ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか   作:ダーク・シリウス

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修正、書き加えました


冒険譚8

しばらくしてアスナは一誠から離れ気恥ずかしげに謝罪。幻とはいえ久しぶりに出会えた少女に嬉しくて気持ちが抑えられなくて、キリトと別れたばかりなのに別の男に抱きついてしまった。アスナの謝罪に気にしないと風な柔和な笑みを浮かべ、幻を解いて元の姿になった男は彼女を引き連れて地下のトレーニングルームを後にし自室に戻った。

 

「アスナ、どんな武器が欲しい」

 

「え?」

 

「懐かしい技を見せてくれた礼だ。今まで作った武器を一つ譲る」

 

マザーズ・ロザリオを見せてくれたアスナの戦いに評価した。シノンのように凄いと思わせた、凄いと思った一誠は彼女が欲した打った武器を譲渡する話をした。本棚に近寄って一冊の本を動かすと隠し保管庫の入り口を解放した。隠し部屋へ入って行くその姿を追いかけて、山積みに集められているヴァリスや本棚のように立て並べられている陳列窓(ショーウィンドウ)の中に大量の怪物の宝(ドロップアイテム)希少金属(レアメタル)、宝石や金銀の装飾品、仕舞には氷漬けの多種のモンスター達までアスナの視界に飛び込んできた。

 

「こ、これって・・・・・」

 

「今日まで貯めに貯めた収集品(コレクター)や全財産を保管している俺個人の金庫みたいなもんだ」

 

この世界でしか手に入らない品々を宝として保管する場所の中を移動し武器だらけの空間へ赴く。それらは全て一誠が製作した物だが、中には購入した得物もある。空の世界で得た重火器も含まれていてアスナの目を丸くさせた。

 

「銃だよねこれ。オラリオのどこかに販売されているの?シノンが物凄く欲しがるよ」

 

「いや、多分地上には存在していないかもしれない。これを買った場所は神すら認知していなかった世界だったんだ」

 

「もしかして、異世界?」

 

知らない世界と言えば自分達の世界か、と予測して訊ねたアスナに「違う」と否定された。

 

「空の世界だ」

 

「空の世界・・・?そこってどんな世界なの?」

 

「遥か空の彼方、途轍もなく分厚い雲に囲まれている場所に島が浮いているんだ。そこにはヒューマンと変わりない姿をした人種がいれば頭に角や獣耳を生やしている異なる種族、魔法と剣や独自の文化も存在していて、空を飛ぶ艇も見たんだ」

 

当時の事を思い出しながら浮かべる笑みは、その世界に行って楽しかったんだろう。異世界に更に世界が存在していた発見は凄い衝撃を受け、興奮を覚えただろう。話を聞いている内に空の世界へ進出してみたい欲求が湧き上がるのを自覚しながら並べられている武器を視界に入れる。どれか一つ譲ってくれる話だ。であれば、馴染みの武器が欲しいアスナは細剣(レイピア)を選んだ。

 

「ねね、どんな細剣(レイピア)があるのか教えてよ」

 

「攻撃力そのものは他の一級品装備と比べて低いが破損することのない不壊属性(デュランダル)最硬精製金属(マンスター・インゴット)の『オリハルコン』を素材にして作った特殊武装(スペリオルズ)細剣(レイピア)があれば、属性魔法が付加されている物もある。まぁ、アスナはこれがいいだろ」

 

鞘に収まっている一振りの細剣(レイピア)を手にして彼女へ突き出す。

 

「ヘファイストスが立っている領域に足を踏み入ることが許された代物だ。俺の渾身の一品でもあり、俺の角を素材にして作った最高傑作、《神威》の切れ味も保証する」

 

受け取り柄を握って鞘から抜き放てば赤より鮮やかな色をした紅色と白のツートップカラーの細剣(レイピア)だった。軽く振るったり突いたりしながら調子を確かめる。一誠の体の一部を用いたからか、握る柄からほんのりと温もりが帯びている。不思議と思うも今まで使っていた得物より軽く、より丈夫そうなこっちの方がぴったりと手に馴染む感じで少女は薦められたこのレイピアにしようと決めた。

 

「《神威》、これがこの武器の名前なんだね。格好いいよ」

 

「いや《神威》は全体的な連作(シリーズ)の名前だ。個としての銘は付けてないから自分で決めても良いぞ」

 

「そうなんだ。じゃあ、そうするね」

 

剣身を鞘に収め、大事そうに持って用が済んだ金庫を後にしようと足を前に運び出す。ふと、この武器を売ったらどれぐらいの値段が付くのか気になった。訊ねてみるととんでもない額を言う言葉が返ってきた。

 

「億越えじゃないか?」

 

「お、億・・・・・」

 

億万長者も夢じゃない武器を譲ってくれた一誠に戦慄する。その額に相応しい威力がレイピアに宿っている事を知るのは少し先の事―――。

 

「もうちょっとだけ見ていい?」

 

興味津々に言うアスナの乞いに了承する。先に歩く彼女について行き、質問を受ければ答え、簡単や驚嘆の息を漏らさせる。そんな中、三本の酒を発見した。驚く事に酒の中にダイヤモンドが浸かっていてアスナが知っている酒とは異なっていた。これは何だろう、と陳列窓(ショーウィンドウ)の中を覗きこむ少女が何を見ているのか悟って教えた。

