ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか 作:ダーク・シリウス
交代制でお世話をするにも『家に引き籠るばかりでは赤子を育てる環境としてはあまりよくない』と、そう綴られていたのでまだ夏の暑さが残っている外へと外出をすることにした。その際、誰が一緒に出かけるのか決め合ったところ。
「アイズとアリサ、ラトラ達は勉強会だ」
「ダンジョンに行ってくる」
「手前もしばらく工房に籠らんといかん」
「はぁ、こういう時に限って永久社長として仕事があるから構っていられないわね」
「うちはホームに戻るで」
「バベルに行ってくるわ。何か遭ったら直ぐに塔の最上階まで来なさいね?」
イッセーのお世話ー、と五人の少女達がハイエルフに引きずられて勉強部屋へと連行される。フィリアも従う。
「付き合わせてごめんね」
「いえ、城に居ても何もせずにいたと思いますから」
「こういう時こそ少しでも手助けができるなら私達も動かないと駄目ですからね」
アリシア・フォレストライト、アナキティ・オータム。エルフと
「本当にこの赤ちゃんがあの人とは思えないなぁ・・・・・」
「ええ、とても信じられませんが、イッセーさんが虚言をする人ではないですし」
歩きながら横から覗き込む四つの目からの視線は赤子のつぶらな瞳の視線とぶつかり、やはりとても一誠が赤ん坊になってこの可愛らしさなんて目を疑う。そのままの姿勢で歩いたら転けそうになって姿勢を正す。
「でも、神様達が確認したんだよね?」
「はい、リヴェリア様も確認した上で仰っりました。刻まれた『恩恵』の真名は間違いなくイッセーさんだと」
「『恩恵』で証明したから疑えないけれどやっぱりねぇ・・・・・」
ギャップが凄すぎる。とアナキティがそう言いたいのをアスナは察した。実際アスナも感じているのだこの激しいギャップに。
「昔のイッセーを知らないから戸惑うのも無理はないかもね」
「そうですね」
「というか、そんな人オラリオにいるのかしら?」
素朴な疑問を吐露した黒髪黒眼の
「あっ・・・・・」
思いを馳せていた異邦人の者達とばったりと遭遇してしまった。そして視線が下へ落ちてベビーカーの中にいる赤ん坊を見てまたアスナに視線を戻して・・・・・。
「・・・・・アスナさん、子供を産んだのですか・・・・・」
「ち、違うのっ!この子は私の子じゃないわよ!」
「じゃあ、誰の子ですか?イッセーさんと一体誰の、ですか?」
彼女達の中で既に新郎の男性は確定していた。というか、あの人以外誰がいるの?的な質問に対してアスナの横からアナキティが口出しした。
「あなたは一体誰なの?」
「【アルテミス・ファミリア】の拳藤一佳と言います」
「そう、私は【ロキ・ファミリア】の眷族アナキティ・オータム。アスナの前の派閥の人達だったのね。ここにいるってことは、
「はい、近々私達は『下層』に向かう予定です」
「・・・・・大丈夫なの?」
アスナの心配の理由は様々だ。異世界の能力を人前でおいそれと発揮できないことと、もしも正体がバレた時はオラリオ中の人間に忌避されかねないこと。一佳はアスナの心配の意図を察したかそうでないか定かではないが自信に満ちた表情で頷いた。
「大丈夫です。私達は弱くないですから」
「弱くないってあなた達はLv.1なんでしょ?駆け出しの冒険者が『下層』なんて無理だわ」
「大丈夫、大丈夫。私達これでも何度も『下層』に行き来しているんだからさ。どんなモンスターだろうと人だろうと皆で協力すれば勝てるんだから」
駆け出しの冒険者が『下層』のモンスター相手に協力して倒す?それこそ無理だ。Lv.1の冒険者がミノタウロスを倒した話すら聞いたことが無いのだ。無謀だ。命を落としに行くようなものだとアスナを促すアナキティ。
「止めた方がいいんじゃないの?彼女達、死ぬわよ」
「・・・・・えっと、そうだね」
言い辛い。とても言い辛い。言葉を濁しチラリと一佳に視線を送った。何とかしてくれないかな?その視線の意図を悟り、この場から離れるのが鉄則とばかり行動を再開しようと口を開こうとしたが、ポニーテールで豊かな体の少女が訊いてくる。
