ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか   作:ダーク・シリウス

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冒険譚4

「ガネーシャがきたぁー!おっはよう!」

 

「・・・・・おはよう、それと朝っぱらから五月蝿いっ!」

 

晴天に恵まれた空の下で高らかな挨拶をしてくる、本気で毎日顔を出す気なガネーシャに早くも辟易してしまいそうになる一誠。大通りを経由して通る人達が突然の大声に奇異な視線と共に振り返る中で会話が成立する。

 

「この自己主張の激しさから取ればガネーシャは何もないだろ」

 

「いや、あるぞ?このガネーシャ・マスクがあるかぎり俺はガネーシャなのである!」

 

「なるほど、それを取れば【群衆の主】の二つ名がなくなる、ただのガネーシャになるわけか。それの方が面白いか?」

 

NOOOOOOッ!?と仮面を守るように両手で押さえながら叫び出す男神の隣に佇む麗人が口を開く。

 

「お前は分身体か?」

 

「ん?本物だぞ」

 

「・・・・・見分けがつかないがまぁいい。店を分身体に任して私に付き合ってくれないか」

 

「付き合う?どこに行くんだ」

 

「ダンジョンだ」

 

「・・・・・何故にダンジョンなのか説明してもらっても?」

 

「お前が気になるからな。故に知る必要がある。直ぐに支度を済ませてくれないか」

 

わかったよ、とシャクティの催促に従い出掛ける準備を始める。『異世界食堂』の中に引っ込んだ店主を待つシャクティと商品棚を覗き込みどれを食べようか選び始める男神から離れたところから窺う赤い髪の影がいることを気付かない。

 

「(な、なんだと姉者!?そいつのどこが気になるって言うんだっ・・・・・)」

 

イルタ・ファーナその人だった。今日も朝食を摂らず出かけた主神と団長の後を追いかけてみれば、『うまい店がある』と風の噂で聞く店に辿り着いた。そしてあろうことか二人きりでダンジョンに行く話になっているではないか!奥歯を噛み締め店から武装した店主=一誠が出て来て、片腕でシャクティに購入してもらった商品を片手に送られるガネーシャを背にダンジョンへシャクティと向かい始める。

 

「(姉者が後れを取るとは有り得ないが、ダンジョンで隙あらば襲いかかるかもしれない。あの胡散臭い奴の正体と尻尾を掴んで見せてやるっ)」

 

監視も兼ねて一人距離を取って行動するイルタもダンジョンに向かう。

 

 

 

 

 

その一方、異世界で生活をすることになって早くも一ヵ月以上経つ異邦人ヒーロー組等は、【アルテミス・ファミリア】に入団、冒険者となって一日中地上か地下で過ごすようになり、今日も今日を生きる為に必要な(ヴァリス)を稼ぐ為にソロかパーティで地下迷宮(ダンジョン)へ潜っている。

 

現在は中層16階層。

 

モンスターの代表的な頭が牛で体格が人間に近い一匹の『ミノタウロス』と遭遇した一行。前衛盾役(ウォール)を務める数人の少年達が密集陣形をして足止め兼ねて意識を向けさせ、足が迅く技術(テクニック)が長けた者は隙を突いて攻撃をする。借金(ローン)して買った者がいれば稼いでから買った。または一人の少女の能力で創造してもらったか手にしているその得物で、食材として加工された肉を切るのとはまた違う感触を否が応でも感じながらモンスターの命を奪う。倒した後は胸部の中心にある魔石を抽出する作業をする。人は嫌なことを慣れてしまうと段々抵抗感が無くなり、精神(きもち)が否定してもやらなければいけないという考えが頭の中で浮かびしてしまう。元の世界で犯罪を取り締まり、平和と秩序を守る為に学ぶ専門学校に通っていた少年少女達にとっては酷な作業。だがしかし、異世界で生きる為にはやらねばらなないのは、頭で理解しても心は納得できていない心情の彼等彼女等は今日もダンジョンのモンスターと死闘を繰り広げる。

 

「緑谷、休憩をしよう」

 

「うん、わかった。それじゃ、モンスターが出てこなくする為にも壁を破壊しなきゃね」

 

