ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか   作:ダーク・シリウス

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冒険譚22

【アルテミス・ファミリア】を脱退してからアスナは本格的に『異世界食堂』のキッチンやホールの仕事を取り組、レイラとシル、帝国から連れてきたフィリラ達と看板娘として働き常連客達の間で知名度が高くなってくるだろうと予測するその日。

 

「イッセー、アスナがエルフとはどういうことだ。ヒューマンであっただろう」

 

帰ってくるなり男はリヴェリアを筆頭に同居or同棲しているアイズ達に囲まれながら自問を受けていた。その理由はヒューマンの女性が何時の間にかエルフに成っていた事だ。事情を知って今の今まで様子見と見守ってきたが、今日【アルテミス・ファミリア】に行ってとんぼ返りをした女性の姿を見て気になってしまった。故に問いだたせば一誠が原因であることが明らかとなったのだ。

 

「また異世界の力なのか」

 

「ぶっちゃけそういうこと」

 

「どんな方法でヒューマンからエルフになれるのだ」

 

「生命の理を覆す力で異種族に転生してやったんだ。今のアスナは俺の世界のエルフとして生きている。だから半永久的に生き永らえる生命力と魔法の魔力を得た」

 

そんなことができていたのか。半ば愕然の気持ちで正座を強いられている一誠を見下ろす翡翠の瞳は、更に何か言えと眼差しが催促する。雰囲気でそれを察し、心配そうに視線を送ってくるアスナを一瞥して白状する。

 

「情報があればどんな種族でも別の種族に何度でも転生することができる能力を保有しているんだ。だから、俺の世界のエルフの情報をアスナの人間としての情報を上書きして元人間のエルフに転生したんだ」

 

「そんな便利な能力もあったのね。じゃあ、子供が神に転生できたりするのかしら?」

 

「それはしたことがないからわからないな。しようとも思わないし」

 

興味深々に耳を傾けているフレイヤから質問は終わり、椿が腰に両手を添えながら前屈みになって訊ね掛けた。

 

「お主の世界の種族に手前らが転生したら見た目は変わるのか?」

 

「マーメイドみたいな魔物、モンスター以外だったら変わらない。ただ、転生した種族の能力が付加するぐらいだ。分かりやすく言えば、異世界の魔力を得て詠唱を唱えずバンバン魔法を放つ事が出来る。アスナにも説明したぞ」

 

「ふむ。ならば手前がお主の世界のドワーフに転生したら魔法は得られるというわけか。実に興味深い話であるな」

 

だろうな。というか、ドワーフは魔法使えないぞと告げると、足を崩して立ち上がる。

 

「理由は教えたぞ。他に無いなら解散だ」

 

「待て待て、もう少し詳しく話を聞かせて欲しい。他にどんな種族に転生できる?転生して魔法以外に何が得られる?」

 

更なる質問攻めに億劫そうに溜息を吐いて、アスナとシノンに説明した話を復唱するように説明口調で告げる。語られる異種族と転生した際のメリットとデメリットを聞き逃さないと耳を集中して静かに聞くリヴェリア等は次第に興味深く感じた。

 

「異世界のエルフとなった彼女はお前のように【ステイタス】に左右されず、魔法を放てる・・・・・か」

 

「練習しなきゃ使えるもんも使えないがな。だけど、アスナが魔法を放てるようになれば、合体技の魔法ができるな。それが今後の楽しみだ」

 

合体技―――冒険者にとって馴染みの無い共同作業の事を差す。異世界では当たり前のようにしているのかとアイズは好奇心で訪ねずにはいられなかった。

 

「合体技って、強いの?」

 

「一本の枝より束の枝の方が折れにくいように、合体技は複数以上力を合わさったもんだ。弱いはずがない」

 

それを聞いてアイズの中で合体技を編み出したい欲求が沸き上がった。頭の中でも二人で強大な弧王の怪物(モンスターレックス)を挑み最後に風の魔法と一誠の魔法の合体技が炸裂し倒す妄想が浮かんでそれを現実にしたい願望が、心の奥底らから憧憬が強くなった。

 

合体技。後方で魔法を放つ魔導師にとって殆んど縁がない必殺技。魔導師全員で時間を掛けて魔法を放つぐらいならしてるが、それは一斉攻撃的なものだ。もっと効率かつ強力な魔法を共に発動することが叶えれば多数の相手に一網打尽できるだろう。

 

