ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか   作:ダーク・シリウス

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冒険譚27

ダンジョンの中で不穏な動きをしているという噂がオラリオ中に広まった頃。ギルド参加の最大派閥を筆頭に有力派閥が共同で捜索しに行くことが決定した。その日の内に第二級から上級冒険者のパーティが編成され、ダンジョンに潜ってから一日と数時間が経過した。一方地上で待機していたフィンが今回の闇派閥(イルヴィス)の噂の漏洩の意図を考え察した。罠だと。今頃『下層』域まで進出している時だろう。自分が助けにいけば間に合うのは確実だ。一度踏破した階層ならば昼夜問わず、何時でも何処でも行き来できる腕輪の魔法で今すぐ駆け付ける自信がある。だが、これは相手の戦力を大いに削る好機(チャンス)でもある故にフィンは―――卑劣な罠に嵌まっただろう彼等彼女等を見捨てる方針で【フレイヤ・ファミリア】と【ガネーシャ・ファミリア】を引き連れ闇派閥(イルヴィス)本拠(ホーム)へ強襲をかけに行く。個人的に非情な考え方だが、本気で切り捨てるつもりは毛頭もない。腕輪の宝玉を触れて操作し、とある男に通信を試みた。

 

 

「ダンジョンの中にいるパーティを助けてほしい?」

 

『ああ。昨日の今日、赤ん坊からようやく戻った君には悪いけれど手伝ってくれないかな』

 

「・・・・・その話はしないでくれるか。俺の一生の恥でもあって黒歴史なんだ」

 

ロキに見せられた写真の数々。ご飯を食べさせられたり抱かれていたり、共に風呂を入っていたら寝ていたり・・・・・etc。羞恥で顔を真っ赤にし部屋に籠って頭を抱えて一夜を過ごした翌日の今日、今だ部屋に籠っていた時にフィンからの連絡が届いたわけだが。今だ立ち直れそうにない一誠だった。

 

『あはは、彼女達にはいい刺激だったと思うけれど?何時か自分の子供を持ったらどんな風に育てるか、をね』

 

「わかった。次はフィンの番でいいな?フィンを応援する女共に説明して育ててもらうから、安心して可愛がられろ。可愛い女の子用の服を着させた状態でな。あ、ガレスがいいか?」

 

『すまない、許して欲しい』

 

本気で頭を下げる最大派閥の頭首を画面越しで睨みつける中、頭を上げた小人族(パルゥム)の碧眼の双眸は真剣な眼差しをしていた。そんな表情をする己を受け入れた小さな戦友の頼みに、断るなど後味が悪いので聞き受けた男は引き籠っていた部屋から出る。扉を開けた先には小さな少女達が背に預けて両足を抱えて座っていて、出てきた男と目が合うと立ち上がって近づいてきた。

 

 

『水の都』に転移して救助をされるはずの有力パーティの集団は『異常事態(イレギュラー)』に襲われていた。転生者ならばこう思うだろう。原作通り(・・・・)なら数多の犠牲者が出るイベントの筈だと。だが、転生者の事前の知識や情報とは異なる出来事が25階層で起きていた。一日費やして『下層』に来た直後のこと。仮面で顔を隠すたった一人の謎の男に襲撃を受け半数が負傷でそれ以外が無傷という結果になった。男の攻撃は素手喧嘩(ステゴロ)。肉弾戦で挑んでくるも露出している顔や手足、胸部や腹部を触れてくるだけで八割戦闘らしい戦闘ではなく場をかき乱された程度だ。

 

「何だ貴様っ!闇派閥(イルヴィス)の仲間かっ!」

 

「違う、変態よ!私の胸を触ってきたもの!」

 

「私もお尻を触られたわ!」

 

「変態仮面かっ!」

 

不名誉な二つ名を頂戴した謎の仮面男。静かにパーティ等へ突き付けた手の平から魔力の塊が発現した次の瞬間。27階層から数百Mの高さの絶壁から轟く爆発と衝撃波によって十数人ほど、緑玉蒼色(エメラルドブルー)の大瀑布の前に落ちて滝壺へと吸い込まれていった。崖から落ちてしまった仲間へ意識を向ける余裕が無く、黒煙に包まれたパーティは視界を遮る黒煙の中で立ち往生、平伏している間に謎の仮面男が『下層』から離れていく事を気付かない。やがて黒煙が晴れて状況を把握すると仲間と仮面の男がいないことに気付くと、前者の捜索を慌てて探しに行く。

 

―――それが救助隊がこの階層に来る前に起きた数時間前の出来事であった。

 

突如として25階層に全身に真紅の龍を模した鎧を着込んだ一誠を始め、バックパックを背負う他種族の少女と女性達が転移魔方陣で正規ルートを無視してやってきた。

 

「ん?ここで戦闘があったみたいだな」

 

「どうしてわかるの?」

 

「地面を見てみろ。ここで休息(リスト)しているなら焚火の跡があってもおかしくない。なのに広範囲で焦げてる。それにところどころ武器が散乱しているし魔力の残滓が感じる」

 

