ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか 作:ダーク・シリウス
一誠達が帝国の外壁に居着いてとある日の朝。
「主神様!朝食の支度が整いましたというのに今日もどちらへ向かうのです!」
「俺の勝手だろう!ええい、主神の俺に逆らうな!」
「「「「その通りだ、そこを通してもらいたい。我等の朝食の為に!」」」」
「四銃士のアンタらも揃ってどこへ行こうとしてんだァアアアアアアアアア!」
そんな騒がしい朝を迎えた帝国の宮殿内では、最近の主神と彼の男神を護衛する衛兵達の奇行に王達はいつもの日常として受け入れ始め数日目。最初は懸念して兵を使って情報を集めてみたらあっさり理由が解って拍子抜けした記憶がまだ真新しい。空飛ぶ船の持ち主、ダオスが連れてきた料理人の料理にいたく気に入った様子で食べに行くこと以外は普段通りなのだがいざ食事の時間になると立ち塞がる近衛兵や従者、メイドの制止を振り切って衛兵と共に外へ向かいだしていく暴挙。
「・・・・・ダオスよ」
「はい」
「お前が連れてきた料理人は主神様が夢中になるほど美味い料理を作ることはもうわかっているが、主神様の暴走はどうにか止められないのか」
呆れ顔で「お前が招いた料理人なのだから責任持って何とかしろ」と言外する小太りな王の発言に聡明な判断で進言した。ある意味、ダオスはこの言葉を待っていたとばかり直ぐに動いた。
「であれば父上。私の独断で任せてもらえれば直ぐにでも主神の暴走を抑えてみましょう。不始末があれば責任は全て私が負います」
「ああ、よかろう。これで宮殿内は静かになるなら何をしても構わん」
言質は取った。朝食の途中で席から立ち、老執事とともに主神の後を追いかけるダオス。廊下に立ち並ぶ従者や近衛兵の横を通り過ぎながら生を受けてから十数年、カツカツと足音を立てて壁と柱が一体化している通路を歩く彼の隣で極力声を殺して従者が話しかけた。
「若、まさかとは思いまするが・・・・・それだけはいけませんぞ」
「では、他に方法があると言うのか爺や。主神を縛って部屋に軟禁などしたら私の立場が危うくなるだけだ。かと言って説得して自重する神ではないことをお前が一番知っているだろう?」
自分がこれからする言動を敏感に察した老従者に言い返して沈黙させた。
「主神の暴走はあの店主が原因だ。ならば、方法は一つしかあるまい爺や」
ダオスを止めることは敵わないと悟った従者の口からもう言葉は出なくなった。誰が悪いのかと挙げれば皆が悪いとしか言えないかもしれない。快楽主義の神が見たことも聞いたこともない『未知』に直面したら全力全開で楽しむ習性がある。そうなれば眷族総出でなければ止められない神の行動力は凄まじいの一言に尽きる。ならばどうすればいいのかと悩むのが眷族達の仕事なのだ。
「(イッセー、大人しくしていてくれると助かるのだが・・・・・)」
ただ料理を振る舞ってくれるだけなら問題ない。が、懸念は現実のものとなってしまった。
城を出て街中を進み真っ直ぐ城壁にある門を潜ってすぐ騎空艇の方へ歩み寄った足が途中で不自然に止まった。
「・・・・・っ」
頬が痙攣する。目の前の大惨事を目の当たりにして。騎空艇の直ぐ横で積み重なっている黒い山は人であり周囲の地面には無数のクレーターが。この数日間、ここで何が遭ったのか語る必要は無いに等しい。こんなこと仕出かした元凶は呑気に主神や衛兵達と朝食を摂っている。
「あ、ダオス」
二人の存在に気付きながらも食事を止めない一誠達。こめかみに指を添えて彼等の精神に疑いながら問いただす。
「あの人の山はなんだ・・・・・」
「何か夜間に人の船に忍び込んで来ては襲いかかって来たんだよ。目的は俺達の暗殺をして騎空艇を奪うことみたいだったぞ。かるーく拷問したらお前の親族の差し金みたいだったし?」
