ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか   作:ダーク・シリウス

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冒険譚19

朝から店を開いてあっという間に夜を迎えた。夏の夜は朝と違って暑くは無くなっても熱気が冷めず暑苦しさだけは感じさせる。そんな時には大人達はエールを飲んで喉を潤わせるのが定番なのだが、今年になって開店した『異世界食堂』のビールの真骨頂が発揮することを客達は知ることになる。

 

「「「アッハッハッハッ!」」」

 

「暑い日に飲むビールが何時にも増して美味いわいっ!」

 

「そんなビールと一緒に肉も食べるとまた格別だ!」

 

ほぼ満席の状態になっている客達の喧騒は、何時にも増して喜色の声も高まっているのが聞いていて分かる。そんな中、夏季限定の催し(イベント)をすることになっていた。『時間制限以内に激辛カレー完食チャレンジ!』である。暑い時には熱い物、辛い物という定番を異世界でもしてみようと店主の計らいでチャレンジに成功したら一日料理無料券という客達にとって嬉しい報酬が用意され―――。

 

「ぐっ、が、か、からぁあああああああああああああっ!?」

 

「うっ、ぐっ、ぐほ、げほっ・・・・・・!」

 

十食分だけ作ってみたら十人が挑戦して、たった一人だけ食べきって見せた催し(イベント)は大盛り上がり。因みに食べきったチャレンジャーは、【ロキ・ファミリア】の老兵のドワーフ、ガレス・ランドロックであった。チャレンジに失敗した挑戦者達は直ぐに水やかき氷を頼んで口の中を冷やす行為に入る。

 

「お主、もう少しだけ辛さを抑えてみたらどうじゃ。流石に儂でさえ辛かったわぃ」

 

「簡単にクリアされたら面白くない」

 

顔中の肌に汗を浮かべるガレスすら辛過ぎると言わしめる激辛カレー。それが後に『あの第一級冒険者のドワーフの記録を超えれば真の漢男の証』と誰かが吹聴したようで、厳つい顔をした冒険者やならず者、ゴロツキ、はては面白半分で参加する神々や闇派閥(イルヴィス)に所属している者すら挑戦を申し込んでくるようになったのである。催し(イベント)を肴にして食べる客がいれば応援する客もいればそれを楽しむ客もいる。とても『暗黒期』の真っ只中のオラリオに住んでいる者とは思えない賑やかさを醸し出して楽しんでいる客達を見てミアは店主に話しかけた。

 

「客達に笑って飯を食べてもらう場所としてはアタシらより上手いよお前さんは」

 

「上手いも下手もないってミア。誰でもできることを俺もしているだけだ」

 

「ふん、同じ店を持っていた者として嫌味にすら聞こえないのが不思議だよ」

 

どすどすと足踏みを立てて注文を受け取りに行くミアと入って来た客の対応をする店主。

 

「お、いらっしゃい。久しぶりだな」

 

「ええ、久しぶり」

 

フードを被ってる黒髪に黒眼の猫人(キャットピープル)の少女。食べに来る時は必ずと言っていいほど夜になってから顔を出す獣人の少女は、フラッと現れれば間を空けて来る。まるで猫のような気まぐれな性格を持ち合せているようで店主は嬉しそうに微笑んで―――。

 

「その耳と尻尾を触らせてくれないか?」

 

「うら若き乙女の体の一部を触るなら毒殺される覚悟を持ってね♪」

 

「よし、それでいいぞ」

 

「ちょ、本気で触りに来るニャー!?」

 

軽く飛びかかる店主に悲鳴を上げる猫人(キャットピープル)の少女は本気で殺すわけにもいかず狭い場所で猫のように軽やかに交わし続ける―――じゃれ合いを程々にして席に案内する。

 

「この変態店主。毎度毎度、来る度に耳と尻尾を触ろうとしないでくれる?いくら私の魅力にあてられたからって・・・・・」

 

「いや、お前自身じゃなくて単純に耳と尻尾を触りたいだけで魅力とかそんなんのは二の次だから」

 

「ぶっ殺してー」

 

奇しくもメンチカツを食べていた少女と同じ席に案内された猫人(キャットピープル)の少女は、半目で店主を睨みながら物騒な事を言う。ふと、店内を行き来する女性客が視界に入る。

 

「久しぶりに来たからだけど、何時の間にか新しい店員がいるのね」

 

「ああ、ちょっとした用事で帝国に行っててな。その時に連れて来たんだ」

 

