ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか 作:ダーク・シリウス
「―――ぶはっ!!!」
「げほっ!げほっ!げほっ!」
冒険者の椿は器が昇華する度に身体能力が向上するが、咳き込む神は本来の力を封印して下界に降臨している故に人と変わらない身体能力。肺活量も人並みに等しくもしも一誠の助けが無かったら椿を残して溺死、天界に送還されていただろう。
「大丈夫か?」
頭から足先までずぶ濡れで声を掛ける少年に肯定や首肯する彼女達。
「ここは・・・・・さっきの場所であるか。だが、一体どうやって・・・・・」
「そんなことよりもお前の主神を心配しとけ」
何時の間にか手に持っていた外套を、濡れたことでより豊満な双丘の輪郭を浮き出しているシャツの上から羽織らせる。その時ヘファイストスが落ち着きを取り戻した。
「・・・・・ありがとう、助かったわ」
「どういたしまして。それと、今回の事は絶対に誰にも言わないでくれよ」
「何故・・・・・?あなたは一柱の【ファミリア】を救ったと言っても過言ではないのに」
不思議でならない、と気持ちを籠めて見つめる一誠の顔は苦笑いしていた。
「俺で無くても団長達も同じことをする。だから誰が見ても当然の事をしていた、それだけなのと主神達から問い詰められる面倒事を避けたいのが本音かな」
それだけ言い残して、置いていかれる形で半ば呆然とした二人が見送る間に一誠はどこかへと行ってしまった。そのあと直ぐに【ヘファイストス・ファミリア】の
後日―――鍛冶神ヘファイストス達から大量の武器や魔剣、
「ほ、ほんまに貰ってええのか・・・・・?」
「ええ、貴方の子供達が私を探そうとしてくれたのでしょう?そのお礼よ」
「で、でもファイたんを助けたのはうちらじゃないんやで・・・・・?」
鍛冶女神を助けたのは同派閥の眷族の話になっている。実際椿がヘファイストスを助けた形になっている。だから自分のことは話さないでほしいと一誠から願われたので、事の真相は三人のみしか知らない。
「それでもよ。後、別にロキだけ贔屓しているわけじゃないから。他の派閥にもお礼を渡しに行かなくちゃならないし」
さばさばとした物言いにロキは口を閉じて黙りこむ。納得はできないが向こうがそう言うのなら・・・・・という感じで受け取る事に決めた。
「ロキ、貴方も攫われないように気をつけなさいね」
「それはファイたんに言いたいわぁー。もぉー二度と一人で夜中に歩かんときぃ?」
「分かってるわ。・・・・・それとロキ」
「ん?」と反応するロキへ何か告げようとしたヘファイストスだったが、開き掛けた口を閉じた。地下水道の中で起きた戦闘、そしてLv.に見合わぬ実力のことを教えようとしたが彼女は教えない方がいいと隠すことにした。何より本人がそうして欲しいと願っていたからだ。
「いえ、何でもないわ。ただ、あの鎧の子。変わってるわね?直接工房を貸してほしいと言われたわ」
「ま、まぁ・・・・・色々と面白い意味でうちもそう思っておるけど」
一誠のことを話題にされ、心中はハラハラドキドキと冷や汗を掻きながら秘密を悟られないように返した。
「いまあの子はどうしてるの?」
「あー今はなぁ。うちのアイズたんと空の散歩をしとるで」
「空の散歩・・・・・?」
ロキの人差し指が衝くオラリオの遥か上空・・・・・空飛ぶ布を改良して意匠が凝った絨毯の上に乗る一誠とアイズ。風を切りどこまでも青い空の下で楽しんでいた。
「どうだアイズ、アリサ。好い風で気持ちいいだろー」
「うん、凄くいい」
「凄い、飛んでる・・・・・」
金眼を輝かせ、驚嘆で目を見張り胡坐を掻く一誠の足の上に小さなお尻を乗せてぶつかる心地の良い風をアイズとアリサは堪能していた。三人の傍にさらに空飛ぶ絨毯の上にそれぞれ乗っているフィン達も同行している。理由は単純。一誠が人数分を用意したからだ。空を飛べる絨毯に興味を持ち、乗ってみればオラリオを一望できた光景にアイズとアリサも含め目を丸くして驚いたのはまだ記憶に新しい。