「「((転生・・・・・))」」

 

姿形は変わらず新たな種族として新たな力を得られる。デメリットはあるがそれでもメリットの方が高い。その気になれば元の種族に戻れるのだから問題視する不安要素はない。そう考えると試しに転生したらどんな感じなのか知りたくなったアイズとリヴェリアが声を掛けようと開いた口は閉ざさざるを得なかった。一誠の腕輪に受信の合図の点滅が前触れもなく生じたので、通信を入れてきた相手と通話する姿勢の男は腕輪に触れた。宝玉から浮かぶ立体的映像に象頭の仮面を被った男性がドアップで映りだした。

 

『俺がガネェエエエエエエエエエエエエシャだっ!』

 

「うるさい、切るぞ」

 

『あ、ごめんなさい。切らないで』

 

【群衆の主】ガネーシャからの通信だ。ガネーシャにも腕輪を贈ったら両手を挙げて喜んだ記憶が煩いほど残っている一誠に何の用だと問うたら。

 

『異世界の祭りのことについてもっと語り合おうではないか!』

 

「・・・・・」

 

えー・・・・・と面倒極まりない事が十中八九絶対に起きると嫌そうな顔をしたがガネーシャは『幽玄の白天城』がある西と北西のメインストリートに挟まれてるここ区画にいるということなので少し面倒臭いが中に招くことにした。

 

「イッセー、元の世界の祭りって教えても大丈夫なのかな」

 

「実践することは難しいだろうから大丈夫だろ。『暗黒期』の真っ只中で祭りをやろう!って騒ぎ出す馬鹿な神だっていやしないだろうし、いたらいたでその神の神経は異常だ。馬鹿を通り越して超馬鹿だ」

 

だが、その超馬鹿がこれからここに来ることを一誠は知らなかった。

 

「ほうほう、ほうほう、ほーうほうほう・・・・・」

 

筋骨隆々のフクロウがそこにいると思うほど相槌だけを打っては用意した料理、ピザを食べる男神がいた。麗人の少女も無言で肉と野菜のピザを食べて耳を傾ける。二人ともパソコンの画面に映る映像を見ながらだ。時々キランと眼を輝かせる主神に嫌な予感を覚えたが特に何も言わない方が不安で堪らないものの、オラリオで祭りを行うには無理がある物ばかりの祭りだ。焼けたチーズの癖のある味とトッピングに乗せた食材の味を楽しみながら食べ続けるアイズ達と昼食の時を過ごす―――。

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

パソコンから顔を上げて己を見つめだすガネーシャの視線に気づき視線がぶつかり合う。片方は意味深に白い歯を覗かせてキラリと輝かせた対象的に片方は顔を物凄く顰めだす。

 

「イッセー、祭りをやろう」

 

「だが断る」

 

いたよ、超馬鹿がと内心ガネーシャに対して呆れ果て熱く語り冷たく否定する言葉のキャッチボールが繰り始め出す。

 

「不安と恐怖で怯える子供達に元気付ける為にもやはり祭りをするべきだとガネーシャは思う!」

 

「その祭りをブチ壊す闇派閥(イルヴィス)にどう対処するんだ。ギルドの了承だって必要だと思うぞ」

 

「悪に屈しない姿勢を見せることで闇派閥(イルヴィス)も手出しすることは難しいと思う!」

 

「祭りをすることで賑やかになるのは確かだけど、その賑やかさに紛れて襲撃が起きたとしても続ける気か?死人が出る祭りなんて誰も参加したがらないだろ」

 

大体だ、とガネーシャに問いただす。

 

「どんな祭りをしたいと言い出すんだ主神様よ」

 

「喧嘩祭りだ!」

 

「阿呆かっ!?」

 

「どはァッ!?」

 

思わず気弾をガネーシャにぶつけてしまい吹っ飛ばしてしまったが気にしてられない。椅子を押し倒して立ち上がる一誠はビシッと男神に指を突き付ける。

 

「よりによって喧嘩祭りかよ。何となくこの世界の快楽主義の神々が好きだろうなぁと思ってた祭りをよりにもよってお前が選ぶか!」

 

「その通り!」

 

「威張るな!」

 

もう一度主神に気弾をぶつける一誠に冷や汗を浮かべるロキは恐る恐ると質問をする。ガネーシャがしたい喧嘩祭りとは何かと知るために。

 

「喧嘩祭りってなんなん?」

 

