようとはしない。誰かがこの場に残っていなければ、自分とガネーシャしか知らないこの者は弁解ができない。仕方なくと腰を下ろして直ぐ傍で座り起きるまで待つことにした。
「(・・・・・不思議な男だ)」
一誠に対する率直な印象の感想はそれだった。出会いの始まりは『バベル』の次に高い建造物が忽然と姿を現した時からだ。誰が住みついているのか、はたまたは
「(・・・・・こうして寝ている姿でも人と変わりないのだな)」
そして一誠が異世界から来たモンスターに転生した元人間であることが発覚する。そんな存在の危険度を知るために改めて近づいても、自分が知る殺戮と破壊衝動に駆られるモンスターではない事を教えられた。彼の最大派閥【ロキ・ファミリア】も全面的に信用と信頼を寄せるほど派閥に貢献していたからか、リヴェリアが副団長としてとんでもない発言を述べるぐらいだ。きっと
「・・・・・」
とそう思いながら何気なく前髪を触れるとくすぐったそうに、それでいてどこか嬉しそうに微笑んでくれる少年を胸の奥からこそばゆくも、じんわりと温かな気持ちが湧いてきたシャクティの唇が小さく緩んだ。純粋で純真、寝ている時だけは争いとは無縁な土地や場所で暮らしている子供のようなのだなという思いを浮かべた。そして日頃ガネーシャの為に料理を作ってくれている感謝の意を込めてあることをする。
「おい、姉者はどこだ?」
赤髪を伸ばした褐色肌の少女―――アマゾネスが団員に訪ねた。腰には
「団長ですか?そーいえば新しく入ってきたっぽい男と敷地の方へ向かう姿を見たって話が・・・・・」
「敷地?・・・・・分かった」
何で敷地に行くのか理解できない。そもそも何故新米の団員と二人きりで・・・・・・。と、シャクティが今いる場所へ足を向かわせ赴く彼女は―――眼前に繰り広げられている光景に、信じられないものを見る目とあんぐりと開いた口が閉じないまま思考を硬直させた。
「な・・・・・」
―――【ガネーシャ・ファミリア】団長が、シャクティ・ヴァルマが
―――見知らぬ男に膝枕をして赤髪を撫でている!
―――誰だ、あの男はっ!?
「あ、姉者・・・・・」
自他問わず団員達が尊敬している女団長の太股で寝ている少年。新米の団員が何故あそこまでされて、団長もまたまんざらでもなさそうな雰囲気を醸し出しているのかアマゾネスの少女には理解不能、混乱した。が、長年団長を支え付き添ってきた者として、ぽっと出の者にまだ自分にもされても無いことをしてもらっている事実を認識するとあまりいい感情を抱けれない。図々しい、おこがましい、何様なのだ、立場を弁えろ、ふつふつと湧き上がる怒りが理性で抑えられない程半ば暴走するのに拍車を掛る。
「あ、いたいた。イルタさん、ちょっと話が・・・・・」
更に間が悪いことに、まだ若い少年団員がアマゾネスに訊ねて来てしまい今彼女が視線を送っている方へ釣られて視界に入れた途端。ぎょっとおっかなびっくりに目を丸くした。
「だ、団長が・・・・・団長が見知らぬ男に膝枕をしてるぅううううううううううううううううううっ!?」
ありのままのことを
「シャクティ団長、誰ですかそいつ!何で親しげに膝枕なんてしているんですかっ、もしかしてあれですか、二人は恋人、付き合っている関係なんですかッ一体何時の間に愛し合う関係になっていたんですかっ!まさか、今日入団しに来たのは正式に団長と付き合う為―――!」
「黙れイブリッ!?」
鋭く横薙ぎに振られた裏拳が少年の腹部を捉え「ごふっ!?」と言葉通り黙らせたその後、荒い息を吐きながらシャクティに問いだたすアマゾネス。
「教えてくれ、姉者。そいつと姉者は、付き合っていて膝枕をしているのか」
もしもそうだったら、少年を切り刻んで殺して自分も死んでやるととんでもないことを決意しているアマゾネスを露も知らず女団長は目をパチクリする。
「私とイッセーは、男女の関係でもなければ付き合ってもいない」
「な、なら何で膝枕をして・・・・・!まさか、その男が姉者に強要を・・・・・っ」
「いや、これは私が勝手にしていることだ。いつもガネーシャが世話になっているからな」
「そのヒューマンの男は、姉者と主神と関わりがあるのだということか」
「ああ。ガネーシャがこの者の作る料理にいたく気に入って、今朝も早く開店したばかりの店に足を運んで食べに行ったぐらいだ」