指摘する一誠が徐に顔を『大樹の洞窟』の名残を窺わせる根が張っている天井を見上げ、耳を澄ませる。大瀑布の轟く音が耳朶を刺激し殆どその音で占めさせる中、かすかだが聞こえてくる・・・・・怒号と悲鳴。

 

「アイズ達は正規ルートから全速力で走りながら先行しているパーティを助け出しに行ってくれ。おそらくまだこの階層にいる。俺とフィリア、レイネルとレギンにラトラは俺と一緒に来い。通信をした状態で捜索するぞ」

 

魔法の絨毯をレイネルが背負っているバックパックから取り出し、その上にフィリア達が乗りだす。

 

「イッセー」

 

何かを憂う表情を窺わせるアスナが口を開いた。

 

「何か、嫌な予感がするの。胸騒ぎがして・・・・・」

 

「お前しか感じないってことは、お前の中で想像したくもない最悪なことなのかもしれない」

 

分身体を一人作って先に走っていかせる他所で、左の手に金色の宝玉がある真紅の籠手から『Boost!』という音声が何度も発し、アスナとアイズ、アリサに触れて譲渡する。

 

「・・・・・力が?」

 

「漲ってくる・・・・・?」

 

「三人の【ステイタス】の能力値を倍加にした。アルガナ達ほどでなくても速く走れるだろ」

 

凄いと目を丸くする彼女達を背に絶壁から一人だけ飛び降りた。一拍遅れて正規ルートへ駆け出すアイズ達と別れて崖から凄まじい勢いで降下するフィリア達。

 

 

光が揺らめく水面からザパッと何かが飛びだす音が不自然に生じる。大瀑布の音に包まれながら水に濡れた体で滝壺と接する岸を目指す影。水中に沈んでいる脚に力を入れて水面を掻き分けて進み浅瀬に近づくと片手で水面から上半身を引き上げる。その勢いで腰も引き上げると影は―――水面に浮かぶ目を閉じた冒険者の体を一生懸命岸の上に引きずり上げた。しかも冒険者は一人だけでは無かった。ヒューマンの男性と女性が引き上げられて三人目だ。彼等彼女等は25階層から落ちてきた冒険者であると影は知らない。だが、目の前で沈んでいる冒険者を見て放っておけず、できる限りのことをしようと行動をした。その間、水棲のモンスターに襲われているところを何度も見てこの行動が意味を成さなくてもと思いながら必死に救助した。

 

その岸の傍には緑玉蒼色(エメラルドブルー)の水を直下させる大瀑布。この階層に降りる時、彼方から一望する雄大な水の流れは見惚れるほど美しく映るが、距離が五十Mにも満たないこの場所から仰ぐ滝は、とてつもない怪物に見える。何ものよりも、巨大で恐ろしいと。矮小な自分を見下ろす大自然の敵に震え上がってしまうだろう。

 

不意にその滝を見ていた影は、肩に触れられる感触を覚えて身体を跳ね上がらした。この場に助け出した冒険者以外誰もいないはずなのに、気配を悟らせず触れられる距離まで近づいてきた何ものかに恐る恐ると顔だけ後ろへ振り返れば・・・・・。

 

「モンスターが人を助けるなんてな。だが、お前のお陰でこいつらはまだ助けられる。ありがとうな」

 

全身を紅い鎧で身に包んだ冒険者から感謝の言葉を向けられた。その後すぐ、四方形の布の上に乗っている数人の冒険者達が降りて来て信じられないものを見て目を丸くしていた。影―――モンスターの身体は硬直して動けない、否。動かすことが出来ないでいた。

 

「他にこの辺りに冒険者はいるか?もしくは沈んでいるか?俺の言葉、人の言葉が解るか?解るなら頷いてくれ、解らないなら首を横に振ってくれ」

 

モンスターは他のモンスターに襲われている光景を脳裏に思いだし、首を横に振った。冒険者は少しだけ沈黙し岸に引き上げられた三人の冒険者を見つめ直ぐに目の前のモンスターに視線を戻す。

 

「助けてくれてありがとうな。このお礼は近い内にする。またここに来るからできれば顔を出してくれ」

 

静かに肩から離れる手を無意識に追ってしまい、布の上に冒険者が冒険者達の手によって乗せられると彼等彼女等も乗り出し、モンスターから離れて浮遊する。

 

 

先行した分身体は全速力でルートの隅々をくまなく行っては捜索し、途中エンカウントしたモンスターを擦れ違い様に斬り捨て25階層を走破、26階層の正規ルートをくまなく走り続けていた時だった。近づいてくる人の足を察知して立ち止まって程なくすると一人の冒険者と遭遇した。

 

「・・・・・お前」

 

濡羽色の長い髪に赤緋の瞳のエルフの少女、店を構える前はいつも食事をたかりに来ていた男神の眷族だと認識、マスクの部分を外して顔を晒すとエルフは目を丸くして足を止めた。身なりはボロボロだ。純白の戦闘衣(バトルクロス)に返り血か自身の血か深紅に染まって引き裂かれ、引き千切れてボロ雑巾を着ているかのようだった。

 

「ディオニュソスの眷族だったな。まさか、お前等のパーティが罠に嵌まっているのか?」

 

