ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか   作:ダーク・シリウス

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冒険譚16

王女を除く全ての王子達が緊急招集を掛けられた。帝国、男神の象徴の徽章(シンボル)を服のどこかにある制服を身に包み、王に敬意を表す姿勢で腰を落とし静かに時を待った。年長者は最大で三十代、最年少は十五歳とかなり歳の差が離れている兄弟、異母兄弟が数十人以上いる。さらにそこに王女も含めると百は優に超えるのだから現王の精力は絶倫であると物語らせる。そんな彼等の傍には騎士(ナイト)から聖騎士(パラディン)の階級の兵達が顔を揃えて王子達や王の護衛として彼等も招集を受けたのである。王座の間に走る緊張感と静寂。現王と王妃、男神が座る目の前で老王が威風堂々と佇み「面を上げよ」と言う。

 

「我が孫達よ。老い先が短い儂の我儘を聞き受けて感謝する。孫達の働きで世界中の料理を―――半分も満たぬが味わうことができた」

 

内心嘲笑、悔恨が渦巻く王子達の顔を視界に入れながら淡々と話しを紡ぐ老王は、長い話しをせず本題に入った。

 

「ではこれより、お前達が連れてきた料理人のどの料理が美味であったか発表する」

 

呼ばれる者は不敵に笑みを浮かべるか真っ直ぐ老王の言葉を待つ、呼ばれぬ者は悔しげに顔を顰めるか諦観して耳を傾ける。騎士達も次期王は誰かと注目して意識する。未来の帝国の舵を切り、繁栄を齎す重大な義務を課せられる半面―――強欲、欲望のままに豪遊ができて王の権力を思いのまま振るえ、死ぬまで帝国を生かすも殺すもその王位を継ぐ応じ次第となる危険性も伴う。この場にいる全員がそれを認知し、承知の上で次期王を決まる瞬間を待って見守る・・・・・。

 

老王の口唇が動く。

 

「迷宮都市オラリオで構える『異世界食堂』の料理、カレーである」

 

カレー?なんだそれは?しかも、誰があんな場所まで行ったのかと王子達の顔は怪訝に顰めたが、老王の言葉を遮る無粋な真似はしない。

 

「カレーは実に美味であった。『異世界食堂』と名を掲げるに相応しく異世界の料理を食べたような錯覚を覚えさせ、今まで食してきた料理と一線越えていた。よって儂はカレーを作る料理人を連れて来た者を次期王に任命する」

 

ただ一人除いて、オラリオにまで向かっていない王子達の内心は疑心で渦巻いていた。オラリオを筆頭に帝国と魔法大国(アルテナ)、他少数であるがLv.3以上の団員を保有する大国が存在しているものの、オラリオは警戒する都市だ。敵地に忍び込むような真似はしたくないのが本心でもある。しかし、各国の料理人を捕まえて帝国に連れていくにはどうしてもそうしなければならない。もしも帝国のスパイが捕まえられれば帝国の情勢が明るみになり、弱みを握られてもおかしくないリスクを覚悟して次期王位を決めるこの前老王の望みを叶えんと躍起になっていたのだ。それを一番危険な都市オラリオに向かった王子はどこの誰だ―――と思った矢先。

 

「王位継承順位百七位のダオス・ラーズグリーズ・クリールフス。前に」

 

どよめく王子達の視線を一身に集めながら立ち上がるダオス。王達に続くレッドカーペットを踏んで真っ直ぐ近寄る。

 

「お前が連れてきた料理人は帝国の総料理長を凌駕する腕前を持っていた。よくオラリオから招いた。その勇気と行動力も称賛に値するぞ」

 

「ありがとうございます」

 

「―――ま、待ってください!」

 

一人の王子が待ったを掛けて立ち上がった。

 

「僕達より王位継承が一番低いそいつが、オラリオに行けるはずが無い!あんな粗暴で汚らわしい冒険者がいる都市の店が出す料理なんて僕が連れてきた料理人よりも美味いとは思えません!」