その度に私も付き添って行き、一緒に食べさせてもらっていると言葉を足して一、二度だけの交流ではないことも暗に伝えた。イルタは訝しい目で眠る少年を見下ろす。
「こいつの作る料理は姉者も気に入っているのか?」
「そうだな。同じ食材を使って作る料理でも、作る者が違うとこうまで違いの差が出るのかと驚かされるばかりで、あまりにもの美味しさに私もガネーシャもイッセーの料理を気に入っている。お前も食べればきっと驚くさ」
フッと柔和に笑う女団長は珍しいとイルタと少年団員は心中そういう気持ちを抱いた。
「だから、私もイッセーの料理を食べさせてもらっている一人としてささやかな感謝として膝を貸しているに過ぎない。それ以上の感情も無ければそれ以下もない。お前達を統率をする者として色恋沙汰で腑抜けた真似はしないから安心しろ」
「「っ・・・」」
自分達の勘違いに羞恥を覚える。決してシャクティが誰かと付き合うことは許さないわけではない。だが、尊敬する団長に相応しい者ではないと納得できないだけだ。どこの馬の骨とも知らないぽっとでの男が「シャクティと俺は付き合っている恋人だからそこんとこヨロシク!」等と戯言を言われたらどうなると思う?【ガネーシャ・ファミリア】は内部崩壊寸前の言い争いの喧騒、揉め事を起こすに違いない。主に義姉妹の契りを交わした
「さっきも言ったが、今朝早くから店を開いたイッセーは睡眠不足だ。今だけは静かに寝かせておいてくれまいか」
「・・・・・それに姉者が付き合う必要はないだろう」
「私なりの感謝の意だ。それともお前が代わりにしてくれるか?」
「誰がそんな男に膝を貸すか!というか、オラリオが『暗黒期』だって言うのに呑気に寝てあまつさえ姉者が膝を貸していることすら気付いていないこいつは起こした方が良い!」
言うが早いか、無防備に晒している一誠の胸倉を掴んでシャクティの制止の声を聞かず―――もしもこの場に【ロキ・ファミリア】幹部の
「おい、起きろ!」
頬を叩き、激しく揺さぶる。寝ている暇があればさっさと街の警邏でもして
―――それが完全に間違いであることを気付きもしないで。
叩かれる頬から伝わる衝撃と何度も揺さぶられる震動、眠る者からすれば不快と左眼を薄ら明けて、唾を飛ばす勢いで何か叫んでいる女に一言。
「五月蠅い」
顔面に一発、拳を叩きこんで黙らせる。
その後彼女は吹っ飛び―――
「「―――っ!?」」
自分達と同じ上級冒険者が、下級冒険者の一撃で吹っ飛んだ。一拍遅れて壊れた壁の音とその異変に気付いた団員達が騒ぎ出す気配を感じ取る。愕然の面持ちのシャクティと少年団員の他所に静かになったことをいいことに、また地面に横たわり意識を深い闇の中へと委ねるように落とそうとした。
「―――てめええええええええぇっ!」
「待てイルタッ!」
突き破った壁から飛び出した、
「・・・・・また、五月蠅い」
「手を出すなイッセー!」
面倒臭そうに顔を顰めてムクリと起き上がった一誠も、敵意と怒りを察知して両手から光刃を伸ばし飛び掛かる。シャクティが止めに掛る前に二人はもう衝突した。
「がっ!?」
「・・・・・痺れてろ」
褐色肌の背中を強く踏みつけるその足から雷が放たれた。稲光で周囲が太陽光とは違う色で照らされ、雷鳴がイルタの悲鳴ともならない声を掻き消すほど轟く。二人の戦闘は一分も満たずにして終わりを迎えた。一誠に踏みつけられながら雷を食らったイルタは手足を伸ばしたまま身動ぎ一つもせず、気を失ったのか起き上がろうともしない。対して一誠は五月蠅い元凶が静まったことに半ば意識が眠ったまま満足げに微笑むことなく
「イルタさんがやられてるっ!?」
「誰だアイツ、
「まさか俺達【ガネーシャ・ファミリア】に抗争を仕掛けに来たんじゃないだろうなっ」
不味い―――!団員達に勘違いから生じる疑惑を抱かせてはならない。事が事であるから今来たばかりの団員達は何も知らない。知っているのは
「ガネーシャが来たぁあああああああああああああっ!」
『
緊迫感が張り詰めたこの空気を完全に無視・ブチ破る声と暑苦しい存在感を存分に周囲の団員達から意識を一身に集める「とうっ!」と走りながら跳躍して団員達と一誠の間に陣取る主神の登場で。
「イッセー、何をしていた?
