ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか   作:ダーク・シリウス

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書き直し+書き足しました。


冒険譚11

転生を司る神から特典を受け、一誠の食材の調達問題は解消されたも同然になった。寧ろ欲して止まなかった物資がヴァリスで払えば何時でも何所でも購入でき、本人は凄く満足していた。それに乗じてアスナも懐かしい物を購入することが出来て嬉しそうに自然と一誠の傍に寄り添い、あれやこれやと注文してぽんぽんと出て来る段ボールから取り出して盛り上がる。当然と言うか必然と言うかリヴェリア達も二人に交ぜてもらって異世界の買い物をしている。

 

「ほー、この世界とは異なる、それもイッセー達をこの世界に送り込んだ元凶の神と話しができたとはなぁ」

 

「その結果が転生者が保有している特典を与えられ、異世界買物覧(ネットスーパー)というものを得て私達の目の前でお金を払って買ってるのが全部、異世界の物らしいわ」

 

女神達が視線を来る先には、異世界の物資を購入しようとしている眷族達の姿。中には誘われたのかオッタルまで輪の中に入っていて「フレイヤに何か買ったら喜ぶんじゃないか」と少年に言われ、サイトを覗きこんでいる。

 

「自分の子もすっかり馴染んでおらへん?」

 

「ふふふ、私もあの子も無視できない子だから」

 

「それは同感ね」

 

「「うん」」

 

微笑ましいと、機会があれば自分も異世界の買い物をしてみたいと思いを胸に抱いて見守る朝で一誠達の一日が始まった―――。

 

「ところで・・・・・アレ、なにかしら?」

 

ヘファイストスの紅眼の視界に入るのは、リビングキッチンの壁際に鎮座している木製で大きな神棚のような物。彼女の疑問に一同は確かにと言った感じで目線を向ける。唯一一番知っていそうな少年は―――作った料理を手に持って女神達が疑問視している神棚に向かい、お供えするように置いた。そして合掌して祈りを捧げる姿勢になった時、神棚に置いた料理が光の粒子と化してパッと消え去った後、一誠から転生の神にお供えするための行為だと教えられた女神達だった。

 

 

「おお・・・・・」

 

太陽が青天の真上にまで昇った時刻。【アルテミス・ファミリア】の眷族達は一部不自然なまでに静寂を醸し出してダンジョンに挑戦していた。目的は借金三千万ヴァリスの返済。『水の楽園』に存在する下へ膨大な量の水が大瀑布と化しながら落ちて行く様、『巨蒼の滝(グレート・フォール)』を初めて見たヒーロー組は圧巻と圧倒され、ダンジョンの中なのにダンジョンとは思えない大自然の景色に誰もが立ち尽くして放心する。

 

「すげえ・・・・・」

 

「うわー!滝だぁー!」

 

そんな『絶景』を目の当たりにし感動した異邦人達の声が瀑布の嘶きに吸い込まれる。下へ流れ落ちる水は緑玉蒼色(エメラルドブルー)。惚れ惚れとするほど美しい滝はここが危険なダンジョンであることすら忘れさせるほどだ。感動と同時に胸に覚えるのは震えるほどの畏怖―――恐怖でもある。滝とちょうど対面位置、彼等彼女等が立つ水晶の崖の真下に広がるのは大きな滝壺だ。落ちたら上級冒険者でも一溜まりもないことはもとより、目を疑ってしまうのはその滝壺からさらに瀑布が下へと続いていることだ。そう、ちょうど階段のように、『巨蒼の滝(グレート・フォール)』は25階層の天辺より降り注いで下部の階層へ貫通しているのだ。そして滝口の直ぐ真上、階層の天井には『大樹の迷宮』の名残が―――差し渡し五Mはある極太の木の根が放射状に延びていた。

 

「ケロ、私の独壇場ねここは」

 

「水の中にもモンスターがいるんだぜ?泳いで倒そうなんて考えは止めておきな」

 

「大丈夫ですよ、梅雨ちゃん『蛙』の個性を持っていて泳ぐのが誰よりも得意なんです」

 

「マジでか」

 

適材適所、もしもの時は彼女に頼ろうと思いが浮上したところで黒髪黒眼、黒い服装に黒い剣と黒一色の装備のキリトは勝手知ったる風に、真横から伸びる水晶の橋―――崖道へ歩み出した。

 

「っておい、キリの字先に行くなってば」

 

「・・・・・皆、行きましょう」

 

「そうだな。まったく、世話の焼く団長になってしまったなキリトの奴」

 

褐色肌のスキンヘッドの男性の言葉がピクッと自分達にも関係あると反応を示した三人の少女達もどこか暗い影を落としていた。そんな雰囲気を消し飛ばさんとするヒーローがムキッと細身から筋骨隆々の体になった。

 

「HAHAHAHA!若い頃から失敗と苦労するほうが成長の糧になるものさ!」

 

「うおっ!?いきなり変身は驚くって!」

 

「あんたの身体は一体どういう構造になってるんだろうな・・・・・」

 

自分達が知っているスーパーマンでもこうはならないと生のヒーローとつい比較してしまうが、色々と比べたらキリが無いとマッスルモードになったオールマイトを筆頭にヒーローを目指す生徒、少年少女達は気を入れ直し、歩き始める。今いる切り立った崖は24階層の連絡路がある最南端。正面に広がる大空洞と『巨蒼の滝(グレート・フォール)』はちょうど階層中心に位置する。キリト達が向かう26階層の連絡路は南東。

 

「気ィつけろよ。壁沿いに歩くから足を踏み外して落っこちたら死ぬからな」

 

「こ、こえええ・・・・・」

 

「下を見るな、前だけ見て進め」

 

「は、はい」

 

