ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか   作:ダーク・シリウス

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冒険譚9

元娼婦のレイラが住み着き数日が経過した。一誠が娼婦を身請けした理由、それは『異世界食堂』の店員にしたいが為に歓楽街から買ったのだ。身請けするのに歓楽街を牛耳る『夜の女王』―――イシュタルから許しを貰わなければならない。そう簡単に行かないだろうと思いながら直接美の女神イシュタルと対面し、エルフを引き取る了承を乞うた数日前の話し。

 

『好きにしろ』

 

『あっさりだな?』

 

『私はお前達が思っているほど忙しい。構っている暇もない。そのエルフ以外にも欲しい娼婦がいたら眷族以外、金を払うならば好きなだけ私の了承を取らず引き抜け。―――だから二度と私に関わるな』

 

『それが一番本命だろおい』

 

まるで厄病神か恐怖の魔神か何か、終始ずっと一誠に顔を向けず一度も視線を合わせなかったイシュタルは早々に退出してしまって二人は拍子抜けした記憶は新しい。

 

問題も無く彼女を引き取ることが叶い、後顧の憂いも無く一誠は彼女を料理のスキルを叩きこむ専念ができ、新しい朝を迎えた。

 

「うーん、ちょっと違う。こうやってフライパンを箸と一緒に動かして焼いた卵を丸めていくんだ。やってみ」

 

優しく丁寧に教え込み、料理スキルを伝授せんとする一誠の姿にリヴェリア達は椅子に座って眺めている。

 

「元娼婦のエルフ、の方ですかリヴェリア様」

 

「ああ、私達エルフは長寿種族であるから、店を受け継がせる気でいるのかもしれないな」

 

王族(ハイエルフ)の女性とエルフの少女が新しい同居人の姿を視界に入れ、「元娼婦」言う言葉にエルフの少女アリシア・フォレストライトは綺麗な柳眉を寄せた。

 

「仮にもそうだとして何故彼女なのですか?都市には一般のエルフも住んでいるのに、娼婦のエルフがなんて・・・・・」

 

「理由は定かではないが、同胞が自ら好んで娼婦に身を堕ちるとは考えにくい。エルフの特徴を知っているイッセーは、それを考慮して引き取ったのかも知れん」

 

好きでもない男と肌を重ね、情欲を貪りその対価として金銭を得る行為をする意味を指すのが娼婦。潔癖性が強いエルフからすれば忌避的な存在だ。同じ種族か認めた者にしか肌を触れさせないエルフであれば複数以上の男と寝る何て・・・・・。

 

「(娼婦になるなんて・・・・・でも、彼は私達エルフを助けてくれた)」

 

好きでもない男に体を捧げる。今では【イシュタル・ファミリア】に所属している転生者に純潔を奪われそうになった時に助けてくれた少年がそうしたように元娼婦のエルフにも同じ気持ちで助けたのだろうか?それとも本当にただ店の店員にする為に?

 

「・・・・・」

 

同席していた金髪金眼の少女は興味深々な目でリヴェリアに話しかけた。

 

「しょうふって、何?」

 

「お前が知るにはまだ早すぎる」

 

教育に悪い話はしないハイエルフは頑な気持ちで教えなかったが、教えてくれないなら教えてくれそうな人に訊ねればいいと椅子から降りて、料理の指導をしている一誠のもとへ。

 

「イッセー、しょうふって何?」

 

「しょうふ?どっちのこと―――って言ってもアイズには分からんか。まあ、一言で言えば料理を作る時にできるでんぷんって奴だ」

 

「でんぷん?美味しい?」

 

「料理を美味しくする調味料だから、余り味は期待しない方が良いぞ」

 

軽くアイズの期待に応える答えをした一誠に心中で称賛する。因みにそのでんぷんとやらは何だとリヴェリアも気になっていた。

 

「ところでイッセー。そこのエルフを店員にするというならば、他の者も雇うつもりでおるのか?」

 

違う意味で気になっていた椿の疑問のの問いにキッチンから「ああ」と肯定の言葉が返ってきた。

 

「食べにくる客が増えてきたからもうそろそろウェイトレスを増やそうと思っているんだ」

 

「そうであったか。しかし、どうやって集める?」

 

「できれば荒事に慣れた元女冒険者がいいなぁーって思いながら考えてる」

 

野良フリーの冒険者、しかも女性となると見つけるのは困難だ。一誠の望みを叶えるそんな冒険者はオラリオにいなければオラリオの外しかいないのかもしれない。

 

「・・・・・じゃあ、イッセー。私も手伝えるかな?」

 

「アスナ?」

 

「一応【ファミリア】は在籍してる状態だけど、異世界の料理は作れるし腕も立つよ?」

 

自分を売り込みだした少女の提案に自分が望む人材と能力に当て嵌まることを認め、確認した。

 

「いいのか?」

 

「うん、居候させてもらってるから何かちょっとしたことでもしないと悪いし」

 

「・・・・・健気な少女に育っているようで俺は感心したぞ」

 

それぐらいの気概を異邦人のヒーロー組もできないのかと嘆息したのは本人だけの秘密。アスナの乞いに了承して彼女も連れながらレイラを始めて『異世界食堂』に招き、ウェイトレスとしての仕事を教えていた。女性店員専用の制服を身に包み自分に与えられた仕事の内容を真摯に店主の話を耳に傾け聞いていた時、閉じている扉を叩く音が鳴った。開店の時間はまだ先なのだがもう来たのかと二度目の叩く音と共に扉を開けて断りの言葉を掛けようとしたが、来訪者の出で立ちを見て言えなかった。恰幅のいい女性を始め、転生者から救った女性達だと認知したからだ。

 

「まだ開店の時間じゃないが、別の用件だと思っても?」

 

「話が早くて助かるよ」

 

女性だらけの一行を中へ招き入れ、好きな席に座らせて代表者たる女性と話しを交わす。

 