 

「そいつは間違いないぜ?お前達の主神、この俺が直でその料理人と話しをし、飯も食ってきた。ありゃあ本当に美味しかったぞ。こいつが泣くほどにな」

 

反論する王子を愉快そうに笑みを作って証人もとい証神として助け船を出す男神。神まで口出すということはダオスが本当にオラリオに向かい、カレーとやらを作る料理人を連れて来て老王を認めさせたのは事実であるということになる。

 

「はぁ・・・・・あのカルビ丼ってやつも美味かったよなぁ。な、四銃士諸君よ」

 

「「「「はっ!また食べたいです!」」」」

 

恍惚と顔を蕩けさせる男神に周りから厳しい目と視線を向けられようと、本人達は気にもせずに清々しい顔で同意したのでますます信憑性が高まる。

 

「し、信じられない!まさか、ダオスが主神様と前王を脅して王位を手に入れようとしているんじゃ!」

 

「おいおい、そんな馬鹿な真似を俺達に堂々としたら即刻剥奪しているっての。というか、できるわけが無い」

 

「そんなの、オラリオの薄汚い冒険者を雇ってすれば・・・・・!」

 

未だに認めようとし無い王子の言葉に同意する王子が現れれば、目立った動きをせずに否定的な目をして同意する王子達も出始めて抗議の異を唱える。老王と現王は王子達の言動に眉根を寄せ、男神は呆れた風に溜息を吐いた。この事態をどう収拾するか決めあぐね、困惑していた時―――。さも当然のように扉を開けて真紅の長髪に右眼に眼帯を付けた隻眼の青年がヒョコっと顔を出した。

 

「えっと・・・・・まだ終わってないみたいで?」

 

「「「「「誰だお前(貴様)っ!」」」」」

 

綺麗に異口同音で突っ込む王子達に眼を瞬かせるダオスと老王。これ見よがしと深い笑みを浮かべた男神が立ち上がって「飯が出来たんだな?」と話しかけたのであった。

 

「あーうん、直ぐに終わるって思ってたからもう作り終えてる。ビーフシチューだ」

 

「むっ、ビーフシチューだと!」

 

老王があからさまに反応して顔を輝かした。王子一同、あんな前王は見たことないと目を丸くする。その反応を見て男神の頭の上に豆電球が光った。

 

「飯をここに運んで来てくれ。大至急だ」

 

「えっ、いいのか?王位継承の方は?」

 

「ダオスが王など認めねぇって抗議されてそれどころじゃねぇんだわ」

 

肩を竦める男神から視線をダオスに変えてみれば肯定と言葉が飛んできた。青年は了承して一度扉を占めた。

そしてすぐに人の胴ほどある鍋と大量に盛られてる野菜や皿、スプーンやフォークを台車に乗せて運んできた。

 

「はい、持って来て正解だったか」

 

「はよう、はよう食べさせろ儂のビーフシチューをっ」

 

もう老王はお預けされた子犬のように見えて仕方が無いダオスも、ごく自然に便乗して配られるビーフシチューを手にする。現王や王子達が見ている手前で彼等は当たり前のようにその場で食べ始め・・・・・。

 

「はっはっはっ!スープやシチューなら飽きるほど食べて飲んできたが、このビーフシチューはまた格別に美味いなぁ」

 

「おおお・・・・・懐かしい味がまた・・・・・」

 

「前王、皆が見ている前で泣かないでください」

 

寸胴鍋から芳醇な香りが漂い、王達の鼻の中に通るとゴクリと喉が動いた。それを知ってか知らずか、二人前のビーフシチューをよそってもらい、王と王妃に持って行くダオス。

 

「父上と母上も試食してみてください」

 

「・・・・・わかった」

 

毒味はする必要が無い。目の前で泣きながら食べる前王を見て疑えと言うのが無理である。スプーンを持ってビーフシチューのスープと煮込んだ牛肉ごと救い上げて一緒に口の中へ入れた。

