ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか 作:ダーク・シリウス
ダンジョン内でとんでもない事件が起きていた。18階層、モンスターが産まれない
「・・・・・」
【アポロン・ファミリア】との闘争からそれなりに日が経った。観覧席で腰を落としワインを片手に美の女神は終始微笑を浮かべ、『幽玄の白天城』の地下室の空間に対峙している二人の男を眺めていた。彼女の周囲にはいつも変わらない顔触れが揃っており、これから行われる様子を見守る姿勢で座っていた。
「オッタル、始めてちょうだい」
「はっ」
短く応え、
「最弱、我が主神のお望みに応えてもらう」
「見世物じゃないんだがなぁ・・・・・まあ、最強と戦えるなら気にする暇もないな」
宇宙にいると思わせる程の常闇に星の輝きをする宝玉が柄から剣先まで埋め込まれてあり、刃の部分は白銀を輝かせ剣身の至るところに不思議な刻印が刻まれている装飾と意匠が凝った金色の大剣を肩に置いて、カウントダウンが始まっている音に耳を澄ませば0の合図が鳴り響いた。
ふっ、と。
オッタルが一瞬で距離を縮め、大剣を横凪ぎに振るっていた。瞬きした刹那に動いていた最強に驚きを隠せなかった観戦者は殆んどだったが、躊躇の無い攻撃を捉えていた左の金眼が反応していたのを目の前の武人以外気付いていない。瞬発的に横凪ぎに振るった一誠の大剣が、今まで見せたことの無い速度で以て応戦する。二振りの大剣が直撃する直後には耳鳴りがしそうな程に甲高い音が地下室の空間を激しく震わせた。
「・・・・・」
「・・・・・」
なるほどな。剣を交えて語る侍、剣士のようにどちらでもない二人はたったの一合で相手の力量を察した。
「眼帯を外せ。これからの戦いに無粋なものだ」
「視界が半分でも戦闘力は変わらないが、そうさせてもらおうか」
剣を押し合う最中、徐に右目の眼帯を手に掛け、隠された濡れ羽色の瞳が解放された瞬間。喜色の光が宿りだした。
「ふんっ!」
鍔迫り合いの状態からオッタルを弾き、押し返した。本人はさして驚くことも侮ってもおらず、タイミングを計って自ら後退したのを察したのは片手で数えるぐらいの者達だけだろう。今度は逆に一誠が姿を掻き消してオッタルの真正面から襲ったのに対して大銀塊で応じ、これを余裕で袈裟斬に叩き込んだ―――。
手に伝わる肉を裂き骨を断つ感触が一切伝わらず一瞬後疑問を抱き、その理由が一誠の残像を斬ったと知った時は、直ぐに消え失せる残像の真後ろから脚を動かしていた男の姿。
「嵐脚」
爆発的に振るった脚から鎌風が生じ、飛ぶ斬撃はオッタルの大剣の腹に衝突する。防御体勢の
「この程度か最弱」
「それはこっちの言いたい言葉だ。この程度なのか最強の実力は?」
お互い、手始めと小手調べ程度で戦っている。いたが、一誠から威圧が膨張した。その影響は空気にも及び、常人がこの場にいたら精神が
「あっさり石にされた時のように拍子抜けをさせてくれるなよ」
「抜かせ」
その瞬間。二人がどちらからでもなく飛び出して大剣を激しく振り回し、衝撃と甲高い金属がぶつかり合う音の戦況となった。
「フィン、あやつらの腕見えておるか」
「ンー、見えないね。オッタルがあそこまで戦う姿は初めて見たし、イッセーの本気は僕等は見たことが無い」
この勝負、どっちが勝ってもおかしくないと心中で呟くフィン。個人においてその強さはオラリオ一の冒険者【
「凄い・・・・・」
「天使にもドラゴンにも成ってもいないにも拘わらず、魔法も使わずして・・・・・」
「持っている武器だけであそこまで、人は強くなれるものなの?」
アイズ、リヴェリア、アリサから驚嘆と感嘆、静かな高揚感が。それはフィン達も同じ心情であった。愚直に己を鍛え抜き、『技』と『駆け引き』を極め、幾多の修羅場と困難を潜り抜けた経験、そして何かを成そうとする強い意志と想いの強さが人を心身共に強くさせることを知っている者がいれば知らないものもいる。ただ、目の前の戦いに目が離せない程に魅入っていた。しかし、激しい戦いは永遠に続く筈も無い。ついてこられないものが存在している。
