ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか   作:ダーク・シリウス

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冒険譚3

一誠を師と仰いでからも剣の素振りや稽古を欠かさず、気を引き出す特訓を今日も続けていたアイズは視界に入れる。銀髪に澄んだ青い瞳の幼い女の子を。何時も彼の少年と消えては現れる。【ロキ・ファミリア】のホームに住んでいるわけでもなさそうで、一体どこに住んでいるのかふと素朴な疑問として頭に浮かんだ。

 

「・・・・・二人はどこに住んでいるの?」

 

「藪から棒にどうした?」

 

「ホームにいてくれたらずっと一緒にいられるのに、修行もできるのに二人はどこで住んでるのかなって」

 

あと、半年間も帰って来なかった話しも聞かせて。

 

アイズの乞いを受け、アリサも話しを聞きたいらしく興味津々に目を向ける。純粋無垢な光を孕む眼の前に「うーん」と少し悩む仕草をし、自己完結した風に頷く。

 

「そうでもない話と驚くような話があるけど、聞きたいか?」

 

コクコクと首を縦に振る二人の幼女。姿勢を正しくして座り直し、聞く姿勢の構えをすればじっと話しを打ち明けるのを待ち始めた。特訓は一時中断だなと心中苦笑いし半年間今までどこで、アリサと出会う前に何をしていたのか一誠は語り始める。

 

「まずはダンジョンの中の情報を集めなきゃな、と思って毎日のようにギルドに通っていた」

 

「モンスターの情報を?」

 

「各階層の構造と多種多様のアイテムもな」

 

だからよく付き合ってもらったアドバイザーには、またかと呆られていた。

 

「その階層を踏破すれば下の階層に潜って挑戦、壁から手に入れられる鉱石や金属も採取しつつモンスターを倒し続けていたよ」

 

面倒だから壁を殴って採取していたけど、と付け加えれたアイズとアリサをなんとも言えない気持ちになった。

 

「そうやって繰り返して小竜(インファント・ドラゴン)を倒して中層に進出、中層の階層もそんな感じで探索していた」

 

他の冒険者と何等変わりもない行動をしていた、と二人に告げる。アイズの感想は、一誠の言う通り確かに大した話の内容ではなかった。語られる話の中で強さの秘訣でも聞けるんじゃないかと思っていたが実際に聞くと少し拍子抜け―――。

 

「半年の半分はそんな感じでいたが、もう半分は他の事をしていたし、驚く体験をした」

 

「驚く体験?」

 

話を続ける一誠にオウム返し。それは何なのかと首肯する本人は人差し指を空へ立てた。

 

「空の果てまで飛んで、途中分厚い雲の中に入ってみたら空に浮かぶ島があったり、月まで一っ飛びしてみたら猫の絵が描かれている扉があって、試しに入ってみると・・・・・そこは料理屋の中だったことがあったんだ」

 

「「・・・・・」」

 

そんなことあるはずがない。疑う目で見つめてくる四つの眼に対し、二人の反応を予知していた風に苦笑する少年。そこへ第三者、ハイエルフの冒険者が様子見と顔をだした。

 

「どうした、顔を突き合わせて」

 

「半年間いなかったイッセーの話を聞いてた」

 

「ほう、そうなのか」

 

話の途中なら加わって聞こうと、リヴェリアも輪の中に入り腰を下ろしたが、アイズやアリサから聞く一誠の半年間の空白には眉間に皺を寄せた。

 

「空に島など、ましてや月に店などあるはずがないだろう」

 

思い付きで話したのだろ、とリヴェリアからそんな雰囲気を感じても話した等の本人は肩を竦めるだけだった。

 

「じゃあ、今度は副団長殿が何か話をしてくれよ」

 

「なに?」

 

「「・・・・・(ジー)」」

 

水を差され話しをする気は無くなったわけでなく、純粋に興味本位でリヴェリアの話しを聞きたい。一誠の機転に年長者の話しはどんなのだろうと好奇心の眼差しを向ける二人の幼女。もう一つの視線も加わって三つの視線が絶世の美女のハイエルフに向けられ、困惑の色を顔に滲みだす。

 

「・・・・・私の話しなどつまらんぞ」

 

「つまらなくてもいいから」

 

と、催促する一誠。しかし他人から過去を教えろと言われてあまり気が乗らないのも事実。話しをうやむやにしてこの場から離れる機会がなくなる前に―――。

 