「話を戻させてもらいますがアスナさん。その赤ちゃんはどうしたのですか?」
「うっ・・・・・」
話しの流れから遣り過ごせそうだと思っていたがそう問屋が卸せなかったようだ。今度はアリシアとアナキティの方へ視線を送ると判断を任せるといった雰囲気を醸し出される。ので、アスナは彼女達限定ということで他の者達に教えないことを条件に釘を刺してから説明する。
「実は・・・・・」
教えられた話の内容とその事実に、数秒後・・・『冒険者通り』から驚きの悲鳴と驚愕の絶叫が響いたのは言うまでも無かった。
「ふえええええん・・・・・っ!」
赤子を驚かせて泣くほどに。ギョッとアスナ達は慌てて泣き止むように慰めながらちょっぴり彼女達へ非難の眼差しを送る。申し訳なさそうに謝罪の言葉を発する一佳によって他の少女達は近くの道具屋の中へと連れて行かれた。
「ひっく、ひっく・・・・・」
「よしよし、たかいたかーい。驚かせちゃってごめんねー。ほら、黒猫のお姉ちゃんがいるよー?」
「それ、私?」
「この場にあなた以外誰がいるのかと」
唯一、私のこと?と足を止めて顔をアスナに向けていたが黒猫の少女が一人いて、赤ん坊を視界に入れた瞬間。―――そのお尻を見た途端に胸がキュンと甘くときめいた。そして・・・・・いつの間にか。
「えっ?」
「なっ」
「へっ?」
猫のようにしなやかに駆け出しては、アスナ達の懐に飛び込み己の存在を気付かれたときには赤子を腕の中に納めていた。自分でもこんな白昼堂々と何をしでかしているのだろうかと思いながらも―――一度走り出したら止まらない何かのように黒猫の少女も歯止めが聞かなくなっていた。
「責任をもって大切に育てるニャー!」
呆然と赤子の誘拐者が去る姿を見つめて直ぐ、あぁっー!?と叫び散らした。当然ながら三人は全力で追い掛ける。ベビーカーをカードの中に収納して少し遅れるアリシアは走りながら腕輪の機能の『一斉通信』を連絡する相手のみに伝えた。
「イッセーさんが可愛らしさのあまりに拐われましたっ!」
一拍遅れてリヴェリア達から驚きの絶叫がされる。
「ロキ、ここを離れるけど構わないかな」
「構わへんで。ここぞこそイッセーに借りを返すチャンスや、いってきぃ」
「よもや
「ガレス面白い冗談を言うじゃないか」
「イッセーッ!」
「取り返す!」
「絶対にです!」
「・・・・・緊急事態か」
「行くぞシャクティ!イッセーを取り返しにぃっ!」
「分かってる」
赤子を掻っ攫った
「待ちなさい!その子を返して!」
「ニャーハハハ!返して欲しければミャーを捕まえてみるニャー!おっと、口調が・・・・・」
「速いっ・・・!」
「上級冒険者ですか・・・・・!」
一瞬たりとも目を離せない追いかけっこ。街の住民達の驚愕を浴びながら、自分の逃げ足に追いつけまいと翻弄しながら優越感に浸る。人を壁として利用し、時には使うつもりなかった
「(今思い出せばあの亜麻色のヒューマン、『異世界食堂』の従業員だったニャー)」
これは少々、選択を間違えたかもしれない。あの店の料理を食べに行き辛くなった。だが、後悔はしていない。食べに行けなくなるのは残念だが、それ以上の喜ばしいことが得たのだから。
「うー?」
「ニャは」
黒猫を見上げて見つめる生まれたての赤ん坊の尻を擦り、その肌触りと弾力と感触を堪能する。ニュフフ、間違いなく至高の尻だニャ。今まで掴み取ってきた勝利の数倍の達成感を浸り恍惚の表情を浮かべた。背を預けていた壁から離れ歩き始める。楽しみは宿の中でもたっぷりと味わおうと口に刻む笑みと共に人気のない裏路地を経由して戻ろうとする。育児の方は・・・・・何とかなるニャ等と軽い気持ちでスキップするその足が不意に止めた。
「あの」
「(ニャ?)」
真っ赤な瞳が己を見上げていた。具体的に述べると穢れを知らない純白の髪を伸ばし、頭と臀部辺りには獣耳と尾を生やしている獣人の子供が可愛らしい服装とは似つかわしくない日当たりが悪くジメジメとしたこの場所にいることが最初に疑問を抱いた。