それから一体どのぐらい時間が経ったのだろうか。二人の体力はすり減っている筈なのにその気配も表情、雰囲気を感じさせないで激しくぶつけあった武器が先に根を上げ―――オッタルの大剣がついに限界を迎え、一誠の大剣に真っ二つにされた。自身と相手の剣の違いの差がここでハッキリと分からされた瞬間でもあった。それでも【
それに倣うように大剣を床に突き刺して握った拳で肉弾戦を臨もうとする一誠。二つの拳が交えていた剣のようにぶつけ合った時、衝撃波と轟音が生じたそれが二戦目の合図に等しかった。
「ぬるい、この程度か」
『技』と『駆け引き』の
「【
「やっすい挑発だな。でも、敢えて乗って後悔させてやるのも一興か」
神々しい一瞬の閃光に包まれた一誠は【
「この姿になったからには一方的な蹂躙をさせてもらう。負かしてやるよ最強」
「フレイヤ様の前で無様な敗北を晒しはしない」
どちらも今まで以上の速度で飛び掛かり、規定した時間まで相手を床に平伏せんと怒涛の乱打の闘舞が交わされる。一発一発の拳の打撃は想像以上の威力を誇っている。それを示しているのは二人から聞こえる音であった。端から見ればただ喧嘩しているように見える殴り合いは単純に凄いと思わせる半面。魂がぶつかり合い、熱せられた鉄に鎚を振るって不純物を取り除き、さらに鍛えて輝きだす大地のような不動の色と景色から変わった真紅色の魂がフレイヤの目を輝かせた。
最強と最弱の戦いは制限時間まで続き、引き分けの形で終了。武人はこの結果に納得できない雰囲気を纏って淡々と問いただした。
「その姿は飾りか。何故魔法を使わなかった」
「阿呆、純粋な戦いに魔法なんて無粋以外ないだろ。最強の実力を体で体感する以外どうやって感じるんだよ」
力と力の純粋な力の勝負。武器と『技』と『駆け引き』のみで戦いを臨む者は生粋の武人のようだった。オラリオ最強の
「嗚呼、確かにお前は強い方だ。最強かもしれない。だけどそれは空の下の世界での意味でな。空にも世界が広がっていることが分かったからにはお前は世界最強と称されるのはまだまだ先だろうな。俺もそうだ」
地上での最強はオッタル。なら、空の世界の最強は一体誰で、大地と空の最強の者同士が衝突してどちらが勝つのか?それが判明するまで彼は真の意味で最強と呼ばれることはない。
「お互い、まだまだ高みへ行けれそうだな」
「・・・・・」
まだ見ぬ空の世界の最強と出くわした時。その者を倒したら器の昇華は成し遂げ至れるだろうか。オッタルはモンスターの中で最強クラスに入る男を見ながら思いを馳せた。
地下室を後にして掻いた汗をシャワーで洗い流し、さっぱりして浴場から上半身裸で濡れた髪を拭きながら出ると、部屋の窓の外はすっかり日が暮れていた。オッタルとの初戦で数時間も掛けて戦っていた事に気付いて思わず苦笑した。夢中になるにも程があるだろうと。そんな一誠に待ち構えていた女神やその眷族達が部屋にいた。オッタルとの戦いに労いと称賛の言葉を掛けられるのを聞きながら相槌を軽く打つ。
「イッセー、私も強くなる」
「期待しないで待ってるよ。お前は強くなるって分かってるからな」
「イッセーよ、あの大剣をもう一度手前に見せてくれ!」
「見るだけだぞ」
大剣を魔方陣から召喚して椿やヘファイストスに見せる為、机に置いた。鍛冶を司る女神と
「オッタルと戦ってどうだったかな?」
「素直に強いね。だけど、まだまだ俺に勝つには力が足りない。というかオッタルは手加減してたかもな」
「つまり、君も本気で戦っていなかったと?」
「相手を侮り、慢心はしない。俺も本気で戦ったよ。きっとオッタルもな。それにあそこまで戦ったのはこの世界に来る前以来だ。楽しかったのは本当だ」
