ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか   作:ダーク・シリウス

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冒険譚25

その日は不吉な予感の前触れを醸し出すような暗雲が太陽光を遮った曇り空だった。天候は崩れ、一雨来そうな灰色の雲ばかりが漂い、空を覆う様を地上からも見てわかる。人の憂鬱な気分を表すかのような天気の下で今日も過ごすオラリオでは・・・・・ちょっとした騒動が一人の男を中心に起きたのだった。

 

西側のメインストリートの路地裏の先で店舗兼本拠(ホーム)を構えている【ファミリア】があった。

 

「・・・・・」

 

二十歳も満たない獣人の少女が真剣な表情で一人、作業部屋で何かの薬品らしき硝子製の瓶の中にある液体を見つめていた。自作した道具(アイテム)の精度はそれほど高くないが、それに補う強い思いが込められていた。これをあの人に飲んで欲しいとために作り上げた少女はキュッと蓋したところで来訪者が呼ぶ声を獣耳が拾った。ただの来訪者では無い。主神の男神や同派閥の男性の先輩以外それなりに付き合いが長い最近気になる来訪者だ。作業部屋を後にして一つしかない出入り口の方へと赴き、いつも通りのやり取りをしたら完成したばかりの作品を渡そうと考えた。

 

そして・・・・・。

 

「・・・・・ナァーザよ。その子は誰なのだ?」

 

「・・・・・イッセー、です」

 

「あう~」

 

物凄く困り顔で生まれたばかりの赤子を腕の中に抱える少女に相談される未来は直ぐであった。

 

 

 

「・・・・・とんでもないことをしてくれたな」

 

ミアハ、そしてナァーザは『異世界食堂』へ訪ねるや否や、赤子を一瞥してから開口一番に分身体の店主が顔に手を当てて困惑の色を顔に浮かべられた。その後、まだ店を開く前の時間帯故に従業員達は開店の準備に忙しそうに動き回っている一階で二人から事の経緯を事情聴取。本当に困った風に溜息を漏らした。

 

「すまない、聞いてもよいか。どうしてそなたがここにいる?この赤子はイッセーだとナァーザから聞いているのだが」

 

「俺はオリジナル―――赤子になったイッセーの魔法で作られた分身体だ。オリジナルの身に何があろうと魔力の塊であるこの体はちょっとやそっとじゃあ消えたりしないんだ。ただし、この体を維持していられるのもそう長くないんだ。それまで二人はオリジナルの俺を元の体に戻す薬の製作をしてもらいたい」

 

「そなたに迷惑を掛けた以上勿論そうする。ナァーザが使用した素材を元に【ファミリア】総出で完成しよう」

 

「頼んだぞ?本当に頼むぞ?オリジナルがこのまま戻らなくならない未来なんて結果になったら・・・・・ミアハを天界に送還して【ファミリア】を潰すからな?ロキとフレイヤに頼んで」

 

「全力でやらせてもらおう!」

 

ミアハとナァーザはすぐさま行動に出た。出て行った二人に置いていかれた赤子の一誠は店主の腕の中で呑気にスヤスヤと寝ている。身の危険すら感じない赤子にこの時ばかりは自分自身に呆れる他ない。しかし、ミアハ達が薬を完成するまで何が何でも守らなければならない。

 

「・・・・・で、何時まで盗み聞きしているつもりだ」

 

さっきから店主の死角の位置で姿を隠し、気配を殺そうとしているがバレバレな従業員達に向かって別の意味で呆れながらそう指摘すると、ギクッと気配が震えた。もう一度溜息吐く店主。

 

「さっさと働け!今日の賄いと今月分の給金、無しにするぞ!」

 

シルを筆頭に従業員達は蜘蛛の子が散る様にして動き出す。が、二人ほど店主に近づき腕の中の赤子を一瞥して話しかける。

 

「その赤ちゃん・・・・・イッセー様なのですか?」

 

「・・・・・ああ、信じたくないけどな」

 

「あなただったらなんとかできないの?」

 

「無理だ。オリジナルの身体能力と魔力だけ引き継いでいる俺達分身体じゃどうすることもできないんだ」

 

意外な欠点を知ったアスナとレイラ。特にアスナは本来の力を発揮できないある意味今の分身体の店主は魔力しか持たない魔法使いみたいだと印象を抱いた。であれば、赤子になってしまったオリジナルはしばらくこのままの姿・・・・・。

 

「う~?」

 

