ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか   作:ダーク・シリウス

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冒険譚2

「おはよう、イッセー!」

 

「主神様、昨日の今日でまた来たんだな」

 

「無論、お前の料理を食べにな!それにお前と交流を深めるために毎日顔を出すぞ!」

 

開店前の『異世界食堂』に現れるガネーシャとシャクティ。朝っぱから騒がしくてどこか暑苦しい男神は「立ち話もなんだから」と店内に招かれる。無人のホールの中を歩き、カウンターへ足を運んでそこに腰を下ろす。

 

「すまないイッセー」

 

「殆ど準備は済んでいたから別に構わない。というか昨日は悪かったな。もうあそこで寝ないようにする」

 

「私も最後までイルタを止め切れなかった。すまないな」

 

イルタと言われてあのアマゾネスの事だと察したところでガネーシャが話しに介入する。

 

「さてイッセー。異世界のガネーシャのことを是非とも教えてくれないか?」

 

「そう言われても、ガネーシャおじさんのことはあまり知らないぞ?」

 

「知っているだけでも構わん。ガネーシャ、超気になる。あと異世界のことも教えてほしい」

 

それでもいいなら、と一誠は二人に自分が知っている【群衆の主】ガネーシャのことを教え始めた。その後は自分が住んでいた世界の情勢を語り始める。

 

 

北西と西のメインストリート、冒険者通りに無所属(フリー)の冒険者、商業関係の人達が多く往来するようになる時間帯。ダンジョンに向かう冒険者達は道具(アイテム)の補充を兼ねて道具屋へ買い求めに向かいながらある店の看板を目にする。

 

「・・・・・あの文字、間違いないよね」

 

「見間違える方がおかしいわ。『異世界食堂』って・・・・・異世界から来た誰かが店を構えているはずだわ」

 

日本語で書かれた看板の文字を読める者しか理解できないその意味。歩く途中にデカデカと建物と一体化している大きな看板が自己主張している。そんな物は珍しいと注意を引くために作られたことを住民達は知る由もない。

 

「ちょっと、入ってみない?」

 

「そうね。新しい異世界から来た人かもしれないし」

 

少女達もどんな人が店を構えているのか、興味と好奇心でホームに戻る前に寄り道する。共通語(コイネー)で『営業中』と書かれて掛けられている樫の扉を開け放ち中に入ると、来訪者を知らせるベルが店内に奏でられる。一目で中を見渡せば、まばらであるが客はいる。皆、目を丸くしながら美味しそうに食べてお代りを求める声を上げる。それに応じる店主―――真紅の長髪を揺らす眼帯を付けた少年が二人の前に現れる。

 

「え、えっ?」

 

「あ、いらっしゃい。アスナとシノン」

 

「何であなた・・・・・ここで働いているの」

 

「俺の店だから働いているに過ぎない。食べに来たのならカウンターの方へ座ってくれ。そうじゃないなら退出してくれ」

 

注文を受けに行く店主の姿を固まって瞠目する少女達。一拍ののちに後から来た客の存在で言われた通りにカウンターへと向かい、既に座っている神と麗人の女性団員の隣に座りこむのだが。

 

「む、お前達は【アルテミス・ファミリア】の子供だな?」

 

「え、あ。ガネーシャ様・・・・・ですよね?」

 

「そう、俺はガネーシャだ!」

 

「ガネーシャ、店の中では静かに。イッセーに怒られるぞ」

 

麗人の団員に諭されて静かになる主神を目の当たりにして少女達は何とも言えない気持ちになった。まさか、異世界から来たヒーロー組の少年少女達を連行した派閥の主神と団員がいるとは―――彼の少年は故意でここに座らせたのか?と考えてしまうがガネーシャの隣に座る麗人の女性、シャクティの横目で見る眼差しに少し緊張する。

 

「あの・・・・・あの子達を解放してくれてありがとうございます」

 

「元より解放するつもりだった。その上、イッセーにも言われたからな」

 

「そうなんですか。えっと、彼はどうしてこの店を・・・・・?」

 

「簡単に言えば、ガネーシャを含めあいつの料理を食べに集う神々に『店を構えないのか』と何度も言われて応じたのだ。本音は何度も異世界の料理をたかりにこられ、食材や食費が無くなる一方だ、と言われてしまったがな」

 

当時の事を思い出しながら語るシャクティ。自分達の知らないところで他派閥の神々が一誠の料理を食べに集まっていたとは知らなかったアスナ達は「ああ、そいつの言うとおりだ」と言う声に反応する。

 

「何度も食べに来られちゃこっちも大変なんだ。二人は知らないだろうけど、【ロキ・ファミリア】の女性団員達は、療養の目的で俺の家に居候しているんだ。更に貴重な食材が減って苦労しているんだ色々と」

 

「そ、そうだったんだ・・・・・」

 

「ついでに、お前達の事もガネーシャと団長にバレてるぞ。異世界から来た人間だって、尋問を受けた連中がバラしてくれやがったからな」

 

「「っ!?」」

 

それは聞いていない。彼等彼女等がそんなことを言っていたなんて一言も。愕然の面持ちで丸くした眼の意味はガネーシャ達に悟らせて「安心しろ」と声を掛けられた。

 

「お前達は何度も私達と協力してくれている【ファミリア】の団員達だ。例え訳ありであろうと私達は信用しているお前達に対してどうこうする気はない」

 

「あ、ありがとうございます・・・・・助かります」

 

