ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか   作:ダーク・シリウス

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投稿した前話の内容を書き直し+書き足しました。


冒険譚12

「何で俺が戦わないといけないんだよ・・・・・名実ともに名高いオッタルで充分だろ」

 

闘技場の戦場(アリーナ)(ゲート)から己を戦わせるフレイヤに「本当に高くついた」と黄昏ていると、出てきた(ゲート)と対なる(ゲート)から四人の女戦士(アマゾネス)が現れた。砂色とクリーム色の髪を揺らしながら、アマゾネスらしく揃って露出度が激しい独特の衣装を身に纏い、手には曲刀を握っている。

 

「・・・・・」

 

「「「・・・・・」」」

 

相手はたったの一人。しかもヒューマン。銀色の髪のアマゾネスの一人が同胞にこの国特有の言語で喋り掛けながら歩み寄ってくる。理解できなくても「私が相手をするから手を出すな」的なものだろう。双眸から強い眼光を窺わせ、何時でも対応できるスキの無い動きで一誠のところまで近付いてきた。対して無防備で銀髪のアマゾネスが目と鼻の先まで見ていた一誠も歩み始め、双方が距離を限りなく縮めて肩と肩が軽く接触した瞬間だった。

 

それが闘争の合図だとばかりにアマゾネスの戦士が横凪ぎに鈍色の軌跡の斬撃を降るった。

 

「オッタル。あのアマゾネス達の強さはどのぐらいかしら」

 

闘技場の上から戦場(アリーナ)を見下ろすフレイヤ達。二人が引き寄せられる風に歩んでいる最中に銀の美の女神は武人の従者に、オッタルに訪ねた。答えられる数字や強さの表しの(ランク)を聞いたところで結果は見え透いているが、彼女にとって重要なのは魂の輝きと戦う姿が己の眼に適ったかどうかだ。

 

「Lv.5、第一級冒険者かとフレイヤ様」

 

「そう、オラリオの他に強い勢力を保有する国の名に恥じないわね。でも・・・・・」

 

アマゾネスが至近距離から一誠に斬撃を振るった瞬間をその銀の双眸で見守りながらクスッと微笑を溢した。

 

「驚くでしょうね。無名の子供が私の自慢の子供と同等以上の実力で戦うなんて、皆信じるのも難しい。でも、この戦いでカーリーは思いしる。今戦っているあの子はただの子供じゃなく、ましてやただの子供じゃないことを」

 

片腕のみでアマゾネスの斬撃を受け止めた一誠を見ながら、カーリーと同じく自分も闘争の行く末を見守りながら戦場(アリーナ)で巻き起こる光景を見下ろす。

 

「ッ!」

 

人の腕一本で、第一級冒険者並の一撃を受け止めたヒューマンに驚きを隠せない。肉体が鋼のような硬度を有していなければ、防具を装備してない体でどうやって受け止めることができようか。腕が駄目なら人体の急所はどうだと、狙いを定めて突き付けた湾曲刀は、突き出された掌手で粉砕された。砕け散る刃の破片が宙に舞う光景を見る間もなく一誠は動く。

 

「言葉が通じるか判らないけど、壊されたところをみて驚くのは止めておけ、スキができるぞ」

 

刃を受け止めた腕が掻き消えた一瞬を見たアマゾネス。思考が一瞬だけ停止し、体に次の命令信号を送り動かす前に意識をかる正拳突きを食らい、頬骨が砕ける感触を最後。三人のアマゾネスの横を通りすぎ戦場(アリーナ)の壁に激突、壊しながらぶっ飛んだ。

 

「・・・・・」

 

壁の穴の奥へ消えた同胞に目を向けるアマゾネス達。気に掛ける時間はあっという間でアマゾネスを殴り飛ばした男へ振り返る。そして、相手は自分達と同等かそれ以上の実力者であると認識を改め、今度は三人一斉に飛び掛かった。

 

「嵐脚」

 

爆発的な脚力で鎌風を起こし、飛ぶ斬撃が名も知らぬアマゾネス達へ襲いかかる。無詠唱の魔法の類かと見極めながら軽々と避けて、曲刀(シミター)で三方向から斬り掛った直前に一誠の姿は掻き消えて、脚力のみで宙を蹴り、何もない虚空を移動する。見た事のない技法にアイズ達は目を丸くせずにはいられなかった。一誠は宙から鎌風を起こす爆発的な脚力で足を振るった。上空からの攻撃では、浮遊力を取得していないアマゾネス達にとって避け続け、逃げ惑う他なかった。得物を投げ放っても宙を蹴って移動し軽々と避けられて当たらない。

 

今度はこっちの番だと拳を構え戦場(アリーナ)へ放たれた矢のごとく、真紅の長髪をなびかせて一切の躊躇もない落下してくる相手からかわすアマゾネス達だが、地面に突き刺さった拳を中心に亀裂が生じた直後に地面が激しく割れ、穿ち、小規模の地震も起こしてアマゾネスの戦士達を分断させた。

 

―――化け物かッ!

 

第一級の力を有しているとはいえ、ここまで激しく地面を抉るほどの力はない。相手のLv.は知らないが自分達と同等かそれ以上だと推測し、不安定な足場と化した地面に足へ力を籠めた時だった。崩壊した戦場(アリーナ)の下から―――地面の下から銀髪の女戦士の両の足首を両の手で掴んだ。

 

「ッ!?」

 

まさかの地中からの奇襲に目を見開く。そして、悲鳴を上げる暇もなく一気に地面へ引きずり込まれてしまった。

 

 

結わえた砂色の髪を腰まで伸ばしたアマゾネスは、半身の半長髪(セミロング)の同胞の女性の元へ合流し、爬虫類を彷彿させる粘りついた視線で警戒を払いながら獲物を探し続ける。瓦礫の山と化した戦場(アリーナ)は大小様々に地面が盛り上がったり抉れたりして、人一人が隠れる広さ(スペース)はたくさんある。互いが見れる距離で岩の上から探したり、微かな音すら聞き逃さないと耳を傾けつつ息を潜めている男の姿を探す。