拭き方が甘いとリヴェリアがタオルを手に取り、慣れた手つきで拭かれ「いや、拭かなくていいって」「駄目だ、拭き方が甘い」と会話のやり取りをしながら甲斐甲斐しく世話を積極的にされる一誠。フィンとガレスはニヤニヤと面白いものを見る目で視線を注いだ。
「それにしても、君が使っている武器は頑丈だったね。刃毀れ一つも無いなんて業物に等しい性能と耐久、切れ味だ」
「ああ、あれは本来。俺のようなドラゴンを殺す為のもんだ。通常の相手にも斬り倒せれるけど、ドラゴン相手だと効果は絶大に発揮する。
「ドラゴンのお主がお主を殺す武器を持ってどういうわけじゃ」
「とある人からさ、他のドラゴンから襲われるのを想定して世界で二振りしかない大剣をくれたんだ」
「ふむ、それは誰なん?」
「原始龍って言って全てのドラゴンの祖。つまりドラゴンと言う種族のモンスターの産みの親的なドラゴンだ。産まれ方は様々でどうであれ、俺達ドラゴンにとって原始龍は神様のような存在なんだ」
ドラゴンの神。そんなモンスターが異世界に存在、君臨しているとは同じ神でも異なる神にロキ達はまた新たに異世界の事を知った。
「ついでに言えばその大剣、封龍剣は俺以外は持てないからな椿」
「それを早く言わんかっ!道理で持ち上げることができないわけだ!」
両手で柄を掴み、渾身の力を籠めて持ち上げようとしていたハーフドワーフは肩で息をしながら食って掛かる様に叫んだ。試しにとガレスも挑戦して持ち上げようと片手で柄を握り締めた途端。地面に根を張った巨大樹を持ち上げようとする常人の如く、奥歯をあらん限りに噛み締め、眦を裂き、剛腕な筋肉が限界まで盛り上がり気合のある声を上げるドワーフの力を以ってしても大剣は微動だにしなかった。だからこそロキ達は目を丸くした。
「マジで?あのガレスが持ち上げれへんなんて初めてや」
「御伽話で聞かないか?選ばれた者にしか物を扱えないってやつ」
「その類なのかい。あの大剣は」
「ドラゴン、ひいては俺にしか持てない物だ」
「んじゃあ、あの
「あれは俺の世界の精霊が打った武器で、誰でも扱える。ただ、魔法は放つことができるのか分からない」
「精霊ですって?貴方の世界の精霊は鍛冶もできるの?」
聞き捨てならないヘファイストスの耳を疑う言葉を発した当の本人は首肯する。
「ああ、鞘もそうだぞ。聖剣
と、聖剣のことで苦笑いし金眼を金髪金眼の少女に向けた時。物欲しそうな眼差しを向けられてしまった。無言で首を横に振れば、残念そうに肩を落とすそんな少女に小さく笑みを浮かべるフィンは口を開いた。
「剣と大剣は凄いことが分かった。じゃあ、君の世界の武器は他にも凄いのはあるのかな?」
よくぞ聞いてくれたと、嬉しそうに笑みを浮かべ肯定しながら口答で語り始めた。
「あるぞ、様々な伝説の道具や武器が。剣身が見えない剣に光る剣、五つの閃光を放つ槍や神の雷を帯びた鎚とか色々な」
「へぇ、槍もあるのか・・・・・」
「神をも貫く絶対の槍、トゥルー・ロンギヌスって槍もあるぞ。神様を一撃で殺すことができるとんでもない槍だ」
興味深々な
「ロンギヌスの槍・・・・・イッセー、その槍は手元にあるのかい」
「残念、あの槍は所有者にしか扱えない。流石に無いよ。見様見真似なら作れるけど」
「そうなのか。所有者しか使えない武器なんて珍しいね。異世界の武器に興味が湧いてきたかも」
「それは良好。何時か見せてやるよ。俺の手元にある伝説の武具をさ」
えっ、持ってるの?と言った風に皆の視線と意識は一誠に集中する。故に、持っているなら見せて欲しいと気持ちが湧かない筈が無かった。だが、それを口に出すことはなくなった。外してあった一誠の腕輪の宝玉が点滅し出した。何者からの連絡を受診した反応であった。腕輪を手にし、通話できる状態に繋げてみると、一人の少女が浮かび上がった。
「うん?アスナか、珍しいなどうした?」
『・・・・・ごめんなさい。今、君の家の前にいるのだけれど中に入れてもらえるかな』
本当にどうしたんだと、改めて少女の顔を見れば暗い影を顔に落としていつもの元気さがどこにいったと無くなっていた。何か遭ったのかと思い二つ返事で了承。