 

「気になるか?」

 

「うん、お酒の中に宝石があるなんて初めて見た」

 

「酒の種類はウォッカ。名前は『ディーヴァ』。日本語に訳すと『歌姫』っていう最高級の酒なんだ。それ、俺の両親の宝物の一つでな。一つ―――一億以上するんだ」

 

「へっ!?」

 

絶句してしまう程の酒の値段を聞き、バッと条件反射で離れた。もしも割ったりしたら弁償しなくてはならない。一生懸けても稼げれない一億を。それも三つもだ。

 

「俺の世界の酒を司る神ソーマが大人になったら両親と飲むといいってくれたんだけど、酒が飲めない俺にはちょっと申し訳ないんだよな」

 

「そ、そうなんだ・・・・・」

 

「うん、だからもしもロキ達が勝手にこの酒を飲むことになったら・・・・・俺は絶対に許さないでいるんだ。ソーマの神様から貰った大切な贈り物だからな」

 

ディーヴァを懐かしむように見つめたのちに保管庫を後にしようとアスナを引き連れる最中、山積みにされているヴァリスを見て彼女は訊ねた。

 

「こんなにお金を貯めてるけど、なんかコツがあるの?」

 

「他の冒険者と変わりない方法で稼いでいるけれど、それ以外だと月に一度カジノで荒稼ぎするな」

 

「カ、カジノ・・・・・?」

 

「稼ぎ過ぎると出禁を食らうから二〇〇〇万ぐらいまでだがな。―――一人につき」

 

一人につき二〇〇〇万ヴァリスを稼ぐ?引っかかる言葉を述べる少年に疑問符を浮かべ・・・・・あっ、とアスナは察した。

 

「もしかして、分身体にも稼がせてるの?」

 

「お、気付いたか?分身体達には姿を変える魔法で別人になりすまして大勝したり大負けしたりする客に扮して一緒にカジノで稼いでいるんだ」

 

アスナは度肝を抜かされて言葉を失った。違法行為と犯罪に手を染めているんじゃないかと思う方法でカジノから金を巻き上げて稼ぐ一誠を微妙な表情で見つめる。

 

「気付かれたら捕まるよ?」

 

「騙される方が悪いって知らないか?ま、金は腐るほどあっても困らないもんだ。必要な時は必ず使うんだかそれに備える意味で貯めておかないと―――」

 

腕輪の宝玉が点滅した。誰かからの受信を繋げて応答すると『『イ、イッセー君』』と少年少女達が切羽詰まった面持ちで立体的な映像に映り出た。

 

『『お金を貸してっ!』』

 

「代価はお前等の命でな」

 

『鬼かお前っ!?』

 

名も知らぬ少年からの突っ込みの叫びの後、「冗談だ」と宥める。

 

「団長はどうした団長は。何で俺に頼み込んでくるんだ」

 

取り敢えず理由を問いだたす。納得や正当の理由であれば、それなりに出資しても構わない。後日キッチリ耳を揃えて返してもらえばそれでいい考えの一誠に告げる。

 

『団長はいるにはいるんだけれどよ、何か物凄く暗い顔で落ち込んでいるんだ。とてもじゃないけど話しが出来そうにない雰囲気を醸し出しているし。他の先輩達にも相談してみたけれど、新しいホームの為に殆ど使ったからそんな大金はうちにないって言われたんだ』

 

直ぐ傍にいるアスナにも「そうなのか?」と尋ねる視線を向けると小さく頷いた。

 

「大金を貸して欲しい理由は?」

 

『実は、上鳴君と峰田君がお金を払えず帰るに帰れない状態だって連絡が来たんだよ・・・・・』

 

「・・・・・理由はなんだ、お前等は聞いてるのか?」

 

『クライン先輩から女の人と遊んだりカジノをしていたらそうなったって聞かされたぜ。先輩達も繁華街にいるんだけどよ、流石に払えない額だったらしくて二人を助けれないでいるんだ』

 

「ク、クラインさん・・・・・」

 

赤毛のトゲトゲ頭の少年から告げられる理由で一誠の気持ちがスーと冷めていく。まさか仲間がそんな理由で捕まっているとは思っていなかったアスナも何とも言えない気持ちになった。途轍もなくくだらない理由で金を貸さなければならないのかと嘆息を零す。

 

「分かった―――救いようのない馬鹿は救わない方針でする。お灸を据えるいい機会だからな」

 

冷たく見捨てる宣言をした男は無情で非情にも通信を切った。さすがにそんなことするとは思いもしなかったアスナも目を丸くして吐露した。

 

「た、助けてあげないの?」

 

「命の危険に及ぶのであればするが、それ以外は完全に干渉しない。自分で起こした問題は自分で何とかしろって話だ」

 

「その問題が一人じゃあ解決できなくても?」

 

「・・・少し付け加えさせてもらうぞ。さっきも言ったが命の危険に及ぶ問題だったら助けはする。理不尽な目に遭っていたり【ファミリア】全体的な問題でもだ。が、個人で起こした問題にどうして俺が関わらなきゃならないんだ?一応俺は他派閥の団員だぞ」

 