「人の話にケチつけて自分だけ何も語らないのはどうかと思うぜ副団長殿?」

 

肩に手を置いて満面の笑みなのに陰りがある一誠によって無くなってしまい、少し逡巡したあとは観念した風に息を吐いたリヴェリアだった。

 

「・・・・・何が聞きたい」

 

 

とある日では、アイズとアリサに背中に重しを乗せて腕立て伏せをやらせている時。ガレスが不思議そうなものを見る目で近づいてきた。

 

「のう、何をしておるんじゃ?」

 

「見ての通り、腕立て伏せ」

 

「それは分かるが、背中に重たい物を乗せてどんな効果があるのじゃ?」

 

「筋力が向上する」

 

―――一誠も自分の背中にどこから持ってきたのか、大きな丸太を乗せて(片腕のみ)腕立て伏せをしているのだから不思議でならないので、見たことのないトレーニングに蓄えた顎髭をさすりながら見つめた。本当に効果があるのかと気になったものの、実際その後、片手で数える程度であるが確かに力の能力値が向上していたので無駄ではないことを知った。

 

「ふむ、イッセー。儂が乗っても平気か?」

 

「ん、いいぞ」

 

丸太をどかすガレスが代わりに一誠の背中にどっしりと座りこんだら、何度も視界が上下に動きだす。ドワーフとして他の種族よりもやや体重はある方である。それでも変わらない速度で腕立てする一誠を見下ろしながら、こう思った。人の背中に乗る行為はこれが初めてで、何とも言えないがこういう鍛え方もあるのだな、と・・・・・。

 

「若い連中にもやらせてみるか」

 

いいシゴキにもなると薄く口元を緩めた。後にガレス指導の腕立て伏せの訓練で若い世代の団員達は、悲鳴を上げながらシゴかれる光景を空中回廊から眺める日はそう遠くないのであった。

 

 

 

ある日、【ロキ・ファミリア】の首領に呼ばれて事務室へ足を運んだ。その部屋は団長のもう一つの部屋だと言うことを知らないまま訪れ、事務机に座っていたフィンと対峙する。

 

「やあ、来てくれたんだね。てっきり蹴られて断られるかと思ったよ」

 

「朝っぱから酒臭い主神をどうにかして欲しいと思って来てみた」

 

「あれが彼女の日常だと受け入れる他ないよ」

 

それでよく眷族達から愛想尽かれないでいるな。心からそう思った一誠の心情を察したのか、苦笑いするフィン。

 

「イッセー、入団して半年以上経つがどうだい?」

 

「別に、何とも思わない」

 

そっけなく言い執務室を見渡した。魔石らしき結晶が内蔵されている大型時計(オールクロック)。一誠はそこから本棚の向かい側、暖炉の頭上の壁に掛けられた絵画風織物(タペストリー)に目を向けた。金糸や銀糸を多く用いたその壁かけには、一柱の女神の絵柄が織られていた。小人族(パルゥム)の間で深く信仰されていた架空の女神、『ファイナ』だ。彼女は『古代』にまで遡るとある騎士団が擬神化された存在である。彼の騎士団が小人族(パルゥム)の最初で最後の栄光―――。しかし、本物『神々』の降臨を境に彼女(ファイナ)の信仰は一気に廃れ、小人族(パルゥム)は心の拠り所を失い、そして加速度的に落ちぶれていった。

 

「それが気になるかい?」

 

タペストリーの女神像に目を向けていることからフィンの訊ねにこう言い返した。

 

「あれを織ったのは団長か?綺麗だな」

 

「オラリオに来る際に持ってきた私物の一つだよ。織ったのは同族の者でね。その女性は僕達小人族(パルゥム)が信仰していたファイナっていう架空の女神なんだ」

 

過去形で語る団長に短く相槌を打つ。

 

小人族(パルゥム)の冒険者の、上級冒険者の名前は他の種族の冒険者より圧倒的に少ないよな」

 

「そうだね。僕達の種族は周りから偏見されがちで見下されることは少なくない。数多くの同族はサポーターとして冒険者になることもよくある。だけどそんな同族に勇気の光が無いからなんだよ。前へ進む強い意志という勇気が」

 

勇気の光?と視線を戻した相手に碧眼を壁に掛けてある得物の槍へ向けながら言葉を発する。

 