「ロキ、迎えに行ってくれないか?」
「え~、何でうちなんや~?」
「美女が迎えを待っているのに行きたくないのか?」
「あっ、そう言うことなら喜んで行かせてもらうで!」
自分が行けばええやん、と嫌そうな雰囲気と声音であったが、鶴の一言によりウキウキと喜悦の色を表情に浮かべて颯爽と扉をあけて部屋からいなくなった一柱の女神に無感情で呟く。
「チョロいなお前等の主神」
「「「否定しない」」」
フィン、ガレス、リヴェリアの異口同音の何とも言えない返事が静かに部屋に浸透し消えた。ロキの性格と言動を鑑みてもあれが主神ロキなのだと断言されても仕方が無いと否定できないのだった。
ロキに迎えられ部屋に入ってきたアスナ。自室の椅子に座って差し出された紅茶を飲まず、沈黙を保って顔を俯き視線を下に落とし続けて数分が経過した。この落ち込みようは一体なんだと怪訝や不思議な気持ちで二人きり、一誠は話してくれるまで待ち続けながら何かを製作していた。
「・・・・・何も聞かないんだね」
「聞いて欲しいなら聞くが、聞かれて欲しくないんなら聞く気はない。何かを抱えて苦しんでいるなら楽になる方法をしてスッキリするべきだ。決めるのはお前自身。俺はこうして新しい
「・・・・・何を作ってるの?」
そう言われ、アスナへ一瞥して間を置き口を開く。
「俺達のように別の世界から来た人間が己の欲望を満たす為に無理矢理、理不尽なことを強いる転生者って連中がこの世界に現れるようになったからな。そいつらを見極めることができるモノを作ってる」
「転生者・・・・・?」
「別の世界で死んだ人間が神の力で甦り、特典と称した何でも願い事を叶える提案を受け、第二の人生を異世界で送る連中を転生者って呼称なんだ」
その情報はアスナ達に届いていなかったのか知らなかったと、雰囲気を醸し出していた。
「実際、ロキとフレイヤの家が壊れたのはその転生者の仕業だった」
「そうなんだ。大丈夫だったの・・・・・?」
「俺は問題ない。だが、神から得たチートな能力は強力で凶悪だ。自分で考えた最強の力が現実になるんだから油断もできない。この世界の人間じゃあ歯牙にも掛けることすら不可能だろうな。第一級冒険者も別の世界から着たアスナ達もな」
「そんな人達がオラリオにいるなんて。今どうしているの?」
どうでもよさそうに「あいつらの弱みを握っているから大人しい筈だ」とあっけらかんに付け加えてアスナに指摘した。
「だからお前等も気をつけろよ。連中、万能感に浸って自分が最強だの、自分は凄いだの、己を過大評価している連中がいれば、狡猾で策略、表に姿を晒さず裏で暗躍している連中もいても不思議じゃない。それこそ人を洗脳、催眠、記憶の改竄や暗示、世界の常識を思いのままに変えて好き勝手に生きることもな」
ゾッとする話だった。知らない間に自分がもし、思い出を書き換えられ相手の思うままにされキリト達との関係と思い出が滅茶苦茶に、心も己の意思ではなく相手に操られる人形となれば抗うことはできないだろう。
「良い人、いないのかな」
「全員が全員、善人でもなければ悪人でもないってだろうな。だけど、元の世界で我欲が強く悪意ある奴が何を仕出かすか、何時仕出かすか俺達は気づく暇も無く動くに決まっている。気付いた時は既に遅かったってな」
恐い、と腕を抱きしめて身を委縮するアスナ。そうなってしまえば誰が気付いた上で助けに来てくれる希望を持てれるのか自身が無い少女の耳に「だからこそ」と言う声が聞こえる。
「相手が最強の能力を得ても生きた人間だ。不死身とか不老不死とか厄介な身体能力を得ていても転生者であることを知る方法はある」
今作っているこれで分かる。辞典程の分厚い本に触れながら得意気にアスナへ笑みを浮かべた。内容はまだ秘密だと言われたが、男の笑みはどこか人を安心させる温かさを感じた。悪戯を思いついたような子供のような感じもしたが、毒気を抜かされた少女は口唇を緩める。