そこまで面倒見切れないと言外する。他派閥の問題に首を突っ込んだり干渉することは殆どしないのがオラリオの常識、冒険者の暗黙の規則(ルール)だ。アスナも知っている。しかし、彼等彼女等は自分達の仲間・・・・・。副団長として何とか助けたいのは山々だが今の少女は団長に愛を裏切られ、地位も肩書も殴り捨てて家出をしてここにいる。

 

「あいつ等が知っている兵藤一誠はとことん甘い様だな。それは信用と信頼が大きいからだろうけど自分の手では負えないことを他力本願、全て丸投げにする連中とよくとまぁ付き合っていたな。責任転換が上手過ぎる」

 

「責任って、そんな・・・・・」

 

「しようとしてただろ。綺麗なお姉さん達とイチャコラニャンニャンしたりカジノで負けた分の金を俺に払わそうとした時点で。自分達が招いたことを、何で俺が尻拭いして多額の金を払わないといけないんだ。あいつ等、今の自分達の立場分かってるのか?ふざけてるのか?」

 

グチグチと文句を言いながら軽く人差し指を振ると、何故か山積みにされているヴァリスが意思を持っているかのように宙へ舞い上がり、百万ずつ別れてどこからともなく飛んできた亜麻袋の中に吸い込まれる感じで集まって行く。なんで?と不思議そうに思っているアスナの前で、肩下げの鞄の中に亜麻袋を詰め込み始める一誠の行動に気付いた。

 

「助けに、行くの?」

 

「あとでギャーギャーギャーと猿のように喚かれたら煩くて敵わないからな。全く、今夜の【アルテミス・ファミリア】は問題を抱えて来る日だな」

 

「うっ・・・・・」

 

確かにその通りだと自覚している少女は申し訳なさそうに委縮する。まさか浮気現場の近くで仲間がいて彼等も楽しんでいたとは気付かなかった。しかも問題を起こしてだ。自分達の問題を一誠に持ち込んだ認識を改めさせられ謝罪の念が抱く。

 

「部屋で待ってろ。何か飲食したいならそこにある冷蔵庫から出していい。それと本棚にある本の中には九冊の魔導書(グリモア)がある。間違っても読むなよそれだけは」

 

「う、うん・・・・・わかったけどグリモアってなに?」

 

「ん?知らないのか。魔法を一つだけ強制的に発現させる魔法の本だ。一冊一億以上するから高級品扱いされてる」

 

―――絶対に本に触れないようにしよう。教えてくれた一誠が部屋を後にして行く後ろ姿を見て心から誓ったアスナであった。

 

†―――†―――†

 

「ですから、現金で支払うべきのものを支払ってもらわないと困ります。それができないなら日雇いして働いて返してもらう当カジノの決まりなんですよ」

 

「こっちだって体を張って商売してんだ。相手がどこの派閥だろうと払うもんを払ってくれなきゃ割が合わないんだよ。娼婦を舐めてんのかテメー等はああん?」

 

一方、クライン達がいる繁華街と歓楽街と接する一角にて、約束を取り入ってもらい後日返済するから仲間を返して欲しいと乞う【アルテミス・ファミリア】の主神と数名の団員達だが、黒い燕尾服を着込むカジノの店員や都市最大派閥の守衞、遊郭に住まう踊り子のような衣装を纏った褐色肌の女性達―――アマゾネスの娼婦がそれぞれ上鳴と峰田を返さんと一点張りで乞いを突き飛ばしている。象頭の仮面を装着している守衛兼冒険者、【ガネーシャ・ファミリア】の団員からの助力も得られない。結局、解決方法は膨大な額を耳揃えて払う他ない。薄汚い印象を与える教師相澤と犬歯が異様に長いガタイのいい教師ブラドキングはどうしたものか、と困り果てた。

 

「(どうするイレイザー。このままじゃ埒が明かないぞ)」

 

「(分かってる。合理的な方法は一つしかないが、今の俺達にそれはできない)」

 

声を殺して苦々しい声音が零れる。法外だと思うほど多額の金額を払えるほど【アルテミス・ファミリア】は持っていない。時間を掛けて払えば何とかなると思っていたが、甘くはなかったしそう問屋は卸せなかった。

 

「で?金を持って来ているんだろうね?私の仲間の体で思う存分楽しんだんだ。それ相応の金をここに持って来ない限りあのガキは返さないよ。奴隷としてコキ使わせてもらうからね」

 

最終警告だとばかり催促するアマゾネス。誰が見ても大金を持ってきていないのは明白、火を見るより明らかだ。話し合いで事が解決できるなら世界は平和で戦争なんて起らない。力と金と権力、女と欲望が渦巻いている現在『暗黒期』真っ只中の迷宮都市オラリオに生きるためには実質強さと金が必要なのだ。

 

「それでも返して欲しいなら実力で取り返してみるかい。受けて立つよ私等は」

 

腰に携えていたり、手の中に握っている得物を見せつける娼婦(アマゾネス)達から威圧が伝わり反射的に臨戦態勢の構えを取る団員達の所に。

 

「何だ、戦うなら鬱憤を晴らす意味で交ぜさせてもらうぞ」

 

肩下げの大きな鞄を持つ若い少年と美しい肌を覗かせる深い切り目(スリット)が入った白の衣装(ドレス)を身に包む豊かな胸のエルフの女性が緊迫の雰囲気を一蹴する。二人のうち一人の少年の登場に【アルテミス・ファミリア】の団員が安堵で胸を撫で下ろす気分に浸った。

