ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか 作:ダーク・シリウス
久しぶりに空の旅へ行こうと一誠の提案でロキ達は揃って頷いてから数時間が経過した。その際、『騎空艇』には空の世界には欠かせない翻訳者のジータとビィを乗せ、さらにポートブリーズ群島にいる青年も迎えてから出発した。
初めてこの世界に訪れたラトラ達は見飽きた様子を見せず甲板から空を眺め続けている。時々珍しい何かを見つけた時は指して指摘したり声を挙げたりして興奮しっぱなしだった。四人の新鮮で圧巻の体験をしている間に船を動かす一誠の傍で道案内を頼まれた青年ラカムは報酬として己が求める部品を提供するという話しで請け負ったわけだが・・・・・灼熱の島フレイメル島へ一気に転移してから次の島へと移動する一誠達に呆然と立ち尽くしていた。
「おい、ラカム。こっちでいいんだな?」
「あ、ああ・・・・・アウギュステ列島の方角は間違ってないぜ。と言うか、本当に地上でも創りやがったんだなお前。しかもグランサイファーより二倍大きいもんをよ」
「写させてくれた設計図が役に立ったからな。と言うか本当なのか?空の世界にも海があるなんて」
聞いただけじゃとても信じられないって風に言う一誠に笑いながらラカムは「あるぞー。絶対に驚くからな」と上を見上げた。視界の中央を占める濃い青は騎空艇グレートブルーの気嚢と呼ばれる部分。木製の骨で支えられた青い布の巨大な風船で、熱い空気を入れることで艇全体を空へと浮かべている。下から見上げると大きな卵型に見える。
「なぁ、なんだかグランサイファーを真似て作ってるよなこれ」
「少し違うのは大きさと推進力の羽の数だな。名前は
「グレートブルーか。いい名前じゃねぇか」
朗らかに笑って褒めるラカムに小さく笑む一誠の二人によってアウギュステという島の空路へ進み続けることしばらく経った時だった。少し色の薄くなった青い空の中に、濃い青い色の円盤がぽつんと浮かんでいるのが見えた。あれが目指す島だろうか。小さな水溜りのように見えるリヴェリア達はそんな感想を抱いた。
「ラカム、あれが?」
「ああ。あれが、アウギュステ列島の主島だ。まだちょっと遠いな。で、感想はどうよ?」
「空の上に海ってどんな感じかと思ったけど、ああいう感じかーだな」
「おいおい、つまらねぇーな。地上の海の方がもっと凄いってのか?」
「知ってるか?地上の世界の殆どは海に覆われているんだぜ?」
あんぐりと開いたラカムの横で更に速度を上げて目的の島に向かう。そして近付くにつれ驚いたことに、アウギュステの青い円盤は中央が抜けたドーナツ型をしていた。こうして近づいて見れば判る。眺め下ろした島の向こうの空が穴の向こうに見えていた。
「ラカムはアウギュステに行ったことがあるんだよな?こうして道案内もできているわけだし」
「あー、そうだな。ちぃせぇ頃にポート・ブリーズから出てガロンゾまでは行ったんだが、十年ちょっとぐらい前のことだからなぁ」
「ガロンゾって?」
「騎空艇の整備を生業とする連中が住民の大半を占める島だぜ」
そんな島もあるんだなと感嘆し、その島にも行ってみたいという欲求が湧いたのは必然的だった一誠にニヤリと口角を吊り上げたラカムが報酬の話をしてきた。
「報酬は船の部品で頼むぜ?」
「今直ぐ用意はできないけど約束する。今回はガロンゾまで旅する予定じゃないからさ」
「ガロンゾじゃなくてもバルツでも構わないんだぜ?」
「そうか。じゃあ、帰りはバルツに寄っていくか」
