ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか 作:ダーク・シリウス
引き続きラカムの案内の元で次の島へ向かっている一行は一人の女性の特訓の様子を興味津々だったり暇潰しとして目線を向けてるという一日から始まった。
「それじゃ、魔力操作の基礎を始めようか。俺のことは先生と呼ぶように」
「はい、先生」
教師役は一誠、生徒はアスナ。見学者は多数。二人のやり取り注目するを数多の視線を気にせず、異世界の魔法の扱い方の伝授がされようとしているアスナは期待に満ちた双眸を語ろうとする一誠に真っ直ぐ見詰めて聞く姿勢でいる。
「まずはこんな感じで身体中に宿っている魔力を一ヵ所に集める訓練をしよう」
真紅色の魔力の塊を掌から浮かべて見せる一誠。そこで当然のごとくアスナが質問した。
「それって感覚的にできるものなの?」
「そうだな。全身で魔力を感じ取って一ヵ所に集めるイメージをする、という感覚をひたすら慣れる必要があるんだ」
アスナの両手を掴み自身の逞しい胸に押し当てさせる一誠。
「今から体に魔力を巡らせるから感じ取ってくれ。あ、目を瞑ってな」
「え?触って判るものなの?」
そう言ったののちに、両の掌から伝わる温かい何かが一誠の内側に流れている気がしたアスナ。これが魔力?と何となくながら感じ取れた大きくて温かい何かの塊をもっと感じようと、瞑目したところで声を掛けられた。
「分かったか」
「うんと・・・・・流れる川を触ったような感じがしたかな。それにそれが大きくて温かくも感じた」
「ん、なんとなくでもわかるなら後は今の感覚を忘れずに特訓あるのみだ」
「イメージも大切なんだよね」
「勿論」と首肯する一誠に試しと魔力の操作を始め出すアスナ。私もやってみたいと幼い少女を筆頭に一誠の魔力を感じ取ろうとする。
「ん・・・これがイッセーの魔力?」
「この感覚を参考にすれば魔力を持つ者でも、本来の魔法とは異なる魔法を・・・・・」
「温かい・・・・・」
「・・・・・」
異世界の魔力を通じて、介して何やら掴み掛けているリヴェリア達は手から魔力を出そうとするアスナの真似をして次の島に着くまで各々は独自の特訓をし始めるのだった。当然のごとくアスナ達は四苦八苦した。詠唱の有無問わず、自身の意思で魔力を外部に具現化しようという考えも概念すらなかったことだ。オラリオ最強の魔導士のリヴェリアすら魔法は詠唱の有無問わず放つものだと疑わずにいた故に、自由自在に詠唱無しで魔力を放出する操作は出来ない。出来るまでは数日、数週間も時間を費やすかもしれないなと思った一誠は教えた日に出来る筈がないと必然として予想した。の、はずだが―――。
「で、出てきた!」
「コツさえ掴めば案外簡単にできるものなのだな」
「おー」
水色、翡翠、そして緑の魔力の小さな塊を手に浮かべて目を皿にした一誠を滅茶苦茶驚かせたのであった。
「適正・・・・・いや、この場合は感覚的に覚えることが長けた天才だからか、という他ないのか」
「・・・・・私、できない」
「私もです・・・・・」
アリサとラトラが心底残念がっていた。魔力が乏しい、もしくは魔力を有していないものではできない話だ。だが、そんな二人にも地上に戻ればある本を読めば可能になると一誠は朗らかに言った。
「魔法を得られる
「「!」」
態度を一変して目を輝かせた二人の頭を撫でたあと、金髪の少女にあることをしてみせた。
「それが出来たというならば、アイズ。俺からある技法を伝授しよう」
「技法?」
「ああ、『感卦法』という相反する力を融合させる技法だ。今のお前ならそれを挑戦できる」
右手に気、左手に魔力の塊を出してそれを一つに合わせ重ねるように融合させていくと、相反する力の塊が光り輝き始める。
「『感卦法』」
