ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか   作:ダーク・シリウス

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冒険譚18

小さな花火大会をして、一部の神だけ楽しいのや苦い思い出を作った神々。また近い内にやろうと神の提案に賛同する者は沢山いたため。

 

「じゃあ、今度は極東で行う花火大会に参加してみない?」

 

「【アマテラス・ファミリア】と【イザナギ・ファミリア】と【イザナミ・ファミリア】。三国同盟になって初めての合同花火大会だ。今までしてきた、そして前回よりも派手な物となるのは間違いない」

 

「去年はそれぞれの国で行ったから今回が初めてだよ」

 

と、極東の神々からの誘いに誰一人拒む神も人もいなかった。

 

「行き来は騎空艇に乗れば問題ないな」

 

そして極東までの移動方法の確保は万全だった。ならばと心待ちにしてそれぞれ自分のホームに戻って一夜を過ごした記憶はまだ鮮明に残っている中でアマテラスから話掛けられた。

 

「イッセー、あなたにしかできないことがあるの。これは極東と私達三国が本当に何時までも手を取り合って未来に生きる為に必要な政策があなたと言うカギが必要になってしまったの。―――物凄く複雑だけど」

 

その意味がなんなのか分からないまま数日が過ぎて、一誠はとある日にアマテラスから呼ばれて東のメインストリートへ足を運ぶ。三柱のホームは三つの派閥が一つの囲いの中で共同使用している巨大なホームである。だが、それはギルドの目を欺くためのカモフラージュに過ぎない。ホームとしての機能は確かに備えているが、三柱は基本的に極東で過ごしている事が多いのだ。眷族達には器を鍛える意味も兼ねてダンジョンに挑ませており、オラリオでしか手に入らない無限の物資や素材を極東に持ち帰って新たな資源としてから三国は、利益が向上し国力も高まり人々の手にもオラリオで作られた物が流通するようになっている。それができるようになったのは一誠の手で作り出した―――(ゲート)によるもののためだ。四方の五十Mもある塀に囲まれた城の中に出入りする木製の扉の向こうは極東にある城と変わらない石塚の上に建造された極東風の城。の、中に(ゲート)が存在する。それも三つだ。西に一つ、東に一つ、南に一つと赤い大きな鳥居を潜ろうとする空間に同じ鳥居がある極東と繋がっているのだ。これがなければ極東とオラリオの流通が遮断され、長い航海をしなければならない船しかなくなる手痛いことになるのだが、しばらくはなくならないだろう。

 

「おはよう」

 

「おはようイッセー」

 

門の前に立つアマテラスと言葉を交わし、早速とばかり城の中に招かれた。ホームも一誠が用意したので構造は把握している。坂の土台を上って二つ目の門を潜り数百人の眷族達が寝泊まりする居住区がある城へ運ぶ足はまだ止まらない。

 

「眷族があんまり見掛けないな?」

 

「戦争の他にも自分を鍛えられる場所があれば自ずと向かってしまうものなのよ」

 

「そういえばアマテラス達の派閥の等級(ランク)ってどのぐらいなんだ?」

 

「ギルドに聞いたら私はBでイザナギとイザナミはAらしいわ。第一級と第二級の将軍を抱えている二人にとっては当然の等級(ランク)でしょうけど」

 

因みに極東の神の眷族達に称されている名前は冒険者の(ランク)に例えると『足軽』、『将軍』、『大将』、『大将軍』、『侍』である。だが知略、魔法に長けた兵士は『軍師』という別枠の部類(カテゴリー)にり『将軍』と同等の発言力が得られる。

 

眷族達の居住区を囲む三重塔が三つ、それぞれアマテラスやイザナギ、イザナミが寝泊まりする塔でもあるが大抵は一誠の城で寝ているので生活感はそれほどない。その塔がある真下の石塚と極東と繋がっている鳥居が存在しており、見下ろせばアマテラスが統治する国にある鳥居から出入りする眷族が視認できた。

 

「あなたの魔法で国は活況よ?」

 

「それは重畳だ」

 

三重塔の中に入り、玄関に足を踏み入れると二つの下駄と草履が並べてあった。この中に誰がいるのかもはや見当がついている一誠は特に何も聞かず靴を脱いで上がる。アマテラスと階段を上って二階の居間にある襖を開け放った途端、仮面を被っている黒髪の女神が一誠の胸に向かって飛びこんできたのであった。

