ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか   作:ダーク・シリウス

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2話目、最後辺り新たに話を付け加えました。


冒険譚3

身体が起床する時間帯を覚え、意識を覚醒させた。寝ぼけ眼で上半身が裸のまま、両腕や体の上から心地の好い体温と柔肌を覚えて視界を変えれば、全裸で寄り添い、覆い被さるように全身を密着させて目を開けている三人の美女達が映り込んだ。

 

「おはよう・・・・・いい朝ね」

 

「アレだけシたというのに・・・お主の熱は冷めるどころか昨日より更に硬く高まって高揚しておる。火傷してしまいそうだ」

 

「・・・・・三人でも足りないのかお前は」

 

朗らかに微笑むヘファイストス。男の熱を直で感じ蕩けた顔の熱で浮かれたように潤っている目をして、そう言う椿の発言を聞き凄さを通り越して呆れるリヴェリアに顔を寄せて唇を重ね始めた。鍛冶神の裸体を触れる手は下半身に伸び、覆い被さっている最上級鍛冶師(マスター・スミス)に体を動かして快楽を与え始める。のちに三人から熱い吐息と艶やかな嬌声が聞こえ、爛れた朝を迎えるのに時間はかからなかった。

 

 

「・・・・・」

 

今年で十一歳になるアイズ・ヴァレンシュタインは物凄く張り切っていた。その理由は久しぶりに一誠との模擬戦ができる故に誘われたその瞬間、顔を輝かせて満面の笑顔で二つ返事で頷いた記憶がまだ新しい。そんな少女の奮闘ぶりを見ようと神や眷族達が『幽玄の白天城』の最下層、トレーニングルームの安全な観戦席から見守る。対峙する当の二人は五Mも離れた位置で己の武器を構えてその時を待つ。頭上に浮かぶ四角い大きなブロック状の四面に数字が浮かび秒読みをしていて、カウントが0になった矢先に金髪をなびかせて少年へ駆ける金眼の少女が先に動いた。一瞬でモンスターを切り捨てる斬撃が魔力で具現化した光の剣に軽く受け止められ、強く押し返された瞬間に飛んでくる光の斬撃を前に、膝を折って後ろへ上半身を倒し直ぐ真上で通り過ぎる斬撃から紙一重でかわして見せた少女の視界に入る、幾重の斬撃が飽きもせず馬鹿の一つ覚えのように放たれる。

 

背中の中心が発光し出し、三対六枚の翼が生えだした。観戦席から「アイズたんマジ【天使(テ・シーオ)】やぁっ!」と狂喜の声が聞こえたが少女の耳は完全に無視して、数多の斬撃を飛びながら回避するか受け流しつつ宙から一誠へ肉薄仕掛る。鬼気迫るその気迫と無謀な突撃に度胸ある行動は、あっという間に距離を縮め懐に飛び込めることができた。

 

「―――」

 

ニッ、と不敵の笑みを浮かべた一誠。全身を一瞬で『熾天使変化(セラフ・プロモーション)』、天使と化して迎え撃った。開始早々の本気モードの一誠に嬉しさと自分も本気を出さんと「【母の風よ(エアリエル)】!」と攻防一体の風魔法を発動し、風の鎧で身を守る少女の意図に、ひとつの翼の切っ先に雷が宿り、その翼を動かし稲妻の如く風の鎧という壁を抵抗も感じさせず突き貫く。その瞬間を直視した金眼は大きく見開きながら顔を逸らし、金髪を数本が宙に舞った程の犠牲でかわせた。自分の魔法は当たらない限り通用しないと悟るや否や、他の翼まで槍のように突き、剣のように振り下ろしてきた一誠に柄を両手で持って苛烈な攻撃を一瞬の気の緩みを許さない一方的な防戦を強いられる。不意に翼の攻撃が不自然なまでに止むとアイズの周囲に光球がポツポツと虚空から浮かび上がる。それが何の意味を成すのか定かではないが、本能的に立ち止まっていたら負けると全力で後退したその瞬間。光球から閃光(ビーム)が放たれた。初見の攻撃をかわした少女に感嘆の息を漏らしながらも閃光で攻撃する少年に外野から「あんなこともできるのかよ」「異世界の魔法は何でもアリか」などと驚嘆と愕然が漏れる。

 

「これはどうだ」

 

「っ!?」

 

バンと床に手を叩き付けたその一拍後。足元が震動を起こし、ついには朱色の光がフィールドから天井まで伸びる数多の灼熱の炎柱が突き破りながら続々とランダムでアイズの方へと迫った。その現象は異なるも都市最強の魔導師の魔法と似ていた事に【ロキ・ファミリア】の幹部達は目を丸くする。迫りくる炎の魔法攻撃を避ける為、負けじと下から山の噴火の如く飛び出す炎柱が出ていない空間へ全力で身を飛びこませる。前へ前へと進み、直ぐ傍で発生する噴きだす炎で朱色に照らされつつも一誠へ駆けだす―――。

