ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか 作:ダーク・シリウス
『暗黒期』の真っ只中で
『異世界食堂』も朝から何時にも増し、常連客や新顔の客達がこぞって顔を出して、
「頼み?俺達にか?もしかして戦いに参加して欲しいとか?」
「いやいや、戦いは俺一人で十分だ。
「ああ、もしも貴方が勝ったら貴方の店が有名になってお客さんが増えるからかな?」
「理解が早くて助かる。俺が勝てば店にやってくる数の客が何時もの数倍以上だろうし、その影響は三日経とうと収まらない気がするんだ。だからウェイトレスとして働いて欲しい」
「おいおい、アスナ達女の子達だけかよ?」
「全員だ。料理も作れるなら尚のことだな。それと、当然ながら頼むからにはそれなりのお礼をする。俺の店はハードだからな。今なら出来る事なら俺ができないことじゃなかったら、何だって叶えてみせるぞ。金も必要だったら報酬として出す。ただし一人の願いは一回限りだ」
目が眩む報酬に【アルテミス・ファミリア】の団員キリト達はその誘いに乗らない訳が無かった。店主がいなくなった後でも一回きりの願い事を何にしようか苦悩して、後悔のない願いを決めようとする。
「イッセー、いるか」
「うん、いるぞ」
『神秘』の
「イッセー・・・・・なんだこれは」
尋常じゃない羊皮紙の束の山が作業部屋を埋め尽くさんという状況に翡翠の目が丸くなった。絶世の美貌を誇るエルフが来ようと作業する手を止めない少年に用件を問いだたす。
「何をしているんだ」
「
「
一つその巻物を手にする。広告や伝言、商人達の間にも使用されている特に物珍しいわけではない巻物。そう思い浮かべる彼女であるが、それに手を付け加える一誠が作るとなればそれはただの巻物と呼び難くなるのは必然的だ。
「ああ、魔剣より使用回数は一回だけと極端に少ない、使い捨てで使いどころが難しい。だが、それを補うように魔剣より凄まじい威力を誇る魔法を籠めて書いている」
案の定だった。そして、それが事実なればこの山積みと化している
「・・・・・攻撃の魔法だけか?」
「いーや?一応千差万別にしているつもりだ。転移や回復、
「仮に販売するとしたら値段は?」
「種類によって十万から数十万、最高は百万かな」
上級冒険者なら手が届き買える値段だった。しかし、ここで疑問が浮上する。
「こんなに作ってどうする気だ」
「備えあれば憂いなし、【アルテミス・ファミリア】に渡しておくのと【ヘルメス・ファミリア】に売り捌く」
「・・・・・なら、【ロキ・ファミリア】からもそれを買い取ろう。その
仲間の為や遠征、ダンジョン攻略の為に買い取りの意志を示すリヴェリアに「目ざといエルフだな」と言いつつも「毎度あり」と述べる。後に長期の遠征で一誠作製の
「で、俺を探しに来たんだろ?何かあった?」
「ああ、
「ふーん、そうか」
別段、気にしているわけでもなさそうに曖昧な返事だけして作業に集中する一誠を見つめるリヴェリア。
「まあ、お前にとって児戯に等しい事だろうな。相手が第一級冒険者でなければだれであろうと」
「否定はしない。だけど、俺の晴れ舞台となるからにはあっと驚かすような事をするつもりだ。俺が作りだした
「商業の【ファミリア】や商人達がこぞって取引の交渉をしにきそうだが?」
「だろうな。一人一人話しを断るのは面倒くさいな。今だってロキんとこの女性団員達をホームが直るまでの間だけ居候させているし、それに乗じてフレイヤ達まで住み着きだして異世界の食料や調味料が減る一方で困るんだよ。本当にアリサ以外、誰と住むつもりなかったのに」
愚痴を漏らし表情も険しくする一誠の言葉は嘘偽りない。なので「嫌なら断わることもできただろう?」と含みある言葉で問えば「自分の性分が憎たらしいくてしょうがない」と苦虫を噛み潰したかのような面持ちとなる一誠に苦笑するリヴェリア。