「だが、誰にも悟られず生き続けろ。私達がお前達を助けるのも今回で最初で最後だと思え」

 

「・・・・・わかったわ」

 

心から感謝して亜麻色の髪を揺らしながら頭を垂らす。シャクティの立場を言外する言葉の意味を汲み取ってシノンもコクリと頷く。話しは一区切りついた機会を待っていた店主は二人に注文を求める。

 

「それで、何か注文は決まったか?」

 

「あ、えっと異世界の料理ってどんなのあるのかな」

 

「メニュー表を見れば一発で分かるぞ」

 

促されてテーブルの隅に立てられている分厚いメニュー表を手に取る。めくれば様々な料理名や飲料物、甘い物が記された絵と文字がびっしりと四つの目に飛び込んだ。

 

「す、すごい・・・・・」

 

「お酒まで売ってるの?未成年なのに扱っていいわけ?」

 

「この世界に法律と年齢制限などないんだよ。酒なんて15歳の子供でも飲むって聞くしな」

 

「「異世界の年齢制限って低過ぎる・・・・・」」

 

「そうなのか?」

 

「俺達の世界じゃ酒は二十歳になってからじゃないとダメなんだ」

 

異世界の法律の違いにお互い驚いた風に声を漏らす。二人は酒を頼むことはなく、手頃な料理を注文して食べれば店主の料理の腕に驚嘆し感嘆する。

 

「ご馳走様、本当に君は男の子にしておくのが勿体無いほど料理が上手で美味しいね」

 

「女として色々と刺激されるぐらいにね」

 

「褒め言葉として受け取らせてもらうぞ。ああそれと、キリト達にもこの店の事言うだろうが全員で来るなよ」

 

店に訪れる前提で言う店主に不思議そうに視線を送るアスナとシノン。どうしてなの?と思う彼女等に答えながら店内を見渡す店主。

 

「一気に五十人以上来られると店の席が半分以上埋まって他の客が座れなくなるからだ。それでも来る気なら予約じゃないと入れない二階にしてもらうぞ」

 

「あ、二階は予約制なんだね。色々と考えて君は本当に凄いよ」

 

「ぶっちゃけ、店なんて構える気はさらさらなかったけどな。どこぞの神々が何度も言うもんだからしょうがなくなんだよ」

 

「何気にあなたって苦労しているのね」

 

「ん、苦労しています。店員だって今のところ俺一人だしな」

 

それでよく店を切り盛りできる店主に感嘆の念を抱かずにはいられない。ふと、アスナは質問した。

 

「ねぇ、アルバイトを募集しているの?」

 

「いや、してない。取り敢えず今は一人で十分だからな」

 

「じゃあ、こうしている間に誰が料理を作っているわけ?」

 

シノンの問いにガネーシャとシャクティも「どうなんだ」的な視線を送る。店主はふむ、と息を漏らし四人を手招く。先導する少年について行きキッチンの中へ案内されれば―――。分身体の店主達が広い調理場を独占して腕や手を動かし、料理を作っている光景を目の当たりにされる。

 

「「「「・・・・・」」」」

 

「こんな感じで俺自身が料理を作っているんだ」

 

一人で十分、と言った店主の言葉の意味を驚愕と共に理解し人材とコストを完全に0なこの店は、表も裏も色々と凄かったことをアスナとシノンは解らされたのであった。

 

「・・・・・これは、一体どういうことなのだ」

 

「魔法で実態を持つ分身体を増やしているんだ。雑用から戦闘まで何でも役に立つぞ」

 

「に、忍者みたい」

 

「うん、的を得ているぞアスナ。実際に分身体でも魔法が使えるし実力的にも俺と大差変わりないから強いぞ。な、皆?」

 

店主が話しかけると分身体達が「「「「「ウェーイッ」」」」」と一斉にこっちに向いて声を上げるのでシノンは素っ頓狂に驚く。

 

「しゃ、喋るの!?」

 

「分身体にも意思があるからな。だから大抵の事なら俺一人で全部できちゃうんだよ」

 

朗らかにそう言うが、それがどれだけ凄いことなのか本人は理解しているのだろうか。四人は驚愕と混乱の最中で立ち尽くし、少しでも手伝ってあげようかなと思ったアスナの気持ちが萎縮してしまった。

 

「ああ、それと」

 

店主が徐に告白した。

 

「俺も分身体だからオリジナルはここにはいないぞ?」

 

「「「「・・・・・えっ?」」」」

 

場所が変わって―――。

 

「風の噂でそういう食堂がこの近くにあると伺ったことがありましたが、まさか貴方のお店だとは思いませんでした」

 

清楚な白一色の石材で作られた建物、治療と製薬を主に活動している【ディアンケヒト・ファミリア】。個室の中で月に一度の商談をしていたアイズより年上だがその容姿は、精緻な人形、と彷彿させるまだ幼くも美しい少女から、徐々に己の店の知名度は高まっていることを知り、オリジナル―――一誠はいそいそとバックパックから人気のデザートを取り出して銀色の匙と彼女の前に置きだす。

 

「これは?」

 

「プリンというデザートだ。このデザートの味を知った客がこれだけを食べに来て、あっという間に完売させてくれる程大人気となりうるだろう一品だよ」

 