 

「ヘル・ファイアーウォール」

 

横薙ぎに振るった一誠から生じる巨大で長大な炎の壁。壁や天井まで伸びて少年を守るのではなく少女へ押し迫る炎の壁は驀進する。逃げ道は無い窮地に立たされ、圧倒的な魔法の力を見せつけられるように半ば立ち尽くす。ただの冒険者であれば、降参するか死を連想して泣き叫ぶか逃げ出すかもしれない。だが、金髪金眼の少女は短剣の柄を強く握り締め、「【母の風よ(エアリエル)】」と呟いた。

 

フィールドの半ばまで迫っている炎の壁を見送る縦に分かれた金眼の瞳孔。この程度も超えれないようではまだまだ先の話だと、二重目の炎の壁を生じたその瞬間―――ふと感じる膨れ上がった魔力。二つ目の炎の壁の一点に凝視する。下から上昇する炎の動きが他の炎の動きと変わっていないが、しばらく経つと突然揺らめきに異変が生じた矢先に風に包まれた少女が顔中に汗を浮かべつつも飛び出してきた。見に纏う風で炎の残滓を散らばせつつ、短剣を真っ直ぐ前に構えてながら全身で息をするアイズの前に一瞬で迫って、腹部に拳を突き刺して宙へ殴り飛ばす追い打ちを掛ける。疲れ切ったところを狙った行動は、妥協も甘えも女子供であろうが容赦しないと意味合いが込められたいた。

 

 

爆発的な脚力で宙を蹴り突貫する勢いで懐に飛び込み光剣を振り下ろす。攻撃してくる相手に負けじと眦を裂き、奥歯を強く噛み締め応戦しながら必死に剣を振るも、隙を見せた相手に少年は妥協を許さない。巧みに剣に剣を添えて素早く弾く感じで上へ持ち上げられた少女へ槍の如く鋭い蹴りを小柄な体に突く。金眼を限界まで見開き、幼い体の許容範囲を軽く超えた痛みは激痛と共に内臓までダメージを与え、胃液と交じって出た血を口から吐き出しながらも、タダではやられまいとか飛ばされまいと一誠の脚衣を小さな手で掴んだまま魔法を解き放った。

 

「【母の風よ(エアリエル)】!」

 

全力全開の一矢報う攻防一体の風が少女から噴き上がり、愛剣に纏う嵐が零距離にいる相手へと目掛けて突き出した。両手の光剣を交差して防御態勢に構えるがアイズを守る小規模の嵐に切り刻まれながら弾かれるように吹き飛ばされた。が、直ぐに床に足を着いてアイズから数Mの距離で踏ん張って止まる。全身に刻まれた痕が残し、切り傷から軽く血を流す程度で一誠は大して深いダメージを受けていないことを窺わせる。そこからアイズへ声を掛ける。

 

「まだいけるか?」

 

「まだ、いける、よっ・・・・・!」

 

「わかった。続けるぞ」

 

立っているのがやっとのような己より小さい少女。でも、金の双眸を覗き込めばまだ死んでいない戦意の光が宿っており、顔はこの瞬間を待ち遠しかったの表しとして笑みを浮かんでいた。だから彼女の気持ちを尊重して、亜空間から取り出す十字架型の盾を装備して更に怒涛の攻撃を仕掛け始める。

 

どれだけ傷を負って床に血反吐を撒き散らして何度も倒れようと、無様な姿を晒しても何度立ち上がって己の限界を超えるまで戦い続ける目も当てられない模擬戦中、不意にロキが口にした。

 

「なぁ、フィン達も戦ったらLv.7の夢じゃあらへん?」

 

「試す価値は十分あると思うけど。全力の命懸けの戦いになるよ」

 

「【猛者(おうじゃ)】を始め他の第一級冒険者が束になっても、勝ち負け関係なくしてもお互いタダでは済まないだろう」

 

相手が最強の冒険者達であったら一誠も本気にならざるを得ないだろう。アイズとしている模擬戦以上の戦いを繰り広げる筈だ。それにあの【天使(テ・シーオ)】の姿になった時の一誠の力は未だに未知数。モンスターとしての強さもまだ知らない。

 

「儂は戦ってみたいのぉ。軽くフィンとあやつが手合わせをして以来、異世界のモンスターだと知ってからどのぐらい通用するのか興味が湧いておったわ」

 