 

「待ってた」

 

「音で分かったのか」

 

「ううん、匂いで」

 

「「犬か」」

 

胸の中に納まる女神にもう一人の女神と異口同音で指摘した。腕に抱き付いたままのイザナミと茶菓子が置かれている丸座卓の前に正座して待っていたイザナギの近くまで寄って腰を落とす。

 

「うん?なんで俺のところだけアップルパイ?」

 

「大好物でしょ?」

 

「うん、そうだけどちょっと意外に思っただけだ」

 

話しの前に好物を手にして食べ―――一瞬で体を小さくし狐耳と九つの尾を生やすショタ狐一誠になって直ぐイザナミの膝の上に乗せられて抱きしめられる早技にアマテラスは溜息を吐く。

 

「本当に狐人(ルナール)になれるのねイッセーって」

 

「そう言えば教えてなかったか?」

 

「ええ、デメテルからあなたの可愛らしさを自慢げに語ってくれて初めて知った。異世界にも狐人(ルナール)はいるのかしら?」

 

いることはいる。だが、そう言う呼び名では無いことを一誠は改めてこの世界との違いを教える。

 

狐人(ルナール)じゃなくて俺の世界じゃあ、妖と狐と書いて妖狐って呼ばれている妖怪という種族がいるんだ」

 

「妖怪とはなんだ?」

 

「妖力っていう力を持ったモンスターと思ってくれ。人とは違う人外で異形の存在。それが妖怪だ」

 

自分達と同じ名と神格を持つ神がいる異世界の情勢をまた一つ知れたことに知識と情報として覚えておく三柱。だが、これから話したいこととは違い、逸れてしまった話を戻して本題に入った。

 

「そちらの世界の狐人(ルナール)の呼び方が違うことは分かったが、話しをしたいのはそれでは無い」

 

「まあ、わかってる。何か知らないけど俺が極東の未来のカギってのはどういうこと?」

 

それしか聞かされてないから分からんと述べる小狐に続けてイザナギが口を開く。

 

「一人の男に私達は手の平の上で踊らされ、アマテラスの国が滅亡しかけた。それを救ったお前はアマテラスの国では英雄扱い、そして三国同盟の切っ掛けにもなった重要人物でもある」

 

「そんな認識されているのはムズ痒いんだけど?なし崩し的に救っちゃっただけだしさ」

 

「お前がそう言おうとも国の間では結果が全てだ。だからお前は極東では偉業を成した英雄的な存在故に―――同盟を結んでからある日、三国会議で浮上したのだ」

 

重大な事だと正座した状態で腕を組み黒い眼を、頭を撫でられている一誠に向けて視線を注ぐ。

 

「土地と貴族の位を与えられた英雄は誰とも契りを結ばないのかとな」

 

「・・・・・はい?」

 

契りとは、誰かと結ばれる=結婚のことか?俺が?と耳を疑うのを他所にアマテラスが口唇を動かした。

 

「貴族は皆、国の政略結婚や地位が同等、もしくはそれ以下かそれ以上の相手と必ず誰かと結ばなければならないの。子孫を残す意味でも国に貢献をする為にも。これ、あなたが極東の英雄になってから色んなところから『自分の娘を是非嫁に!』って乞いの書状が届くようになった議題なの」

 

それは知らなかったと寝耳に水な一誠はイザナギとイザナミにもそうなのかと目を向けると首肯された。

 

「私の国でもそう言う話題がある」

 

「それがどうしたのだと突っぱねようとも、国の沽券に関わる問題だと言われたら無視できなくなるのだ」

 

神々でも一誠の存在は扱いに困っている様子でイザナギの眉根が寄っていた。アマテラスとイザナミは本人の意見を聞きたいと視線を送り続けている。その視線にちょっと居心地悪く感じ質問した。

 

「貴族の位って、俺はどのぐらいなんだ?と言うか今さら何だけど三人の国に王・・・・・天皇という人間はいないのか?」

 

「イザナギを捕まえたかったから私の思い通りにするには子供の王なんて必要なかった」

 

「私はイザナミから解放されたいが為に自ら指揮をしていた」

 

「私はいたのだけれど、親子揃って病死して血がそこで絶えてしまって私が国を統括するようになったのよ」

 

イザナギとイザナミの理由はまともではなかった。アマテラスはいたが王家の血が絶えたから自分で統治することに決めたという理由で納得した。

 