「まだまだ時間は掛るがもう少しだけ面倒を見てやってくれ。そうすればすぐにでもここを引き上げさせる」
「離れるならそれはそれで何時もの賑やかが無くなってしまうと思うなと、少し違和感と寂しさを感じるな」
「アリシアもいなくなるからか?」
「なんでそこで彼女を引き出す?まぁ、そうじゃないと言えば嘘になるがな。それと、彼女だけじゃなく他の連中もここに住みたかったら家賃を払って住めばいいと思うよ」
ちょっと高いがな?と意地の悪い笑みを薄く浮かべてリヴェリアに見つめる。その目は彼女に向けられたものではなく、何かを見透かしている目付きだった。
「俺も親しくなった奴が急にいなくなるのは抵抗感があるし、良ければ傍にいて欲しい気持ちもある」
「同じエルフの私というものがいながら、同じエルフのアリシアも好きになったか?」
「ほほう、副団長が嫉妬するようになった?」
ニヤニヤと面白げに笑みを浮かべられ「茶化すな馬鹿者が」と思わず一誠から顔を逸らしてしまった、その反応こそが全てを物語らせていることをまだ気づいていない。
「俺は、俺を知って受け入れてくれた女なら、俺に心から好意を寄せて、慕ってくれている女は全員好きだ」
「・・・・・それは全員が全員、お前の事が好きだと言えば誰でも好きになるのか?」
「そこまで女誑しな男になることはできないな流石に。なったら元の世界の家族に殺される」
軽く青褪めながら苦笑いする一誠に、「イッセーでも恐ろしい者がいるのだな」と不思議な新鮮を覚えた。
「さっきも言ったけど俺と親しくなった奴がいなくなるのは寂しい気持ちになる。リリアもそうだろ?」
肯定と相槌を打つ。遠方に行くことになった者、死して永遠の別れで言葉を交わすことができなくなった者。様々な形で離れることが起きれば寂しくないと言えば嘘になる。リヴェリアもその一人だ。
「だから俺は親しくなった上で、俺が化け物だと知り、化け物でも受け入れ俺に好意を寄せてくれる女だけを愛おしい家族として接することにしているんだ」
「ならば、お前の世界にもその類の者達が大勢いると言うことか?」
「ん、小さい頃から二年前まで付き合いのある女達が大勢いる。ぶっちゃけ、それでも恋人として付き合っているのはまだ二人だけだ。正式に告白してないけどお互い両想いなのは十人以上いる」
少し自嘲的に「軽蔑したか?」と試すような眼差しで視線を送る少年に対し、ハイエルフの女性は無言で首を横に振った。
「お前のスキルを考慮すればそんなことだろうと思わなくはない。だが、聞くが・・・・・お前は何人の女と肌を重ねた?」
「うわっ、それ訊くか普通」
軽くドン引きした一誠。それでも数を教えると溜息を零すリヴェリア。道理でああなのだったのだな。と。だからこそこの言葉を送らずにはいられなかった。「女の敵め」と。そんなこと言われて心外だと一誠も叫ばずにはいられなかった。
「酷っ!俺の攻めに理性を捨てて悦んでいたリリアがそれ言うのか!」
「ばっ、大きい声で言うなっ!?」
「言いたくもなるわっ!あの時だってっ!」
と、不満と遺憾をぶつけようと口を開こうとした一誠に、喋られたら堪らない、その口を閉ざさんと勢いで飛び掛かり出すリヴェリア。途端に作業部屋から騒がしい音が聞こえ、あの副団長が極めて珍しく焦燥に駆られて揉み合いをする光景など、フィン達が見たらさぞかし物珍しい目付きで見ていただろう。
「―――そう言えば、アイズもアリサもダンジョンに行ってるんだよな。椿の試し斬に付き合って」
「だからなんだ」
「つまり、今城の中にいるのは俺達だけだよな?」
「っ・・・・・!?」