「もう知っているだろうけど、俺はこの店の店主だ」

 

「アタシはミア・グランド。前までは『豊饒の女主人』って酒場を構えていた女将でコイツらはウチの店員で娘でもあるわけだがね。【イシュタル・ファミリア】の小僧達に店をぶっ壊された揚句、娘達を攫われた。まずは礼を言わせてもらうよ。ありがとう」

 

ミアが頭を下げて感謝の念を店主に送ると元酒場の従業員達も倣って頭を下げる。それを少し擽ったそうに頭を掻き「気にするな」と返答する。

 

「俺が助けたい仲間と一緒にいたからな。少し悪い言い方をしてしまうが、ついでに助ける事が出来たような感じだ」

 

「ついでに助けられたんなら御の字だよそれは。アタシさえ手出しもできず、無様に店や娘達を奪われたんだからね。どうやって助けてアンタが何者なのかも詮索はしないよ。その方がよさそうだしね」

 

「ああ、そうしてもらえると助かるかな。何せ俺は訳ありな者なのでね」

 

「そうなのかい。奇遇だね、ウチの従業員達も訳ありな子ばかりだから話し易いはずだよ」

 

その言葉の意図はなんなのか、アスナとレイラは疑問符を浮かべる。女性従業員達を見渡しとてもそうは見えないが何人か暗い目をしている事に気づく。

 

「で、世間話は終わりにして本題に入ろうか。元酒場の従業員が雁首揃えて俺の店に来た理由は?」

 

尋ねる一誠の問いにミアは店内を見渡しながら返答する。

 

「アンタ、一人でこの店を切り盛りしているそうじゃないか。しかも【アポロン・ファミリア】に打ち勝って大繁盛して大変じゃないかい?」

 

「まぁ、大変だったのは確かだ。今は安定しながら食べにくる客が増えたのも実感してるし」

 

「―――なら、アタシらを雇うつもりはないかい?酒場で働いていた時の料理の腕前と客の応対やならず者やゴロツキの相手は慣れているよ」

 

唐突に自分達を売り込み始めたミアに、探るような目付きと悟った風に見つめる店主。彼女が何者なのか全てではないがある程度察している。なので質問した。

 

「何でこの店に働きたいんだ?他の店でも雇ってもらえるだろうし、壊された酒場は【イシュタル・ファミリア】に請求して復興でもできるはずだ。慰謝料込みでな」

 

「最初はアタシもそうするつもりだったんだけどねぇ、神に言われたのさ。ここで働いてみたらどうだって」

 

「フレイヤにか」

 

「なんだい、アタシのこと知っていたのかい」

 

否と首を横に振り、「フレイヤのところに半脱退状態の冒険者が店を構えている」という話だけを聞いたと教えて話しの続きの催促を促す。

 

「アタシよりも料理の腕が立ち、シル達の話じゃああの三人の男共を圧倒する強さもあるらしいしね。それに『異世界』の料理ってどんな料理なのか知りたい気持ちもあるんだよ」

 

「門外不出だからな?」

 

「男がケチケチするんじゃないよ」

 

「こっちはそれでウリにして商売繁盛しているんだよ。許可もなく真似して作られたら賠償金を払いに押し掛けてやる」

 

店主の手がミアに伸びる。少年の言葉の中に含まれた意図を察する前に、ミアの大きな手が伸ばされた手を握って握手を交わす。

 

「お前等が使えるようになってもコキ使うからな。最初は異世界の料理の作り方をマスターしてもらうまでは俺達が付きっきりで知識を叩きこんでやるつもりで覚悟しろ。目標は一人でも全種類作れるぐらいにな」

 

「この店の料理はどれだけあるんだい」

 

無造作に分厚い本を掴んでミア達に見せつけた。これがこの店の料理のメニュー表であると教えるように「これ全部」と短く言って手渡す。彼女達が異世界の料理の品書きをパラパラと軽く見続けた結果。色々な意味が籠った溜息が吐かれた。

 

「・・・・・随分と多いね。これでよく一人で店を切り盛りしていたのかと思うと驚嘆してしまうよ」

 

「俺には秘密があるからな。だから俺一人でも十分店を切り盛りできるわけだけど、ミア達がこの店に働くなら俺と同じ作業の速さでしてもらわないと困る。いいな?」

 

アスナとレイラは自分達以外にもこの店で働くことになった彼女達を迎えた瞬間を見た。席から立ち上がる店主に釣られて視線が集まり二人も呼応して立ちあがる。

 

「それじゃ、開店の時間が迫ってるから調理ができる従業員と料理が出来ない従業員は二手に分かれろ。仕事の内容と仕方を叩き込むからな」

 

そう言いながら魔法で分身体を作り上げる店主にアスナを除いてレイラ達は目を丸くする。

 

「ふ、増えた・・・・・?」

 

「魔法で自分自身を増やせるんだ」

 

「これがこの店の秘密の一つだよ」

 

しかも自分の意志で喋っているから驚きを通り越して絶句する。だが、自分を何人も増やせることができるなら確かに一人でも店を切り盛りできると納得する思いを抱きながらミア達も立ちあがった。

 

「最初は二人と一緒に働くのだと思ってたところ、一気に従業員が増えたし、この店のルールを教えておこう」

 

店主が全員に話しかけた。

 

「俺はこの店の『主』であり『法』でもある。誰が何を言おうと絶対だ。例え相手が神だろうが冒険者だろうがギルドだろうがいちゃもんをふっかけてくるなら金だけ奪って追い出す」

 

「そ、それって強奪じゃないのかな・・・・・」

 

両腕を組んで踏ん反りがえる店主に、アスナは恐れ戦く。店主は気にしない。

 