「王のいない国って意外と大丈夫なんだな」

 

「「「本当に意外に」」」

 

三柱も認めてしまう国の柱の存在の有無。まあ、神と言う大黒柱よりも頼れる神柱が国の支えとなっているから問題にもならなかったのだろうと自己完結した一誠はさらに質問をした。

 

「話を戻すけど俺って何の位なんだ?貴族の位を授与するって言われただけで自分の地位が解ってないんだけど」

 

「あなたの地位は定まってないというのが本当のところ。三国の危機を救った英雄でもいきなり天皇なんて与えたら国の重臣達は流石に黙ってないから。いわばあの場の凌ぎに言っただけで特に決めてないの」

 

「うん、天皇は元の世界で十分だからそこまでの位階はいらないな」

 

「え、イッセーって元の世界じゃあ天皇の子供なの?」

 

「そうだけど?まあ、俺はある理由で除外されてるから天皇家の子供じゃなくなってるんだよ」

 

「また意外な事実が・・・・・」

 

また話が脱線しそうになって改めて真剣に話を進める。

 

「未だに位階を明快してないままのあなたのことは、世間ではとても高い地位ではないかと思われているわ。そんな人とお近づきになれば嫁を出した家は安泰と出世が叶うから、下から上の者達はどうしてもね」

 

「欲望的な考えをする者もいれば三国のことを思っている者もいるがな。三国の同盟をより強固にし、地盤を更に固める意味も兼ねてだ」

 

「だから、私達の国から一人だけ選んであなたと婚約させる方針で話を定めている」

 

話の筋が読めてきたところで「え?」と小さく漏らす。イザナミの言う言葉が真であれば、三国からそれぞれ一人、選出した三人の女性と婚約して三国の結びを堅いものにしたいと言われ、きょとんとしてしまう。

 

「俺が結婚?三人の国の地盤を強固にするためにか?」

 

「「「そう」」」

 

アマテラスが一誠しかできないことと言われた意味をようやく理解し、九つの尾が不自然にピタッと固まる。何故自分が?モンスターである己がこの世界の人間と結婚しないといけないのか?理解できない、この三柱は一体何を考えてるのかと疑心暗鬼になっているところ、アマテラスが話しの補足をする。

 

「三国の為に政略結婚をしてほしいと言うのは嘘じゃないけれど、あなたのことを考慮して私達が選んだ子はまだ幼い子供よ」

 

「実際に結婚なんてしなくても良い。あくまでフリ」

 

「私達の国の民達を確実に安心させる証が必要だ。お前はただロキ達と同じようにお前の城に住まわせるだけで成立する話なのだこの一件は」

 

ただ一緒に住んでもらうだけで周りは納得する。そしてまだ幼い子供は将来大人になって何時しか子宝が恵まれたら三国の未来の安定が約束されたも当然、と重臣や民達にそう認識させようとしている三柱の考えを理解し、安堵して胸を撫で下ろす。幼い子供を選出した意味は直ぐに子供を作らせない為の配慮、自分がモンスターであることを何も知らずに嫁がされた女性からすれば悪夢のようなものな故に、長い目で見る意味も兼ね何時か一誠の正体を知った上で信用と信頼をして恋仲になることを願ってのことだろう。

 

「・・・・・あー、うん、三人のこと正気の沙汰じゃないって思ったけど俺のことも配慮してくれていたんだな」

 

「「寧ろあなたと他の誰かが結婚なんて私が認めない」」

 

その言葉は本気だと伝わってくる強い意志は本物だった。のでイザナギが呆れた風な面持ちになった。

 

「他派閥の眷族となったこやつと神が結ばれるなど夢物語だ。それ以前にお前等は自分の歳を考えろ。一体何億歳だと思っている」

 

「・・・・・イザナギ?久しぶりに追いまわしてあげよっか?ねぇ?ねぇ?」

 

「面白そうね。私も参加するわ」

 

着物の袖から刃物を忍びの如く手にして青褪めて怯える男神に見せつける。口は災いの元という諺があるのだが、イザナギは知らないのか?と思いながら助け船を出す。

 

「で、その幼い子供は俺と住むことを受け入れてくれているのか?強制は駄目だぞ」

 

「勿論、私達も強制は好まないわ。確りと順を踏んで直接その子と会ってきて話をしたわ」

 