「がっはっはっはっ!こいつは傑作じゃ!よもや空から地上を眺められる日が来るとはなっ!」
「まさか彼に
「ああ、まだ見ぬ世界が・・・・・この世界を見渡せる空の世界はとても素晴らしい」
豪快に笑う大戦士のドワーフ、一誠の才能に感嘆して副団長のエルフに訊ねるフィン、翡翠の双眸を見たことのなかった世界の光景と風景に焼き付ける絶世の美女のエルフ。
「よーし、宙返り!そんで∞飛びだぁー!」
「「きゃあああああああああっ!?きゃあああああああああああっ!?」」
「おーおー、あの小娘が叫んでおるわ。のう、初めてじゃろう?」
「そうだね。彼の前じゃあ『人形姫』も形無しのようだ」
「まったく、あまり無茶なことを・・・・・」
それでも三人の顔に微笑みが浮かんでいる。こういう一時も悪くないと頬を綻ばせてもうしばらく一誠とアイズにアリサの空の散歩に付き合うのであった。
【ヘファイストス・ファミリア】の主神誘拐事件から早くも二週間が経過した。
「ん、ロキ。プレゼントだ」
「お、おー?何やイッセー。急にうちに贈り物なんて。てか、よぉ神語を知ってんなぁー?」
「もう少しで俺は脱退するんだ。少なからず世話になってるからそれに兼ねてだ」
夜、突然部屋に訪問し、片手に持っていた高級そうな酒を渡す俺を不思議に思いながら嬉々として受け取ったロキ。理由を知り、真面目やなぁーと思いつつも苦笑いを浮かべる。酒を大事そうに抱え、ロキはあることを言った。
「なぁー、うちらから離れて次はどこの【ファミリア】に行くん?」
「俺個人が自由に動ける派閥が良いな。だから縛られない派閥に行こうと思っている。まだ決めてないがな」
「そっかー。なぁーイッセー。もーちっとだけこの【ファミリア】にいてくれへんか?」
ロキの乞いに鎧越しで首を傾げる。入団する前に取り決めた契約を反故にして継続してほしいという願いに疑問を抱いた。
「何でだ?そう言う契約だろ」
「そや、確かに契約や。でもな、契約を続行することもできる。うち、イッセーを手放したくないーって気持ちが湧いたんよ。特に色ボケ女神に目ぇつけられているかもしれないしな」
「色ボケ女神って・・・・・誰のことだよ」
「その内嫌でも分かる。で、どや?まだ契約を継続してくれへん?」
主神の問いにしばらく考え・・・・・首を横に振った。直ぐに決めるのは早いと思って。
「まだ一年も経ってない内に答えを出すつもりはない。契約期間が終了したその日に答えさせてもらう」
そう言って部屋を後にした一誠は他の団員達とすれ違うことも無く、塔の最上階に宛がわれた部屋へと久しぶりに戻ってみると部屋の中に―――アイズだけでなくアリサもベッドの中にいた。
「何故に?」
自分の部屋と間違え―――る筈も無い。自分の意思で来たとしか考えられない。部屋に誰がいようと普段空けているので困る物は置いてはいない。ただ、寝具だけは違い金色の羽毛で作った弾力抜群で寝心地が良い布団にしてある。まさにアイズはその布団を独占して、幸せそうな寝顔を浮かべている。
「・・・・・しょーもない。寝るか」
扉に魔方陣を張って、誰も入らせないようにしてから鎧を解き自分も布団の中に入ると二人を抱きしめながら夢の中に旅立った。
そんな翌日の朝。目が覚めたアイズは、布団の中に潜るまでいなかった部屋の主が一緒に布団の中で寝ていたことに金眼を丸くした。寝ている間に帰って来たのだろう、自分がこの部屋のベッドで寝ていてどんな反応していたのか定かではないが幼女の隣で寝ている一誠は鎧を解いていた。否、鎧のまま寝るのは窮屈だろう。
「・・・・・」
寝顔を見るのは初めてで、静かに一誠の顔を窺った。こうして誰かと一緒に寝るのは随分と久しぶりのように思える。さて、これからどうするべきか。起こすべきかこのまま寝かせておくべきか。幼いアイズは頭を悩ませ、うーんうーんと一生懸命考え―――扉が文字通り砕け散った。木製の扉がバラバラに木屑となって部屋に散乱する。迫りくる木屑から布団の中に隠れてやり過ごした後、ギョッと瞠目するアイズは恐る恐ると扉へ目を向ける。
「まったく、いつの間にこんな硬い扉にしたのだ」
「すまないなガレス」