「その赤ちゃん、可愛いです。抱かせてください」
唐突にそう言ってくる少女を他所に黒猫は警戒する。なぜ、気配を悟らせずに
「いいけど、お父さんとお母さんはどこにいるのかな。子供がこんな場所一人いたら怖い人に痛くされちゃうわよ?」
「・・・・・私、お父さんとお母さんの顔を見たことが無いです。物心がついたとき、奴隷商人の牢屋の中に居ましたから」
「えっと・・・・・ごめんなさい」
「あ、気にしないでください。今私は幸せなんです。私を牢屋から出してくれた人の傍で生きていますから」
過酷な生活の中で生きていた少女の話を聞き同情してしまった。きっと正義と秩序を司る【ファミリア】に助けられてその庇護下で生活をしているのだろう。例を挙げれば【アストレア・ファミリア】と【ガネーシャ・ファミリア】であるが・・・・・。
「あー」
赤子が少女の背後で揺れる尾に興味を抱いた。獣人の少女は背伸びして両腕を伸ばし受け取る姿勢に入った。黒猫は純粋無垢な少女の目を窺うように覗き込み、敵意も邪な考えも無い相手だと分かりながらやんわりと拒絶した。何時までもこの場に留まったら追ってに見つかる可能性がある故に。
「ごめんね?私そろそろ帰らなくちゃいけないの」
「あう、ちょっとだけでも・・・・・」
「んー、また今度会ったら抱かせてあげる。約束するわ」
踵を返して薄暗い路地裏の奥へと足を前に動かす。コツコツと足音を立たせて遠ざかっていく背中。残念そうな視線を受け止めながら黒い猫耳が拾った。
「・・・残念です―――返してくれるなら穏便に済ませれる、とリヴェリアさんが仰ってくれましたのに」
「っ!?」
バッと獣人の少女へ振り返った同時に黒猫の真上、遥か上空から決河の勢いで落ちてくる小さな影が二つ。その気配を気付いた時は、既に自分と目と鼻の先だった。
「その子を返す」
「返してもらう!」
目が
「そ、そんなのありかニャー!?」
全力疾走。路地裏から表通りに出て人混みに紛れて逃走を開始する。だが、空飛ぶ追跡者から逃げ伸びるのは最初の追ってより困難を極める。
「―――いたっ!」
最初の追手とも遭遇してしまい、黒猫は意地でも逃げ切ってやると変なプライドを見せて大通りの中を走り続ける。できるだけ人が混雑しているメインストリートにだ。空からの追手は想定外であるが、無関係な住民に紛れこめば安易に武器を振るえない他、地上からの追手より対処しやすい。急接近してくるならば身を低くして回避すれば肉壁という人垣によって接近をけん制でき、阻んでくれる。その結果、空飛ぶ天使もとい追跡者達は黒猫を捉えてもただ追うだけしかできずにいた。油断はできないがそれでもまだ何とかなれるレベルニャ、と心に余裕が出来て最後に大通りの中で煙幕を使った。突然発生する黒煙に住民達の混乱と動揺を背後に直ぐ近くの路地裏へと掛け込んだ。そして直ぐに別の道へと向かわず、積み重なっている木箱の蓋を開けて底を足でぶち抜いては中に入って身を隠す。猫耳に聞こえてくる老若男女の騒然の声はしばらくすると、煙幕が晴れたからかざわめきの声が少なくなり何時しか止んで元の日常に戻った。追手もあの状況の中では本命を見つけることは出来まいと高を括ってほくそ笑む。
「(さて、そろそろ出るかニャ)」
何時までも赤子と窮屈な場所にいるのはよろしくない。さっさと家に帰って赤子の尻を堪能しようと蓋を開けて上半身を出した。
「やあ」
背後から黄金色の髪に碧眼の
「ブ、【
「用件を言わせてもらうよ。君が抱えている赤子を返して欲しい。狙った理由はわからないけれど、僕達にとって大切な赤子なんだ。素直に返してくれるなら見逃すよ」
どうかな?と提案をしてくる
「・・・・・」
藍色の短髪に怜悧に整った女性、シャクティの顔は無表情を貫いていた。黒猫は完全に窮地に立たされた。自分の命か赤子か、天秤を傾け優先するべきはどれなのかもはや明白だ。
「うー」