「あなたの魔法で何時でも親の元に帰れると教えてある。実際オラリオと極東が行き来できることを証明してある」

 

「その親もそれならと安心し、子の判断に委ねた結果。お前と一緒に住んでみたいと望んだ」

 

お互い同意の上の判断ならば何も言えなくなった一誠はコクリと頷いた。

 

「分かったよ・・・・・本当に結婚なんてしなくて一緒に住むだけで三人の国がよくなるなら構わないよ。でも、ロキ達に説明をしてくれよ」

 

「ええ、勿論。あと訂正をしたいことがあるわ」

 

訂正?何が?どこを?と不思議そうに目を向ける一誠に向かってアマテラスは強く言い放った。

 

「例え絶望的なまでに歳を取っても身体は十代です!」

 

「うんうん」

 

「「・・・・・」」

 

よっぽどイザナギに歳のことを指摘されて遺憾に思っていたのか、若さを主張してきた。イザナミもそうだそうだと言わんばかりに頷く。これには言った男神も言われた一誠も何とも言えない微妙な表情を浮かべてしまう。ツッコンだら最後だと喉から出そうな言葉を必死に堪え、ただ相槌を打つだけで反応する他なかった子供の狐耳がピコンと奮い立った。何かを察知した仕草をした一誠は「どうしたの?」とイザナミから声を掛けられた。

 

「店の方で何か遭った」

 

「揉め事?」

 

「うんや・・・・・商会が尋ねてきた」

 

 

―――『異世界食堂』。

 

朝から大勢の客がやってきて商売繁盛、とまではいかないが『異世界食堂』を贔屓してくれる無所属(フリー)の人やダンジョン探索を休んで朝っぱから酒を飲む冒険者、他の店にない冷房が効いた涼しい空間でのんびりと過ごそうとする神々が二階の席を占領して食事を楽しんでいた。そんな客達を視認する店の主人である一誠、そしてアスナ達店員の手で、『異世界食堂』は今日も切り盛りされていく中、新たな客が開け放つ扉の向こうから熱い日差しと熱気を背負って涼しい空間に入ってきた。

 

「うわ、なにここ、涼しい・・・・・」

 

「おっ、いらっしゃい。久しぶりだな」

 

「久しぶりー。今日もお邪魔させてもらうよ?」

 

口元を隠す赤い防寒着(マフラー)を暑苦しい夏の真っ只中でも巻く耳裏に茶髪を上げて耳を晒すヒューマンの少女が朗らかに片手を上げて店主と仲よさげに言葉を交わす。その手は打撃を重視した、手甲に金属板が縫い付けられている革の指抜き手袋(グローブ)を装着していて、軽装重視をしているからか腹を露出し豊かな胸を完全に隠しておらず谷間と下乳を見せている。それが嘆かわしいとあからさまに嘆息する

 

「もーすこし服装を気にしたらどうなんだ?せっかくの可愛さが台無しじゃないか」

 

「うっさい、あんたは私のお母さんか」

 

「違うぞお父さんだ!俺のことお父さんと呼びなさい」

 

「どう見てもお父さんの年齢じゃないでしょ」

 

気に掛けてくる店主に少しだけ小うるさいと思いつつも、それはただのじゃれ合いをして来てくれているのだと知ったのは自然に店主のことを思った時で、少しだけ心が和まされていることを覚えた時は笑った。

 

「いつものお願いね」

 

「あいよ、好きな席に座ってくれ」

 

周りに人がおらず人の視線が届かない席を選んで腰を落とす。店に入る前から外にいて太陽の日光に肌を焼かれて熱かった体温が、気持ちいいほど心地良く冷えていく未知の感覚に新鮮さを覚える。

 

「はぁ・・・・・涼しいなぁ・・・・・」

 

長居をすると体が冷えそうになるが火照った体には心地良過ぎてだらけてしまいたい。実際、隣に誰もいないことを言い事に横長椅子(ソファー)のように長い椅子へ身体を横にし、ひんやりと冷たい心地良さに目を瞑って堪能する。

 

「―――――・・・・・」

 

「おい」

 

「ひゃんっ!?」

 

臍を出している腹に冷たい水を垂らされ、条件反射で驚いて起き上がる少女。しかも変な声を出してしまった自覚をして顔を真っ赤にし、自分を起こして羞恥心をさせた店主に睨みつけたが出来立てほやほやの料理を持って来ていた。