「そして主人である俺は、全力でお前等を守る。最強の能力や最強の人間がこの店とお前等に手を出すなら、容赦なく潰して埋めてやる。だからお前等は安心して馬車馬のように働き、美味い飯と酒を振る舞って、多くの客と笑みを分かち合え。それがこの店のルールだ覚えておけよ」

 

―――後にどんなに強い冒険者も、無法者も、悪党も、神すらも裸足で逃げ出していく怖い店になるのだがまだこの時の店主達は気付かない。逆に一度入るとそこは異世界に迷い込んでしまったような異風を醸し出す店内が見渡せる、運ばれてくる料理と酒はこの世の物とは思えない美味と美酒で客を幸せにさせる―――異世界の食堂。

 

「分かったなお前等。今日から俺のことを店の中では店主と呼べよ。家族と接するようにな」

 

人懐っこい笑みを浮かべる店主にアスナやレイラ、ミア達は顔を見合わせて頷いたり微笑んだりして言った。

 

「よろしくね店主」

 

「よろしくお願いします店主」

 

「今日から頼んだよ店主」

 

満足そうに頷く店主は調理ができる従業員達をキッチンヘ引き連れる最中、ホールで働く組の従業員達の中から薄鈍色の髪を揺らす少女が声を掛けてきた。

 

「助けてくれた恩を一生懸命働いて返しますね店主さん」

 

「居候しているフレイヤとオッタルの分も働いてくれると助かるがなシル?」

 

彼女―――シル・フローヴァも転生者に攫われ、助けられた一人でありフレイヤとオッタルと『幽玄の白天城』に居候している一人でもあるので、既に顔見知り以上の関係である。

 

「じゃあその分のお給金も・・・・・」

 

「それに見合う働きをしたら考えてやろう。前の酒場の給金はどうだったか知らないがな」

 

こうして『異世界食堂』に女性従業員達が働き始め、店の料理の味を占めた客達は何時ものように足を運び店内に入るといつもと違う事に気付き変化を楽しんだ。太陽が西に傾きながら沈み月が顔を出した時間帯でもだ。

 

「「いらっしゃいませ。ようこそ、『異世界食堂』へ」」

 

丈が膝の下まであり服越しからでも分かる胸を強調している青色のワンピース、白色のフリル付きのエプロン、頭にはカチューシャ。その制服を着こなしている見目麗しのウェイトレス達に出迎えられた客達は。

 

「うおおおおおおっ!ついに綺麗なウェイトレスさんキタァーッ!」

 

「この店に通い続けて俺ぁ本当に良かった・・・・・っ!」

 

「―――従業員にちょっかいや手を出したら、出禁にすると店主からの伝言です。ご了承くださいませお客様」

 

「「あ、はい」」

 

大いに喜んだのであった。ホールでは彼女等の存在が大きく、いつもの二倍程料理を提供できるようになり店主は雇ってよかったと満足げに心の中で笑った。キッチンの方では相も変わらず魔法で己を増やした店主達が新しく入ってきた従業員につきっきりで異世界の料理の作り方を教えながら、忙しなく料理を作り続けている。そんな従業員達と同じ制服を身に包み、休むことも無く腕を動かし料理を作り続ける亜麻色の髪の少女。腕前は作ったことがある料理であれば申し分が無いぐらい称賛に値する。

 

「流石だな。即戦力は物凄く助かる。ありがとうな」

 

自然と出た言葉に彼女アスナも照れず「どういたしまして」と相槌を打って返し、店主とアスナは肩を並べ長い一日を食材と燃え盛る火と向き合って過ごすのだった。

 

 

その頃、摩天楼施設『バベル』の中で三ヶ月に一度の神々が集う神会(デナトゥス)が行われていた。上級冒険者になった各【ファミリア】の団員達への命名式、二つ名を決め合っている真っ最中である。神々にとって痛々しく面白い二つ名を、笑いと悲痛の悲鳴が部屋の空間に湧く中で決まっていき、全て決まり終えると部屋(フロア)からぞろぞろと出ていく神々から『異世界食堂』の話題が出てくるのを、まだ席に座ってるロキ達の耳に入る。

 

「今日も今日で酷い二つ名の決め合いね」

 

「いつもの事やんかファイたん。それよか、アマテラス達、久しぶりやなぁー」

 

「そうね。極東で本拠地を構えているから仕事に追われていて、ようやく戻ってこれたわ」

 

極東の三大主神、イザナギ、イザナミ、アマテラスが久しく顔を出して神会(デナトゥス)に参加していた。口の端を吊り上げ、笑みで「そうそう」と話しかけるロキは楽しげに語った。

 

「自分等がおらん間にイッセーは大活躍しておったぞ。今じゃオラリオに『異世界食堂』を知らん子供はおらへんかもなぁ」

 

「極東でも『異世界食堂』の話を聞くようになっている」

 

「やっぱりそっちもそうなのね。私の方にも小耳に挟んでるわ」

 

「と言うより、私の子供がその話を世界中に広めてるところ」

 

仮面を付けてる女神が小さく挙手しながら主張。当然のように回りから言い触らし回っている彼女へ「オイッ」とツッコミや何か言いたげな視線を送る主神達は呆れた。

 

「アマテラス、久しぶりに」

 

「ええ、あの子の城に泊まりましょう」

 

二柱の女神が楽しげに、雌の顔をして話していた瞬間をヘファイストスとフレイヤは見逃さなかった同時刻。

 

 

「・・・・・」

 

オラリオに連なれて向かう馬車が南部の門へと向かっていた。その一台の中には息を殺しているかのように静かに座っては、頭まで被っている外套(フーデッドローブ)を着ている者がいた。その者と相席してる白髪頭に眼鏡を掛けてる初老の黒色の燕尾服を着ている男が重く口を開けた。

 

「オラリオに着きました。降りる準備はよろしいですか」

 

無言で肯定する人物は何も返さない。馬車の中は異様な空気を醸し出して緊張感が張っていて、老人もそれ以降口を閉ざし、馬車が停止するその時まで沈黙を保とうとした。

 