そんな話をしている内にアウギュステの本島が次第に大きく見えてくる。近づくと、島の形は円盤というよりも角ばっていて、実際には東西南北に角のある菱形に近いと判った。しかも、中央の部分が抜け落ちていて、その向こうの空が見えている。平べったいビスケットをくり抜いたような形だ。更にまだ離れているから判りにくいが、アウギュステの浮島の大地は同じ平面上は存在しない。北側が最も高く、左回りに下っている。螺旋階段のようにだ。そんな大地の頂上から水が噴き出ているらしく、空の世界でどうやって水が湧き出ているのか不思議で堪らない地上に住んでいる神々と人類はとても好奇心を擽られていた。
「で、どこに降りればいいんだ?」
一誠がラカムに尋ねた。が・・・・・。
「あー・・・・・すまん、そこまではわかんねぇんだわ」
「おい」
「大丈夫だ大丈夫、通信装置を作動しとけば管制官と連絡で来て誘導してくれっからよ。勿論、それも作ってあるんだよな?」
それは当然だ。設計図通りにしながらオリジナル、アレンジを加えながら完成したグレートブルーだと言いたげに専用のレバーを跳ね上げた。すると、管制官らしき声が聞こえてきた。その対応はラカムに任せてもらい大型船であることを告げてもらうとアウギュステの首都、ミザレアがあるという島の東側へと一誠は舵を切る。
騎空艇を東側の島に飛ばして十数分が経った。一行を乗せる艇は、停船ができるよう島から空へと突き出している数多の桟橋がある場所へ辿り着いた。中型以上の騎空艇の底はお椀のように丸くなっているので、そのまま地上に降りると横倒しになってしまうのだ。だから桟橋は、騎空艇の気嚢の空気を抜かずに宙を漂わせたまま接舷できるようになっている。グレートブルーも飛んでいるままの状態で騎空艇専用の港に身を寄せた。
「よし、到着」
「中々の操縦だな。今度俺も操縦させてくれよ」
「帰りにな。で、これからどうすればいいんだ?」
「港の管制塔で騎空艇の名前と持ち主、お前の名前だな。それと島に来た目的を書いて停艇料を払うだけだ。そういや、お前って読み書きできるのか」
「無理だ」
胸張って言うなって、と呆れ顔のラカムは一誠を連れて手続きの手伝いに付き合うのだった。必要な事が全て終わると一行は水の都と呼んでも過言ではない首都ミザレアに足を運ぶ。
その街は水の上に建っていた。街の近くまで海が迫っている、というよりも、街全体がもうすっかり海に浸かってしまっているよう。水面から直に建物が生えているように見える―――街道の先白い石を積み上げて造られた首都ミザレアの街並みが見えてきた一行の口から感嘆と驚嘆の息を漏れた。
「これは・・・・・すごいな」
リヴェリアが感嘆の声を上げる。街道から続く大きな橋を渡った先に街の入り口が見えるのだが、その門柱からして水没してしまっている。白い石で敷き詰めて造られた地面に膝をついて水の中にある建造物を見つけたアイズが声を上げた。
「イッセー、水の中にも建物があるよ」
「そうか。だったらこの街全体は昔水没した街の上で更に新しく街を作ったんだろうな」
「ほー、そうなんや?イッセー、よーわかるな?」
「俺の世界にもこういう街はあるんだよ。アスナの方は?」
「行ったことが無いけれど水上で街や家が作られている国はあるよ」
異世界組の二人の世界にも存在する水の都。違いはあるだろう、それでも共通しているところは確かにある。だとすれば・・・・・。
「水上で生活する人達の主な移動方法は
「あら、馬はいないのかしら?」
「水没した街の上に新しく石だけで造ったんだぞ?周りを見て分かると思うが馬車が通れるような構造ではないし、馬の代わりに海や水の上を移動できる船の方が効率的にいいんだ」