「架空の女神を信仰し続けた僕達の前に本物の神々が降臨して以降、心の拠り所を失って廃れてしまった。だから小人族(パルゥム)の種族から英雄の存在が現れれば、また復興すると僕は信じてる」

 

目の前に立つ少年へ自分の信念を、志していることを打ち明け「よかったら冒険者に成った理由を教えてくれるかな?」と乞う。乞われた当人は淡々と返答する。

 

「ダンジョンの最後の階層をこの目で確かめてみたい―――未知への探求心かな」

 

「そうか。だったら途中で死なないよう頑張らなくちゃねお互い」

 

身に余る偉業を抱いている一誠のそれは、己の野望の成就する為に必要な要素の一つとして考えているフィンは否定せず頷きながらそう言い返した。

 

 

更にある日―――二日酔いで苦しんでいるロキの声が一日の始まりとして迎えた。団員達にとって日常的なことだと幹部以外は大して相手にもしないでいた。

 

「ううう、ママ~頭がめっちゃ痛いでぇ~・・・・・!」

 

「昨晩、程々にしろと注意した者の言葉を心に留めなかった者の自業自得だ」

 

「ぐはっ、辛辣なママの言葉でますます頭痛が・・・・・っ!よ、酔い止めの薬もなくなっていたからさらに苦痛がぁ・・・・・」

 

「いまガレスが【ディアンケヒト・ファミリア】印の薬を買いに行かせているからもう少し辛抱だよ」

 

「こ、今回は今までの比じゃない程に痛いんやぁ~。頼む、誰かうちの苦しみを癒してぇな~。特に誰かの胸に顔を埋めさせてくれたら痛みは和らぐと断言できるんやけどぉ・・・・・ちらっ」

 

「フィン、どうやら心配するほど重症ではない」

 

フィンの事務室でそんなやり取りを繰り返している光景すら日常茶判事でもあった。神の助けを無慈悲に突っぱねるハイエルフの副団長は小人族(パルゥム)の団長の補佐の仕事に意識を向け、長い耳に入る雑音もとい主神の苦しむ声に「心配無用」と断定した。その時、扉を開けて入ってきた一人も【ロキ・ファミリア】の日常の一つに加わった。

 

「ん?頭を抱えて悩み事か」

 

「お、おお・・・イッセーやないか。どないしたん」

 

「これからダンジョンに行くからアイズの同伴の許可を一応求めに来たけど大丈夫か?」

 

「気にするな。酒に溺れた者の末路に過ぎない」

 

リヴェリアの指摘に苦笑を浮かべるフィン。薬の買い出しに行ったガレスが戻ってくるまでずっとこの調子なのだと一誠に教える。

 

「・・・・・神でも二日酔いするんだな」

 

「イッセー、その呆れた顔とうちをゴミを見るような目はなんや・・・・・」

 

「俺の中の主神像が木端微塵になったからだが?もう主神を主神として見る価値も無くなりかけてるし」

 

ひ、酷い物言いやっ!?と叫んでは鋭い痛みに襲われて頭痛に堪える姿は見るに堪えない。ので、近づいて背中に添える風に触れた手を中心に淡い光が全身に広がりロキを覆う。一誠のその奇異な行動にフィンとリヴェリアは釘付けになり、何をされているのか分からないがあれだけ苦しませていた二日酔いによる頭痛が段々と和らぎ、次第に痛みは無くなって快調した。

 

「・・・・・お?なんや、頭痛がもうしなくなったんやけど・・・・・?」

 

「そうしたんだから当たり前だろ。これを機に飲む酒の量も減らしておけよ」

 

「イッセー、自分、なにしたん?」

 

「秘密だ」

 

体調を回復し終えたロキからの問いやリヴェリアからの追究の視線、フィンの意味深な眼差しから逃げるようにとっとと退室した一誠は、入ってきたガレスと擦れ違う。

 

「ほれ、買って来てやったぞいって・・・なんじゃお主ら、奇妙な物を見る目をしおって」

 

「ンー、ますますイッセーの謎が深まったなって思っていたところなんだよガレス」

 

「また何かしおったのか」

 

「ロキの二日酔いを何かしらの力の類で、私達の前で治したのだ」

 

そう言われても自分がいない間に何が起きていたのだと、古くからの付き合いの仲間に疑問符を浮かべて首を傾げるガレスだった。

 