魔石を取り除かれ、灰燼と化したモンスターの末路に罪悪感が拭い切れないまま次の作業に移る。物理的な助力はされない代わりに知識と情報を提供してくれる。少年少女達はそれを頭に入れて探索を臨んで安全を確保し続けた。壁を破壊しても向こうからモンスターが現れることも忘れず、警戒しながらの食事をした初めて経験を経ても今も変わらず、索敵に長けた能力を発動しながら店で買った昼食用のサンドウィッチで空腹を満たす。

 

「切島君、体大丈夫?」

 

赤髪に海栗のようなツンツン頭の少年が鉄のような硬度に硬質と化した拳をぶつけ合い、丈夫さを示す。

 

「大丈夫だぜ。俺の『硬化』でもモンスターの武器にも耐えられることが分かったからな。だからガンガンお前等を守ってやりながら攻撃するぜ」

 

「俺もだ。触手の腕を合わせて盾と剣を同時に持てる」

 

周りに人がいないことを確認してから装飾品を外し、自前の腕と計四本の触手を生やす異形の大男の少年は周りから羨望される。

 

「それ、普通に戦ったら相手が攻撃し辛いよなー。もっと触手を増やしたら武器とか盾とか持てれるし、案外羨ましいかも」

 

黄色い髪に性格が軽そうな少年の言葉を聞きながらワカメ頭にそばかすの少年が、ボールのような髪形を三つ伸ばしている小人族(パルゥム)の背丈と変わらない少年を話しかけた。

 

「でもでも、峰田君の〝個性〟が一番役立ってるよね」

 

「へへん!オイラの髪にくっついたら動けなくなるからな。皆の安全は保証するから女子達、オイラを頼っても良いぜ?」

 

「下心が見え見えだってーの」

 

笑いと呆れ、労いの声が飛び交い、変わらない態度と表情を見せつつ携帯食を食べる。

 

「他の連中、今頃どうしているんだろうな」

 

不意に赤髪の少年、切島が不意に吐露した。ここにいない他の仲間達の安否を気にした風に述べれば一同、相槌を打ち始める。

 

「俺達は元の世界に帰るまで死ねない。キリトさんの言い付けを守って五人以上のパーティでダンジョンに潜っているだろうから大丈夫の筈だ」

 

「爆豪と轟が一人でも心配しても一番問題ないだろうけど、轟の〝個性〟上、一対複数向きだから集団で攻撃する時は大変そうだよな」

 

「特に爆豪の性格は(ヴィラン)級の口の悪さだからよ。他の冒険者達と喧嘩しそうで心配だわぁ」

 

「でも、それでもかっちゃんは心配しなくても大丈夫だよ。かっちゃんだし」

 

事実、あまり褒められるものではない言動は自他共に認知しているので、この場にいない友人の他者との付き合い方だけが心配なのである。完全なる孤独な人生を送っても人は生きていけるものの、交流は大切だと言われずとも皆分かっているこの場にいない少年の言動が悪かろうが嫌でも誰かが傍にいる。馴染めなかろうが馬が合わないだろうが関係なくだ。それを踏まえて信用―――信頼をしてなければ出ない言葉を一身に向けられる視線の中で零す少年。

 

「えっと?」

 

「それだけで片づける緑谷もある意味すげえーよな。流石幼馴染って感じで」

 

「見た感じ、仲悪そうなのにな。一方的に」

 

「あはは・・・・・」

 

不意に、腕に二本の触手を生やす少年が顔を後方の通路へと向け出し、何かを察知したようで口に変えた触手で伝える。

 

「モンスターらしき鳴き声が聞こえる。近い、数は・・・・・五匹前後か」

 

近いならやることは決まってくる。迫っているのであれば対応するまで。各々は徐に得物を持って立ち上がり全力で襲いかかるモンスターと死闘を臨む。

 

 

オラリオ北部に構えている【ロキ・ファミリア】の本拠地(ホーム)の『黄昏の館』は修復作業にまだまだ時間が掛りそうであった。執務室で団を纏める者として実務的な仕事を延々と繰り返し、淡々とこなし続ける黄金色の髪、碧眼の小人族(パルゥム)の団長はそれを目で実感しながら最後の書類に自身名を綴ってペンを置き一息吐く。碧眼を壁に掛けられている時計の大小の針が12の数字より先に進んでいる事を認知して「うん」と頷き、最近の楽しみになっている外食を数日振りにしようと自室にある財布を取りに赴く。