そしてそれが成功すると一誠の全身は淡い光に包まれるのだった。初めて皆に見させたその技法を発動した男はすらすらと説明口調で紡ぐ。
「これを発動することができれば肉体強化・速度・物理防御・魔法防御・鼓舞・耐熱・耐寒・対毒その他諸々オマケ付きの究極技法だ。ただし相反する力を融合させることで身の内と外に凄まじい力を纏う高難度技法だから習得するのは極めて難しいようだ」
「その口振りでは、お前はあっという間にできたのか?」
「ん、子供の頃にな。魔力と気を合わせたらどうなるんだろう?って好奇心と興味本位で試したら何かできちゃったんだよな。で、だったら他の人も他者同士でもできるのか試してもらったんだけど意外と成功できた人は少なかったんだ。できた人はいたことはいたんだけど」
訊いてきたリヴェリアに昔を思い出しながら語る一誠は不意にアイズとアリサを交互に見る。
「アリサ、気の塊を出してくれるか?」
「んっ」
気であれば特訓した末に出せるようになってるので、アリサは右手に気をだした。
「アイズは左手に魔力を出してくれるか?」
「んっ」
言われた通りにそうすると一誠から「気と魔力をくっつけ合ってみろ」と促され、その通りにした瞬間だった。バシンッと音が弾け二人の気と魔力が掻き消えてしまった。
「やっぱダメか」
「『感卦法』とやらも何かコツがあるのではないのか?」
「ん~、そのコツも感覚的みたいなもんだからなぁ。だから俺から指導できるのはここまでなんだわ」
「じゃあ、イッセーが二人がしたみたいにしてみたら?」
「それで例え成功したとしても俺がいないとできないんじゃ意味が無い。だからこれは一人で習得する他ないんだ」
判り切った結果であろうともしかしたらという可能性を考慮して試したが失敗に終わって、リヴェリアからの指摘に首を横に振る一誠はアスナの提案でも拒否する。
「数年後、第一級冒険者になったアイズが『感卦法』を発動した状態で模擬戦をしたら、本当にいい勝負が出来そうな気がするし」
そう言われてしまえば少女は俄然とやる気を出して『感卦法』の習得に精を出して励んだ。アスナ達も魔力の扱い方を学ぶ他、気のコントロールを教えてもらうアルガナ達やラトラ達。賑やかになってきた甲板に艇の操縦を任されているラカムは「楽しそうだなぁー」とポツリと感想を漏らす。
「そういやお前ぇ、どうして次の島を指名したんだ?行ったことが無いんだろ?」
「いや、この空の世界に初めて来た島がそこなんだ。その島を拠点として他の島に行ってたしな」
「ザンクティンゼル、ポート・ブリーズ、フレイメル、アウギュステ以外だったらどこでも行っているってか」
「どこでもないさ。点々と色んな島を巡って旅をしてきたけど途中で止めた」
何でだ?と視線を送るラカムの目は一誠が見つめる先を見て、納得した面持ちになった。アイズ達の存在だ。それだけで旅を止めた理由は十分である。
「で、なんでまた―――なんだ?」
次に行く島の名を口にしたラカムにまだまだ空の彼方に浮いているが肉眼では捉えていない島のことを、遠い目をしながら理由を述べる。
「一ヵ月程度、俺のこと師事を乞うた学生がいてな。別れる際に数年後にまた会おうって」
そう言ってしばらく時間が経ち、空の中を突き進むグレートブルーに初めての襲撃が遭った。一番早く気付いたのが必然の如く一誠だった。
「おっ、あれがいるということはもう少しで島に辿り着くな」
空の彼方へ見つめていた一誠が何かを見つけたようだがアスナの目ではまだ何も映らないでいる。傍にいるアイズ達も小首を傾げる。
「何かいるの?もしかしてモンスター?」
「ああ、まだずっと先だけどこっちに一匹向かって来ているな」
アイズ達にとって初めての空の世界のモンスターとの
「こいつは・・・・・」
「《ワイバーン》だ」