 

静寂に包まれながら通り過ぎた女の背後。物音たたさず岩の表面から一誠が素足で出てきた。その左眼は獲物を狙う猛禽類の光を、狩猟の眼差しをしていて女戦士の背後から狙っているのが窺える。それから静かに手から光刃を伸ばし、攻撃を仕掛けようと構えた―――上から襲ってくる蹴り、こちらへ振り返りながら曲刀(シミター)を横薙ぎに振るってきた二人の女戦士の攻撃を片腕と光刃で防いだ。

 

一息の間を吐かさず腕で防いでいた足を掴み、目の前の女戦士へ叩きつけようと振るったが仲間意識は皆無なのか、かわして懐に飛びこんでくる。足を掴んでいた手を離して突き出す曲刀(シミター)を右肘と右膝で挟み、砕く芸当を見せた一誠に頭蓋を粉砕しそうな勢いの蹴りを放って、同時にもう一本の得物を振るってくる同時攻撃。空気を切り裂き、相手を襲わんとするその動きはまるで蛇のようだった。繰り出される足を最小限の動きでかわし、得物は突きだした拳で粉砕。すぐさま振り上げた足が死神の鎌を彷彿する勢いで攻撃した。

 

目を張る蹴り技に女戦士(アマゾネス)は片手で防ごうと顔の前に構えたその行動は無下にされた。勢いのあった蹴りが不意にぶつかる直前留められ、何時まで経っても襲ってこない。一拍の時間の空白が彼女に疑問を抱かせ―――彼の男を視界に入れた目が、眼前に見せつけられる手の平から光ったかと思えば、アマゾネスが極光の一撃に呑まれ、誰にも止められず止まらないまま闘技場の壁まで突貫したのであった。

 

「さて、残りは一人・・・・・」

 

外の景色が見えるほどの大穴が空いた闘技場を一瞥して、未だ戦闘可能な半長髪(セミロング)のアマゾネスへ目を向ける。黒い紗幕を口元に巻き、顔の下半分を隠している女戦士が紗幕に隠れた口で何かを呟いた時、右手が黒紫の光膜に覆われる。華々しい想像(イメージ)を持たれがちの『魔法』の心象を覆すほどに、その光の膜は粘度に富み、蠕動(ぜんどう)を繰り返し、禍々しかった。

 

「(うわー、あれ・・・闇っていうより毒だよなきっと)」

 

推測して毒や呪いに対して若干苦手意識をしてしまう。過去、そういった類のものに一誠は散々苦しめられたのだ。左眼を細め、飛び掛かってくる女に一誠も毒に警戒しながら飛びかかる。

 

フレイヤ達と対なる位置から闘争を見ているカーリーはアマゾネスの右手のみかわす男の動きに眷族の魔法は何なのか察したのだろうと、笑みを作った。最後の一人は厄介な魔法を保有している故、そう簡単には負かすことはできないと思っていた時。女戦士(アマゾネス)達の復活と復帰を視界に入れながらまだ終わらぬ闘争に胸を弾ませる。

 

 

再戦を臨む三人のアマゾネスが一斉に襲い掛かり激しい乱舞を繰り広げるようになった。八本の手足、十六の攻撃に応戦するのは乱打戦(ブルファイト)。休む間もなく両手と片足のみで戦いわたる一誠の姿にフレイヤ達は驚嘆を禁じ得ない。銀の双眸に映る魂の輝きは真紅色。それが戦い続けていると力強く輝きが最高潮に達しようとしていた。

 

「オオオオオオオオッ!!!」

 

名も知らぬアマゾネス達へ叫んだ。大気を震わせ、闘技場全体的に響き渡る大咆哮は観戦しているカーリー達やフレイヤ達の肌にビリビリと刺激を与えた。四人の女戦士(アマゾネス)も例外ではなく、鼓膜が破けそうな程の声量と人間として、生物的本能が激しく危険を訴えた。だが、『真の戦士』に成るために蠱毒の壺の中でモンスターや同胞を喰らい生き続けてきた自分達は誰であろうと臆して負けるわけにはいかない―――。

 

「ん、折れないか。流石だ。俺の店に働いてほしい人材だ」

 

何を言っている。共通語(コイネー)の言葉が通じないこの国のアマゾネスにとって理解し難く、理解しようとは思わないまま肉薄した。

 

「でも、そろそろまどろっこしくなったきたから・・・・・倒しに掛からせてもらう」

 

膨れ上がる威圧感。何か仕掛けて来るつもりだと本能で悟り、阻止しようと獣のように荒れた戦場(アリーナ)を駆ける。しかし、一歩遅く眩い閃光を全身から放つ一誠に思わず足を止めてあまりにもの光量に腕で目を守る風に翳して遮る。目眩まし―――と何も知らないカーリー達はフレイヤの考え通りになる。収まり始める光はやがて消失し、光に包まれていた一誠の姿が露になると【天使(テ・シーオ)】に変貌していた。

 

「「「「ッ!?」」」」

 

絶句するアマゾネス達。今まで拳や脚を交えていた相手の姿がヒューマンではなくなった。魔法の影響?それともあれが真の姿?当惑する彼女達の心境を露にも知らない神聖な姿の男は虚空に消え、虚空から四人の背後から現れ、一人を翼で包む感じで拘束、もう一人は斬り付け、残りの二人は殴り飛ばした。

 

「―――ッ」

 

カーリーも目を疑い、上半身を前のめりにして一誠の姿を食い入る風に凝視する。次にフレイヤの方へ紅の瞳を向けると、美の女神はこちらに視線を向けてくるのを分かっていたように闘争と血と殺戮を愛する女神を見据えていていた。そして、意味ありげに微笑した時。逆流する極太の極光の柱が二つの視線を遮り闘技場の上空へと衝く勢いで伸びていく―――。