「悪戯っ子みたいね。その笑い方」
「人を驚かすのが好きだから、こんな笑い方をしてしまうのもしょうがないんじゃないか?父親似だし」
「イッセーのお父さんか・・・・・凄い家なんだよね?」
「凄いどころかあんな一族の生まれだと思うと、事実を消し去りたい程嫌いだがな」
苦々しい表情に打って変わった一誠の心境を理解できないアスナ。この世界にいない自分の両親を思い浮かべ、
「両親が嫌い、じゃないんだよね?」
「嫌いになる方が不思議だ。俺が一番毛嫌いしているのは実家の、父親の一族だ」
「どうして実家が嫌いなの・・・・・?」
「嫌いなもんは嫌いなんだ。・・・・・少しは元気が出たか?」
それなりに明るく会話ができていたアスナの心は少しばかり晴れやかとなったのか、小さく頷き感謝の念を口にしたが一誠はそれ以上口に出さなかった。顔を暗く落ち込んでいた理由は分からないが一人で『幽玄の白天城』に来たことは一度も無く、この時点で二人きりで話がしたいと申し出た彼女の心境は穏やかではなかったかもしれない。仲間との関係でトラブルか、キリトとのトラブルか、それとも他の事かと推測をして自分の口から言うのを待つことそれから数分後。
「あのね、イッセーって好きな子が複数できちゃったらどうするの?」
「俺が?相手が同じ男をじゃなくて?」
「・・・・・両方、かな。そんなことになったら君だったらどう決めるのかなって気になって」
「(―――キリトと愛人達のトラブルかぁ~)」
もはや答えを言っているような感じがしてならない。複数の女性関係との付き合いに純粋で一途、相手を尽くし愛情深気少女であれば浮気されもすれば怒っても当然だろう。仲の良い親友と友達が横恋慕をしたら複雑な心で苦悩しつつ話し合いをする心の余裕はあるものだろう。アスナとキリトは交際している。それはもう二人の言動で認知している。故にキリトが愛人達との間に何かをしてしまった。かもしれないと一誠は憶測でそう考えて自分なりの答えを告げた。
「アスナ達の世界の結婚制度は知らないけれど、俺の世界は一夫多妻の制度なんだ。だから、俺も相手もお互い話し合って、問題無く生活を送れるなら皆で愛し合う」
「そ、そうだったんだ。イッセーの世界は凄いね・・・・・」
「常人の世界の人間からどう思われる世界なのか分からんがな。まぁ、実際に俺は元の世界に帰れば俺を慕ってくれる家族がいる」
「それって、結婚している人達?」
「まだだ。でも、将来全員と結婚するよ。俺もあいつらもお互い必要不可欠な存在だから」
だから、早く愛しい家族達の温もりを感じたい。と、願う一誠の憧憬を知ったアスナも気持ちはわかると首肯する。私も早く家族に顔を見せて安心させたいと。
「で、満足のいく答えだったかアスナ」
「満足を超えて驚かされたよ。君がハーレムを作っていただなんて。因みに人数はどのぐらいなのかな」
「大雑把で言えば10人以上」
「嘘っ、そ、そんなにっ?・・・・・・イッセー、凄過ぎるよ・・・・・大変じゃないの?多くの女性と付き合って」
大変・・・・・だったか?思い返すにも女性との付き合いで苦労したことは・・・・・感じたことが無い気がする。首を捻って、「争奪戦はたまに起きたし・・・・・入浴中に侵入してくるし、起きていたら何時の間にか一緒に寝ていたことも・・・・・」等々出てくる内容がアスナの思考を停止しかけさせた。
「個性的な女が多いのは確かだった。でも、そんな日常生活を過ごしていると不思議と慣れて、楽しき一日になるんだ。んー、これって神経がもうヤバイのかな?」
「ど、どうなんだろう?一緒にいて楽しいなら好きな人と過ごせて幸せなんだろうし、大丈夫だと思うよ」
「そうか。なら、そっちもそんな感じじゃないのか?」
「・・・・・分からないよ。一夫一妻の結婚の制度だから付き合うのも男女一組って常識だし、友達や親友でも好意を寄せるぐらいならまだましも・・・・・」
「えっと・・・・・・三角関係・・・・・?」
「五角関係、だよ」