アスナの言葉に珍しく素朴な疑問をぶつけたフレイヤに水上生活における己が知っている情報を教える。手に持っているバックパックを担ぐとアスナ達に向かっていった。
「それじゃ、俺はラカムと交易所がある場所に行くよ。金を換金しにな。その間皆は自由に観光してくれ」
「ご飯は?」
「この世界の金が手に入ったら直ぐに皆と合流する。そしたらこの街の料理を食べよう。アルガナ、バーチェ、ベルナス、エルネア。分かっているだろうけど周りの人間に手出しは禁止だからな」
「手を出してきたら?」
「腕の骨一本だけ許す」
わかった、と指示に従うアルガナ達に「本当に大丈夫か・・・・・」と不安を覚えるが、この綺麗な街にならず者やゴロツキがいるとは思えないので一先ずは監視の目を向けるだけにしようと心に決めるリヴェリアだった。
「んじゃ、一時解散。終わったら腕輪に一斉に通信するからそれまで他の人に迷惑を掛けないよう観光を楽しんでくれ」
その一言で一同は各々と動き出してミザレアの街中へと進んでいなくなるが・・・・・目線を下に落とすと。
「・・・・・うん、案の定こうなるか」
アイズ、アリサ、ラトラ、ジータ(ビィ)の子供組+竜にアスナは一誠と一緒に行く方針で定まっていた。何となくこうなるだろうと思っていたことが的中した一誠は心中苦笑して共に交易所へと向かう。
当然ながら一誠達はどこに交易所があるのかわからない。必然的にミザレアに住んでいる空の住民達に尋ねながら赴くしかない。そうし続けて十数人目で目的の場所に辿り着いたのだった。
「水満ちる島だけあって魚介類が売られてる・・・・・というか、空に浮いているのに魚がいるってどういうことなんだ?」
「本当に不思議だね。どうしてなんだろう」
「おーい、何悩んで考えてるのか知らないけど、目的を忘れちゃいねーか?」
見たことのない海産物を目の当たりにして足を停めて見てしまってる二人に催促するラカム。それは忘れていないと青年へ振り返っては一瞥して、交易商人が集う市場の中を歩き始める。賑やかな商人達の声を耳にしながら、地上の世界には見掛けない空の世界の種族の商いを生業にしてる姿を見ながら買い取ってくれそうな商人を探してると―――。
「いらっしゃいいらっしゃーい、よろず屋シェロちゃんによろ~ずでーす。旅に必要な道具の手配から、仕事の仲介、騎空士の斡旋まで、よろず屋シェロちゃんにおまかせー」
幼い子供に何故かダジャレが聞こえてくる。しかし『よろず屋』という単語にふらっと惹かれてしまい、子供のような伸長が特徴のハーヴィン族の女性の前にきてしまった。
「よろず屋って言ったな?」
「はい、言いましたよー。何かご希望はありますでしょうか?」
「買い取りをして欲しいんだけどできるか?」
バックパックに売りたい商品があると示すように見せ付ける一誠に、少し困った風にシェロカルテは言葉を濁した。
「申し訳ございませーん。よろず屋シェロちゃんは騎空士や騎空艇、仕事の斡旋を主にしているので商品の買い取りはしてないんですよー」
「そうか」
「あ、でもでもお客さんが売って欲しい物を私が仲介してですね、買い取ってくれる人を探すことは出来ますよー?」
依頼料はそこから貰えれば大丈夫ですのでー、と営業スマイルで提案するシェロカルテにその手でいくか、と考えた一誠は頷いた。
「売りたい種類はたくさんあるけど問題ないか?」
「ではでは売りたい商品を見せてください」
バックパックから地上の世界から持ってきた品々を目を丸くするシェロカルテの前に出し続ける。中には武器まで取り出すので尚更である。
「お客さん、その鞄はどうなってるのですかー?」
「これは大きさによって入れられる物は変わるけど、重さは変わらない、食材を保存しても腐食しない便利な魔法の鞄だ」