「なぜ、あなたが・・・・・」

 

「フィン・ディムナからお前等の救援を依頼されてきた。他のパーティももうすぐここに―――」

 

エルフは分身体の説明を最期まで聞かず腕を掴むと必死の叫びで懇願した。

 

「頼む!仲間を、皆を助けてくれ!闇派閥(イルヴィス)の罠に―――!」

 

「まだ、生きているか?」

 

「わからない、だが、今ならまだ・・・・・!」

 

「わかった、なら行くぞ」

 

話す時間も惜しいとエルフの少女を横抱きに抱え、全速力でダンジョンの中を掛け走った。彼女がどれだけ悲鳴を上げようがお構いなしにだ。

 

 

 

一誠等と一時別れ正規ルートから捜索するアイズ達は指示通りに『下層』域の中を駆けだしていた。が、上級冒険者と第一級冒険者の脚力の差がここで出てしまい、このままではとアスナは指摘した。

 

「アルガナさん達は先に行ってください!私達も直ぐに追いつきます!」

 

女戦士(アマゾネス)達は言葉も首肯もせず、あっという間に彼女達を取り残すほどの足の速さをみせて先行することで応じた。アルガナ達は腕輪を操作する。『下層』の地図(マップ)の立体映像を展開し、生命反応がある人間達がいる広域(エリア)へと向かう最中、彼女達の耳にも聞こえてくる絶叫。ベルネアが腕輪に向かって一誠と話しており状況を説明している。

 

「先に27階層に向かうそうだ」

 

「合流する場所はそこか」

 

あいつ一人でも絶対に対処できるだろう。と溜息を吐きたい思いが駆られたものの、惚れた弱みの女は男の為に動かねば女として廃れるかもしれない。そう思った時だった。洞窟中に訊き慣れた男の怒声と驚きが籠った叫びがきっとアスナ達まで聞こえるほど迷宮中に轟いた。ここまで張り叫ぶのは極めて珍しいとアルガナ達は不思議に思って走る速度を更に上げたのだった。

 

 

「(―――どうして、こうなった?)」

 

黒い剣の斬撃を大口開けて迫ってくるモンスターに当てて返り血を浴びながら自問自答する。第一陣として露払いも兼ねて先行した自分達が、何故この事態に陥ってしまったと?

 

「お前らぁっ!これ以上味方を殺させるんじゃねぇぞ!?」

 

「「「「「う、おおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」」」」」

 

仲間の怒号が味方を鼓舞させる。前衛盾役(ウォール)を務めるパーティが怒涛の勢いで突っ込んでくるモンスターの動きを受け止め、死地と化した場の中で命の炎を燃やす。円陣で組んだ盾の中から矢が放たれる。弓使い(アーチャー)の矢は特別製であり、放った真紅の矢がパーティに群れるモンスターの中に消えた直後。解き放たれた魔力が炎と化して周囲の怪物達を燃やしつくす。翼も無く宙に浮く少年少女達は一撃離脱(ヒットアンドウェー)を繰り返し数を減らす。既に氷漬けされたモンスターの数は片手では数え切れない程になっている。

 

「ちくしょう、倒しても倒してもキリがねぇよっ!?」

 

「まだなんとか耐え切れる数だ、持ち堪えろ!」

 

球状の髪をぎ取ってモンスターへ自棄になって投げる仲間の隣で電撃を放つ少年。全身を硬質化して噛み付かれようと殴られようと、踏まれようと殴ったり蹴ったり、突き刺したり切り裂いたり、時には全身に炎を燃やして放射状に放つ少年がいれば、四つの触手から放つ閃光で薙ぎ払う異形もいて、身体から出る影の異形を纏い盾を構える味方から遠ざける者もいる。

 

―――もはや、緊迫の状況下で悠長な考えはしてられないと、幻で姿を変えていた首飾りを外し本領発揮をみせている少年少女達のお陰で第二陣のパーティの三分の一だけは守れている。しかし、それはまだ序の口だった。27階層の全体が震えだした。その意味は何なのか既に体験した冒険者達は緊張感の面持ちで悟っていた。さらには―――。

 

闇派閥(イルヴィス)に栄光あれぇええええええええええっ!」

 

「ああっ、主神様ぁああああああああっ!」

 

「くたばれギルドの犬共ぉおおおおおおおおおっ!」

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』

 

大量のモンスターを背に誘導してきた闇派閥(イルヴィス)の使徒が現れたと同時に、陸に上がってきた階層主の白双頭竜が出会い頭にその巨体で突進して来て、密集して固まっている冒険者達を吹っ飛ばした。誰もがこの状況に危機感を覚えた最中、更なる追撃と口内からブレス攻撃を放つモーションを見せる階層主の背後―――真紅の小さな龍が現れた。

 

「何やってんだお前等ぁあああああああああああああああああああああああっ!」

 

魔法の絨毯で一気に正規から外れたルートで目的の階層へ向かう一行。その間、蘇生を試みて三人中一人だけ、男の冒険者だけが肺に溜まった水を吐き出しながら咳き込み、死の淵から意識を取り戻した。

 