「・・・・・人が眠っている時にこのアマゾネスが五月蠅かったから殴った」
簡潔に事情を説明すると、更にガネーシャに問われた。
「まだ眠い?」
「・・・・・眠い」
覇気のない声に瞼が閉じかかって、体もフラフラと揺れている。先程の戦闘中に見せたキレのある動きを見せた同一人物とは思えない程に眠たそうに答えると、ガネーシャは光る白い歯を見せつけ、笑った。
「じゃあ、壊れた所を直したら寝て良し!」
「「「「ちょ、ガネーシャ様!?」」」」」
絶句する団員一同から「何言ってんだアンタっ!?」と叫ばれるも、本神の考えと姿勢は変わらない。ガネーシャは決定を翻そうとしない。お咎めなく、やることをやったら許すと言われた一誠は、指をパチンと鳴らしながら弾き壊れた壁と
「シャ、シャクティ団長・・・・・あいつ、一体何なんですか・・・・・」
「・・・・・下級冒険者の料理人としか分からない」
「か、駆け出しの冒険者!?」
人間の皮を被ったモンスターなど口が裂けても言えない初日早々、一誠は色々とやらかしてしまった。その代わり、上級冒険者を圧倒する実力を有していることも片鱗だけだが見せてもらい、即戦力になることだけは理解したシャクティ。
「(困ったものだ・・・・・さて、これからどうなることやら)」
茜色の空を焦がす夕日が西の空の彼方へ沈み、代わりに蒼い宵闇に染まる夜空の中で照らす月が浮かび上がる。夜天に蓋されたオラリオの姿は闇に支配され、夜道でも歩く民衆達を照らす加工された魔石の光で街灯がともる。仕事を終えた労働者が、ダンジョンから無事戻ってきた冒険者達が、今日も一日の締めくくりとばかりにオラリオ中に構えている酒場へと足を運ぶ。
「おい、何だあの店」
「何だ、どの店じゃ」
「うん?」
ダンジョンから戻ってきた他派閥同士の冒険者の三人組も酒場で一日の終わりを締めくくるべく西沿いのメインストリートに構えられている酒場へと足を運んでいた時だった。少し離れた先で自己主張する光が灯っていた。一人の冒険者がその光に気付き、相方の冒険者達もその光に視認した。
「これ見よがしに光っておる店があるな。あれも酒場か?」
「あんなところに酒場なんぞあったか?」
「でも、今まさに神が入って行ってるから店みたいだぜ」
「ちょって行ってくるか?」
「オレは何時もの酒場で構わないんじゃがな」
「酒を一杯だけ飲んでそれからまた行けばいいだろ」
何時も通う酒場の常連客として、顔を出す日課に「たまには」と気持ちでこれから行こうとした酒場を素通りし、『異世界食堂』と書かれた看板が灯るその店の中に入る。石造りで建てられた店の扉は黒い樫の木に窓は硝子製。店の奥が覗ける風になっているが男達は気にせず扉を開けて中に入る。
チリンチリン。
来訪客が来た合図として扉の内側に仕掛けられた、鈴の音が鳴り響く。
「何だこの酒、本当にエールなのか!」
「おい若造、このハンバーグとやらを三つお代りだ!今度はライス大盛り!」
「カツ丼もう一杯じゃ!」
ヒューマン、
「美味そうな匂いがするなぁ・・・・・」
「おい、酒を飲むだけじゃぞ」
「他の店と同じエールだったら直ぐに出るって」
獣人の男にドワーフの中年の男が忘れるなと指摘して、それを宥める風に苦笑いするヒューマンの三人組に料理を運び客に提供する若過ぎる店主から声を掛けられた。
「いらっしゃい、適当に空いている席へ座ってくれ」