浮気現場を目撃したかもしれない少女は何かを堪えるように吐露した。
「何だか最近、キリト君が私によそよそしくなってて。どうしたのかなって思ったけれどいつもと変わらない日常と彼の言動で気にはしていたけれど、ダンジョンや君のお店のお仕事で多忙に追われてたから何時しか気にすることを忘れていた頃だったの」
それは夜中の時だった。久しぶりに二人きりでデートに誘おうとキリトの部屋に訪れた扉を半ば開けた時だった。―――その目で見てしまったのだ、実の妹と肌を重ねていたのを。衝撃と失意に立ち尽くす視界の端で小柄な少女もまた生まれたままの恰好で同じベッドの上に寝転がっている様子も。一体何時の間に体を重ねる関係になっていたのか混乱と動揺が頭の中で渦巻き、肌がぶつかり合う音、少女の嬌声から逃げるように自室に駆けこんで引き籠り夜を過ごした別の日―――リズとキリト、アスナとキリトの妹スグハと一緒にダンジョン攻略に備えて物資の補充へと街へ買い出し時にも見てしまったらしい。共にいたリズがキリトの手と繋いで吸い込まれるように裏路地へ消えていく二人に嫌な予感がして、スグハの目を盗み、焦燥に駆られて追いかけて裏路地に身を潜らせて直ぐ、互いの体を密着させ、情熱的な口付を交わしている決定的瞬間の光景を見てしまい、絶句で立ち尽くしてしまった。
「異世界から来たあの子達や【ファミリア】の為にも毎日毎日本当の命懸けをまたすることになって、皆の気持ちがストレスで溜まっているのかもしれないのは分かっていたつもりなの。ダンジョンの中でキリト君に守られ、助けられたことは何度もあったし好きになっちゃうのもしょうがないって頭では理解しているの。でも、私の恋人が親友や友達に取られちゃっている事実を突き付けられて、私、もう心が整理できなくなってきた時に・・・・・」
夜遅くキリト、スグハ、リズ、シリカ達だけダンジョンに向かった。何でも上層の
自分の愛は偽りだったの?何で自分に話をせず隠れて関係を続けてるの?
そこからはもう、アスナはキリトが自分に向ける愛は何なのか分からなくなり、浮気された悲しみと怒り、裏切られた失望と絶望に虚無感で宿屋に入ってキリト達が借りた部屋を聞きだした(その時対応した店員は鬼気迫る勢いで脅された)。大股で彼等がいる部屋の扉の前に立ち―――抜刀、斬って破壊して中へ侵入したところで少年と少女達が目を見開き、顔を青褪めた。
淫靡な雰囲気を醸し出している部屋の床に散乱している脱ぎ捨てられた服、全裸の少年に群がる少女達。
決定的な浮気の現場をこれでもかと視界に入れ、自分でもこんな声が出るんだと思うほど冷たい声音で告げた。
『私に黙って浮気をするような男の子じゃないと信じてたのに・・・・・』
『ア、アスナ・・・・・!』
『キリトく・・・・・ううん、桐ケ谷君、あなたとは別れます。金輪際話しかけないで、近づかないで顔も見たくないから。それから【アルテミス・ファミリア】も脱退させてもらいます。そうすれば私に気にせずいられて元の世界に戻れるその日まで好きなだけリズ達とエッチなことをしてればいいよ』
一息で早口にその場から逃げるように後ろから聞こえる声を無視して踵を返した。真っ直ぐホームに戻り必要な物だけ
「こんなこと、男の子の君に話していいものじゃないのだけれど、やっぱり男の子の恋愛話を聞きたくて、ごめん、聞きたくない話で良い迷惑だったよね」
懺悔をするように声を漏らし、悲哀の色が滲んで出ている彼女の辛そうな表情を見て背中から生やす翼で頭を撫で始める。
「キリトも男だった話だ。特に迷惑だとは思ってないよ。寧ろいい弱味―――もとい弄り甲斐のある話だった」
ニャァと、邪な笑みと口の端を吊り上げた者の表情を浮かべてアスナの頬をひきつらせた。キリトと一緒にからかわれた経験があって、それを思い出すと少し話す相手を間違えたかもしれないと後悔。
「それとまだ嫌いじゃないなら、浮気を知った上で開き直ったらどうだ」
「開き直るって・・・・・」