きゅう・・・・・。

 

静まり返った空間の中だからこそハッキリと顔も隠してる人物の腹部から可愛らしい鳴き声が聞こた。何かに耐えるように肩を震わす人物に老人が微笑ましげに吐息を溢す。

 

「中に入り次第、有名な店にでも食べましょう」

 

その指摘だけはフードが立てに揺れた際、隠れていた髪の一房が、さらりと溢れ出た。

 

 

夜の『異世界食堂』は神々と多くの冒険者や一般人で溢れ返りそうな程に全席が人で埋まり掛かっている。見目麗しいエルフがウェイトレスをしているならば、尚更集りが絶えなくなっている時に『異世界食堂』へ足を運んできてくれた客達がやってきた。

 

「いらっしゃいませ、『異世界食堂』へようこそ。初めての客だな?」

 

「今話題の店はどこだと聞けばここだと、何でもこの世の物とは思えない美味な料理を出すとか」

 

「期待を裏切らない料理を提供するよ。こちらへどうぞ」

 

店主自ら客達を一番奥の壁際の席へ案内し、座らせた。

 

「注文が決まったらこの(ベル)を押して待っていてくれ」

 

「うむ、わかった。では早速なのだが」

 

客の一人、黒の燕尾服を身に包む老人が応じ、メニューを見ることも無く視線を外套(フーデッドローブ)で頭まで隠している人物へ一瞥して店主に注文を頼んだ。

 

「この店で一番の人気メニューと甘い物を頼む」

 

「うちの料理は全て以上も以下も無く、人気のメニューなんだが。メニューを見てくれないと期待に添う料理を出せるものが出せない」

 

「ならば、貴殿が一番美味しいと断言できる物でもよいから早く作って参れ。儂らは腹が減っておるのだ客を待たすな」

 

一方的に、そして変わった注文を要求する老人へ怪訝な表情を浮かべながらももう一人の客をジッと視界に入れ、踵を返して遠ざかった。

 

「ああ、待て。一刻も早く儂らを優先的に料理を持ってくるんじゃぞ。よいな、あまり儂らを待たせてはならぬぞ店主」

 

「ならこちらからも。店の中で騒動を起こしたら、即刻店から出てもらうのでご了承をしてくれお客様」

 

身なりからしてどこぞの貴族か富豪の者の従者なのか、そんな物言いをする客は開店して以来初めてであると思いながらキッチンに戻り、料理人達に向かって料理とデザートを要求、数十秒で要求した注文が用意され客の要望通り直ぐに運び込まれた。

 

「おまちどう、ビーフシチューとプリンアラモードだ」

 

「む・・・・・早いな」

 

「優先的に、と言ったお客の要望に応えただけだ」

 

「そうか。良い心掛けである。では、この料理とデザートの詳細を教え―――」

 

「特定の客に留まったりしている暇はないのでこれにて失礼する。知りたかったらちゃんとメニューに書かれている詳細を読んで確かめてください」

 

一礼し、店主を呼び掛ける客の方へと足を運ぶ。白い眉根を寄せて「儂等に対して何て無礼な」と気持ちの同意を求めようとテーブルを挟んで座っている人物へ顔を戻したその視界には。肉と野菜の旨味が凝縮されたスープ、軽く炙った後、限界まで煮込まれた肉にじっくりと長い間煮込まれた野菜を一心不乱に食している人物が映り込んだ。余ほど空腹だったのか、それともあまりにも美味しいのか、その両方か定かではないがビーフシチューを瞬く間に完食してはデザートに手を伸ばし、銀色の匙をプリンに差し込むように押し付け、掬い取る際にぷるんと柔らかい弾力を窺わせ口の中へ運ぶや否や。

 

「―――っ」

 

甘さとほろ苦さが同時に堪能したようで体を硬直させたかと思えば、スプーンを持つ手はプリンアラモードをビーフシチューと同じ感じで掬い取る仕草を繰り返しつつ夢中に食べ始める。唖然と自分も食べることを忘れ見つめていた老人も我に返ったように己の料理を差し出す。

 

「よろしければ爺やのも食べて下さいませ」

 

「・・・・・」

 

従者の言葉に謎の人物は呼び鈴(ベル)を鳴らし、店主を喚び付けた。今度はエルフのウェイトレスが注文を受けに来た。

 

「はい、ご注文は何でございましょう?」

 

袖から伸びる色白の手がビーフシチューを指し、人差し指と中指を立て、無言で注文を頼んだ。ウェイトレスはその仕草を見て首肯する。

 

「ビーフシチュー二人前ですね。かしこまりました」

 

注文を受け取ってキッチンへ赴く彼女を見送り従者からデザートだけ受け取り、ビーフシチューを返して甘いデザートの味の虜になったかのようにスプーンを点灯(ライト)の光で鈍く光らせる。

 

「美味しゅうございますか」

 

こくり、とフードが縦に揺れる。従者はこんな人物の様子は久しく見るととある確信を得て、訊ねた。

 

「まだこのオラリオの店を全て確認しておりませぬが、この店で決まりですか」

 

従者の問い掛けに、スプーンを持つ手が止まるもその逡巡は一瞬で肯定と首肯するフードの中に消える。決まりだと沈黙で応えた謎の人物に真摯な面持ちで胸に秘めるとある使命を果たさんと意を決して、スプーンを持つ手でビーフシチューへ伸ばす従者。

 

「お、おお、こ、これはっ・・・・・・!」

 

 

「ありがとうございましたー」

 

「今日も美味しかったよ、また明日もダンジョンで稼いだ金で食べにくるぜ」

 

「命を落とさない程度で稼いでくれよ。ご来店をお待ちしております」

 

最後の一組の客を残して去る客を見送る店主とウェイトレス。暗闇の向こうへと笑顔を浮かべながら消えていく様子を見ず、互い顔を見合わせエルフは「ふぅ」と溜息を零した。

 