 

等級(ランク)付けされると周囲から善悪、良し悪し関係なく注目される。第一級冒険者、Lv.6で容姿が整っていたら尚更だ。誰にでも接せられそうな穏やかで優しげな眼と雰囲気を纏っていれば、応援者(ファン)から話しかけられることも珍しくない。フィンはまさしくそれに該当していた。

 

「キャー!フィン様よっ!」

 

「小さい、可愛いっ!」

 

「抱きしめたいっ!」

 

女冒険者、街娘達の視界に入るとたちまち黄色い声が湧き上がる。それを面白くない、嫉妬する男性冒険者も浮上するが当の本人は気にせず、己を囲みながらついてくる女性達からの誘いを断わり慣れてしまった言動を繰り返しつつ西沿いの食堂へ向かう。『異世界食堂』と書かれた看板を飾っている食堂に。

 

樫の黒い扉にある真鍮の取っ手を手にして開け放つ。扉の向こうは昼間にも拘らず良く言えば賑やか、悪く言えば騒々しく客達が飲み食い、雑談や世間話を交わし合っていた。最大派閥の団長が来ても意識を一瞥するぐらいで気にもしない彼等彼女等を目の当たりにしていると若い店主に出迎えられる。

 

「繁盛しているみたいだね」

 

「常連客も増えてきたからお陰様でな。一階は満席だけど少し待てば直ぐ空くと思うがどうする?『うちの眷族が来とったら二階に案内しといてや~』と酒好きの女神が朝から予約を貰っているが」

 

直ぐに誰だか悟り、辟易とした面持ちでそう伝言を述べた店主から「在庫から酒を無くさんとする勢いで朝から飲み続けているがな」とも言われて苦笑いするしかできなかった。自由奔放で快楽主義が多い神々だ。己が楽しければ大いに騒いで他の者も巻き込んで楽しむ性格の神は珍しくも無い。

 

「彼女はどうしてる?」

 

「上に行けば分かる」

 

後で注文を取りに行くと言い残して仕事に戻る店主。予約しないと上がれない二階へ続く階段へ足を運び、一段一段上がって一階ほどではないが賑やかさを醸し出している客達が多数存在していた。

 

「よし、いい感じに集まったところで第ン何回仮神会(デナトゥス)を始めるでぇ~!」

 

『イェー!』

 

やんやの喝さいと一緒に拍手が巻き起こる。大盛況だ。朱色の髪を後ろに結わえた女神は、大量の酒を飲んだ証として赤くした顔で、行儀悪くテーブルに足を載せて糸目がちの瞳を笑みの形に緩ませながら硝子製の(ジョッキ)を片手に手を上げた。二階にいる客達の殆どが男神女神達で占めていて、昼間だと言うのに宴会状態になっていた。が、神の眷族達もちらほらと部屋の隅にいることが分かりフィンは必然的にそちらへと向かう。零細から最大の派閥の眷族達が隔離された感じ、静かな雰囲気を保ち飲食を舌鼓しているそんな者達の所に。

 

「フィン。お主も来たか」

 

「下は満席だったからね。ここも似たような感じだけど随分と賑やかだ」

 

「神ロキが裏で手を回していた様子で主神(ガネーシャ)も含め神々を集めて宴会(パーティ)状態に入ったばかりだ」

 

既にいたガレスと「今日も宴をするでぇー!」「「「イェーイッ!」」」と叫び出す主神と男神の声が入ると短く溜息を吐きだした。色々と自由奔放な主神を持って苦労していると思うフィンやガレス、空色(アクアブルー)の髪、碧眼の美女の団長アスフィも同感だと静かに瞑目する。しかし、彼女達だけじゃなかった。フィンと相席する美女の前には巌のような巨躯を誇る、銀の美神の眷族もいて小人族(パルゥム)は見てしまった。

 

「オッタル・・・・・随分と食べていたようだね」

 

碧眼の瞳に映り込む十皿ほど積み重なっている食器。迷宮都市唯一のLv.7の最強冒険者が食べていた証拠が残しており、指摘され沈黙を貫く武人の猪人(ボアズ)は十一皿目の料理を食べ終えた同時に。

 

「注文は決まったか?」

 