目を覚ました赤子がジッと三人を不思議そうに見上げて見つめる。その視線と愛らしい姿にアスナとレイラの母性が刺激された。抱きしめたい、可愛がりたいと言う思いが二人の背中を押して突き動かす。

 

「ね、ねぇ・・・イッセー。その、抱かせてもらっていいかな?」

 

「あの、私も・・・・・」

 

明らかに好奇心に擽られてると見受けられる。赤子が元の体に戻るまでの間・・・・・女性を中心に騒ぎになるのは火を見るより明らかになるだろうと分身体の店主はふかーい溜息を吐いたのであった。

 

「休憩中だったらいい」

 

 

『異世界食堂』の常連客達は奇異的な眼差しを店主が動く度に送る。店主自身は何ら変わりなく注文された料理を運んだり客達からの注文を受けたりしている。その姿も変わらない。変わらないが・・・・・背中に背負っている赤子は誰なんだ?と客一同はそう思わずにはいられなかった。もしや店主の子供か?と勘繰る者も少なくない。聞きたいが訊きにくい。否、訊ねようとする姿勢の客達がいたら、何も聞くなという笑顔と共に圧力のオーラが向けられて誰一人畏怖して聞けないでいるのだ。赤子の方は客達へつぶらな瞳を好奇心でキラキラと輝かせていた。自分に意識を向けていると分かったエルフの女性客は小さく手を振ると、赤子は「うー!」と小さな手を一生懸命振るって笑顔を浮かべて応じる姿に、ボッと尖った耳先まで紅潮しては「ヤバい、か、可愛い・・・・・っ」と肩を震わせる。その余波で他の客達の顔は優しげで温かな眼差しを向け始める。

 

「アンタも意外と苦労することあるんだねぇ・・・・・」

 

「何しみじみとして言ってくれやがるんだ。おい、その優しい目付きで俺を見るな。俺が俺自身をお守をするなんて微妙なんだぞ」

 

厨房の裏にある奥行きの広い部屋で休憩中にて、ミアと数人の従業員達が店主に近づき交代制で赤子を抱く。特に獣人の従業員の耳と尻尾が気に入ったのか、触れると天使の微笑み如く可愛らしく笑って彼女達の顔を紅くさせる。

 

「でも大丈夫なのかい。あの赤ん坊はアンタ自身なんだろ?」

 

「しばらく様子を見るしかない。こんな経験は生まれて初めてだから慎重にいかないと。【ミアハ・ファミリア】が何とかしてもらう他ないしな」

 

何とかならなくなったら俺はこの世から消える。と付け加えて言い事の重大を醸し出させる。

 

「【ディアンケヒト・ファミリア】にも頼んでみたらどうだい」

 

「呪いの類ではないんだが・・・・・まぁ、一応頼んでみる」

 

「そうしな。じゃなきゃ一体誰が元に戻らなくなってしまって赤ん坊になった店主を育てるんだって話だよ」

 

「・・・・・自分色に染めることが出来て自分好みに育てられると知ったら、ロキ達は争奪戦をしかねないか」

 

「・・・・・同情するよ」

 

杞憂する分身体の店主に憐れとミアは直接何もせず見守る姿勢で構える。そして・・・・・オリジナルの一誠が赤子になったことでその影響が他にも及んでいることを知った。『幽玄の白天城』が再び堂々と都市に姿を見せていたのだった。そのことを客達の会話で知り、ますます楽観的にいられなくなった分身体は協力者を仰いだ。

 

「・・・・・なるほど、事情は概ねわかりました。協力しましょう」

 

「・・・・・」

 

「すまん。マジで助かる」

 

【ヘルメス・ファミリア】からアスフィ・アル・アンドロメダ。【ディアンケヒト・ファミリア】からアミッド・テアナサーレに声を掛けて事情を説明し快く協力の申し出を受け入れてくれた。腕の中に眠る赤子が一誠だと、その理由を説明して納得の一言で理解し、事の大変さは彼女達にも伝わった。因みに現在いる場所は【ディアンケヒト・ファミリア】の施設奥の商談部屋だ。

 

「しかし、薬品を飲み赤子になるとは【ミアハ・ファミリア】も変わった作品を作りましたね」

 

「本人曰く栄養が摂れるポーションを作ったつもりだったらしいけど、分身体の俺自身も驚きの結果だ」

 

「確かに、試飲も怠ったのが原因でしょうが。その薬をさらに調整・改良したら若返りの薬が出来上がるかもしれませんね」

 