フードの中の猫耳がピクと動いた。

 

「ふーん、帝国で何をしに行って来たのかしら?」

 

「料理人として依頼されたんだ。料理を作ってほしいってな。で、注文は何時ものか?」

 

話をあからさまにそらされたが、大したことではないだろうと少女は何時も頼む注文をして店主を遠ざけさせた。久方ぶりに来た『異世界食堂』の店内は、見渡す必要もないぐらい相も変わらず繁盛している様子だった。そこに大勢の人々の笑顔が浮かんでいて、一人物静かに座っている自分はかなり浮いていることを自覚しながら笑い声と場の賑やかさを料理が来るまでの暇つぶしと耳を立ててしばらく経った。

 

生の魚独特の、鮮やかな赤い色の生魚の薄切りの上にスライスされた生の玉葱が乗せられた料理。それが彼女が注文した料理だった。

「魚のカルパッチョだ。それじゃあごゆっくり」

 

その料理の名前を言いながら持ってきた店主の言葉を聞きながら、少女は眼前に置かれるその料理に期待で目が釘付けになっていた。 オラリオで生魚を料理に出す店は殆どないに等しい。せいぜい焼くか煮るかだ。初めてこの店に訪れ、魚料理を何となく眺めて見つけた未知の料理であるそれは、とても好奇心を覚えたほどだ。試しに注文をして実食した時の自分を思いだしながら店主が去ると同時に、早速とばかりに食べ始める。フォークで魚の切り身を突き刺し、持ち上げる。鮮やかな赤い色が黒の目に移り、少女は思わずごくりと唾を飲む。

 

そして・・・・・口に運ぶ。

 

「んんん~~~♪」

 

その魚には、旨みが凝縮されていた。噛み締めるたびに、旨みがあふれ出す。それがこの料理の味付けに使われている汁の独特の塩気とまだ熟していない果物の酸味。単品で食べると味が強すぎる玉葱の辛味と混ざり合い、調和する。しょっぱくて、少し酸っぱくて、しゃきしゃきとして辛く・・・・・それらをすべて包み込む魚の旨みが口の中に広がる。新鮮なだけでなく、血抜きや切り分けといった技術まで磨かれていることを感じる、魚の切り身。それはただ魚を切っただけと言うには余りに洗練された・・・・・一つの芸術と呼ぶに相応しい味であった。もはや少女に言葉は無い。むさぼるようにカルパッチョを食べていく。玉葱の辛味と上にかけられた汁の酸味、そして魚そのものが持つ旨み。それが彼女の手を一瞬も止めさせようとしない。瞬く間に皿は空になり、すぐさま店主を呼ぶ。

 

「店主、次はシーフードフライを頼みたいわ。タルタルソースは多めでね」

 

「あいよ、直ぐに用意してくるよ可愛い黒猫ちゃん」

 

微笑ましげに笑う店主が踵を返して背中を見せて去る。何気なく少女の黒眼は店主の臀部に向いて視線を送ると残念そうに嘆息する。その理由が・・・・・。

 

「勿体無いニャー。あと7、8歳若かったらいいお尻ニャのにニャー・・・・・」

 

変わった性癖を零す猫人(キャットピープル)の少女の声は他の客達の喧騒の声に消え、聞こえなかったにも拘らずブルリと未知の悪寒を覚えた店主がその正体を気付くはずもなく、素朴な疑問を抱きながら仕事に専念するのであった。

 

夜はまだ長い。去る客と入れ違いで食べに来た客と入れ替わって閉店時間まで料理を振る舞う店主達。猫人(キャットピープル)の少女も腹いっぱい食べて、笑顔で店を後に暗闇に溶け込むようにして店を後にした。それからしばらく時が経った頃。二人組の客が入ってきた。

 

「いらっしゃい、おや、朝来たお客さんだな」

 

その日に二度も三度も食べに来る客はさほど珍しくない。寧ろ何度も食べに来てくれることは店の評価を高くしてくれて贔屓してくれるという意味合いもある。店主が歓迎したのは豪勢な服を着こみ両手の十本の指に宝石の指輪を光らせる長身の初老の男性と体格が低く小太りの取り巻きみたいな男性だ。もう一度食べに来たのだと思って二人分の席に案内しようと動いた店主だったが、呼び止められた。

 

「今回は食べに来たのではないのです。商談をしに来ました」

 