 

 

程なくして闘争は終幕し、それぞれ合流しながら神座の間に戻った。それまではいいのだが。一誠の身の回りに異変が起きた。

 

「・・・・・フレイヤ、説明してくれ。どうしてこうなっているのかを。俺は一体何をしたというんだ」

 

「戦って勝ったからじゃないかしらね」

 

モテモテじゃない―――一誠を取り囲む恋する乙女こと四人のアマゾネスを見ながら、他人事のように言う美の女神に辟易する思いで「戦って負かしてコレってどういうことなんだよ」と溜息を吐いた。他人に大切な宝物を取られた子供のような悲しみと嫉妬の気持ちを抱くアイズとアリサに「イッセーって無自覚に女の人を・・・・・」と当惑や若干の嫉妬を覚えるアスナ。そして、目の前からも。

 

「・・・・・やってくれたなフレイヤの子供よ」

 

「完全に俺は不可抗力!戦わせたカーリーとフレイヤが悪い!」

 

食って掛かる一誠に親の仇を見る様な目でカーリーは盛大に唇を尖らせる。「彼奴等も(アマゾネス)であったか」とか「これでは使い物にならん」とか「恋する乙女とかもう・・・・・」とか「四人全員がこうなってしまった以上お互いがお互いに闘う理由がない・・・・・」とか「お先真っ暗じゃ」などとブツブツと死んだ魚のような目で独り言を呟く。

 

「頭領候補がこれでは闘国(テルスキュラ)はもう終わりかもしれん・・・・・あぁ妾の楽園が・・・・・」

 

「なに絶望しているのか知らないけれどよ。さっさとヘルメスと一緒に捕まっている他派閥の眷族を解放しろよ。それとも他のアマゾネス達とも戦ってやろうか」

 

「それだけは断じて認めん。認めたら最後、こ奴らのように全員使い物にならなくなるのじゃ」

 

危機を感じて二度目の闘争は避ける意思表示をしたところでこの場に入ってくる一人の男神と男。

 

「あれ、イッセー君とフレイヤ様?ここにいるってことはアスフィとオレを助けるために・・・・・」

 

「ヘルメスはついで。俺個人はそっちの男を依頼で助けに来た方だ」

 

「アハハ・・・・・ま、ついででも助けてくれたから感謝感激だよ。ここで一生暮らさなきゃいけなくなるところだったからね」

 

その不安は杞憂で終わったからか、ホッと安堵で胸を撫で下ろすヘルメスは当然のようにアスフィの傍により「迷惑を掛けないでください」「あだー!」とやりとりをして折檻を食らっている他所に、商神の眷族は一誠へ謝罪と感謝の言葉を言っていた。これで、取り返すものは取り返したことで一誠達はここに長居をする理由は無くなった。

 

「それじゃカーリー。私達は帰るわ」

 

「もう二度と来るな」

 

「あら、連れないわね。それなら、使い物にならなくなったっていうあなたの子供を私が貰っていいかしら?」

 

ヒクッとカーリーの頬が痙攣した。外の世界から獲物を呼び寄せるだけの餌が、よもや釣り人が乗る船ごと喰らう大魚を釣るとは誰が思うだろうか。女戦士達の方へ目を向ければ主神の事など構いなしに一人の男の体に身を寄せて雌の顔を浮かべていた。あれがこの闘国(テルスキュラ)に生まれた最凶で最狂の女戦士(アマゾネス)が浮かべる貌か、と目を疑う光景である。女神の視線に気づく一人のアマゾネスが徐に共通語(コイネー)ではない言語で口を開いた。

 

 

―――カーリー、この雄が欲しい。どうにかして手に入れられないか。

 

―――お主らがその男に負けた時点で妾に引き留める術はないのじゃ。

 

 

カーリー自身もアマゾネスの言語で語り、話しに応じると落胆した仕草をする女。すっかり恋する乙女にまでなり下がってしまった女戦士に己が望む闘争と血を見る事は叶うまいと悟らずにはいられない。・・・・・ならば。

 

「条件がある」

 

「なにかしら」

 

「妾の子供(ムスメ)の中にちと情けをくれてやって手放したアマゾネスがおる。もしもそやつらがお主らの前に現れたのであれば、頃合いを見て戦わせてほしい。そしてその結果を妾に教えてくれ」

 

二柱の女神の間で口約が交わされる。銀の瞳をカーリーから逸らして一誠の方へ向けると、アスフィと何やら真剣な面持ちで「翻訳できる魔道具(マジックアイテム)の製作を手伝ってくれないか?」とか「わかりました、協力しましょう」などと自分達の話を聞いてその気でいるのか、そうでなくても共通語(コイネー)で語らない種族が他にいる事を知って必要になると思っているのか話し合っていた。美の女神は視線をそのまま変えずカーリーに言う。

 

「それは私じゃなくてあの子に頼みなさい」

 

「む、何でじゃ。お主の子であろう」

 

「カーリー、私は一言もこの子の主神とは言ってないわよ?」

 

フレイヤの爆弾発言にカーリーの顔は盛大に間抜け面を晒した。

 

「・・・・・嘘じゃろ」

 

「背中、見てみる?」

 

指を鳴らし、オッタルを動かすフレイヤ。一誠に迫る巨影に「え、なに?」と不思議そうにしていたら、問答無用でオッタルに上着を剥ぎ取られ、カーリーに見せつけては驚かさせた美の女神だった。

 

 

その後、騎空艇に戻り全員が乗り込んだ事を確認しながら地上から浮き出す艇を見送る【カーリー・ファミリア】。改めてみてもどうやって巨大な物質を浮かしているのか理解に苦しむものの、目の前の現実を受け入れずにはいられない。

 

「イッセー君、イッセー君!この船、本当に浮いているよ!オレの【ファミリア】にも一隻欲しい!」

 

「バッ、何を言っているのですかヘルメス様っ!」

 