その時、黒猫の腕の中の赤子が槍の切っ先を掴もうと身を乗り出した。そうはさせまいとシャクティが届かぬようにずらしたがそれでも追いかけようとして掴みかかってしまい、身動き出来ぬ黒猫の腕から零れ落ちてしまう。すかさず槍を手放した手で赤子の体をキャッチするシャクティに苦笑いするフィン。
「やれやれ、目が離せないね」
「・・・・・第一級冒険者の貴方が出張るほど取り返したいなんて、一体誰の子なわけ?」
「誰の子供でもないよ。強いて言えば、この子は若返りの薬を誤って飲んでしまった僕達の友人なのさ」
それだけ言い残して黒猫から背を向けて離れだす。シャクティもフィンと一緒に行動を移す。
「―――もう一度見掛けた時は、お前を捕まえる」
去り際に冷たい声音で語り掛けられて背筋がゾッとする。肩越しから己を見つめる赤子と路地裏から出て行くまで視線を合わせていたが、格上の冒険者達がいなくなると緊張の糸が解けたように木箱の中でへたり込んだ。「い、生きた心地しなかったニャ・・・・・」と感想を呟いて。
そんな事件が起きてから、三つの【ファミリア】が協同で若返りの薬を反転させる薬の製作をしてあっという間に七日が経った。目の下に隈を作り深い疲労が濃く顔に浮かんでいて貫徹しているのが一目で分かるほど作業に徹していた。だが、結果は好ましくない。途中から分身体も加わって製薬を臨んだが無情にも時間が過ぎてしまった。【ミアハ・ファミリア】の団員達の殆どがグロッキー状態だ。アミッドもアスフィも襲いかかる睡魔に精神力のみで耐えているがそれも限界に近い。
「・・・・・どんな素材を使っても芳しくない結果で終わるか」
「・・・・・いっそのこと反転では無く、成長を早める薬にしますか」
「・・・・・それですと、もしも薬の効果が切れた時また元に戻りかねません。記憶も正常に戻るのかも怪しいです」
「・・・・・ナァーザが製薬したあれも時間制で効果が切れると思うか?」
「・・・・・判り兼ねます」
分身体達は『
「イッセーの方に変化は?」
「変わらん。相手がオリジナルだろうと呑気に可愛がられて流石にイラついてきてるぞ」
「ふ、不可抗力ですから仕方がありません。それに、誰かに世話をしてもらわないと生きていけれませんし」
解っている、と溜息を吐いて自分の手を見つめた。二人も何気なく視線を向けるとおかしなことに気づく。手が透けているようにも見えるのだ。いや、薄らとだが透けているのではなく消えかかっていると言い直した方がしっくりくるだろう。疲労困憊の色を浮かべる目が丸くなる。
「ま、まさか・・・・・・」
「ああ、魔力切れだ」
「そんな・・・・・っ」
静かに砂漠で遭遇する蜃気楼のように音もなく消え始める分身体。自嘲的な笑みを浮かべ、アミッドとアスフィの頭に手を置いた。
「悪いな。こんな面倒事を付き合ってくれて。元に戻ったオリジナルに何かお礼でも要求しろ」
「イッセーさんっ・・・・・!」
分身体は最後に魔力を振り絞ってそれを小さな結晶と化してアミッドの手の平に置いた。それをしたことであっという間に顔の半分まで消えてしまう分身体は「後は頼んだ」と言い残して完全にこの世からいなくなってしまった。残された魔力の結晶、燃える様な赤い炎よりも鮮やかな真紅の塊だけが未だに残り、それが自分の不甲斐なさを突き付けられた感じが堪らないアミッドは結晶を握り締め顔を俯いた。
「・・・・・必ず、あなたの想いを叶えてみせます」
「・・・・・」
強く決意を胸に秘める少女達。同時に夜になっても戻って来ない分身体のことは店から戻ってきたアミッドやシルから報告を受け、アスナ達は赤子の一誠ばかり構っていた自分達に恥を覚えた。
「最後の頼みの綱もいなくなっちゃったのね・・・・・」
「
「頼んでどうにかなるのか怪しいけれど、可能性があることは全部するべきね」
三柱の女神達の会話を耳にしながら、アミッドは遺品ともいえる真紅の魔力の結晶を取り出した。
「『後は頼んだ』とそう言い残しイッセーさんが遺してくれた物です。調べたところ魔力の結晶です」
「魔石ではないんやな」