店主が訊ねてきた。フィンはメニューを見ずに注文を頼んだ。それに便乗してアスフィ達も注文を口唇に転がして言う。客達はこの店に訪れる度に大好物の料理を頼む。何時しかその好物が二つ名のように呼ばれる日がやってくるかもしれない。それが何時になるのか神々も分からないところであるが、そんなこと気にせず今を楽しみ美味い酒や料理を飲み食いし続ける。フィン達も例外ではなかった。店主は二階から姿を消す前に神々から注文を受け取り、ようやく一階へ戻ってキッチンに入る。毎日が戦場と化しているキッチンを数多の店主の分身達が立っていて多種多様の料理を作り続ける。出来たてで熱々の料理を盛っては載せて、客達に運び提供する最中、店内を見渡して思った。繁盛してきた店の今後の事を考慮して、一人で切り盛りするにも限界は何時しか来るかもしれないと。

 

 

「・・・・・美味しいわねこの水」

 

好みの料理を堪能した美の女神は、飲んだ透き通って宝石のようなキラキラとした水の味にそう吐露する。ただの水ではないことを舌で感じ取り、オラリオで手に入るものなのか気になった。これを独占しているだろう店主に訊ねようと料理を運んできた件の人物に問いを投げた。

 

「ねぇ、この水ってただの水じゃないわよね?」

 

「ん?ああ、ダンジョンの泉から集めて増やしているんだ。量が少ないから直ぐに無くなって希少(レア)なのかもしれないけど、その水で作った料理の美味しさも更にひとしおになるんだ」

 

「じゃあ、もしかしてビーフシチューにも?」

 

店主は「酒もな」と首肯する。ならば、ビーフシチューが美味しく感じるのも頷ける。店主は料理だけじゃなく使う素材にも拘っているから、フレイヤの舌を満足させるほどの相応しく美味な料理を作り出しているのだと。

 

「ふふ、用意した甲斐があったわ。これからも頑張ってね?」

 

「これからも美の女神の期待にこたえるよう精進させてもらうよ」

 

「ええ、私をずっと満足させてね?そしたらご褒美をあげちゃうわ」

 

褒美は林檎パイかしら?仮にそれにしたとして、何時も見ていた可愛らしい姿で目を輝かせ、愛しい程強請ってくる姿を思い浮かべる。それが現実になるとしたら狂おしい愛を注ぎたくなるのが美の女神だ。今度デメテルに会いに行こう。可愛い少年を喜ばすパイの作り方を求めに。

 

 

 

「・・・・・」

 

シャクティ・ヴァルマは違和感をかなり覚えていた。ダンジョンに入ってから―――上層のモンスターとの遭遇(エンカウント)が皆無に等しく出会わなかった。上層ならばこういう時もあるだろうとさほど気にしなかったが、いざ中層に間で進出すると・・・・・一匹もモンスターおろか、姿形すら見当たらない。今日に限ってこれは異常、イレギュラーだと一誠の隣に歩きながら考えていると黒曜石のような輝きを放つ首飾りが視界に入り、気になった。冒険者としての本能が。

 

「イッセー、お前も飾りを付けるのだな」

 

「うん?ああ、これか。別に飾りとして身に付けているわけじゃないんだ」

 

「では、どういう意味で付けているのだ」

 

「一種の御守りみたいなものかな。【ロキ・ファミリア】の遠征でも付けてみたけど、モンスターとの遭遇(エンカウント)率が0になるほど効果を発揮するんだ」

 

なんだと・・・・・では、この異常現象はその首飾りの効果でモンスターが現れることも襲いかかってくることも

なくなっているのは、とたった一つの装飾品によるものだったとは思いもしなかったシャクティの目は丸くなって黒曜石の飾りに視線を送った。それほど有能過ぎる効果を発揮する装飾品・・・。冒険者ならば窮地に立たされた時や突然の怪物の宴(モンスター・パーティ)に遭わずにいられるならば喉から手が出るほど欲しいものだ。このダンジョンの金属や鉱物、それともモンスターのドロップアイテムの類かと訊ねてみる。

 

「その首飾りに使っているものはダンジョンでも手に入るか?」

 

「いや、これは首飾りに加工したモンスターの鱗であるのは間違いないんだけど。ダンジョンじゃあ絶対に手に入らないな」

 

「ダンジョンでは手に入らない?」

 