一人、好戦的な意見を漏らすドワーフの老兵。機会があれば戦う意思を伺わせる手のひらに握り拳を突き付けたガレスの瞳にとうとう少女が床に倒れ伏せた様子が映った。

 

「む、終わったようじゃな。今回は前回よりも長かった方か」

 

「店を構えてからあの子と過ごす時間が減ってしまったからだろう」

 

アイズは直ぐに傷と体力を回復して貰って立ち上がったことでお互い頭を垂らし礼をし合う。模擬戦が終わった二人を労いにフィールドへ降りるロキ達。

 

「今回も凄かったやで。またアイズたんの【ステイタス】もかなり伸びたんとちゃう?」

 

「手応えは感じた筈だ。アイズの全力の模擬戦をする度に力を増してきているぞロキ。この調子でいけばもう10年以内に第一級冒険者になる可能性が高い」

 

「ほー、それは経験上で言っとるん?」

 

「当たり前。俺も16の歳でこの強さを得たんだからな」

 

金眼を見上げてくる少女に頭を撫でながら「その時こそが俺に本気を出させる戦いができるだろうよ」と期待が籠った言葉を述べ微笑んだ。誰もその本気の一誠と戦ったことが無い。ならば、本気になった一誠はどのぐらい強いのか、気になるのは当然であろうか。

 

「イッセー、本気を出したお主はどのぐらい強い?」

 

「ドラゴンになったら軽く山を消し飛ばす」

 

「・・・・・おお、そうか」

 

階層主でもできぬことをやってのけると朗らかに言われた椿の頬が若干引き攣った。モンスターとしての力、異世界で培った実力は軽くそれをこなすことができる一誠が過ごした人生は波乱万丈で濃厚なのである。

 

「まさかと思うが・・・・・お主の中のドラゴン達もそれが可能か?」

 

「片手で数えるぐらいしかいないかな?ま、無意味に山を壊すことはしないよ」

 

「する気が無くてもそうして欲しいわ」

 

加えて封印されているドラゴン達が人間界に放たれればたちまち世界は壊滅する。一匹一匹が階層主を上回る力を有しているのだから、第一級冒険者が束で掛らないと戦えないそれほどまで凄まじい怪物なのだ。間近で見た一柱としてヘファイストスは小さく溜息を吐いた。

 

「なんなら、異世界のドラゴンと戦ってみるか?」

 

「む、可能なのか?」

 

「この空間なら問題ないのと、俺がいる限り勝手なことはさせないから大丈夫だ」

 

どうする?と訊ねられたフィン達は冒険者として仲間と視線で相談し合い、頷き合った。

 

「分かった。貴重な体験をさせてもらうよ」

 

「階層主との違いを知る良い機会じゃ。異世界のモンスターの強さを見せてもらうぞ」

 

「了解。なら準備をするかな。ああ、それと。別に殺しても構わないぞ。殺しても死なないタフなドラゴン達ばかりだから」

 

「どれだけ化け物なのだ異世界のモンスターは」

 

観戦席へ一誠は戻る。これから始まる戦いは対人同士の模擬戦の方が可愛らしいと思うほどの死闘が繰り広げられる。彼等に戦いに巻き込まれないよう一誠も観戦席で防壁を張るのだった。

 

「オッタル、貴方も戦ってみなさい」

 

「はっ」

 

フレイヤの命で最強の冒険者も参加する。三人の武器は全て不壊属性(デュランダル)。並みの武器では直ぐに壊れて戦えなくなると大剣と槍、斧を貸し与えられた。右眼の眼帯を外し、濡羽色の瞳を晒し深緑色の魔法円(マジックサークル)を展開した。それと同じ幾何学的な円陣が空間にも大きく発現して深緑色を発する高潮して一瞬の閃光を迸った光からその姿を現す一匹の怪物。

 

『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!』

 

巨人型のドラゴン。肌黒い鱗に覆われた巨躯、ドラゴンらしく翼と尾を生やして銀色の双眸にギラギラと戦意と殺意、狂気と狂喜が混ざった色を浮かべて、頬を嬉々として釣り上げている。そして一誠に話しかける怪物。

 

『おい兵藤一誠、俺を出したからには戦っていいんだろ?』

 

「勿論。これからお前が戦う相手は潰れても問題ない。最悪、手加減してても間違って殺したらしょうがないぐらい相手をしてやってくれ」

 

『グハハハハッ!ああ、間違って殺しちまったら仕方がないよな?ならよ、手加減せず殺し合いをさせてもらうぜ!』

 

最初からする気が無いことを哄笑しながら己の相手を見据える銀の双眸は愉悦に細めた。

 