 

「―――なんだ、この料理は・・・・・っ」

 

絶句する王、目を丸くする王妃。このビーフシチューとは、今まで食してきたスープとは段違いな美味が詰まっていた。ナイフで切り取って口の中で噛み切るように食べるのが当たり前の牛肉が、口の中で噛み締めるとあっさり崩れてビーフシチューの味と共に肉の味が舌全体に広がる。

 

「どうですか父上。このビーフシチューはオラリオにいる二大派閥の一つ、【フレイヤ・ファミリア】の主神が好んで食している物なのです」

 

「なんと・・・・・これが、噂に聞く美の女神が好む料理なのか」

 

「それだけではありません。私はオラリオに半月ほど住み、彼の店を通い詰めて分かったことがあります。『異世界食堂』は冒険者だけでなく多くの神々をも虜にする異世界の料理がまだ多くあり、ビーフシチューはその一つに過ぎないことを」

 

それらの料理を作っているのが彼―――『異世界食堂』の店主、イッセーなのだとダオスは告げる。

 

「そして父上、私は王位を継ぐつもりはございません。代わりに自国や領の治安に今より更に力を入れて良き国にしてほしいのです。他国に侵攻して、戦争をする度に増える戦災で犠牲に遭った人々や路上生活(ストリートチルドレン)の者達に救いの手を伸ばしてあげて下さい」

 

「・・・・・それがお前の願いなのかダオスよ。お前が王になればできることだと分かった上で言っているのか」

 

「私が王位を継いだとしてもそれは一時のことです。ですから直接父上に進言し、戦争を止めてもらい帝国の闇と膿を完全に排除し、他国のことより自国の領民を視界にいれてもらいたいと思っています」

 

王の前に跪き頭を垂らして切に願った。

 

「お願いいたします父上」

 

「・・・・・」

 

前王に乞わず、現王の自分に乞う息子に難色を顔に浮かべる。属国化を望んで戦争を仕掛けている王にとっては素直に首を縦に振ることはできない。であるが、せっかく夢物語から現実的になった王位継承の権利を返上してまで国を思うダオスの真意を無碍にはできない。結果を楽しみにしてニヤニヤと笑みを浮かべる男神、現王の答えを待つ老王、隣で見守る王妃の視線を受けながらダオスに対して結論を述べた。

 

「お前の真意は理解した。だが、戦争は止めるつもりなどない。これは私自ら決定したことだ。前王に言われようと帝国の繁栄と栄光を更に得る為にな」

 

「・・・・・」

 

押し黙るダオス。王位を返上してまで叶えたかった自分の願いすら現王に届かず、背後から聞こえる嘲笑と侮蔑の声が聞こえようと湧き上がる感情を押し殺して自身の行動の結果を受け入れた。

 

「戦争は止めない。だが、お前の願いは聞き届けよう、ダオスよ」

 

「っ!?」

 

再度、ダオスの願いは叶えないという言葉の後に、現王が他の望みなら聞き届けるという言葉を述べた。思わず瞠目して、現王を、父親を見つめる彼に王はビーフシチューを食べつくした皿を見せつけた。

 

「王位を得ることよりも国を一番に思っているお前に、この料理を巡り合わせてくれたお前に褒美を与えねば、後で親父にどやされそうであるからな」

 

父親としての顔をした王を見たのは何時だったか、拒絶されたと思っていたダオスを驚かし、玉座から立ち上がる王は王子達に問うた。

 

「王位を得る為に水面下で醜い派閥争いをしていただろうお前達よりは国を思う心があったダオスに、蔑む言葉や嘲笑は不要だ。それでもダオスの願いと私の決定に異論があるなら遠慮なく抗議するがいい。昨夜―――闇商人と奴隷商人が何者かに襲撃され一網打尽、背後関係を洗い浚い吐いてもらえば・・・・・お前達の中に連中と繋がっている者がいるとわかっているからな」

 