摘んで上に掲げて眺めるロキ。鮮やかな赤の宝石のような結晶は光に照らすと真紅に彩ってきらりと輝いた。すると「あー!」と一誠が声を上げた。一同が視線を向けるとリヴェリアの腕の中にいる一誠が物欲しそうに腕を伸ばしていた。珍しく反応を示す赤子にロキは結晶を持った手を大きく動かす。つぶらな瞳と手は釣られるように追いかけて動く。何度も何度も、上に放り投げると目と手も追いかける。
「うー!」
「・・・・・ほしいん?」
「うー!」
どうしても欲しいと泣きそうな表情を浮かべるので、リヴェリアが動きロキによるとそれに伴い暴れ出して魔力の結晶へ伸ばす手が空ぶっても掴もうとする。なにがそこまで駆り立てるのか分からないが、ロキは一誠に結晶を近づけると小さな両の手がその結晶を掴み取った。
「あうー・・・・・」
そして・・・・・「あ」「えっ」と皆の前で魔力の結晶を口の中に入れゴクンと異物を飲み込んだ。当然ながら場は騒然と化す。
「ちょ、ちょっ!?イッセーちゃん!」
「リヴェリア、今直ぐ吐かせるんやぁっ!」
焦燥に駆られる女性陣。が、それよりも驚くべき事が起きた。赤子から真紅の魔力のオーラが具現化して包み込み始めたあと、胸から赤い宝玉が抜け出てきた。皆が驚きで目を皿のように見開いていると宝玉が一瞬の閃光を迸らせロキ達の視界を奪う間に人の姿へと形成していき・・・・・。
「・・・・・我が主も大概だな。よもや赤子に若返ることになるとは」
紫色の髪に血のように赤い双眸の青年が神妙な顔つきで溜息を吐いた。知っている者がいれば知らぬ者もいる。前者は突然の登場で驚き、後者は警戒する目で見つめる。
「お前は・・・・・ゾラードと言ったか。何故今頃出てきた?」
「その質問を今ここで答えてもよいのか。俺はどちらでも構わないが」
ハッとリヴェリアは悟りまだ一誠の正体を見知らぬ者達がいる状況の中で、独断で秘密を教えるような発言はできない。ゾラードの問いに彼女だけでなくロキ達も察し口を閉ざした。
「懸命だ。黙って見ていろ」
赤子の頭を無造作に掴んだ。だが、何も起きない。変化する気配も感じない。不発か?と訝しむ視線をゾラードに向ける一同を他所に彼の者は一拍して息を吐露する。
「成程、薬でこんな姿になったのか。ならば俺の力では直接どうにもすることもできんな」
「うぉいっ!自信満々で黙って見ていろと言っておいて自分もお手上げやと!?」
「黙っていろと言ったのだ。俺自身が解決するなど一言もいったか」
不遜な態度で物申すゾラードに屁理屈や!と言いたげな目で睨みつけるロキの隣から質問をするヘファイストス。
「じゃあ、イッセーはもう元の姿に戻ることはできないの?」
「薬の影響なら外部から何をしようと無理だろう。ならば内部から薬の効果を消す他ない」
「・・・・・どういうこと?」
「そのままの意味だ。水を持ってこい」
突然の命令に当惑や困惑するアスナ達だが、誰よりも早く動いたラトラがコップ一杯の水を持ってきた。
「はい」
「ああ」
受け取るゾラードは手に魔力を籠めて水に浸透していき、透明な水は魔力が宿りとてもではないが飲めそうにない紫色へと変色した。まさか・・・・・と嫌な想像をしてしまう何人かの考えが現実となってしまった。
「これを飲ませろ」
「・・・・・紫色やで?」
「当然だ、俺の力を籠めたからな。飲ませれば薬の効果は消えて元に戻るはずだ」
「その保証は?」
「知らん。試せばわかることだ。拒むというならお前達が何か解決策があると思って任せるが、実際はどうなのだ」
そう言われると解決策も手段も無いロキ達は口を閉ざして沈黙。またラトラが動きだして今度は哺乳瓶を持ってきた。この中に入れて飲ませてほしいと意図を察してゾラードは受け取ると移し替えた。それからズイっと突き出す哺乳瓶にリヴェリアの綺麗な翡翠の柳眉が険しく寄った。見た目が悪い、毒でも入っているとしか思えない色の水を赤子、それも一誠に飲ませて身体に悪影響が及ばないとは限らない。かなり抵抗を覚えてしまうがこの場にいる全員がゾラードに敵わないことだけは悟っている。目の前の男は―――人の皮を被った異世界のドラゴンだから。