扉を壊した張本人と頼んだと思しき者の声が部屋の中に入ってきた。
「アイズ―――む、この者・・・・・イッセーか?」
「・・・・・」
「ガレス、リヴェリア・・・?どうして・・・・・?」
大戦士のドワーフと絶世の美女のエルフの名を呟くアイズ。どうして扉を破壊する暴挙に出たのか信じられないと零した声にリヴェリアが溜息を吐いた。
「どうしても何も。もう昼時だぞアイズ。何時まで寝ているつもりだ」
「え、もうそんな時間・・・・・?」
「どうやらイッセーの部屋で寝ていたから起きる時間帯が狂ったのかも知れんな。ほれお主も起きんか」
リヴェリアにの説明を聞き、朝と思っていた時間が実は昼の時間であって、アイズは自分でもそんなに寝ていたことに驚いた表情を浮かべた。大戦士のドワーフのガレスはアイズの隣で寝ている未だに起きない一誠を大きな手で揺さぶり起こそうとする。
「扉を壊したのって・・・・・」
「何故か開かなくてな。仕方なくガレスに頼んだのだ。何も壊すことも無かったのだがな・・・・・」
「何を言うか。開けることが出来んのであればこうする他ないじゃろう。他に手があるのならばお主がしていた筈じゃ」
後でその話を聞いた一誠はガレスの力をとある悪魔の男と被らせて驚いた。
「ほれイッセー、とっとと起きんか!何時まで寝ておる気じゃ!」
先程よりも強く起こしに掛るガレスのやり方にようやく煩そうに左の眉根を寄せ、顔を顰めた一誠が寝言で一言。
「う~ん・・・・・うるさい」
寝転がる際に固く握った拳が無防備なガレスの顔に思いっきり殴った。綺麗な翡翠の目を大きく開くリヴェリアと硬直するアイズに見守れる中でガレスは殴り飛ばされ壁を突き破りながら外へと落ちてしまった。後に
「・・・・・んんっ」
左眼が薄らと開き、上半身を起こした彼は欠伸を一つ零す。アリサも今の音で眼を覚ました。そしてアイズとリヴェリアは壁に開いた大穴を見て・・・・・。
「何の騒ぎだ?」
と聞いた瞬間にリヴェリアから拳骨を食らった。
10分後、執務室。
「あはは、ガレス。とんだ災難だったね。まさか寝相で殴り飛ばされるなんて」
「笑いごとでは無いわい。こっちは何度も天井と床を落ちながら壊してしまったんだぞ」
「いやいやガレス。これは本当に笑うしかないわー。あのLv.6の第一級冒険者が下級冒険者の寝返り様で殴られて落っこちるって・・・・・ぷふー!受ける、もーこれ、お笑いのネタにしかならんわー!」
「ええい笑うなロキ!」
苦笑するフィンに大笑いするロキ達に遺憾と食ってかかるガレスの顔に殴られた痕は無い。恥だとばかりポーションで直ぐに治したのである。壊した、壊れた個所は現在一誠がせっせと片づけていて、その監督としてリヴェリアが付き添っている。アイズとアリサも同伴だ。
「じゃが、本当にあやつは何もんじゃ。警戒しておらんかったとはいえ儂を殴り飛ばすことは絶対に不可能じゃろ。下級冒険者なら尚更じゃ。あの打撃、第一級冒険者並みの威力はあったわい」
「それはうちも知りたいわー。未確認の『レアスキル』を発現してからイッセーがLv.に見合わない強さを得たとしか考えられへん」
「ンー、『
「それでガレスが殴り飛ばされて天井から落ちて来たって・・・・・ぷぷっ」
「おい、ええ加減にせい。これ以上笑ったら今直ぐお主の酒を全部割ってやるぞ」
冗談を感じさせない怒気が籠ったガレスの声音にロキは顔を引き攣らせた。そこで仲裁で「まぁまぁ」とフィンが宥める。
「とにかく、彼自身に秘密が無い限りこれは『レアスキル』による現象として片づけるしかない。同じ仲間に疑惑を持ってはいけないし、何よりアイズが彼に懐いている節がある」
「むぅ・・・・・己の身を顧みない事は変わらないが少なくとも笑うようになっておる」
「そこだけはうちも知ってるでー。アイズたん、だからイッセーの部屋で寝ておったんかな?」
実際は一誠の部屋にモフモフモコモコとした布団があり、その肌触りと弾力がなんの・・・・・一度手を布団の中に入れてしまうと今度は両手、次は頭から入ってそのまま心地の良い布団の中で寝入ってしまったのである。三人はそんなことを露も知らず、一誠とアイズの仲の良さにこのまま心の均衡を保ってくれる存在になるんじゃないのかとどこか思ったところでリヴェリアが執務室の扉を開けて入ってきた。