食べてみ、と促されヒューマンの少女、アミッド・テアナサーレはよく冷えた器を手にし、蓋を取ると卵と牛乳・砂糖で作られた卵色の表面が最初に目に飛び込んだ。噂程度でしか聞いておらず実物は見たことのないのでどんな味なのか、匙でプリンの表面に沈ませ掬い上げるとフルリと揺れた。嗅いでみるとほんのり甘くて良い香りがする。デザートらしいものであると認識しながら瑞々しい唇の中に差しこんでプリンの味を確かめようとしたその瞬間。

 

「―――っ!」

 

大きな銀色の双眸が見開き、今まで食べたデザートでも味わったことのない味と触感に思わず硬直する。

 

「器の底にあるソースと食べるとまた美味しくなるぞ」

 

アミッドの心境を察してか、そう説明されて匙を器の底まで沈めて救うと焦げ茶色のソースがプリンと一緒にくっついて取れた。これと一緒に食べると美味しいと教えられ、静かに口に運ぶと舌の上に広がる、プリンだけが持つ濃厚な卵と牛乳の風味を含んだ甘みに滑らかな食感と、茶色いソースの少しだけ苦みを含んだハッキリとした甘さ。そのソースの味がプリンだけ食べた時と違いさらに味を引き締める。この、圧倒的な組み合わせに・・・・・。

 

「美味しいっ!・・・あ、すみませんっ」

 

精緻な人形のような少女の顔に満面の花が咲き、意外と出た大きい称賛の声。だが、直ぐに我に返って朱を頬に浮かべながら謝罪するも少年は生温かい眼差しを送った。

 

「アミッドも女の子だってこと知れただけで嬉しいな。凄く可愛かったよ今の笑った顔」

 

「わ、忘れてください・・・・・」

 

羞恥で懇願する少女へ笑顔全開で「無理」と朗らかに言う。

 

「まぁ、そのプリンも含めて他の酒場や料理店に負けない美味い料理と酒を提供している。もしよかったらアミッドも店に顔を出してくれ」

 

「分かりました。時間が空いた時に必ずお伺いいたします」

 

「ん、待ってるよアミッド」

 

人懐っこい笑みを浮かべ―――新たな客を確保、これで店の評判はまた広まると、頬を紅潮させる少女の淡い恋心を知らず下種な考えをしていた。それからもう一つの【ファミリア】にいる知り合いの所へと足を運び、アミッドと同じようにプリンを食べさせれば、垂れていた獣耳がピンっと立ち、美味であることを証明する尻尾をユラユラと揺れさせていた。

 

「これ、うちの商品で出していいですか?」

 

「・・・・・その耳と尻尾を毎日触らせてくれるなら五個ぐらい」

 

「―――三十個」

 

「・・・そこまで客が来るのか?二十五個」

 

「イッセーさんの商品を広告等にすれば今より客足が増えるの間違い無しだよ。二十三個」

 

抑揚のない声音は、何時もと変わらないように見えるが確信を以って言っていた【ミアハ・ファミリア】の団員、ナァーザ・エリスイス。今年で十一歳になる十歳の少女。

 

「実際、ナァーザが食べたい数は?」

 

「・・・・・二十個」

 

「そんなに食べたら腹が壊れるのと、この店で売るなら必要不可欠の冷えた冷凍器が無いと直ぐ腐るから十七個」

 

そんな商談の譲れない駆け引きのやり取りを繰り返し尤もな事と的を得た指摘をして、受けて―――。

 

「その冷凍器を俺が作ってやる上で十五個」

 

獣耳がピクリと動いた。食材を扱うのに確かに必要な冷凍器。大きさによって値段は変わり、彼女の今の手持ちでは何十個もデザートを保存できる冷凍器を購入するのに少々心許ない。

 

「・・・・・分かりました。それで構わないです」

 

「ん、商談成立」

 

無償で保存が可能な道具も用意してくれる。これ以上の駆け引きはできないと判断し、ナァーザが先に折れた。

 

「それじゃ、早速前払いとして触れさせてくれないか?」

 

「・・・・・優しくしてくださいね」

 

「大丈夫。優しく・・・・・撫でる(めでる)から」

 

数日後、ナァーザが所属する【ミアハ・ファミリア】にプリンなる甘い食べ物が販売されるようになる。そのデザートを食べた客は虜になり、本来販売されている店より少し安い値段なので安さと美味しさに必然的に買い求めてくる。結果的に評判は高まり、道具店というより甘い食べ物を売っている店があると認識されがちになるのはナァーザ達【ミアハ・ファミリア】は遠くない未来、ちょっと考えものだなぁーと感じるようになるのである。そして何故かプリンを補充される度に眠たげな犬人(シアンスロープ)の少女は熱でもあるのか何時も顔を赤くしていた。

 

余談であるが。売れ残ったプリンがあると、誰が食べるか水面下でけん制と争いが勃発して主神が眷族達を宥めるようになった。

 

更に別の話であるが。商売敵に人気が出始め、とある初老の主神は悔しさと嫉妬で精緻な人形を彷彿させる女性団員に人気の秘訣を探らせたことで、とある少年が関わっていることが判明し、言葉にせずとも女の本能で犬人(シアンスロープ)は己の恋敵であると悟り。

 

「ナァーザ様。私はこのプリンを作る人をよく存じ上げております」

 

「・・・・・そうなんだ。でも、それがなに」

 

「あの人の膝の上で座るととても温かくて心地が良いのですが、それも存じておられますか?」

 

「・・・・・あの人は私の耳と尻尾に夢中だよ?」

 

二人の少女はこの瞬間お互いを恋敵の好敵手(ライバル)と認識し合った。

 