 

「ひょう―――」

 

「あ?」

 

「・・・イッセー」

 

兵藤と言いかけた団員が凄い形相で睨む一誠に言い直して口を噤む。そして【アポロン・ファミリア】との戦争遊戯(ウォーゲーム)で様々な魔道具(マジックアイテム)を駆使してたった一人、勝利をもぎ取って見せた男が現れアマゾネス達の纏う空気が変わる。

 

「『異世界食堂』の主人じゃないか」

 

「生で見るの初めてだ、格好いいじゃない」

 

「ねぇ、あれ。最近娼婦になったエルフよね?」

 

彼女等のざわめき何かを他所に鞄の蓋を開けてジャラッと音を鳴らす亜麻袋を取り出す一誠はアマゾネス達に近づく。

 

「いくら払えばいい?」

 

「え?」

 

「こいつ等が引き取りに来た馬鹿共の払う金額だ。俺の知り合いでもあるから肩代わりをしに来た」

 

最初、なにを言われたかぽかんと間の抜けた返事と顔をしてしまうアマゾネス。肩代わりに金を用意して払いに来たと言われてようやく察した。漆黒の長髪を背中まで伸ばし、男を色香で惑わすような褐色肌に冒険者用装身具(アクセサリー)を身に纏うアマゾネスが堂々とした態度で払いに来た男に近づき鞄の中に敷き詰められている亜麻袋を一瞥し口を開く。

 

「本当に払いに来たようだね。何なら、お前がその体であいつが払う金と立て替えても良いんだよ?」

 

「好きでもない女と体を重ねるなんて御免蒙るよ。【イシュタル・ファミリア】の連中には良い思い出が無いんだ。特にあの三人の男共にはな」

 

「・・・・・ああ、あいつらね」

 

彼女も思うところがあるのか、一誠が指摘した男性団員達を浮かべ苦い表情を浮かべたが、それは一瞬で元の表情に戻った。

 

「イシュタル様も扱いに困り果てていたよ。好き勝手に豪遊して傍若無人の振る舞いで場所や昼夜問わず腰を振っていたんだからね。逆らえば力尽くで黙されるか犯される日常が常だったし、仕舞には主神の神室を自分達のヤリ部屋にしたんだから流石にイシュタル様はキレてたよ最初は」

 

「飼い馴らすことができない獣を、己の力量を読めなかった主神の自業自得だろ」

 

「ははっ、言うじゃないか。ま、確かにそうだろうねぇ」

 

自分の主神を侮蔑が含んだ言葉を発せられてもアマゾネスは気にもせず、同感だと笑いも上げた。

 

「んで、いくらなんだ。さっさと払って馬鹿共を引き取りたいんだけど」

 

「せっかちだね。もう少し会話を楽しみたいとは思わないのかい?」

 

「それより馬鹿共の折檻を楽しみたい方だから」

 

ヴァリスが詰まった亜麻袋を弄びながら金額を問いだたし、彼女は「わかったよ」と本題に移った。

 

「片手で数え切れないぐらい、高級娼婦を指名して囲って楽しんでいたからねぇ。私が知る限りあんな豪快な小人族(パルゥム)は初めてだ。私達が知らない第一級の冒険者かと思って楽しませていたから―――一千万ヴァリスを要求したよ」

 

「・・・・・本当に馬鹿かあいつ」

 

そう言いながらポンポンと迷惑料込みで上乗せし、二千万もアマゾネス達に払っていき完済を果たす男に、心なしか驚嘆の息を漏らしていた。次のカジノの店員に話しかけ、肩代わりする提案を持ちかけて払うべき金額を提示してもらう。

 

「五百万ヴァリスです」

 

「ご迷惑をおかけしました」

 

謝礼としてもう五百万も上乗せして払い、こっちも完済を果たす一誠。これで双方に捕まっている二人は釈放された。カジノと守衛の【ガネーシャ・ファミリア】の団員は満足そうに帰って行くのを見届けながら一人残して去るアマゾネス等も視界に入れる。

 

「ところで、そのエルフはなんだい?これから楽しもうと連れている所なら私も交ぜてもらいたいね」

 

「ちげーよ、急に声を掛けられて断わろうと思ったところ―――諸事情で身請けをしようと連れ回していたところ」

 

突拍子もない展開になってこうして連れ回されているのだと知り、エルフを一瞥して口の端を吊り上げた。

 

「肝が据わってるね。そのエルフのこと好きなのかい?」

 

「いーや?好きでもなければ嫌いでもない。単純な理由さ。好きでもない男と肌を重ねて金を稼ぐぐらいなら、俺の店で働いて金を稼げばいいって話さ」

 

「何だいその理由は。それでよくそいつは離れずにいるね。無理矢理連れ回しているのかい?」

 

「口説いた」

 

胸を張る様にいい笑みでそう言われ、もう一度エルフの方へ改めて見やると。口説かれた事実は本当であると白磁の肌の頬をほんのりと朱を染め自身で証明した。

 

「こんな私を、必要としてくれているこの人に、その・・・・・ゴニョゴニョ」

 

「・・・・・」

 