 

【ロキ・ファミリア】から離れて別居している二人の日常生活は他の冒険者と変わらず過ごしている。両親を殺した化け物に対して復讐心が芽生えつつある幼女はダンジョンで鍛えるべく今日も兄的な存在と潜りにいく。

 

アリサの得物はアイズと同じ短剣のもの。そして今は白い靄のような霧が広間に広がっている12階層に出現した豚頭(オーク)と奮闘中で、悪戦苦闘を強いられていた。まだ幼い少女の上に短剣で肉塊のように肥えたモンスターの体を切り裂くのに一苦労、そして幼女を叩き潰さんと振られる迷宮内を徘徊するモンスター達に提供する『迷宮の武器庫(ランドフォーム)』、その中の一つ『天然武器(ネイチャーウェポン)』の棍棒も無視できない。

 

「っ」

 

『ォオオオオオオオオオオ!』

 

まっしぐらに向かってくるアリサにオークは棍棒を構えた。ついさっきまで枯木だった地面から生えていた物を抜き取ったそれは、強請った部分が丸く肥大したハンマーみたく、それを頭上に高く高く振り被る。

 

「っ!」

 

はっとしたアリサは条件反射的に突進した。武器を下ろす攻撃は薙ぎ払いと冗談からの振り下ろし―――その攻撃のモーションを片手で数えられないぐらい何度も何度も見て来た。そして相手の攻撃をする際の軌道を見極めてしまえば、回避はしやすい。地面に叩きつける故に連続攻撃の心配もいらない。

 

棍棒を引き上げるまでは、完璧に相手は隙だらけ。

 

 

―――一気に、畳み掛ける!

 

 

『ブグウウウッ!』

 

「ああああああっ!」

 

『―――ブギャア!?』

 

振り下ろされた棍棒を余裕をもって回避。突撃の勢いを緩めずオークの脇を駆け抜け、擦れ違い様に横っ腹へ斬撃を見舞う。裂かれた腹から緑色の鮮血が飛び散り、オークは堪らず汚い叫び声を上げた。

 

「えいっ!」

 

ガラ空きの背後から『教わった』通りに両足を狙った。両手で柄を握り締めて力を籠めて短剣の切っ先がオークの太い短足に刃が走る。

 

『――――――――――――――ッッ!?』

 

耳を聾する大絶叫。バックリと裂けた足からも鮮血が迸り、返り血を浴びる前に跳躍して背中を強く蹴り出して草原に倒した。潰れる悲鳴にルーム全体を震わす衝撃。オークは悶えるが、アリサは止まらない。ダッ、ダッ、とオークの巨大な背中の上を駆け抜け、そして後頭部。剣先が真下に向いた短剣を振り下ろす。鈍い音と貫いた感触が柄を握る両手にまで伝わりながら刃がオークの頭が貫通した。

 

『ギッ、ブゴォ・・・・・』

 

「―――アリサ、もう一匹来たぞ」

 

「!」

 

一度大きく痙攣してやがては絶命したモンスターから顔を上げ、見守っていた者の言葉通りこの階層にやってきた通路の逆方面から現れたオークを視認する。戦闘の音を聞き付けたようで、既に興奮しながら霧の海を掻き分けて来て、周囲の天然武器(ネイチャーウェポン)を装備しようともしない。

 

「まだ大丈夫か」

 

「大丈夫だよ。まだ、いける」

 

掛けられた問いに言い返して後頭部から抜き取った短剣についた緑血を払いつつ水平に構え、臨戦態勢を取るアリサ。

 

「私はもっともっと・・・・・強くならなくちゃ、ダメだから」

 

そう言って地を蹴って駆け出し、前に突き出した短剣を構えたまま矢の如くオークの胸部へ跳びかかった。

 

 

・・・・・ ・・・・・ ・・・・・・

 

・・・・・ ・・・・・

 

・・・・・数時間後。

 

 

腕に嵌めた時計の大小の針が揃って12時を差した頃を見計らい、ずっと見守っていた者が再び声を掛けた。

 

「アリサ、昼食の時間だ」

 

「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・うん」

 

