ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか   作:ダーク・シリウス

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冒険譚14

オラリオに満月が照らしている日の夜。一人の影が自室から抜け出して城の中を歩き、明かりもつけずに外へ繋がる玄関の扉まで歩くとできるだけ静かに扉を開け放って外に出た。摩天楼(バベル)の次に高い断崖絶壁の上にある城から地上に星があるかのように暗闇に包まれたオラリオの街中に魔石灯の光が見える範囲で無数に灯っていた。その光景を感傷に浸って視線を注いで見下ろしていると後ろから声を掛けられた。

 

「帝国と違ってあんまり綺麗な光じゃないだろ。見るのは夜空にした方がお勧めだ。目の保養になるぞ」

 

城から浴衣姿に素足の出で立ちで影に言葉を飛ばす影に「そうか」と短く相槌を打つ。

 

「目の保養とならば、お前は十分過ぎるほど綺麗な花々に囲まれているな」

 

「俺にはもったいない過ぎる綺麗な花だらけさ。それにそれを言うならお前も国に戻れば一人や二人ぐらいいるんだろ?」

 

「妹や姉なら大勢いるが、お前のように慕ってくれる女性はいないのさ。自分で探すこともままならないのだから」

 

「そうかい、それは今後苦労しそうだな」

 

影の隣に立ち、一緒にオラリオの街並みを眺める。天を衝くほどの塔以外は特に何の変哲もない外壁に囲まれた街。あともう少し日が経てば帝国に戻るだろう影、ダオスのことを思って話す。

 

「こっちは何時でも行ける準備は済ませてあるぞ」

 

「わかった。だったら明日の朝にでも出発しよう」

 

「移動手段はこっちで確保しているがいいな?」

 

「ああ、元からそうしてもらう予定だったから手間が省けた」

 

きっと空飛ぶ船で馬車を乗せて向かうのだろうとダオスは悟っている。そして乗り心地はどんなものか密かに楽しみにして一誠と一緒に城へと戻る。

 

翌日の朝。オラリオから発つ一台の馬車があった。それが帝国から来た物であると誰も知ることなく、太古地上に進出するモンスターを食い止めるために建造された外壁から遠ざかっていく。何事もなく港町がある方角へと進んでいく馬車を門番達が見送る最中、突然夜になったと錯覚するほど影ができて暗くなった現象を体験する。これから冒険者になるために、商売をするためオラリオに入ろうと長蛇の列を成してる者達も同じ体験をする。その原因が何か、空を見上げれば一目瞭然。巨大な船底が見える空飛ぶ船がオラリオから出てきて真っ直ぐどこかへ向かおうと過ぎていく光景を目の当たりにした。そしてオラリオから発した馬車の上にも通り過ぎる最中、船底から円形の光が放たれ、船の下にいる馬と馬車を丸ごと光に包み込むと、船へ浮上して吸い込まれていく。

 

馬が居座れるよう用意された馬小屋風の空間に馬車が出現した。そこに一誠が待ち構えていて出てくるよう促しの言葉を掛けた矢先、馬車からダオスと老従者が出てきた途端に。

 

「貴様っ、これは何の真似だ!」

 

「こっちの方が速いから載せたんだよ」

 

「そういうことだ爺や。怒らないでほしい」

 

従者が怒り心頭で食って掛かったものの、ダオスの制止の言葉に不承不承静かにした。睨み付けることだけは止めなかったが一誠は気にせず、馬車から馬を離して牧草と水がある定位置に居させる。

 

「さて、上に行こうか」

 

先導する一誠の背中を追いかけ、階段を何度も上がり通路に足を運び三人を迎える扉に手を掛けた。

 

「「・・・・・」」

 

一歩足を踏み入れば甲板に出る。広い木製の床に涙的状の縁、船に乗っているなら当然の光景が目にする。ただ、上を見上げたら見慣れてる青い空ではなく船を浮上させ、翼や尾羽がある巨大な何かが船と一体化しており、そこに行ける階段もあった。さらに甲板から下を覗きむと見慣れた青い大海原―――からどんどん離れて上昇、空の上へいこうとしているのがわかった。

 