崩れた巻物に囲まれながら、一誠を抑え込んで覆い被さっていたリヴェリアを逆手に取り、意味深なことを言いだした。その言葉の意図を察して直ぐに離れようとしたのだが、背中から生える翼に覆われ引き寄せられる形で密着する。互いの鼓動が分かるほどの密着具合であれば二人の顔の距離は同じぐらい近い。
「ま、待てイッセー・・・まさか、ここで・・・・・!?」
「どこまで想像しているんだ?是非とも口に出して教えてくれよ」
「―――っ!?」
耳先まで顔が真っ赤になり、冷静沈着で何時も凛としている副団長のハイエルフが普通の娘と変わらない反応を露わにして一誠を楽しませた。上半身を起こし、対面になるよう膝の上に載せ笑みを零す。
「はは、可愛い反応をしてくれるなリリア」
「か、からかうなっ」
「ふーん、俺がからかっていると思われていたとはな。ここで俺の本気を見せてやっても良いんだぞ」
目が本気になっていることから冗談ではないことを悟る。第一級冒険者であるにも拘らず力負けして生娘のように抗えない自分がここで抵抗しても結果は見えている。押し倒されるだけだ。
「・・・・・すまない、悪かった。だからここで本気にならないで欲しい」
「リリア?ここでなきゃ本気を出していいように聞こえるぞ」
「こ、言葉の綾―――んっ」
リヴェリアは文字通り押し倒され、目を白黒している間に何時の間にか一誠の部屋のベッドの上に寝転がらされていた。そして、自分を覆い被さるしてやったりと笑みを浮かべる男。ぷいっと赤く染めた顔で一誠の視線から逃げるように逸らすリヴェリアであるが、これからすることに拒みも否定もしなかったのは・・・・・惚れた弱みだったのか、それは彼女自身しか分からないことであった。
「愛してるリリア」
「・・・・・馬鹿者」
愛の告白と共に重なる唇。愛し愛されようとした二人は独自の甘い空間を作り甘い雰囲気を醸し出すのだが、腕輪の宝玉が点滅し出す瞬間を目にして全て霧散する。通信相手はフィンであり、街中で暴徒が出現した報告であった。―――ので、甘い時間を邪魔した愚か者に天から無慈悲な雷を放ち、これを全滅させた一誠に敵であるが同情を禁じ得なかったと皆が思いを一つにしたのだった。そして
そして、あっという間に代理戦争当日を迎えたその日の早朝。最初の風景は『異世界食堂』の中から始まった。
「えっと、着替えた、よ?」
「おー、サイズも合っているようだな。皆綺麗だぞ」
「着替えたのはいいんだけどさ~。これ、色々と肌が露出してるよね。特に背中と胸元が開いちゃってるし」
「それを考案したのは俺じゃなくて【ロキ・ファミリア】の主神だから、文句はあの変態女神に言え」
「その女神が考えた制服をそのまま使う貴方も貴方もかと・・・・・」
無条件で受け入れたと思われているらしく、羞恥で頬を染めるシリカの一言で物凄く渋い顔になった一誠。
「・・・・・すっごくウザイ程『この制服を着せてくれへんとうちは舌噛んで天界に戻ってやるぅ~っ!』何て泣きながら鼻水を垂らしてしがみつかれられながら言われたら、よ・・・・・」
「あ~・・・・・断わり辛いね、それ」
「・・・・・しょーもない女神ね」
多彩な色で同じデザインに露出している背中や胸元、太股を魅せるメイド服を着替えていた。ロキが考案した制服をそのまんま具現化させて着たアスナ達は個々の魅力を増している状態で働くことになった。店主からの頼みと報酬を臨んで。
「さて、話はここまでにして開店時間までアスナ達には、『異世界食堂』での仕事の流れを骨の髄まで覚えてもらう。時間が欲しいから直ぐに始めるぞ」
「でも貴方、試合に出るんでしょ?時間大丈夫?」
「大丈夫だ。これから俺自身を魔法で増やしてマンツーマンお前達に指導する。上の階でキリト達にもそうしているところだからな。因みに失敗は駄目だからな?失敗したら客の前で一曲歌ってもらうからそのつもりでよろしく」