草原に横たわる小竜(インファント・ドラゴン)だった灰燼と化した灰の山の前に立ち、息を整える少女はドロップアイテムの回収を忘れずに戻ってきた。草原に敷かれた布の上で昼食用に作っておいた弁当箱を並べ待っていた真紅の全身型鎧(フルプレート)を身に包む人物=一誠のもとへ。疲れた体に糖分はいいと甘い飲み物を手渡され、コクコクと飲んでいくと甘さが口に広がり全身が癒された気分で深い息が零れる。

 

「美味しい・・・・・」

 

「しぼりたてのミックスジュースだ」

 

「私、好き・・・・・」

 

浮かぶ笑みに嘘はないと一誠も口元の部分だけ開き、釣られた風に笑んで命の駆け引きをし富と名声、野望と欲望を叶う魔の巣窟の中でほのぼのと食事をする光景を醸し出す。二人がいる階層にも早朝から潜り込んで来ている冒険者達が更に下の階層へ向かったり、まだ駆け出しの冒険者達は自分の力量に見合う上層で成り上がらんとしている。そんな様々な冒険者達の邪魔にならない壁を粉砕して瓦礫の山と化しているその傍で昼食をしていた。

 

「今日は体力がもっと頑張れるようにスタミナ弁当にしてあるからたくさん食べておけ。このあと、上層の希少なアイテムを探しに行くからな」

 

「うん、わかった」

 

弁当の中身からは食欲をそそる匂いを出している。アリサが食べたことが無い料理が詰まって新鮮さと朝から作っていた一誠の料理の腕前は凄いと感嘆と称賛を心中で思った。

 

「イッセーってママより料理が上手なの?」

 

「んー、分からないな。でも、やっぱり誰かに作ってもらって美味しいのは嬉しいことだと思う」

 

「嬉しい・・・・・私もママの料理、好きだった」

 

「そうだな。俺も母さんの料理好きだったな」

 

「・・・・・イッセーも、ママに会えないの?」

 

自分と同じ境遇の人?と思って訊ねたら「そうだな。アリサと似ている」と述べられた。

 

「生きているけれどもしかしたら二度と会えないかもしれない。だからアリサと似ているんだ。元の世界からこの異世界に来た人間―――てな」

 

「異世界・・・・・」

 

自分達は本当に異世界に来たのか、幼いアリサはまだ実感しないでいる。本当は同じ世界のどこかに存在している大きな町中にいるんじゃないかって思う時がある。

 

「私と同じ世界から来たの?」

 

サンドウィッチを食べながら首を傾げる。何かこの幼女に応えられるものはないかと軽く思考の海に飛び込んで考えると胃の中に送り込んで口の中を空っぽにしてから口を開く。

 

「アリサはどんなところで生まれたんだ?」

 

「ロシアって場所。恐い化け物が世界中に居て色んな場所がたくさん壊れているばかりだったよ」

 

「・・・・・ロシアか。その怖い化け物の名前は分かるか?」

 

分からない、と首を振るアリサ。彼女の世界の情報はそれ以上聞き出せないと判断をし、ジッと―――彼女の情報を見出した。そして異世界ならではの真新しい情勢を知ることになった。

 

「なるほど・・・・・」

 

「?」

 

「ああ、軽くアリサの世界を調べたんだ。そしたらその化け物は―――アラガミという名前らしい。この世界にも俺の世界にもいない凶暴な化け物だな」

 

初めて聞く『アラガミ』いう両親を殺した化け物の名前を知り、小さな手をぎゅっと握りしめた。

 

「・・・・・パパとママを食べたアラガミはこの世界にいないの?」

 

「この世界に来ない限りは絶対だろうな。仮に来たとしてもこの都市には強い人達が多くいるようだし、アリサが大人になる前に倒してしまうかもしれない」

 

ただし、アラガミという人類にとって天敵に等しい脅威な生物の強さはどのぐらいなのか一誠は知らない。それでも簡単に倒されるほどヤワではないだろうと信じてアリサにそう告げたが、少女の心は複雑だった。顔にも出してしまうほどだったので心情を察して銀髪の頭に手を乗せた。

 

「・・・・・?」

 

「今は強くなることを集中しよう。元の世界に戻れる時は、昔の自分より遥かに強くなった時の方が色々と都合がいい」

 

「・・・・・うん」

 

もしも戻れるなら、アラガミを倒せる力を身に付けてから。それは同感だ。弱いままで戻っても直ぐに両親の仇は取れない。この世界で強くなって何時か必ずアラガミを・・・・・。