「帝国までどのぐらいかかるか分からないけど、まぁ、数日も経てば着くと思うよこの速度だったら」

 

「普通の船より速いのだな」

 

「そりゃあ空飛んでいるから」

 

空の下で飛ぶ巨大な船の存在を後に帝国は知り、オラリオの技術力はそこまで高いのかと警戒するがそんな危機感をされているとはオラリオも一誠も知る由がない。

 

 

 

「いらっしゃいませ、ようこそ『異世界食堂』へ」

 

一誠が帝国に向かっている間でも朝から店を開き、飲食しに来た客達に酒と料理を提供する。店の中で西のメインストリートに住む無所属(フリー)の民間人や【ファミリア】の客は少なくなってきて、予約した者しか入れない二階と違って一階はほぼ満席に近くまで埋まってホールの従業員達はかなり忙しそうに動き回っている。オーダーを受けたり、出来上がった料理を客の許へ運び、食べ終えて空になった食器を厨房へ運んだり―――。

 

「ぁ―――」

 

積み過ぎた皿をバランス崩して客の目の前で床に落としそうになった従業員を目に入れるや否や、光の速度を超える速さで皿が落ちる前に全て拾い上げ、従業員を腕の中に収めたその一瞬は客として食べに来た冒険者の目でも捉えることはできなかった。

 

「一気に持って行こうとするな。危ないだろ」

 

「・・・・・は、はいニャ」

 

猫人(キャットピープル)の獣耳ごと頭をポンと触れてオーダーを受けに行く店主。たまに見られるこの瞬間は速過ぎて分からないが「物凄く速い動きで落ちた皿を拾い上げた」という認識で、おおーと感嘆と驚嘆の息を漏らし拍手もされることもしばしば。一方厨房では大量の注文をされて調理に忙しい料理人達。その傍には異世界の料理の作り方を教える分身体の店主達がピッタリ寄り添って働きながら知識を伝授している。

 

「店主、味見してくれないかい」

 

「ん・・・・・もう少し酸味が強くても構わないぞ。薄い味が好きな客がいれば濃い味が好きな客もいるから」

 

「あいよ」

 

「よし、焼き上がる前に次の調理を素早く終わらせるんだ。客を五分もまたせちゃ駄目だぞ」

 

「は、はいっ」

 

「火力が強い、それじゃ食材が焦げて身がボロボロになるぞ」

 

「ご、ごめんなさい!」

 

こんな感じの状態が日常茶飯事と化して店主の指導の下、元『豊饒の女主人』の従業員達の腕が更に高まって料理を提供する『異世界食堂』は今日も平常運転していた。そして、また客が入ってきた知らせが鳴る鈴で従業員達を知らせる。

 

「いら―――」

 

「金が無いってどういうアルかぁー!」

 

ドンガラガッシャアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!!!

 

外から聞こえる怒れる少女の声ののち何かが樫の扉が粉砕してシルに決河の勢いで迫る。絶句して瞳を見開いたまま固まり、驚きで身体が硬直して避ける暇もない彼女の前に高速で移動してきた店主が吹っ飛んできた何かを振り上げた足で床に叩きつけて沈めたが、扉の破片までは自身の手で対処できず客達の方に展開した防壁の魔方陣で防いだ。

 

「シル、怪我はないか」

 

「は、はい大丈夫です」

 

「ん、ならいい。が、人の店のもんをブチ壊した連中にはそれ相応の罰を与えなきゃなぁ・・・・・」

 

ぐぇ、と潰れた蛙のように店主の足に踏まれている謎の少年を冷たい視線で見下ろし、一瞥して扉の方へ鋭く睨みつけた先には・・・・・。

 

 

髪はサーモンピンク色でロング、右側の頭部に髪留め。肌は色白で瞳が薄青、服装は流水紋が入った白いをチャイナ服風にあつらえたものを着用しているクールで大人の色気を感じさせる大きな番傘を持った美女。

 

長い茶髪に白いリボンでサイドテールに群青色のつぶらな瞳、白と青を基調したロングスカートの出で立ちで柄がピンク、先端が赤い宝石のようなものとそれを囲むような黄色いフレームで構成されている杖を持つ女性。

 