クラインがヒーロー組の異邦人達に注意を促す。先頭に歩くキリトが行く大空洞の壁伝いに西へと向かい、先にある洞穴から崖内部にある迷宮に進入、そこから円を描くように西から北(滝の裏側)、東に向かい、階層底部にある地下連絡路を目指す。要するに時計回りに南から南東を目指す、といった具合だ。キリトを先頭にパーティは崖道を進んだ。道の幅は三Mほど。左手は壁で、右手は断崖絶壁。何人かは右側を絶対に見まいとしている。『巨蒼の滝(グレート・フォール)』付近の空間では半人半鳥(ハーピィ)を始めとした鳥型のモンスターが鳴きながら空中遊泳していた。幸いこちらにはまだ気づいていないようだが―――。

 

「オイ、こんなダラダラ行かなくても俺達は直接行けるだろうが」

 

「は?」

 

「あ、それもそうだよな」

 

「え?」

 

幾人か右側を見て下を見下ろし始める。何をしようとするのか理解に追いつけないでいるシノン達の目の前で・・・・・崖から飛び降りて、『空中に浮かんで飛び始めた』。

 

「か、かっちゃん!切島君!」

 

「緑谷ーお前も来いよー!すげード迫力の滝を間近でみれんぞー!」

 

そんなことしている場合じゃないよ!?と瞠目するワカメ頭にそばかすの少年の前後にいた少年少女達も二人に続けとばかり崖から飛び降りて空中遊泳をし始めた。必然的にシノン達は愕然と目を見張って開いた口が塞がらないでいる。

 

「ど、どうなってるのあなた達・・・・・」

 

「えっと、僕達の世界のイッセー君に空を飛ぶ訓練をしてくれたので」

 

「私達皆、空を飛ぶことができるようになっています」

 

「異世界のヒーローだからできるってわけじゃないよな・・・・・?」

 

「イッセーさん曰く、人なら誰しも宿している気と言うエネルギーをコントロールできれば浮くことも飛べる事も出来るとおっしゃっていますわ」

 

少年少女達から告げられる人間の可能性。自分達も特訓次第では鳥型モンスターと空中で交戦している少年少女達のように飛べるようになると言外され「地上に戻ったらイッセーに尋ねよう」と思いを抱いたのは必然的だった。そして先に行ってしまった少年少女達の向かった先に辿り着くと金属系のモンスターに分類(カテゴライズ)される『ブルークラブ』と遭遇(エンカウント)―――。

 

「ちょっ!?蟹なのに前に進んで来てるっー!」

 

「しかも硬ぁっ!」

 

「本当に蟹なんこれ?」

 

皆、一番衝撃を受けるのは一緒なのだと当時の自分と被せて心の中で何度も頷いたシノン達の気持ちを知る由もなく、異世界特有の摩訶不思議な能力で蟹型モンスターを料理してみせる。ヒーロー達の本領発揮を見せ付けられ、キリト達の出る幕は殆んど無かった。特に右半身は氷結、左半身は炎を繰り出す少年が凄まじい戦闘力を発揮した。地面を氷結させて『ブルークラブ』の動きを封じてから問題なく倒した。

 

「はぁー、やっぱお前等はすげぇーな。俺達の方が先輩なのに強さ的にはお前等が上だぜ」

 

「そう言われると照れるぜクライン先輩」

 

「だからと言って調子に乗らないこと。一瞬の油断だって命取りになるんだから。それと勝手な行動はしないでくれる?そう言うのは一番困るし皆に迷惑が掛るの。あなた達の一つの行動で私達が死ぬかもしれないんだからね。わかった?」

 

「・・・チッ」

 

「す、すいません・・・・・」

 

褒められる一方、身勝手な行動をした者には厳しく諭される。ダンジョンの中では何が起きようと不思議ではない。どこか傲慢なところがある少年少女達を強く律してないと大変な事が起きてしまうことを、三千万の借金を科せられたことで思い知らされているシノンは、鋭い目付きに冷たさを孕んで注意する。

 

「んじゃ、目的の階層まで辿り着いたんだ。こっから少数のパーティを複数分けて探索しようぜ。オールマイト、相沢、ブラドキング、いつもの感じでいいか?」

 

「OKだよ」

 

「ああ、そうしてくれるとこちらも目が届きやすい」

 

「さ、お前達。いつものパーティに組んで探索を始めるぞ」

 

褐色肌のスキンヘッドの男性『エギル』という人物の促しにオールマイト達は生徒を指示―――。

 

「―――――」

 

大地の地震。いや、ダンジョンが起こす『揺れ』にシノン達は、一様に動きを止める。彼等彼女等の聴覚は、それを聞き逃さなかった。

 

「えっ、なにこの音・・・・・!」

 

「まさか、もうそんな『時期』だったのかよ!?」

 

「『時期』とはなんだい?」

 

「27階層のボスモンスターが、産まれる時期だ!」

 

【アルテミス・ファミリア】が焦燥に駆られている間にも、『その存在』を産み落とす。

 

「まずい・・・・・!」

 

シノン達は覚えがあった。『巨大過ぎる何か』が産まれ落ちる、その前触れに。階層が揺らぐ震動と、その巨大な亀裂が走る音に。

 

「皆、テレポートで撤退!急ぎなさい!」

 

眼鏡を掛けた少女が叫んだ次の瞬間、27階層の『巨蒼の滝(グレート・フォール)』が爆発した。凄まじい水飛沫が25階層まで跳ね上がりすぐに猛烈な降雨となって大空洞をそそぐ。最下層の大瀑布を突き破って現れた『それ』は、地下の雨を浴び、発生した白い煙に包まれながら、ゆっくりと滝壺の底へ潜水した。間を置かず、驀進。凄まじい勢いで流れる大量の爆水、数百Mにも及ぶ『巨蒼の滝(グレート・フォール)』をまさに滝登りの如く、逆行する。