「初めて働いた割にはよく頑張ったな」

 

「ウェイトレスって凄く疲れるのね。もうヘトヘト・・・・・」

 

「それを毎日味わう経験だ。これからも頑張ってくれ」

 

「頑張ったご褒美が欲しいわ。じゃなきゃ働いてあげない」

 

歓楽街から引き取られた元娼婦が何を図々しい事を、とこの場にアリシアがいたらそう言いそうな発言に店主はただ苦笑いを浮かべる。

 

「これからも頑張ってくれたらご褒美を上げるよ」

 

「約束よ?」

 

言質は取った、とウェイトレスは嬉しそうに動き出す店主の背中を見て頬を赤らめながら笑んだ。店主が厨房に顔を出すと食器を洗っているアスナにも話しかける。

 

「お疲れ様。キッチンで働くの初めてなのに頑張ったよ」

 

「冒険者になってから体力が前より増えて、まだまだ疲れてないよ」

 

「神の眷族になった特権だな」

 

「うん、凄いね【神の恩恵(ファルナ)】って」

 

朗らかに何とでもない会話をして、仕込み終えた分身達がいない二人きりの雰囲気と空間に気付き、数日前のアレの記憶も鮮明に思いだして不思議そうな顔をする店主からバッと体ごと顔を逸らしたところでウェイトレスから声が掛った。最後の客が勘定を求めたのだろうと思って彼女を置いて厨房から離れレジへと赴いた。

 

「店主、勘定を払う前に話がある。とても大切な話だ」

 

「食い逃げをしようって言うならそれ相応のお仕置きをするぞ。身ぐるみを剥ぐとか」

 

店主の指摘に「違うわ!」と怒鳴る従者はウェイトレスのエルフを一瞥し「儂等だけで話しがしたい」と申し出る。店主は彼女をこの場から遠ざけろとその言葉の裏を悟るが首を横に振った。

 

「今言え、こっちもまだやることがあるんだから手短に話せ」

 

「そこのエルフに任せればいいではないか」

 

「彼女は働いて間もないんだぞ。まだ分からないことが多く一人で任せれないんだ」

 

「これからは成すことはとても重大で極秘なのだ。余計な者達の耳にまで―――」

 

「アスナー、ちょっと来てくれ。重大な話をするってよー」

 

「人の話を聞かんかぁー!?」

 

結局、呼ばれたアスナも椅子に座って、従者の思い通りにならぬまま遺憾ながら話を進むことになってしまった。テーブルに膝を立てて頬杖をついている姿勢で、面倒くさいなーと雰囲気と顔を隠さない催促する店主。

 

「ほら、さっさと言っちゃってスッキリしな」

 

「それが人に対してする言動か」

 

「別に金を払って帰ってくれたってもいいんだ。こっちはまだやらなきゃいけない仕事がある上に疲れてるんだ。そっちの都合に合わせて話を聞いてやる姿勢でいるんだからよ」

 

「ぐぬぬっ・・・・・」

 

こちらは真面目に話をしようとしているのに店主は不真面目な態度でいるのが気に食わない従者は唸る。もう少し態度を改めよ―――と口を開こうとした気配を感じたのか、従者を手で制する謎の人物。三人と従者の視線を一身に受け止めるその者は、初めて口を開く。

 

「爺よ。乞うているのは私達だ。彼等を責めも私達の流儀に合わせる必要はない」

 

「し、しかしですな・・・・・」

 

「これから乞おうとしている私達が誠心誠意を示さなければ、信頼は得られない」

 

フードに手を掛け外した。隠れていた頭髪は豊かな金髪、瞳は緑色。彫刻で整えられたかのように綺麗な顔立ちと凛々しさが店主達に印象を与えさせる。若さはアスナと店主よりも若く美男子、貴公子の一言に尽きる彼は名乗り上げた。

 

「私はダオス、ダオス・ラーズグリーズ・クリールフス。帝国の王位継承者最下位、百七位の王子だ。訳があってこの世界の中心オラリオに忍び込んだ次第だ」

 

「なっ、わ―――!?」

 

従者の老人が明らかな反応、動揺と焦燥に駆られて声にならない言葉を発し、それが店主達に事実であると証明させたのも当然であった。

 

「帝国って、あのオラリオと魔法の国(アルカナ)と同じぐらい最大都市で多くの神の眷族を抱えてる国だったよな」

 

「その認識で大体合っている」

 

「ふーん、しかも最下位とはいえ王子がおっかない都市に自ら変装してまでやってくる理由は何だ?しかも料理店を営んでいる俺にさ」

 

あまりにも異様なことであることはアスナもレイラも理解している。わざわざ遠い国に来て直接店主に乞う理由が分からないでいる。店主も同じ気持ちで理解できない。ダオスはその疑問に応じ語り始めた。

 

「爺やが言ったようにこれは極秘である話だ。我が父の父親、私にとって祖父に当たる先代の王が崩御になるのは時間の問題なのだ。そこで先代が亡くなる前にとある望みを現王にこう告げたのだ。この世の珍味、もしくは懐かしい故郷の料理を食べたいと」

 

「故郷の料理?」

 

「ああ。だが、先代の故郷はどこなのか父も私達兄弟は分かる筈もない。聞いたこともなければ父にすら話した事はないのだ。現王は先代の願望を叶えんが為に配下の者達をこの世の珍味を探せさせるのはいいが、同時にある掟も発効した」

 

それは、と彼は口にしたのは。

 

「先代を喜ばせることができた王の配下―――つまり王位継承権が与えられている私達兄弟の中で一人、次期王位を継ぐ絶対の権限が約束される。理解しているだろうが私も王位を狙っている一人である。が」

 

一区切りをして「「「うん?」」」と三人揃って不思議そうに反応をさせた。

 