長い黒髪をポニーテールに括り、へそが見えるように裾結びしたTシャツに片方の裾を根元までぶった切ったジーンズ、腰のウエスタンベルトには鍔が無い刀を差している女性。

 

「・・・・・?」

 

三人目の女性を見た時の店主の顔は愕然としたものの、最後に黒髪に黒い瞳、胸部に軽装の胸当てを装備している黒一色の服装以外、どこか・・・・・彼の少年と容姿が似ていることで不思議と疑問符を浮かべた。まぁいい、重要なのは・・・・・。

 

「お前等、連帯責任として扉の修理代を払ってもらおうか。この店で働くことでな」

 

「「「「えっ?」」」」

 

満面の良い笑顔で足元にいる少年も含め、五人は『異世界食堂』の新たな労働力、もとい店員に強制的にさせられたのは帝国に向かっている最中のオリジナルにも知られて一人、邪な笑みを浮かべだしたので王子と従者に不気味がられたのは言うまでもない。店主の店の扉を壊し客達に迷惑と被害を与えた五人は、慰謝料と修理費の返済までの労働を命じられた。その額、五千万ヴァリス。が、当然常識から考えればその額は絶対にあり得ない。しかし、ただの扉と客達に払う慰謝料にしては法外すぎる!そうアル!という悲鳴と抗議は、ゴッッッ!と拳骨一発で捩じ伏せられた。

 

「ここは冒険者が集う迷宮都市(オラリオ)だぞ?正当な規則(ルール)も法律だって役に立たないどころか存在もしない。そしてこの店では店主の俺の言うことは絶対なのさ。つまりここじゃあ俺が『法』だ。俺が白と言ったなら黒かろうが白になる」

 

「「「「・・・・・っ」」」」

 

あまりにも横暴な、と抗議の視線で睨みつけるが店主はどこ吹く風で気にせずにスラスラと言葉を述べる。

 

「それともなにか?人様に迷惑を掛けて、物を壊してたった言葉の一つで済ませるほどお前等は偉いのか?それとも自己中心的で粗暴で乱暴で横暴、性格がクズな女共かなにかか?」

 

指をぱちんと弾くと恰幅の良い従業員がどすどすと店主の後ろから現れる。

 

「俺はどっちでも構わないが、壊した扉とここにいる俺達の大切な客達に迷惑を掛けた以上、それ相応の働きで応えるのが人としての筋じゃないのか?」

 

自分の言葉に何か異論があるなら言ってみろと不敵な笑みを浮かべて尋ねる店主を相手に、法外な請求以外ぐうの音も出ない正論を言われて逃げでもしたらその瞬間、自分達は最低な人間として認識されるのは間違いなしだ。悔しげに、諦観した風な顔と雰囲気を纏う四人の女性達を見て満足げにミアに指示を下す。

 

「今日は皿洗いと野菜の皮むきを中心に馬車馬の如くよろしく。制服は後日だ」

 

「その坊主はどうするんだい」

 

「顔を見た感じ、中々整っているからホールで働かせるとしようかな」

 

「人手が充実するのはいいことだね」

 

床に平伏す男と強制労働として働かされる四人の女性を前に「そうだな」と朗らかに笑う二人に逆らう者はこの店にいなかった。同時に店主を怒らすような真似をしたら色々と恐ろしい目に遭うと、この日食べに来た客達の間で暗黙のルールが出来上がったのは店主もミア達も知る由がない。

 

 

―――と、予想外に急展開な出来事がオラリオに起きている時も、騎空艇を飛ばしに飛ばしてしばし空の旅をし続けること数日、一行は遂に帝国が統治する領土に辿り着いた。広大な野原に山々から流れ出る蛇行する蛇のような細い川、進むにつれ点々と存在する町や村、里の他、農村や農園に家畜を育てている牧場などが見受けれるようになって、騎空艇が向かう先には帝都が待ち受けている。

 

「・・・・・なに、空飛ぶ巨大な船が近づいているだと?」

 