「お、お前等は・・・・・?」

 

「【ロキ・ファミリア】のフィン・ディムナからお前達の救助の依頼を受けた冒険者だ」

 

「そう、なのか・・・・・俺達以外のパーティは・・・・・?」

 

他の冒険者は見ていない、と首を横に振る一誠に絶望と悔恨の色を顔に浮かべて俯いた冒険者。気持ちを察するが色々と訊きたい故に質問を口にする。

 

「どうしてあんな場所にいたんだ?」

 

「あんな場所?・・・・・そうだ俺達、変態仮面に魔法で吹っ飛ばされて・・・・・」

 

変態仮面?なんだそれは?とツッコミたいところだが謎の者に襲撃を受けた際に魔法で崖から落ちたのだろうと推測が出来た。男性冒険者は一誠達に頭を下げる。感謝の念を身体全体と言葉にして。

 

「助けてくれてありがとう。あのまま救助されなかったら今頃死んでいた」

 

「どういたしまして」

 

冒険者に更に問いを投げる。それで、規模はどのぐらいでダンジョンに向かったんだ?と。

 

「70人強だ。数が多いからパーティを二つにして、俺達は第二陣として露払いしてくれる先陣したパーティの後から闇派閥(イルヴィス)を探そうとしたんだ。だけどさっきも説明した通り変態仮面に襲撃を受けて」

 

「その変態仮面はなんなのか理解に苦しむけど、先陣したパーティはまだ無事として第二陣のパーティのお前達は全員死んでないと思うがどうだ?」

 

「多分、そうだと思う。俺以外何人も崖から落ちたのは最後に見たけど全員って程数が多くなかった」

 

「だとしたら見失った仲間を探しにまだこの階層にいるだろう。もしくは強制任務(ミッション)通りに事を進めているかもな」

 

男性冒険者から事情聴取をし、状況を把握していく一誠達。オラリオの冒険者となってまだ日が浅いフィリア達も真剣で大切な事だと耳を傾けて聞いていると声を掛けられた。

 

「今の話を聞いたな?要点だけ選んで復唱してくれ」

 

「はい、パーティの人数は七十人強です。二つのパーティに分けて先行したパーティの後を続く筈でしたが」

 

「仮面をつけた謎の男に襲撃され崖に落ちたパーティの人達は少なくなく」

 

「えっと、だけど私達はそのパーティを助ける為にここにきて」

 

「まだこの階層にいる他のパーティを助けに行くんだよね?」

 

その通りだと頷いて、四人の頭を優しく撫でると擽ったそうに顔を綻ばせる。緊迫の雰囲気はどこいったとばかりほのぼのとした空間を醸し出す五人に口出しできない男の冒険者。視界の端に映るパーティのメンバーは未だ目を開けないでいる姿に顔を曇らせるその表情を見ないフリをして、目的の階層へ絨毯を飛ばし続けて数分後。

 

『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオっ!!』

 

27階層に着くや否や階層主である『双頭の白竜(アンフィス・バエナ)』が出現し、『下層』中のモンスター達が先陣したパーティであると思しき冒険者達に―――モンスター達が牙を剥き、食らわんとしている相手を見て間抜けな声を漏らしてしまった。数多の怪物の波に呑み込まれつつある冒険者達の中には【アルテミス・ファミリア】の団員達の姿もあって、必死の抵抗をしていた。モンスターに向かって氷結や炎、爆発、打撃、閃光、影や雷、様々な異能を駆使して戦うも血塗れ、重症、焦燥、・・・・・。

 

「なにやってんだお前等はぁあああああああああああああああああああああっ!」

 

怒声を張り叫ぶ一誠は首に下げていた黒曜石のような竜の鱗を取り出して全力で投げた。27階層の地面に落ちた直後。モンスターどころか『アンフィス・バエナ』ですら身体を強張らせ、緊張した面持ちで竜の鱗を中心にザザッと十M以上も距離を取り後ずさった。その間、喰われていた冒険者を放り出されて一誠にとって『最悪なシナリオ』にならずによかったと心底安堵した。

 

「まったく先陣のパーティってどこの誰のことかと思えば・・・・・キリト達、お前らだったとはな。アスナの予感が的中したと言えるな」

 

「イッセー・・・・・」

 

「被害状況は?ああ、この鱗がある限りモンスター共は近づいて来られないから安心しろ。『階層主』にも効果ある」

 

掴み取る鱗をもう一度首にかけて黒髪黒眼の剣士に声を掛けた。邪魔するモンスターは今のところいないがシビレを切らして再び襲いかかるかもしれないと予想した矢先にアンフィス・バエナが27階層の主として臆してはならないと咆哮を上げて双頭の口から高圧力で放つ水のブレスの攻撃をする姿勢に入った時、26階層に繋ぐ連絡路から飛び掛かる一つの影が階層主に飛び掛かり、蹴り飛ばした。壁に激突した彼のモンスターに容赦なく手の平から作り出した風を放ってズバズバと輪切りに切り裂いて命を狩った。地に沈む双頭の白竜を目の当たりにするパーティは愕然とする。不意打ちとはいえ階層主を倒す実力者・・・・エルフの少女を抱える分身体の登場に言葉を失った。

 

「で―――被害状況は?なんでお前らまで参加しているのかも説明してくれるんだろうなぁ?」

 

怒っている、確実に怒っている。「何で自分から危険で面倒事に首突っ込んでいるんだああん?」的に。鎧で顔が見えないが絶対に笑っていない目で顔が笑っている・・・・・っ!