「・・・・・」
「で、こんなことは主神も知っているけど野放しにさせてるから」
いや、そこは野放しにしていいものじゃないだろうと突っ込み掛けるダオスに笑いかける主神が話しかけてきた。
「お前が心配することじゃないってことよダオス。こいつらに喧嘩を吹っ掛けた王位継承権のある子供にはそれをはく奪しとくから。あ、よかったな?これでライバルが減ったぞ」
「そんなことをすれば宮殿内に罅が・・・・・」
帝国の未来を考慮して言うが「今更だろ?料理人を探す旅の途中、殺しはしないが探せない程の重傷を負わせられたり有名な料理人、その手の料理の達人の料理人が昼夜問わず襲われて重傷、もしくは行方不明になっている時点で」と他人事のように言う男神にダオスは何も言えなくなった。
「だからお前等は何時まで経っても子供なんだよ。年齢の意味じゃねぇーぜ?考えと心構えの意味でだ。ま、楽しいことが大好きな俺からすれば切磋琢磨?ライバルを蹴り落とす競い合いを見られるなら何をしようと勝手だ」
「・・・・・私達家族はあなたにとって玩具のようなものですか」
「阿呆、俺がそんな残忍な性格な神だと思うか?子供のじゃれ合いを見て楽しむ親的な感じだよ」
目の前で殺し合いに発展しても笑って見届けそうな神だなと若干白い目で見る一誠。ふと、素朴な疑問を浮かんだ。
「王子同士の争いなんて気にしない風な事を言うのに、どうしてダオスを贔屓するように王位継承権をはく奪までするんだよ?」
「俺の楽しみを奪う奴は許せないだけだ!」
「「・・・・・どこかの誰だか知らないが私欲で権利を奪われるなんて憐れだ」」
要はダオスが連れてきた料理人が怪我でもしたら楽しみにしている料理が食べれなくなるという、主神の私利私欲な理由で剥奪される。ダオスと一誠は男神の考えを悟り、不憫でならないと口にしてしまうほど同情した。
「ま、こいつは料理人なのに冒険者だから
「俺はじゃない。この四人は第一級の実力者だ」
「ぶほっ!?」
あ、主神は知らなかったっけと食後の茶を啜っていた男神が驚きのあまり噴いて、汚い虹色が出来た瞬間を他人事のように見つめるダオス。そして咳き込む神を他所に用件を思い出して本題に入る。
「イッセー、既に襲われている後で申し訳ないが、私の番になるまで宮殿に住んでくれないか」
「その心は?」
「毎日お前の料理を食べに行くために暴走する主神を抑えるためだ。これは現王からの勅命であり、そしてそれらは私に全て一任してもらえた。どうか私と一緒に居てくれると物凄く助かる」
「ふーん、じゃあ中に入れるなら帝国の街中を観光していいよな?」
「主神が暴走しないなら構わない」
王子の乞いに了承する。その後、騎空艇を奪われないよう防壁の結界を張り準備を整えると一誠達一行は初めて帝国の中へ入るのだった。
帝国の都市の朝は活気的で賑やかさを醸し出している。この国で主神の眷族になると当然ながら
「それでは主神様、あなたは城に戻って大人しくしてください」
「絶対に昼飯になったら連れて来いよ!じゃなきゃまた暴走するからな!それと念の為に俺の衛兵を二人護衛にさせておくからな?」
絶対だぞ!本当に絶対だぞ!絶対だからな!と去りながら何度もうざったいほど振り返って釘を刺す主神の姿に帝国の民達は奇異な視線を向ける様は何とも居た堪れなかった。特に王子であるダオスが。
「自分の欲望に忠実なのはわかるけど、あそこまでなのか?オラリオの神々と大して変わらないな」
「・・・・・何も聞かないでくれ」
恥ずかしいところを見せてしまったと羞恥で身体を打ち震えさせる王子が気を取り直すまで少しだけ時間が掛かった。それから一誠達を色んな場所に案内する。商店街や武具店に魔法店、珍しいことに占い屋まであって一誠の関心を引き寄せた。他にも帝国の観光名所たる神を崇める為に建造された教会、都市の中心に長大な塔の天辺に巨大な金色の