 

「―――――」

 

27階層から26階層、そしてこの25階層に迫りくる不気味な巨影を見下ろし、

 

「「離れろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」」

 

クラインとエギルの叫喚に、シノン達は滝口の断崖から一斉に退避した。直後、滝口が砕ける。発生した津波に誰もが呑み込まれながら、岸の奥へ流されていく。一人、また一人立ち上がり何度も咳き込みながら濡れた顔を上げると、視線の先にいたのは一匹の『竜』だった。二つの首を持つ、『双頭竜』。

 

「27階層、『迷宮の孤王(モンスターレックス)―――』

 

キリトの唖然とする呟きを、シノンが継いで、吐き捨てた

 

「―――――『アンフィス・バエナ』!」

 

25階層の滝壺、巨大な湖の中央で体をくねらせる階層主は、頭上を仰ぐ。

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!』

 

それは現在認識されている『階層主』の中でも唯一の例外。特定の地域(エリア)を守る『迷宮の孤王(モンスターレックス)』の規則(ルール)に反する、『移動型』の階層主。顔を驚愕に歪めながら武器を構え臨戦態勢の構えをとる仲間の中で、キリトの黒い瞳に黒い炎がチラついた。

 

「キリト、どうする!」

 

「・・・・・倒すだけだ」

 

「分かった、盾役は前衛に密集待機!遠距離攻撃が出来る奴は後方まで下がってろ!遊撃ができる奴は各自の判断に任せる!」

 

仲間が指示を下す言葉が耳に入っても通り過ぎていく。双頭の白竜に向けたままの視線が横に向いても、何時も自分の隣に立っていた亜麻色の髪の少女の姿はいない。代わりにいたのは・・・・・自分を慕う三人の少女達だ。

 

「・・・・・頑張ろう、お兄ちゃん」

 

「ここで死んじゃったらいけないんです」

 

「あの子と会えなくなるし、一言も謝れないからね」

 

励ましの言葉を送られ黒剣を握る手が増した。目の前で咆哮を連ねる白い双頭竜に意識を向け直し、真剣な眼差しで攻撃態勢に入る。

 

「ああ・・・・・分かってる」

 

【アルテミス・ファミリア】、初の『下層』の『迷宮の孤王(モンスターレックス)』討伐に挑む。

 

「皆、行くぞ」

 

「「「「「おうっ!」」」」」

 

27階層の階層主が出現した頃。更に十層分37階層でも冒険者達がLv.3相当のモンスターと戦っていた。下級冒険者が無謀にもミノタウロスと命懸けの戦いをするようなものだが、強くありたいと望む少女達が奥歯を噛み締め相手―――巨身もモンスター『バーバリアン』の天然武器(ネイチャーウェポン)を回避する。両手に装備された棍棒が地面に叩き付けた瞬間、切っ先を前に構えていたアリサのロングブレードの突きで直接魔石を破壊して灰に変えた。この階層ではいわゆる戦士系(ウォーリアー)のモンスターが多く出現する。猛牛(ミノタウロス)級の体格を誇る『バーバリアン』、19階層から現れる蜥蜴人(リザードマン)の上位種である『リザードマン・エリート』、黒曜石の体を持つ『オブシディアン・ソルジャー』・・・・・人の体と同じ構造を持った中型級以上のモンスターが、白兵戦の特化型(スペシャリスト)の顔触れが揃うこの階層は、アイズとアリサを徹底的に鍛える適した階層だと一誠が連れて来て二人に一対一の戦いをさせていた。余剰に現れたモンスターは瞬殺して邪魔をさせない。

 

「アリサ、もう一度だ」

 

『ハァッ!』

 

「!」

 

新たな相手役として確保され、アリサの前に蹴り飛ばされながらその大顎を開け、長い舌を打ち出してくる『バーバリアン』。ねじれ、上がった角を生やすモンスターの舌撃を長い大剣の腹で受け流し、打ち上がる悲鳴ごと斬り伏せる。その横ですかさずアイズは走り、ずんぐりとした黒石の塊である『オブシディアン・ソルジャー』を両断せんと斬り掛るが、彼のモンスターはあたかも魔除け石の如く『魔法』が効きにくい―――『魔法』を減退させるのでアイズの風の魔法の威力も減退してしまい今の彼女にとっては鬼門のようなものだ。それでも倒せれない相手ではない。意志の炎に燃える金の瞳の眦を吊り上げ円を描くように足を捌き、旋風のごとく、『オブシディアン・ソルジャー』を横一線に全力で斬り飛ばす。

 

「ほー、Lv.2だというのに格上のモンスターを倒し退けるとは。やはり武器の質が良いのだろうな」

 

「まだ子供なのに凄い・・・・・」

 

「いやいや、アスナも子供の分類(カテゴリ)にはいるだろ?今年で20歳になるだろうが」

 

二人の戦いぶりを見ていたのは一誠だけでなく椿やアスナも居り、採掘目的とアイズとアリサの強化で『下層』にキリト達がいることを知らず『深層』に来ていた。

 

「やっぱ、強くなるためには格上との命懸けの戦いが必要だな」

 

「それを実行するイッセーは鬼じゃないかな」

 

「俺も何度も格上の相手と戦わされたことがあるぞ?『神の恩恵(ファルナ)』無しでな。ドラゴンの体を以ってしても最初から強くなかったんだから、アイズ達はまだ恵まれている方だ」

 