「ワイバーンだと?私が知るアレは紫紺色の飛竜だが・・・・・空の世界の飛竜は緑色なのだな。しかもかなり大きい」
「因みに魔石は無い魔物だから急所を狙わない限り倒せないぞ」
最後の言葉は誰に向かって言っているのか―――リヴェリアは既に悟っていた。その翡翠の瞳には背中から魔法の翼を生やし、甲板から飛び出して飛翔する目を爛々と輝かす幼い二人の少女がワイバーンへ向かっていく姿が映ったからだ。自ら飛び込んできた獲物に速度を上げて尖った牙の並ぶ口を上下に開き、鱗と同じ色の舌を覗かせて食らわんとする姿勢に入った。そしてどちらを先に噛み砕かんと猛禽類の双眸が泳いだところ―――姿が掻き消えた獲物を見失った直後にワイバーンの全身に斬光を残す軌跡が走り、鎌首が胴体から離れた。
「ん、意外と硬くない」
「倒せるね」
肉片と化したワイバーンを見下ろし、手応えの感想を述べながら騎空艇へ舞い戻る。出迎える一誠達。
「始めての空のモンスターはどうだった」
「大丈夫。戦えるよ」
「うん、戦えるよイッセー」
「そうか。次はアルガナ達にも戦わさせてくれ。お前らに出番を取られたから不満がってるからさ」
そうなのかと
「えと、ところでイッセー。アルビオンって島に行ったことがあるんだよね?実際、どんな島なのかな?」
アスナの問いで意識はその問いの返答に変わっては一誠の口から告げられる。
「アルビオンは『騎士の矜持を育む街』でな、故に士官学校がある。だからこれから向かう島には騎士の見習いの学生達が多くいるんだ」
へーとアスナがそう息を漏らし、リヴェリアの中では学区みたいなものかと印象を抱いていた。他はチンプンカンプンのようで頭上に「?」を浮かべた。
「アイズ達にも分かるように言えば、上級冒険者並みの実力者になるまで修行する島だよ」
「「「「「そうなんだ」」」」」
「『
珍しく興味を抱いたのかアルガナが訊いてきた。「答えたら絶対にやりかねないぞこいつら」と苦笑いしながら返答する。
「街中にモンスターが徘徊しているんだ」
えっ!?と信じられない言葉を耳にした面々は更に話しの続きを催促、促す声と目を向けたがまた何かを見つめる目付きとなった一誠に訊くことは叶わなかった。
「もう少しでさっきよりも数が多い有翼のモンスターと接触する。戦闘態勢。アルガナ達、思う存分暴れろ」
アルビオンの外縁に佇む二人の少女が吹く風に髪をたなびかせながら空を見上げる。大型の騎空艇に群がる有翼の魔物達を屠る赤い光線が甲板から止む気配なく放たれている光景を視界に入る。小さな影もいくつか宙を舞い翼竜や有翼の魔物を蹂躙しては空の底へと落としていた。
「お姉さま」
「ああ、きっとあの艇に違いないだろう。あの人は騎空艇を手に入れたのだな」
「ふふふっ、あれから自分の騎空艇をお持ちになられるなんて凄いですわ」
「凄くなったのはあれだけか?」
ブロンドヘアーに同色の瞳、凛として整った顔立ちの少女の挑発染みたその問いに「まさか」と金髪紅瞳の少女はくすりと綺麗な微笑みをした。
「私達の凄さもお見えにしなくては、この時をどれだけ待ち遠しく焦がれていたのかわかりませんわ」
「その通りだ。では、迎えに行こうか」
「はい、参りましょう」
魔物の群れを撃退しつつ高度を落として島の外壁と同じ高さになった頃。ワイバーン達が去ってゆく。グランブルーは速度を落とし、島へそろそろと近寄っていった。グレートブルーは島にぶつかりそうな位置まで近づいて、浮いているだけの飛行へと移行する。
「主機関部の動力炉を停止する。浮遊状態へと遷移っと」
「屋内にも同じもんを作ってあるのに甲板にも作る意味あんのか?」
「うん?その日の気分次第で操縦するんだ」