「・・・・・はぁ、この世界に山車あるか?」

 

「山車はあるで?それがどうしたん?」

 

「あるのかい。まぁ、喧嘩祭りってのは山車の他に神輿、行燈、山車、太鼓台等でぶつかり合うように行う祭りの総称だ。喧嘩をしているように見えることから『喧嘩祭り』と称されている」

 

指を弾いてロキ達にも見させる為に立体映像型の魔方陣を展開、喧嘩祭りをしている光景の映像を見せる。昼夜問わず行われてるソレは上半身が裸で自分より大きなものを担いで歩く大勢の男達が熱狂、暑苦しい肉声で音頭をしながら歩き、相手の山車を見つけるや否や、全力でぶつかりあう。例え担ぐ人がぶつかっても屋台がぶつかって壊れようと相手に押し負けんという意思と姿勢を窺わせながら張り合う熱気が画面越しでも伝わってくる。

異世界はこんな神ですら考えもしない祭りをしているのかと興味津々で見つめるロキ達女神やリヴェリア達冒険者達。

 

闇派閥(イルヴィス)がいる時期にこれをしたいなんて阿呆だろ。絶対に狙われるって」

 

「悪に屈しない姿勢も大事って言うことはわかるんだよね?」

 

「そりゃあそうだ。俺だって何でもかんでも否定しているわけじゃない。俺は何時だって最悪な状況を想定した上で考慮しているんだ。祭りをするなとは言わない。それをするのはまだ早いってことだ」

 

「そうなんだね。闇派閥(イルヴィス)がいなくなったらでも遅くないか」

 

「ん、どっかの神がクリスマスをしたいなんて言いだすからな。せめて目の前の問題を解決してからやれってことだ」

 

その間、一誠とアスナの異邦人の会話がされた。ガネーシャの考えを分かっている上で一誠は問題視を指摘しているのである。その意図を悟りオラリオの事を思って言っている男に一度笑みを浮かべたが次に心配そうに尋ねた。

 

「大丈夫なの?フィリアさん達に異世界のことを教えていないんでしょ。アルガナさん達だって」

 

「別に俺達が異世界から来た存在だって言ったところで、特に何も変わらない。俺達の認識を改めて変わらない日常を過ごすだけだ。問題なのは俺の正体だけだ」

 

人の皮を被っているモンスターと一緒に生活をしている等、死んでも言えない秘密だ。アスナもそれを分かっている。それに比べて異世界のことを教えても痛くも痒くもない。あまり言い触らすことでもないがそれでもマシなほうであるのだ。

 

「・・・・・じゃあ、私達が異世界から来たってこと教えても大丈夫なんだね」

 

「安易に言い触らさないよう釘刺す必要があるがな」

 

そこでガネーシャが話に介入してきては「どうしても、駄目かイッセー」かと懇願する乞いにバッサリと切り捨てる。

 

闇派閥(イルヴィス)の問題が解決しない限りは絶対にダメだ。大体、山車を揃えるのに時間も金も掛るんだぞ?時間はともかく金はどうするんだ」

 

「【ファミリア】の資金から買う!既に俺はそれで買って一つあるゾウ!」

 

「・・・・・団長」

 

「・・・・・何も言うな。その憐れみの眼差しを向けるな」

 

・・・・・もはや語るまい。

 

「―――絶対、兵藤が悪い!」

 

一方【アルテミス・ファミリア】のホームのリビングキッチンでは、副団長の脱退について疑問したヒーロー組の異邦人達がどうしてそうなったのか議論が飛び交う間もなく一誠が悪いと浮上した。

 

「あんにゃろうがモテ過ぎるのが悪いんだ!」

 

「いや、それが絶対お前の本音だろ峰田。自分がモテないからって」

 

「上鳴、目の前でモテモテの男を見て何とも思わないのかよぉっ!?」

 

「思わなくねぇだろ。あーくそ、俺もモテてぇよー!」

 

「だろ!きっと兵藤が寝取ったに違いないんだ!魔法とか使ってよ!」

 

いや、それこそ絶対に有り得ないと自分達が知る兵藤一誠と比較・・・・・できない。この世界に存在する兵藤一誠と似て異なる者だと当人も主張している故にわからないのだ。

 

「峰田、あまりそう言う話はするな。このことは本人達の問題でもう解決した話しだろ」

 