「私は王位を継ぐ気はない。ただ、王位を継がない代わりにある願いを聞き受けて欲しい事があるのだ。勿論、あのお優しいお爺様が笑って喜んでくれる料理を食べさせてあげたい気持ちは嘘ではないが、私は何としても勝たねばならないのだ。私の望みを叶えるために」

 

「い、いけませんぞ若っ。そのようなことを申されては!貴方様は―――」

 

「はい、従者は黙ってろ」

 

テーブルに身を乗り出してスビシッ、と従者の額に人差し指を突き刺すと、彼は白目を剥き力なく深く座った状態で気絶した。当然ダオスは当惑する。

 

「気絶させただけだ。小うるさいからさ」

 

「今の動き、少したりとも見えなかった。もしや冒険者か?」

 

「半脱退状態だがな」

 

「・・・・・これでも爺やはLv.3の帝国内では指折りの実力者なのだがお前は同じかそれ以上なのか」

 

人は見掛けによらず、と言ったかー。

 

「んで、お前が俺に頼みたいことは大体理解した。先代の為に料理を振る舞えってことでいいんだろ?」

 

「その通りだ。こうしている間にも私の兄上達が他国から喚び寄せた料理人達の料理を先代に献上しているだろう。当然ながらだが、百以上も料理を食べるからには用意した料理は決まったその日に用意しなければならない」

 

「それって何時なんだ?お前が料理を提供する日は」

 

至極当然の疑問をぶつけ、ぶつけられたダオスは真摯な面持ちで「一ヵ月後だ」と告げる。

 

「だがオラリオから発つまで半月の時間がある。元々私は世界の中心、世界で唯一ダンジョンがあるこの都市ならば料理を専門とする【ファミリア】があると信じて探しに来たのだ。そうでなくても他の店にも探して決めるつもりだった」

 

「うん?そんな【ファミリア】がオラリオにいたっけ」

 

「言っただろう。信じて探しに来たと」

 

つまり何の情報も根拠も宛てもなくオラリオにいる神々に懸け来たダオス。無謀に等しい行動は成功の甘い果実を実らしたたのである。

 

「あの、その間に王位を継ぐ王子が決まる事は?」

 

「それはない。先代は全てを食してから決めると仰っていた」

 

それで誰がどの料理なのか覚えていられるのか?と疑心を抱くが先代自身の決めた事だからダオスの従者がいるように記録を留める役割を担うものも存在しているかもしれないのと、アスナの質問にダオスは有り得ないと否定し彼女の杞憂は解消された。

 

「・・・・・だが、王位継承の位が高い兄上程、狙われる」

 

「あー、やっぱり実際にもう起きちゃったのか?」

 

首肯するダオス。

 

「表向きではそれぞれ奮闘しているものの。水面下では私達王子の間で熾烈な争いを繰り広げている様子だ。死者こそは出ていないが、先代に献上する料理を作ってもらう料理人や料理があらゆる方法で妨害行為される等、王位継承権の掟が勃発して一ヵ月経ってから日常茶判事になっている」

 

「「・・・・・」」

 

住む世界が違えば、その手の者でない限り関わることはないと思っていた話が、よもやこんな形で触れることになるなどアスナとレイラは思ってもいなくて呆然とする。

 

「私からの話はこれで以上だ。今度は君が私に協力してくれるかどうかなのだが」

 

「ん、協力してやろう」

 

「協力してくれるなら、私ができることであれば何でも叶える―――なに?」

 

突拍子もなく引き受ける店主に耳を疑うダオス。アスナとレイラも本当に?と真意を確かめる目で店主へ視線注いでいた。

 

「引き受けてくれるのか?」

 

「俺の料理が求められてるなら応えるのが料理人の務めだ。相手が誰であれ料理を提供するのに理由何ぞ必要か?」

 

人懐っこい子供のように笑ってそう言う店主。その笑みを見てアスナ達も釣られるように笑いダオスも苦笑する。

 

「感謝する」

 

「どういたしまして。それとこれからどうするつもりなんだ?」

 

「念の為に他の料理店にも顔を出す。この店に決めたがオラリオで一番とは限らないからな」

 

「だったらもう少し服を変えた方がいいぞ。知っているか分からないけど破壊と混乱、混沌を齎そうとする闇の派閥が昼夜問わず神出鬼没で暴れ出すんだからな」

 

「爺やより強い者がいると?」

 

「確実にいると思った方がいい

 

こりゃ、護衛をつけさせた方がいいかもな。と頭の中でその考えを過らせ席から立って最後の仕事に取り掛かる。

 

 

 

明日の為の仕込みを終え、ダオスと従者を『幽玄の白天城』へ招き入れるとやはりと言ったか、リヴェリア等に質問攻めを受けた。正直に話すとロキ達主神はオラリオに忍び込んだダオスと従者を感心した風に、愉快そうに歓迎した。最大派閥の主神達から話しかけられ、紳士の立ち振る舞いをするダオスは従者の老人が気絶したまま応接間のソファに寝かされた。

 

「・・・・・店主、お前は一体何者なのだ。オラリオの双璧を担う主神や最大派閥と同居している以前に、他派閥同士の主神が一つ屋根の下で生活をしている等、本来はありえないことなのだが。いや、そもそもこの城は一体何なのだ?」

 

「諸事情でしばらくの間住まわせているだけだ。それにそう簡単に秘密は教えれない―――」

 

ガシッ、

 

「久しぶりね。今夜は一緒に寝ましょうか」

 

「その前に一緒に風呂入る」

 

どこからともなく現れた二柱の女神に引きずられていく彼をダオスはポツリと訊ねた。

 

「今の女神達は・・・・・それに、この城の中では何時もこんな感じなのか?」

 

「私達はごく最近来たばかりだから何とも・・・・・」

 

実際にそうなのである為、この城で巻き起こる日常を把握しきれておらず曖昧な返事しかできないアスナと対照的にレイラは爆弾発言をする。

 