諸事情で卑しい娼婦に身を落ちてしまっても、潔癖性が強いエルフが簡単に男の言葉にコロっと心を落とされるとは思わなかった。自分が知る限り彼女は娼婦となってからまだ日が浅い。日が浅いからこそ、エルフにとって地獄のような暮らしの中を手を伸ばし、救わんとする男の言葉はどれだけ心は救われたのか計りしれない。故にアマゾネスはこみ上げてくる笑いを堪えられなかった。下手な男より女の扱いが長けている一誠の口と手腕に素直に凄いと称賛もする。

 

「幸せになりな。そいつは間違いなく、いい(おとこ)だ」

 

「・・・・・はい」

 

自身も認める男を笑みで固めた顔のまま手を伸ばす。

 

「私はアイシャ、アイシャ・ベルカだ。『異世界食堂』の店主イッセー」

 

「ん、よろしく」

 

応じて手を伸ばす一誠と握手を交わし、交流を築いた時。解放された二人が走って来て合流する。

 

 

 

「よかったー、上鳴君、峰田君。無事に戻ってこれて」

 

「心配したわ」

 

「マジで焦ったぜ。カジノで遊んで負けていたらいつの間にか数百万も払わなきゃいけなくてよ」

 

「オイラなんて、おっぱいをたくさん頼んでいたら一千万払えって言われたぜ!?おっぱいがそんなに高いのかよってびっくりしたよ」

 

「もう、未成年がカジノや女性の方とで遊ぶなんて不謹慎ですわ!」

 

【アルテミス・ファミリア】のホームに戻るや否や、待機していた団員達に迎えられ安堵で胸を撫で下ろす気分に浸る上鳴と峰田は友人達と和気藹々で言葉を交わす。

 

「本当イッセーには感謝だな。俺達が知っている兵藤と同じで何でもできるから安心できるぜ」

 

「でも、何時までもこの世界にいるわけにはいかない。元の世界に帰る方法を見つけてもらって早くヒーローにならないとな」

 

「その為には兵藤が頑張ってもらわないと困るもんだぜ」

 

当然のように他力本願を示す発言された一誠へ上鳴は感謝の言葉を述べた。

 

「イッセー。金払ってくれてありがとうな。マジで助かったよ。今度は気を付けて遊ぶから」

 

「オイラもおっぱいの数を減らして楽しむぜっ」

 

また性懲りもしない、と周りから呆れられていることに気付いてない二人に話しかけられた当人の目は完全に据わっていた。

 

「それって、また払えなくなったら俺に払ってもらうつもりなのか?」

 

「や、もうしてもらうつもりはないけどよ。もしもまたそうなったら、頼めれないかなーなんて」

 

「というか、兵藤は金をたくさん持ってるんだろ?しかも店もあるんだし金なんて貯まる一方だから、ちょっとぐらい減っても困らないならオイラ達にも分けて欲しいもんだぜ」

 

そんな申し分に柳眉が険しく寄った彼の男の顔を見ていた者にしか気付かなかった。オールマイト達もそれに含まれていて、上鳴と峰田に話しかけようとした言葉が淡々とした口調で告げられた言葉に遮られた。

 

「―――上鳴と峰田。お前等2人、三千万返せよな」

 

「「・・・・・えっ」」

 

上鳴と峰田の帰還に安堵と喜びで迎えた緑谷達が醸し出していた空気に水を差す言葉。目を見開き体と思考を硬直、停止させられた彼等彼女等から信じられないと風に言葉が零れる。

 

「三千、万?」

 

「金を貸してくれと頼んだのはそっちだろ。しかも何に使われるかと思えば、娯楽と女と遊んで払えなくなった支払いだった。俺の金を使って自分達の代わりに払わせたんだ。当然、貸した金を耳揃えて返してもらうぞ」

 

至極当たり前なことを言った一誠に「ま、待ってくれっ!?」と焦燥の色が孕んだ声が掛る。

 

「金を返せって、三千万なんて簡単に集めれないし返せれないって!」

 

「そうだぜっ、また集めればいいじゃんか!お前なら楽勝で店だってあるんだし、直ぐに貯まるじゃん!」

 

異論を唱えられ、体に言い表せれない不穏な気配を纏う一誠が小首を傾げた。

 

「何言ってんだ?俺はいま直ぐ返して欲しいとは思ってない。簡単に集められない事を解っていながら言っていて、時間を掛けて返してもらえばそれでいいんだ。それでもできないぐらいお前等は弱いのか?」

 

「よ、弱くないよ。だけど三千万も稼ぐって・・・・・」

 

「問題ない、『下層』や『深層』で何週間も籠って魔石やモンスターのドロップアイテム、その他諸々の物をかき集めれば優に届く金額だ。他の冒険者達もそうしているからお前等もできる。異世界特有の能力をフルに使えば楽勝だろ。元の世界よりかなり稼ぎやすい方法だしな」

 

楽観的にそう言う一誠にそれでも異邦人達ヒーロー組は楽観的になれない。

 

「そこまで俺達は行けるのかよ?地図もないのに」

 

「最大派閥まで成長すればギルドから地図を受け取れる。今の【アルテミス・ファミリア】は実力だけなら『下層』、あるいはギリギリ『深層』まで行けるだろうが派閥の等級(ランク)が低いままじゃ行けないけど既にお前らには地図を持っているから問題ないだろ」

 

もう持っている?どういうことだと思いながらも直ぐに気付いた様に察した。通信式の腕輪の機能に『深層』までの立体的な地図があることを思い出したのだ。

 