そういう見解もできるアスフィにやはり複雑極まりない分身体は、先程から無言を貫いているアミッドに話しかけた。

 

「アミッド、さっきから黙ってるけどそんなに気になるのか?」

 

「あ、すみません・・・・・はい、とても・・・・・」

 

「・・・・・診査、してくれるか?」

 

暗に抱いてみるかという提案と共に一誠を差しだすと、華奢な細い腕がアミッドから伸びて受け取ろうとすると健康的な赤子並みに体重の重さで、両の腕がプルプルと震える。見かねたアスフィが下から支えて二人の膝まで引き寄せた。

 

「う?」

 

つぶらな瞳がパチクリと開く。視界に飛び込んできた二人の少女の顔を見て、「あ~♪」と精一杯小さな手を伸ばす。そんな赤子に敵わない人はいないだろう。二人も例から零れず人差し指を出して近づけると、小さくて温かい手に握り締められてほっこりとした優しい顔つきになった。

 

「・・・・・可愛いですね」

 

「・・・・・はい、イッセーさんが赤ちゃんだった頃はこんな風だったんですね」

 

「・・・・・何でだ。事は緊急事態なのに気恥しい思いをしなくちゃいけないんだ?」

 

その後、主神ディアンケヒトに断りを貰い二人を連れて【ミアハ・ファミリア】のホームへと赴き、二人の協力も加えて本格的な作業を始めてもらった。必要な素材があれば惜しみなく提供すると伝え残してホームを後にし、路地裏から出た直後・・・・・。

 

「む、そこにいるのは俺の【象神の料理番長】ではないか!」

 

高らかに二つ名を言ってくる男神とその眷族達一行と鉢合わせした。南部のメインストリートでホームを構える【ガネーシャ・ファミリア】達が総出でなくても十人以上はいてどうしてこの場にいるのだろうかと疑問符を浮かべる。

 

「ガネーシャ?というか、俺の二つ名は決まってないのにその名前を言っていいのか?」

 

「今のお前はこのガネーシャの眷族!誰が文句を言おうと関係なく言わせてもらうことにした!」

 

「あ、そう・・・・・。それで、偶然出会ったんだよな?珍しく団長以外の団員を引き連れてさ」

 

「ある意味偶然、しかし必然だ!お前のホームがまた忽然と見えるようになったのでな。ギルドから【強制任務(ミッション)】が敷かれる前に【ガネーシャ・ファミリア】が動くことにした!何せお前は俺の眷族だからな!」

 

ギルドがもう一度『幽玄の白天城』の捜索の依頼を各【ファミリア】に発令するかもしれない。そうガネーシャは考えてシャクティ等を引き連れてここに来たのだと納得した分身体の一誠。一々変な姿勢(ポーズ)をして説明するのはこの際目を瞑ろう。自分の為に動いてくれた主神に感謝の念をするのが当然なのだから。

 

「だが、お前は変わった様子ではないようだが何が遭ったのだ?」

 

「ん」

 

ガネーシャ達に背負っている赤子の存在を示す。最初はキョトンとして、次第に分身体と赤子を交互に見比べ「えっ?」と漏らした。

 

「俺は店で働いているイッセーの魔法で作られた分身体の方だ。で、この赤子がイッセーなんだ。薬を飲んで赤子まで若返ってしまったんだよ」

 

「・・・・・マジで?」

 

「ああ、大マジだ。今、【ミアハ・ファミリア】と【ヘルメス・ファミリア】に【ディアンケヒト・ファミリア】に協力を要請して元に戻る薬を製作してもらっているところだ。真実を知りたいなら【ミアハ・ファミリア】のホームに行ってくれ」

 

ガネーシャの眷族の一人が裏を取りに路地裏へ向かった。それからしばらくすると戻って来て真であるという報が届く。頷くシャクティは更に問いかけた。

 

「あのホームを隠していた本人がそんな姿では流石に隠す物も隠せなくなるのだな。ではお前は?」

 

「俺自身は魔力の塊だ。しばらくはこうして居て立っていられるが、極力魔法も使いたくない。消費した傍から消えてしまう期日が早まるからな」

 

「お前自身が何とかできないのか」

 

「できたらとっくにしているさ」

 

お手上げ状態だと肩を竦める分身体に「それもそうか」と納得する麗人の団長の傍から離れ、ガネーシャが近づいてきた。

 

「ほほう、イッセーの赤ん坊だった頃はこんなに可愛いのだな」

 