「おー、リヴェリア。もう後片付けが終わったん?」
「・・・・・ああ、修復作業は終わった」
「修復作業?」
ガレスが落ちた周囲の瓦礫の撤去作業の筈じゃ?とフィンは碧眼をガレスに向け、ガレスもその筈だと視線で返す。修復とは何なのかロキは机の上から訊ねたところ。
「イッセー曰く、魔法で元に戻していると言われたが私はあんな魔法は知らない。壊れた物を完璧に元に戻すなど実際にこの目で見るまでは信じられなかった。ロキ、イッセーの【ステイタス】に魔法は?」
「発現すらしてへんのに魔法なんてありえへんわ!もー、なんなんイッセーって!」
「ンー、やっぱり彼自身に秘密があったのかな」
「そう考えるのが妥当なのかも知れんな。で、イッセーは今何しておる」
リヴェリアの口から「中庭にいる」と告げられていたその頃。一誠はアイズと模擬戦はしておらずバトミントンで遊んでいた。アリサは点数係or見学中。
「んっ」
「ほい」
「んっ」
「ほっ」
どちらかが羽を地面に落とすまで続ける地味な遊びだが、アイズの目は負けん気が含まれた闘志の炎を燃やしていた。もしもこの遊びに勝てば・・・・・。
「副団長達に内緒でダンジョンに連れてってやる」
と、アイズが今一番したいことを提示されたのでやる気が満ち溢れているのだった。小さな手と大きな手が空へ優しく弾くように打ち上げて相手へ送るその挙動はもう修復作業が終えてからずっとしている。
「早くっ、落としてっ」
「ふはははっ、そう簡単には落とせんよ」
「なら、こう、する」
アイズは思いっきりラケットを明後日の方へスパンと打つ。不意を突かれたその明らかな相手に落とさせる行為は、「甘いな」と述べる一誠が一瞬で落ちる場所へ移動して落とさせなかったので失敗に終わり、あっさりと空へ打ち返された。
「おー、何かしとるなー。何してるんー?」
そこへロキ達が中庭に足を踏み入れてきた。それでもアイズはも勝つことに集中して、羽を空へ打ち上げる。一誠もラケットで落ちる羽を打ち上げる。ポーンポーンと飽きることもなく二人はラケットを振るい羽を打ち上げ続ける。
「あの羽の様な物を落とさないようにしているのかな」
「それが一体何の意味があるんじゃ?」
「何かしらの遊戯としか思えんが、アイズが必死になっているな」
介入することも無くただただ眺めるフィン達は「うちも交ぜてーなっ!」と行動に移る主神を視界に入れた。
「落とすなよ?落としたらどっちかがロキの部屋の酒を割る約束してるんだから」
「あはは、んなことアイズたんがするわけ・・・・・」
「今のアイズの目を見てそう言い切れるか?」
ダンジョンに行きたいと言う願望を金眼に負けん気の炎として燃やし、ロキを見据えるアイズ・ヴァレンシュタイン(幼女 七歳)。本当の理由を気付かずアレは本気だと悟るロキは頬を引き攣った。
「えーと、アイズたん・・・・・マジで?」
「早く、やる」
「な?めっちゃ本気だぞ。頑張れロキ」
「絶対に負けへんでぇ~!?」
どこからともなく用意された三本目のラケットをロキは受け取り、「うおおおおりゃあっ!」と酒の安全確保の為に奮戦する主神。
「なるほど、複数人で遊ぶものか」
「ならフィン、お主もすればいいじゃろう。体格的にも丁度良い」
「彼があの棒状の網を持っていれば―――」
と指摘するフィンへもう一本のラケットを投げ渡された。子供用のラケットの大きさでフィンの手に良く馴染む。
「話だったけど、アイズに加勢しに行くかな。ロキ、構わないかい?」
「だったらうちはイッセーとコンビやからな!」
「勝負らしくなってきた。アイズ、本気を出させてもらうぞ。団長がいるんじゃそうせざるを得ない」
「絶対に勝つっ」
二対二の戦いが始まり、スパンスパンと打たれる羽は見えない虚空のラインを超えて相手の陣地に落ちる。落とさせはしないと打ち返す四人の動きに関心の目で見届けるリヴェリアとガレスに見守られる中、勝敗はどうなったのか数年後―――思い出話として語られるだろう。