「上鳴と峰田。これ以上何か問題があるか?この間、渡した腕輪にはテレポート機能もあるし今以上に稼ぎやすくなっているはずだ。それでも稼げないと言い抜かすか?」

 

お膳立ては整っている。あとは【アルテミス・ファミリア】の行動力と実力で試される。他の【ファミリア】や冒険者達、一誠と交流している者達以外優遇されている少年少女達はかなり優位に立っていることを何となくであろうと察しているか定かではないが、それで時間が掛っても返せと物申す一誠。

 

「言っておくけど、その腕輪を商業系の【ファミリア】や商人に売り飛ばすなよ。売ったらどうなるか・・・・・解っているな」

 

空間に穴を開けて、直接城を繋げる一誠のつま先がそこに向かう。そしてこの場から去り【アルテミス・ファミリア】の団員達を後にし遠ざかろうとする背中に声が掛った。

 

「イ、イッセー君。一緒に冒険してくれへんの?」

 

「・・・・・」

 

掛けられたその言葉を聞き、足を止めて振り返った。見れば自分と冒険したいと言う思いが籠ってる眼差しを向けてくる少年少女達が視界に入り―――。

 

「まさかだと思うけど。もう一人の兵藤一誠と重ねて頼っているんじゃないだろうな」

 

『っ!?』

 

図星か、と思うほどあからさまな反応をする面々に深い溜息を吐かずにはいられなかった。

 

「不愉快、嗚呼、実に不愉快だなそれ。お前ら全員、俺を俺として見ているんじゃなくてもう一人の兵藤一誠と被せていたなんてな」

 

「ち、ちが―――ッ」

 

「違う?じゃあ、何で峰田ってチビは『お前なら楽勝』なんて言葉が出てくる?この世界で四年も住んでいた俺はお前等の事なんて知らなかったのにどうして俺の実力をお前等が知っているわけなんだ?」

 

「だ、だって私達の世界にいるイッセー君と同じ―――あっ」

 

「・・・・・はぁ、そーいうことだよ全く。俺とそいつが同じ存在だから他も同じだろうって勝手な認識をしていただけなんだよ。それを今さらようやく分かったか」

 

嘆かわしいと首を左右に振り心底呆れた面持ちでこう告げる。

 

「一応、お前等とは線を引いていたつもりだが、それでももう一人の俺と被せて、自分達は守られて当然的な感じで無意識に傲慢していたな甘ちゃん共め」

 

話を戻す、と上鳴と峰田へ話しかける。

 

「貸した金は誠心誠意で返してもらうからな。一人じゃ出来ないなら連帯責任で皆にも手伝ってもらえ。命と体と時間を懸けてな」

 

ここまで辛辣な兵藤一誠は見たことが無いと少年少女達は動揺する中、「それができない限り、例えその間お前等を元の世界に帰る手段を得られても戻さないからな」と付け加えられる一同。しばしの沈黙が場を支配した中、峰田が恨めしそうに呟いた。

 

「・・・・・そんなにオイラ達より金が大事なのかよ。オイラ達が知っている兵藤じゃねぇよ。あんなこと言う筈が無いって。嫌な奴だなこっちの兵藤は」

 

「峰田君っ、何てことを言うんだい!」

 

「いや、でも、あからさまには言わないだろ?もうちっとオブラートに言うか、次は気をつけろよ的な感じに言うと思うぞ俺等が知っている兵藤はよ」

 

「で、でも、二人はイッセー君からお金を借りたんや。返すのは当然―――」

 

―――そんな呟きを耳にした途端に本人の意思とは関係なく一誠の肩から肉が盛り上がり、二つのドラゴンの頭部が飛び出し、その瞋恚に燃やす瞳を持つ頭部で不満を漏らした二人にタックルをかまして、そのまま廃教会へ突っ込みホームを粉々にした。その瞬間を見てしまい驚く【アルテミス・ファミリア】達の体が金縛りにあったかのように体が動けなくなった。そしてもう一つの頭も出て来て、教会に突っ込んで顔を出したドラゴン達から今にも食い殺されかねない鋭く凶悪な牙を覗かせ、低い声音の言葉を発してくる。

 

『今、我が主に対して何と言ったかもう一度言ってみろ貴様等』

 

『お前達を救った者に対して言うべき言葉ではない。食い殺してやろうか』

 

『あなた達が知る兵藤一誠の方がいいと言うのならば、二度と主と接触しないでください』

 

三匹のドラゴン達の逆鱗に触れた者達へ咆哮を上げる。ドラゴンの逆鱗、その咆哮に尻餅をつく【アルテミス・ファミリア】の団員達は聞かされる。

 

曰く、貴様等を守る価値はもはや無い。

 

曰く、恩知らずの人間に主の傍に居座る資格はない。

 

曰く、一誠の気持ちを知らずよくもそんなことを言えたものだ。、

 

と恐怖で怯え、顔を青褪め、気絶、涙を流す殆どの者達に告げるドラゴン達も自分達の意思とは関係なく一誠の肉体の中へ引きずり込まれていく。

 

「お前等、勝手に出てくるな。びっくりしただろ」

 

『だが主。聞こえていただろう、この人間どもは主の事を―――!』

 

「さっき俺もそう言ったばかりだろう。所詮俺はそいつらが知っている兵藤一誠じゃないんだから言われて当然だ。でも、怒ってくれた事に関しては嬉しかったよ。ありがとう」

 