「・・・・・理知を備え取るモンスターはともかく、異世界のモンスターから感じるこの迫力と威圧は階層主とは比べ物にならないぐらい凌駕しているね。親指が震えてるよ」

 

「儂もじゃ。武者震いがするわい」

 

「・・・・・」

 

第二戦目の模擬戦はそれから始まり、第一級冒険者と異世界の怪物(ドラゴン)の戦いは激しいものであったと、一誠はフィールドで攻防を繰り広げる冒険者とモンスターの戦いが終わるまで見守った。絶対に壊れない武器を片手に振るおうとも、滅んだドラゴンの中で最硬の鱗とグレンデル本人の狂気なまでのタフさの前では骨が折れる戦いであった。

 

「何て鱗じゃわいっ。不壊属性(デュランダル)の武器の方が悲鳴を上げとる感じがしてならんわ」

 

「ああいうモンスターは目を潰してから倒すのが定石(セオリー)なんだけれど、潰したところでどうにもならないかもしれないのと、有効的な攻撃をしてくることを理解している知能を持っている。厄介だね・・・・・」

 

「これが、理知を備えている異世界のドラゴンの強さと力・・・・・か」

 

『チッ!チョロチョロと動き回りやがって!』

 

グレンデルも中々攻撃が当たらず苛立ち始める。もしもこれが通常の階層主の戦いであれば、フィン達の勝利になっていたかもしれない。しかし、今回の相手は異世界のドラゴン。何十年も培ってきたダンジョンのモンスターや冒険者に対する戦闘経験は通じるとは思えない。しかしこの戦いで勝てば【経験値(エクセリア)】の糧になるのは間違いないと踏むフィン達の目の前でグレンデルが行動に出た。

 

『ったく、真正面から攻撃し合うこともできねぇ相手との戦いは姑息で面倒臭ぇな』

 

愚痴を零しながら全身を発光して巨人の体が見る見るうちに縮まり、やがてオッタルの頭二つ分、三Mほどの巨躯の体まで小さくなったグレンデルに三人は目を丸くする。

 

「君達ドラゴンは、そんなことできるのかい?」

 

『力のあるドラゴンはできるんじゃねーのか。俺の場合は兵藤一誠に言われた戦い方だけどな。こっちのほうが小回りも利いて動きやすい分、攻撃の威力が減ってしょうがないがその分殺し合いが楽しめれるんで最高だと、よぉっ!』

 

飛び掛かるグレンデルが小さくなったことでフィン達もこれならこちら側の攻撃も通ずるはずだと攻勢に出る。

 

「アリサ、どうだ?あれがグレンデルの強さだ」

 

「凄い、三人に負けてない・・・・・」

 

「見た目に判断してはダメってことさ。相手が人間だろうがモンスターだろうがな」

 

「うん、わかった」

 

技のフィン、剛力のガレスとオッタルの連携は身体を小さくしたグレンデルを圧倒した。だが、不壊属性(デュランダル)の武器では切断することはできずにいて、ただ衝撃と震動を与える鎚変わりの武器と化している。結果、刃が劣化、摩耗して潰れてしまい凄まじい防御力を持つ邪龍相手に決定打ができないまま時間終了まで続いて引き分けとなった。フィン達は無傷でグレンデルは鼻や口の端から赤い血ではない血を垂らし、目を潰されている軽傷ではない傷を負ってもピンピンして立っていた。

 

『チッ、もう時間切れかよ。でもま、それなりに楽しめたほうか』

 

「ははは、僕達相手に倒せなかったモンスターは君が初めてだよ」

 

『てめぇらが倒している雑魚モンスターと一緒にすんじゃねぇよチビが。本当に殺していい戦いだったら嬲り殺すつもりだったのによ』

 

「手加減をしていたと言うのか」

 

『いーや、殺す気満々で戦ってたぜ?グハハハハッ!またヤろうぜ、血湧き肉躍る殺し合いをよッ!今度は確実に殺す、絶対にぶっ殺してやるからよ!』

 

展開する深い緑色の魔方陣の光に包まれながら再戦を望む言葉を残し、三人の前からいなくなった。戦闘による緊張感が溜息と共に解き、手応えがありながらも倒せなかった事実を感慨深く噛み締める。

 

「オッタル、異世界のドラゴンと戦ってどうだったか感想を教えてくれるかな?」

 

「・・・・・奴の異世界に行けばまだまだ高みへ至れるかもしれん」

 

「行く事が出来るならば儂も行ってみたいもんじゃよ。じゃが、その前にダンジョンを攻略しないことには話しにならんじゃろう。グレンデルのような化け物が深層の更に下の階層におるかもしれんからな」