楽しい日々もあり全てが順調に回っていた。一誠のいない間はフィンに師事し、リヴェリアに学び、ガレスに諭され、一誠がいれば三人と似たようなことをし、驚きと楽しさ、アイズは様々なものを得た。涙を枯らしたアイズは戦いの毎日に身を置き、自分を見守る大人達の前で多くのものを育てていった。都市は相変わらず騒がしく、破壊と混沌の歌声が聞こえてくるものの、そんな中でもアイズは自分を見失わず同じ志を抱く者と走り続けた。充実した日々だった。全てが順調に回っていた―――筈だった。
アイズ・ヴァレンシュタイン
Lv.1
力:D591→593
耐久:D599
器用:B788
敏捷:A800→801
魔力:I0
アイズの眉根が歪んだ。ロキに渡された更新用紙を見て思わず手に力が入る。兜を外した鎧姿の一誠もアイズと同じように見ているがアイズ以上に深刻な表情を浮かべた。
「アイズ、これは誰しもが通る道だ。深刻に受け止めるな」
「『アビリティ』は極めるにつれ、成長速度も落ちていく。決して君の伸びしろが無くなったわけじゃない」
「そうやなぁ。【ステイタス】っちゅうもんはそういうもんや」
リヴェリアが、フィンが、ロキが何かを言っているが、耳を素通りする。ふと同期のアリサはどうなってるのだろうか?一誠の方もどうなんだろうと目線を上げた。強さに焦がれる共通の人物の成長具合を、気にして訴えるように視線を向けていると、その視線に気づく少年と銀髪幼女は更新羊皮紙を金髪幼女に見せた。
イッセー
Lv.1
力:I0
耐久:I0
器用:I0
敏捷:I0
魔力:I0
アリサ・イリーニチア・アミエーラ
Lv.1
力:C597→600
耐久:D587
器用:B778→780
敏捷:A810
魔力:I0
アリサの【ステイタス】は自分に負けないぐらい成長していたことを知った。一誠の【ステイタス】はアイズに諭したリヴェリア達は「これが誰しも通る道なのか」と無言で訴えられ、何も言わず言い辛そうに口を閉ざし視線を反らしてしまう。ガレスすら何も言おうとしない。掛ける言葉が見つからないのだ。アイズも、自分の成長具合と比較するまでも無く低すぎる一誠の【ステイタス】に同情を覚えてしまった。何とも言えない部屋の雰囲気の中・・・・・一誠は肩を落とした。
「ロキ、どう見る」
暗い雰囲気を背負って執務室からいなくなった一誠の【ステイタス】の異様について、ロキに問い掛けるフィン。変動しない数字は明らかに何かがあると感じ取り、腕を組み悩む様子を窺わせる女神は推測を口にする。
「うちが刻んだ
「・・・・・それは有り得ない。数ヵ月前に入団したばかりの者だぞ。もしもお前の考えが正しかったならば」
「あやつは―――第三級冒険者、もしくはそれ以上の実力で下級冒険者になっている、というわけか?」
ガレスが信じられんと思いながらも現実的な予想を告げた。だが、リヴェリアの言うとおり。数ヵ月前からの駆け出しの冒険者が想像以上の実力者であるなんて考えられない。ましてや、オラリオ唯一LV.7の冒険者と同等の
「仮にもガレスの言うとおりだったら。彼は意図的に実力を隠していることになる」
「その理由は?」とリヴェリアからの疑問に顎に親指を添えながら己の推測を立てる。
「彼自身が僕達には絶対に言えない秘密を抱えている、もしくは更なる強さを求めて僕達には内緒で実力に見合う階層に足を運んでても変わらないでいる。と、僕はそう思う」
「半年も姿を見せなかったのはその為っちゅうわけか?」
「いや、半年以上も我々の前に姿を見せようとはしないでいる、の方ではないか?」
「最近は騒がしくしておるがのぉ。アイズを巻き込んでであるが」
四人の視線が絡み合い、謎が深まる一方であるがやはりこの謎と疑問を解くには・・・・・。
「丁度いい。彼と模擬戦をしよう」
小さな笑みを浮かべ、一誠の実力を計ろうと団長は椅子から降りた。得物は自室にある為、取りに行かなければならない。ロキ達もフィンと一誠の模擬戦を見ようと意志を秘めて行動に移ろうとしている団長を見送る矢先。執務室の扉が開く。