「値段は億越えだぞ。どんな小さいサイズでも。止めておけ。このぐらいのサイズだったら1000億だし」

 

「た、高過ぎるよイッセー君っ」

 

闘国(テルスキュラ)から遠ざかる船は空の彼方へと突き進み、商神の眷族を送る旅が始まった。その眷族は甲板から下を見て愕然の面持ちで目も見開いていた。これから送り届けに行く他派閥の主神もどんな表情で驚くのか楽しみだと思っていた時に腕輪の宝玉が点滅した。舵輪から片手だけ離して通信を繋げると、その初老の男神の顔が浮かび上がった。

 

『こんばんわ、私の眷族は助け出せましたか?』

 

「ああ、いまそっちに向かっているところだけど、合流する場所はどこにすればいい」

 

『でしたら、分かりやすくオラリオにでもしましょうか。我々は今、商いをするために交易所にいまして。空飛ぶ船のことで話が持ちきりですよ?』

 

「だろうな。んじゃ、直ぐにオラリオに戻るから待っててくれ」

 

『かしこまりました』

 

映像と共に通信が切られても行く先は世界の中心、地下迷宮都市オラリオであることは分かっている。舵を切る手に迷いはなく、大海原の上で自分達が帰る場所まで壮大な姿を見せつけて向かう騎空艇―――。

 

「あ、そう言えば名前付けてなかったな・・・・・」

 

赤い衣の巨大な艇―――頭の中で想像した異世界の竜を思い浮かべ、やはりこの名だろうと口元を緩めた。

 

「グレートレッド。今日からお前はグレートレッドだ」

 

 

 

「ねぇリュー。空飛ぶ船の事どう思う?」

 

すっかり暗くなったオラリオの街に満月が夜天を照らす中で赤髪が特徴の女冒険者から話しかけられたエルフの女冒険者は「どうとは」と返事をした。高い屋根の上から大空やオラリオの街並み、大通りを見下ろすために腰を下ろしていた二人も騎空艇の存在を知っていた。実際にこの目で空に浮いてどこかへと飛んで行った巨大船を見てしまったのだ。一体どこから急に現れたのか定かではないが実在している物に疑いの余地はない。

 

「多分、もしかしたらだけどあんな物作れそうなのってイッセーじゃないかなって」

 

「・・・・・」

 

「常識外れな精神と行動力ができる人間に限られる。【天使(テ・シーオ)】の姿になれるイッセーだったらもしかしてって思ってるんだぁ」

 

「そうですか」

 

当人が聞いていたら「事実だけどなんか失礼な言い方だな」と複雑な表情を浮かべさせる発言だったが、この場にリュー以外に誰もおらず思った事を言い続けられた。

 

「この間の戦争遊戯(ウォーゲーム)魔道具(マジックアイテム)だけで勝っちゃったし、空も飛んでたわ。―――あれも道具で飛べるなら欲しいわね」

 

「アリーゼ、それが本音では」

 

若干呆れツッコミを入れた。高い所と風が好きなアリーゼの気持ちを分からなくはないのだが、本当に彼の者は信用してもいいのか疑惑が胸中に生じる。空飛ぶ船を作った者の気持ちなど理解し難く、何の目的で作ったのかもわからない。あれからどこに行ってしまったのか今となっては探し様が無いのだが、また戻ってくるような事があれば正義と秩序を司る女神の眷族として取り調べをする必要がある。そう―――いま空の向こうから巨大な姿を晒す船を・・・・・。

 

「・・・・・戻ってきましたね」

 

「そうね」

 

目を瞬きし、幻ではないことを確認した後、顔を見合わせて頷き合いバッと立ち上がって風のように屋根から屋根へ、建物から建物へと飛び乗りながら移動し南部へ駆けだしていく【アストレア・ファミリア】の眷族達。

 

 

交易所にいる商人達が積み荷を巨影で覆う騎空艇の登場に騒然とする。一人残らず意識と視線を我が物顔で集める船底の横から空飛ぶ絨毯が数人を載せて地上に降下していき、「よっと」と一人の男が一人早く降り立った。

 

「えーと、おいどこにいるんだ?」

 

手を額に添えて誰かを探し求めている男の問いに、ここまで連れられた別の男も周囲を見渡し探し始めた。絨毯から降り立つ少女と男神に女神、獣人の武人の姿を一目見て商人達は察した心情を他所に複数の人の足が、彼の者達の所へ近づいた。

 

「お待ちしておりましたイッセー殿」

 

神威を感じさせる初老の男性が複数のヒューマンと亜人(デミ・ヒューマン)を引き連れて話しかけた。男神の登場に絨毯から男が降りて一誠にお辞儀をし、彼の男神の方へと合流を果たす。

 

「あの国からよくぞ助けてくれました。心からお礼を申し上げます」

 

「もう二度とあの国に近づけさせんなよな、まったく・・・・・」

 

「ええ、以後気を付けます。それでこの度の報酬ですが・・・・・」

 

「次の依頼を無償で請け負ってくれるだけで良い。もしくはそっちで任せるよ」

 

あっさりとそれだけで済ます相手を初老の主神はニコリと笑みを浮かべ、恭しく頭を垂らして受け入れた。

 

「どんな依頼でも完璧に応えてましょう。しかし、あの船・・・・・まさか私達より先に完成させるとは驚かされました」

 

「ふっふっふ・・・凄いだろ。で、そっちの方はどうなんだ」

 

「まだ時間は掛りますが、きっと完成させて二号として名乗り上げてみせますよ」

 

「その時は一緒に世界を飛び回ってみたいもんだな」

 

故に待っている、とほくそ笑む一誠に男神も首肯し、もう一度感謝の言葉を述べて商人の男神とその眷族達は野次馬の中へと進み消えていく姿を視線から外して魔法の絨毯に乗り込んだ矢先。「いたー!」と女の叫び声が交易所に響き、どこからともなく聞こえた声の主を探そうと見回す一堂の中で「あそこだ!」と商人は腕を伸ばして明後日の屋根の方から飛び降りてくる二人組の女冒険者を指さした。そして揃って一誠の前に降り立ち、口を開いた。