「それより、あの女神様も一緒に寝るって・・・・・イッセーさんの部屋で寝るのかな。そしたら夜這いができないわ」

 

「―――夜這いができない、どういうことですか」

 

何時からいたのか、そして聞き捨てならないと不穏な気配を発しているもう一人のエルフのアリシアが三人に近づき、レイラに問いを投げた。二人のエルフが初めて会話が成した瞬間でもある。

 

「貴女、あの方に歓楽街から引き取られて卑しい身分では無くなった筈です。何故慕ってもいない殿方と肌を重ねようとしているのですか。理解できません」

 

「・・・・・貴女には娼婦の気持ちなど分からないでしょう」

 

「ええ、理解もしたくないです。純粋で潔癖なエルフなら尚更です。なのに貴女のようなエルフがいたとは今でも認め難い存在です」

 

本心から忌避する言葉を述べ、侮蔑の色が滲んでいる目を、察している彼女の心情を受け入れる姿勢で自嘲的な笑みを浮かべ語り始めた。

 

「確かに、私はもう純粋でもなければ潔癖ではない卑しいエルフですよ。でも、娼婦として身を堕ちる前までは貴女や他の同族と同じく容易く肌を触れさせなかった。しかし、この世界ひいてはこのオラリオに生きるには生きる努力をしなければならない。そして、世界を知らない人は言葉巧みに騙され、誰も助けてくれない人気のない闇の中で身ぐるみを剥がされ、暴力と蹂躙、凌辱の凄惨を受け、私の人生と身体は冒険者によって歓楽街へ売り飛ばされました。それでも生きるために好きでもない男性に身体を差し出す日々を暮らすしかない。私のような弱い者達は、貴方達冒険者のように強くもなければ強い者に淘汰され、食い物にされる憐れな者ばかりなのです」

 

「・・・・・」

 

「そうして身体を差し出し、股を開いて男を受け入れている間に快楽や色欲の虜になってしまった私のような他の女も少なくはない。だから、例え純粋な気持ちで歓楽街から引き取ってくれたとしても私の心と身体は今でも男を欲している卑しい熱と炎に焦がれ、求めてしまう」

 

娼婦に堕ちてしまった女の末路を目の当たりにしたアリシアは口を閉ざしたまま何も言えなかった。上から目線で何か言ったところで、正論を論破しようと相手自身が身を以って体験した暗い過去は変えようがないし覆せれない。

 

「身も心も綺麗なままでいられるのは、ただ運が良かっただけよ。全員が全員、好きで娼婦になったわけではないことを最大派閥の眷族のエルフである貴方がどれだけ綺麗事を並べようと理解なんてしてくれる何て思っても無い」

 

「っ・・・・・」

 

「さっき理解もしたくないと言った貴女が私の大切な物を理不尽に奪われた気持ちなんて、分かってくれると望んでもいないわ」

 

歩きだすレイラに引っ張られて連れられるアスナ。アリシアの真横に通り過ぎる際―――それと、と言葉を付け足す。

 

「私が彼に慕っていないと思っている間に、彼は誰かに取られるわよ」

 

女同士の話し合いに加われず、完全に置いてけぼりにされていたと思われていたダオスの姿はどこにも見当たらなかった。仕方なしと従者が寝かされている応接間で一夜過ごそうと踵を返していたのか、既にいなくなっていた。一人残されたアリシアはレイラの過去を知りもせずエルフの性が表に出てしまって考慮をしなかった己は傲慢ではなかったのか、と恥を堪えていた時、金髪金眼と銀髪青眼の幼女が真摯な表情で走ってきた。

 

 

 

「・・・・・予想通り来たわね」

 

「いらっしゃい」

 

「うむ、待っていたぞ」

 

「「「・・・・・」」」

 

アマテラスとイザナミと一誠が、一誠の部屋に入るとフレイヤとヘファイストス、リヴェリアや椿が三人が来るのを待ち構えていた。夜中に何故四人がこの部屋に先回りしていたようにいるのか、女神としてでなく一人の女の本能が察した。彼女等以外に純粋に添い寝を求めに来たアイズとアリサもいたが少年は気落ちした風に発した。

 

「俺の意思は関係ないのか」

 

「久しぶりに一緒に夜を過ごしたいの。駄目?」

 

「これ、絶対添い寝だけじゃすまないぞ」

 

危機感を覚え警戒していると「あっ」とイザナミが声を上げた。袖の中に手を入れて橙色の液体が入った小さな瓶を取り出した。

 

「これ、お土産。ミカンを絞った飲み物。飲んで」

 

「オレンジジュースか?」

 

「オレンジ?うん、そんなところ」

 

それを受け取り封を開けて嗅いでみると、果実の匂いが鼻腔に突き抜ける。嘘を言ってはないと分かるや久しぶりにミカンの味がする飲み物を口にして胃の中へ飲んだ後、美味しかったと感謝の念を伝えてから一拍ののちに体に違和感を覚える。発火したように胸が熱く、下半身に熱や血が異様に集まる実感がして原因を追求する。

 

「・・・・・謀ったか?」

 

「違う。ちゃんとミカンを絞った飲み物・・・・・あっ」

 

何か思い出したかのように声を上げ、もう一度袖に手を突っ込めばさっき飲ませた同じ瓶を取り出して困った感じにポツリと零した。

 

「こっちだった」

 

「オイ」

 

「そっちはその気にさせる為に持ってきた無味無臭の媚薬と精力剤、滋養剤を混ぜた物だった」

 

「オイッ」

 

「でも、今日飲ませるつもりだったから結果オーライ」

 

「オイッ!?」

 

何てものを飲ませたんだこの女神は!と何かに耐えている気配を醸し出してる険しい顔に汗が浮かび上がってきた。心なしか一誠から甘い香りがし出してくる。

 