一誠の修行生活の一端を聞かされると何とも言えなくなるアスナは、疲労困憊で全身で息をする二人の幼女を見つめた。少なくない量の灰がアイズ達を囲むように溜まっていて数多くの格上のモンスターを倒したことを意味付けさせている。同時に小さな体には無数の打撲痕や切り傷があって頭から血を流している。

 

「・・・・・これで、二人とも強くなったかな?」

 

「確実に強くなってるはずだ。早速帰って落ち着いたらロキのところに戻ろう」

 

戦利品の回収は忘れず、『幽玄の白天城』へ転移魔方陣で帰還した後―――。

 

「アイズたん、アリサたんLv.3キタァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」

 

無乳神の二人の【ランクアップ】の報による歓喜の雄叫びが城中に響いたのは言うまでもない。他にもその日、【ランクアップ】を果たした冒険者が器を昇華させて前の自分の殻を破った。

 

「ん、やっぱりな」

 

「イッセーのスパルタの強化特訓で【ランクアップ】しちゃうんだね」

 

「それに加えて俺とアイズ達のレアスキルも加算しているんだ」

 

リビングキッチンでアスナと夕食用に豚肉の生姜焼きを作っている中で聞こえたロキの叫喚。今頃部屋の中で狂喜乱舞しているだろうと他人事のように調理を進めていく時、黒髪に黒眼の猫人(キャットピープル)が、アナキティ・オータムが興味津々で豚肉に掛けて焼いた際に生じるタレの匂いに釣られた風に近づいては、「美味しそうな匂いね」と零した。

 

「今日は生姜焼きってやつね?でもこれ、どうやって作ってる調味料なの?」

 

「生姜って極東にある野菜をすりおろしたら醤油や砂糖、みりんと酒を合わせてよく掻き混ぜればできるぞ」

 

「みりん?聞いたことが無い調味料だけどそれも極東にあるの?」

 

「ん、あるぞ。それとこれがみりんという調味料」

 

彼女の目の前に置く瓶の中に満たされてる透明度が薄い黄色の液体。それを興味本位で手にして蓋を開けて匂いを嗅ぐ、手の甲に一滴だけ垂らして舐めてみればあら不思議、上品でまろやかな甘みがアナキティの舌に広がってすぐに消えた。

 

「意外と、甘いのね・・・・・」

 

「だからって直で飲むなよ?体に毒だからな過剰摂取は」

 

「そうなの。う~ん、料理も調味料も奥深い。それを知りつくしているあなたは美味しい料理が作れるのね」

 

「全部知っているわけじゃない。骨を齧った程度だ」

 

「それだけで一人で何でも作れるイッセーは凄いと思うよ?」

 

横からも称賛の声を送られて「そうか」とそっけなく相槌を打った。二人の調理をする姿に若干前のめりの姿勢で見つめ、黒い尻尾を緩慢的に揺らすアナキティ。焼いた豚肉を千切りにしたキャベツやポテトサラダが盛り付けされてる皿の上に乗せる。それでようやく三、四人前ができるのだが何時も思っている考えを吐露した。

 

「コンロ、やっぱり増やすべきだな」

 

「え、店みたいにするの?」

 

「食べる相手が多ければ多いほど、どうしても時間が掛るからな。だからコンロを増やす、もしくは巨大なフライパンで一気に焼くとか必要になる」

 

「結局、通常の数倍は欲しいってことなんだね」

 

「なんだか、ゴメンね?」

 

自分達の存在で一誠に負担を掛けているのだと改めて認識する。彼女の申し訳ないと籠った謝罪に首を横に振る。

 

「気にするな。団長や副団長の意見は尤もだからな。心に傷を負った女をできるだけ癒して欲しいと頼まれちゃ断れんよ。俺が出来るのは敵を倒す力を振るうか、こうしてお前等に美味い飯を振る舞うかだ」

 

ズイとでき上がった豚肉の生姜焼き乗せた皿をアナキティに突き付けた。

 

「身体の傷を癒せても傷ついた女の心までは癒せれない俺はまだまだ未熟者さ」

 

「そんなことないわよ。皆、この城に住んでから笑っているわ。こうして美味しい料理も食べて幸せも感じてる。あの時、本気で怒って助けに来てくれたあなたには本当に感謝してるの」

 

皿を受け取りながら当時のことを思いだしながら感謝の念を向ける。

 

「あなたは―――イッセーは私達【ロキ・ファミリア】の恩人だということを忘れないで頂戴ね」

 

二枚目の皿も受け取って踵を返す猫人(キャットピープル)の後ろ姿を見ず追加を作り始める一誠に「よかったね」とアスナの微笑みが向けられる。

 

「誰かに感謝されるのはいい事だと思うな」

 

「どうだかな、俺の正体を知っても変わらず接するか怪しいぜ」

 

「多分、分かってくれると思うよ。異世界から来た私達以外でも君のことを受け入れてくれる神様や他の人達がいるんだし」

 

何を根拠に―――と思いが過ったが彼女の言葉を全否定することができない。事実、迷宮都市の二大派閥の主神と主力の団員達が自分の存在を認めて受け入れてくれた。故に自分がここにいられるのは、彼等彼女等と友好的に交流を続けているからだと自覚している。アスナの言うとおりになれば他にも自分と交流している【ファミリア】の主神と眷族もそうなる可能性がある。しかし、全員が全員じゃないだろうと自嘲的な笑みを心の中でして腕を動かそうとした時、腕輪に受信の合図の点滅が前触れもなく生じた。通信を入れてきた相手と通話する姿勢で腕輪に触れると、宝玉から浮かぶ立体的映像に初老の男性が困り果てた表情をしたまま喋り出す。

 

『お久しぶりでございます。あなた様の話はこちらからでも度々耳にしてますよ』

 