「(絶対に負けない)」

 

「(負ける気ないよ)」

 

 

西沿いのメインストリートにある食堂の知名度は少しずつ高まってきた。特にエールとは思えない程の味わいが楽しめ酒好きの飲兵衛達は最近飲んだ酒の中で一番美味い酒だと声を揃えて言う。見目麗しいウェイトレスはいなくてもそれに補う料理と酒が客達に満足感を与える。今日も噂や人伝で耳にした神、冒険者、一般人が半ば興味と好奇心、冷やかしに訪れてくる。

 

「ここが、美味い酒があるって言う酒場か?」

 

「おう、熱くなった体で飲むとまた格別なんじゃ。飲んだ瞬間、喉越しに苦味と伴った酒の味、そんでシュワシュワと弾けるあの刺激ある快感がまた堪らん」

 

「酒にうるさいお前がそこまで言うのであれば間違いはないだろう」

 

二人組のドワーフが占領している一つの席。片方は以前この食堂の酒の味を知ったドワーフ。もう一人のドワーフは硝子職人として熱い炉の前に立ち、室温が熱で高まった室内で日々硝子に関する物を作り続けている。今日この食堂に来たのは目の前の同胞に誘われたからである。

 

「今日はオレの奢りじゃ、何でも好きな飯を食え」

 

「気前が良いではないか。しかし、初めて来たこの店の料理・・・・・見たことも聞いたことも食べたことの無いものばかりで迷うわい」

 

少々分厚いメニューを開いてどの料理にしようか眉根を寄せて決めあぐねるドワーフ。こういった客が大半で、いざ食べると物凄く美味しいと感想を抱き、また食べに来ようという気持ちにさせるのがこの店の店主の料理の腕前なのだ。相席する誘ったドワーフの反応に初めて来た時の己と同じだと、懐かしみと一日の長であると見せしめに丁度料理を器用に複数持って横切る若い店主に無遠慮な言葉遣いで呼び止めた。

 

「若造!ビール二つと枝豆、それと唐揚げも二人前じゃ!」

 

「・・・・・おい、唐揚げとは何だ?」

 

自分より先に注文をした同胞への質問は店主が応じる。

 

「鳥の太股の部分を油で二度揚げした肉料理だ。味付けは塩と胡椒、隠し味は秘密だがこの店の酒に合う一品だよ」

 

「肉か。だったらこいつの注文通りで持ってきてくれ」

 

「あいよ。他の客の注文を優先にしてもらうから、少々時間が掛る。その旨御了承してくれ」

 

二十も満たない若い店主は一回りも二回りも歳を重ねたドワーフに対して臆せず、腰まで伸びた真紅の髪をなびかせて移動する。その姿を見送るドワーフは訊ねた。

 

「あの小僧がこの店の店主か?」

 

「そうじゃ。一人で店を構えて作ってこの人気じゃ」

 

「ほお、それは大したもんじゃな」

 

見渡せばそれは嘘ではないと証明している。現在は昼時だからか、それを差っぴいても二階建ての食堂の一階の席はほぼ満席まで席を陣取っている老若男女のヒューマン、小人族(パルゥム)犬人(シアンスロープ)狼人(ウェアウルフ)虎人(ワータイガー)兎人(ヒュームバニー)牛人(カウズ)猫人(キャットピープル)猪人(ボアズ)、アマゾネス、ドワーフ、エルフと言った他種族の冒険者から一般人、神威を放っている神も集ってこの店の料理に舌鼓を打って味を楽しんでいる様子を窺わす。耳を傾ければ酒や料理のお代りの要求、食べている料理に対しての感想、世間話などが聞こえる中。二階へ上る階段を目にした。

 

「確かに賑わっているが、二階もそうなのか?」

 

「二階は予約制のようじゃぞ。普段俺等のような客は一階(ここ)で食べる」

 

「そうなのか」

 

一体どんな客が予約するのか気にしたが、考えても硝子職人の己は気にしてもしょうがないと心の中で被りを振って考えを止めてから数分も経った頃。金色の酒と揚げたてでジュウジュウと音が鳴る大量に盛られている、焦げ茶色の塊に緑色の野菜を運んできた店主がやってきた。

 

「お待たせしました。ビールと唐揚げに枝豆だ。レモンを絞って掛けると唐揚げの味がさっぱりして更に美味しく感じるようになるから良かったらどうぞ」

 

待ってました!と言わんばかりに冒険者のドワーフは大振りな一個を、手にしたフォークで突き刺す。硝子職人のドワーフも見よう見真似でフォークで指すと、それだけでカラリと揚がった衣からジワリと肉汁が溢れてきた。二人のドワーフはそのまま、口に運ぶ。大きな口の中にまるまると入れて噛んだ瞬間、外はサクッと、中はふんわり。溢れ出て来る肉汁は濃厚で、今まで食べてきた鶏肉何かの旨味をあっさり凌駕するほどの旨味を余すことも無く含んでいることが分かった。

 

「(うおおおおっ!?なんだこれは、本当に鶏肉なのかっ)」

 

目の前の同胞を見ると美味そうに黄金色の酒を喉を鳴らすほど美味そうに飲んでいた。何故か後れを取ってはならないと気がして、冷えた(ジョッキ)の取っ手を手にし唐揚げを食べ終えたその口の中へ流し込んだ。

 

「(むぅっ!これは・・・・・合う!)」

 