「ああ、だったらまずこの店の酒を三人分だ」
「あいよ、少々お待ちを」
酒だけ頼んで直ぐに何時もの酒場へ向かうつもりの三人は、外の寒さが感じられないほど暖かい店内の中を歩き、奥行きの場所、窓際の席を占領する。
「おっ、この椅子は柔らかいな」
木製の椅子で座って料理を食べている客として、腰に伝わる柔らかい座席は初めてだ。高級な椅子にでも座らない限り味わえない感覚にヒューマンの男は感嘆の息を零した。
「さてと、この店のメニューはなんだろうな」
「見てもしょうがないじゃろ」
「おいおい、見るだけならタダだろ?」
獣人とヒューマンの男性は興味深々、好奇心でたった一冊だけ横に立てられた何気に分厚いメニュー表を開き内容を確認する。それぞれ肉と魚、野菜、麺、揚げ物、酒、
「おまたせしました。ビール三つ」
取っ手まで硝子の大きな
「・・・・・飲もうか」
「飲んだら出るぞ。よいな」
「ああ、他のエールと同じだったらの話だがな」
それぞれ手を伸ばし取っ手に触れるとキンキンに冷えられていることを知り、「酒を冷やして美味いのか」と
「「「―――ぷはぁっ!」」」
ビールを一息に飲み干した三人が同時に溜息を吐く。途中で一息入れることを忘れ、喉越し、キレ、ビールの独特の苦みに夢中になってしまう程、完杯した。
「な、何だこの酒・・・・・今日まで飲んできたエールとは比べ物にならないぐらい美味過ぎるぞっ」
「ダンジョンで疲れて火照った体が染み渡る様に涼しくなって気持ちがいいなこれは」
あまりの美味さで笑い合う二人は飲んでから沈黙しているドワーフへ顔を向ける。飲み慣れているエールであれば直ぐに他の店へ行く決まりなのだが、もう一人の友人も美味しそうに飲み干したのだ。結果は分かり切っている。
「この店の酒は他の店の酒と同じだったか?ん~?」
「俺とこいつの舌だけじゃ味の違いが分からないからお前の意見も訊きたいぜ。どうだったんだ。ん~?」
ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべて獣人とヒューマンから話しかけてくる。そんな時だった。
「ほい、ビール追加だ」
ガチャンと音を鳴らして、若い店主が再びビールを持ってきた。頼んでも無いのに何でだ?と疑問に満ちた六つの視線に店主は朗らかで言う。
「当店は今日開店したばかりでな。この店に初めて飲食しに来た客にはサービスで今日から三日間だけ、この店一番の酒を無料で提供しているんだ。無論、飯代はキッチリ払ってもらうけどこの酒は俺からの奢りだ。また飲みたくなったら注文してくれよ」
何て気前のいい配慮なのだ!しかも今日から三日間酒は飲み放題!飲兵衛達からすれば、目を輝かせて遠慮なく浴びるほど酒を飲めるこの店のサービスにヒューマンと獣人は歓喜で顔を輝かせた。
「タダ酒飲んで直ぐ別の店に鞍替えするってのは失礼だな!」
「ああ!ちゃんと飯も食って金を払ってこそこの店への礼儀ってもんだよな!」
またドワーフへ視線を送り「お前はどうなんだ?」と意見を求める。それに乗じて店主も不敵の笑みを浮かべる。それが気に食わんとしかめっ面なドワーフは今も尚沈黙を貫く。
「酒に合うつまみもタダで提供しているんだけどなぁ」
皿に持った緑色の野菜の数々が獣人とヒューマン、ドワーフの前に置かれる。
「塩漬けしたり茹でたりした野菜だ。この野菜、エンドウ豆は中身を外側から押し出す様にして食べながら酒と飲むとまた格別だ」