「ほうほう・・・・・それは大変興味深い物ですねー?」
円らな目が商人の目となったシェロカルテを内心ニヤリとほくそ笑み、自慢の道具の売り込みを始めるのだった。
晴天に恵まれた空の世界で新たな島の観光を楽しもうとしている一誠達の一方、地上の世界では不穏な気配が漂っていた。密かに、そして徐々に囁かれてる悪神の代行者たる
「
その雰囲気や気配、もしくは言伝や口伝、風の噂で広まっている
「奴等が何を企んでおるのか分からんのは重々承知の上じゃろ」
「まぁ、ね。親指も疼いてないからまだ問題ないと判断していいかもしれない。だけど、ダンジョンの中で不審な動きってのは気になるけれどね」
「モンスターを乱獲なんてこと
「地上に持ち運んで混沌を齎す意味では可能性ありだね」
もしもフィンの言葉を聞いていた
「形になってきおったがまだまだ掛りそうじゃな。修繕費は全額【イシュタル・ファミリア】が払うことになっているものの」
「完璧に治るまでは人の手で加えないといけないからね。これも傲慢をせず初心に戻るって意味だと他の団員達にとっていいことなのかなガレス?」
「真に皮肉なことじゃがな」
その一方、『異世界食堂』では。一部、重い雰囲気を醸し出して自棄酒をしている客が一人、その客の周りには仲間と思しき四人の男女が慰めていた。『異世界食堂』が開店して以来初めての客であっても店主達はお節介だろうとさりげなく首を突っ込んでみた。
「どうしましたか?」
「・・・・・いや、なんでもないよ」
「この店は笑って酒を飲んで食べる場所だ。そんな大切な物を失ったような雰囲気を出されちゃこちらも気にするぞ。気にするなと言われる方が無理がある」
注文された料理や酒を置きながら話してみろと催促の言葉をぶつけた。店主の言葉に仲間の男が落ち込んでいる男を一瞥、少し言い辛そうにだが話を打ち明けた。
「こいつ、Lv.4の冒険者だったんだ」
「第二級か・・・・・だったってのは?」
「それが、【ステイタス】が【ファミリア】に入ったばかりの冒険者みたいにLv.が1でアビリティもIに成っていて、発現していた発展アビリティもスキルも綺麗さっぱり消失してたんだ」
【ステイタス】の初期化?そんなことがあり得るのかと不思議を通り越して疑問を抱き、更に語り続ける男の話に耳を傾ける。
「主神様もかなり驚いたんだ。神々の『恩恵』にこんな
「元のLv.に戻れる見込みも皆無ってことか・・・・・」
「ああ、俺達は十年前から冒険者やっていて、こいつはLv.4になったのも最近なんだ。それが突然の【ステイタス】の異常でLv.1に戻るなんてよ・・・・・」
話しの渦中の男と同じで自分の事のように落ち込み、悔しがり言い表せない怒りで歯を噛み締める男の仲間。
「それってどうやって気付いたんですか?」
「『下層』に行く途中に遭遇したミノタウロスとの戦闘中だったな・・・・・動きにキレがなかったし、愛用の大剣を重たそうに持っていてさ、ふざけてるのかと思ってたんだがこいつは戦闘でそんなことする奴じゃないし不思議に思ったんだ」
結局ミノタウロスは仲間が倒し、本人の無自覚な体の異常は度々18階層の
「それが今朝のことだからな・・・・・主神様もこいつ自身も【ステイタス】の初期化の原因はわからないし、【ステイタス】がこれじゃあ、また一からレベルを上げなきゃならないわけなんだよ」
「それは・・・・・誰でも落ち込むな・・・・・他の冒険者のスキルや魔法だとは?」
「そりゃ思ったさ!でも、今日までずっと一緒にいて誰かに襲われたことはなかったよ!地上でもダンジョンでも、だからそれはあり得ないんだ!」