「アイズ?」
金髪を揺らして入って来た金眼を四人へ向ける幼女の入室に、一度執務室を後にした彼女が戻ってきた様子に用でもあるのか―――ダンジョンに連れて行って、と頼みに来たのかと思った彼等彼女等にアイズは小さな口を開いた。
「『しばらくダンジョンに行ってくるから戻って来ない』ってイッセーから伝言」
「「「「・・・・・」」」」」
フィンの行動を見抜いたような
「・・・・・私もついて行っていい?」
「うん?まだ彼はいるのかい?」
「待たせている。フィンから許可もらってくるって言ってあるから」
この瞬間。極東の言葉で千載一遇の
「アイズたん、イッセーを直ぐに中庭へ連れてきぃ!できたらうち公認でダンジョン行くこと許可する!」
「!」
主神公認であればフィン達に許可を貰わずともダンジョンへ行ける。故に目を煌めかせ、ダッと扉の向こうへと踵を返して一誠を迎えに行った。残された四人、リヴェリアは一言言いたげな視線をロキに向けて異論を発した。
「・・・・・ロキ、私達は認めていないぞ」
「ええやん。今回だけはアイズたんのお手柄ってことで」
「ダンジョンに行く彼に付いていきたい思いで言ったのだろうけどね」
「それでようやく分かることがあると言うわけじゃ。リヴェリア」
そんなこんなで、フィン達は模擬戦の準備を整えてから中庭へ赴いた。自前の愛槍を片手に目的の場所に足を踏み入れ目にした光景に碧眼は固まった。
「放せよ親方!その髭と髪切るぞ!?本気だかんな!」
「おうやってみろ小童。その後できつーい拳骨を食らわせてやる―――(ジョキリ)むおっ!?本気でやる奴がおるかぁああああああああああっ!」
「あひゃあひゃあひゃあひゃっ!(笑泣)」
「「「・・・・・っ(プルプル(笑堪))」」」
ロキの命令でか逃げられないよう腕と脇で固めていたガレスと剛腕の腕に胴体を回され拘束された一誠。もがく一誠からの本気の脅しに不敵な態度でどっしりと構えるガレスだったが、腕の中でぐるんと回る一誠の両腕が光ったと思うと長年切らずにいた髪と(顎)髭が綺麗さっぱりに切り捨てられたことで大戦士のドワーフの本気の悲鳴が入り交じった怒声が中庭に響いた。眉毛を残し禿げになった眷族と仲間に、腹を抱えて爆笑する女神や普段絶対に見れないギャップに二人の幼女と副団長のエルフは必死に笑いを堪えている。
「・・・・・ンー、あの状況の中に加わるのはちょっと躊躇するね」
感想を述べるフィンの目の前で、怒り狂うガレスとロキのように声を出して笑いながら
「模擬戦だって?なんでまた・・・・・」
「君の【ステイタス】が変動しなかった理由を知りたいからね」
全ての騒動を収拾したところで、再び中庭に戻りフィンと一誠が対峙する。見守るのはロキとリヴェリア、アイズとアリサにガレス。槍を携えて朗らかに模擬戦を臨む姿勢の小さな団長に怪訝な視線を鎧の中で送る一誠はその気はさらさらないと首を横に振った。
「やる気がないなぁ・・・・・」
「そうかい?じゃあ、どうやったらやる気がでるか教えてくれるかな?」
「ん・・・?んーそうだな・・・・・」
腕を組んで、フィンの問いに答えを考える少年は何となくロキ達へ視線を向けると、何か思いついたのかガレスとリヴェリア、そしてフィンを見回し。
「ロキー、ちょっと」
「ん?うち?」
主神を呼び出し、中庭の隅へと移動して声を殺してヒソヒソと話し合いをする。
「・・・・・マジでできるん?」
「許可をくれればできるぞ。見たくないか?」
「見たいからOKや!」
話は決まったようでフィンの前に戻ってきた一誠からやる気が出る内容を教えられた。
「団長と副団長、親方は今度一日だけ俺と遊んでほしい。三人と親睦を深める意味で」
「それが君のやる気を出させる願いでいいのかな?」
それぐらいであれば何の問題も無い。寧ろ、一誠をより知ることができるいい機会ではないか。どんな遊びと称した行動をするのか、されるのか分からないが異論は無い。リヴェリアとガレスにも乞いを求める視線を向ければ、小さく頷いて返答をしてきた。これで同意を貰えたことで一誠の要望は通った。
「それで構わないなら僕等も構わない」