「うん、だってこの首飾りにしてる鱗は・・・・・【ゼウス・ファミリア】と【ヘラ・ファミリア】が討伐し損ねた『黒竜』の鱗だから」

 

―――絶句するシャクティ・ヴァルマ。瞠目したその目は信じられないと固まって迷宮の壁が樹皮で覆われた洞穴の中を立ち止まってしまった。先に進む一誠は五歩進んだところで振り返る。

 

「言っておくけど、黒竜を俺が倒したわけじゃないからな」

 

それを言われてはっと我に返って追究する。

 

「なら、それをどこで手にを入れた」

 

「オラリオ外にいる商業を生業としている【ファミリア】に世界中の珍しい物を集めてもらった中で手に入った」

 

ダンジョンでは手に入らない理由がシャクティの中で納得し再び歩き始める。そして『大樹の迷宮』のとある広間(ルーム)の中へと足を運んだ。

 

「・・・・・・あれは」

 

「ん、今回は一発で見つけれたな」

 

冒険者達の間では滅多にお目にかかれない宝石樹―――赤や青の美しい宝石の身を宿すまさに金のなる樹―――発見したシャクティが珍しくざわついたが、すぐに目付きを鋭くした。彼の樹を守る階層最強のモンスター、宝財の番人(トレジャー・キーパー)木竜(グリーンドラゴン)の存在を視認した故に。そして、宝石樹の根元に体躯を寝かせているLv.4に匹敵する潜在能力(ポテンシャル)を誇る怪物相手にたった二人だけでどうやって戦おうかと思った矢先だった。一誠が当然のように歩き始め宝石樹に近づき始めた途端、木竜(グリーンドラゴン)が何かに怯えるように体躯を身じろぎ、形だけの威嚇と咆哮を上げながら後ずさりする光景を見て間抜けな面を晒してしまうシャクティ。

 

「竜が怯えるなんて・・・・・あの首飾り、黒竜の鱗は本物だからなのか」

 

戦闘らしい戦闘は皆無であっという間に一誠個人の目的の物を手に入れる事が出来た。宝石樹の前で地面に両手を触れ、土を柔らかくし地面を盛り上げて抜き取れる様にすると亜空間から巨大なバックパックを取り出し、その中へ宝石樹を突っ込んで収納する光景も空いた口が塞がらなかった麗人。

 

「よし、採取終わり。戻ろうか」

 

「・・・・・あの竜はどうするのだ」

 

「目的のこと以外無駄な事はしない主義だから放っておく」

 

シャクティを引き連れ広間(ルーム)を後にする。二人が去った後、目を瞑る木竜(グリーンドラゴン)は、怯えたように身じろぎを繰り返した。結局、地上に戻る際も碌に戦いもせず帰還を果たしてしまいシャクティや今までずっと後を付けてきたイルタも一誠の力の片鱗すら見る事は敵わず夜を迎えてしまった。

 

†―――†―――†

 

「ほう、そこまで美味な料理を出す店があるというのだな?名前は何と言う」

 

「『異世界食堂』でございます。今年出来上がったばかりでありますが、評判は好評で少なくとも冒険者達の間では知名度は高く、団員達も食べたことがあるとのことで私も試食を兼ねて一度行ってみたところ、中々美味でした。特に葡萄酒(ワイン)を使って作るビーフシチューという料理は・・・・・」

 

「美味であったと」

 

「はい、我が【ファミリア】の料理長として引き入れるのに十分な腕前だと自負します」

 

「お前が推薦するほどの者とあらば、他の神共の手に渡る前に引き込まないとならないな」

 

「ご案内いたします」

 

†―――†―――†

 

 

暗闇に支配された外から続々と来客が樫の扉を開けて好物の酒と料理を求め足を運ぶ冒険者や神、無所属(フリー)の民衆達やってくる。朝より夜の方が予約しないと上がれない二階と対照的にほぼ毎日満席に近い状態を占める日は絶えない。今日もそうであった。

 

「若造、今日も来てやったぞ!いつもの頼む!」

 

「いらっしゃい、自由に空いている席へ座ってくれ」

 

「おう、出来るだけ早く作ってくれ。俺は腹を空かせて来たんだからな。待たせたら承知せんわ」

 