 

 

 

オラリオに穏やかな気候が訪れ、季節は秋。食欲の秋、読書の秋、スポーツの秋、芸術の秋等が主に盛んになる日に成った。肌で次の季節に移り替わったことを感じ取った少年はとある食材を求め幼女を市場へ連れ回した。

 

「サンマ?なんやそれ」

 

「・・・・・知らないのか」

 

結果、惨敗したので主神達に問うた。が、不思議そうに首を傾げられた。

 

「うーん、それすら聞いたことが無い名前やで。フィン達、知っとる?」

 

「いや、聞いたことが無いね」

 

「私もだ」

 

「逆に何なのかこっちが知りたいところじゃ」

 

三人の亜人(デミ・ヒューマン)達すら聞き及んだことが無いとロキの問いに答えた。この三人すら知らないなら【ロキ・ファミリア】自体、追い求める食材の入手先は知り得てないだろうと少し残念がった。

 

「突然戻って来て聞きたいことがあるって言うから何やと思えば・・・ガレスの言う通りサンマって何なん?」

 

「刀のように細長く、背中は黒く腹は銀色の魚だ」

 

「ふむ、刀のように細長い魚とは聞いたことが無いの。で、それがどうしたのじゃ」

 

「市場に行っても無いから最大派閥なら何か知っているかなって思って」

 

「すまない。そう言う魚は僕等も食べたことが無いんだ。無論、見聞したことも無ければ触ったことすらない。因みにその魚はどのあたりの海で収穫できるかな?」

 

「日本・・・・・いや、極東だ」

 

漁獲される国の名を出したところで、極東?とガレスが髭を擦りながら思い当たる節があるようで買って出た。

 

「極東出身の親を持つ者ならサンマとやらを知っておるかも知れん」

 

「心当たりはあるのか?」

 

「あると言えばある。そいつに聞きたいなら案内してやる。儂も丁度頼んでおいた武器を受け取りに行く予定じゃったからな」

 

椅子に座っていたガレスが立ち上がって訊ねた。そう言うことならお願いすると乞い、

 

「私も行っていい?」

 

アイズも同伴することでアリサも含め四人は極東出身の者の下へ向かうのだった。

 

 

ガレスの先導の下、彼等が歩いているのは北東のメインストリート。オラリオが誇る魔石製品製造の心臓部であり、ギルドに雇われた無所属(フリー)の労働者から派閥の職人まで集まる都市第二区画―――工業区が隣接している。生産系の仕事が盛んなだけあって通り行く人々は作業衣を着た労働者が主だ。筋骨隆々の中年のヒューマン自ら機材を持っていずこかへ運び、商人と並んで歩く獣人が手渡された注文書を見て怒声を放つ。そこら中の建物から響いてくるのは金属が弾ける甲高い音であったり、あるいはドワーフ達の下手くそな掛け声の歌だった。まさに男の仕事場と言った雰囲気を醸し出す大通りには、女性や子供の姿は全くと言っていいほど見掛けない。周囲から随分と浮いている幼女二人を連れて一誠はガレスの隣で歩みを連ね、メインストリートから第二区画の中心へと向かった。一度も訪れた場所が無い区画の周囲を好奇心と興味津々の眼差しを、初めて都会に来た田舎者のように見渡す内に辿り着いたのは、とある平屋造りの建物―――工房である。

 

「・・・・・ここは?」

 

鍛冶師(スミス)の工房じゃ」

 

「鍛冶師の?」

 

掃除もされておらず煤だらけの工房の前に立って質問に答えるガレスのゴツゴツとした大きな手が、ガラッと無遠慮に扉を開けた。扉を経てすぐ、広い鍛冶場に繋がる工房内は強い鉄の香りに満たされていた。碌に魔石灯を灯されていない空間は暗闇に包まれており、奥でぼうっと灯っている炉の赤い炎だけがまともな光源として存在している。屋上でも聞こえてきた金属の打撃音が、カァン、カァン、カァン、と耳を聾するほどより強くより高く鳴り響いてくる。工房に奥に進むガレス達は、やがて彼女を発見した。目を疑うほどの大型工具に囲まれながら、鉄床(アンビル)の上の精製金属(インゴット)を鎚でひたすら叩く後ろ姿。そばにある炉と弾ける無数の火花の光に焼かれる褐色の横顔は、無数の汗にまみれながらなお凛々しかった。整った容貌は今ばかりは女の美とかけ離れ、燃え盛る炎のような猛々しさと美しさ―――職人としての顔を纏っては、「あっ」と見知った顔だったと一誠が漏らした。ガレス達の存在にも気付かない彼女は、ただ真摯に目の前の鉄と向き合い、己の鎚を振り下ろし続けていた。