「よし、だったらやる気が出てきた」
「ではやろうか。君の気が変わる前にね」
槍の持ち方を変えて穂先を前へ突き出す。この模擬戦で一誠の実力が分かる。弱くても強くてもどちらでも構わない。把握することが大事なのだ。唯一、一誠だけ遠征も戦いも【ファミリア】として参加していないから知る必要がある。
「因みに手加減とかしてくれるよな?」
「君の実力次第だよ」
「・・・・・そっか、んじゃ」
確認の為に話しかけた一誠の心情を酌んで返した。臨戦態勢の構えで拳を堅く握り腰を落とし腕を後ろへ引く、実力が未知数な相手に傲慢や驕りもせず何時でも対応できる心掛けと体勢に入るフィン。合図のない模擬戦が始まって直ぐ一誠は離れた所から「ふんっ!」と気合が入った短い声と共に真正面へ拳を突き出した。その挙動に首を傾げる気持ちでいたら、全身に凄まじい衝撃が襲い中庭を囲む壁まで吹っ飛びフィンは壊れた壁の向こうへと姿を消した。
「・・・・・なに?」
「なんじゃ、あやつの攻撃は・・・・・見えない攻撃でもしておるのか」
見守っていたリヴェリアが瞠目する。一体何故フィンが吹き飛んだのか理解にできずただ眼を丸くするだけで、ガレスも見ただけでどんな攻撃なのか自分なりに推測してそう口にした。
「親方、それ正解だ」
「む?」
独り言として呟いた声を拾い、肯定した一誠が握った拳を見せつけながら説明口調で語った。
「俺は団長に見えない攻撃をした。カラクリを教えると空気に圧力を掛けて攻撃した。所謂衝撃波さ」
「衝撃波じゃと?衝撃を遠距離から放っているというわけか?」
「そーいうこと。だから団長は吹き飛んだり壁が壊れたんだ。まぁ、親方みたいなドワーフなら堪えられるだろうがな」
種明かしを済んだところでフィンに話しかけた。普段の温厚で朗らかな顔ではなく、瞳を鋭くし戦士の顔に変わっているフィンが壁の向こうから一誠の前に戻ってきた。
「これで分かってくれたか?」
「ンーもう少しで分かるかも」
そう言った矢先にフィンは小さな身なりを活かして地を這うように肉薄する。一誠の視界の下方から鋭く槍を突き出し、かと思えば足元を水平に薙ぎ払う。素早く小柄な
「ふっ!」
「はっ!」
時には横薙ぎに振るわれる光刃を柄で受け止め、槍が真正面に鋭く突き出されたかと思ったら直ぐに顔をめがけて穂先が上段に振るわれ、鎧の頭部に生える光刃を纏う鋭利な一本角で受け止め、背中に溜めた両腕が左右から真正面へ空気を裂く一突が繰りだし、突如親指が震えたフィンに距離を取らせたと同時に下段から振るわれた爆発的な脚力でもって発生した鎌風に柄で防ぐも、勢いを殺せず後退する直後。フィンの真後ろに瞬間移動した一誠。小柄な体に蛇のごとく腕を回しピタリと光刃を
「どうするまだ続けるか?これ以上したらホームが壊れかねないけど」
「・・・・・それは困るね。仕方がない、今回はこの辺で止めておくよ。次はダンジョンの中でいいかな」
これはただの模擬戦・・・・・その筈なのに何故かフィンは模擬戦をしたように思えなくてならない。愕然とするリヴェリアとガレス、開いた口が塞がらないロキ。形容しがたい気持ちで心が高揚するアイズとアリサを他所に「またやんのかよ」と嫌そうに言い返しつつ指をパチンと鳴らした。壊れた個所が見る見る内に一人で修復、時を巻き戻したかのように完全に元通りになった壁を見てリヴェリアとアイズにアリサ以外、フィンとガレス、ロキは目を大きく見張った。これがリヴェリアが言っていた光景だったのだろうと察したのは直ぐ後だった。
「イッセー。どうやったら壁が勝手に直るのか教えてくれるかな」
「企業秘密」
「そこをなんとか」
「黙秘権を使わせてもらう。それよりも何か分かったことはあったのかよ」
話をあからさまに変えられ、やれやれと肩を竦み苦笑いするフィンの目は真剣そのものだった。
「確定したよ。君は第二級冒険者以上―――僕達と同じ第一級冒険者並みか同等、それ以上の実力で下級冒険者になっている。その強さ、どこでどうしたら得られたのか気になるけれど教えてくれないんだよね?」
「それは俺の秘密に関わるから無理だな。今の関係が崩壊しかねない」