「商談?生憎うちは上手い料理と酒を振る舞う酒場みたいなもんだ。そう言う話はお断りしているんだけどな」

 

「まあ聞きなさい。私はこの店とあなたの料理の腕前に大変気に入りました。なのでバッカスホーフ商会がこの店ごと買い取ることをにしました」

 

他の客達にも聞こえる程度の声量で店を買い取ると言いだすバッカスホーフの言葉で盛り上がっていた場が不自然なほどピタリと静まり返り、二人の会話に聞き耳を立てる客達。成り行きを見守る様子なのが気配で感じとれる店主は態度を変えず疑問をぶつけた。

 

「商会が店を買い取るってよくすることなのか?」

 

「ええ、商会が己の利益になると思ったものは何でも。それがたとえ個人の冒険者だろうと【ファミリア】だろうともね。そして私が『バッカスホーフ商会』の利益になると思ったのがこの『異世界食堂』ですよ」

 

「ふーん、商人の世界は疎いからよくわからんが。要は商会の稼ぎになると感じたもの全て手中に収めたいってことでいいんだな?」

 

「概ね間違っておりませんよ。ゴミアン」

 

意味深に催促された小太りの男性は懐から羊皮紙を取り出してバッと見せつけるように開いた。

 

「都市経済を支える各巨大商会の証文と署名を筆頭にギルドの長、ロイマン殿からも承認の許可をもらっております」

 

それが本物であると証拠に蝋で押された判と名前が記されていたその羊皮紙に、客達からざわめきが立つ。立場的に有利で何者にも邪魔されない為に用意した交渉道具を手にしている商会、バッカスホーフは優越感を浸ってマジマジとゴミアンの手の中にある許可書を見ている店主を見下ろす。

 

「―――で?」

 

「・・・・・はい?」

 

「で、これがあるから店を買い取れるって何でそう言い切れるんだ?」

 

本当に理解が出来ないと頭を掻く店主に、目を丸くして間抜けな面を晒すバッカスホーフの隣でゴミアンが唾を飛ばす勢いで言いだす。

 

「分からんのか!つまりギルド長もこの店を買い取ることを認めていると言うのだ!これは正式に、だ!例え最大派閥の主神でも口出しができないぐらい強い権力が発揮しているのだぞ!」

 

「いや、まあそれはそうなんだろうけどさ?その認定証みたいな物は、何が何でも買いたい物を買えるようにできる許可書なんだろ?でも、買われる側、売られる側が否定したら商談は成立しないんじゃないのか?」

 

「馬鹿か貴様、これは相手の意見も関係無しに買い取る前提で話が決定している!お前がどれだけ否定しようと絶対に覆せないのだ!」

 

「うわあ、流石世界で唯一あるダンジョンがある都市オラリオだな。規律(ルール)も法律もなければ何でもし放題かぁー」

 

苦笑いする店主、次の瞬間。左目が凍える様な冷たいものを孕んで二人を見つめた。

 

「悪いけどその効力があろうとなかろうと、俺はこの店を手放す気はないんでその話は無かったことにしてくれ」

 

「手放せとは言っておりません。何の後ろ盾もないこの店とあなた達従業員を丸ごと『バッカスホーフ商会』が買い取るだけですよ」

 

「いや、後ろ盾なんて必要ないぐらい充実しているんだけど・・・・・」

 

「ほう、巨大商会以外にどなたがこの店の後ろ盾になっておられますかな?是非とも知りたいものですね」

 

店主は言い訳をしている、この店にそんな後ろ盾になるものは存在していない、確認できていないのだから。事前に調査している故にニヤニヤと嘲笑う事を隠さないバッカスホーフの背後の扉が場の空気をかき乱す様にして、鈴の音を鳴らしながら開け放たれ、誰かが入ってきた。

 

「おお、まだやっておられましたか、よかったよかった。イッセー殿お久しぶりでございます」

 

「あ、誰かと思えばあんたか」

 

闘国(テルスキュラ)から一人の眷族を救ってほしいと願った商業系の主神、初老の男性が数人のお供を連れて突然やってきた。バッカスホーフは怪訝な目付きでその主神を目にした途端、ギョッと驚いた風に目を見開いた。

 

「ふむ?おや、そこにいるのは巨大商会の『バッカスホーフ商会』の者ですね」

 

「あ、あなたは・・・・・【ヴァベルー・ファミリア】の主神・・・・・何故ここにおられるのです」

 