 

「そ、それは・・・・・教えるけどいまはモンスター達を・・・・・っ」

 

無言でそのモンスター達に指す一誠に釣られてキリト達は目を追って・・・・・一方的にモンスターを蹂躙するアルガナ達の姿にまた言葉を失った。

 

「三度目だ、説明、してくれるんだろうな?」

 

『・・・・・はい』

 

 

地上に伝わる迷宮内の状況報告。闇派閥(イルヴィス)の本拠地の強襲を仕掛けている【勇者(ブレイバー)】は傍らにいるドワーフとハイエルフにも伝える。

 

「ガレス、リヴェリア。杞憂はどうやら去ったようだ」

 

「被害は?」

 

「全滅こそは免れたが、それでも六割、七割強ってところかな」

 

「それでも救えた命はあった、か。お前の行動で何とかなったわけだなフィン」

 

「僕よりも彼がそうしてくれた。彼という大きな頼もしい存在があったからこそ最悪なシナリオにならなかったんだ」

 

「では、我等も本腰を入れるとしようか」

 

「おう、あやつに負けておられんわ」

 

被害と状況の報告を終えた一誠。有力パーティを取り囲んでいたモンスターの掃討もあらかた屠り冒険者の遺体を並べて集める作業に入っている。

 

「【アルテミス・ファミリア】を残してほぼ全滅ってどういうことなんだ。いくらなんでも不自然なぐらい酷い状況だぞ」

 

「ええ、あなたの言うとおりよ。ほぼ無傷の第二陣のパーティが駆けつけてくれたのにあっさりモンスターの数の暴力に呑み込まれて更に状況が悪化したの」

 

「そんなにあっさりだったか?まさか駆け出しの冒険者だけのパーティでこの階層まで来たんじゃあるまいし」

 

「わからないわ。わからないけれど、本当に助けに行くにも私達も手がいっぱいいっぱいで・・・・・見殺しする形で見ているしかできなかったわ」

 

それは自分の仲間もそうだったと説明するシノンはクラインへ流し目で見つめた。同じ世界から来た仲間がモンスターに喰われ、目も当てられない凄惨な姿に成り果てている遺体に涙を流している。ヒーロー組の異邦人もそうだ。階層主のタックルで当たりどころが悪かったり、吹っ飛ばされて口を開けて待っていたモンスターの中に飛び込んでしまった結果として何も言わぬ肉塊と化していた。程なくして合流したアスナ達と鮮血が染み込んだ赤黒い灰の海から数え切れない数の死体を集め、揃えられて内心辟易する一誠に怪訝な眼差しを送るシノン。

 

「・・・・・何をするつもりなの、遺体を集めて」

 

「意味のある事だ」

 

その前に内にいる頼もしい家族を見えない場所で召喚をし、一誠は行動に移した。鎧を解いて【天使(テ・シーオ)】と化するその姿に息を呑む。魔法―――いや、ここまで神秘的な姿になる摩訶不思議な力を行使する一誠を始めてみる面々は凍ったように目を凍結させ成り行きを見守る。

 

「コレをしたら俺は動けなくなる。帰りは頼んだぞ」

 

「何を言ってるの、あなた・・・・・?」

 

返されない言葉。返すのは行動。虚空から出現する金色の錫杖を手にして六枚の翼と輪後光を輝かせる。巧みに振り回して地面に突き刺した神々しく光を放つ杖と呼応して、十二枚の翼も光り―――数多の遺体と共に一誠から放たれる、地面に広がる金色の魔法円魔法円(マジックサークル)と異世界の『奇跡』の魔法の輝き。金色の魔力光は巨大で一条の光柱となって『水の都』を照らし天へと昇る。

 

 

「・・・・・」

 

四炬の松明の灯によって忘れ去られた石の神座に腰を下ろす老神の蒼い瞳が静かに閉じ悟った風に漏らした。

 

「また、奇跡を起こすか」

 

 

27階層を照らす光柱はやがて消失した。その中心に立っていた男は、最後の魔力を振り絞って杖を展開した金色の魔法円(マジックサークル)に置くと、杖が一瞬の閃光と共に豊かな金髪で美しい女性に変貌した。それを見届け、全て終えたとばかり―――翼が霧散し、輪っかが虚空に消えて髪と目の色は戻って・・・・・地面に倒れる一誠の体を寸前で傍にいたシノンが慌てて腕で受け止めた。そして驚く。仲間の遺体が元に戻っていて時間が経つと目を開けて一人、また一人と眠気が覚めてない眼で身体を起こす。そしてそんな様子を見て仲間達が胸の奥から湧き上がる感情を抑えきれず行動に出た。

 

「お、お前らぁあああああああああっ!」

 

「うわあああああああんっ!」

 