秘密・・・・・誰しも一つや二つは抱えているかもしれない誰にも絶対に口が裂けても公にできない背景を持っている。一誠にも秘密があることが分かり、フィンは優しい笑みで問う。
「どんな秘密を抱えているか分からないけど、僕達との関係が崩壊しかねない秘密だろうと僕等は受け止めるよ」
「無理だな」
間も置かず、ハッキリと断言した。
「受け止めることはできない。特にアイズが―――俺を許してくれるとは思えない」
「アイズが、君に・・・・・?」
彼女との関係は良好の筈なのに何故許せないのだ?そう疑問を脳裏に浮かべ碧眼を金髪金眼の少女へ向けていた視線を一誠に向け直すと、何時の間にアリサと姿を暗ましていた。
―――翌日。
不思議なことに起床した時、切られたガレスの髪と髭が元通りに生えていたことを確認すると一人、心底安堵で胸を撫で下ろしたのは本人のみしか知らない。
さらにあの模擬戦の一件以来、アイズは鍛錬にますます熱を入れ始めた。同じ下級冒険者に遥か高みの頂にいる一人と戦って己が望む強さを見せつけられた。彼は言った。小さい頃から世界中を旅して修行していたと。
なら、
なら、今から修行をしていればあの強さを得られるのでは?
そう考えに至った彼女は金眼に強い意志の光と決意を孕ませ、虚空に素振りをしていたところに何も知らず
「俺がしていた修行をしてみたい、だって?」
「お願いっ。私は、強くならなくちゃいけない!時間を無駄に過ごすなんて嫌、できない!」
「気持ちは分かるけど・・・今からすると今よりダンジョンに行けなくなるぞ。それでもいいのか?」
切なる思いをぶつけ袖を掴むほど縋りつき乞う、まだ幼い少女の心情を酌み跪いて視線を合わせる。
「俺がしてきた修行は数年単位で強くなっていった。16歳になった時には前の自分より強くなったと実感できた」
「16歳・・・・・」
「アイズは7歳だから9年後の話だな。それまでずっと一日も欠かさず俺の修行をやれるか?」
少女の決意に揺らぎは無かった。真っ直ぐ強い眼差しを向け続けるアイズは強くなりたい一心で一誠に師事を仰いでいる。一誠のように修行をすればいずれ自分も相応の強さを得られる。ダンジョンは勿論行く。だけど、他にも強くなれる方法があるならそっちの方面にも意識を向ける。伝わる意志の強さに一誠は
「これは人なら誰にでも持っている力で剣にしている」
「フィン達も?」
「そうだな、全人類が持っていると言っても過言じゃない。この力は『気』と言って、この根源は、生命エネルギー・・・・・んと、元気の源なんだ」
恐る恐る人差し指で光刃の腹を触れ、感触があることを知ると手の平全体で触れ始める。冷たさも温かさも感じない、硬いのに鉄や金属の様な感じでもない。心から不思議と感じさせる光刃だった。
「元気で剣を生やせるの?」
「元気=体力でもあるがな。体力を消費して作り上げているんだ。んまぁ、今のアイズにちょっと難しい説明だから感覚的に覚えてくればいいか。まずは、自分の体の中にある気を出す練習だ」
アイズの前で胡坐を掻き、両手を合わせ「見てろ?」と意識を向けさせる一誠は、両手の間に集束する光が球体となって具現化した。興味深々で目を大きく開いて凝視するアイズの様子は好奇心旺盛な子供と変わらなかった。
「これが俺の元気の源だ。魔力じゃないからな?」
「魔力じゃない力・・・・・どうやって出せるの?」
「これは地味ーな程、ひたすら静かに集中して両手の間に出す意識をするんだ。何日も何週間も何年もな」
「・・・・・」
「俺も手伝う。コツさえ掴めれば何となくな感じで出るようになる。最後に聞くけど、俺がした修行は地味なのばっかりだ。それでもするか?」
地味なことでも極めれば強力な技となる。剣の素振りもその類だとアイズは知っている。一誠も地味なことをして極めたから強くなったのだと共感したからこそ、頷いたのだった。
「よし、早速特訓だ」
「よろしくお願いします」
「私もする」
こうして始まるアイズ・ヴァレンシュタインの特訓の日々は、密かに記録として残された一誠の日記帳で明確に綴られていた。