「オラリオで商売をしに戻りに来たのでしてね。その間、いつも私達の商会に贔屓してくださるイッセー殿の店で食事をと思ったまでです。して・・・・・何か話をしていたようで私めも一枚噛ませていただけますかな?」

 

ニコニコと笑う主神にさっきまでの優越感はどこに行ったのやら、顔を引き攣って狼狽しているバッカスホーフは何も答えず代わりに店主が説明した。

 

「俺達ごと店を買い取りに来た、以上」

 

「ほほう。そういうことでしたか。ですが、それは無理な相談では無いですかな?」

 

どういうことだ?バッカスホーフのように絶対的な効果を発揮する物がないのに、この初老の主神はそれを上回る何かがある、もしくは持っているのだろうかと首を傾げた店主を半ば蚊帳の外に置く二人の商人の会話が始まった。

 

「な、何故です?私は他の巨大商会とギルド長の許しを得てこの店を買い取る権限がございますよ。いくらあなたでも口出しはできないはずです」

 

「なるほど。確かにその権限ならあなたの行動を指図することはできないでしょう。ですが、それでも無理だと言わせてもらいますよ」

 

「どうしてですか!」

 

叫ぶバッカスホーフと笑顔を崩さない初老の主神。店主も従業員も客達もその理由は何だと見守り視線を向け、耳を傾ける姿勢でいると懐から羊皮紙を取り出してバッカスホーフに見せつけるように開いた。

 

「既に私とイッセー殿は直接契約を結んでおられるからですよ。そして彼は我々商会に膨大な金額を寄付してくださっている立派な投資者として私達と繋がっておられるからだ」

 

開いた羊皮紙には確かに商人と契約を結んだ時の日付と名前が記されていた。

 

「―――私達三大商会の一角【ヴァべルー・ファミリア】とね」

 

「え?」

 

「なっ」

 

「「「「「ええええええええええええええええええええええええええええっ!?」」」」」

 

彼等【ヴァべルー・ファミリア】を知る者だけが声を上げて絶叫した。対照的にどんな【ファミリア】なのかチンプンカンプンで首を捻る者達が殆どだった。三大商会と名乗った主神はそんなに凄いのかと不思議に思っていたら一人の客が口出してきた。

 

「て、店主!お前、とんでもない商会と繋がっていたのかよ!?」

 

「えっと、いや、都市外によく出入りする商人だからって、それじゃあ世界中の珍しい物を集めてくれそうだからって軽い気持ちで契約したんだけど」

 

「本当に軽い、軽過ぎる!」

 

「店主、知らない様だから教えるが。三大商会と言えば都市経済の中枢を担う昔から存在している巨大商会で、ギルドでも簡単に口出しが出来ない巨大な【ファミリア】なんだよ!」

 

「他の三大商会ですら名前だけしか知られてないから見たことがある奴は商人以外殆どいないってのに」

 

「その内の一角の主神とその団員をこの目で見ることができるなんてスゲー・・・・・」

 

「いや、感心している場合かよ。最大派閥と違って商会に目をつけられたらとんでもない目に遭うって噂だぜ」

 

「というか、それを知らなかった店主って大物なのか大馬鹿なのか・・・・・」

 

ざわめき、色めき立つ客達の中に失礼なことを言われた気がするがそれどころではない。この展開は世直しをする為に身分の高い老人が悪行を繰り返す悪代官を成敗した後に正体を明かすアレみたいな・・・・・と他人事のように変な事を考えていた。バッカスホーフはその証文が本物であると理解して冷や汗を顔に浮かべだした。

 

「そういうことでイッセー殿。他の巨大商会やギルド長の許しを得ようと、横暴な取り引きをしようとする商会にはその上から圧力を掛けて買い取りはさせません。そんなこと許せば他の三大商会の主神達がせっかくのお気に入りの店を奪われて大層残念がりますからね」

 

「え、来てたの?その主神達が何時の間にか」

 

「はい、食べに来ていらしたそうですよ。なので出遅れた私からすれば悔しい限りですよ」

 

本当に残念がっているのか笑みを固めている主神を見ても分からない店主だが、分かったことはただ一つ。『異世界食堂』は突然現れた三大商会の【ファミリア】に救われたということだ。

 

「『バッカスホーフ商会』。そういうことですのでこの店の買い取りは私達三大商会の権力を以って認めることはできない。『異世界食堂』は皆が楽しむ場所です。利益にしか目がない格下の商会の者が決して手を出してはいけませんよ。私を含め他の三大商会も虎視眈々と狙っているこの店をね」