王子と奴隷商人、闇商人と繋がりがあることが発覚した。その事実を突き付けられた彼等は内心はもちろん顔は酷く動揺し焦燥や嫌な汗を浮かべてバレた後のことを思ってか、身体を不自然に震わす王子まで現れた。

 

「帝国に巣食う闇と膿の完全な排除。ああ、それは確かに必要であるな。私の威厳と帝国の威光を穢す不必要な要素は全て排除せねばならん」

 

自分の保身と国益、公私混合を同時に述べた王の言葉に堪え切れなくなった王子が王の膝元で懇願した。

 

「ち、父上!違うのです、私は卑しい商人どもと繋がりなんてございませぬ!」

 

「ならば堂々としていればよい。お前の行動は自ら関係を持っていることを認めているようなものであるぞ」

 

「誤解です!私は身の潔白を証明するために・・・・・イリージス、レイギア、アルゴル、レイネス、他にもあの連中と繋がっている王子がいると報告を!」

 

「「「「オカマ、貴様っ!?」」」」

 

「・・・・・主神様」

 

「あー、うん。そいつの言っている事は嘘だし、今否定した連中も嘘は言ってないぜ」

 

神の前では嘘をつけない。自ら暴露したと自覚した王子達は、苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべ怒りと敵意の炎を孕んで現王に進言した王子を睨みつけ、最後の苦しい言い訳をするのだが。

 

「今名が挙がった王子達を取り敢えず捕縛し牢屋に入れろ」

 

『ハッ!』

 

溜め息吐く王の命で、待機していた騎士達が剣や槍を構えて王子達を取り囲む。自供した王子すらも取り押さえられて王座の間から追い出される形で牢屋へ連れられた後も残っている王子達に告げる。

 

「お前達もこのあと全員主神様の前で白か黒かハッキリとさせる。もしも身を隠したり帝都から逃亡した者は帝国中に指名手配をして懸賞金も懸ける。生死問わずでな」

 

関係を持った者とそうでない者の反応と態度が一目瞭然なのは敢えて無視した。が、こんな結末は認められないと自棄になった王子が王に近づく。

 

「どうか、どうかご慈悲を父上!」

 

と演技をしながら袖の中に隠していた凶刃を取り出して―――。

 

「くたばりやがれクソデブ親父!」

 

「お前がな」

 

真後ろから頭を掴まれ床に叩き伏せられた王子に電撃が迸る。そうした青年は呆れた風に息を零す。

 

「演技をするならもっと上手くなってからにしろ。見え見えなんだよお前の一連の行動が」

 

黒焦げになった王子をまだいる衛兵の足元へ放り投げダオスに声を掛ける。

 

「願いが叶ってよかったなダオス」

 

「お前のお陰で願いは全部ではないがそれでも叶った。ありがとうイッセー」

 

「どういたしまして。それじゃ、俺の役目は果たせたってことでオラリオに帰らせてもらうよ」

 

一誠の言葉に名残惜しそうに見つめるダオス。しかし、何時までも帝国にいられるほど一誠は自由ではない。残念に思うが仕方がないと最後に乞うた。

 

「最後に、私の願いを叶えてくれるか」

 

「今度はなんだ?」

 

「なに、とても簡単だ。手間も掛からない。・・・・・私の、その、ゆ、友人になってくれないか」

 

面と向かって言うのが恥ずかしい様子で、初めて誰かにそう言ったのか照れ臭そうに顔を反らし、頬に朱が散らばった。それがとても初々しくて、笑みを浮かべたまま頷いた。

 

「いいぞダオス。改めてよろしくな」

 

「・・・・・ああ、よろしく」

 

友情の印としてお互い握手を交わした。微笑ましいその光景を見せる二人に王妃は満足げに頷き、そして現王が話に割り込んできた。

 

「待て、オラリオに戻らずこの帝国に店を構えていればよい」

 

いい雰囲気を霧散させる一言で、場は「何言い出すんだこの王は」と呆れムードになってしまった。男神と老王は物凄く空気読めよと言いたげな視線を送るも王は目の前の利益に夢中で気付かない。