「轟君の言うとおりだ!仲間とは言え付き合っている人達の恋愛事情に僕達が首を突っ込む必要が無い!」

 

紅白の髪に黒と空色(アクアブルー)のオッドアイ、顔に火傷のある少年、轟焦凍の意見に尤もだと黒髪に眼鏡を掛けた気真面目が歩いていると体現している少年の飯田天哉に諭され悔しげに顔を顰める。

 

「それよりも俺達は次の階層に攻略することに専念するべきだ。二人の借金をいち早く返済するためにもな」

 

「前よりも住み心地が良くなったけど問題はまだ残ってるもんな」

 

「「うぐっ」」

 

何気に肩身が狭い思いをしている様子の二人。その話になると特に峰田は強く出れない。

 

「しっかし、全然俺達の【ステイタス】は伸びねぇーよなぁー?」

 

「【ランクアップ】した団長達の【ステイタス】と比べて全然低いよねー。もっと強いモンスターと戦わないと駄目なのかな?」

 

「それでも駄目だったら絶望的ね。イッセーちゃんでも【ランクアップ】ができたんだから望みはあると思うけれど・・・・・」

 

何かコツでもあるのかな?と思わずにはいられず、茶色の髪をサイドテールに結んだ少女、拳藤一佳は腕輪を操作しながらこっそりと気配を殺して部屋から出た。通信を入れて少し経つと、宝玉から立体映像の画面が飛び出して一誠の顔が浮かび出した。

 

『どうした、珍しく通信をしてくるなんてな』

 

「えっと、イッセーさんに教えてほしいことがあるんですけど」

 

『俺が知っていることなら教えるぞ』

 

こうして普通に会話をしているだけで自分が知っている兵藤一誠とどうしても被ってしまう。当の本人は自分ではない自分と話されて嫌がる傾向があるのだが・・・・・。

 

「【ランクアップ】する秘訣とかありますか?皆の【ステイタス】、中々伸びなくて・・・・・」

 

『・・・・・喧嘩売ってるなら買うぞ?』

 

ど、どうして!?と喧嘩腰に入る一誠に困惑してしまう少女だった。何か怒らせるような発言をしたのかと困ったように疑問を抱いていると一誠から尋ねられた。

 

『お前、元の世界でゲームしたか。RPGでも何でもいい』

 

「えっと、ちょっとだけなら」

 

『ならLv.を上げるにつれて弊害になる理由を考えないのか?』

 

Lv.上げの弊害とは・・・・・それが何なのか改めて考えても思い浮かべない一佳は同性と数人で使っている自室の中に入りながら「わかりません」と答えると一誠が指摘した。

 

『99レベルのキャラクターがモンスターの中で雑魚扱いされているスライムやゴブリンを倒したとして、経験値がどれぐらい手に入ると思う?』

 

「雑魚扱いされているモンスターから手に入る経験値・・・・・1~10までですか?」

 

『まぁ、そんな感じだろ。でだ、99レベルのキャラクターが100レベルになるために必要な経験値が・・・100万だとしたらどう思う?』

 

「い、いくらなんでもそれは低過ぎます・・・・・」

 

『雑魚のモンスターをいくら倒しても経験値の数値的にスズメの涙以下だ。それは【ステイタス】も同じ原理だ』

 

そこまで言われてはっと全てを理解して悟った。

 

「私達が強過ぎてあまり成長しないんですか?」

 

『ようやく理解したか。点数を点けるなら69点だったぞ。もっと色々と考えるべきだお前等は』

 

ぐうの音も出ない少女は自省の念に駆られた。単純に生きるだけでは駄目なのだと暗に言われながら耳に入る一誠の言葉に驚いを隠せなかった。

 

『言っとくけどな。俺なんてずっと強過ぎるあまりに【ステイタス】の熟練度はI0だったんだぞ!』

 

「・・・・・物凄くすみませんでした」

 

口には言わないが、己が知る一誠は最強のヒーローを凌駕するほど強い。だったら自分達より成長していないこともどうして考えられなかったのだろうか。一誠の言うとおり色々と考えて生きなければならない。無知は時に自他を殺してしまいかねない。

 

『Lv.1のまま「深層」のモンスターを百匹も千匹も倒しても全然【ランクアップ】するどころか、全部のアビリティの能力が0のままでこれほど絶望感を覚えたことは三度目だからな!?お前、そんな俺の気持ちを分かるか!』

 

「・・・・・」

 