ある種の罰ゲーム的な事をさせられることを知らされ「「「「何て恥ずかしい事をっ・・・!?」」」」と忙しく恥ずかしい思いを開店直後にする羽目となる【アルテミス・ファミリア】の団員達は、店主の指導と手解きによって己の仕事の流れを覚え、賄いの朝食を食べ始め終えれば一日目の仕事を迎え、『迷宮都市』オラリオは今日も晴天を迎える。蒼穹の彼方まで広がる青い空は
神や人類、モンスターを見下ろす。そして都市が賑わいを見せている。
街に臨んだ
溜め込まれていた。
朝早くから全ての酒場が店を開き、街の至る所で出店が路上に展開している。今日まで通りの壁を彩って来た無数の
『あー、あー、えーみなさん、おはようございますこんにちは。今回の戦争遊戯ウォーゲーム実況を務めさせて頂きます【ガネーシャ・ファミリア】所属、喋る火炎魔法ことイブリ・アチャーでございます。二つ名は【
なんて二つ名だとどこからか憐れな呟きが発せられたが本人は気付きもしない。実況を名乗る褐色の肌の少年が魔石製品の拡声器を片手に声を響かせていた。五万人もの数を収容できる都市の東部に存在する
『解説は我らが主神、ガネーシャ様です!ガネーシャ様、それでは一言!』
『―――俺が、ガネーシャだ!』
『はいっありがとうございましたー!』
万の数の観客の前、実況者イブリの横でガネーシャが吠える。観衆は一斉に喝采を送った。
『今回の
イブリの発言に観客は大盛り上がり、ガネーシャは嬉しそうに白い歯を覗かせてはキラリと輝かせる。
『なお、「異世界食堂」の冒険者の名前と所属している【ファミリア】は本人の要望もありまして敢えて伏せさせていただいております。ご了承ください。本人曰く、「美味しい料理と酒を作って出すのに、名前より店の名前と料理と酒の味だけ覚えてくれればいい」とのことでして。既に
『早く始めるぞ冒険者B!「異世界食堂」がこのガネーシャを待っているのだっ!』
『イブリです!あの―――ええっと名前が浮かばない同僚じゃないんだから覚えてくださいっ!っと、お見苦しいところを見せて申し訳ないです。主神が催促するので手早く事を進めたいと思います。―――両者、出て来て下さい!』
実況者の話を遮って催促する主神に突っ込みを入れ、仕方なくと色々と段取りを飛ばして進行を進めた。東の出入り口から【アポロン・ファミリア】団長を含め完全武装した数十名が入ってくるに対し、西の出入り口からただ一人、金属の板や腰から下げる
「・・・・・やる気あるのか貴様」
「あるぞ?お前達を一方的に蹂躙する為の道具だけ持って来たんだからな」
「その金属の板と巻物が我々を蹂躙するだと?」
「うん、俺は道具だけ使って数の暴力に打ち負かし、勝利する。これは決定事項だ」
おかしな話だ。と訝しむ団長の背後で嘲笑や侮蔑、小馬鹿にする面持ちや目付きで店主を見つめる団員達。相手はたったの一人―――否、一人にしたこの
『店主!さっさと始めるからさっさと勝ち負け関係なく終わらせ、ガネーシャにカツ丼を食べさせるのだ!』
『あんたはどんだけ「異世界食堂」に行きたがってんだっ!美味しいのは同感ですけど!はい、そう言うわけで
やる気あるのかと問いだたしたいのは神の方であった。イブリの号令と同時に店主は金属の板を足元に置き、寄って集って攻撃して来ようとする相手を前に乗って―――金属の板ごと宙に浮き空を斬るように動き、飛んで見せた。これには観戦していた全ての者達は目を瞠目させた。空飛ぶ金属の板など見たことも聞いたことも無い。実際に飛んで見せているのだからあれは
「貴様っ!正々堂々と戦え!飛んでばかりでは勝負にならないぞ!」
逃げてばかりの相手に尤もな意見だった。彼の発言に異なことだと思う者はいない方だろが、店主はそれに応じた。