 

「ほらやっぱり、私の言った通りでしょ」

 

「ええ、そうですね」

 

「お前等・・・・・」

 

不思議そうになんでここに?と思ったら赤髪の女冒険者(アリーゼ)に肩を掴まれる。逃げたら許さないとばかりの握力が籠められていたのは当人達しか知らない。

 

「根掘り葉掘り、色々と詳しく聞かせてもらうからね」

 

「・・・・・」

 

「そして、私を載せて飛ばしなさい」

 

「それが本音だろ。絶対」

 

相棒のエルフは申し訳ないと静かに頭を垂らした。それから船を『幽玄の白天城』に収容。後に【アストレア・ファミリア】のホームの一室でアストレアも同伴の事情聴取―――腹が空いたので、この手の定番のカツ丼を作って皆で食べながらオラリオの外で何をしていたのか打ち明けた。

 

「ご馳走様。やっぱりあんたの作る料理は美味しいわねー」

 

「どういたしましてだけど、納得してくれたのかよ」

 

「主神様も交えていたからには納得しないわけにはいかないわ。でも、ギルドに手続きもしないで勝手に出たら駄目じゃない」

 

「状況が状況だからしょうがないだろ。そっちだって外でアストレアが捕まったら律儀に手続きをしてから助けに行くのか?」

 

それは・・・と言い辛そうに口籠るアリーゼから明確な返事はしてこなかった。そうしている間に主神が天界にでも送還されたら堪ったものではない。それはアストレアに限らずオラリオに永住する全ての神々にも当て嵌まる事態である。

 

「規律に反している事については反省しているけれど、後悔はしない。ギルドだってオラリオから神がいなくなるのは許容してないだろうし、全部が全部、規律に則ってから助けるんじゃあ遅い時だってあるしさ。やっぱり友人が困っているなら助けたいのが心情だ」

 

騎空艇についての事情聴取は無事に終え、ギルドには【アストレア・ファミリア】が説明するとのことで釈放された。ただし使用は極力控えるように厳重注意されたが本人は気にしなかった。

 

 

 

そこはギルド本部の真下に存在する。幾千年も人類から忘れ去られたような年月を感じさせる石造りで囲まれているその空間は、暗闇に四角を描く四炬の松明だけが四つの赤く燃える火に囲まれている祭壇の中心に存在する石の玉座―――神座に座る神物の姿も照らす。神物の眼下にはギルド員が着こなす黒スーツと同じ制服をを身に包めているが、長らく権力と地位を得てから豪遊や豪華な食事などしていた末に、肥満体になってしまった腹部にスーツが悲鳴を上げ今にでもはち切れそうに肥えた中年のエルフから報告を聞き終え、祈祷の間と彷彿するさせる空間を後にする姿を見送った。

 

「フェルズ」

 

重々しく発する声音に応じるは、影と同化していたかのように暗闇から現れる黒衣の人物。『祈祷の間』の前に近寄り神物に仮面で隠された顔を上げる。

 

「話は聞いた。【ガネーシャ・ファミリア】の眷族の道具(アイテム)は興味深いと思っていたが、今回は逸脱している」

 

グローブを嵌めた手を顎に添えて思案する仕草をした。

 

「空を飛ぶ船、騎空艇とやらを作った冒険者は独自の店も構えているそうだが、どうする」

 

黒衣の者から問いを受け、神物は一際弾ける松明の灯りに照らされる威厳に満ちた顔と蒼い瞳に一瞬たりとも色を変えず答えた。

 

「私の神意に関わらなければ、オスマン達に一存する」

 

「もし関わることになれば?」

 

「監視の目を放ち、その者の心意を見極める」

 

その言葉に呼応するかのようにバチッと松明が弾け火の粉が舞った。

 

 

 

闘国(テルスキュラ)からヘルメス達を救出してから丸三日が経った。アマゾネスの言語を共通語(コイネー)として会話を成立させる魔導具(マジックアイテム)を、『神秘』のスキルを保有している二人で試行錯誤、何度も失敗を繰り返して、オラリオにこっそりと拉致したカーリーの協力のもと、遂に翻訳の機能性が備わった冒険者用装飾品(アクセサリー)を完成させたのであった。

 

「ようやく完成しましたね」

 

「『神秘』持ちの俺達でも苦労したな。悪いなアスフィ」

 

「いえ、今回はイッセーに迷惑を掛けましたから何かお礼をしなくてはと思っていましたのでこれぐらいは」

 

協力させられたカーリーは既に国に戻されてこの場にはいない。二人が作り上げた翻訳機能がある装飾品(アクセサリー)は耳に掛ける小さな飾り物だ。女性の横顔を模したレリーフのように意匠と装飾が凝った金の耳飾りを一誠とアスフィは共同で完成させた魔導具(マジックアイテム)を見下ろし、やりきったとほくそ笑む。

 

「また二人で作りましょう」

 

「ん、そうしよう」

 

達成感を浸りながら作業部屋から出る二人を待ち構える―――南国の島にいる様な風景。白い砂浜に波打つ青い海、晴天の空から降り注ぐ熱い太陽の日差し。一誠とアスフィが今までいた作業部屋は私生活に必要な物が完備された白亜の宮殿のような城である。この風景とこの光景に目を疑う思いで一誠に問い掛けた。

 

「本当にここで過ごした時間と外の世界の時間の流れが違うんですか?」

 

「ああ、三日も過ごしたから外の世界は半日どころか一時間も経っちゃいない。たったの三分だし、どーしても時間が欲しい時は大抵この中で過ごしていることが多いんだ俺は」

 

「凄く好都合で便利な物ですね。私も時間が欲しい時もあります」

 