『ようやく【ランクアップ】したところで潜在値が0のままLv.2になっても意味が無いんだよ・・・・・くそぅ、またあの絶望感の中を生きなければならないのか・・・・・』

 

何だか踏んではいけない地雷、触れてはいけない何かを触れてしまった感がヒシヒシと伝わって来て申し訳ないと思いながら通信を切った。取り敢えず、一誠から得た情報は役だった。自分達はこの世界にとってあまりにも強く『中層』のモンスター相手では簡単に倒し過ぎて成長する兆しが見えないのだ。だとすれば・・・・・。

 

「『深層』のモンスターと階層主相手にじゃないとこのままなのか」

 

そう呟いた瞬間に腕輪の宝玉が点滅した。通信を受信すると相手は一誠だった。

 

『「深層」にチャレンジするつもりなら、52階層から下の階層は絶対に行くな』

 

「えっ、何でですか?」

 

『もうそこから常識なダンジョンじゃなくなる。58階層から階層を無視して狙い撃ちするドラゴンがいるからだ』

 

そんなこと、もしも本当だったら防ぐ自信が無い。地面の下から狙い撃ちしてくる砲撃を見た瞬間に死ぬと思うと背筋が凍る感じを覚えた。

 

「イッセーさんでも、危険ですか?」

 

『別に?下から狙い撃ちをして空いた穴から直接58階層まで落ちていけばかなり楽だ』

 

・・・・・やっぱりどの兵藤一誠もあっさりと常識を無視する程に強過ぎる!

 

『言いたいのはそれだけだ、じゃあ―――』

 

「あ、ま、待ってくださいっ」

 

通信を切ろうとする一誠に慌てて引き留める一佳の口から次に出た言葉は・・・・・。

 

「ちょ、直接体験しないとやっぱり緊張感と言うか危機感が感じられないので、そ、その・・・・・52階層に連れてってもらえませんでしょうか?」

 

暗に一誠と冒険をしたいと言う願いだ。口に出た言葉は嘘ではない。腕輪の転送式機能でも行ける階層は37階層までだ。確かに『深層』まで行けるのだがその先は何故か登録されていないのだ。明らかに何らかの意図で細工されているのがわかる。それ以上先まで行く必要が無い、もしくは他の理由があるのかと一度は勘繰ったことがある。だから知りたい。強過ぎる自分達でも一誠が釘を刺すほどどれぐらい危険があるのかを。

 

『・・・・・お前、死にたいのか?』

 

「死ぬ気はありません。それに私は元の世界にいる一誠さんに気の扱い方を教えてもらってますので足手纏いにはなりません」

 

『・・・・・へぇ?』

 

あ、初めて興味を抱いてくれたような声を漏らした。そんな気がする一佳に不敵の笑みを小さいながらも浮かべだした。

 

『いいだろう。お前等の実力は気になっていたところだし、見せてもらおうか』

 

「い、いいんですか?」

 

『ただし、お前一人だけバベルの塔の前に来い。もしも他の連中もついて来たらこの話は無しだ』

 

通信を切られた後、誰もいないことを確認したののちに「よしっ!」と拳を握ってガッツポーズ。二人きりでダンジョンの探索。初めてこの世界の一誠と共に行動する機会が巡って嬉しいあまりに感動してしまうが待たせるわけにもいかず急いで出かける準備を仕度する。そう、誰にも覚られては駄目なのだ。絶対に―――。

 

ガチャ。

 

「・・・・・」

 

「「「「・・・・・」」」」

 

開かれた扉の先に四人の少女がジィーと意味深に一佳へ眼差しを向ける。物凄く何か言いたそうな顔をされて薄らと肌に汗を浮かべて流す一佳は苦笑いをして尋ねた。

 

「もしかして、聞いてた?」

 

おかっぱ頭の少女が耳朶の先にあるプラグを見せつけながら他の少女三人と一緒に頷いた。

 

「じゃあ、一人しか行けないことも聞いているなら・・・・・今回だけ見逃して?」

 

「「「「ダメ」」」」

 

一縷の望みすら即答で消されてしまい、これで二人きりの探索は断念せざるを得ないことに泣く泣く一誠に報告する一佳だった。―――協定に従って。

 

『・・・・・ごめんなさいイッセーさん、そういうことですので行けれません』

 

僅か数分で交わした約束が果たされることもなく、断わりの通信を入れてきた少女の残念極まりない顔の表情と共に告げられて物凄く呆れ顔でこう言った。

 