「初めて通話してきたかと思えば世間話をしにきたんじゃないだろ?その困り果てた顔、何か遭ったな?」

 

『ええ、お察しの通りです。商人が冒険者に依頼を発注するのは常識でしょうが、今回頼まれたい事は少々厄介でしてな。私の眷族と知り合いの神がとある場所で捕まってしまい、助け出そうにも手が出せれないのですよ』

 

「成程。言いたい事は分かったけれど、その場所はどこなんだ?」

 

闘国(テルスキュラ)、というアマゾネスのみしかいないオラリオからずっと離れた南東にある、半島の国です』

 

初老の男性こと男神は世界各地の情勢を調べるべく眷族達に色んな場所へ派遣させている。危険極まりない場所や国々、秘境の地なども含まれていて今回・・・男神の眷族はテルスキュラを調べていたところ、アマゾネスに捕まる直前に報を入れてきたのだと。

 

「・・・・・テルスキュラか。確か、世界の情勢を綴ってくれた本にもそんな国のこと書いてあったな」

 

『ええ、そうです。本来ならば私達が助けに行くのが筋なのですが、戦闘ができる眷族が全員で払っており、彼の地まで向かうとしてもかなりの時間が掛ってしまいます。申し訳ないとございますが、オラリオの冒険者を冒険者依頼(クエスト)で依頼し、どうかあなた様の千差万別の魔道具(マジックアイテム)を駆使して助けていただけてくれないでしょうか?報酬は勿論なんでもご用意させてもらいますので』

 

直接頼まれては事我切れない自分の性分に溜息を内心で零し、初老の神に聞きだす。

 

「因みに捕まった輩と神の特徴は?」

 

『眷族の方は知り合いの神に訊ねれば判りますが、その神は―――ヘルメスです』

 

意外な男神の名が出て、半ば唖然とする一誠。何で、そんな所にお前までいるのかと耳を疑った。この事、アスフィ等は知っているのか気になるのは必然的であった。それよりも本当に捕まっているのならばただ事でもなく他人事にもなれない話だ。

 

「・・・・・分かった。助けに行ってやるよ」

 

『感謝します。ではまた通信を入れる時は眷族とヘルメスが助けられている頃だと祈っております』

 

映像と通信は男神から切られてしまい、調理する手を止めてるアスナは何とも言えない表情を浮かべる一誠に目を向ける。

 

「どうしたら神まで捕まるなんて事が起きるんだ」

 

「イッセー、本当に助けに行くの?」

 

「行くしかないだろ。主神無くして【ファミリア】は存在し続けれないからな。当然、俺一人で行く。丁度したい事があったから都合がいい」

 

それは何?と視線で訴えるアスナの横で分身体を一人分作る。自分の代わりに夕食を作ってもらう一誠は答えずどこかへと向かおうと足を動かす。その姿に居ても経ってもいられなくなった少女は・・・・・。

 

「えっと、あの、頼んでもいい?」

 

「オリジナルだけでも十分だと思うが・・・・・ま、好きにすればいいさ」

 

「ありがとう」

 

身に付けていたエプロンを外して分身体の一誠に手渡し、後を追うアスナを視界に入れ「愛されてるなぁ」と感想を呟いた声は静かに虚空に消えた。

 

「一体どうするんだよアスフィ~」

 

ヒューマン、亜人(デミ・ヒューマン)達と擦れ違いながら歩く大通り。蒼い空の下で当惑の色を表情に浮かべる犬人(シアンスロープ)の少女が、疲労以外にも苦悩の色を碧眼の瞳から窺える少女の名を呼んで情けない声音で訊ねるも、アスフィもどうすればいいのかこっちが聞きたいと捕まっている主神に対して酷く困っていた。事の原因は無論彼女の腕輪にヘルメスが通信を入れてきたことだ。

 

『―――ごめんアスフィ。テルスキュラのアマゾネスに捕まっちゃった。助けに来てくれないかな?』

 

【ヘルメス・ファミリア】の団長を間抜け面させた、苦笑いしながら助けを乞うた主神。一拍遅れて事の重大さに絶句した記憶はまだ新しい。オラリオからずっと離れた島国に行くにしても時間が掛る。魔法の絨毯で良ければ辿り着く時間は短縮されるだろうが、その魔法の絨毯はヘルメスが愛用してテルスキュラのところにある。仮にアマゾネスだけの国に辿り着けたとしても簡単に主神を取り戻せるか分からない。どんな理由でいつも飄々としている男神を捕まえたのか定かですらない。本当にどこまでも困らせてくれる神だと額に手を添えて深い溜息を吐いた。

 

「・・・・・かくなる上は、もう一度あの魔法の絨毯を製作してもらう他ないでしょう」

 

「でもよ。あれって結構時間が掛るんじゃないのか?」

 

「では、他に方法があるのですか。あるのであれば今直ぐ言って下さい」

 

返す答えが無い犬人(シアンスロープ)は呻き、尾をシュンと落ち込んだ風に垂らした。現状、主神の奪還に必要な策は皆無に等しい。共にテルスキュラへ赴き手伝ってくれる上級以上の冒険者などこのオラリオにどれだけいるか・・・・・。

 

「(イッセーは・・・・・いえ、駄目です。Lv.以前に彼に迷惑を掛けてはいけません)」

 