 

「却下。俺には俺の居場所があるのさ。というか、主神から聞いてないか?俺の店の常連客となっている神々が無理強いされて帝国にいさせられている俺を取り戻さんと攻めて来るぞ」

 

それは痛くも痒くもない脅しと大胆不敵に言う。

 

「そんなコケ脅しなど私には通用せんわ!者共、この料理人を捕らえよ。今日からこの者の料理を思う存分食べるためにな!」

 

え、本気(マジ)かよ?と騎士達が仲間同士と顔を見合わせ、困った風に躊躇して戸惑いを他所に一誠は気にせず扉へと歩き始めた。

 

「パラディアよっ!ジークフリートよっ!」

 

行かせまい―――!扉と一誠の間に滑り込むよう移動した白銀の甲冑を着込む空色の髪をオールバックにしてる中年の男性と紫色の長髪に黒一色の甲冑に身を包むの女性が立ち塞がった。

 

「そやつらは帝国で唯一、Lv.5の騎士!ただの料理人のお前では赤子当然よっ!」

 

吼える王に同情の眼差しを送る聖騎士(パラディン)二人。王の命を従わなくてはならない義務故に拉致軟禁するような真似は騎士して本意ではないが、それでも忠義を示さなければいけない。脅しのために鞘から抜き放った剣を突き付けた。

 

「・・・・・なんか、デジャブを感じるよ」

 

何時だったか、どこかの【ファミリア】の主神もこんな感じで無理強いで手元に置かんとしていたことを思いだした。あの時は常連客の神々と眷族がいたから事を穏便に済ませられたが今回はできない。

 

「二回しか言わない。そこをどいてくれ」

 

「・・・・・すまないが、それはできない相談だ」

 

「理不尽だと思っても仕方が無いけれど、言うことを聞いてほしい」

 

自分達も心底遺憾ながらな、と聖騎士(パラディン)達は述べる。だったら従わなければいいだけじゃね?と思うがそうもいかないのが帝国なのだ。―――二度目の乞いを口にする。

 

「オラリオに俺の帰りを待つ人達がいるんだ。だから帰らなきゃいけない、そこをどいてくれ」

 

「「・・・・・」」

 

沈黙を貫く二人と申し訳なさそうな面持ちで取り囲む四銃士と騎士達。彼等の心情を察して汲み取り、最後に乞うた。

 

「今から五秒間数える。その間にそこをどかなければ、この城を滅茶苦茶にする。―――お前等の好きな戦争をしてやるぞ」

 

左目が大きく見開き、瞳孔が更に細くなり一誠から凄まじい威圧が放たれる。とてもただの料理人が感じさせる威圧ではないと騎士達は凍結したように固まる瞳でたじろいだ。

 

「5―――」

 

カウントダウンが始まった。

 

「お前達、武器を収めそこをどくのだ!私の友人に無礼だぞ!」

 

ダオスが包囲網を敷く騎士達に叫ぶが効果は薄く、ならば力づくでと動いた彼に危険だからと騎士達に羽交い締めにされ引き離される。

 

「4―――」

 

猶予があるうちにそこをどいて欲しいと睨みつける一誠に対してLv.5の二人の騎士は脅しでなく未知の相手と認識を改めて臨戦態勢に入った。だが、この場にいる全員は気付きもしないことが起きている。

 

「3―――」

 

満月の夜の帝都上空に巨大な船が接近していることをそして甲板から真っ直ぐ城へ決河する勢いで飛びだす四つの影。

 

「2―――」

 

その先には玉座の間を隔てる壁。褐色肌の拳と足を突き出し分厚い壁を粉砕し突破する。

 

「1―――」

 

中に侵入しても勢いは止まらない。そこでようやく壁が壊された音を拾った王達は一誠から意識を逸らし、亀裂が入った壁へ目を向けたと同時に。

 

「0―――」

 