「今眠っているんだから騒ぐなよ」

 

「では触る」

 

「それも駄目だ」

 

そんなことをしていると、北西の『冒険者通り』に更に冒険者達が集まってきた。とは言っても・・・・・。

 

「おや、イッセー?それに神ガネーシャ達もどうしてここに?」

 

「ホームがまた見えて何か遭ったと思って来てみたら・・・・・」

 

「あら?その可愛い赤ちゃんはどうしたの?」

 

馴染みある【ファミリア】の主神や団員達が集まって来ては不思議そうに分身体達へ視線を送る。

結果、落ち着いた場所でまた説明をしなくてはならなくなった。

 

 

『幽玄の白天城』の中で一誠が赤子になった経緯を説明すると皆驚きを露わにして、フワフワモコモコの寝台に寝かされてる一誠に視線を向ける。そこにはフィン達が囲んで見下ろし、見守っている姿があった。今は熟睡している様子で周りの視線を気にせず夢の中へ旅立っている。

 

「はぁ・・・・・」

 

「フレイヤが物凄くうっとりしちゃっているけれど大丈夫なの?」

 

「平常運転や。気にしてもしょーもないで。それよりもこれからどうするん?」

 

「どうもこうも俺が何もできなきゃ製薬してくれているミアハ達に任せるしかない。それより、このホームの警備をしてくれるって?」

 

【ガネーシャ・ファミリア】だけでなく、【ロキ・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】も団員達を連れて来ていた。目的は異変の調査と警備。異変の方は分身体の店主から説明を受けて問題ない。問題ないが、未だに元に戻る気配のない当人が赤子のままではホームを隠すことが出来ない。ロキとフレイヤは意味深に顔を見合わせて頷き合うと今後、一誠が復調まではホームを守る団員を派遣すると申し出たのだ。それには分身体もありがたかった。金属の人形兵(ゴーレム)で近辺に配置しようかと考えていたが信頼する【ファミリア】にも守ってくれると安心できる。

 

「せや、ここは一つうちらに甘えてもらうで?赤ん坊になってしもうたイッセーすら護れへんようじゃあうちらは最大派閥の名折れやし、フィン達も【ファミリア】総出で守るはずや」

 

「第二級の子供達にしてもらうから安心してね?」

 

「そういうことだったら私も【ファミリア】で打った武器を提供しましょうかしら。第二等級でよければだけど」

 

「俺達も負けておれんぞシャクティ!」

 

「わかってるよ。こちらも団員を派遣する」

 

「じゃあ、私もロキ達の子供の為に炊き出ししてあげましょうかしら」

 

と、思ったが・・・・・過剰に団員達を近辺に配置したら「何かとんでもない物を隠しているんじゃ?」と疑われかねないのではないかと安心から心配してしまった。

 

「交代制で頼むぞ」

 

任された、と揃って頷く男神と女神達。当神達も元からそうするつもりだったようで直ぐにローテンションの決め合いを始めた、その時だった。ロキの腕輪に通信を受信した。宝玉に触れて相手と通信状態できるようにするとガレスの顔が映像に映り出した。

 

『ロキ!すまぬそちらにあの転生者三人が入り込んでしもうたわ!』

 

「は、はぁっ!?」

 

『警告をしたが無視され一戦を交えた後に突破されてしまい、今追いかけておる!』

 

なんやてっ!?と素っ頓狂に驚愕するロキを始め、フレイヤとヘファイストスは目を細める。デメテルとアストレアは分身体を見つめた。

 

「・・・・・興味本位で乗り込んできたか。悪いがオリジナルの代わりに大切なものを手出すようなら容赦する気はない」

 

席から立ち上がって行動する分身体にフィン達は顔を見合わせ、得物を片手に追従する動きをする。

 

 

単なる好奇心だった。突如バベルの塔の次に高い建造物が見えるようになってあそこに何があるのだろうと向かうと複数の派閥がその建造物を守るように立っていた。中には自分達が負かした団員達がいる。近づくと臨戦態勢の構えをされ警告してきたが、羽虫を払うように薙ぎ払い巨大な壁を破壊して突破してみると自然豊かで巨大な木々が群生していた。追いかけてくる連中を無視して前方へ進むとダンジョン原産の植物等に囲まれてる直径一〇〇Mの湖がある広い空間に辿り着いた。

 

「おい、アレ見ろよ。宝石が実になってるぜ」

 

「もしかしなくても売れば儲かるな」

 