「そうだな。攻めるとしよう」
店主の手が腰に伸びる。
「あれって・・・・・」
異世界食堂で働いている最中のシノンが物欲しげな目付きで宙に具現化している
「さて・・・・・」
店主はそれを手慣れた手付きで握り眼前の団員達へ照準を合わせた。【アポロン・ファミリア】の眷族等は何なのか定かではないが、狙われているのだと雰囲気で察知した。彼等が気付こうが気付かまないが関係なく引き金は引かれた。黒い砲身から黒い弾が射出される。狙いは【アポロン・ファミリア】の団員達。団長の「散れっ!」と疾呼に団員達は動き出すが、盾を持っていた団員は逃げずとも防げば問題ないと判断したのか、逃げずに防御体勢に入ったところで盾と弾がぶつかった。
その直後。
弾が破裂し、白色の網のようなものが弾から解放された喜びを露にするかのように盾役の団員へ広がった。目を見開き、固まる間にあっという間の時間で全身は白色の網に包まれた。
「な、なんだこれ・・・・・っく、ネバネバするし剥がれないっ。おい、誰か手伝ってくれ!」
「しょうがないな」
相手は一人、しかも見守る姿勢でいるために攻撃してこなくとも警戒は怠らず手助けしにいく仲間が、その網を無造作に触れてしまったのが運の尽き。
「確かにネバネバしてるな・・・って、俺の手までくっついて取れなくなっちまったぞおい!」
「剣で切れ早くっ」
「駄目だ、なんだよこの網はっ。斬れないしくっついて蜘蛛の糸か何かよって―――あだっ!」
二発目の弾がミイラ取りがミイラになった団員に当たり二人纏めて網に包まれて更に動けなくなった。
「さて、残りも捕まえようか」
それを見せ付けながら次の獲物に狙いを定める店主。当然、彼等は逃げるの選択肢しかない。当たれば身動きが取れなくなり、行動不能に陥ると仲間の足を引っ張る。だが、ただ一人、彼だけは逃げの選択を選ばなかった。
「―――【我が名は愛、光の寵児。我が太陽にこの身を捧ぐ】!」
団長は攻勢に出た。宙にいる相手に対して詠唱を開始する。
「【我が名は罪、風の悋気。一陣の突風をこの身に呼ぶ】!」
『魔法』―――起死回生の切り札。不利な白兵戦から堪らず逃れ、形勢を逆転しうる必殺の行使に踏み切った。
「【放つ火輪の一投―――】」
詠唱を唱える団長の意図を察して、厚い守りの鉄壁を作る団員達に守られながら紡ぎ続ける呪文の声が止まらない。対して店主は、何もしない。どんな魔法なのか放たれるその瞬間まで宙で旋回し続ける店主に団長は最後の呪文の詠唱を終えようとする。
「【―――来たれ、西方の風】!!」
不意に団長は上半身を捻った。重心は低く、左腕を下に、そして右腕が高々と上げられたその体制は―――円盤投げ。高めた出力の『魔力』を右手に凝縮させながら、団長の碧眼は己を見下ろす店主を射抜き、一挙、魔法を発動させる。
「【アロ・ゼフュロス】!!」
太陽光のごとく輝く、大円盤。振り抜かれた右手から日輪が、高速回転しながら驀進する。突き進んでくる大円盤を、店主は余裕で回避する。
「無駄だッ!?」
しかし、その団長の叫びに導かれる様に回転する光の円盤は上空へ舞い上がり、大きな弧を描いて店主の下に進路を転ずる。金眼が丸く見開かれた。自動追尾の属性。照準した対象に命中するまで敵の魔法は消滅しない。西風を帯びて舞い戻ってきた円盤を、店主は速度を上げてフィールドの中で逃げるように飛ぶ。観戦者達は手汗握る思いで見守り、少し前のめりになる。
「何時までも逃げられると思うなよっ!」
速度が上がる。徐々に距離が縮まり、後ろを見ればすぐそこまで迫っていた事に気づくだろう。団長は口角を吊り上げた。
「その厄介なものを切り裂いてやる」
「っ!?」
それは困る、と進路を上に変え、空高く昇る店主を追いかける光の円盤がついに―――。
「【
カッ!