拳をテーブルに叩きつけながら声を張る男の話に、シルと顔を見合わせて残る可能性を挙げて聞いてみた。
「一昨日はダンジョンに行きましたか?」
「行ったぞ。その日一日は今朝みたいな異常はなかったし誰にも襲われなかった」
「じゃあ、皆さん以外に誰かと接触したりとかは?」
「誰かと接触・・・・・」
男の仲間は向かいに座っている女に確かめる風に目を向け、記憶を引き出した結果・・・・・頭に思い浮かんだ。誰かと接触した時の事を。落ち込んでいた男が吐露した。
「・・・・・俺の肩を触ってきた男がいた」
「男が?それは何時だ?」
「・・・・・今朝だ、気さくさに声をかけながら『頑張れよ』って肩を触れて街に去っていった」
男は俯いたまま「そういえば、あの時から体の異変が」「まさか、あの男が」とぶつぶつ呟き始めたと思えば、鬼気迫る怖い形相で立ち上がり、仲間をおいて駆け出し店から出ていってしまった。焦燥に駆られて女も追い掛け、男も細かな支払いをする暇もないと机にヴァリスが詰まった亜麻袋を置いて追い掛け始めた。
サイドテールに結った長い茶髪を緩慢的に揺らしながら歩く異世界に来て今年で一年目を迎える拳藤一佳は、大通りに散策をして女冒険者や
「
「最近西の通りに小さな花屋に可愛らしい女の子の
「噂だったらあれだろ、『異世界食堂』!あそこの飯と酒は美味くてたまらねぇんだ!」
「うっふ~んっ、そうねぇ~オラリオの噂なんてきな臭いばかりだから。最近、年齢15歳以下の男の子のお尻を見て笑う不気味な
「この辺りを張っていれば何時かフィン様に会えるって噂なの。忙しいからごめんなさい」
「あぁ?噂だぁ~?そうだなぁー今から俺の部屋に来て全裸になりやがれ。そうすりゃ教えてやっても―――ぐはっ!?」
「俺の知り合いから聞いた話なんだけどな。またどこかの【ファミリア】の冒険者が闇討ちされたってよ。『暗黒期』のオラリオの今じゃあ珍しくはないことだけど怖ぇ話だよな。嬢ちゃん達も夜道に歩くときは気を付けな」
「正義の冒険者が悪い人達を倒したところ見たよ!俺も早く大きくなって正義の冒険者になりたいっ!」
様々な噂を聞き、情報を収集すると色々と知ってくることがある。一部、少女達の体を要求する者もいたが一撃でノされた。それから暑い日差しを受けながらでの活動で露出している肌に汗が浮かび、服の中でもびっしょりと濡れた状態で小休憩としてわざわざ『異世界食堂』へ足を運んだ。夏季の時季だろうと熱気に負けず露店を構える商人達や
「あ、いらっしゃいませ」
鈍色の髪と同色の瞳を持つ少女がにこやかに笑みを浮かべながら出迎えに来た。
「何名様ですか?」
「五人です」
「かしこまりました。では、こちらへ」
奥行きの方へ案内する従業員について行くと一佳達全員が座れる席が丁度空いていた。冷房が効いた店の中で食べる食事は久しく、腰を落ち着いて食べられる幸せはまさしく地獄に仏に等しい。こんな店を独自で造り上げた店主はやはり凄いと内心驚嘆の息を漏らしながらメニューが綴られた分厚い本を手に取りページを開く。
「ここかっ、『異世界食堂』・・・・・儂が求める料理を作るあの料理人がいる店は!」
「はっはっはー、よーやくこれたぜ!今までお預けされた分食べるぞ!なぁお前達?」
「「「「はっ!」」」」
「お爺ちゃん、主神。お前達も静かにしてくれ。物凄く注目を浴びてるから」
暑い中でも
「いらっしゃいませ、ようこそ『異世界食堂』へ」
「うむ!さぁ早く席に案内をしてくれぬか。儂はこの日を待っていたのだ」
「申し訳ございません。ただいま席は満席中でして、別々の席に座っていただかないといけないのですが」
「構わん!」