「・・・・・イッセー」
ダオスが腕を掴んで半ば強引に歩かせる。そのまま謝罪の念を言葉にして向けた。
「嫌な物を見せてしまってすまない」
「ああ、本当だな。楽しい気分がすっかり失せた。この国にも奴隷商人が存在するんだな」
「国が大きくなるにつれ治安も安定しにくくなる。闇商人のような情の無い者達とって大きく成長した国は入りやすく、闇に紛れれば行動しやすい。気付けば何時の間にか悪が潜んでいたなど当たり前のようにいることもザラにある」
王子の発する言葉に従者たちが静まり返る。周囲の民衆の賑やかな声に包まれようと帝国の闇の存在で異様な雰囲気によって一誠達は馴染めなくなってダオスの言葉に耳を傾ける。その最中、周囲の目をごまかす幻と防音の結界を張った。話しが長引きそうな気配を感じ取ったが故に。
「そう言えば、お前には教えていなかったな。私が王位を継承するよりも果たしたいことがある中身を」
「ああ、言ってたな」
「お前のことだからもう察したかと思う。お前の料理で次の王に選ばれた際、私は戦争を止めさせ都市の治安回復に全面的に力を注いでこの国から闇と膿を取り除くことを現王、父上に進言するつもりだ」
確固たる強い意志と決意が孕んだ瞳を一誠に振り返りながら覗かせる。
「それならお前が王になっても同じことができるんじゃないのか?」
「・・・・・いや、それでは意味がない。私が王になってそれが叶ったとしてもそれは私の代までだ。だから祖父から課せられた王位継承権で得られるもう一つの方に懸ける」
それは何だ?と目で催促すれば彼から発される懸け事とは・・・・・。
「代々帝国の王とは、王を引退しても現王より権力が強い。だから次期王を求めることもできればそれ以外の願いも叶えてくれる決まりが昔からある。それを利用して私は自分の願いを叶えるつもりでいる。その為にはお前の料理の腕が必要なんだ」
「・・・・・この従者はそれに否定的っぽかったけどそれでもか?」
初めて店に訪れた時のことを思い出す一誠の指摘に老従者はポツリと己の意を打ち明けた。
「若の王位継承順位は一〇七位の最下位。現実的に王位に即位するなど夢物語に等しい。若は、他の兄君に嘲笑と侮蔑の対象とされ、暴力すら振るわれる毎日を幼少から過ごしていたのだ」
その時からダオスの従者として共に過ごしていたのだろう。当時のことを思いだした様子で皺くちゃな手を悔しげに固く握りしめてダオスに諭す風に乞うた。
「ですから他の兄君達を見返す意味でも、若が望む願いの為にも王位を狙う他ないと私は何度も申し上げますっ」
「・・・・・最後に産まれたのは運が悪いともう割り切っている。だからあの苦痛な生活でも堪え切れたのはお前の存在が常にいたからなんだ爺や」
「わ、若・・・・・っ!」
「それに私が王になれば兄上達は快く思わないだろう。私を暗殺してまで王位を簒奪した場合・・・その後のことまで考えているのか爺よ」
絶句する老従者の目が見開いた。二人の衛兵も一誠もダオスが予測する未来を悟って、何とも言えない気持ちで顔を顰める。ダオスを暗殺した後は―――
「他の兄上達もそうだが、私の周りには敵が多過ぎる。私の願いが王位を得ても叶えようとしても、直ぐに簒奪されては意味が無いのだ。だからこそもう一つの方法に懸けると私は決めた」
「お、おおっ、おおおっ・・・・・」
救いようが無い、ダオスの現状に憂いて慟哭する老従者。幼い頃から辛い目に遭って、その過去を清算する意味で王位を狙って欲しい老従者にとってこれほど悲しいことはないのだろう。二人の衛兵に無言で慰められ、場の雰囲気はブルーになってしまった中、一誠は質問した。
「・・・・・で、仮にもお前の願いが叶ったとして結局王位を決めるのはどうなるんだ?」
「現王が引退した時にまた王位を誰が継承するかを決める。これも過去に何度もあったことだから問題ない」