「成程、連中が守っていた理由は金になる物を育てていたからか」

 

ならば一見葉っぱや木の実しか見えない物らも売れば高く買い取ってくれるだろうと一人はガレス達の相手を、残りの二人は採取を始めた。現在の【イシュタル・ファミリア】は火の車どころか山火事状態だ。二大派閥のホームの修理費に迷惑を受けた【ファミリア】から謝礼と慰謝料に膨大な金額を要求、私財を貯め込んでいた宝物庫や個神的な宝物を全て没収され来る日も来る日も金を集める日々を過ごす羽目になっている。転生者三人もそうだ。恩恵を受けてから休む暇もなく働かされ、転移の魔法で都合のいい便利な魔法として酷使されている。三人の転生者を中心に『深層』へ進出し、ウダイオスも攻略してみせているから尚更だ。だからこそか、神の特典で最強や無敵に等しい力を得た者として馬車馬のごとく扱われ、こき使われるのが堪らなく嫌になってくる。神に対する忠誠心や恩義など一欠けらもない彼等からすれば宿屋の主人程度の認識だ。律儀に従う理由もなければ守る理由もない。ので、三人は企てた。オラリオから離れて好き勝手に生きてみようと。その為には軍資金や物資が必要になるので準備を始めていたのだ。自分達の魂を奪って恐喝する男は特に何も言ってこないして来ない。彼の男の知り合いや仲間の女に手を出さなければ放置するのだと分かってきたのは何時だったか。それを逆手に動けば自分達は晴れて自由の身、という認識をして行動に移った。

 

「おい、まだか?いい加減相手にするのが面倒になってきたぞ!」

 

「あともーちょっと!」

 

「というか、あいつらをこっから追い出して俺達だけの箱庭にしね?」

 

巨大な大木をへし折ってガレス達を妨害したり、風をベクトルして嵐に変換、それを冒険者達に向けて攻撃して吹き飛ばす。それらを掻い潜る冒険者―――殺気を転生者に向け獲物に殺意を孕ませるフレイヤの第一級の眷族達が雪辱を晴らさんと襲いかかる。

 

「はははっ!どうしたどうした、前と変わらず全然お前等の武器は当たらず通用しねぇし成長してねぇな!」

 

「―――君以外はどうやら通用するようだけどね」

 

「あ?」

 

静かに囁かれるように発された声の主へ振り返った転生者。金目になる物を採取していた二人の転生者達も声がした方へ振り向く。聳え立つ断崖絶壁から降りてくる黄金色の髪に碧眼の小人族(パルゥム)と錆色の短髪から猪耳を生やし岩のような身体を持つ、二Mを超す獣人がそれぞれ二人の前に降り立った瞬間。応戦する間もなく槍と大剣による見えない一撃で地に平伏された。不死の体にどれだけ死にいたる傷を負おうと直ぐに再生する。ならば意識を狩るだけなら簡単に倒せるぞ、と教えてくれた男の言うとおりの方法で対処した。

 

「前回は確かに君達に負けたのは事実で否定しないけど、成長していないのはお互い様じゃないかな?」

 

「・・・・・てめぇらっ」

 

「ここから直ぐに去るというならこれ以上僕等から何もしないよ。そうしたほうがいいとお勧めもする」

 

オッタルが無造作に二人を掴み健在の転生者の方へ放り投げた。

 

「ここは君達を倒した男が住んでいる。荒らされた庭のことは僕等から説得もしよう。だから去った方が君達の身の為になるよ?」

 

「俺達を倒した男だと・・・・・」

 

脳裏に浮かぶ真紅の長髪に隻眼の男。思い出しただけで湯が沸騰した風に怒りがこみ上げ、二人が降りてきた崖の上を睨みつける。

 

「―――君達の命を握り潰されて死にたいなら構わないけどね」

 

最終警告として告げるフィン。転生者もそれを察して奥歯を噛み締め、弱みを握られた者の行動はとても従順だ。気絶した仲間を掴んで「何時か必ず殺してやる!」と捨て台詞を言い残して空へと飛んで行った。その様子を見届けるフィンは安堵で胸を撫で下ろす気分に浸り上にいる主神達に報告を入れる。

 

「そうか。よくやったで」

 

問題は解決したと下から報告を受けるロキ。まさか転生者がここに乗り込んでくるとは予想外だったと誰もが思い、赤子になった一誠はリヴェリアを筆頭として武装した女性団員達に囲まれて守られていた。

 

「だ、そうやで?」

 