「バレるの早過ぎだ」

 

通信を切って溜息を吐く男の隣にアスナがいてのんびりとティータイムを楽しんでいた。円卓を取り囲むようにロキ達も同席していたので話は筒抜けだ。

 

「えっと、もしかしなくても中止になった?」

 

「盗み聞きをされていたかもしれないな。バレたくない話だったら周囲を警戒するべきだったのによ」

 

「だったら皆と一緒に行けばいいのに」

 

「52階層だぞ?あいつらでも多分死ぬぞ」

 

「守ってあげないの?」

 

「自分の身は自分で守れだ」

 

ネット・スーパーで購入した茶菓子をモグモグと食べる。どら焼き、まんじゅう、菓子パン等の盛り合わせは女性に好評だった。特にまだ幼い子供のアイズとアリサ、ラトラ、レイネルとレギンが眼を輝かしてもきゅもきゅと頬が膨らむほどに口の中に溜めこんで食べる姿は微笑ましい限りだ。

 

「異世界にお菓子のような甘いパンがあるなんてね。とても美味しいわ」

 

「美の女神に称賛されるなんて作った人達も幸せだな」

 

「自分んも作れへんのかぁ?」

 

「食材があるから作ろうと思えば作れるよ。本当、『異世界買物覧(ネットスーパー)』様様だ。おかげで一ヵ月に一度まで待たずに食材を確保できるんだからな」

 

「もうお前は冒険者では無く生粋の料理人だな」

 

「料理を作るのは好きだけど冒険する方がもっと好きだからな。それはそうと二人のホームはどこまで修復しているんだ?」

 

二大派閥の主神に尋ねると似たような答えが帰ってきた。

 

「途中まで直っているんやけど途中で改修しとるんや。イッセーのように男女別に入れるよう浴場を二つにするためにな」

 

「まだ三分の二未満ね。形にはなっているのだけれど全焼されちゃったから」

 

まだまだ完全に修復していないと告げる二柱の女神達から状態を把握し「そっか」と相槌を打つ。

 

「一番早いのはイッセーが異世界の魔法で直してくれたらええんやけどなぁー?」

 

「俺はそこまでお人好しじゃないし。自分達でできることは自分達でやれよな。これ以上俺に貸しや借りを作ったら何時まで経っても返せないぞ」

 

「だ、そうだロキ。あまりイッセーを頼り過ぎるのもよくない。現状我々の我儘を聞いてくれているのだからこれ以上の願いは神として傲慢ではないか?」

 

リヴェリアの言葉でしゅんと自省する風に身体を小さくするロキ。それが効いたようでそれ以上何も言わなくなったが食べる行為だけは止めない。

 

「しかし、【アルテミス・ファミリア】を脱退するとは・・・・・よいのか?イッセーと同様に元の世界に帰りたい筈では?」

 

「元の世界に帰る気持ちは消えたわけではありません。でも、イッセーの世界に行きたい思いが強かっただけです」

 

アスナの瞳を見ても決意は揺るがない事を窺えた。それがいつになるか分からないが、異世界のエルフに転生したアスナなら例え千年後でも生き続けれる生命力を得ている。流石にそこまで長くオラリオにいるのか分からないが、己の憧憬を抱いて生き続けるのみだと亜麻色の髪の女性はそう胸に抱く。

 

「そうか、となれば彼女の『ステイタスプレート』を作るのかイッセー?」

 

「ダンジョンに探索する気があるならな」

 

「うん、するよ。だからお願いね?」

 

あいよ、と軽く相槌を打つ男に白い髪に赤い瞳の虎人(ワータイガー)、ラトラが乞うた。

 

「イッセー様、私も欲しいです」

 

「あれは【ファミリア】を脱退した冒険者だけに持たせる物だぞ?最初から『ステータスプレート』を持たせて【ランクアップ】したら『どうやって「恩恵」無しで【ランクアップ】できるんだ!?』って神々や他の冒険者が詰め寄ってくるだろうから駄目だ」

 

冒険者に成りたかったら神の眷族になる他ない。そう言外する一誠に「あぅ・・・・」と丸みが帯びてる耳をぺたんと伏せ、力なく尾が垂れるという残念な気持ちを露わにしたラトラへアスナが問うた。

 

「どうして欲しいと言ったの?」

 

「イッセー様の眷族になりたいからです」

 