「帝国の歴史はすげーなおい。じゃあもう一つ、お前はその後どうするんだ。もしかすると狙われるぞ。王位を継ぐことも簒奪もままならなくなったお前のことを今以上に快く思わなくなるだろ?」
「その時はその時だ。例え私が帝国からいなくなっても帝国は存在し続ける」
肩を竦めて達観した意を示すダオスの気持ちを理解した。そして不謹慎であるがダオスは自分と同類であることを知って決意を固めた。
「(こいつを勝たせるためには俺の料理がカギ、か・・・・・面白い。こう言う真剣勝負は嫌いじゃないな)」
だが、その前にやることがあると衛兵に質問をした。情報が集まり次第、夜に決行する一誠の事を知ったとしても、人の皮を被ったドラゴンを止められる者は誰一人存在しない。
その日の帝国は虫一匹の鳴き声も野良犬や野良猫の気配もない夜を迎えた。時計の針は深夜の時刻を刺している。そんな中まだ建物の中で起きては獣のような我欲で忠実に動いている悪しき者達がいた。深夜の警邏をする兵士達が例えいようとこの広い都市の中をピンポイントで見つけるのは愚か、賄賂を渡して味方に付けて好き勝手に悪行三昧を楽しむ知恵を働かせる。そうして帝国の都市の中で生活を続ける彼等は、今夜も無理矢理強引に人の尊厳を奪ったり日頃のストレス発散するために傷めつけたり、豪華な料理や酒に溺れて変わらない一日を過ごす―――はずだった。
とある奴隷商人の屋敷の中では人身売買用に戦争で家を失くしたり親を亡くしたりなど、様々な理由で部下に集めさせるか捕らえさせた後、こうして死ぬまで全裸にして飾り物のように壁際に立たせて楽しむ趣向の持ち主の商人。
「ぐひひひ・・・・・今宵もこうしてお前等を肴にして飲む酒は美味いでおじゃる」
「―――そうか、それが最後の晩餐で構わないな?」
「なっ―――!?」
己の真後ろに気配を殺して佇んでいる者へ振り返ろうとしたその首に鋭く伸びた手に鷲掴みされた。そして鈍重な肉塊の体を持ち上げ出す剛力―――虚空から姿を表す仮面を被ってる【
「今まで他人の尊厳を理不尽に奪ってきた報いを今度はお前がされる番だ」
「き、貴様っ、は、放せっ!わ、儂を誰だと心得ているのじゃ!?この帝国を陰から支える大商人―――!」
「俺には無関係な話だ」
ぐっと握力を籠めた途端、迸る電撃が商人の体に襲い汚い悲鳴を上げながら失神し床に倒れ伏す。そしてその光景を突然見せられた女性達は【
「あなたは・・・・・神様の使徒様ですか・・・・・?」
「ただの偽善者さ。それよりも他に捕まっている人間はいるか?」
「え、は、はいっ。この屋敷には慰み者として捕らえられている人達がたくさんいます」
「わかった。そいつらも助けよう。そうしたらお前達は晴れて自由の身だ」
『―――――っ』
そう言いながら商人の頭を掴み記憶を読み取る。他の闇商人や奴隷商人と繋がりが分かれば窓の外へと放り投げ、屋敷内をくまなく探し、強姦をしている男を発見次第一撃で倒して女性を救いだす作業を何度も行い、最後は貯め込んでいた商人の財産を全て奪い取る。
『アルガナ、バーチェ、ベルナス、エルネア。そっちはどうだ?』
「―――ああ、順調だ」
別々に行動してる四人のアマゾネス達の傍に仮面を被ってる【
「商人が雇った野良の冒険者もいたが潰して構わなかったか?」
『殺してなきゃ何しても構わないさ。引き続き襲撃してくれ』
「わかった」
通信が切れると無防備な背中から剣を振り下ろしてくるならず者に、裏拳で殴り飛ばす。そして満月を背に立って自分を恐れる目で見つめる頬が赤黒くなっている男に舌なめずりする。
「この道具のお陰で
耳を覆う飾りを触れながら嗜虐心を剥き出しにするアルガナに、狙われたエモノは情けなく命乞いをする。それが彼女の嗜虐心を刺激させるだけだと言うことを弱い獲物は知る由もない。