『主・・・・・!』

 

何か言いたげなドラゴンであったが、肉体の中に沈んで最後まで言えずに消えたものの、亜空間に穴を潜って去る一誠を見送っても、緊張感は解けずにいた少年少女達。その後すぐ、崩壊した廃墟の教会が一人で勝手に元に戻った。

 

 

そして部屋に戻ると元娼婦のエルフが静かにアスナと席に座っているところを目にする。部屋に戻る前に軽い食事を作った料理を見せる。

 

「飯、食うだろ?」

 

「ありがとう―――」

 

目の前に置かれるサンドウィッチを一瞥し、一誠を見たエルフは不意に食い入るように顔を覗き込むように視線を向けた。

 

「・・・・・何か、遭ったの?」

 

「いや?何でだ?」

 

「複雑そうな顔をしてる。それに何か目が寂しそう」

 

人を見る目があると言うより、相手の気持ちを読み取れることができる類か。ただ店員にしたいが為に引き取ったエルフは何かしらの才能を持っているようで、それでも何でもないとはぐらかし話を半ばあからさまに変える。

 

「そう言えば、自己紹介してなかったな。俺はイッセーだ。こっちはアスナ。お前は何て名前だ?」

 

「私は、レイラ・ユーリです」

 

「レイラさんね。歳は?」

 

「18です」

 

「「若い」」と、つい感想を述べてしまうほど女性だと思っていた元娼婦のエルフはまだ少女であった。しかし一誠とアスナと同じで色々と大人になっている。

 

「ったく、好かれてもいない女とエロいことをして何が楽しいんだか。俺には理解できない」

 

ベッドの縁に座りそのまま後ろへ体を倒して寝転がる一誠に、空気を読んだ上でエルフの女性と食べながらアスナも話に加わる。

 

「男の人って、やっぱり、そういうの・・・・・したいんだね」

 

元娼婦のエルフが首肯する。

 

「快楽だけを貪りたい女もいるわ、アマゾネスのようにね。どっちにしろ男も女も気持ちいい事をしたいの」

 

「そうだな、性的行為であろうがなかろうが。それを病的に夢中になってしまえば麻薬のように止まらなくなり歯止めが利かなくなる。苦労するのさ結局、己を自制するのって」

 

同意と一誠も話に加わる。だからこそ人に理性があって暴走を抑えられているのだ。抑えるものが無くなればただの獣かそれ以下に成り果て、人として大切な物を失う結果に陥る。

 

「・・・・・イッセーも好きな人とその、スるの?」

 

「スるぞ。そしたらお互い愛を感じるし幸せで胸が一杯になる。アスナもそうだったろ」

 

「・・・・・うん、そうだったね。もう、シないと思うけれど」

 

キリトと別れたアスナにもはや縁が無い行為かもしれない。絶対と断言はできないがこれからまた出会いが訪れて愛し合う可能性もある。その考慮して曖昧に言い返して一誠を見る。

 

「嫉妬する女の子って、嫌われるのかな・・・・・」

 

「さぁ、どうだろうな。そいつの事が好きだから起こる感情だし、逆に嫉妬されないなんて男として少し不安を感じると思う」

 

「そうね。女の子が一生懸命男の人を愛しているのに嫉妬するななんて酷な話しよ?」

 

二人からの意見を聞き自分の中の疑問が氷解していくように納得を示すアスナ。

 

「(そっか、不安しちゃうんだ。なら、あの時キリト達に抱いた怒りに嫉妬も混じっていたかもしれない)」

 

が、キリト達は常人にとって許されない背徳行為を及んだ。嫉妬よりも憤怒と悲哀が彼女を支配し、関係を自ら経ち切った。【アルテミス・ファミリア】の本拠地(ホーム)に戻る気はあるかどうか問われれば混迷していて分からない。気持ちが整理出来ていない故に当初の予定通りの考えを口にしてみた。

 

「イッセー、あの・・・・・」

 

「悪いけど、今二人を寝泊まりさせる部屋は無い」

 

自分が何を言おうとしたのか悟っていたかのように、否定された。開き掛けた口を閉ざし、付け加えた言葉を耳にする。

 

「俺も忙しいから直ぐには用意できない。だから増築するまで俺の部屋で寝泊まりしてもらうぞ」

 

それでいいなら、と提案を持ちかけられ直ぐに言葉の意味が分からなかったが理解した時は小さく首肯した。

 

「ありがとう、イッセー。厳しいのに優しいんだね」

 

「放っておけないだけだ。厳しい優しい同情以前にな」

 

「ううん、優しいわ。もう穢れているこの体を必要だって歓楽街から連れ出した貴方は」

 

だから、あんなに多くの他派閥の眷族達が城に住んでいる。この家の主の性分によって集ったのだろう。キリトとは違う優しさを持つ異世界から来た人型ドラゴンに柔和な笑みを慈愛が満ちた双眸で浮かべた。そして脳裏にある思いが浮かんだ。

 

「(もしも整理をしている間にイッセー君のこと好きになっちゃったらどうしよう?そしたらキリト君や皆に・・・ううん、もうキリト君とは別れたんだ。それに元の世界に帰る前に叶えたいことができちゃったから、あの人がそうしていたように私も好きなようにするだけだよね)」