帝国領の王城内は敵船と思しき巨大な船の接近で慌ただしかった。ざわめく重臣達を尻目に現王は報告しに来た兵士に向かって馬鹿馬鹿しいと訝しげな目で視線を送る。帝国の王らしく金髪の頭にちりばめた宝石の王冠、豪遊した者の証として贅肉が付いた頬と小太りな腹を包み込む服装も豪華であるが少し窮屈そうに張り詰めていた。現王の隣には妙齢の絶世の美女も座っており、更に隣には男神が愉快そうに口の端を吊り上げて現王の言葉を繋ぐ風に兵士に話しかけた。

 

「相手は帝国と敵対する国か?」

 

「まだ分かり兼ねます。何分相手は空におります故、情報が未だに収集できておりませぬ」

 

「だったらどんな方法でもいいから船にいる者に合図を送れ。できる限り城の外に降りるようにな。その船にいるのはどんなやつなのか定かじゃない。もしかしたら大量のモンスターを積んだ敵の攻撃かもしれないからよ」

 

それはそれで最近暇な主神(おれ)としては良い暇つぶしになるがな、と内心そう思いながら帝国の主神として指示を下すところ、王の間に新たな兵が報告をしにやってきた。

 

「報告をいたします。帝都の検問前にて浮遊する巨大船が着陸、そのあと王位継承者百七位の王子であらされるダオス、ダオス・ラーズグリーズ・クリールフス様が帰還されました」

 

「ほう?」

 

件の未知数な船から親族が乗っていたという事実に王達は別の意味でざわめき色めきたった。主神は現王に尋ねた。

 

「お前の最後の子供は酔狂な事にオラリオへ行ってたんだよな?空飛ぶ船に乗って来たっと言うことは最近のオラリオは空を制する技術があるということになるな」

 

「そ、そうなりますな主神様よ。(我が子め、驚かせてくれたが上手く事を運べば乗ってきた船を・・・・・)」

 

「よし、ちょっくらこの目で見てくるぜ。ここに居ても退屈だからな」

 

「―――はっ?」

 

野心的な計画を考えていた王は、嬉しそうにスキップしながら王の間を後にする主神の姿にぽかんと開いた口が閉じず我に返った時は焦燥に駆られて慌ただしく動き始めた。

 

「おー、絶景絶景!オラリオ並みに広いじゃないか。風景も綺麗だし観光名所っぽい建物があるみたいだな」

 

船首の上に乗ってそこから帝国の街並みを眺める一誠と四人の女戦士(アルガナたち)は待機をダオスに命じられ、何もすることなくただ眺める他やることなく退屈そうであった。初めて訪れた外国の地に興味がある様子の彼女達も一緒に帝国の景色を眺めていた。

 

「私達はこの後どうする、何時まで待てばいい」

 

「しばらくここでダオスに呼ばれるまでは待たされて暇と言えば暇になるから・・・・・お前等も特訓をしながら暇を潰してみるか?」

 

「闘争か?」

 

「違う。『恩恵』で、【ステイタス】で強くなる以外にも人が強くなれる可能性をさらに引き出す特訓だ」

 

ベルナス・エーゼとエルネア・エーゼと交わす中で『真の戦士』を目指す四人にとって興味津々と好奇心を刺激される一誠の言葉。アルガナ・カリフ、バーチェ・カリフも含めベルナスとエルネアが揃って視線を送った。

 

「『恩恵』と【ステイタス】以外で強くなれる方法があるのか?」

 

「かなーり地味な特訓だけど、極めたら確実にこの特訓を受けた自分と受けなかった自分で比べ物にならないぐらい四人にとっては利益があるし、強くなるのは保証するよ。こんな風にな」

 

手から光刃を、もう一つの手から無数の気の塊を具現化してみせて弄び、さらに明後日の空の方へ手を掲げると極太の気のエネルギー砲が放たれた。

 

「「「「・・・・・」」」」

 

そしてその場で宙に浮いてアルガナ達の周りを軽く動いて元の位置に降り立つ。

 

「今見せたのは魔法やスキルによるものじゃない。人なら誰しも宿している生命エネルギー、気ってやつをコントロールできれば手から放出させたり、刃を具現化させたり、宙に浮いたりすることも可能だ。既にアイズとアリサ、小さい二人の子供が宙に浮くことができるようになってる―――けど、四人も試しにやってみる気はあるか?あ、答えなくていいや。物凄く目が輝いてやる気があるのはわかったから」