「おい」と操作卓を弄りながらラカムからのツッコミを貰う。島の地の上にぴたりと艇が停止した。炉の立てる音が徐々に小さくなって止まる。全員、今か今かと甲板から島へ視線を落として待ち構えているその間に艇が勝手に空へと漂い出ていかないよう、巨大な鋼鉄の錨を幾つも艇の底から思いっきり下へ落として更に高度を下げる。地上から二Mほどまで低く降下してから一言。
「先に行っていいぞ」
一誠が言って、アイズ達は甲板から渡り橋を踏んでアルビオンの地を、未到達の空の世界の島の地を踏んだ。
「ここが、アルビオン・・・・・」
「風がとても気持ちいい」
「そうだね。なんだか安心できるよ」
彼方に聳える城を見つけるや否や、渡り橋を踏んで降りてくる一誠にあれは何だと尋ねた。
「あれはアルビオン城だ。ここアルビオンは空に浮かぶ城塞そのものなんだ。中央に位置するアルビオン城と、それを取り囲む市街地しか存在しない。それらが丸ごと、ひと塊で空を飛んでいる」
「もしかしてアルビオンって小さい島だったりする?」
「多分な。さて、これからアルビオンの市街地に向かうぞ。何時も通り皆で自由行動だ。案内役は俺と俺の分身体で構わないな?」
「ああ、そうしてほしい。こうも大人数で集団行動をすれば街の人も邪魔になりかねないだろうからな。それで食事はどこでするのだ?」
ふむ、と浅く思考を巡らせて自分で作るかどこかの店で食べるか―――考える仕草をする。
「そう、だな・・・・・。久々にあの店で食べようかな?だけど、まだ残っているのかわからないな」
「お兄様!」
背後から掛けられた声に一同は振り返る。こちらに駆け寄ってくる制服姿の少女が二人、一人は顔色を明るくして笑みを浮かべ、もう一人は真っ直ぐ誰かを見つめて肩を並べて走ってくる。
「誰?」
「お兄様って・・・・・」
もしかしなくても、と皆の心の中で思い浮かんだ人物が―――皆から離れて前に歩き出す。
「カタリナ、ヴィーラ!」
「お兄様ぁっ!」
金髪紅瞳の少女が歓喜極まった様子で跳躍し・・・・・一誠の胸の中に飛び込んだ。胸の中で抱き止めながらその場で駒のように数回ほど回りながら髪もたなびかせる。それから止まって二人は笑みを浮かべ合って視線を絡め合う。
「久し振りだなヴィーラ。随分と大きく綺麗に成長したようだな」
「お兄様こそ、あの時よりも素敵になられておりますわ」
「久しぶりだなカタリナ。お前もヴィーラに劣らず綺麗さが磨きかかって成長したか。実力も以前より上がってるようだしな」
「お久しぶりですイッセーさん。はい、ヴィーラ共々以前より大分力を身に付けたかと思っています」
ブロンドヘアーの少女を抱擁すると、気恥しそうで頬が主に染まるも嬉しそうに微笑む。釣られて笑み今度は二人同時に抱きしめながらポンポンと頭を触れる。
『・・・・・』
親しげに触れ合い、話し合う三人を無言で見つめることしかできないアイズ達。一度訪れた際に出会ったのだろうと察するものの、やはり女か、誰なのか教えてくれないかなーと言う雰囲気を無自覚に醸し出したことでビィが一誠に尋ねる。
「なあなあ、イッセー。この嬢ちゃん達、誰だ?」
ビィの問いに、ヴィーラは一誠の横から飛ぶ小さな魔物を見つめた。すると見られたビィから小さな悲鳴が上がった。少女の紅い目から感情の色と光が消え失せていて、暗い顔と共に笑みを浮かべて言葉を発さず口唇だけを動かした。読唇術の心得がある者がいたらとても信じられない発言だった。
―――お兄様との感動の再会に水を差して邪魔する爬虫類もどきが、切り刻んで殺して魔物の餌にして差し上げましょうか・・・・・。
冷たく殺意すら孕んだ紅瞳で何を籠めて口唇のみ動かし言葉を発したのかわからないアスナ達。リヴェリアは若干ヴィーラを視る目を険しくし、危ない思考の持ち主だと認識した。
「ヴィーラ、殺意を消せ。綺麗なお前には似合わないぞ」
「っ・・・・・」