「なんならこの空間―――『自由で有意義な時間の空間(フリーダムタイム・バカンス・ルーム)』に来れる様に繋げておこうか?何時でも出入りができるようにここで一日過ごしたら外の世界は一分の時しか進んでいないように」

 

二人だけの秘密の作業部屋―――とまではいかないだろうが、主神の我儘に強引に付き合わされる日々を過ごして堪った鬱憤を晴らすのに誰の目も届かない場所はどうしても欲しい時はある。その好意に心から感謝をして頼んだ。

 

「しかし、ここはある意味今後の事を考えるとどこかの派閥の所有地となるのでは?」

 

「ないない。これは個人的に作り上げた物だし、誰が何を言おうと俺が作った物を他派閥の眷族と一緒に利用したところで問題にもならないさ。お互い合意の上でしたんだってな」

 

当然―――と人差し指を立てながら外の世界へ戻る魔方陣の元へ歩みながら付け加える。

 

「そう、合意の上であれば何だってしても問題ないのさ」

 

四本の足が光り輝く魔方陣の中に踏み込むと二人の体は光に包まれていき、一条の光と成って外へ転移をした。

 

一誠の寝室にある南国の島を閉じ込めたようなバスケットボール程の大きさのスノードームがある。それから光が迸ったかと思えば、二人の人間が飛び出してきて現れたのだった。アスフィはまず壁に掛けられている時計の針を確認し、本当に半日すら立っていない事実を認知し、一誠はこの場にいる四人のアマゾネスに・・・・・。

 

「あ、イッセー君!た、助けて!」

 

「このお姉さん達は何なんだ、マジで恐いんだけどよ!」

 

―――アマゾネスによって叩き伏せられ、戦慄している少年少女達に助けを乞われた。何で自分達が数分間いなくなっただけでこうなるのだろうか・・・・・。トラブルメイカーの天才か何かか?と呆れ果てて言葉も出ず溜息を吐かずにはいられなかった。背中まで結わえた砂色のアマゾネスがしなやかな細腕一本で軽々と峰田の首を片手で吊り上げて握り締めていたのだった。対して首を掴まれ、命すら鷲掴みされている上で宙を浮く足をもがくように揺らし、息を吸い込もうと喉を笛のように鳴らしている。皮膚に噛みつく指を必死に引き剥がそうとしていた姿はどこか滑稽で息を呑む光景である。「何してこうなったんだ」と吐息を零し、アマゾネスに手を離せと籠めて左眼を鋭く威圧と力強い眼力で睨みつける。

 

「・・・・・!」

 

爬虫類なんて生易しいものではない化け物の睨みにアマゾネスの身体が身震いした。小人族(パルゥム)のような体格の少年を掴む手を緩め放し、一誠に対する畏怖の念と己より強い雄の威厳を表されては、雌として従う他ない。他の三人のアマゾネス達も似たような反応をしていた。異性に対して向ける優しい眼差しではない。全てを蹂躙する力と相手の意を抑え込む暴力的な意思と強い光が孕んだ眼差しだ。それ以上事を大きくしたら許さないと一誠の気持ちが伝わった結果、その目を見ただけでアマゾネス達は惚れた弱みどころか、本能的に雄に従順な雌となって大人しくなった。

 

「それで、なんでここにいるんだお前達は?」

 

「え、あ、うん。お金を返しに来たんだ」

 

この城に招いた覚えも上がることを許した覚えもないヒーロー組の異邦人達の存在に深い疑問を抱いて、訪ねた一誠に少なくない数のヴァリスを詰め込んだ亜麻袋を手渡してくるワカメ頭にそばかすの少年。峰田と上鳴の借金の返済に協力してるからこそ、二人だけでは稼げない額をダンジョンで稼いで来たのだろう。ちゃんと誠心誠意を以て返済する姿勢には満足するのだが、肝心の二人の内の一人が床に倒れていては色々と駄目ではないか。

 

「大方、峰田が飛び掛かったんだろ。馬鹿じゃないか」

 

「ご、ごめん・・・・・」

 

「俺に謝ってもしょうがない。こいつ等に不用意に近づくなよ。言葉が通じないんだから」

 

峰田を始め、負傷した面々を放っておいて一誠とアスフィは耳飾りを彼女等に渡しては、耳に嵌めるようにジェスチャーする。その通りにし、女性の横顔の耳飾りを装着した様子を見て二人も耳に同じ物を付けて徐に口開く。

 

「言葉が分かるか?」

 

短く話しかけたその声に女戦士達は信じられないような目をしたが、コクリと頷いた。

 

「―――ああ、分かる。この耳飾りは凄い物なのだな」

 

自身の耳にもアマゾネスの言語で話し掛けられても共通語(コイネー)に変換、翻訳している耳飾りの機能によって何を言っているのか把握できていた。

 

「分かるなら結構。だけど、この道具がいらなくなる生活をできるようにこれから共通語(コイネー)の読み書きを覚えてもらうからな。その後は俺の仕事に手伝ってもらう。これは決定事項だ、異論は認めない」

 

アルガナ・カリフ、バーチェ・カリフ、ベルナス・ラーゼ、エルネア・ラーゼ。改宗(コンバージョン)が可能な状態でありながら『幽玄の白天城』に住む一人と成った。しかも全員、Lv.5という強さを保有している。オラリオにいる神々からすれば宝の持ち腐れと揶揄しそうなことであるが、一誠にとって知ったことではないと一蹴するかもしれないがそれよりも・・・・・。

 

「あ、あの・・・・・イッセー君」

 

「ん?ああ、まだいたんだな。で、なんだ」

 

「えっと、凄いお城なんだね私ビックリしたよ」

 

「お前等の世界にいる兵藤一誠も同じような物があるだろ。驚くなんて今更だと思うが?」

 

自由で有意義な時間の空間(フリーダムタイム・バカンス・ルーム)』のことだと察してぐうの音も出ないほど認めてしまう、異邦人のヒーロー達。変な溝が出来てから一誠はともかく少年少女達は何とも言えない気まずさでいつもの調子と話しかけ辛さにしどろもどろしてしまう。