「・・・・・壊されたところはそのままだな。森の方は伐採する他ない」

 

「あー、どんまい」

 

転生者が暴れた爪痕は浅くない。後処理が待っている分身体に他人事ではいられないロキは同情する。同じ目に遭った神として気持ちが解るのだから。

 

庭の爪痕の処理をし終えて夜を迎えた。その間に一つだけ分かったことがある。分身体でも特典を発動できることだ。これはありがたい、ものすごーくありがたかった。早速粉ミルクやら哺乳瓶やら必要なもの全て購入して本格的に育てるつもりはないが飢餓の心配をなくした。

 

「「「「「・・・・・」」」」」

 

適度な温度のミルクを瓶に入れて赤子になった一誠に与えようとする。何故か数多の視線が突き刺さる。なんだ、と無言で見返せば代表者アイズが口を開いた。

 

「やりたい」

 

「世話を?」

 

「んっ」

 

精一杯腕を伸ばす少女から目を離しアリサ達を見やると、「とても興味があります」といった好奇心と興味津々の眼差しを向けてくる。お前等もか・・・・・。

 

「・・・・・ほら」

 

己の膝にポンと触れ座れと促せば、分身体の膝の上に薄い臀部を乗せるアイズは仕方を教わりつつ支えられながら赤子にミルクを与える行為を体験することが出来た。己の腕の中で一生懸命ミルクを飲む赤子の姿、アイズ・ヴァレンシュタイン今年で10歳になる少女は、生後不明の赤子の可愛らしさに顔を輝かす。胸がキュンキュンとしてしょうがない。母性がこれでもかと擽られた。

 

「あ、あの。私もあげてみたいっ」

 

「イッセー、私もしてみたいな」

 

アイズだけじゃなかった。アリサ達も目を爛々と輝かせて乞うてくるが、赤子の方はミルクを飲みほして小さなげっぷをした。誰が見てももうお代りはいらないと満腹感の表情を浮かべた。

 

「腹いっぱいのようだ」

 

「・・・・・アイズ、ズルいよ」

 

「薬が完成するまではオリジナルはこの姿だ。あげる機会が訪れるから我慢しろ」

 

羨望の眼差しをしだすアリサを宥め、今度は風呂だなと思い立って腰を上げた瞬間。一々反応する女性達。

 

「お風呂?」

 

アスナの一言で、アイズ達だけでなく一部の女神と男神を除いて妖しい光を目から輝かす。これは・・・・・面倒な事が起きる前兆だと分身体は悟ってしまった。

 

翌朝―――誰がミルクをあげるかジャンケン大会で勝利をもぎ取ったアリシア。母親みたいに慈愛で満ちた表情をしてロキにからかわれ赤面するエルフの少女で始まり朝を迎えた。

 

「本当に大丈夫なんだな?」

 

「任せて。育児のやり方を載っている本もあるからそれを参考にして育てるから」

 

「・・・・・まるでアスナの子供みたいなことを言うな」

 

自覚のない誤解を招く言い方をする本人と他数名の強い希望で世話を任せることにした分身体。指摘を受けたアスナは顔を赤くしながらも【ミアハ・ファミリア】に顔を出してから店へ向かう男を見送る。そして、城からいなくなった途端アスナは走り出してリビングキッチンに入るや否や、皆に構われてる赤子へ話しかけた。

 

「イッセーちゃん、今日はお姉さん達と一緒に遊びましょうね?」

 

「あうー」

 

アスナの腕の中に渡る赤子はずっしりと確かな重みを感じさせた。何時か自分も新たな生命を産みだした時の重みはこんな感じなのだろうかと思いながら優しい笑みを浮かべる。アスナだけでない。一人残らず女性達の腕の中に渡りほっこりと温かな気持ちをさせた。特にフレイヤが抱えた時などオッタルですら見たことが無い心の底から優しく柔らかい笑みを浮かべた。彼女の瞳に映る一誠の魂の色はダイヤモンドのような輝きを放っていた、それも透明度の高い輝きを。彼だからか、それとも他の赤ん坊もそうなのか分からないがやはり美の女神(じぶん)を夢中にし虜にさせている者は、もしかしたら後にも先にもこの子だけだろう。断言する。こうしてさり気無く『魅了』を放っても赤子は一瞬でも自分に魅入る様子は無い。

 

「ふふ、可愛いわ」

 

可愛い、確かに誰もがそう思うだろう。―――七つの夜明けを無意味に重ねてしまったまでは。

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