ヒューマンと犬人(シアンスロープ)の男達が苦笑いをし、「悪いな?」と片手を上げて歩きだすドワーフの後を続く。他の注文を受け取り、厨房へと戻り作り終えてある料理を手に客達へ提供する。何時もの常連客達が来れば来ない日があり、代わりと言った感じで新しい客が思い思いにやってくる。一日の締めとして食べにくる客に店主は無駄な動きをせずスムーズに事を運び続ける。変わらない夜と変わらない店で過ごそうとしている間にも、オラリオは今日も変わらず明日を迎えんとする時間が一刻一刻と時を刻む。

 

「ライスと合うのはやはりカレーだろっ。なんたってこの店ではカレーが一番評価が良いって聞くしな」

 

「何言ってるのよ。牛丼だってライスとすっごく合うんだから」

 

「お茶漬けが一番だな。ヒューマンや獣人、ドワーフが食す野蛮的な料理より、このお茶漬けは香りも味も清らかで食べやすいのが良い」

 

「もぐもぐ、栗ご飯も美味しいよー?」

 

「そこの同胞(エルフ)。お茶漬けだけが全てではないぞ。このトーフステーキたる、肉も魚も卵も乳も使わず作り上げた逸品がライスとも合う」

 

「あら、ライスと食べずともそばだって美味よ?」

 

「メンチカツも美味しいわよー!」

 

「すみませーん、焼きそばをもう一つ追加お願いしまーす!」

 

「魚を生で食べると美味しいとは驚いたなー。盛り付けも花のように飾られ綺麗だし」

 

「プハーッ!ここの酒うめーっ!?」

 

「だろぉ?他にも極東でしか飲めない酒や蜂蜜酒、ドワーフの火酒まで増えてきているから今度はどんな酒が増えるのか楽しみなんだぜ」

 

「甘露!このプリンとやらは甘露ー!」

 

賑やかな雰囲気を醸し出し、各々とパーティや同派閥、友人と知人に相席となって食べる客達を尻目に料理を運び続けながら口唇を緩める。この騒がしさが店主を楽しませ、客達の笑顔を見ると心がホッコリとなる。作り提供のし甲斐があると―――。

 

「来週は三品程、新しい料理を増やすんで来週まで楽しみに待っていてくださーい」

 

『おおーっ!』

 

わっと湧き上がる喜色の興奮の声の最中、新たな客等がやって来て店主は慣れた対応をしに応対しに行く。

 

 

「ここが件の店か。確かに人気のようだな。先程の若いヒューマンが一人で構えているとは中々の技量の腕を持っているのか」

 

「はい、そうであると見受けております」

 

「さて、問題の料理の腕前を拝見せねばな」

 

「既に注文を頼みましたので、そろそろ来るかと」

 

「おまたせしました。ビーフシチューです」

 

そう予想したそばから頼んだ料理が運ばれてきた。皿から湯気が立ち、色鮮やかに彩る野菜やゴロリと盛られた牛肉が、肉と野菜の旨味が凝縮されたスープの中にあった。鼻腔を刺激する下から昇ってくるように漂ってくる肉と野菜、それからいくつもの味付けが含まれた複雑なビーフシチューの香り。眷族の報告を聞き実際に目の当たりにすると芳醇な未知の香りが主神の嗅覚を刺激する。オラリオに降臨して以降、目の前に置かれた料理に対して今日まで驚いたことが無い。

 

「これがビーフシチューか。何とも良い香りを放つスープなのだな」

 

「それ故、この料理を好む神々が多くいるそうです。話の中にはあの【フレイヤ・ファミリア】の主神もそうなのだとか」

 

「成程な・・・・・あの美神の舌を虜にするほどのものか」

 

値段は一二〇〇ヴァリス。一食するだけでかなりの値段である。どこかの高級料理店かと思うぐらい無所属(フリー)の一般人達が手を出せそうで安易に出せない金額だ。一回の食事で高い料理を食べるぐらいなら複数頼んで腹を満たした方が良いと賢明な判断をするのは当たり前だろう。

 

「では、試食といこうか」

 

男神はスプーンを握り、ビーフシチューのスープに沈めて掬い取って口の中へと運ぶ。味を確かめようとする口と舌で口内は嗅いだ事のない香りによって満たしていく。

 

「お、おお・・・・・っ。葡萄酒(ワイン)を使うだけあってスープだけでもこの味であるのか。実に美味であるぞ」

 