 

「無防備に寝てたら襲われるぞ。あと、ここは宿屋じゃないから寝ないこと」

 

「うっ・・・・・」

 

正論を言われて何も言い返せないことが悔しくて、やっぱり睨んで無言の抗議を訴える少女をどこ吹く風のように料理を目の前に置く。

 

「温かい内にメンチカツ定食を食べてくれないとこっちが困るんだけどな?」

 

指摘する少女の正面の一際大きな皿に盛られているのは、プツプツと音を立てる大人の拳ほどの大きな茶色の塊が2つ。すぐ近くには4つ切りにした果物と何やら白いソースが絡められた温野菜とパスタの和え物、そして細く切られた葉野菜が生のままで添えられている。別の皿に盛られているのは、パンが2つ。近くに添えてあるのはバター。そして器に盛られているのは刻んだ玉葱と細切りにした燻製肉がたっぷりと入ったスープ。湯気立つ白い米もありそれを見て、それらから発つ香りに鼻腔が刺激された。

 

キュルルルル・・・・・。

朝から何も食べていなかったのか少女の腹の虫が鳴る。その音に思わず顔を赤らめる少女に店主はにやりと笑い、言った。

 

「店の料理を食べにくるために朝食を抜いてくれてありがとうな」

 

「ち、ちがっ・・・・・くないけど・・・・・」

 

「ははは、それじゃ頃合いになったらお代りを持ってくるからな?」

 

きっと歳はそう離れていないだろう店主を、もしも兄がいたらこんな感じなのだろうかと去り際に撫でられた頭を触れながらこそばゆい思いを抱き、空腹には勝てない少女はまずはスープから手に取った。涼しい中で食べる温かなスープは玉葱の甘みと燻製肉(ベーコン)の旨みが、それしか入ってないように見えるそのスープは無数の、様々な野菜や肉の旨みを含んだスープをゆっくりと味わいながら飲み干し、一息吐く。次にパン。千切ると思った以上に柔らかくバターも付けて食べると十二分に甘くて美味しい。いよいよ最後はメインディッシュとばかりのメンチカツ。ナイフとフォークを持って茶色い塊に向ける。サクリと音を立てて、ナイフが入り、切り口からじゅわりと肉汁が溢れる。断面を見るに、細かく刻んだ肉を使った料理のようだということが一目見て分かる。食べる前にレモン汁とソースを掛けていざ実食。

 

「んんん~~~っ」

 

口の中に広がるのは、たっぷりとした肉汁。それが軽い食感の衣と混ざり合い、口の中でほどけていく。塩と胡椒が利いた、けれど決して利き過ぎていない絶妙な加減の肉。さらに複雑な旨みを持つソースと、さっぱりとした酸味のあるレモンがサッパリとした後味を残して満足感を与える。そしてそれをご飯と一緒に食べると更に食欲がそそられると言う不思議なことに少女は空腹を訴えた腹の中にどんどん好物のメンチカツを収めていく。

 

「はいよ、メンチカツだ」

 

頃合いを見てお代りを用意してきた店主に、口の中に残っているメンチカツを咀嚼しながら目で感謝の念を訴え新しいメンチカツに手を伸ばして自分の前に引き寄せる。

 

「(久々に食べるメンチカツは最高っ。少し疲れてきた仕事の憂鬱が吹き飛んじゃっていくよこれ)」

 

生きる為に仕事をする少女。だがもしも、その仕事が本当に嫌になった時はどうしようかと考えが過ったが・・・止めよう。今はこの至福の一時を堪能するこそが大切だ、と心の中で被りを振って口直しと水を飲んでからメンチカツを食べるのだった。

 

「いらっしゃい」

 

入ってきたのは『異世界食堂』を開店して以来初めての客だった。豪勢な服を身に包み両の手指十本すべてに宝石の指輪を光らせているところから見ると、商人か何かだろう長身で顔に皺がある初老の男性と対照的に体格が低く小太りで口髭を蓄えている男と店の中を見渡す。

 

「ふむ、ここが噂の『異世界食堂』で間違いないのですね?」

 

「どんな噂か知らないけど、その通りだ」

 

「そうですか。それにしても随分と心地の良い涼しさですね」

 

「炎天下の外から来た客にとって天国のような感じだろう?」

 