壁をブチ破る四人のアマゾネスが騎士達に近接格闘で攻撃を仕掛けた。突然の奇襲に騎士達は対応に遅れ、玉座の間はあっという間に阿鼻叫喚に包まれた。これには王達は腰を抜かして驚くしかない。

 

「城が滅茶苦茶になった原因は誰なのか、よーく考えて後悔しろよ帝国」

 

誰に向かって言ってるのか定かではないその言葉の後、パラディアの腹部に拳をねじり込んで天井へ打ち上げた瞬間に斬り掛ってくるジークフリートの手を掴み引き寄せて顔を近づけた。至近距離で異性と見つめ合い動揺が目に浮かぶ―――が。天井から落ちてきながら剣を突き付ける聖騎士に向かって放り投げられ、腕に集束する光が巨大な拳と化して突き上げられた。さながら巨人の拳に殴られたような感覚とダメージを全身に味わいながら天井を突き破りながら霞む意識の中、最後に見たのが帝国の月夜だったことを女騎士は覚えて意識を落とした。

 

「な、なぁっ・・・・・!?」

 

帝国最強の二人が破られた衝撃の光景に王は腰を抜かして尻餅をつく。ダオス、他の王子達、騎士達も目を見開き身体を硬直させて動きを止めている間。誰も攻撃してこないことを見渡しながら確認し、アルガナ達が空けた穴の方へ歩いて行こうとしたがダオスに振り返る。

 

「ダオス、またオラリオに来い。何時でも歓迎する」

 

「・・・・・お前、本当に只者ではないな」

 

「ああそうだ。俺は―――異世界から来た人間でもあるからな」

 

それを告げ老王に一瞥をくれると、彼の王は静かに笑みと共に口の端を吊り上げていた。意味深に一瞬だけ視線が交じわったが直ぐ視線を壁の穴の方へ向けて歩き始める。

 

「王様、被害がこれだけで済んで運がいいぞ。俺の知り合いの【ファミリア】が俺を助けに帝国に攻め込んだらこれ以上の被害がきっと出ていたんだからな。だから―――オラリオに喧嘩を売るような真似はしない方が賢明だぜ?」

 

最後にその言葉を残して城の傍に停船している騎空艇に乗り込む。後に来るアルガナ達の足場を魔方陣で用意しながら指を弾く。壊れた個所が一人で勝手に元通りに修復していく様を最後まで見ず船を動かして帝都から遠ざかる。

 

「はははっ!完璧に負けたなお前等、やっぱオラリオはつぇーわ」

 

「わ、笑いごとではないぞ主神様!私達に喧嘩を売ってきたあの者の捕縛を・・・・・!」

 

「空の上にいる相手をどうやって捕まえるつもりだ。また城を壊されたらお前の責任だぞ」

 

「・・・・・ああ、また会いに行く。必ずな」

 

 

 

 

 

「・・・・・なぁ、故郷に送り返しに行ったんだよな?」

 

「お前の言うとおりにな」

 

「じゃあ、何で思っていたのより減っていないんだ?商人達から強奪した金を渡して人並みの生活ができるはずだぞ」

 

騎空艇に戻って直ぐ、違和感を察した一誠。甲板から空や地上を見下ろす少女から大人の女性を見てアルガナに疑問をぶつけた。商人達に囚われていた奴隷達を助けたその日に船を飛ばして彼女達の故郷に点々と向かって送り返しに分身体とアルガナ達に任せていたのだが、当人が言ったように予想したよりも船に残っている人数が多かったのだ。

 

「元々孤児で身寄りが無い奴がいれば、色んな理由により自力で生きることができない奴。そして助けてくれた私達に恩を返したいがためについて行きたいと願う奴がいた」

 

アルガナが明後日の方へ視線を向けた。一誠も釣られて左目を向けると、アマゾネスの少女達に付き纏われてるバーチェが困ったように眉根を寄せていた。

 

「・・・・・懐かれてる?」

 