「よかった、本当によかったよ・・・・・!」

 

「奇跡だ、俺は・・・・・いま、奇跡を見てしまった・・・・・!」

 

仲間の復活に涙を流し、感動して力強く抱きしめる。その様子を見ていたアイズ達はシノンに地面の上を根転がされた一誠の傍により、安否を確かめる。

 

「イッセー、大丈夫・・・・・?」

 

「おー、去年と同じだ。また一週間ぐらい、寝込みの状態だ」

 

「ん、安心して。絶対に守るから」

 

「あはは、小さな姫様に守られるのも案外悪くないか」

 

よいしょっと小さな女の子達に魔法の絨毯の上に載せられる一誠。それから彼女達はひと塊となって腕輪の機能を使い、この場から一気に地上へ転移しようとする際に声を掛けらた。

 

「イッセー、ありがとう」

 

「あの連中と約束した手前だ。俺は約束を守ったに過ぎない」

 

発現した魔法円(マジックサークル)の光に包まれ、光と化して目の前で消える一行を見送るシノン達。多大な恩を受けた彼等彼女等は、今だけは感動の喜びを分かち合い涙を流す―――。

 

 

27階層の事件後、ベッドの上で見事に指一つも動かせない状態の一誠は物静かに二日も過ごした。死んだ冒険者を一度だけ大勢復活させた代償は魔力と体力、精神力など全て消費し、まな板の上の鯛となっている。その間、アイズ達は甲斐甲斐しく一誠の世話をして看病をする。暇や時間が空いた時は一人は必ず傍にいたり時には添い寝をして共に時間を過ごす。騒々しく二日もガネーシャが見舞いに来るのが少々五月蠅いが。三日目を迎えた朝、未だに快調していない一誠に来客が訪れた。【ディオニュソス・ファミリア】の主神と濡羽色の髪に赤緋の瞳のエルフの少女だ。

 

「やぁ、息災・・・というわけでもなさそうだね」

 

「死者を甦らせた反動だ。あともう数日はこの調子だ」

 

「ああ、きっとそうなのだろう。何も代償も無しに子供を甦らすほどこの世界は甘くない」

 

それでも凄く驚いているんだろう。教えて欲しいと言われても教える気はない。余計なことを言って面倒事を起こしたくもないと思っていた一誠に、デュオニュソスは顔を真面目な表情のまま金髪を揺らしながら頭を垂らしだす。

 

「私の大切な子供達を救い、甦らせてくれたことに深く感謝している。君は【デュオニュソス・ファミリア】の恩人だ。この恩は絶対に忘れない。忘れてはならない現実だ」

 

エルフの少女も頭を下げて、深い感謝の念を送ってくる。二人の感謝を受け入れ現況を訊く。

 

「一つ聞きたい。死者が復活したことであいつらの主神はどう受け止めている?」

 

「現実を受け入れている。実際、甦らず死んでしまった子供も少なくない。君に感謝をしたいと店に訪れる冒険者もいるみたいだが、私からも何か礼をしたい。私が出来ることなら何でもしたいが・・・・・」

 

礼、ね。と己が望むことは頭に浮かばず保留してくれと頼むとディオニュソスは快く了承した。男神とエルフの少女が去って一時間後、「ガネーシャが見舞いに来たぞぉっ!」と大声が聞こえた時には眉間に皺を寄せる一誠だった。

 

†―――†―――†

 

回復に専念する一誠の知らないところ、臨時の『神会(デナトゥス)』が開催された。場所は『異世界食堂』の二階だ。店長の不在の中でも店は切り盛りしており、ミア達だけでも経営できるぐらい異世界の料理を作れるようになっているため、店主は安心して任せられるようになっている中。神々達は深刻な面持ちを顔に浮かべていた。27階層で起きた『27階層の悪夢と奇跡』と後に冒険者や神々達の間で記憶に残る事件であるがそれよりも重視するべき事案が発表された。テーブルに肘をついて両の指を口の前で合わせてロキは静かに口を開いた。

 

「集団規模で【ステイタス】の初期化が確認された、ちゅーわけか」

 

三日前の27階層で起きた事件の後。神々は甦った冒険者の状態を確認するべく【ステイタス】を調べたところ、殆どの冒険者の【ステイタス】がLv.1にアビリティがI0と初期化されていた。スキルも魔法も消えて無くなっていた事に驚きを隠せず、有力パーティとして集った眷族達の主神達はこの異常な現象を重く受け止め、情報の提供と共有を目的に最大派閥から中堅の派閥の主神に声を掛けて集わせた。

 

「ほらみろ!お前達だって俺の子供のように【ステイタス】のバグが起きたじゃないか!」

 

「やはりこれは何ものかによる人為的な現象としか・・・・・」

 

「人為的な現象って本気で言ってるのかよ?」

 

「読み書きはともかく私達の『恩恵(ファルナ)』は神々(わたしたち)にしか扱えないものだ。子供達が直接『恩恵(ファルナ)』をどうこうできるとは思えない」

 

「じゃあ、今回27階層に行った私の子供達の【ステイタス】の初期化の異常現象をどう説明がつくのかお前は言えるのか!?お前も同じ目に遭ってまだそんなこと言えるのか!」