それだけ言って注文を求める別の客へと足を運ぶ店主。残された三人は置かれた野菜を一瞥して言葉を交わし合う。
「なぁ、何時までもムッツリしてないで食べようぜ?」
「そうだそうだ。それでもいらないってなら俺が飲むぜ」
無遠慮に伸ばす手はドワーフの分の酒に捉えていた。が、獣人に取られそうになったその酒の取っ手はゴツゴツとした大きな手の中に握られ、蓄えられた髭を濡らしながら耳に届くぐらい喉を鳴らす飲みっぷりの良い様子を見せるドワーフの口の中に酒が消えていく。
「ぷはっ!―――これはオレの酒じゃ、勝手に飲むんでは無いわ!」
ドワーフらしく頑固な性格で素直になれない相棒に男達は苦笑いを浮かべ合い、改めてつまみを食べ、他のメニューの品を注文する姿勢に入った。そんな客達の真上の階層、二階では一階の喧騒を訊きながら食事をしていた何時ものメンバー達がいた。
「好評のようで何よりやなぁー。明日は朝から店を開くそうなんみたいやけど、自分構わん?」
仮眷族としての働きはできなくなるという意味合いを籠めて訊かれたガネーシャは腕を組んで言い返した。
「ぶっちゃけ、今日子供達と揉め事起こした。ほとぼとりが冷めるまでは構わん」
「なに?ガネーシャの子供とイッセーが何をしたのよ?」
「うむ、詳しい事は分からんが寝ているところを邪魔されたとかで、俺の子供と喧嘩したのだ」
「「「(((ああ・・・・・してしまったのか)))」」」
どこの誰だか知らないが、それは絶対にしてはならないことだと【ロキ・ファミリア】最古参の幹部達は遠い目で心を一つにした。
「しかもイルタ―――下級冒険者なのに上級冒険者の超・有能な俺の子供を倒すとはガネーシャ超ビックリである」
「イッセー君が上級冒険者を倒すって・・・・・まるでフレイヤ様とロキを襲ったイシュタルの子供みたいだなぁー」
「ヘルメス?『私のイッセー』はイシュタルの子供と同じだと言いたいのかしら?」
「ハハハ、フレイヤ様。オレは実力の事を言っているだけだぜ?だからその
一先ず有り得ない強さの話はフレイヤの機転(?)で終わり、また別の話が湧く。事の発端はロキだ。
「せや!ちょい早いんやけどイッセーが【ランクアップ】した時の二つ名、予約として決めへん?」
「本当に早いわね。【ランクアップ】するか分からないのに考えても意味無いんじゃない?」
「でも、想像だけでもいいなら決めたいわね。頼んだ料理が持ってくるまでの間の暇つぶしになるわ」
「私のようにあまり交流していないあの子の印象って料理が上手なことぐらいしか浮かばないのだが?」
それぞれそう口にしながらも、好き勝手に頭の中で浮かんだ名を口外する。
「【
「あらロキ、【
「・・・・【
「うーん【魔導の錬金術師】かな?イッセー君が作る
「【天照の従者】!」
「【
「私は【愛玩狐】がいいわ。だって可愛いものぉ」
「【象神の料理番長】だぁああああっ!」
やんややんやと盛り上がる仮の
「酷過ぎる二つ名で行く気が・・・・・(ボソッ)」
「気を落とさないでくれ」
「後でヘルメス様にはキツく言っておきます。ですからどうか気をしっかりしてください」
「すまない。本気で言っているわけではない・・・・・はずだ」
そして直ぐ見つかる。階段のところで傍に料理を置き、膝を抱えて意気消沈の店主を何とか励まそうとするが、立ち直るのに数分も時間を要した。