「はい、他にも肉と野菜も一緒に食べるとまた格別な味がするのです」

 

「うむうむ、そうなのか。・・・・・むむっ!」

 

実際に食べてみれば感嘆と驚嘆の息を漏らす男神。もはや疑いも迷うことも無くなった。是が非でもこの店の店主を【ファミリア】の一員に加える。主神の望みを叶えんと眷族も口にせずとも理解している。が、今はするべきではない。その時ではない。閉店間近まで虎視眈々と待つ姿勢でありながらお代りを要求する。

 

 

「毎度ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」

 

「ああ、また食いにくるぜ」

 

「御馳走様、また明日ね可愛い店長さん」

 

去る客を見送り、扉を閉じて閉店間近まで食事をする客達を確認し、二階へ上がる階段の前にあるカウンター席に座り用意してあった賄いを食べ始める。上の階からまだ人の気配を感じるがどれもこれも馴染みの者達ばかりだ。放っておいても問題は無いだろうと悟り、残りの客達が帰るまで待つばかりだ。この瞬間を虎視眈々と待っていた主神と眷族がいる事なぞ露も知らずに。

 

「店主」

 

背後から声を掛けられた。会計の催促をされたと思い、椅子ごと開店して後ろへ振り返る。

 

「この店のビーフシチュー、実に美味だった。私が今まで食してきた料理の中で一番と格付けする程だ」

 

ブロンドの髪に緑葉を備える月桂樹の冠を被ってる、一目で目の前の客は一柱の男神であると察した。傍には美少年が控えていた。まず間違いないだろう。

 

「それはどうも、作る甲斐があるってもんだよ。これからもこの店を贔屓にしてくれると嬉しいね」

 

「ああ、その必要はない。私の舌を虜にするビーフシチューを毎日食べたいと思わせたお前の料理の腕に惚れてしまった。だから、私の眷族になって私の専属料理人にほしい」

 

「お断りします」

 

間も置かず、深々と頭を垂らして礼儀正しく拒否した店主の意を受け付けんと男神の気持ちも変わらない。

 

「ふふ、断わられても私は君の料理の腕に惚れてしまったのだ。私にこの想い抱かせた責任を取ってくれなければならない。分かってくれるまで話し合いをしようではないか」

 

男神は指を鳴らした。動き出す眷族。腰に穿いていた剣の柄を触れて鈍色の剣身を除かせる。無所属(フリー)の人間だったら、相手がどんな冒険者だろうと得物を見せ付け脅し、脅迫されたら緊張で戦慄する。なのに他の客達まで立ち上がって出入り口を塞ぎ更に囲んで来られると従わざるを得ない筈だ。

 

「えーと、まだやることが残っているから誘いは断らせてもらうよ」

 

「大丈夫だ。その背中に私の神の恩恵(ファルナ)を刻むだけで直ぐに終わる。なんなら、この場でしてもよいぞ?」

 

「お断りします」

 

再び頭を垂らして拒否する店主の言動を気にせず、己の神意を最優先にする男神の意図を眷族達は察し数多の手を伸ばし掴みかかろうとする。相手は一般の人間。駆け出しの冒険者相手でも力で叶う筈も無い。実際、無抵抗で両腕を拘束され、強引に背中を晒す形に跪かされた店主は溜息を零す。

 

「相手の意思や意見を無視する神もいるとはな。俺、そーいう主神が一番嫌いなんだけど?」

 

「私の良さを知れば好きになっていく」

 

「あーそうかい。だったら一つだけ言わせてもらうけど」

 

―――後ろ、気をつけた方が良いぞ。

 

意味深なことを告げる店主に眉根が怪訝で寄り、後ろから何かが落ちたような鈍い音を耳が拾った。男神達は反射的に振り返ったら・・・・・二Mもある巌のような巨躯を誇る猪人(ボアズ)の獣人が錆色の瞳を男神達に見下ろして佇んでいた。

 

「アポロン?その可愛い子供に何をしているのかしら?」

 

更に階段の上からソプラノ声。銀髪に銀瞳の美神が優雅に降りながら現れた。彼女を知る者は畏怖の念と敬愛を籠めてこう言う。【ロキ・ファミリア】と対なる最強最大派閥のもう一角の【ファミリア】の象徴する名を。