一誠にバレないよう気を配っていたつもりだったのだろうが、当の本人にはあっさり看破され顔の表情が一瞬だけ強張り、ヴィーラはバツ悪そうにながら兄と慕う者へ謝罪の言葉を述べた。一誠は彼女達の方へ振り返り二人の紹介をする。
「彼女達は現士官学校に在籍している俺の一時だけ師事した関係でな。名前は―――」
「カタリナ・アリゼだ」
「・・・・・ヴィーラ・リーリエです」
話の流れに従って名を名乗る二人。カタリナとヴィーラが一誠に師として仰いだ?となればアイズとアリサは―――・・・・・。
「先に俺が師として鍛えたのがこの二人で、その後がアイズとアリサだから姉妹弟子の関係だな」
「姉妹弟子・・・・・この子達が・・・・・」
何とでもなさげに述べた一誠の言葉にカタリナは瞳を自分より年下の少女に向けた。アイズとアリサも興味津々でヴィーラとカタリナを見上げる。
「ん、そうだ。あと数年も経てば剣の達人まで成長するだろうと踏んでいるぐらい、成長が早くてな」
「地上の世界・・・・・神々が人々に与える恩恵で、ですよね」
空の世界に住む人間達が知る由もないはずの情報を口にした。一誠が教えたのだろう神の恩恵を知っているならば話は早い。
「私達と変わらない姿をしているのだなイッセーさん。少々違うところもあるようだが」
「その気持ちは地上から来た俺達も同じだカタリナ。お互いの世界に存在しない種族が生きているんだからさ。物凄く興味津々だ」
「ふふ、お兄様は初めて出会った時と同じ子供のように好奇心旺盛ですわね」
左手を頬に当て、溜息のような吐息をついたヴィーラ。その目は愛らしいという淡い想いが宿っていることをアスナとリヴェリアは気付いた。先程冷たい殺意を向けていた少女とは思えないギャップだ。
「イッセー?さっきからお兄様と呼ばれているけれど・・・・・兄妹じゃないんだよね?」
アスナが恐る恐るとヴィーラを見つめながら訊いた。いや、流石に顔立ちがまるで似てないのだから、それはさすがにないだろう。案の定、ヴィーラが首を横に振った。
「残念ながら、その通りです」
「ヴィーラは純粋に俺のことを兄のように接してくるんだ。カタリナには姉として慕って呼んでいる」
さてと、と話を区切る一誠は二人に促しの言葉を掛けた。
「俺達は市街地に観光をするが二人は学校の方は?」
「イッセーさんが狙ってやってきたのかと思うほど今日は休日の日なのだよ。だから私とヴィーラはイッセーさんとずっと一緒にいられるぞ?約束通り私達と稽古もして欲しいものだが」
「それなら昼食後でも構わないか?この世界の文字を理解できない仲間を連れてきたからさ今回は俺の手料理で食べる予定なんだ」
「まぁ、お兄様の手料理なんて楽しみですわ」
嬉しそうに笑みを浮かべて一誠の腕に腕を絡めては寄り添うように密着した。
「うー・・・・・!」
「・・・・・」
大切な宝物を取られた子供のように羨望の眼差しを送るアイズとアリサだが、久しぶりに再会した師匠と弟子というならばそういう認識をすることでぐっと我慢する。そんな二人を対象的にリヴェリアはアスナにある指摘の言葉を投げかけた。
「気付いているか、アスナ」
リヴェリアがぼそりと言った。
「ええと?」
「あのヴィーラというヒューマンの視線だ」
「あ、はい」
最初は何に対してなのか分からず当惑したが、二言目で察してそれは気付いているとばかりと肯定した。彼女の目はカタリナと一誠しか見ていなかった。周りのアスナ達をまるで影法師か何かのように思っているみたいだった。見えてはいるのだろうが、視てはいない。
先程の態度を考慮すれば彼女は一誠とカタリナだけを認識し、他は路傍に転がっている石に等しいのかもしれない。会話と対応は成立するものの、どこか・・・・・他人に対する認識が根本的に低く関心がない気がする。