「助けられてから妙な憧れを抱いたようだ、あの同族はバーチェに。で、あいつらをどうするんだ。オラリオに連れていくのか?」

 

「取り敢えずそうする他ないな、他に宛がないんだし。身寄りが無い奴は戦いに無縁な人や場所に住まわせる。俺達に恩を返したいと言う奴は、俺の店で働くか冒険者になってもらうかだ」

 

都市に戻ったら色んな【ファミリア】に求めなきゃいけないな、等と思いつつももう一つ。あることを考えた一誠やアルガナ達を乗せた騎空艇の船底に巨大な魔方陣が展開され、光に包まれれば一瞬で帝国の領土から姿を消した。そしてその後、オラリオの上空にガレオン級以上の船が光と共に出現。『幽玄の白天城』に帰還すればリヴェリア達が総出で出迎え―――一誠達の後ろから現れる女性達を見て半眼。

 

「・・・・・イッセー、帝国でまた女を集めたのか」

 

「奴隷達を助けただけだし。これからこいつらを引き取ってくれる【ファミリア】を探すんだ」

 

「うちは大歓迎やで!皆レベルが高い上に選り取り見取りなんて幸せやー!」

 

うへへぇっ!とエロ親父の顔を、弛緩を緩めて下品な笑みを浮かべるロキに帝国から連れてきた女性達全員が非難の眼差しを向けたり恐れて一誠達の後ろに隠れたりと否定的な態度をされた。それが不思議で首を傾げる女神に淡々と教える。

 

「ロキ、皆帝国で闇商人や奴隷商人達に酷い目を遭っていたんだ。リリア達のようにな」

 

だから下品な考えや下心で勧誘するのは止めろ、と注意してもロキの第一印象は良くない方で認識されてしまったので後の祭りである。彼女達が帝国でどういう生き方をしていたのか、そう言われて察したヘファイストスは尋ねた。

 

「引き取ってくれそうな【ファミリア】、主神に宛てがあるの?」

 

「ん、戦いとは無縁の【デメテル・ファミリア】に頼んでみようとは思っている。全員無理だったら俺の店の従業員になってもらうさ。助けてくれた俺達に恩を返したいって人もいるんだ」

 

「本当に、あなたは最後までやり通す責任感はあるのね」

 

「理不尽な運命を強いられている奴を見ると放っておくことができない性質なんだ。我ながら甘いと思っているよ。偽善者だとな」

 

苦笑する一誠を見て、アリシアが頭を被り振る。

 

「違います。そんなあなただからこそ悪夢から助けられた人は皆、感謝しているんです。だから自分を貶めるような真似をしないでください」

 

怒った風に諭すエルフの少女にハイエルフの女性も首肯する。

 

「お前はまた、見ず知らずの者を損得関係なく救ってみせた。その行いは誰もが認める立派なことだ」

 

「はは、世辞でも褒めても何も出ないぞ」

 

「・・・・・世辞では無いのだが」

 

どこか不満げに呟くリヴェリアだったが、当の本人は皆を城に入れる動きを始めていた。彼女達を何時までも立たせておくわけにはいかないと扉を開けて中に入る。

 

「念の為に俺の分身体を何人も残して置いたんだけど、俺のいない間に何かあったか?」

 

闇派閥(イルヴィス)の襲撃以外は殆ど平和そのものだった。お前が新しく雇った者達の様子を見てみたが問題ないようだった」

 

「一人、大食いな奴だけどな。あれじゃ一ヵ月分の給金の三分の一しか店の修理代を払えないぞ。後は殆ど食費だ」

 

故にあの女は実質タダ働きだと言わずにいられなかった一誠だった。分身体もそれを指摘してみたところ、猛抗議して来たのでだったら食う飯を減らせばいいと言ったところ。

 

「この店の料理が美味しいから無理アル!」

 

呆れて何とも言えない半面、異世界の料理は美味いと称賛されたので一杯分だけは無料にしたことを本人以外知らない。

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