「イッセーは死んでなければ何しても良いと言った。―――だから、オマエいい鳴き声をあげろ」
何を言っているか理解できずとも爬虫類の瞳を思わせるその目から感じる獰猛さに、恐怖で顔を皺くちゃに歪める弱いエモノは・・・・・振り下ろされた拳打で伝わる激痛に伴う悲鳴を夜空にあげたのだった。
バーチェが襲っている屋敷に捕らえられている奴隷達を解放していく中で意外な人種がいた。視線を向けていれば檻の中で互いを抱きしめ合う二人のアマゾネスが警戒心を剥きだしにして睨みつけてくる。気が強いようで格上の存在である彼女に威嚇する様はバーチェに好奇心を抱かせた。
「―――――」
話しかけようとして思い出す。彼女等は
「私達はお前達奴隷を解放しに来た」
何を言っているのか分からないアマゾネスと耳飾りで翻訳されて言葉の意味を理解できて驚くアマゾネスの差は歴然だったが、自分達を助けてくれるのだと説明をしてくれたようで信じられないものを見る目でバーチェを見つめる。
「助けた後はお前達の自由」
織の鉄格子を掴むと、第一級冒険者の力に恥じない腕力と握力で強引に広げて人一人分は余裕で抜けだせる空間を作った。そして出ろと顎でしゃくったところで【
ベルナスとエルネアも同様に闇商人や奴隷商人に襲いかかって文字通り潰し終え奴隷達を解放し終えた。それから五人は捕まえた者達を連行して合流を果たすと木で組み上げた十字架に張り付け
「・・・・・・」
腰まで伸びた長い白髪に白い服装の老人が老いたとは思えないピンと背筋を伸ばした姿勢で帝都を見下ろしていた。どこか寂しげに黄昏ているようにも見えていたが扉を叩く音で窓から視線を外して入室の許可を了承する。
「失礼します。今夜の食事のことでお伺いに参りました」
「今夜はダーネスの番であるな」
「はっ、その予定の筈でしたが・・・・・ダーネス様がお招きになられた料理人が謎の失踪をしてしまい、代わりにと思いギャミック様がお招きした料理人も・・・・・不良の事故で料理が作れずになりまして、三日後に控えていますダオス様がお連れしました料理人の料理を食してもらうと言う変更を」
「・・・・・またか、これで何度目だ?孫達は相手を陥れることだけには長けて他はてんで駄目ではないか」
不満げに白い眉の根を寄せて顔を顰める老人に報告しに来た執事は「心中お察しします」と相槌を打つ。しかしどれだけ老人が愚痴を言っても事態は変わらない。
「もうよい、であれば今宵はダオスの料理人に作ってもらうがその料理人はどこだ」
「はっ、主神様の暴走を抑える為にダオス様が既にこの宮殿の中に招いております」
外の世界の情報が耳に入ってくることはあまりなく、隠居生活として残りの余生を籠の中の鳥の如くこの部屋に閉じ込められて随分長い老人は、主神の暴走の原因も知らないでいたために問うた。
「何故主神が暴走したのだ?」
「何でもダオス様がお連れした料理人の料理に夢中になったご様子で、帝都に到着して以来ずっと主神様は専属料理人達が作る料理を食べずに四銃士を引き連れ帝都の外まで出向いたからです」
安易に外へ出向く男神を止めようとして動く城の者達と騒動を起こし暴走・・・・・その原因の料理人の料理で、宮殿の中でその料理を作れば暴走は止まる・・・・・ということか。
「主神の言動はいつものことだが、何かに執着して行動するのは久しいな。して、その料理人はどこから来た者だ」
「迷宮都市オラリオからです」
「あのダンジョンがある都市からだと?よく戻って来られたものだな」
心から感心した老人は長く伸びた髭を擦り、何か考え事をする仕草をすると頷きだした。
「興味が湧いた。ダオスとその料理人をここに呼び出すのだ」
「一介の料理人もですか?」
「あの快楽主義の神が夢中にさせる料理を作る料理人だ。この宮殿に仕える料理人ではできないことだぞ?」
「・・・分かりました。では直ぐにお呼びいたしましょう」