ヴィーラの瞳にはカタリナと一誠だけしか入っていないのだとアスナとリヴェリアは既に認識していた。露骨ではないのに注意して観察するとアスナの中である事が思い浮かぶ。
「ヤ、ヤンデレな子なんだね・・・・・」
「・・・・・ヤンデレ?」
アルビオンは他の浮島とは違う特徴がある。ふつうの浮島ならば、土の固まりである起伏のある大地がまず見えてくる。その広がっている大地の上の殆どは森だったり丘だったり山だったり湖だったり、まれに海だったりする。つまりし今の上にはたいてい大自然が広がっているのだ。建物の立ち並ぶ街は、自然の中にぽつぽつと点在しているものだ。ザンクティンゼルのように。
しかしアルビオンは違う。まず指摘するところは切りだした石の壁で島の外側がぐるりと覆われていることだ。その外周を覆う壁の内側に、丸く築かれた更なる城壁があり、外壁と内壁の間に狭い緑の平野がある。平野には畑や林があるのが見て取れる。そして内壁のなか、島の大部分に当たる円形に切り取られた大地へと目を凝らせば、四角い建物が互いに押し合うようにして立ち並んでいた。
それは街だ。中央には、高い塔を戴く大きな城が聳えていた。島の真ん中に城があり、その周りに同心円状に城下町が存在しているのだ。城塞は、城下町を囲むように築かれており、その外にようやく狭い平地があって、さらに外がもう島の外周になっているのだ。城と街。それらで島の大部分が占められていた。故に『城砦都市』と呼ばれる所以である。
一行は未だアルビオンの城下町に行かず騎空艇の中で昼食を摂った。異世界の紅茶を提供すればヴィーラは絶賛し、カタリナも笑みを浮かべて妹分の少女とアルビオンで過ごした三年間の出来事を語り掛ける。
「ヴィーラ、勉強の方はどうなんだ?」
「正直、退屈ですわ。先生方の講義は予想以上に凡庸でして聞いていてもつまらないのです。ですからお兄様、少しばかり私と講義を交わしてくれません?異世界の魔法の話もまた聞きたいですわ」
「いいぞ。さて、どこからどんな話をしようかな」
「ふふ・・・・・」
軽い話に物凄く深い話しを始めて聞いて直ぐに理解に苦しむ者が続出する。リヴェリアも静かに思考を放棄して食事に専念するほどだった。そして程なく昼食を終え一時のゆとりの時間を過ごした後は艇の傍で模擬戦だった。
二人が携帯している剣を複製し、その武器と―――【
同時にカタリナとヴィーラも一誠へ跳びかかって四本の剣が火花を散らす鍔迫り合いをしたのは数秒後だ。数度剣撃を切り結び、押し退け合いすぐさま距離を取ると二つの剣に神々しく光る白と電気が迸りながら黄色く染まっていく、一誠の得物を見て二人もそれぞれ手元に剣を寄せたり天を突くように剣を掲げると―――剣身に鍔まで水色と赤紫に染まっていった。
「いくぞヴィ-ラ」
「ええ、お姉さま」
待ち構える相手に華奢な脚を動かして、左右へ大きく広げた六対十二枚の翼から雷を纏う光の弾丸を数多に放つ一誠の攻撃をさばきながら懐に飛び込まんと肉薄仕掛る。ある程度まで距離を縮めてきた少女達に薄く笑みを浮かべ、雷光の攻撃を止め、全身に雷を纏い迸らせながら自ら距離を縮めた。
「ぐっ!?」
振り下ろされた剣に下から振り上げた同じ素材で製作された剣が剣とぶつかり、大人と子供、男女の腕力の差で押し負けて表情を険しくするカタリナが地面に膝をついた。その間にヴィーラが踊るように身体を駆使し、幾度も剣を振るい何度も彼女の一撃一撃を難なく片手で防いで金属同士の甲高い音を鳴らす。
「どうしたカタリナ。お前の剣技はこの程度では無いだろう?」
「もちろん、だっ!」
受け止める力を故意で緩め、上からの圧力が籠っていた剣身がそのままカタリナに落ちてくる直前。柄を強く握り締め直し剣身を斜め横にずらし、自分の身を裂く剣の軌道を逸らす。がら空きの胴体がブロンドヘアーと同色の瞳に飛び込んだ。攻め立てるなら今だ、と思いを籠めた剣の切っ先を振るおうとした腕が硬直する。