 

今頃自分に謝罪をしたい一心で探しているだろう。直に一誠に連絡をするかもしれない。その時は口裏合わせてもらおう。恋人を蔑にした行動はそう簡単に許せるものじゃないから。

 

 

 

それから―――入浴していない二人が一誠の浴場を借りて入り、一誠もまた入って濡れた長い髪を拭き取る姿を互いに見せあったことで不思議と新鮮さを覚える。周囲に長い髪を伸ばしてる男はいなかったアスナは好奇心で異性の髪を触れたくなって、伸ばした手は髪の質感を感じた。レイラもだ。

 

「男の子の髪ってこんなにサラサラなの?なんかズルい」

 

「確かに・・・エルフ以外の男の人の髪は硬かったり整っていないのが多いのに女の人のような髪よね。不公平だわ」

 

「そー言われてもな」

 

不公平を口から溢してもどうしようもない話だ。しかも乾かした髪を勝手に弄り何故かアスナと同じ髪型にされ、笑いを堪えられる。

 

「・・・・・ごめん、笑っていい?」

 

「いい度胸だ。その亜麻色髪を面白おかしくしてやる」

 

「だったら私も結びたいわ。男の子の髪を1度やってみたかったの」

 

突拍子もなく始まった髪の結び合いは30分ぐらいで終わり、寝間着に着替えてるアスナと元娼婦のレイラは天蓋付きでキングサイズのベッドへ。一誠は一人ハンモックで寝ようとする。

 

「ハンモックって、直で見るのは初めてかも。というか、ベッドに寝ないの?なんか、悪いよ」

 

「俺に性的な行為で襲われたいなら一緒に寝てやるぞ。朝まで寝かさないぜ?」

 

「いらっしゃい、私を買い取った時点でこの体は貴方の物だから大歓迎よ?」

 

「わかった、後でそうしてやるよ」

 

と、本人がそう言うが実際その気なんて更々無いくせに、と読書中の一誠の姿をベッドから視界に入れる。同じ境遇の異性の天蓋付きのキングサイズのベッドでレイラと横になりながらアスナは悟った。淡い光で明かりが灯ってる少年の顔を見ながら木になることを思った。レイラが言っていた、目が寂しそうにしていると。

 

「イッセー、あっちで何か遭ったの?」

 

「何でそう思う?」

 

「レイラが言ってたようにどこか表情が暗くなっていたから、かな」

 

どうなの?という彼女の視線にハンモックの網に身体を寝かせてる少年から「俺の事なんかよりも自分のことを考えろ」と言い返されてしまう。でもアスナの中では何か遭ったと悟って勝手な思い込みでも居ても立ってもいられず、ベッドから降り一誠に近づく。

 

「?」

 

なんだ?と左眼を彼女へ向けた矢先、寝間着として着ている浴衣の胸倉を掴まれ、突如彼女に背負い投げのごとくベッドの方へポーンと放り投げられた。なんでこんなことされるんだ?と間抜けな面で背中からベッドに落ちると打ち合わせしたかのようにどかしていた上掛けの布団を直ぐ被せ、元娼婦のエルフが右半身を豊満な体で包み込み、すかさず布団の中に潜り左半身にしがみ付くアスナに動けなくなってしまっても検討がつかないと目をパチクリする。

 

「あの、アスナさん。これは一体何の真似だ?」

 

男女が同じベッドで寝てしまうのは誤解を招く行為だ。キリト達の二の舞にならないにはならないと心情の、ハンモックで寝ようとする一誠を察している筈のアスナ。気を遣われてる、それが少女の傷心に優しさが染み渡って感謝の念を抱く。だが、あんな事言われたまま一人で寝ようなんて孤独でいようとする一誠を優しき少女はどうしても放っておけなかった。

 

「何の真似も何も、寂しそうな男の子と一緒に川の字になって寝ようと思っているだけだよ」

 

「それにしては凄く豪快にベッドへ来させられたような気がするぞ」

 

「気にしちゃダメ」

 

ベッドの布団に包まれ一誠に密着する中、アスナの鼻腔は一誠の体臭を感じた。別れたばかりなのにキリトではない男に体を押し付けるこの行為に羞恥心が無いわけではないが、別れた男とは違う安心感が心に芽生えた己を挟んで添い寝をする少女達に一度溜息を吐き、諦めた感じで瞑目、寝息を立て始め出したのだった。

 

「(キリト君と違う匂いだ、それに暖かい・・・・・)」

 

夢の中へ旅立った男の嫌ではない匂い。布団の暖かさが異性の体臭と相まって一誠に抱き締められているような感じを覚え、最悪な日を過ごした少女は心なしか安心感が心を満たされ、今日はいい夢が見られそうだと眠りにつく―――ことはできなかった。何故なら、元娼婦が服を脱いで全裸となり一誠の半身へ抱きついたからだ。

 

「なっ、あ、貴女・・・・・な、何を・・・・・っ?」

 

「子供が寂しくなった時は親が温かく包み込むようにして抱きしめてあやす。男が嫌なことや物事に対して不安になった時、女の体で気持ちを和らげ忘れさせるの。この人は前者と後者、きっと両方。だから私が出来ることをするの」

 

慈愛の心で一誠を癒そうとする彼女に感嘆し、裸になれないが賛同して密着したまま眠りに着くアスナ。

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