金属の板に届いた瞬間、円盤は眩い輝きを放ち、大爆発した。行使者の呪文に呼応し
「な、なんだとっ!?」
「残念無念ってな!」
網が籠められた弾が何度も放たれ、下で構えていた団員達に当たり一網打尽。粘ついた網に捕らわれて行動が制限されてしまった。遠距離、中距離の得物を持つ団員達を一掃したことで更にもう二枚のカードを手にし、
「―――アデアットッ!」
高らかに叫んだ店主の声に呼応して、眩い輝きを放つカードから十字架の盾と、地に降り立つ金属質の巨塊が喚び出された。仰天する相手や観戦者達。金属系の新種のモンスターかと彷彿させるそれは、銀を連想させる金属で形成されていた。いかなる
「紹介しよう。これは
十字架の盾を持ちながら説明口調で語り自慢する店主は、
「ふはははっ!俺の
「ほざけっ!道具を頼ってばかりの貴様に私が負ける道理はない!」
「じゃあ、
「なっ―――」
二本の足で動く時よりも物凄い早さと動きで団長達に肉薄仕掛る
『な、何なんだあれはーッ!?「異世界食堂」の店主の
『ガネーシャ、超乗ってみたい!』
驚愕と興奮の声が闘技場中に響き渡る。観戦客達も物珍しい物に驚嘆と感嘆を漏らしながら黄色の声を湧かせる最中。
「―――【我が名は愛、光の寵児。我が太陽にこの身を捧ぐ】!」
再び形勢逆転のカギを握る魔法を行使しようとする団長。詠唱を紡ぐ声に耳を傾けるが目もくれず、操る
「【アロ・デフュロス】!」
勝利を籠めた魔法を振り抜いた。狙いは金属の巨兵ではなく店主本人。騎乗している形の相手の背中はガラ空きだ。団長は己の魔法を走り続ける
「もらったぞ!!」
股抜きした魔法の円盤が店主の背後から奇襲、肉薄して振り向いた時は既に目と鼻の先であって「【
「・・・・・」
気付けば団長を残し、ほぼ戦える者がいなくなっていた。周囲を見回し、確認した後に団長は片腕を翳し、勝利を確信した握り拳を天に向かって突き出した。観衆達もモロに魔法を食らっては負けたも当然かもしれないと思いが口から発する歓喜極まった叫びが―――黒煙から十字架型の盾を持って出てきた店主の姿に喉の奥で引っかかった。体を硬直、顔を引き攣らせる団長にせせら笑う店主の横顔は左の瞼ごと無残に焼かれていた。もはや試合中に目を開けることはできないだろう。手を腰に伸ばし今まで触れなかった革で留めていた
「やってくれたな。これを使うまでも無かったと思ったけれど、使う必要ができたか」
「その巻物が何の役に立つと―――」
「阿呆、何事も警戒するのが冒険者だろう」
盾を地面に刺してから紐を解き、自分に向けて
【ディアンケヒト・ファミリア】の団員達と主神ディアンケヒトも治癒力が高い
「アミッドッ!『異世界食堂』で待ち伏せするぞ!」
分かりやすい主神の言動に付き従うのだった。
「へぇ、巻物から魔法を発動できるなんてね」
「
「ははは、【魔導の錬金術師】か。子供達や神々もそんな感じを抱くかもしれないけど、まだまだ【ランクアップ】する時期じゃないだろうからお預けだね。因みにアスフィ、作れたりする?」
「無理です。が、ヘルメス様が許可してもらえるなら彼の下で弟子入りして学び、期待に応えるような相応の
「うーん、悩みどころだねそれは」
燃え始める
「最後は派手にお前を負かしてやる。この魔剣を上回る魔法の剣、聖剣でな」
「聖剣、だと・・・・・っ!?」
宙にいる相手に近寄ることも攻撃も出来ない団長は、ただただ見上げる格好で、天から恩恵を受けたかのような神聖な光を掲げた姿の店主に気圧され振り下ろされるその瞬間を迎えるまで佇んだ。
「くらえ―――『
眼下に立ち尽くしている相手に聖なる金色の剣を上段から振り下ろされ、決壊したダムの水のように極光の斬撃波が瞬く間に彼の視界が神々しい金色の一色で埋め尽くす。
極光聖。
『――――――――――――――――――――――――ッッ!?』
全身に凄まじい衝撃を受け、男の絶叫が飲み込まれる。
次の瞬間。
その中心に極光で逆行する大瀑布のように、天空に突き刺さる極太の柱が立ち昇った。迷宮以外、オラリオのどこからでも肉眼で捉えるとんでもない『魔法』を神々や冒険者、一般人、老若男女問わず、光の柱を見上げた。やがて天を穿つように立ち昇った光柱の勢いは失い、徐々に消えてなくなり最後は見えなくなった頃。聖剣の威力をその身で味わった団長が地面に横たわって白目を剥き、開いた口が塞がらない体が、うんともすんとも、ぴくりとすら動かないまま十秒経過した後、聖剣を掲げる店主と同時に
『――――――――――――――――――――――――ッッッ!!』
『試合終了ぉーっ!勝者は「異世界食堂」の店主ッ!とんでもない
オラリオ上空に、大歓声が打ち上がった。湧く歓声。そして何故か
「いらっしゃいませ、ようこそ『異世界食堂』へ」