「アスナもあいつらもキリトが好きだったんだ。共に戦い抜いた戦友、背中を預けれる程の信用と信頼ができる異性、築いた絆が異性として気になり次第に恋する。結局最後は愛し合う関係になるんだからしょうがないだろ」
「でも、浮気は浮気だよ・・・・・元の世界でもこの世界でも・・・・・」
納得できない、簡単に認めれないと常識人としての意見を弱弱しく言うが、呆れる一誠だった。
「当たり前だろ。勝手に他の女と体を重ねたら浮気以外何がある。お前も浮気したらショックを受けるのはキリトだ。どっちが同じことをして同じ結果になるのは火を見るより明らかだ。俺は浮気されたアスナじゃないからその胸に感じた痛みまでは理解できない。その上で問うぞ。アスナはこれからどうしたい」
「・・・・・・どう、したい」
「これからどう生きたいって話だ。異世界に来てもアスナの人生はまだ続くんだからな」
どんな選択を決めるのかは彼女自身なのだ。徐に立ち上がり、アスナの横に移動する。
「とりあえず、今までの鬱憤を一度発散した方が良いか。ついてこい」
「え、どこに・・・?」
「地下室のトレーニングルームだ」
そう言ってアスナは連れられた場所、トレーニングルームで貸し与えられた剣を手に一誠と対峙する。体を動かして頭と心の中のモヤモヤを晴らそうとするシンプルな提案に当惑したが。
「行くぞ、本気でこい」
いきなり斬り掛って来られたら気を引き締めて応じるしかない。スキルを発動した。彼女の中でスイッチが切り替わり、戦闘モードに入るとアスナに変化も起きた。視界に映る一誠の隣にいくつもののゲージと名前が浮かび上がっては、自身の身体能力も超向上した。体は羽のように軽く、腕力も数倍の力で相手を押し返した。一誠は心底不思議そうに首を傾げる。片手で数える程度でしかないが、アスナの実力は中の下ぐらいだと把握していた。なのに、今の彼女はあっさり本来の実力を凌駕している気配を醸し出している。どうなっているんだ?と感じながらも苛烈に剣を振るい続けた。懸命に食い付く彼女も負けじと培った「技」と「駆け引き」を駆使して切り結ぶ。乱れ突きを繰り出すとかわされ、弾かれたり逸らされて己の顔を見つめながら避けた一誠の髪を数本切って宙に舞わしただけ。腕を引いてから鋭い一突を胸に向かって放った剣はあっさり甲高い音と共に弾かれ、アスナの腕が後ろへ向いた瞬間懐に飛び込まれた。突然の接近に体が対応できず後ろに下がろうとした足が床から離れ背中から倒れる姿勢になってしまった状態で振り上げられる剣に、斬られまいと背中を弓なりに反らし首の皮一枚もとい服を切られながらバックステップで一誠から距離を置く。
「やるな。今のはかわされるとは思わなかった。今までの動きより断然いいみたいだけど、まさか手を抜いていたか?」
「どうだろうね・・・?もしも手を抜いていたら君は怒る?」
「いーや。俄然、お前を本気にさせたくなるだけだ」
真紅のオーラを体から迸らせ、人の皮を被っていた怪物が真の姿に変身してアスナの目を焼き付かせた。真紅の鱗に覆われた体、臀部辺りから竜の尾を生やし背中には二対四枚の翼、蜥蜴を彷彿させる頭部に鋭利な一本角。鋭く伸びている手足の爪と凶悪な牙を生え揃えているドラゴンを前にして少女は目を見開いた。いきなり視界に映る人から化け物になった瞬間を目の当たりにし絶句するなとは酷な話だ。ゲームならばともかく
「うっ!?」
腹部から伝わる鈍痛に全身が硬直する。目線を下に落とせば長い真紅色の尻尾が槍の如く少女の腹に突き刺していた。貫通してないものの、剣以外に攻撃される意識をしてなかった彼女の配慮が仇となった。その認識をした瞬間に体は後方へ吹き飛び床に足が着いて全身で息をし、片手で鈍痛が生じる腹部に押さえながら息を吐く暇も与えさせない容赦のない怒涛の乱れ突きの対応に強いられる。何とか激しい突きの嵐から耐え抜き、隙を窺いながら攻めに転じ、気合の叫びを発しながら攻防を繰り広げ、無我夢中で一誠の体に傷を負わせていく。