 

喧騒する『神会(デナトゥス)』。情報の共有はできてもまだ信じられない神々と被害に遭った神々が二つに分かれる最中、冷静沈着で静観の姿勢の神々は極一部。

 

「(確かに神連中(こいつら)の言うとおり、普通の子供がうちらの『恩恵』を直接どうこうできるとは思え変。それこそ未確認のスキルや魔法が原因やったら話は別やけど)」

 

「(普通じゃない子供・・・・・私とロキ、フレイヤは一人だけ知っている)」

 

「(でも、あの子じゃないわ。だとすればもう一つの可能性は・・・・・)」

 

三柱の女神が示し合せたように視線を交わし以心伝心の如く同じ考えを頭に浮かべた。

 

「「「(新たな転生者がこのオラリオにいる)」」」

 

それから直ぐ、褐色肌の美の女神に視線が集まったことで当の女神は肩を震わせる。疑惑を掛けられていると察したのか、若干顔を青褪めて首を横に振る。この場にいない極東の三柱の神を除いて唯一、転生者という爆弾を抱えている神はイシュタルぐらいしか判明していない。だが、名声と地位、富が失う事件を起こしてからすっかり大人しくしている女神がまた騒動を起こすだろうか?本神も私では無い!と必死に否定している辺りは、まぁ、そうなのだろうと白として判断する。

 

「(取り敢えず、話しを進ませんと埒があかん)」

 

ロキは賭けに出た。ある意味これから告げる内容は一誠にも疑惑されかねないのだが、これ以上の騒ぎは無意味だと口を開いた。

 

「よし一回黙れ」

 

手を叩いて場を沈ませる朱色の髪の女神に呼応してピタリと神々は喧騒を収めた。逆らえば最大派閥に潰される恐ろしいさが待っている故に。

 

「今年になって【ステイタス】の初期化の異常現象。古代から星の数の程の子供達に与えたうちらの『恩恵』を直接どうこうできる理由は未だに判明できへんが、仮面をつけた謎の男が原因であることぐらいは皆も察しておるやろ。実際その仮面の子供を見た子供は嘘を言っておらん子供がおるし、手掛かりはそれしかない。後で人相書きしてもらってギルドにブラックリストに載せてもらう方針でええな?」

 

「「「「「異議なし」」」」」

 

「それともう一つ」

 

イッセー、悪いなと思いつつもロキは告げた。

 

「ここ数年、オラリオだけじゃなくこの世界に奇妙な子供がいることがわかってきたんや。そいつらはな?生死問わずチートな能力を持ってこの世界とは違う世界から子供が来るんや。死んだ子供は違う世界の神によって甦った転生者って名乗るやつで、生きたまま異世界に来た子供は異邦人と言うんや。既に独自で調べたら転生者と異邦人は合わせて五十人以上も居ることが判明した」

 

どよめく神々。異世界の神々によってチートな能力を得てから甦り、異世界から生きたまま異世界に来てしまう子供がこの世界にいるという事実に―――『未知』に興奮する神は少なくなかった。

 

「もしも今回の一件、そいつらの仕業なら個神的に辻褄が合うと思っておる。なんせ、転生者を名乗る子供は異世界の神に頼めば何でも望む能力を得られる話しや。それこそ不死身や不老不死、最強の攻撃や無限の魔力っちゅうチートや。そんな能力(チート)を得た子供は好き放題やりたい放題、何でもし放題や。最悪、うちら神々の敵になりかへんや。―――去年みたいになぁ?」

 

誰かとは言わないが、顔を強張らせる女神の一柱に鼻で笑い、神々に続けて警告する。

 

「異邦人は温厚的な子供が特徴や。あまり目立たず静かに暮らし元の世界に帰る目的でおる。せやから異邦人を見つけたとしてもちょっかい出すのは止めたほうがええで、藪を突いたら出てくるのは蛇じゃなくてドラゴンかもしれへんからな」

 

「はいはい!その異邦人は今もこのオラリオにいる!?」

 

「おるでー。少なくとも教える気はあらへんけどな」

 

教えたらイッセーに何を言われるか分かったもんじゃあらへんと内心、ドキドキするロキだった。

 

「この一件、異世界から来た転生者もしくは異邦人の仕業なら気ィつけるんやな。連中は第一級冒険者を凌ぐ能力や実力を持っていてもおかしくあらへんから」

 

臨時の神会(デナトゥ)は幕を下ろし数人の神々を残して解散した。下から聞こえる客達の声を耳にしながらロキに怪訝な眼差しを送るヘファイストスは責める様な口調で尋ねた。

 

「ロキ、一体どういうつもりなの?あの子の立場を危うくさせる事を言うなんて」

 

「考えなしで言わへんでファイたんうちは。神連中に認識させることが必要やったんや」

 

「する必要あるのかしら?」

 

「いざって時にうちらが庇う時があるかもしれへんや。既にうちらが目を点けていたと分かればおいそれと手出しも口出しもできひんやろ?」

 

「お前の考えは理解した。だが、最初に目を着けられるのはイッセーなのだが?」

 