 

そうだね、とガレスの言葉に同意して観客席にいる一誠へ視線を送った。

 

「ンー、彼と過ごす日常は刺激的だ」

 

「ガハハッ、確かにな。あやつとおると暇にならんのは同意見じゃぞフィン」

 

「・・・・・」

 

 

グレンデルとの模擬戦を終え、軽く風呂に入るフィン達が出て来るまで昼食の準備を済ませた一誠は荷物を持って出かけた。空間に穴を開けて繋げた先は―――【アルテミス・ファミリア】のホーム前。丁度、ホームの前で木製の長大な机を挟んで昼食中のキリト達に朗らかに口を開く。

 

「キリト、昼飯のところお邪魔するぞ」

 

「うおっ、何時の間にってどっから出て来てるんだよお前」

 

「家の空間から直接ここの空間に繋げて出てきたんだが」

 

「それを一言で魔法だと言いたいのは分かるぞ・・・・・」

 

話しが早くて助かる、と周囲を見渡す。

 

「連中は?」

 

「ダンジョンに行ったよ。今じゃ中層まで進出中だ」

 

「そうか。まあ、あれだけの人数なら下層もいけるだろ。さて、本題に入らせてもらうぞ。シノン、魔導弓の矢を持ってきたぞ」

 

テーブルに多種多彩な色と大量の矢が入れられた背嚢を二つ置かれると、キリト達の意識はその矢に向けられる。

 

「普通の矢、じゃないんだな?」

 

「鍛冶の技術を持つ俺がそんじゃそこらと同じ普通の矢を作ると思っていたのか?俺の魔法の矢は魔剣に負けない威力を誇っている。一本数万以上の価値あるんだからな」

 

「・・・・・押し売り、しないよな?」

 

とてもじゃないが、自分達の懐に総額数十万も払う金は無い。そんなことされれば断固拒否をするしかない。しかし、一誠は「しねーよ」と一蹴する間、興味深々で一本の矢を抜き取り確認する。矢尻の部分には尖った赤い結晶の様なものが取り付けられている。これに魔法が籠められているのか、赤いから炎属性なのか?どの程度の威力なのか気になって試したい気持ちが湧き上がるのは必然的な気持ち故に、自本拠(マイ・ホーム)の廃墟の教会へ入っては魔導弓を手に戻ってきた。

 

「試していいかしら?」

 

「当然だけど上にな」

 

勿論、と意味を込めた頷きをして矢を弦に番って上空に狙いを定め―――放った。矢は空気を裂き、どこまでも天を穿つように飛び続けて直ぐ、赤い矢尻に光が発すると炎が燃え盛り、大気を焦がしつつ燃え尽きるまで空へ伸びていった。

 

「すご、これが魔法の矢っていうの?」

 

「お前が想像していた魔法の弓矢なのかは分からないけど、威力は申し分ない筈だ。本当なら爆発する炎の魔法の矢にしたかったけど、狭いダンジョンの中でじゃあこっちまで危ないから火の鳥をイメージして作った」

 

それから一誠の「お気に召したか?」と問いかけに「うん」とシノンは首を縦に振った。

 

「これなら階層主との戦いでも役に立てそう。ありがとうイッセー」

 

「どういたしましてだが、他の矢の魔法もかなり強めに作ったから仲間に気を使って撃ってくれよ」

 

「うん、わかってる。それとこれからも作ってくれるとありがたいんだけど・・・・・」

 

「二度目は現金と引き換えだ」

 

甘やかすのは一度だけ、と言いながら通信式の腕輪を持ってきた亜麻袋を机に置き一つだけ取り出してキリトに投げ渡す。

 

「なんだこれ?」

 

「無線みたいなもんだ。それで俺と連絡ができるぞ」

 

「それって結構凄いんじゃないのか?」

 

元の世界で言うなれば電話と同等の役割を担っている代物だ。主に機械で構成されている通信式の機器はこの異世界では到底作れない物に等しい。それをどうやってかは知らないが、一誠は作ってみせたのだ。技術力ハンパねぇ、と思いを抱くキリト。

 

「当然、一つ数百万ヴァリスはするぞ?それを作って無償で渡す相手は俺的に公私混合で得する奴にしかしない」

 

「それって、俺達はお前にとって得する奴ってことか」

 

「うん、それに俺と交流を築いても損は無いことも理解してるだろ」

 

「まぁ、な」

 

色々な意味で凄い奴だと認識してるキリトは、腕輪の扱い方を教えてもらい感嘆する。

 

「なぁイッセー。悪いけどアスナ達の分も作って貰えないか?」

 