「俺は神じゃないからな?」

 

「神様では無くても強くなってイッセー様の背中を守りたい」

 

赤い瞳を真っ直ぐ一誠を見つめる顔に同性として少女の懸想(おもい)を気付いてしまう。

この子は一誠と言う異性に恋しているのだと。

 

「ムグムグ・・・ゴクッ、私も『ステータスプレート』欲しい!」

 

「私もですっ」

 

「ん、私も」

 

「私も」

 

「レイネルとレギンはともかくアイズとアリサは絶対駄目だからな。ロキの【ファミリア】に入っている時点で不要な物です」

 

ちゃっかり便乗するもガーン!とショックを受ける金髪銀髪の少女達から意識を外しアマゾネスの二人までもが強請る始末に困ったもんだと思っているとフレイヤの助け船が出された。ラトラ達に対する助け船だ。

 

「イッセー、もう三人ぐらいいいんじゃない?」

 

「神の存在価値を危ぶむものだぞ?アルガナ達がどこかの神の眷族になるまでの応急処置として作ったって言ったよな」

 

「でも、肝心のあの子達はどこの【ファミリア】に入ろうとする気がないようにみえるわよ?」

 

・・・・・言われてみれば、そういう気がしなくもない。今現在当の四人は腕輪の機能で『深層』に転移してモンスターを蹂躙しに行くと言っていたほどだ。

 

「作ったら作ったで、後のことを考えるとギルドがなぁー」

 

「そのギルドも別に完璧に私達神や子供達のこと把握していないから穴なんていくらでもあるわよ?」

 

「神じゃないのに疑似【ファミリア】を結成していいわけ?」

 

「それはそれで面白みがあるわね」

 

何か企んでいるよこの美の女神。半目で綺麗な微笑みを浮かべる銀髪銀眼の女神に視線を送ると、あからさまに頬に散らばった朱を見せつけてきた。

 

「んと、イッセー?もう一度聞きたいけど【ステイタス】が重複したら問題あるのかな?」

 

「・・・改宗(コンバージョン)後でも【ステイタス】が連動するって俺の予想を超える結果が刻まれていたからな。そこは何とも言えない。だけどどこかの【ファミリア】の恩恵と『異龍の恩恵』が同時だとどうなるか分からないのが現状だ。だから安全面を考慮してプレートの方に施錠する必要がある。そうすれば片方に何の影響も及ばないだろうし『ステイタスプレート』で培ったアビリティの熟練度や経験値(エクセリア)は背中に刻まれてる神の恩恵(ファルナ)に連動する」

 

予想を超えたが狙い通りだと自負する一誠の隣で何か考え込み始めるアスナ。

 

「・・・・・うーん」

 

「なんだ」

 

「ねぇ、試しにアイズちゃん達にも作ってみてくれない?」

 

何故?と疑問符を浮かべる。既に『恩恵』を受けている冒険者には不要の長物だろうと一誠は言うがアスナの考えはこうだ。

 

「連動するなら多分問題ないと思うよ」

 

「その理由は?」

 

「だって別物なんでしょう?直接二つの『恩恵』が重なっているわけじゃないんだし改宗(コンバージョン)後でも連動するなら、する前にも連動しているかもしれないよ?」

 

むっ、とアスナの持論にその可能性はあるなと考慮する。異常が起こらないよう考えていたのだが、何でもかんでも試さず否定するのも駄目だと・・・・・思いながらやはりとこう言う。

 

「【ファミリア】に属してないラトラ達をどこかに入団させるべきじゃないか?さっきも言ったけど『恩恵』無しで【ランクアップ】する人間なんておかしいしよ」

 

「そうだね・・・イッセーが【ファミリア】のリーダーになっていいってギルドの人達が許してくれるなら問題ないと思うんだけれど」

 

「ああ、それが一番ベストだな」

 

それ、なんとかできないかなー?とロキとフレイヤに眼を向けると困ったように苦笑いされた。

 

「イッセー、それはうちらでも無理な話やで。逆に『ステータスプレート』の存在を知られたら廃止する命令が来るかもしれへんわ」

 

「主神がいない【ファミリア】は【ファミリア】じゃないわ。この世界は太古からそういう概念と常識で定まっているのだから」

 

最大派閥でも無理な相談であった。結局ラトラ達は―――【ロキ・ファミリア】に入団した上で試しに『ステータスプレート』を渡すことに決まったのだった。

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