 

「・・・極東の出身の鍛冶師って、椿だったんだ」

 

「む。知っておったのか?」

 

意外そうに振り返るガレスに肯定と頷き、一人の鍛冶師(スミス)の姿を見守る。結わえている黒髪を揺らす彼女は、カァンと最後の鎚を振り下ろしを経て、手の動きを止める。そこから一呼吸も置かず鉄床(アンビル)の上にできた剣身を鋏で持った。じゅううっ、と立ち昇る湯気。尖れ、磨かれる刃。素人が傍から見ても理解が及ばない作業を長い時間を掛けて行った後、即座の柄と鍔を組み合わせ、一振りの剣が完成する。片手に持つその紅の剣をまじまじと眺めていた彼女は、そこでようやく息をついた。

 

「椿」

 

首辺りまで伸ばしている黒髪を晒す後ろ姿に、ガレスが呼びかける。椿、と呼ばれた女性は振り返った。

 

「おお?」

 

今になって気付いたように、ガレスの顔を、一誠の見るなり彼女は右眼を丸くした。そしてすぐに、破顔の表情を見せる。

 

「おおっ、ガレスよりも珍しい客人がいるではないか。久しぶりだイッセー、それにあのときの小娘も。む、そこの金髪に金眼のちっこいのはもしや巷で噂されている『人形姫』か?」

 

彼女は子供のように笑みを浮かべ、ずらずらと言いたいことを述べてくる相手にガレスが言う。

 

「こやつはお主なら知っておるかもしれんと思ってな。武器を受け取りに来た儂が連れて来たのじゃ」

 

「ほう?手前が知っていることなら何でも聞いてくれ。ああ、ガレスの武器は既に用意させてもらっている」

 

巨大な斧が掛けられている壁に指しながら「勝手に取って来い」と無造作なやり取りに鎧の中で目を瞬かせる一誠。それに対して特に何も言わず勝手知ったる様に工房の中を歩いて椿の言葉通り取りに行った。

 

「それで、手前が知っているかも知れんとは?」

 

「椿って極東出身って聞いたけど」

 

「うむ。手前と言うより手前の母親が極東出身であったな。しかし、手前も極東から離れて実に久しい」

 

「じゃあ、サンマって知ってる?」

 

魚の有無を問うた瞬間。椿の右眼に鋭い眼光が走った。

 

「・・・・・イッセー、お主も極東の出身者だったか?」

 

「まぁ、そんなところ」

 

「ふふ、同郷者と巡り合えっていたとはな。ああ、質問に答えるならば肯定だ。あれは実に美味だ。あの時はまだ幼かった故にまだ味はこの舌に覚えておる」

 

遠い目で語り懐かしむ椿の顔は極東出身の人として思い出していた。

 

「しかし、どうしてサンマの話を持ち出したのだ?」

 

「オラリオに無かったから」

 

「あれは極東でしか漁獲されない魚だぞ?オラリオに持ち込む時は既に鮮度が落ち美味しくなくなる。迷宮都市のこの場所にまで運ばれることはほぼないに等しい」

 

理由はそう言うことなのか。納得して理解した一誠は斧を片手に戻ってきたガレスへ視線を向けた。

 

「もう話は終わったのか?」

 

「ん、オラリオにない理由を聞けた」

 

「なんだ、もう帰るのか?せっかくだからもう少し話をしても構わんぞ手前は。特に・・・・・」

 

残念がりながら腰に佩いている蒼い鞘に収まっている剣を職人気質の目で向ける視線は、好奇心で満ち溢れていた。

 

「お主のその腰にある剣。とても不思議な力を感じるから手前はさっきから気になって仕方ないのだが」

 

「・・・・・これか」

 

金色の柄を握り鞘から抜き取る。意匠と装飾が凝った黄金の剣が椿の目に留まって―――言葉を失った。目も凍結したように見開いたまま固まり、ガレス達は不思議そうに見つめた。

 