「その亜麻袋の中に全員分あるぞ―――いやまさか、本妻に隠れて愛人達と秘密な会話を・・・・・?」

 

「ちょっと待てっ、俺にまだ妻もいなければ愛人だっていないから―――」

 

「へぇ、キリト君・・・・・私以外にも愛人を作るんだ?」

 

言葉の綾というものは時に怖い。笑っているのに顔が黒くて笑っていないアスナを見て「あ、こいつ。死んだかな?」と心の中でニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべて楽しそうに見ていた一誠を知らないキリトは冷や汗を流した。

 

「い、いやアスナ。今のは別に本心で言ったわけじゃなくてイッセーに対して否定しただけなんだ」

 

「酷い、本心じゃないって私のこと愛していたのは本気じゃなかったんだっ!」

 

「それも違う、俺はこの世界で一番愛しているのはお前だけなんだアスナ。だから信じてくれ」

 

真剣な黒い眼差しと表情で愛の告白をされた少女。嬉しそうに柔和に微笑んで愛おしい少年の手を重ねた状態で相手の名を呟いた。

 

「キリト君・・・・・」

 

「アスナ・・・・・」

 

二人だけの世界を展開して、現在の季節は冬なのに温かくキリトとアスナの回りに花が咲き誇っている幻覚が見えてきた。互いの顔にしか目に入ってない二人は、何時しか顔を近づけ、目を閉じて唇を交わす―――。

 

「「「「「うおっほん、ごほんっ!」」」」」

 

「「っ!?」」

 

ことはできなかった。羞恥でバッと縮まった距離を開けて顔を反らし合うが一誠やシノン達から向けられる視線から逃れられなかった。

 

「なぁ、こーいう二人を俗にバカップルってそっちの世界でも言われているのか?」

 

「えーそうよ。このお二人さん、ゲームの中でも現実世界でもこっちのこと気にもしないでイチャつくんだから、一人身のあたし達からすれば見ててたまに恥ずかしいって思う時あるわー」

 

「ていうか、この世界に来てからますますお兄ちゃんとアスナさんって一緒にいる時間が多い気がするよ」

 

「ゲームじゃない限り二人は一緒にいられないことは分かっていますけど・・・・・」

 

「―――夜中に聞こえる変な声ももうちょっと抑えて欲しいわね、ほんと」

 

最後のシノンの一言、覚えがあるのか。三人の少女の顔に朱が差した。しかし、それ以上に顔を紅潮させたのが当の二人であった。口をパクパクして人語を上手に発せれない二人に対して、生温かい眼差しで話しかける一誠。

 

「二人きりになれる宿屋を知ってるけど、案内してやろうか?」

 

「ま、待って待って!変な気遣いをしないでっ!?」

 

「あ、それともそーいう激しい運動をしても声が漏れない防音の効果がある道具を作ってやろうか」

 

「後生だ。頼むからそれ以上俺達を辱めないでくれ・・・・・」

 

「でも、まだ若い内にデキちゃったら大変だろう。ちゃんと避妊できるようにその専用の道具と薬、後は二人だけの家を作って周りを気にせず励める家を用意しようか?そしたら二人は気兼ねなく子―――」

 

「「お願いだからそれ以上何も言わないでっ!?」」

 

からかいの材料を手にした少年は、ここぞとばかりに笑いながら若い二人に羞恥心でいっぱいにさせて楽しんだ。

子供のように純粋に笑い、顔を輝かせて。それが終わった時は机に頭を突っ伏して身悶えるキリトとアスナがいた。

 

「あんた、顔を輝かせて楽しそうだったわね」

 

「ああ、めっちゃ楽しかったぞ?俺は同年代の友人って少なかったからこーいう話もできなかったし」

 

「そうなんですか?学校に行かなかったのですか?」

 

「ある事情で高校2年になるまで行かなかったし、学校に通ったら通ったでとある事情で中退しちゃってな」

 

「一体どういう人生を過ごしたらそうなるわけ・・・・・?」

 

教えれば絶対に絶句するだろう一誠の二年前までの壮絶な出来事をキリト達はまだ知る由も無かった。

 

「おい、何時まで恥ずかしがっているんだキリの字。さっさと復活しろ」

 

「だ、誰のせいで俺達が穴があったら入りたい思いをさせているんだ・・・・・」

 

「身から出た錆じゃないか?」

 

「・・・・・御尤もです」

 

「ううう・・・・・」

 

もうしばらく羞恥に身悶えて復帰するのに時間が掛った二人であった。それから復帰して今度は一誠に質問攻めし始めた。

 

「イッセーの世界って魔法があるの?」

 

「魔法だけじゃない。一言で言えば俺の世界はファンタジーな世界だ。そっちの世界で言えばゲームの世界だろうな」

 