 

「フ、フレイヤ・・・・・」

 

「その子が作る料理は私のお気に入りなの。だから誰かが独占なんてしようなら、私、嫉妬しちゃって何を仕出かすか分からないわアポロン」

 

「せやでーアポロン。そこの子供は子供と神の共通財産や。誰かが独占しようとしたら、うち等が絶対に許さんわ」

 

朱色の髪に糸目がちの女神も小人族(パルゥム)の団長やハイエルフの副団長にドワーフの老兵、金髪金眼の幼女と銀髪青眼の幼女を引き連れて降り薄らと朱色の瞳を覗かせた。

 

「ロキ、お前もいたのか・・・・・っ」

 

「当然や。うちらはこの店の常連客やで。うちらが楽しく美味い酒や料理を飲み食いしている直ぐそこでとんでもない話をされたら黙っておれへんわ」

 

特にイロボケ女神がな、と頭の後ろに手を組んで愉快に笑みを浮かべるロキ。

 

「諦めぃ、自分の命が欲しいなら手を引いた方が正しいで?」

 

「ぬぐぐぐ・・・・・っ!」

 

第一級冒険者の一党が勢揃いして出方を窺っている手前、派閥も団員も格下の自分達が悪足掻きしたところで結果は変わらない。下手なことをすれば最悪、天界に送還されるオチだ。

 

「ならば聞くが、この子供はどこの【ファミリア】に所属していると言うのだ!していないのだろう!共通財産と言うのであれば誰だって【ファミリア】の団員にする権利はある!」

 

「無理矢理眷族にしようとする神の【ファミリア】何かに入りとうないやろ普通。それ以前にしっかりフラれとったし」

 

どこぞの女神みたいになと内心付け加え、【ガネーシャ・ファミリア】に入団している事も敢えて口にしない。理由はその方があとあと面白そうだからだ。ロキの考えを読めないでいるアポロンと呼ばれた男神は正論を論破されても食い下がる。

 

「無乳は引っ込んでいろ!」

 

額に青筋を浮かべ、頬を痙攣したように引き攣った。自分のコンプレックスを刺激したのだ。嗚呼、許すまじ。

 

「よし、自分、天界に戻りたいんやな?その気持ちはよーくわかった。フィン!侮辱罪でこのアホを槍で一発刺すんや!」

 

情けは掛けない。ビシッと男神に向かって指して、主神として命令を下すも。

 

「生憎、槍は持ってきてないよロキ」

 

「言っとくが、儂も斧を持っておらんぞ」

 

「ここで魔法を放つ気はさらさらない」

 

「怒られる」

 

「うん」

 

締まらない女神はがくりと肩を落とす。一体何のコント何だと呆れる店主。このまま話がもつれ暴力沙汰が起きてしまえば一方的な蹂躙が目に見える。目も当てられない。ならばどうするか?

 

「・・・・・そこまで情熱的に俺を求めるならさぁ、王道的にここはひとつ、決闘でもして決めるか?」

 

男神アポロンは決闘の提案を持ち上げた店主に訝しげる。

 

「決闘だと?戦争遊戯(ウォーゲーム)でもしようというのか?」

 

「後腐れも無い方法で決めたいから。それに一応、俺は半脱退の状態の冒険者だから戦えるぞ」

 

「・・・Lv.はいくつだ」

 

「駆け出しの冒険者だ、と言えば分かるだろ。現に寄って集れて捕まっているんだから振り解けない」

 

【ファミリア】同士の正式な闘争の催し。神の代理戦争として始まるとオラリオは祭りのように盛り上がる大イベント。それを提案されて何を考えているんだと疑う。

 

「言っとくけど、俺は弱い派閥と弱い団長の下につく気はない」

 

「力を示せ、ということだな?」

 

「見込みがあれば考えても良いってわけ」

 

どうする。と問われるアポロン。同じ下級冒険者、実力はほぼ変わらないと言ってもいいだろう。愛する子供に負けは無いと信じ断言する主神の考えは迷うことも無く決まった。

 

「よかろう。私の眷族達がお前を負かし正式に引き抜かれる準備をしておくのだな」

 

「・・・・・それで格好が付いたつもりだろうけど、食べた分の代金は払ってもらうからな?」

 

「わ、分かってるぞっ」

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