 

薄らと糸目がちな目が見開いて、鋭い白金の眼光を煌めかせた。神威も開放する初老の主神にバッカスホーフは戦慄する。名実ともに格上の商会と神に逆らえず、店主へ顔を向け悔しげに奥歯を噛み締める音を立てて「行きますよゴミアン!」と負け犬がしっぽを巻いて逃げる様を彷彿させ、店を後にした。ヴァベルの登場で逆転劇を目の当たりにした一同は言葉も失い。

 

「では店主。邪魔者がいなくなったので何か食べさせてください」

 

二人を見送って視線を店主に戻し、朗らかに微笑む好好爺な初老の神に戻った彼に苦笑いするしかなかった。

 

 

『バッカスホーフ商会』が『異世界食堂』からいなくなって数時間後。閉店時間が過ぎてもロキ達がまだ店に居て、主神ヴァベル達も席に座ったまま女神達と会合する。

 

「ヴァベルーかぁ、随分と久し振りやな。自分、イッセーと直接契約をしとったとは知らんかったで」

 

「ええ、イッセー殿からは大変素晴らしい魔道具(マジックアイテム)を提供してくれますから、私達も張り切って依頼人の要望に応えていますよ。特に魔法の絨毯や何処にいても連絡ができる腕輪、あれは本当に商人の者からすれば喉から手を出してでも欲しい素晴らしい物」

 

お陰様で他の三大商会【ファミリア】を出し抜くことが出来ましたと、言いながらプリンを食べるヴァベルーと眷族達。

 

「イッセー殿。このプリン、商売すれば儲けますよ。特に貴族に向けてです」

 

「オイコラ、イッセーを商人にしようとすんなや」

 

「ある意味、俺も商人みたいなもんだけどロキ?というか、【ロキ・ファミリア】や【フレイヤ・ファミリア】は三大商会と繋がってないのか?最大同士なんだからおかしくないんだけど」

 

「普通にそこらへんの商人と売買するだけでも十分や。どえらい三大商会と契約するまでもなくな」

 

「商会の問題を持ち込まれるのは面倒なのよね」

 

「心外ですね。私達は問題事を他者に押し付けない主義ですよ・・・・・甘くて美味しいですね」

 

二つ目のプリンに手を伸ばしてパクリと食べるヴァベルーを一瞥してヘルメスに左眼を向ける。

 

「俺は一応【ガネーシャ・ファミリア】の団員だけど、あのまま買い取られたらそこんとこどうなってた?」

 

「巨大商会と繋がりを持っていたら【ファミリア】にとって悪くない話になってたよ。ダンジョンから持ち帰ったドロップアイテムを贔屓して他の商人より高く買い取ってくれるからね。ただ、店を買われたら商会の言いなりだったかな?」

 

良くも悪くもあったかも、と言うヘルメスに首を縦に振って理解した。ロキが唸る。

 

「にしてもロイマンのやつはうちらの楽しみを奪おうとしおって、どう思うフレイヤ」

 

「そうね。それだけはいただけなかったわ。ロキ、ストライキでもしようかしら?」

 

「ギルドに困らせる意味では面白そうやな」

 

「ガネーシャも子供を休ませる意味で賛成だっ!」

 

闇派閥(イルヴィス)を鎮圧する主力がストライキなど起こした瞬間、ギルド長が泡を食って倒れるかもしれない、そういう想像がしてしまうのはおかしなことかと考えてしまう店主は、一言漏らす。

 

「これで厄介ごとが済んでくれたらいいんだけどな」

 

「商人は執念深いですよイッセー殿」

 

「だよな。さりげなく虎視眈々と狙っているって言われたばかりだもんな」

 

「当然でございます。知っているかどうかは知りませんが、オラリオ中で『異世界食堂』の噂が持ちきりですよ?興味を持ったり、冷やかしに来たり、この店の常連客が他の人達に声をかけている結果。閑古鳥が鳴いた様に客の足が途絶えた店は少なくありませんよ?」

 

うわ、そうなのか。と誰かが短く言った。半年で他の店に影響を与えるほど『異世界食堂』が注目を浴びているのだと改めて知った店主と従業員達。

 

「三大商会はこの店に手を出すのか?」

 

「バッカスホーフみたいに自分の懐に抱えるより、友好的に接してあわよくば後ろ盾になった方が色々と好都合なのですよ」

 