顎下から凄まじい衝撃が襲って来て視界がブレた。第三者のアイズ達から見れば、一誠が膝蹴りをカタリナの顎に食らわしたのが視界に入って、あっ、と言う声をあげた。仰け反る身体、持ち直した剣で横薙ぎに振られ胴体に叩き込まれた矢先、体に纏っていた雷が彼女にも伝わって雷撃が襲った。同時に片手で対応していた剣はもう一本増え、ヴィーラは間もなく雷撃のダメージを受けカタリナ同様に地に平伏した。
「・・・・・まだまだだな私達は。歯牙もかけさせてくれないとあらば尚更にな」
「それでも確かに強くなってるさ。カタリナに一本取られかけたし、ヴィーラには三年前より情熱的な攻撃だった。鋭く、一瞬の油断もできなくなってきている。未来の騎士として成長している」
「ありがとうございます」
回復魔法を施しながら感想を述べ、カタリナの顎に手を添えて淡い光を当てて癒している最中。ジッとブロンドヘアーの少女の顔を見て不意に声を零した。
「見ない間に成長するもんなんだな人って」
「うむ?」
「ん、なに。髪が短かった頃のカタリナと思い比べていただけだ」
「そうですわね。当時のお姉さまも凛々しくて素敵ですが、背中まで髪が伸びたお姉さまもまた凛々しくて素敵ですわ」
微笑みながら同意するヴィーラにも言われ、こそばゆさを覚えたか頬をポリポリと掻いてどこか照れ臭そうだった。
「そうなると数年後はもっと凛々しさが磨きかかって美しい女性として成長するよな」
「ええ、間違いなく。ですが、お姉さまの美しさに惑わされて付き纏う変な害虫が現れると思うとヴィーラはとても心配ですわ」
「そうだなー。その男のせいでカタリナの人生が台無しにされたと思うと目も当てられないな。カタリナを崇拝する女性だけの騎士団ってのは結成できないのかヴィーラ?そうすればブ男やモブ男達が簡単に近づいて来られないだろ」
「とても魅力的な提案ですわ。何時か必ず実現してみせましょう」
羞恥でいっぱいな当人の前でアレコレと楽しげに語り合い、「ふ、二人共。もう、その話は止めてくれ」と言われるまで続いたのだった。
「さて、そろそろアルビオンの市街地へ観光しに行く前にカタリナ。今年で卒業するんだろ?」
「ああ、そうだ。そしたら何処かの島に渡り、その島の軍に入るか騎空艇に乗り込んで弱き民を護るために戦いたい」
「騎空艇、騎空士か?だったら心当たりあるぞお前が良ければの話だがな」
そう言って金髪の少女ジータと操舵士のラカムにそれぞれ指した。
「あの女の子ジータって言うんだけどいつか島から飛び出て空の世界を旅するのが夢だ。そんであの男ラカムには修理中だけど自分の艇を持っている。カタリナの夢に入れても良いなら仲間に加えることをお勧めするぞ」
「そうなのか・・・・・」
「ま、顔合わせはできたんだ。後のことはカタリナ自身が決めるんだな」
二つの手を穴が開いた空間に突っ込んで何かを取り出した仕草をする。穴から腕を引き抜いて掴んでいた物を二人に向けて突き出す。
「受け取れ」
それは二振りの剣だった。青と赤の魔法石が柄の部分に埋め込まれており、その魔法石と同色の剣が少女達の手の中に収まる。
「イッセーさん・・・・・この剣は・・・・・?」
「俺が打った剣だ。使い手の元素属性が大幅に強化されるようにした上で鍛冶の神様からお墨付きをもらっている。カタリナの卒業祝いとしての贈り物とヴィーラへの贈り物だ。気に入るかどうか分からないがいらないなら処分しても構わない」
何時の間にそんな武器を作っていたのだろうかと不思議で堪らない一行の気持ちを露知らず、与えられた二人は感嘆の息を漏らし、鞘も受け取って剣を腰に佩き、ようやく一誠等はアルビオンの観光をしに行くのだった。