「でしたらこちらへどうぞ。なのはさん、残りのお客さんの案内をして」
「わかったよ」
栗毛のサイドテールに結った少女も動く。別々の席に案内をされる彼等は食べ終え食器が片付けられて、無人の席となった一佳達の席へ案内される。
「少し訪ねていいか」
「はい」
「イッセー・・・・・店主は見掛けないが今日は休みなのか?」
見知らぬ男が口にした人物名に反射的に耳を傾ける、隣に座っていた一佳達。
「ただいま店主は休憩中でして」
「そうか。休憩中ならばしょうがない」
「お会いしたいのであればそれとなくお伝えしますね?」
「ああ、ダオスと言ってくれれば判る筈だ。頼む」
かしこまりましたと従業員が微笑みながら請け負い、ダオスから離れたところで神威を放つ男が好奇心で店内を見渡す。
「ダオス、お前がここで店主を見つけた店なのだな」
「はい、最初に食べたのがビーフシチューとプリンアラモードです」
「プリン!おお、確かにあるぞ!他にカツ丼やそば、かき氷!どれもこれも懐かしい故郷の物ばかりだなぁ・・・・・!」
「おめー、絶対にもう十年ぐらいしぶとく生き続けられるだろ。というか、どんだけこいつを夢中にさせるんだ故郷の飯は」
老人のはしゃぎように主神の顔は呆れの色が浮かび、生き甲斐を見つけて生き生きとする老人を見たことがないと物珍しいと思うダオス達。身内の多幸感、歓喜を極まった言動に邪魔はする気ないが幾人かの視線を集めていることに察し、ダオスは前王を宥めに入る。彼等の一連の話を聞き、彼等もこの店の常連客であると認識する一佳等もメニューをどれにしようかと悩み注文が決まったら従業員を喚び出す呼鈴の役割を担うボタンを押そうとしたところで、女性従業員―――が伝えたのだろう店主自ら呼ぶ前にやってきた。
「久しぶりだなダオス」
「ああ、お互い息災のようでなによりだ」
世界で唯一の友である店主との再会に心から喜びの微笑みを浮かべたダオス。立って握手を求めると店主が笑みを浮かべて手を握り締め合って応じた。
「それで、注文は決まったか?」
「せっかく再会した友人と少しぐらい語ってはくれないのか?」
「俺もそうしたいところだけどな。他の客が俺のことを見ているから」
チラリと一佳達へ尻目で見られて、当人達はドギマギする。ダオスも改めて彼女達の存在を認識し、店主と知り合いなのかと興味津々に目線を向ける。踵を返して少女達から決まったメニューを問い掛ける店主。
「注文は?」
「え、えと・・・・・」
真紅の長髪を一つに結い、眼帯を外していた店主の顔はやはりもう一人の少年と被って見えてしまう錯覚を覚えながら一人一人食べたい料理の注文をし終えれば、ダオス達の方へ振り返って同じ言葉を口にする。
「注文は?」
と―――いつもの日常といつもの光景を繰り返す一日の最後の締めくくりを迎えるのだが今回は一味違った。一ヵ月に一度、従業員にとって心待ちにしているものがある。『異世界食堂』の話だけでは無い。どの店も職も労働者にとって一ヵ月分の労力に相応の対価を得る日がやってきたのだ。
「それじゃ、今月分の給金を配るぞー」
無人となった店の中でミア達従業員が席に着いて配られる給金を待っていた。膨らんだ亜麻袋を積み上げた席の隣に立つ店主から名指しをされ、立ち上がって近づき給金を受け渡される。
「はいよシル」
「ふふっ、ありがとうございます♪」
ホクホク顔で受け取るシルのあとは
「お疲れアーニャ、これからも頑張って働いてくれ」
そう言いながら猫耳ごと頭に触られて「・・・・・ニャア~」と擽ったそうに身動ぎする少女に温かい眼差しを向ける店主(他の
「ほいミア」
「ありがたく貰うよ」