常識はずれな魔道具(マジックアイテム)を製作する男の顔を浮かべたのは一瞬で、上級冒険者の自分とテルスキュラへ赴く資格は足りない。何より店を構えているからにはおいそれと休業にしては収入が得られなくなる。そして交流あっても他派閥の主神を助ける義理なんてある筈が無い―――。不意に犬人(シアンスロープ)が立ち止まり、それに気づくまで数歩先まで進んだ頃。怪訝で振り返って彼女の顔を視界に入れた。何故か信じられないものを見る目とあんぐりと開いた口が塞がらない顔をして上を、空を見上げていた。空に何があるとアスフィも両の瞳を蒼空に向けた瞬間に、巨大な船がオラリオの上空に浮かんで無数の光を放ち翼を広げ、東南の方角へ進路を向けて飛んで行く様子と光景が視界に飛び込んできた。空飛ぶ船は下部の方が変わりない船であるが、上部の方は船を浮かせる役割を担っているドラゴンを模した何かだ。あんな巨大な船―――魔道具(マジックアイテム)なのかも分からないが、アレを作り出せそうな者はこのオラリオできっとただ一人かもしれない。

 

「(まさか・・・・・いえ、しかし・・・・・!)」

 

居ても立ってもいられなくなったアスフィは犬人(シアンスロープ)の少女を置き去りに、足に翼を生やして空を駆ける船へ飛翔する。巨大な船の横を通り過ぎながら甲板に辿り着いた時はオラリオからだいぶ離れた頃であった。通常の船とは造りが違うのを確かめながら周囲を見渡すその目に。

 

「ネギは背負ってないけどカモが来たか」

 

「―――っ!」

 

「丁度いい。一緒にテルスキュラに行こうかアスフィ」

 

甲板に佇む見慣れたこの船の舵を手動で行っている男が朗らかにアスフィを誘った。

空を大海原のように移動する船の甲板の上で一人のんびりと操舵しながら心地の良い風を受ける一誠に近づき、疑問をぶつけずにはいられないアスフィの口が開く。

 

「これはどういうことなのですか。この船は一体、あなたは何故テルスキュラのことを」

 

「こっちも知り合いの主神の眷族がアマゾネス達に捕まってるから助けて欲しいって依頼を受けたつもりが、まさかヘルメスまで捕まっているなんて思いもしなかった。どちらにしろ二人を助けなきゃいけなくなったわけでこうしてこの騎空艇で迎えに行こうとしている最中なのさ」

 

「騎空艇?魔道具(マジックアイテム)の類の物ですか」

 

「ンー、何て言えばいいんだかな。この船を動かしている源は主に鉄と金属で造られた機械っていう代物なんだ。まぁ、他にもダンジョンで手に入る怪物の宝(ドロップアイテム)も使っているが基本的に木材と鉄だけで造った」

 

船は分かる。造船の技術は存在しているし、オラリオや他の国に行き来する為、海を跨いで航海しなければならない必要不可欠な船なのだ。しかし、海には水棲のモンスター達が海中を我が物顔で棲息し、時々ヒューマンや亜人(デミ・ヒューマン)を載せる船に襲いかかることもある危険性を伴う。だが、空を飛ぶ船を木材や鉄だけで設計図も無しに創れと言われたら、造船の技術者達はどう思うのか想像に難しくない。

 

「(一体何時の間に・・・・・)」

 

「そんな訳で今回、初の試運転を試みている最中だ。今のところ順調のようだがな。そろそろ次の段階にいってみるか」

 

何を?と思った矢先に一誠の手は操舵する場所にいくつものの箱に突き刺さっている鉄の棒の一本、それを掴んで押し上げた途端。推進力の役割を担う風車のような二つの羽の他にもう一つ、木製ではなく鉄で作られた羽が回り始めてから徐々に速度が増して、風を受ける影響も強まった。風で航海する船が出す速度ではない事を水色(アクアブルー)の髪と純白のマントを乱しながら感じるアスフィは楽しそうに笑う一誠の声を耳に拾う。改めて船から眼下を見下ろすと、青い海面からかなり高い位置で駆けているどころか雲の上まで飛んで行こうとしているのが察した。雲の上―――一体どんな光景なのだろうか?人類に翼が生えていたら自由気ままに空を飛んでいただろう。

 

闘国(テルスキュラ)まで時間は掛るからしばらく空の航海を楽しもう」

 

「・・・・・はい」

 

何となくどうやって船を動かしているのか好奇心で操舵をしている一誠に近寄った。大きな操舵輪がある場所は甲板より一段高く短い階段を上る必要があった。強い風を受けながら振り飛ばされないよう気を付けそこの近づき男の背中を碧眼の視界に入れた。

 

「「・・・・・」」

 

「・・・・・」

 

片足に絶対に離れないと意思表示をこれでもかと両手両足、背中に得物を佩いている身体でしがみつく金髪金眼に銀髪青眼の少女がいた。自分は何かおかしなものを見ているのか、それとも疲れているのかと瞬きをしても変わらない現実がアスフィに突き付けた。少女達の方はアスフィに目を向けても意を介さず、ジッと足にしがみついたまま微動だにしないでいた。

 

「イッセー・・・・・」

 

「言いたい事はわかる。でも、何も聞かないでくれ」

 

「・・・・・」

 

意外と彼も苦労しているのか?もしや、自分だけと思っていた者が他にもいるのか?後方から風に混じって聞こえる足音を耳にしながら思ったアスフィの想像は的中した。

 

 

 

アマゾネスの聖地。陸の孤島、闘国(テルスキュラ)。その国に生まれ、生を受けたアマゾネスの殆どは生涯生き死ぬ。蠱毒の習慣によって。

 