「イッセー?」

 

苦しそうな表情を見れば誰だって心配はする。近付いてきて当惑の色を孕んだ金目を見上げてくるアイズとアリサは「アミッドを今すぐ呼んできてくれ」と頼む一誠に訳も聞かず扉を開け放って廊下を駆け抜けていく。二人がいなくなったあと、この場にいる一堂にこう言い放つ。

 

「今更だけどよ、俺は普通の人間じゃないんだぞ。ドラゴンに興奮させるのは、飢えた獣が目の前の餌を理性も棄てて全力で襲い掛かるようなもんだぞ」

 

「・・・・・それはつまり」

 

「今まで抑えていた理性が無い状態、凶暴化(バーサーカー)してお前らを朝昼夜構わず襲ってしまう」

 

ただの獣と成り下がって強引に相手の意思など無視して犯す。それだけは絶対にしてはならないし己自信もそれは忌避する行為だと危惧する。そしてアイズ達がアミッドを呼んでいる間、悪い時期にアスナとレイラまでやってきてしまい。続いて治療と製薬が長けた少女がやってきたと思えばアリシアまで連れて来ていまい、熱でもあるかのように発汗してる体と荒い息を吐いてる男を一目で見て容態を確認、理由を訊ねる間もなく一誠の下半身を見た途端、精緻な人形のような顔に朱が染まるも、残念と無念そうに首を横に振った。

 

「部屋に中和剤がなく、今から作るにも材料が手持ちにありません。今の状態を快調するには・・・その」

 

「今の状態でそれは相手も傷つき兼ねないから嫌なんだよ」

 

相手を気遣う精神力と鋼の理性がまだある内にアミッドが提示した最善策を遮って拒んだ。

 

「ないならダンジョンで暴れて少しでもこの高揚感を鎮めに行くしかない。最初からそうしとけばよかった」

 

それこそが最善策だとばかり、足元に転移式魔方陣を展開する一誠。このまま行かせれば少しは静まるかもしれないしその間アミッドが中和剤を用意できるかもしれない。それも一つの手であると―――伸びた二つの手がダンジョンに行こうとする男の襟を掴み、魔方陣から引き離した。

 

「なっ、おい、何のつもりだっ」

 

「何のつもりも一人で抱え込もうとするな」

 

「こう言う時こそ、助け合いをするものであろうに」

 

ハイエルフとハーフドワーフが呆れ顔―――ほんのりと朱色に染まっているその顔でそう言うが、一誠の心情を察していなかった。

 

「全力で堕とせ、何時だったかそう言ったわよねあなた」

 

黒の薄いナイトドレスを脱ぎ捨て細かな白皙の肌で豊満な裸体で艶然に微笑む美の女神フレイヤ。回りの視線なんて気にもしないと豊かな胸を揺らし近寄る。

 

「最後の手段をこんな形で行うのは少々華が無いけれど、今のあなたなら有効的なのかしら」

 

桃色に染まっている顔から窺える色欲と火のついた痴情を解き放っている熱が孕み潤っている銀の双眸。彼女の言動を皮切りに一人、また一人と衣服を脱いだり紅潮した身体と熱で浮いたような顔をして寄ってくる。流石に一誠も焦りはするがリヴェリアと椿が更に体を寄せ、密着した状態で耳元に熱が籠った甘い声を囁いた。

 

「今までお前に助けられた恩はこれで返せると思ってはないが、今回ばかりお前は受け身となって私達に助けられるといい」

 

「誰もイッセーのことは責めもせん。神の悪戯に巻き込まれたと思って手前らの体に身を委ねよ」

 

そして、治療と製薬を生業とする他派閥の少女が意を決したように紅潮した顔で告げる。

 

「あ、あの・・・・・微力ながら私の体であなたの体を治療しますっ」

 

「元娼婦としてあなたの全て受け入れ満足させるわ」

 

「ちょ、ま、お前等までっ・・・・・!」

 

既に服を脱ぎ捨てているレイラや服を脱ぎ始める女性達を倣うようにアイズ、アリサまでも服を脱ぎ始める。

 

「「・・・・・っ」」

 

この手に積極的でなく一人の男に群がる女神や女性陣を、甘い香りを吸う度に頭が蕩け、理性で抑えている身体の局部が興奮したように熱く燻っているのを自覚しながら見るしかできないアスナとアリシア。事の原因の女神達も元からそのつもりだったからか、積極的に情欲を貪ろうとする姿を見せつける。

 

「(こ、こんな大勢でイッセーと・・・・・?)」

 

「(非常識、有り得ない、人として・・・・・いえ、彼は人型のモンスター。仁徳なんて関係ないの・・・・・?)」

 

止めた方が、止めさせた方がいいのではないかと常識の考えをして躊躇する二人は「皆を抑えた後、どうやって彼を?」と疑問の考えを浮かべてしまう。他に方法があるのではないかと思ってしまうが、淫靡な雰囲気と一誠達の情事に目を奪われて生娘のように固まってしまう。

 

そして鼻に入るツンとした香りまでもが―――。

 

「「・・・・・うっ!?」」

 

二人を興奮させるのだった。穴という穴にねっとりとした香りが否応なく入り込んでくる。生理的に警戒するも、次第に二人の思考を蕩けさせるように鈍らせる。そしてこの部屋に漂う淫靡な空気、目の前に繰り広げられる情事を見て性欲が湧きあがる。何時しか自覚が無いまま羨望、熱く蕩けた顔と潤った眼差しを向け、嬌声や水音が聞こえた頃には彼女達が別行動を取ろうとしても既に遅かった。寧ろ、長時間その場に居合わせ乱れ爛れた情事を見せつけられている二人にも彼女等の手によって交ぜさせられ、神も大人も子供も関係なく一人残らず彼を助けんが為に性欲を剥き出しにして何度も何度も体を重ね交わり続けたのであった。

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