他の従業員より二回り大きい亜麻袋を片手で受け取り、アスナ、レイラも続いて受け取ったら最後は異邦人達だ。
「他の従業員と違って借金の返済のために何割か減ったからそのつもりでな」
その額、一〇〇〇〇〇ヴァリス。
「え・・・・・?」
「なんだ、不満か?」
小さくも信じられないと風に吐露した異邦人の少年に話し掛ける店主。少年はそうじゃないと首を横に振って今の心境を口にした。
「てっきり全額返済に宛がわれてるのかと思ったんだ」
「借金の返済の他にもお前らが一月飲食した費用も引いてそれだ。―――だから神楽何ざ食費で殆どないに等しい」
その額、一五〇〇〇ヴァリスである。他の誰よりも少なく、神楽の手の中にある亜麻袋は他のと比べれば小さく寂しさを醸しだしている。受け取った当人も沈黙して心なしかしょんぼりしていた。
「いらないなら、全額返済に宛てるが?」
「い、いや、喜んで貰うから!」
「ちっ」
「いや、そこで舌打ちはどうよ・・・・・?」
二人のやり取りはそこまでで終わり、次は短めな報告会を始める。
「明日から二日間は休みだが、最近妙な事が冒険者の間で起きてるから気を付けること。今回俺から言えることはこれぐらいだな。ミア達は何かあるか?」
「特にこれといった話はないよ」
皆を代表に言うミアのあとにそれぞれ解散。店主ことイッセー、シルは城へ。ミア達は離れの宿屋へと戻りに行く。
「今日も大繁盛でしたねぇー。店主・・・イッセーさんの料理を食べにこられる方が多いですし」
「それを足してアスナ達美少女美女を見に来る客もいるしな」
「うふふ、私達だけでなく店主・・・イッセーさんを会いに来られる女性客もいますよ?」
「うん?そうなのか」
「はい、中には男性の方が熱い視線を・・・・・」
「ん、聞かなかったことにするよ」
蒼い宵闇に咲く可憐な花達と帰路に急ぐ。ミア達とは違い少し歩いていかないといけないのだ。だが、別にそうせずとも転移の魔法で戻れば簡単なことなのに今回はそれをせず、のんびりと歩いて戻る一誠に疑問も疑わずついて行くシル。明日から二日間は休み、ゆとりの時間を得たその日はどう過ごそうかという思いをして不意に口にした。
「イッセーさん、皆さんの方はどうですか?」
「・・・・・思いっきり楽しんでいるな」
分身の一誠の目を繋げて状況を把握するオリジナルの一誠がそう答えた。彼女達が空の世界へ向かったことはシルも知っている。数日は戻って来ないこともだ。
「空の世界、って本当に島が浮いているんですか?あまり想像が出来ないんですけど・・・・・」
「ああ、本当に浮いているぞ島が。明日辺りにでもシルも連れて行ってやろうか?」
提案する一誠に目を丸くしたのちに肯定と笑みを浮かべて「はいっ」と微笑んだ。ならば明日は分身体と合流しに行かねばならないな、と次の島はどんなところかと―――考えは音もなく建物の屋根から飛び掛かってきた影を察知するまでは止めなかった。シルを押し倒しながら石畳みへ倒れ込み、奇襲してきた影からかわす一誠は警戒しながら不思議に思った。どうして自分に襲いかかるのだろうと。
「いきなりなんだ?」
影の全容を左眼で視認する。顔がバレないようにするための工夫のつもりか、仮面を被っている黒髪の165cm程の身長の男が一誠と対峙する。
「ち、完全にスキをついたと思ったんだけどなぁ~」
「・・・・・?」
「ま、いいや。何時も通りの事を済ませば終わりだからな」
何のことだか分からない。意味不明であれば一誠もやることはただ一つ。相手にするだけ面倒だから転移式魔方陣でさっさと帰るという選択肢だ。
戦いらしい戦いもしないで逃げられた仮面の男は、しばし呆けたがその後に悔しげに舌打ちして闇夜に溶け込むようにいなくなった。