 

特訓次第で魔法を凌駕する攻撃や人の領域、強さの壁を超える技法を得られるならばやって損はないと判断―――否、惚れた雄と同じ技法を得れば『真の戦士』に近づけれるどころか一誠と言う雄が立つ領域にも近づけるという期待で目を輝かせ興奮を覚えた女戦士(アマゾネス)達は少年を捕まえて甲板に降り立って早く教えろと急かす。

 

「―――おーい!誰か乗っていないかぁー!?」

 

下から声が聞こえて五人は顔を見合わせた。誰だと縁に近づいて揃って見下ろすと、クリーム色のロングストレートに黄色い瞳の中年の―――この国に住む男神である者が衛兵に囲まれながら船と一誠を見上げて立っているところを確認した。

 

「お、いたいた。オラリオの冒険者達かお前等?」

 

「ああ、この国の王子に現王の祖父に料理を振る舞ってくれと頼まれて来たんだ」

 

「と言うことは料理人だな?随分凄い船を持っているんだな」

 

「趣味で作った」

 

なんじゃそら!と目を見開いて愕然とする男神の前で軽やかに降り立つ一誠は自己紹介する。

 

「オラリオで『異世界食堂』って店を構えている冒険者イッセーだ。所属している派閥は秘密ってことで」

 

「冒険者が料理人って・・・・・まあ、こっちも似たような子供はいるけど異世界食堂ってことは異世界の料理を作れるって意味でいいんだな?」

 

「そうだ。おかげで店は毎日繁盛で大忙しの時にダオス王子から頼まれてね。空飛ぶ船、『騎空艇』で来たんだけどまだ料理を提供する番ではないらしいからここで待っているんだ」

 

なるほど聞いた限りでは筋は通る―――神を前にして嘘を言っているのかそうでないのか見極めれないことに不思議であるが。

 

「確かにダオスの番はまだ先だ。それでお前達はここで待っていて退屈じゃないのか?」

 

「船を持って来たんだ。見張りも付けず中に入る以前に取り調べられてはそれどころじゃないのは火を見るより明らかだ」

 

「意外と先を見据えてるんだな。じゃあこっちで船を見張りに―――」

 

「出会って間もない見ず知らずの【ファミリア】に大切な船を任せられると?」

 

ニコリと笑って男神の提案を「遠慮する」と拒否され苦笑いの男神は徐に両手を上げた。船の管理は一誠達がする方針で決まり話しが進む。

 

「なぁなぁ、異世界の料理って実際どんなの?食べてみたいんだけど」

 

「ダオスの番はまだ先なんだろ?いいのか他の王子の番を無視して」

 

「それとこれは別の話しだ。食べるのは現王の親父だから俺が王子が連れてきた料理を先に味見しても問題ないって話しさ」

 

男神の乞いから目線を腕に落として腕輪の機能の一つ、時計の時間を確認すると昼の時間に迫っていることを確認する。徐に視線をアルガナ達へ見上げた。

 

「昼飯、何が食べたい?」

 

その問いに彼女達は即座に答えた。「「「「カルビ丼!」」」」と。しかし闘国(テルスキュラ)で生まれ育ったアマゾネス達の言語を、帝国の者達が翻訳できるはずもなく言葉の意味が理解できないと首を捻った。

 

「・・・・・何て言ったんだ?」

 

「カルビ丼って牛の肉を使った料理を希望してきた」

 

「牛の肉を使う料理・・・・・ステーキか何かか?」

 

「違う。まあ、食べてみればわかるよ。ついでに衛兵達の分も作ってやるから味を堪能してくれ」

 

そう言って跳躍して甲板に戻る一誠を見送る男神達。その後、思ったよりも早く大きな亜麻袋や食器、調理道具や様々な物を持ってアルガナ達と飛び降りて来た一誠に「もう出来上がったのか?」と尋ねたが否と答えられた。

 

「目の前で作ってやろうと思ったんだ。見えないところで毒物何かを入れられているんじゃないかって疑われたくないからさ」

 

「俺達に信用を得ようと言うことか。良い心がけだ」

 