「だから魔法が使えるのね」

 

「まぁ、俺は元々魔法を使えない人間だったけどな」

 

事実であるから嘘ではないその発言に疑問符を浮かべたシノン。

 

「魔力が無かったから?」

 

「まさしくその通りだ。でも、俺の母親は由緒ある魔法使いの一族の当主だったんだ。逆に父親も由緒ある武道家の当主で、俺は父親の血の方が濃かったから魔力の恩恵は受けなかった」

 

「・・・・・イッセーって実は凄い家の子供だったりする?」

 

「父親の一族は大嫌いだけど、世界でも有名で日本じゃあ一番偉い家の子供であることは間違いない」

 

日本で一番偉い家?少年の世界にも日本が存在していることをさらっと言われて少なからず驚いたが、リズはそのキーワードを謎々のように解こうと考える。

 

「総理大臣?」

 

「惜しいが違う。天皇家だ」

 

「     」

 

言葉を失った。そして再び一誠は爆弾発言をした。

 

「ついでに教えるが、俺は人間じゃないぞ。人型のドラゴンだ」

 

人間の肌に真紅の鱗が浮かび、背中と腰辺りに二対四枚の翼、尻尾が生えだした。顔の骨格も変わり果て、鋭利な一本の角を伸ばす蜥蜴のような顔立ちとなる。

 

「「「「「―――――っ!?」」」」」」

 

「ん、やっぱり人を驚かすのは面白いな」

 

人間の姿に戻って意地の悪い笑みを浮かべる一誠と腰を抜かして絶句するキリト達は目を白黒する。

 

「とある理由でな。人間を止めてドラゴンに転生したんだ」

 

「転、生・・・・・?」

 

「そう。俺の世界では人間から別の種族に転生できる技術がある。代表的なのは悪魔と天使、堕天使だ。皆、俺の様に人間の姿をして人間と共存しているのさ。ただ、ドラゴンに転生した人間は今のところ俺だけなんだけど」

 

過去を懐かしみながら語り続ける。

 

「さっき俺の世界はファンタジーな世界だと言ったよな。その世界には魔王や神も存在しているんだ」

 

「ま、魔王・・・・・」

 

「ああ、弁解させてもらうが。悪い魔王じゃないからな?寧ろ神と友好的な魔王達で平和に人間界と交流してるし、中には家事が大好きな魔王もいるし」

 

「・・・・・は?」

 

魔王が家事をする?悪しき化身の代表格の存在が笑って料理をする姿など絶対に思い浮かべることは叶わない。間抜けな表情を晒す面々を苦笑いして話を進める。

 

「俺の世界に来てその魔王と直接会ってみればわかるさ。いつもその魔王の妻に足蹴りされてる光景なんて日常茶判事だしな」

 

「待って・・・・・私の中の魔王が砕け散りそう・・・・・」

 

「というかお前がモンスターだってこと、この世界じゃやばいんじゃないのか?」

 

「かなりヤバいな。ドラゴンの姿で街中歩いたら悲鳴を上げられること間違いなし。加えて冒険者に迫害、討伐、捕獲されるのも必然的だ」

 

それを聞いてしまい、シリカは恐る恐ると心配そうに訊ねた。

 

「・・・・・その、大丈夫ですか?私達、イッセーさんの敵に回ってしまう冒険者ですけど」

 

「それ以前にお前等は別の世界から来た人間達だ。この世界の人類ではない限り、俺に対して攻撃をする意欲は強くない。逆に俺も人間に危害を加えるつもりは全くないに等しい。攻撃をされたり大切な者に手を出されない限り限定だけどな」

 

断言され、自分もそうしない限りはしないと断言する一誠。

 

「ついでに言えば、俺の正体を知っている神と冒険者はいる。まだ少ないがかなりこの世界じゃ頼りになり得る【ファミリア】だ。どこの派閥は言えないが、何となくわかるだろ?」

 

「多分・・・・・だけど、言わない方が良いわよね?」

 

「疑われたくなかったらな。だけどキリト達、お前等は貴重な存在だ。これからも交流をしていきたいからな」

 

「どうして私達に対してそこまで注目するの?特別凄い力を持っているわけじゃないわよ」

 

「単純だ。お前達が別の世界から来た人間だからだ。そんな貴重な存在とさらに別の世界で出会い交流ができるなんて、俺のお父さんが知ったら悔し涙を浮かべるほど凄い事なんだぞ?」

 

自分達は一誠にとってただ立っているだけで凄い存在だと認識されていた。過剰評価ではないかと思ってしまうが、思い返せば確かに異世界から来た人間と話ができるのは凄い貴重だ。理解はできなくもないし分からなくもないと感想を抱くシノン。