そしてこのビールとやらの酒は、今日まで飲んできた醸造酒(エール)では味わえない喉越しとキレ味であった。無論、ドワーフの火酒や蜂蜜酒のよりアルコール度は強くないが、これほどまで酒と肉が合う組み合わせは出会ったことが無い。硝子職人のドワーフは感動した。

 

「ほれ、この枝豆も塩っ気が利いて美味いぞ」

 

不意に二つの皿の内の一つを差し出してきた同胞に不思議と首を傾げる。

 

「お前の分ではないのか?」

 

「飲み仲間のお前さんにも味の良さを知って貰いたくて頼んだに過ぎんわい」

 

「む、そうだったか。それじゃありがたく」

 

その枝豆も酒に合うと知り、それからも海の幸の食材を揚げたシーフードフライやオラリオでは見掛けない生魚の刺身など頼んでは食べて、至福の時を楽しみここへ招いてくれた同胞への感謝の念を向け、またこの店に夜も来ようと胸に秘めた。

 

「(こりゃ良い店を知ったな。他の仲間にも声を掛けてみるかの。しかし・・・・・)」

 

一つだけ気になることがある。

 

「のう、この店の名前は何じゃ?看板があるのじゃが文字が読めなかった」

 

「むぅ?ああ、あのヘンテコな文字は『異世界食堂』って読むらしいぞ。何でも極東の文字だとか」

 

「ほほう、かの東の最果てに存在する極東の国の文字じゃったか」

 

こうして人から人へと伝わり、『異世界食堂』の知名度が徐々に増えて行く。例え客として紛れこむ闇派閥(イルヴィス)の構成員でも足を運ぶほどに。

 

†―――†―――†

 

「へぇ、ここがそうなんだ。確かに日本語で書かれてるな『異世界食堂』って」

 

「でしょ?さ、早く入りましょ?」

 

【アルテミス・ファミリア】の団長と団員達が『異世界食堂』にやってきた時刻は夜。予約をしていない為、ヒーロー組は留守を任され主神と外食に赴いた。アスナとシノンの先導で再びやってくると、朝とは違って客は大勢いて飲食していた。客達が食べている料理を見てキリト達が色めき立つ中、店主が笑顔で出迎えた。

 

「いらっしゃい、早速来たな」

 

「うん、今夜はキリト君達だけ連れてきたけど席空いている?」

 

「勿論だ。奥に向かえば空いているぞ」

 

店主自ら十数人分も空いている席へ導く。それから注文を求める際はボタンを押す様に教えられると離れた。分厚いメニュー表を手にとって選ぶキリト達は声を上げた。

 

「ビールッ、ビールがあるぜっ!この世界に来て早二年目で懐かしの酒が飲めるのかぁ、くぅううっ!」

 

「何気に割高だが、この世界なら直ぐに稼げれるから金に困る事はない。大方冒険者向けなんだろうよ」

 

「おお、本当に色々とあるな。ってソバやうどんも作っているのかこの店は」

 

「う~ん・・・・・色んな調味料があるからこそ作れるんだよね絶対。どこで手に入れているのか今度教えてもらおうかな」

 

懐かしみながらも今直ぐ食べたい飲み物や料理を決め、店主を呼んでは注文を頼む。そしてものの数分でキリト達の前に異世界の料理が運び込まれた。

 

「おまたせ、腹いっぱい食べてくれ」

 

「「「「「おおお~~~!かんぱーい!」」」」」

 

大人達はビールを片手にジョッキをぶつけ合ってこの日まで生きてきた自分に祝う。未成年達もジュースを片手に大人達と同じ行動をして盛り上がる。黄金色の酒の上で泡立つ白い泡を口にし、喉を鳴らすほど飲みっぷりがいい様子のあと、一気に息を吐いて多幸感極まった表情を浮かべた。

 

「うめぇ~!今まで飲んできたエールじゃなくて俺達が知っている酒の味だぁー!」

 

「お前、よくここまで完璧に再現できたな。まだキリト達と同じぐらいの歳なんだろ?異世界から来た俺達からすれば絶対にできない事の筈なんだがな」

 

「作り方さえ解ればできるぞ、造酒」

 

「・・・・・お前、チートすぎんだろ」

 

同じ苦労を体験している者同士とは思えない店主の行動力に若干引くキリト。それでも目の前に置かれた料理は文句なしの美味しさで、何時も料理を作ってくれるアスナ達女性陣に申し訳ないが、夕飯はこの店で食べたいと心が動いてしまった。

 

「よーし、今日はじゃんじゃん飲んで腹いっぱい食べるぞー!」

 

「クラインさん、羽目を外し過ぎないようにしてくださいよっ」

 

「ねぇ、お持ち帰り用の料理ってないのかしらね?ケーキとかさ」

 

「聞いてみない事にはわからないねぇー。後で聞こっか?」

 

「ん、美味しい」

 

皆幸せそうに食事を楽しむその笑顔浮かべる意味は他の客達と変わらず、料理を提供する側はほっこりと気持ちが温かくなる。する気などなかったがいざ始めると「まぁ、結果オーライ?」的な気分になっていたところ来客が店内に入ってきた。

 

「しっかしキリの字よ~。おめー、同じ男として負けてんじゃねーのか?」

 

アルコールを大量の摂取して酔いが回って真っ赤な顔でキリトに絡む赤髪に極東の侍風の鎧を着こむ青年に「何がだ」と言いたげに見返す黒い剣士。

 

「強さはともかくこうして独自で店を構えて美味い飯や酒を作れるってんだ。男として技能の一つや二つ備えた方がいいんじゃねーのかってことさ」

 