目の前で仕度する一誠達を見守る。特典スキルのネットスーパーを行使してヴァリスをチャージ、望んだ商品を購入した際に虚空から現れる段ボール箱から取り出し、アルガナ達の手によって用意された簡易式調理場で料理を作り始めること十数分―――。

 

地面の上にブルーシートを引いてそこに男神達を座らせ、みそ汁と食後用の氷が浮いた硝子の杯に入れられた茶と共にその料理を置く。その料理に使われる食器は、ただ1つの大きな碗のみ。そこに盛られているのは白い米と鮮やかな色の野菜・・・・・そして、しっかりと味付けされて焼かれた牛の肉。それこそがこの『カルビ丼』であった。

「はい、おまたせ。これがカルビ丼だ」

 

「おお・・・・・これがカルビ丼とやらか、何とも食欲をそそらせる香りを立たせる」

 

好奇心で碗を持ち上げる。料理が冷めぬよう、程よく温められた碗がほんのりと男神の掌に熱を、腕に重さを返してくる。碗の下にたっぷりと盛られた白い米が見えなくなるほど置かれた具。鮮やかな橙色をした、かすかな甘みを持つ人参。茹で上げられてなお濃い緑の色を残したホウレン草。透き通った白く細長い、極東の米。そして白い種のようなもの、白ゴマが振りかけられ、味付けの汁で茶色く染まった肉。

次にそっと顔の前に近づけて、軽く息を吸う。

整った鼻に吸い込まれた香りは、炊きたての米の甘い香りと、焼きたての香ばしい肉の香、そして甘じょっぱくて刺激的な味付け汁の香。その3つが交じり合った香りに、喉の奥・・・・・胃の腑がかすかに鳴くのを感じる。

「それじゃ、いただきます」

 

一誠が食事の前の作法をするとアマゾネス達も倣って同じ仕草をした瞬間、彼女らだけ男神達に渡された器の数倍大きい椀を持っては獲物の肉を貪る獣のように豪快に食べ始める。帝国にもアマゾネスはいなくないが、戦闘に特化した女戦士の食事シーンは見たことが無い男神達にとってこれが彼女(アマゾネス)等の食べ方かと若干圧倒される。食べた方から見るとかなり下品な彼女等に倣うわけではないが男神達もはカルビ丼を食べ始める。まずは汁のたっぷり染み込んだ肉を持ち上げ、小鳥が木の実をついばむように、少しだけ口に含んで歯で直に噛み千切る。

「(おほっ、この味に食感は・・・・・!)」

舌の上に広がるのは、柔らかな肉の含む肉汁と、かすかに歯ごたえのある脂身の味。帝国の宮殿で出される、燻製されたベーコンやスライスされたハム、ステーキ類の肉では味わえないそれらが口の中にあふれ出し、口の中は肉一色に染まる。そしてそれを支え、味を芸術の域にまで高めているのが、その肉の味付けに使われている汁。

それは果物の甘さと、かすかな香辛料の辛さ、魚醤に似ているが確かに違う、男神の知識には無い塩気、そしてそれらに混ぜられた何かの種の油を含んだ香ばしさ。それらが全部交じり合った複雑な汁の、単品で食べれば強すぎる味が、肉汁と脂をたっぷりと含んだ肉とは暴力的なまでに相性が良い。肉だけでも食べれば美味だと頷かずにはいられない。

 

「(だが、この肉だけでカルビ丼の本番ではないのだろう!)」

 

だが、ここで気を抜いてはいけない。肉だけではない。肉だけでは、カルビ丼は完成しない。1度動き出してしまった以上、もはや男神に戸惑いは微塵も無い。彼は更なる未知の味を楽しむため、碗にフォークを差し込む。そしてそのまま・・・・・肉を持ち上げたことであらわになった米を一口だけ取り、口に放り込む!