「飲ませろ。断るなら俺がやる」
「・・・・・」
ゾラードの中では決定的なことだろう。拒めば飲まされ、受け入れば飲ませる。この二つの選択以外選べるものは無いのだ。険しい表情のまま哺乳瓶を受け取るとご飯の時間?と手を伸ばす赤子に飲ませることを躊躇ってしまう。
「・・・・・色だけはどうにかできないのか」
「俺の魔力だ。どうすることもできない。それに人間の言葉には良薬は口に苦しと言う諺があるではないか」
言いたいことは分かる。だが、これは苦いどころでは無いレベルだとツッコミたいハイエルフの腕の中で哺乳瓶を手に取った赤子に意識を向けざるを得ない。
「うっ・・・・・」
チュパチュパと魔力の液体を飲み始める赤子に物凄く心配そうに見つめるアスナ達。飲み始めて段々美味しくない味だと可愛い顔に皺が寄り険しくなったところで哺乳瓶から自主的に口から遠ざけてぐずり始める。
「ふええええん・・・・・ええええええんっ・・・・・」
「―――おいっ」
「・・・・・」
責める様な睨みつきは一つだけでは無い。泣きだす赤子になんて物を飲ませるんだと抗議や怒り、ゴミを見る眼差しの視線を送るアスナ達も許すまじと気持ちでいっぱいだった。それでもゾラードは完璧に無視して様子を見守る姿勢で赤子へ視線を向けていた時だった。突如全身を発光し出す一誠。皆が緊張の面持ちで固唾を呑んで見守っている間、光に包まれて次第に光は縦に伸びながら大きく変化し、赤子の姿はどこにも見当たらず最後に見た一週間前と変わらない姿の一誠が消失した光のところに佇んでいた。それから一言。
「・・・・・ん?何でゾラードがいるんだ?」
「主よ。今度から興味本位で変な物を飲んでくれるなよ」
「え?・・・・・あー・・・・・全然記憶にないな。すまん、迷惑を掛けたのは絶対だろ」
「俺より他の者達がそのようだったぞ。俺もいましがた出て来たばかりなのでな。主が赤子になった間のことも記憶でしか知らないのだ」
「・・・・・俺、赤ん坊になってたわけ?うわ・・・・・・すっげー恥ずかしい思いをしたっと」
アミッドが抱き付いてきた。どうした?と見下ろすと「良かったです」と吐露した。
「イッセーさんが元に戻って嬉しいです。分身体のイッセーさんもイッセーさんを元に戻そうとして頑張ったのですが、力及ばず消えてしまいました。ですから本当に・・・・・」
「ん・・・・・ごめんな、アミッド。マジで迷惑を掛けた。後で俺が出来ることだったら可能な限りお礼をするよ」
「はい・・・・・分身体のイッセーさんもお礼を要求しとけと言っておりました」
流石俺だな、と未来を見据えて消えた分身体に苦笑するとアイズ達も抱き付いて来て―――。
「もうちょっとだけ、赤ん坊のイッセーと戯れたかったわ」
「何言ってんのよフレイヤ。・・・・・気持ちは分からなくないけれど」
「ぐふふ、面白写真をたくさん撮ったからうちはこれはこれで満足やで?」
おい、そこの女神。何を言っているんだ何を・・・・・。
その後、多大な迷惑を掛けたとして【ディアンケヒト・ファミリア】と【ヘルメス・ファミリア】に御礼として一億ヴァリスを敬譲した。二人を酷使したことに謝罪の念も伝えたことで片方は気にしなくていいよーとほくほくした顔で受け入れ、もう片方は二度とするなよと言いつつも膨大なヴァリスに目が釘付けで目がヴァリスになっていた。そして【ミアハ・ファミリア】にも。
「・・・・・よ、よいのか?そなたに迷惑を掛けた方だというのに」
「誠心誠意を示してくれたから許す。そんでしばらくは活動を休止するんだろ?その分の稼ぎだって減るんだからこれは感謝の印として受け取ってくれ」
一億の金額を与えた。眷族達は驚くも自分達は頑張った甲斐があったんだなと達成感が顔に浮かんで喜んでいた。
「・・・・・ごめんなさい」
「今度は主神達と一緒に作るようにな?」
「・・・・・はい」
ナァーザからの謝罪も快く受け入れ、これで元の日常に戻ったかと思えばフィンからの通信で知ることになった。
27階層で有力派閥のパーティが