一柱の女神が降臨する以前より殺し合いという名の『儀式』を続けてきた、女戦士の国。生を受けたアマゾネス達は皆、覚えているもっとも古い記憶は、背中を焼く熱さと、己のものとも片割れのものとも知らない泣き声だ。神の恩恵(ファルナ)。生まれた瞬間より、幼いアマゾネス達は女神の眷族の末席に加えられた。テルスキュラのアマゾネスは喋るよりも先に、怪物(ゴブリン)の殺し方を覚えると言う。『恩恵』によって最初から解放された潜在能力と、モンスターの子の前に放り出される最初の洗礼―――振い落しは、ようやく立てるようになった稚児であろうと戦士たらしめる。事実、幼いアマゾネス達が物心ついた時に握っていたものは、母親の手ではなく身の丈ほどもある刃物の柄だった。親の顔はしらない。声も聞いたことが無い。父親も然り。生まれたばかりの少女(アマゾネス)等は家族なんてものを知るよりもテルスキュラの風習が、テルスキュラでは『真の戦士』こそ尊ばれると、深く濃く頭や心に植えつけられる。

 

女戦士の聖地では強さこそが正義であり、心理であった。強者は称賛を受け、地位と名誉を手に入れる。反対に戦いの中で散る誉れさえ受けられず敗北した弱者は、国と強者を支える労働力と化す。値を伴う闘争は『真の戦士』に到るための手段であり、階段であり、古来国の慣習だった。まさにテルスキュラはアマゾネスの本能が具現化した国であった。そして『古代』から神時代に移った後、国に現れた女神も闘争を愛していた。女神の『恩恵』が、進化していく能力が、戦いをより激化させていく。強さをもたらす彼女は唯一無二の主神として崇められ、止める存在も無く闘争と殺戮の儀式は隆盛を極めていた。

 

そんな男子禁制の国にもしも男が近寄り、もしも捕まれば奴隷か、種の繁栄の道具としてでなければ存在を許さない話が囁かれる。それを承知の上で近づく輩は肝が据わった豪胆な勇者か、タダの馬鹿か。捕まれば最後、二度と闘国(テルスキュラ)から出る事は叶わない厄介極まりない国なのだった。

 

 

「して、ヘルメスよ。オラリオから強い猛者を連れてこさす件はどうなっておる」

 

「えーと、多分、俺の指示に従って準備をしているんじゃないかなー」

 

石造りの闘技場(アリーナ)の中の神座。長椅子(ソファー)に寝転がりながら一柱の女神が訊ねた。羽付きの鍔広帽子を被り橙黄色の髪の上から被り軽装の旅人服を着ている男神の髪と同色の瞳とその顔を視界に入れながら。相手の出で立ちは鮮血のごとく赤い髪、アマゾネス達、眷族達と同じ褐色の肌。その背丈はいたいけな少女そのものだが、もした骸骨を繋ぎ合せた首飾りと、牙を生やす仮面、更にその奥から覗く眼光が異質さと威光を放っている。その側には、神座の空間で男神(ヘルメス)を取り囲むように立ち並ぶ多くの女戦士(アマゾネス)が立っていた。至って居心地の悪さに極まる状況の中で乾いた作り笑いをして返答した。

 

「それとオレと一緒に来た子供に危害を加えてないよね?」

 

「お主を天界に送還するなぞ造作もないがお主の眷族、もしくはオラリオの強者をこの国に連れてくる約束を解放の条件を持ちかけてきたのじゃ。この国しか知らぬ妾達にとって外の世界から来る強者は格好の獲物。ならば危害を加えては折角の機会が台無しになる故、お主の要望は確と守っておるから安心せよ」

 

「ああ、感謝するよカーリー」

 

安堵で胸を撫で下ろしたい気分のヘルメスはホッと息を吐いた。

 

「しかし、妾を満足させてくれぬ子供であったらお主の連れの子供は解放せぬし、お主も開放をしない。神の種を受けた子供が生む子はどんな成長を遂げ、強くなるのか一興であるからな」

 

「ア、アハハハ・・・・・・(アスフィ、オレはお前を信じてるからね!)」

 

種の繁栄の道具として一生囚われの身と成りかねないぞ、とカーリーからの宣告に冷や汗を流さずにはいられなかった。眷族達の働きに縋る他ないヘルメスはお暇しようと立ち上がった。ここにいるその時まで待つより石造りの牢屋にいた方が何倍もマシな気分になるからだ。牢獄に戻る動きを示す男神に周囲のアマゾネス達の内の二人が動き、両脇に移動して連れて行こうとする。それを紅の瞳の視界に入れながら見届けながら擦れ違うように神座にやってきたアマゾネスが報告をした。

 

「カーリー様。この国に近づく船が見えました」

 

「ほう。その船はヘルメスが呼んだ者であるか?」

 

「わかりません。ですが、その船・・・信じられない事に空を飛んでこちらに近づいています」

 

「は?」

 

船が空を飛んでいる?ふざけているのか冗談を言っているのか―――否、神の前で嘘を吐いていないアマゾネスはその目で見た事をそのままカーリーに告げている。真であると分かるや否やカーリーは眷族を率いて外を眺めれる場所へ赴いた。そして、その紅の目で現実を収めた。海ではなく空を航空している飛行中の船が真っ直ぐ陸の孤島に向かって来ている姿を。主神と同様、アマゾネス達も瞠目して信じられない物を見る目で目に焼き付ける。自分達の真上を通り過ぎ、広い場所へ止めようとする彼の船を目で追い、アマゾネス達自身も船を追いかけに行く。

 

 

「へぇー、ここがテルスキュラか」

 

船橋も桟橋もない地上に着地して船から長大の足場を掛けて、降りる己らを取り囲むアマゾネスだらけの女戦士達を目の当たりにしながら興味深々で見渡す。新天地に踏み込み、突き抜けた戦力を保有する国の先住民達と接触した瞬間の喜びを浸る暇もなく、構えられ突き付けられる得物の多さに落胆の雰囲気を醸し出す。

 

「アスフィ、全然歓迎されてないぞ」

 