「――――ッッッ!」

 

もはや、頭のなかにすら言葉は浮かばない。口の中にふわりと広がる、帝国、それも王宮では食べたことが無い甘い米の香と味。柔らかく炊けた米が、口の中を蹂躙する肉と交じり合っていく。

 

「う、美味いっ!」

誇張でも何でもない。心から思った言葉が男神の口唇を震わせながら発した。この瞬間男神は『異世界食堂』に通い詰める客と何ら変わりない者となる。

 

味覚だけではない。甘辛い匂いを、色鮮やかな野菜と肉と米の対比を、手のひらから伝わる碗の熱さを、そしてなにより胃袋から沸きあがる食欲を楽しみながら、男神は目の前の料理をゆっくりと少しずつ平らげていく。肉を、米を食う。服を汚さぬよう、慎重に。口直しにそれぞれ薄い塩で味付けされた濃い緑の味がするホウレン草を、かすかに甘い人参を、心地よい歯ごたえがある米を口にしていく。それ自体は非常に薄い味しかしない・・・・・それこそが米と肉という暴力的な組み合わせの味を新鮮に楽しませるための、この上ない口直しになる。次に、野菜と共に肉を、米を食う。完成された肉と米に、新たに野菜の味が加わることで、カルビ丼はまた違う味わいを魅せる。肉汁と味付けの汁に歯ごたえの良い野菜の食感。それがまた、たまらない。そして何口かカルビ丼を食したところで、海草が浮いた味噌汁を一口、器から直にすする。その、カルビ丼とは違う味が舌を休ませ・・・・・気分を新たにしたことで更にカルビ丼を食べ続ける原動力となる。同時に悟る。 アマゾネス達の食いっぷりは、ただ食べ方が下品に見えただけだ。実際はこのカルビ丼とやらの味の虜になって心底から美味しく食べていたのだと。となれば自分はなんて勿体無いことをしたのだろうか・・・・・!

 

「お代りを頼めれるか!」

 

「ング、あいよ。衛兵達もどうやらお代りを所望しているようだし」

 

む?と今更ながら眷族の方へ顔を向ければ、口の周りを茶色く汚しては米粒を付けたままおずおずと腕を持って一斉に一誠へお代りの意志を示していた事に気付いた。因みにアルガナ達も同様である。

 

「ふっふっふっ、帝国の主神と眷族達の反応を見る限り、この国でも俺の店は繁盛しそうだな」

 

「異世界の味を知れば誰であろうと虜になってしまう。お前、オラリオから帝国に鞍替えする気はないか?宮殿の総料理長になってもらいたい」

 

皆の要望に応じるために新たにカルビ丼を作り始める一誠は朗らかに笑って否定した。

 

「あはは、無理無理。そんなことになれば俺の店に通い詰めている【ファミリア】が総出で帝国を潰してでも奪いに来るぞ。特に最大派閥の主神と眷族達が」

 

「ぐっ・・・・・交渉は、無理か・・・・・」

 

世界で唯一存在するダンジョンに集まる神と冒険者。その質と数は帝国を上回り、本当に攻め入れられたら帝国は壊滅的な被害を被ると悟り、物凄く肩を落として落胆する男神―――に一縷の希望の光が差す。

 

「でも、帝国のことを教えてくれたらとある方法で何時でも俺の店に来られるようにしてやってもいいぞ?」

 

「なに、それは本当にできるのか!?」

 

「それが出来る許可と場所の提供、後はこっちが指定した人数を守ってくれれば」

 

どうする?と尋ねられるその問いに帝国の主神は、頭の中で思考をフル回転させリスクとデメリット等―――考えず私利私欲で二言で答えた。

 

「いいだろう、この俺が特別に許可を下す!お前の好きな場所を見繕ってやる!」

 

「じゃあ城の中で」

 

「む、城の中か・・・・・普段使われていない場所でもいいか?」

 

「アンタらがバレずに食べに来られるならな、広さがあればどこでもいい」

 

トントン拍子で決まる交渉に衛兵達は止めることはできない。否、衛兵でありながら主神の暴走に便乗すれば異世界の料理を楽しめると私欲を優先的に何も聞かなかった事にしようと言う腹でいた。

 

「話している内に出来上がったぞ」

 

「おおっ!」

 

こんな感じでダオスの番が来るまで男神達は朝昼晩問わず騎空艇に尋ねては、異世界の料理を密かに衛兵達と共に舌鼓して堪能し・・・・・帝国の主神の計らいで夜間、城の中を密かに入れさせてもらっては『異世界食堂』と繋げる作業をしたのであった。

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