「(ここっ!)」
何時しか本気で戦うようになったアスナは一人の剣士として相手を倒さんという気持ちが強まり、眦が裂いた目は一誠の突き出した剣を凝視し、添うように自分も突き出しては重ねたところから勢いよく振り上げ剣を持つ腕が後ろに向いて直ぐに前に振り下ろすことはできないその瞬間を狙わずにはいられない。
「全力でいくよ!はあああああああああっ!」
相手もそう望んでいる。ならば剣士として応じなければならない。紫色に輝く剣の柄を強く握り締め、一瞬だけ無防備のモンスターの体に剣を叩きこんだ。己の体に突き刺してくるその「技」は―――左眼の金眼が見開いた。都合10回目の連続攻撃の後、最後の一撃の11連撃を胸部に放ったアスナ。身体中から血を流し、重傷の体にも拘わらず意思の強い光を宿す左眼が見下ろしていた一誠は口唇を笑みで作った。
「懐かしいな、その技」
「え?」
どういうこと?疑問が胸の奥から浮上して顔を見上げようとした矢先。アスナの体に同じ「技」が放たれた。
「マザーズ・ロザリオ」
生身の身体に重傷を負わせる技がアスナの目に入ったのを最後に、目の前は真紅の色に染まり意識が遠退いた後は真っ暗な世界が彼女を迎えた。
「・・・・・ぅ」
どれぐらい経ったのか分からないまま、アスナは目を開けた。体を起こして周りを見回せば傍で胡座をかいている一誠と真っ白な地下室の中にいることが分判った。
「起きたか」
「うん・・・・・あの怪我は大丈夫?」
「あれだけ派手な攻撃した本人が気にするとはな。お互い回復している」
自分の体をまさぐり、痛みや怪我はないことを知り気絶している間に治されたのだと理解する。ただし、服はボロボロであったが。それを気にするよりも同じ技を使った一誠は真似したのか、どうして懐かしいと言ったのか気になっていた。
「イッセー。私の技が懐かしいってどういうこと?そっちの世界に同じ技を使う人がいるの?」
「ああ、いる。天真爛漫で人懐っこい後輩の女がマザーズ・ロザリオを使うんだ」
まさか、と有り得ないことであるが既に元の世界で永遠の別れをした人物像が頭の中で浮かび上がってきた。もしも己の幻想が現実になってしまったら・・・・・。緊張で動悸が五月蝿い心臓の音が嫌にも聞こえてくる中、意を決してアスナは震えそうな口唇を動かした。
「その子の名前・・・・・何て、言うの?」
「紺野木綿季」
一際高鳴る鼓動。こんな偶然、奇跡があるのだろうか?元の世界で死んでしまった最強の剣士の少女が別の世界で存在しているなんて―――!
「あなたの世界にはあの子が、ユウキが生きているのね・・・・・」
「・・・・・へ?」
「・・・・・会って、みたいなぁ・・・・・」
遠い目で憧憬の籠った言葉を吐露した。彼女とユウキの関係は定かではないもの親しい柄なのかもしれない。しかし、会いたいのは一誠も同じで簡単に直接会うことはできない。帰郷の憧憬を抱く男も短く相槌を打つと求められた。
「ねぇ、ユウキの写真とかない?」
「残念ながらアルバムの類や携帯とか全部元の世界にあるんだ」
けど、と付け加えた一誠の全身が光に包まれ・・・・・光が消えた時、アスナの傍にいた者は男から四年前まで共に暮らしていた少女になっていた。
「幻を見せるぐらいはできるよ」
「―――――っ」
人懐っこい笑みを浮かべる黒みが掛った紫の長髪に赤い瞳の少女、紺野木綿季に変身した。驚きのあまり言葉を失ったが、思い出と記憶だけの少女ではなく瓜二つな少女の存在に徐々に目尻に涙を溜めて胸の奥底から湧き上がる感情が抑えきれなくなっていく。
「久しぶりだね、アスナ」
「ユウ、キ・・・・・ッ」
「って、ボクが言ってもアスナが知ってるユウキじゃ―――わぷっ」
苦笑いするユウキに抱き付くアスナ。亜麻色の髪から仄かな甘い香りが鼻腔をくすぐり、「あ、好い匂い」とほんわかな気持ちになりながら、彼女の頭と背に両腕を回してポンポンと触れる。
泣く子をあやすように抱きしめて・・・・・。