「確かに、では、私達にも料理を出してもらいましょうか」

 

それじゃこちらへ、と二人を案内して席に座らせた。品書きが書かれてる分厚いメニュー表を教え、呼ぶ時の呼び鈴を説明を終えると去ろうとした。

 

「ああ、待ちたまえ。私達にビールを二つ、そしてビーフシチューも二つ頼みますよ」

 

初めて来た客だと認識しているのだが、誰かから聞いたのか直ぐに注文してきた初老の男性に振り返って会釈する。

 

「かしこまりました。それじゃ少々お待ち下さい」

 

そう言って三分以内に注文した料理を持ってきた店主は、キンキンに冷えたビールと温かいビーフシチューを二人の前に置く。

 

「速いのですね」

 

「お客が少ない分、一人の客に提供する時間が短縮できるんだ。夜はこうもいかないだろうけどね」

 

では、ごゆっくりと去る店主を見送った二人はビールを手にして硝子の縁に口唇を近づけて飲み始める。火照った体に冷たい酒を流しこんでいくと感嘆の息を漏らし、ビーフシチューにも手を出して食べてみると二人の舌を唸らせた。

 

「神々が毎日のように足を運ぶ店の噂と評判は名実と共に本当のようですねゴミアン」

 

「は、そうですな。この店は中々のものであると私目も思いまするバッカスホーム様」

 

昼時になる前にメンチカツを食べに来た少女は昼食用のメンチカツサンドを購入して店を後にした後、『異世界食堂』に足を運ぶ客達が増えて店主達の動きも活発的になってきた。新メニュー、かき氷を目的に食べに来る客が後を絶たない。

 

「ほらとっとと氷を削れ。待っている客がいるんだぞ」

 

「うおおおおおおおおっ!後で私もたらふく食わせるアルよー!」

 

「ごはんと卵でな」

 

「かき氷アルーッ!」

 

似非中国人の美女をこき使う店主。店の裏に設置してる巨大なかき氷機の中に入れた十人分の器に削った氷を積もるまで回し続けさせる光景を見た彼女の連れの少年は絶句していた。

 

「よく働かせているな・・・・・」

 

「お前の命が懸っているからな」

 

「じょ、冗談だよな・・・・・?」

 

「さあ?お前も他の連中と同じ転生者だし、警戒に越したことは無いからな」

 

正体を看破されて動揺する少年の隣で氷が積もった皿を取り換え、また氷を削らせる。

 

「ほ、他にもいるのか?転生者が」

 

「ああ、いるぞ。確認しただけで五人はいた。お前を含めてだと6人か。で、お前の連れは何なんだ?特典とやらでハーレムを望んだのか?」

 

そこまで知っているのかと目を丸くする少年は隠しても無駄かもしれないと達観した風に自ら口を割った。

 

「・・・・・俺の中で一番強そうで好きな女のアニメキャラを選んだんだよ」

 

「アニメキャラクターか。だとしたら不思議だな。アニメの世界から飛び出して来たようなもんだったら、どうして自分の世界のことを気にしないでいられるんだ?」

 

「最初から俺と一緒にいたことに記憶を改竄したんだよ。だから少したりとも何に対して疑いもしないんだ」

 

「お前、いくら架空の女キャラクターだからってそんなことするとは人としてサイテーだな。クズだわ」

 

ブタを見る目で店主に言われて、うぐっ!?と少年の良心に言葉の槍が突き刺さった。

 

「大体、この世界で何しようと思ってそんな特典にしたんだよ?ハーレムか、ハーレムなんだな?」

 

「ぼ、冒険が出来る世界に転生させるって言うから好きなキャラクターと冒険がしたかっただけなんだっ」

 

と言い訳するように物申すが、後に想像していた冒険できる世界では無かったため、無一文の状態で放り出された少年と女性達は途方に暮れ・・・・・似非中国人が空腹と怒りで少年を殴り飛ばした先が『異世界食堂』なのだと語った。

 

「てか、神楽って女の腹はブラックホール並みか?暴食する女と冒険なんてよくできると思っていたな」

 

「食事生活を考慮して神には食欲を抑えてもらうように願ったんだぞあれでも・・・・・」

 

それなりに考えて神に願って二度目の人生を送ろうとしたつもりだったが、自分の予想と想像に反することに多く襲われて対処に困っていた少年は、店主に拾われて運が良かったのかもしれない。

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