「俺は別にそんなこと気にした事がないんだが。ていうか、それを言うならクラインだってそうだろうが」

 

「俺のことなんてどうでもいいだろ。問題は、お前がアスナちゃんの彼氏として負けてないところを見せなきゃ格好悪いんじゃないかって話しだよ」

 

そう言われてキリトの中の小さなプライドが刺激され「料理なら人並みぐらいできる・・・・・と思う」と言ってみたら。

 

「お兄ちゃん、簡単なパスタしか作れないのに見栄を張るのはカッコ悪いと思うよ」

 

「そうね・・・・・昔交代制で食事を作った時なんてエギルさん中心だったわよねキリト君達って」

 

「それ以外、外食だもんねー?」

 

「で、でもキリトさんはおにぎりやサンドウィッチを・・・・・」

 

「シリカ、それは料理とは言い辛いと思うのだけれど」

 

ささやかな擁護をされても殆どがキリトの料理の腕前を辛口でそれほど期待されていないと面と向かって言われた少年はへこたれ、追加を持ってきた店主からも憐れな者を見る目で言われる。

 

「・・・・・めっちゃ否定されてんなお前」

 

「・・・・・」

 

事実であるから周りから突き刺さる言葉の威力は強かった。キリトは言葉の槍に刺さったまま頭を垂らし沈黙してしまい、言い返す言葉すら無いに等しい。

 

店の戸締まりをし、食材の補充を済ませ遅い夕食も済ませて自室に籠る。魔導書(グリモア)で発現した魔法を初めて試す一誠は、明かりもつけず暗い空間の中で佇み精神統一する。憧憬の度合いによって成功率が左右される魔法故に十数年間過ごした世界を想い、己を慕う者達の顔を鮮明に強く浮かべ―――力強く発する。

 

「【ネオ・ワールド・ドア】」

 

心から想いを込めた無詠唱の呪文が短くも紡いだ。眼帯を外した右眼も虚空に向かって真剣な眼差しで凝視。思い浮かべるのは己の帰りを待ち続ける家族達―――。

 

呪文の言葉を口唇に転がしてから一拍遅れた時、眼前に楕円形の光の鏡らしき物が具現化した。扉じゃないのか?と不思議に思うも水晶のようにきらきら光る小さな粒子で構成したそれが次第に映すのは―――不意に濡羽色の右眼に異変が起きた。

 

「・・・・・」

 

濡羽色の片目だけが突然、別の景色を映しだした。暗く鏡のような物を見つめているそんな光景も。この現象は良く知っている。この現象が共通して出来るのはただ一人だけ。濡羽色の長髪を揺らして、己の右眼を通して鏡が映している場所へ急いで駆ける。その場所は―――黙々と食事をしている数多の者達がいるリビングキッチンだ。キョロキョロと両の目を周囲に向け、何かを探している様子の幼女に声が掛けられた。

 

「どうしました、オーフィス様?」

 

長い銀髪を結い、琥珀の双眸を向けてくるメイド服姿の女性にオーフィスと呼ばれた幼女は口を開いた。誰も驚きで目を見開く言葉を口にして。

 

「我の右眼、イッセーの右眼と繋がった」

 

「っ!」

 

『・・・・・っ!?』

 

オーフィスの言葉に嘘偽る悪意は微塵も感じなかった。冗談を言うような幼女ではないことも認知している。

彼女の言うことは本当だとばかり、不思議なことに幼女の右眼から涙が浮かび頬を伝って零れ落ちだした。悲しみも喜びも顔に出していないにも拘らずだ。―――もしかすると、と一縷の想いを縋るようにメイドは訊ねた。

 

「・・・・・オーフィス様、あのお方はこの世界に」

 

「いない、でも、我と繋がってるのは確か。鏡のような物で我等を見てる」

 

「鏡、ですか」

 

リビングキッチンには鏡も、それになるような物は無い。なら、どうやって見ているのかと推測すれば魔法か魔導具(マジックアイテム)で介していると思うのが妥当かもしれない。

 

「・・・・・イッセー、何か書き始めた」

 

「分かりますか?」

 

「ん、我の目で良く視える。―――『リーラ、皆。お前達の姿だけでもようやく見れた。異世界の魔法でそっちの世界に繋げているけど、あまり維持していられる時間は少ない。オーフィスの目を介して言葉の代わりに文字で伝えてるから尚更だ。オーフィスには伝書鳩的な感じで皆に伝えさせてもらっているようだからごめんな?』」

 

我は気にしない、といった風に首を横に振る。

 

「『俺がいる今の世界は地下迷宮都市オラリオっていうダンジョンがある場所に住んでいる。モンスターと人類が天敵同士でフレイヤお姉ちゃんやロキ兄さん、ガネーシャおじさん達と同じ名前の神々もいるわけなんだけど、人間臭すぎて神として敬えないのが心境だ。ロキなんて女性で何故か関西弁で語るし、酒好きで女好きと極まる』」

 

―――そんな神、こっちにもいるような気がする。と誰も突っ込めずにいると、一誠からの状況報告は約一分ぐらい続いた。その間、苦笑いと驚き、感嘆の反応を繰り返す一同。

 

「『それと驚いた事に俺と同じ境遇の人間もいた。別の世界で死んで神の力で甦った転生者って特殊な人間もいる。もしかすればお前等も俺がいる世界に来れる可能性がある。その方法は分からないけれど、もしお前達も来てくれたら俺は―――』」