 

「それで、俺の家に上がり込んだのはお前らだけか?キリト達はいるのか」

 

「え、う、ううん。僕達だけだよ。あと、アスナ先輩、ここにいたんだね。他の先輩達が心配していたんだ」

 

「今まで音信不通で悪いと思っていると思うぞアスナは。ま、まだまだ気持ちの整理が出来るまでこの城に居座り続けるだろう」

 

【アルテミス・ファミリア】の団長と副団長が仲違いしていることはとっくに知られているだろうと悟った風に述べる一誠を艶がある長い黒髪をポニーテールにしてる少女が言い辛そうに尋ねた。

 

「二人の関係をどうにか戻せませんでしょうか?」

 

「助けを求めてくるならしなくはないが、求めて来ない限りは二人の問題だ。下手に首を突っ込むのは止めておけ。ややこしくなるだけだ」

 

「でも、団長がずっと落ち込んで・・・・・」

 

「黙って浮気した方が悪いんだ。自覚しているんだから落ち込むのは当たり前。というか、他派閥の団員の恋愛事情にどうして俺まで関わらせようとするのかお前等の意図が読めない。阿呆なのかお前等?」

 

自分達が知る兵藤一誠とは思えない厳しい面だけが出て来る。取りつく島もないどころか取りつく島は断崖絶壁で上陸が厳しい。

 

「個人の問題に他者の助けを求められてないのに自己満足で助けようとするな。お前等は他人を心配することよりも自分を心配することを忘れるな。ていうかキリトのことは放っておけ、その内自力で立ち上がる」

 

「本当にそう思ってるの?厳しいよイッセー君」

 

「女のお前らには解らないだろうよ。逆に男なら少なからず理解できると思うがな」

 

あれ、もしかして認められてる?と淡い期待を抱く少年達は一誠に対する印象が柔らかく―――。

 

「女遊びと豪遊に溺れて大失敗、大火傷した馬鹿共は一生女心なんて分かるはずないだろうがな」

 

極一部の少年だけには滅茶苦茶厳しかったのは変わらないことを突き付けられたのであった。

 

同時刻―――。

 

ヘファイストスのもとに一通の手紙が届いた。元眷族の主神としてなのか、ある者から直接渡されたその手紙の内容を、綴られてる文字を追いかけていく内に鍛治神は重い息を吐いた。

 

 

 

「取引?」

 

夕餉の準備中に話を持ち掛けられ怪訝に「何の?」という風に左眼を向ける。料理ができる女性陣と大量の食材を加工し、煮込んでいたり焼いたり炙ったりして忙しい雰囲気を醸し出しているキッチン。【ヘファイストス・ファミリア】の支店に届けられた手紙をヘファイストスから受け取り、調理していた手を止めて読み、何て書かれているか簡略的読んで零した。

 

「商会が騎空艇の取引をしたいわけか」

 

何て愚かなことか。と手紙を気で具現化した炎で灰にして調理に戻る男にヘファイストスは「いいの?」と彼の心情を読んだ上で問う。取引をする気が無い事を察しながら。

 

「新たに造船するならともかく、俺の騎空艇を取引の商品にしたいなんて話しても無駄だ。ギルドですら払えそうにない額の価値があるんだからな」

 

ほくそ笑む一誠は自信に満ちた声音で、取引に応じる気はないと語る。

 

「仮にギルドからも似たようなお願いをされても?」

 

「ぶっちゃけ、あれは趣味で作ったようなもんだし、これ以上作る気はさらさらないんだよね」

 

しゅ、趣味・・・・・度肝を抜かされた思いで言葉を失ってしまった鍛冶神。趣味でこの世で一つしかない巨大な船を作った本人の精神は理解できない。ただの阿呆かそれとも歴史に名を残す異邦人か、そんなこと考えていると目の前に突きだされる皿に盛られた料理が視界に飛び込んてくる。どういうこと?と紅の瞳を元眷族に視線で訊ねれば、持てと催促する手の仕草が答えた。

 

「暇なら手伝ってくれ。俺は相手が親だろうと神であろうとコキ使う主義だからな」

 

「・・・・・わかったわ」

 

彼の隣に立てば色々と気を付けなければならない。何てバチ当たりなと言われようと一誠には常識も概念も通用しないことをヘファイストス達は知っている。何故なら―――彼は異世界から来た人型ドラゴンなのだから。

 

「神様も手伝わせるって・・・・・」

 

「アスナ、この世界にいる神は神であって神じゃない。人間臭い神なんだ」

 

 

 

親しい者ですら入れない―――『自由で有意義な時間の空間(フリーダムタイム・バカンス・ルーム)』の中でたった一人、異世界にいる家族達と会話を臨む一誠は互いの世界の情勢や近況の報告をし合うことをここで行っている。濡羽色の長髪に同色の瞳、ゴスロリを着ている幼女の瞳から立体映像として立ち、元気な姿を見せて安心させることも兼ねて。数多の視線を向けられながら嬉々として語り続けていく内に話す内容が打ち止めとなった。

 

『―――とまぁ、俺からの話しはこれで終わりだ』

 

「かしこまりました。随分と楽しんでお過ごしのご様子みたいで安心しました」

 

長い銀髪を背中まで結わえた琥珀の双眸のメイド服を身に包む女性は、報告を聞きながら記録として書き残した書類から目を離して柔和に微笑んだ。

 

『そっちはどうなんだ?』

 

「はい。前回一誠様が現れてから皆様の調子は戻りつつあります。本当にお戻りになられた時は、お覚悟をしてください」

 

『・・・嬉しいのに何故か死を連想してしまうのは俺の気のせいだろうか』

 

気のせいでございます、と優しい声音で語るが周囲の家族達の目には妖しくて獰猛な輝きを孕ませていた。

 