「されないのは当然です。ここはある意味国家系【ファミリア】なのですから、不法侵入を果たした私達に歓迎する筈が無いです」

 

尤もな意見を述べ、警戒を払いながら船から降り立つ。一誠、アスフィ、アイズ。他にアスナやフレイヤ、オッタルまで陸の孤島テルスキュラの地に立つ。

 

「なら穏便に―――フレイヤ、頼んだ」

 

「もう、私を利用したら高くつくわよ?」

 

「今回の元凶のヘルメスに払わせてもらうとするよ」

 

事実であるからしょうがないと溜息を吐くアスフィ。一誠の頼みに応じるオラリオの美の女神フレイヤは一歩前に出てアマゾネス達に銀の双眸を向けた瞬間、戦うことしか知らない闘国(テルスキュラ)のアマゾネス達は骨の髄まで見惚れてしまった。言葉でしか知らない『傾国の美女』がいたとしても、この女神の前では霞むどころか足元に跪いて絶対の忠誠を誓ってしまう事を本能で理解してしまう。同性にも拘らず魂の抜け殻のように口を空け、頬を染め、忘我の境に入る。

 

「あなた達の主神に会わせてちょうだい?」

 

「っ!!」

 

アマゾネス達の間で騒ぎが波打ち、この国の言語か、一誠達が聞いても何を言っているのか一言も理解できなかった。フレイヤは「どうする?」と意味を籠めた視線を一誠に向け乞うと、闘技場(アリーナ)に行きたいと指す意思表示をしてみろと返答された。もう一度女神は言葉でなく行動で頼むとアマゾネス達はその意味を察し、一行を望む場所へと囲いながら案内をし始めたのだった。

 

「・・・・・あの神フレイヤにお願いさせるなんて異常です」

 

「でも、問題起こさずヘルメスと会えるかもしれないぞ」

 

「それはそうですが・・・・・」

 

美の女神を動かすことはどれだけ凄いのか認知していないのか、と一誠に対して少し畏怖の念を抱いた少女は主神が捕らわれているだろう晴天の下で鎮座する闘技場(アリーナ)へ目を向け、救出の意を強める。

 

 

カーリーの神座に案内された一誠達は無事に闘国(テルスキュラ)を統治する主神と面会を臨めた。特に捕縛される事もなく石造りの床に敷かれた赤いカーペットに銘々の姿勢で待って数分後。一つしかない出入り口から待ち人ならぬ待ち女神がやってきた。隣を通り過ぎ、眼前の長椅子(カーペット)へ足を運びそこに小振りな臀部を下ろすだけ飽き足らず小柄な体を横たわらせた。そして一誠達を品定めする目付きで見回した。

 

「そこの女神とはお初にお目にかかる・・・妾はこの闘国(テルスキュラ)の主神カーリーなのじゃ。お主の名は何と申す」

 

「フレイヤよ」

 

美の女神の名を聞いた途端に目の色を変え、姿勢を正しく戻して興味深々で一誠達を見る。ヘルメスを餌にして釣ったものは、世界最強と名高いオラリオ、その頂点に君臨する【フレイヤ・ファミリア】。その主神と眷族達が餌に掛ったのであれば申し分ないどころか、これから行わせる行いに心躍らせてくれる名実ともに高い相手だ。この場に噂で聞くオラリオで唯一のLv.7の冒険者や同じ派閥の眷族達であると高を括って子供のようにはしゃいだ。

 

「おお、彼の女神と眷族がこの辺境の地に来るとは思いもしなかった。てっきりあの男神の眷族達か協力を望んだ猛者の子供達かと思っておったわ」

 

「私の眷族にお願いされちゃってね。可愛い子供のお願いを聞くのが女神として当然のことよ」

 

仮、だけどな。と心の中で呟く一誠の心情は誰も聞こえなかった。

 

「それで、この国にいる男神と一緒に捕まった子供を解放してもらいたいのだけれど」

 

「ああ、妾を満足させてくれる相手が来てくれたからには約束を果たさんとな」

 

満足させる?一体何の事か分からないアスフィ以外の一行は不思議そうに小首を傾げる想いを抱いた。今さらアスフィに問いだたしても遅い上にカーリーの意を反すればヘルメスと男神の眷族は解放してくれなくなる。下手な言動はせず自然な流れで問うた。

 

「ヘルメスとどんな条件を交わしたんだ?」

 

「なんじゃ、何も聞かされておらんのか。ならば妾から教えておこうかの。あの二人を解放する代わりに条件を突き付けた。それは妾の眷族と闘争をしてもらう為じゃ」

 

闘争に飢えたカーリーやアマゾネス達にとって、オラリオの神の一柱を捕らえた事は格好の生贄に等しい。ヘルメスを餌に呼び寄せたオラリオの冒険者をカーリーの眷族達と戦わせ、負かせ続ければ労働力の奴隷か種の繁栄のための道具として利用ができるし、勝ったとしても満足できる戦いを見られるならば女神(カーリー)はそれで十分なのだ。

 

「相手は?」

 

「四人じゃ。そちらも何人でも構わんぞ。妾達に満足させる闘争を見せてくれればヘルメス達を返そう。ただし、負ければ解放はせんしお主らもこの国に捕らわれてもらう」

 

「そう・・・・・なら、こっちは一人で十分ね」

 

流し眼で隣にいる真紅の髪の男を一瞥してカーリーに対してフレイヤは微笑する。

 

「カーリー、きっとあなたを満足させる闘争が見られるわ」

 

「ほう、それは良きはからえじゃ。では早速、闘争をしてもらおうか」

 

顔に笑みを刻んで待ち遠しいそうに長椅子(ソファー)から降りたって準備に取り掛かる闘争と血と殺戮を愛する女神カーリー。

 

 

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