「終わりだ」

 

すぐに鞘に収めアイズとアリサを抱えながら踵を返して扉へ向かう。その姿に椿が我に返って制止の呼びかけをしたが、一瞬で姿を暗まされて叶わなかった。

 

「ガ、ガレス!あやつの剣は一体何なのだ!」

 

「ただの黄金の剣じゃろ」

 

「お主の目は節穴か!鍛冶師なら一目で見たら誰でもわかるというのに!」

 

「儂は鍛冶師では無いわい」と呆れながら言うガレスの言葉は聞こえず、逆に肩を掴んで「もう一度イッセーを連れて来い!」と催促する始末だった。だがしかし、その日から一誠とアリサの姿は見ず【ロキ・ファミリア】に顔を出したのは3日後のことだった。

 

見慣れない魚を持って来て魔石製品の発火装置を使わず、七輪と言う道具と四方形の金網で下処理したサンマを炭で焼き始めた場所は大食堂の調理場。当然、ロキ達が顔を出さないはずが無かった。

 

「ほー、これが自分が言っとったサンマっちゅう魚か。確かに刀みたく細長いんやなぁ~」

 

興味津々で調理場で魚を焼く一誠の回りをうろつく主神よりも火加減の調整と焼き加減を専念しているため、敢えて気にしない。無視する一方、発火装置の上に置かれている楕円形の鍋の蓋が内側からボコボコと音を鳴らしていた。アリサは大きな大根を棘付きの板に擦り続け、瑞々しくふんわりとした大根の塊を作るために削る。

 

「ンー・・・・・魚の焼く匂いで美味しそうに感じるのはいつ以来かな」

 

「嫌いではないが、これだけ細いのではちと足りぬかもしれんわい」

 

「食べる気なのかお前達」

 

「・・・・・」

 

一人三尾分のサンマを焼き終えた頃には削った大根の塊も大量に出来ていた。鍋の蓋を取ると白い粒粒がびっしりと詰まっていて、それを器の中へ盛って―――四人に提供した。

 

「はい、サンマの炭火焼の完成だ。味付けは醤油におろした大根、塩も掛けてあるから何も付けず食べるのも悪くないから。ついでに食べやすいように骨は全部抜き取ってある」

 

調味料を入れた三つの小瓶も用意され、少し遅めの昼食が始まった。まだ居残っている団員達の周囲から奇異な視線を向けられる中。サンマの腹を豪快に頬張るか、ナイフで区切った身をフォークで指して行儀よく食べる二つの食べ方をする。味付けはどれを付ければ美味しいか興味を持った方から掛けて食べたり何も付け加えないで食べる。焼いたサンマの評価は・・・・・。

 

「魚料理は色々と食べたことはあるけれど、これは美味しいね」

 

「うむ。この白い粒粒のと一緒に食べるとまた美味しいわい」

 

「焼けた魚の表面がパリッとし、中の肉厚は柔らかく魚本来の味が確り残っている。この大根の塊を付けて食べるとさっぱりと味になるな。少々辛みはあるが、それも調味料の一つなのだろう」

 

「美味しい・・・・・」

 

「リヴェリアは大根なん?うちは醤油を垂らして食べたら美味しかったでー」

 

高評価であった。アリサの方へ視線を向けると、一生懸命ナイフとフォークを使って身を切ってご飯と一緒に食べる姿が映り込む。既に二匹目のサンマの体を解体している最中だった。それらを見て満足げに口元を緩め、一匹丸ごと口の中に入れるという豪快な食べ方をした一誠に触発したガレスも真似て食べ始めた。

 

「のうイッセー。もしかしなくてもお主、極東へ行ったのじゃな?」

 

「ん、アリサと一緒にな。他にも極東の食材をかき集めたからしばらくは行かず極東の料理を堪能するさ」

 

「一体何時の間に・・・・・ギルドへ外出の手続きはしたのか?」

 

「え?申請しないとダメだったのか?門番が居眠りしていたから素通りしちまったけど」

 

「・・・・・イッセー、まさかだけど手を出してないね?」

 

「心外だな団長。本当に寝ていたんだ。な、アリサ」

 

うん、と首肯するアリサからの助言は嘘ではないとロキは悟った。警備がゆるゆるやなぁ~と他人事に思いながら塩を掛けたサンマを食べて「これも美味い」と称賛する。

 

 

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