 

不意に、オーフィスの口が不自然に止まり皆は不思議そうな雰囲気を纏う。

 

「繋がりが途切れた」

 

その一言で皆は悟った。魔法の効果が切れたのだと。だが、それでも久しぶりに自分達の中心たる人物の生存が明らかになったことで胸を撫で下ろす気分になる。

 

「一誠君・・・・・元気で良かった。ね、ヴァーリ?」

 

「ああ・・・・・欲を言えば姿を見たかった。オーフィスだけが見れるのは正直羨ましいのだがね」

 

「我もイッセーの顔は見れない」

 

「ねぇ、また繋げてきた時には魔法的な力で精神だけでも喚べれない?」

 

龍門(ドラゴン・ゲート)ですね・・・・・ヴァーリ様とクロウ・クルワッハ様、オーフィス様だけでは足りませんね」

 

「他の龍王にも力を借りましょ?事情を説明すれば分かって貰える筈だわ」

 

やることが決まれば彼女達の行動は迅速だった。直ぐに通信式魔方陣でとある者達へ連絡を取り始めて準備を整えだす矢先にオーフィスが「あっ」と漏らした。

 

「また繋がった」

 

『えっ、もうっ!?』

 

ホームステイな少年の気持ちを見誤ったかもしれない面々であった。―――しかも、今度は少し状況が違った。濡羽色も右眼に真紅の魔方陣が浮かび上がり、そこから鮮やかな赤い光で何かが投影され始めた。立体映像が徐々に目の前で作られていき―――。

 

『・・・・・おおう、やってみるもんだな』

 

生身の肉体ではなくとも、オーフィスの右眼から立体映像として現れた一誠が自身の体を確認しながら状況を把握、成功したと朗らかに笑みを浮かべた。

 

「い、一誠君・・・・・?ど、どうやって・・・・・?」

 

『オーフィスの目と繋がっているならさ。もしかしたら意識だけでも行けれないかなーって試しに精神体だけで来てみました』

 

「じょ、常識破りも良いところよ貴方・・・・・こっちが今、それをしようと思ったところなのにそっちがそれをするなんて」

 

愕然の面持ちや絶句、中には不敵に笑みを浮かべて半分透明な一誠を久しぶりに見つめる。

 

『よくイレギュラーって呼ばれてるからこんなこともできなきゃ』

 

形はどうあれ、時空と次元を超えて生身でなくとも元の世界に帰ってきた。それが何よりも本人は嬉しくて堪らなかった様子のようで嬉しそうに笑みを浮かべる。

 

『みんな久しぶり』

 

「っ・・・・・」

 

まだ、「ただいま」は言えない。皆と三年振りに会えて「久しぶり」の言葉を選んで発した。一誠も彼女等もお互い「ただいま」「お帰り」と言う日はまだまだ先にである。

 

『立体映像だから、触れられないのは非常に残念極まり無いよ。リーラ、皆も』

 

片手をオーフィスの頭に触れようと動かすと、スッと濡れ羽色の頭に沈んでしまう。しかし、それでも幼女は目を細めて何かを感じ取っている様子だった。

 

「触れずとも私達は一誠様のお姿とお声を聞けて嬉しいです」

 

『・・・・・同感だけど、やっぱりな。っと、もう魔法の効果が切れるか』

 

立体映像の一誠の足から消失していく。言葉通り、魔法の持続時間の限界が迫ったのだ。彼女達との別れの時間が迎え、リーラは寂しげに残念そうに漏らす。

 

「お早いのですね・・・・・」

 

『異世界の魔力の能力値が0だから魔法を発動できる時間は短い。本来の魔力でだったらそっちの世界に帰れたかもしれないけど、まだまだ先のようだ』

 

糠喜びさせて悪い、と申し訳なさそうに謝罪の念を顔に出して謝る一誠を非難する理由は無い。と慈愛に満ちた目で見送るリーラ。

 

「それでも私達は、貴方の帰りを何時までもお待ちしております」

 

その言葉を聞けて満足そうに微笑み、両手を伸ばす。その意図を察して彼女も両腕を伸ばせば包むように手と手が重なる。すると、手の平から伝わる何かに琥珀の双眸が少し見開いた。

 

『ああ、待っていてくれ。今俺がいる世界とそっちの世界と行き来できる魔法を編み出して帰ってみせる―――』

 

最後まで言えずにとうとう消えてしまった一誠。オーフィスの右眼に浮かんでいた魔方陣も消失して、場は静まり返る。幻だったのかと思うほど、今起きた現実を否定する要素は無いと喜びを噛み締め、友人同士話し合い顔を見合わせ笑みを浮かべ合う他所に胸元に両手を添えて・・・・・立体映像から渡される筈も無い温もりを堪能する。

 

 

「・・・・・」

 

精神体が戻り、目蓋を開ける。懐かしの家族達の姿を見られて心は―――。

 

「魔法、つかってどうだった?」

 

「うおっ!?」

 

薄暗い部屋の中にベッドの縁に腰を下ろして話しかけてきたヘファイストスの存在に不意打ちを食らって驚かされた。

 

「いたのか」

 

「ええ、返答もしないから寝てるのかと思ってみたのだけれど、光の鏡みたいなのを前に立って集中している貴方を見て、邪魔をしちゃ悪いと待ってたわ」

 

気を遣ってくれたことに感謝と謝罪の念を抱き、結果を告げる。

 