「その後ろ盾が最大派閥や他の派閥の主神と冒険者達なんだけどな」

 

自慢でもあり信用と信頼できる【ファミリア】等は店主の最大の攻撃でもあり防御みたいなものだ。『異世界食堂』に手を出すなら懇意で足を運んでくれる者達も容赦しないだろうと誇らしくあるのだが、ヴァベルは首を振った。

 

「それだけではまだ弱いですよイッセー殿。ギルドと商会が結託したら最大派閥といえど強く出れません。故にあなた様も商会の協力が必須となります。他の商会に狙われながら店を構え続けるなら尚更ですよ」

 

そう指摘する初老の神ヴァベルーはニコリと口唇を緩めながら物申す。

 

「ですが、あなたは様は三大商会の一角の後ろ盾がございます。ご安心を他の商人達に『異世界食堂』に手を出すなと伝えておきますので」

 

 

 

 

オラリオのとある一角に『バッカスホーフ商会』の館があった。自分自信の城に戻ったバッカスホーフは苛立ちを隠さず意匠が凝った背凭れと肘掛けの椅子に座り込んで、「『ヴァベルー商会』め・・・・・!」と忌々しげに発した。

 

「あの店が三大商会と繋がっているとは聞いていませんよゴミアン!どういうことですか、しっかりあの店主の周辺を調べていたのでしょう!?」

 

「も、申し訳ございませんっ。私も【ヴァベルー・ファミリア】の主神の顔は見たことがなく・・・・・」

 

「チッ・・・・・!」

 

見ていたなら主に報告していた。と暗に言外するゴミアンに舌打ちして用意されたグラスに入れず葡萄酒(ワイン)を乱暴に飲み、机に叩き付けた。

 

「多額の金を使ってまでギルドの豚から認定証を発行したというのに、金をドブに捨てたようなものですよっ!」

 

腹立たしいこの上にないと憤怒の形相を浮かべ、怒りで腹の虫がおさまらない商人が落ち着くまで嵐が過ぎるのを待つしかない小太りの従者は恐る恐ると問うた。

 

「恐れ入りながら申し上げます、バッカスホーフ様。確かにあの店の料理は今まで食したことが無い美味でしたが、そこまで御執心するのはどうしてでしょうか・・・・・?」

 

「フン、何もあの店だけを執着しているのではありませんよ。私が料理店を手中に収めたいのは利益の為です。現在オラリオは『暗黒期』。混沌と破壊を謳う闇派閥(イルヴィス)が存在している間に今後のことを見据えて動いているだけですから」

 

「今後と言うと、闇派閥(イルヴィス)がオラリオからいなくなったあと、ですか?」

 

「ええ、そうなればオラリオは生まれ変わることでしょう。そして生まれ変わる新たなオラリオの秩序を作るのは我々、商会です」

 

未来を見据えて行動に移っているバッカスホーフの意図を察し、感激する気持ちでゴミアンは握り拳を作って言った。

 

「『暗黒期』で物価が低い今の内に、『バッカスホーフ商会』の地盤をさらに強固、下準備を整えて生まれ変わったオラリオで更なる利益を得ようと!」

 

「そのとおりです流石はゴミアン。故に、手始めに私の目に適った料理店を手中に収めたいのですよ。『異世界食堂』はその内の一つ。邪魔が入りましたが諦めたわけではありません。他の店を買い占めるだけです。私の崇高な考えを賛同する商会は他にもいますし今もこうしている間に動いていることでしょう」

 

「流石です主様!いずれ『バッカスホーフ商会』が三大商会と称されるのも時間の問題ですなぁ!」

 

不敵に笑むゴミアンに邪な三日月の笑みを浮かべるバッカスホーフの首が頷く。

 

「いずれ落ちぶれて倒れる闇派閥(イルヴィス)の愚者共から利益など感じません。私達は常に勝ち組でなければいけませんよ。いいですねゴミアン」

 

「はっ、まさしくその通りでございます。しかし、三大商会の後ろ盾を持っているあの店は如何致します?」

 

「店の価値をあらゆる方法で落としていきますよ。価値のない物を何時までも抱えるほど商人は善人ではありませんからね。ですからゴミアン、あの店主を陥れる為にあなたも動いてもらいますよ」

 

「ははーっ」

 

深々と頭を垂らす従者に商人は暗い闇を瞳に孕ませて、『異世界食堂』に対する意趣返しを考え始めるのだった。

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