恭しく一礼した後、部屋を後にして二人を呼びに行った執事を見送り再度窓の外へ視線を送った。
「・・・・・もう儂の寿命はそう長くない。最後ぐらいは懐かしい料理を食べてみたいものだな」
ダオスの計らいによって用意された部屋で待っていると見知らぬ執事が入って来て「前王が謁見を求めている」と同行を求められた。従えばダオスもいて共に前王、現王の父親にして王子達の祖父の許へ赴いた。
「お前、何か呼び出されることをしたか?」
「それはこちらのセリフだと言わせてもらいたいが、大方お前の料理を興味持ったのかもしれない」
「まだ食べさせても無いのにか?俺のこと知らないはずなんだが」
「その筈だが・・・・・どういうことだ?」
二人の前を先導する執事に素朴な疑問をぶつけたら淡々とした口調で答えてくれた。
「ダーネス様とギャミック様がお連れした二名の料理人が不良の事故に遭い、結果三日後に控えておりましたダオス様が今夜、前王様に料理をお出しいただくことになられたご報告をする際に主神様のことをで・・・・・」
「・・・・・私が連れてきた料理人の話しをして興味を持ったということか」
執事の言葉を紡ぐ風に言うと「左様です」と短く返事をされ、そういうことかと納得した二人。一誠も質問した。
「事故に遭った料理人はどうなってるんだ?」
「手厚く介護をしておりますが、行方を暗ました料理人は現在でも捜索中です。ですのであなたもお気を付けてください。王位継承の時期になると表面上では平穏で、穏便に事が進んでいるように見える半面、水面下では王子同士の派閥争いで阿鼻叫喚、地獄絵図の争いを繰り広げておりますので」
「んじゃあ、何時だったか襲いかかってきた暗殺者を仕向けてきたのは王子達の中じゃ当たり前なのね。それにしても料理人にだけ襲って王子を狙わないのはどうしてだ?そっちの方が効率がいいと思うんだが」
「それは主神様の計らいだ。全ての王子達が何らかの理由でも揃わなければ王位を継承できない緘口令を敷いた。次期帝国の王の座を手中にしたい兄上達は、自ら棒を振るうわけにもいかず別の方法で妨害することにしている」
血の争いが絶えない帝国の内情に深い溜息を吐いた。王位に就いたら欲望や野望のまま好き勝手に国をどうこうすることができる王子達に飼い殺しされるだろう住民達が不憫でならない。帝国の未来は何だか危ういなと他人事のように思っている間に執事の足が黒い木製の扉の前で止まった。
「こちらでございます」
「ああ」
執事が扉の横に立ち沈黙を貫きだす。ダオスが一誠に一瞥して扉をノックする。
「前王様、ダオスでございます」
『入れ』
入室の許可を貰い扉を開ける王子に続いて入り、質素な部屋が二人を出迎えた。必要最低限に用意された家具しかない部屋の主は一言で言えば、魔法を極めんとした年老いた魔法使いの印象が強い老人だった。そんな老人が二人に黒い目を向けて立っていた。
「お久しぶりでございます。前王様」
「よせダオス。昔のように儂のことをお爺ちゃんと呼んでも構わん。儂に会いに来た孫は今のところお前が初めてだからな。儂は実に嬉しいのだよ」
好々爺のようで真っ直ぐダオスの前に寄って抱きしめれば若き王子も抱きしめ返し抱擁を交わす。そして一誠には品定めするような目付きで見つめだす。
「・・・・・ほう、ダオスが連れてきた料理人はどんな者かと思えば随分と若いな」
「私がオラリオに訪れ彼の店に入ると殆ど一人で切り盛りしておりました」
「ふむ、技量が高いと見た。してお前の料理は一体どんな物を作るのだ?あの破天荒な神が昼夜問わず都市から抜け出してまで食べに行くほど美味いのだと話は聞いている」
破天荒な神と認識だけは同感だと心中同意して語る。
「初めまして、『異世界食堂』という店を営んでいる店主のイッセーでございます。俺が作る料理は異世界に来たような、誰も味わったことが無い料理や酒を振る舞わせてもらっています」