 

「「「「「(帰ってきたらタダじゃ済まないから・・・・・)」」」」」

 

 

言葉にせず視線でそう語っていることを悟ったのは長い付き合いをしてきた故か、否が応でも伝わってくる。元の世界に戻った瞬間。天国のような地獄、地獄のような天国を同時に身を以って味わうことになることも。

 

若干戦慄、畏怖の念を感じているとこの場に複数の魔方陣が出現した。それはとても見慣れた色と紋様のこの場に転移してくる魔法円の陣で、発する光とともに魔方陣の数だけ人物がその姿を顕現した。

 

「よぉ、久しぶりじゃねぇーか」

 

「お久しぶりです兵藤一誠君」

 

「本当に異世界からどんな形でも戻って来ていたのね」

 

三人の男女が旧友のように接し、三者三様笑みを浮かべながら話し掛け―――目の前で一誠が消えた。どういうことだと微妙な雰囲気の中、メイドに問わずにはいられなくなって黒髪に金のメッシュを入れた悪風な中年の男が「・・・・・おい」と口を開き、訊ねられたメイドは淡々と答えた。

 

「時間切れでございます」

 

「時間切れだとぉっ!?ちょっと待て、折角感動の再会にとちょっと格好いい登場をしてみたらギャグ漫画染みた感じになるんだよ!」

 

「誰もあなた様の登場シーン等お求めになられておりません」

 

『―――まぁ、来てくれたんだからもう一度話をしに来るがな』

 

辛辣なメイドの言葉に凹みそうな中年男性の後ろから一誠が再び幼女の瞳を介して現れた。

 

『久しぶり、アザゼルのおじさんとミカエルのお兄さんにルシファーのお姉さん』

 

「話しは窺っておりますよ。そちらの世界に同名の神々がいるそうで」

 

「同名の魔王とか悪魔とかいないのかしら?」

 

聖なる神々しさを醸し出している金髪に碧眼の男と紅色の長髪と同色の瞳の女性は改めて再会の言葉を口にする。魔王と悪魔は存在しないと首を横に振って否定しながらアザゼルと呼んだ中年の男性に目を向ける。

 

『アザゼルのおじさん。そっちで何か進展とかあった?』

 

「お前の常識破りな言動振りに見習って俺も開発か発明したら、異世界の一つや二つ行き来できるモンを作れたかもしれないが、まだ進展したとまで言えるほどには程遠いよ」

 

肩を竦め、「寧ろお前の方がそういうモンを作れそうな気がするがな」と皮肉めいた事を言う。

 

「今でも三大勢力と神々、式森家の間で異世界にどうやって干渉できるか議論を唱え合っているところなんだがよ。お前とオーフィスの目がその鍵と成っているのは事実なんだ。その目でこっちの世界に戻ってこれねーのか?」

 

『できたらとっくにしていたさ。今だって異世界の魔法で出来ている状況だし、こうしている間に俺とオーフィスの目を介して何かできないのかアザゼルのおじさん』

 

「・・・・・お前、頭冴えてるんじゃないのか?」

 

それをヒントに後日。様々な実験を繰り返し、遠くない未来ある現象を引き起こしてみせるのであった。

 

 

 

【ガネーシャ・ファミリア】の眷族になって半年が過ぎた。季節の移り変わりを肌で実感していくのを感じとれても、『バベル』へ赴く冒険者達はダンジョンへ向かって消えていく。その頃、一誠達は騎空艇に乗り込んで『空の世界』へ旅立っていた。今回の旅も自分と同じでヘファイストス達が好奇心を抱くだろうと目的の島に行く前にザンクティンゼルへ寄った。岩壁を横通り、躍り出るように島の上空を飛翔して青い草の野原に降下する。住民達は既に集まっていて甲板から降りてくる者達を待ち受けていた。一誠達が姿を現すと歓迎の雰囲気を醸し出していた。ザンクティンゼルの住民達と再会を果たして金髪の少女と空飛ぶトカゲが―――。

 

「オイラはトカゲじゃねー!」

 

ツッコミを入れながら人垣から現れた一人と一匹を迎え、二度目の空の旅を共にするのであった。初めて乗る騎空艇に金髪の少女ジータは目を輝かせ、アイズとアリサと共に船を探検に臨んで甲板からいなくなった時を見計らったようにアスナが話しかけてきた。

 

「あの子とあのモンスターは?」

 

「ジータという少女にビィっていう竜だ。空の世界はモンスターと共存ができる環境があるらしい。だから俺も安心して正体を明かしても問題ない」

 

「そうなんだ。でも、どうしてあの子も連れてきたの?」

 

「約束をしたからな、騎空艇を完成させたら乗せるって。それと空の世界の文字は読めないから翻訳してもらうつもりなんだ」

 

「え、空の世界の文字って共通語(コイネー)じゃないの?」

 

じゃなきゃ、ジータを連れて来ないと意味を籠めて操舵を操りながら頷く。「今も勉強中だ」と告げ小さな存在は一誠達にとって頼り甲斐がある大きな存在であった。

 

「これから初めて行く灼熱の島―――砂塵が覆う鋼の国、バルツ公国とやらだけでなく、この世界にいる限り俺達はジータとビィは必要不可欠な存在だ。文字の読み書きを覚えるまでの間だけどな」

 

「そっか。だけど初めて行く島にこの船を置く場所なんてわかるの?」

 

「わからん、探せばその内桟橋みたいなもんが見つかるだろ。これもまた冒険の醍醐味ってやつだ」

 

不安が無い旅はない。不安を抱えながら目的地に向かう最中、様々な障害と出会いと別れ新たな冒険が待っている。それが冒険の楽しみ方だとアスナに伝えながら騎空艇の速度を上げた。それから一誠の行動力に半ば翻弄されるアイズ達はバルツ公国で新たな巡り合いと出会いをし、一生忘れられない記憶を残し過ごしたのであった。

 

 

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