 

「お前等はどうなんだ。人の皮を被ったモンスターとこうして言葉を交わし、交流しているこの瞬間をどう思っている?」

 

「・・・・・漠然とし過ぎて曖昧な気持ちしかまだ・・・・・・」

 

「驚いているってことだろ?つまり、俺という存在がキリト達にとって衝撃を与えたって事だ」

 

「・・・・・・嬉しいの?自分が凄い存在ってことを教えて」

 

「ああ、嬉しいね。別の世界から来た同じ狢の穴同士。一生巡り合う筈がない相手とこうしている事態が奇跡なんだ。だからお互いの存在が相手にとって凄いのさ。だから自分の凄さを教えて相手の凄さも知る。それの何がいけないんだ?」

 

言われて彼等彼女は否定の言葉を発しなかった。こうして話を聞いているとどこか一誠は高揚感に浸っている気がする。

 

「例えお互い、元の世界に帰ったりこの世界で骨を埋めることになってもこの世界で過ごした出来事は一生忘れられず記憶に残る。そうだろ」

 

「・・・・・そうだな。それだけは確か」

 

「私個人に言わせてもらえれば、銃が無いのはちょっと残念だけどね」

 

「何だ、未成年なのに銃を使うのか?」

 

「ゲームの中の話しよ。私、キリト達と出会う前までは―――」

 

と、自然と自分の事を話し始めた。シノンにとって別に凄くも何ともない話なのに一誠は目を輝かせ、好奇心と興味深々の全開で耳を傾ける様子に本当におかしかったと後にキリト達は語る。

 

「ってなわけよ」

 

「なるほど、随分面白いゲームじゃないか。俺もやってみたくなったよ」

 

「私達の世界にくればできるわよ」

 

「はは、帰れたらの話しだなそれは。まあ、それがこの世界でもできるように銃を作ればいい話しか」

 

とんでもないことを言いだした相手にシノンは目を丸くする。

 

「作れるの・・・・・?精密な構造でできているのよ銃って」

 

「それは実弾で撃つ銃のことだろ?―――俺の場合は魔法と魔力が備わった銃だ」

 

亜空間から黒光りする銃を取り出して自慢げに見せつける。その瞬間、椅子から立ち上がって一誠の傍に駆け寄っては銃を凝視する。

 

「回転式拳銃なのね・・・・・」

 

「目の色が完全に変わったんだけどキリト君」

 

「さっき言っていただろ?シノンはシューティングゲームのプレイヤーだって」

 

この世界に来て銃と言う武器や概念は見聞したことが無い。だから二度と触れる事はないだろうと思っていた武器が目の前にあって、それに手を伸ばさずにはいられなくなったのだろう。

 

「貸して」

 

「はい」

 

凄みがきいた声で言われては、逆らえばどうなるか分からない。面倒事になるなら貸した方が賢明だと渡すと、真摯な無表情でありながら心なしか多幸感極まりない気配を窺わせながら銃を構える。回転弾倉(シリンダー)を装填状態にして弾を取り出して確認する。

 

「これ、実弾じゃないのね」

 

「さっきも言っただろ。魔法と魔力が備わっている銃だって。赤いのは火炎弾、黄色のは雷撃弾、水色は氷結弾、緑色は回復弾、紫色は毒の弾丸、白色は状態回復をする弾丸だ。他にも色んな魔法を籠めた弾丸があるんだ。手元にないけどな」

 

実弾なんか作ったら人を殺しちまうだろ?とシノンから弾と銃を取り上げながら言う。 

 

「それじゃ、用件は済んだから戻るわ。じゃあな」

 

「あ、待っ―――」

 

穴の向こうへと潜って空間が閉じられては追いかける事はできず、虚空に手を伸ばすシノンは胸に引き寄せる。

 

「・・・・・銃の専用武器(オーダーメイド)を頼みたかった」

 

「えっと、凄い弓があるからいいんじゃないか?」

 

「それは、そうだけれど・・・・・でも、やっぱり欲しい物は欲しいじゃない。キリトだって黒い剣ばかり欲しがっているってアスナから聞いているわよ」

 

「黒の剣士様はやっぱり黒い剣じゃないとだめなんだよなぁ~?」

 

「茶化すなよクライン」

 

「ま、まぁ、イッセーがくれた通信式の腕輪で頼んだらきっと作ってくれるんじゃないかな?」

 

と、アスナの思案でシノンは納得した後に発注を望んだ。

 

「イッセー、対物ライフル『ヘカートⅡ』作れる?」

 

「そんな物騒なもん作れるかッ!」

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