礼儀正しく王族がするような作法をして見せた一誠にダオスは驚いた様子で目を見開いた。そして前王の目が細まる。
「異世界の料理だと・・・・・」
「はい・・・・・?」
答えてすぐ、前王から感じる鬼気迫る雰囲気に不思議そうな面持で見つめる。ダオスも一誠が失礼なことを無自覚でしたのかと身構えそうになって成り行きを見守る姿勢でいた時、前王が静かに口を開いた。
「・・・・・異世界の料理・・・・・ふふ、ふははっ、ふははははは!」
「「・・・・・」」
突然笑い出す。ぽかんと二人揃ってキョトンとした顔で腹を抱えて笑う前王に視界に入れ続けるしかできなかった。程なくして目尻に涙を溜めて落ち着きを取り戻した老王は笑みを浮かべながら言った。
「異世界の料理ならば今直ぐ作ってもらおうか店主イッセー」
「は?今直ぐ?」
「今直ぐだ!そして作ってもらうのは―――カレー!無論、作れまいと言うなよ?」
教えた覚えのない異世界の料理を注文した不敵に笑む老王に一誠は目を見開かずにはいられなかった。更に驚きの連続が止まらない。
「昼はカレーにして夜は牛丼、いや麻婆豆腐、いやいいや生姜焼きも惜しい。むぅ・・・・・この際だ。腹に入れられるだけ食い尽くしてみせよう!」
後にダオスが語る。「あんなにはしゃいだお爺ちゃんは始めてみた」と。
老王の押しに負ける形で昼食はカレーを作った。出来上がった食欲をそそる数多の香辛料を使って感じる香りを鼻を大きくして吸い込み、多幸感極まると顔が綻んで手にしたスプーンでルーとホカホカの米を一緒に掬い口に入れた途端に。
「グスッ・・・・・!」
涙を流す大袈裟な反応に一誠とダオス、突然食べに来た男神と衛兵達は言葉を失った。若干ドン引きだ。泣く事かと口に出したいが老王の
「美味い、カレーがこんなに美味いく感じる・・・・ああ、懐かしの料理を食べれて儂は幸せだぁ」
「そ、そうか。それはよかったな」
うめぇ、うめぇよぉと泣きながらカレーを食べ尽くすとお代わりを所望する老王。なんとも言えない気分でご飯とルーを皿に盛って返すとまた泣きながら食べるのでダオスは聞かずにはいられない。
「それが故郷の料理ですか?」
「うむ、儂の故郷の料理を作れる者がいたとは驚きだ。イッセーと言ったか。よく孫の頼みを受け入れ帝国まで来てくれたな。お前の行動力があったこそ念願の故郷の料理を食べれた、感謝する」
頭を垂らす老王に首を横に振る。
「『異世界食堂』の料理を食べたいと言われたらどこでも出張するさ」
「ふふっ、己を誇示せず敢えて店の料理と主張するか。謙遜していない辺り、腕に自信があるのだと暗に言っているな?」
「さて、それはどうかな?」
フフフフ、と初対面の筈なのに何故か良好な関係を築いた一誠と老王だけが何か通ずるものがあるのやもしれない。それが何なのかダオスにはさっぱり理解できず、感動で涙を流しながら食べる老王と昼食を共にする。
「―――さて、不良の事故で作れない料理人を連れてきた王位継承権利がある子供達を除いて今日ようやく終わったが、お前の中でもう決まってるのか?」
その後、食べ終えて食器を片づけに部屋を後にした二人を見送って男神が尋ねると老王は頷いた。
「発表は早い方がいい。故に今夜決行する」
「気が早ぇな。三日後でも構わないんだぜ?」
「ダオスの番で終えた時点で遅いも早いも関係ない。そして今回、帝国の膿を燻り出すことが出来たからには早急に動かねばならない」
「おーおー、自分の身内だってのに容赦ねぇのな。帝国に混乱が齎されることがないよう祈るかね」
神が誰に祈るのかと、大して深く気にしていないような笑みを浮かべる男神に呆れた顔を下に落として満腹になった腹を擦る。寿命が尽きかけていたところ、老王の切なる願いが叶った事にもはやこの世に未練はないと口元を緩めた。