「異世界にいる家族と話ができた」

 

「本当?凄いじゃない。家族の人達も喜んでくれたでしょ?」

 

「ん、これだけでも奇跡的なことだ。あとは魔力を増やしてどうにか異世界と繋げたい。が、俺には絶望的だ」

 

肩を落として落胆し嘆く。一誠はドラゴンでリヴェリアからオッタルを凌駕する力を秘めているとも言われているほど実力は高い。深層のモンスターを倒しても熟練度やアビリティは不変で成長する兆しがない。ヘファイストスは知っている。もしかすると未来永劫、【ランクアップ】することがないまま生き続ける恐れの可能性が高い事を。それでも神として、女として他派閥の団員になっても彼を支える事を厭わない鍛冶女神は立ち上がって真正面から抱きしめた。

 

「絶望的でも微かな希望があるなら頑張りなさい」

 

「・・・・・ん、そうする」

 

励まされ、顔を上げると右眼に漆黒の眼帯を付けた紅眼の女性の顔が視界に入る。互いが眼帯を見せつけ合い二人だけの雰囲気を醸し出し始め、どちらからでもなく距離を縮め・・・・・唇を重ねあった。ただ触れ合うだけのキスでも胸が多幸感で膨らみ、動悸が激しくドキドキと高鳴るほど緊張と興奮をしている。紅髪と同じ紅潮する顔で愛おしい少年を見上げながら首の後ろに腕を回し、身体を押し付けつつ熱く息を吐く鍛冶神の顔は熱く潤った目と共に一柱の女神でも【ファミリア】の主神でもない、一人の(おんな)のソレを浮かべていた。

 

「イッセー・・・・・今日も・・・・・」

 

ベッドに引き寄せられ押し倒される。密着してきた身体は熱でもあるかと思うぐらい熱かった。心なしか甘い匂いも強く感じてきた。

 

「・・・・・シよ?」

 

「ん、わかった。でも―――」

 

「―――今日もするのであれば手前らも参加するぞ!」

 

彼女等の甘い雰囲気が眷族の金槌でブチ壊された。当然のように部屋に入ってきた椿―――に連れて来られた形の様子のリヴェリアがベッドの上で体を重ね合っている様子を見てどこか冷めた口調で話しかけた。

 

「何をしてる」

 

「魔法の事で慰められながら押し倒されていた」

 

「・・・・・魔法?」

 

「異世界に行き来できる魔法を得たんだけど、魔力0だから望んだ通りはならない結果に嘆いていた」

 

嘘ではない、と伝えたかったリヴェリアにヘファイストスを抱えながら起き上って背中を見せつけた。ハイエルフはその翡翠の双眸で【ステイタス】を確認すれば、異常な魔法が新たに発現していることを認め、認知した。

 

「0でも魔法は発動する。めげずに明日でも唱えてみてみるべきだ」

 

「ん、ヘファイストスにも慰められていたところだ。それと二人は何でここに?」

 

「お主の部屋に主神様がこんな夜更けに入っていく理由など一つしかあるまい?故にリヴェリアもお主の事を好いておるから手前が気を利かして共に夜を過ごそうという魂胆よ」

 

違ったか?と問いかけに苦笑を浮かべ「魔法を発動していた最中にやってきたから何とも言えない」と返事する一誠だった。

 

「でもヘファイストスは『そのつもり』だったようだから、俺も今そうしようと思い掛けたところだったけど」

 

「ふむ、結局は手前の考え通りか?」

 

「イッセーお前・・・・・」

 

椿と神ヘファイストスに手を出していたのかと少なからず衝撃を受けたハイエルフに手が伸びる。何時の間にかベッドから離れ、目の前に立っていた愛する少年に腰と頭の後ろに腕を回されて抱きしめられた。

 

「せっかくだ。リヴェリアも一緒に夜を過ごそう」

 

「なっ、いや、私は・・・・・待てイッセー・・・・・んッ」

 

抵抗はするが、愛撫と優しくて情熱的な口付を向けられる視線に感じながらされ続け、時折「大丈夫、恥ずかしいのは皆同じ」「リヴェリアも今日も俺から離れられない気持ちにさせる」等と甘い言葉で尖った耳に囁かれ、何時しか耳先まで紅潮して初心な少女のように震える。

 

「それとも、もう俺と愛し合うのは嫌になったか?」

 

「―――――っ」

 

その問いはズル過ぎる、と心中で漏らし今まで伸ばさなかった腕を少年の首に回し始める。今度は自ら一誠の唇に唇で深く重ねると舌が彼女の舌に絡みついてきて、その舌を愛おしげに熱を孕んだ翡翠の瞳を潤わせ自分の意思で応じ絡める。

 

「馬鹿者、誰が嫌になるか。私はお前が必要なのだ。これからも私を愛してもらいたい」

 

「ん、よかった。だったら今夜は今まで以上の愛し方でリヴェリアを愛して可愛がるよ」

 

「・・・・・っ」

 

ヒョイっと横抱きに抱え、ヘファイストスがいるベッドへと寄って傍に置いて、半ば置いてけぼりな椿も呼んで川の字に並べさせたその後。三人は奮闘する一誠の情熱的な愛によって嬌声を上げ続け、その身と心は一色に染まった。

 

「リ、リヴェリア様があんな姿を、あんな声を、あんな表情を・・・・・っ」

 

出遅れた顔を赤くしているエルフの少女が覗いていたことなど露も知らずに。

 

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