自分から正体を明かしているこの『異世界食堂』の店主のことを指して言っているガネーシャに押し黙ってしまうロキ。無言の視線も向けられ居た堪れなくなった女神はもっともらしいことを言って話を進める。

 

「【ステイタス】の初期化の異常はフィン達にも及ぶかもしれへん。イッセーにも今回のことを教えて助言をしてもらうんやけど」

 

「・・・・・もう他人事ではいられない、そう言いたいのね」

 

「もしも私の子供達にも初期化されちゃったら流石に困るし、いいんじゃないかしら?」

 

「では、このガネーシャも訊いた後に直ぐに仮面の子供を探そう!」

 

「―――その役目、オレにも任せてもらえないかなぁ?」

 

密会中の神々の会話に静かに入り込んできた神が一柱現れた。羽付きの鍔広帽しを橙黄色の髪の上から被り軽装の旅人服を身に包む優男神、ヘルメスが扉の奥から姿を見せた。それにはロキが隠しもせず舌打ちする。

 

「自分、いい趣味しとるんやないか。盗み聞きするとはなぁ」

 

「あはは、あんな興味深い話しをされちゃーね?無論、オレだけじゃないよ?」

 

意味深に言うヘルメスの背後から、ディオニュソスやデメテルも二階の空間にやってきて顔に手を当ててしまうロキ。

 

「デメテルはともかく、ディオニュソス。自分もかいな」

 

「すまない。だが、突然ロキが異世界から来た子供の話をするのだから何かあると踏んだのだ。私の子供も【ステイタス】の初期化の異常現象に遭ったからね」

 

「・・・・・ロキ、やっぱり失敗したんじゃないかしら?」

 

呆れる左の紅眼の視線にたじろぐロキの前にディオニュソスが立つ。

 

「ロキ、そしてヘファイストス達も何か共有の秘密を抱えているのだな?特にあの子、イッセーのことについて。ただの子供が子供を甦らすことはまず不可能だ。だとすればロキが言った通りの転生者、もしくは異邦人と言う存在に当て嵌まるのだがどうだ?」

 

「ぐっ・・・・・」

 

「―――もしや、今回の一連の騒動はあの子ではないのだろうね?」

 

「「「それは違う」」」

 

問い詰められるロキに突き付けられた問いは、フレイヤ、デメテル、ガネーシャが間も置かず否定した。

 

「それは違うわディオニュソス。だってイッセーちゃんは優しい子だもの」

 

「ただの子供では無いことは認めるわ。でも、もしもあの子が今回の原因だったらわざわざ死んだ子を甦らすと思うのかしら?」

 

「そしてオラリオに貢献している!何の理由も無しに他の冒険者に危害を加えるなどイッセーは一度もしたことがないぞ!」

 

「オレもフレイヤ様達を支持するよディオニュソス。彼は実に面白い子だからね。しかも異世界から来たという子供なら尚更だ。『未知』で溢れている子は俺達娯楽と快楽に飢えた神々にとって宝箱だからさ」

 

一誠を庇うフレイヤ達の神意を真っ直ぐ向けられる男神はしばしの沈黙を肩を竦めることで破った。

 

「わかっている。ただ鎌をかけただけだ。念には念を持って確かめさせてもらった。私の子供を甦らせてくれたのだからね」

 

「もう、ディオニュソス・・・・・酷い(ひと)ね」

 

「だけど、これだけは聞かせて欲しい。あの子は転生者か?それとも異邦人?」

 

ロキが明かした、「異邦人や」と。一誠の秘密を知らなかったデメテルとヘルメスは特に反応を見せず自然体で受け入れた。ディオニュソスも驚いた様子もせず好奇心の光を瞳に孕ませて訊く。

 

「そうか。異邦人ならば死者蘇生の能力を持っていてもおかしくないかな?できればもう少し彼のことを詳しく教えて欲しいものだけどね」

 

「これ以上は無理や。イッセーが異邦人やってこともギリギリバラしてもええ範囲なんやで。ほんま、これ以上バラしたら・・・・・」

 

バラしたら?と小首を傾げるヘルメスの気持ちはデメテルとディオニュソスの気持ちでもあった。緊張で顔を強張らせるロキは言い辛そうに呟いた。

 

「イッセーから信頼と信用を失って、城から追い出された揚句、アイズたんとアリサたんに嫌われる毎日を過ごす羽目になるかもしれへんのや」

 

「・・・・・確かに、私も嫌だわそれだけは」

 

「そうね、私もそれだけは避けたいわ」

 

「ガネーシャもだ」

 

他派閥の子供から嫌われようと派閥全体からすればそれほど痛くも痒くもない事だが、一誠の秘密を知った上で信頼と信用を掴み取った神々からすれば手放したくない人材だ。異世界から来た存在だと加味しても、ここまで神々を楽しませてくれる子供はそうはいないと断言しても良い。

 

「例え、【ファミリア】が解散せざるを得ないことになってもイッセーを裏切りたくない心情なんや」

 

「脅されているのかい?」

 

「逆よ?私達はあの子のことを好きだから裏切りたくないの」

 

「うむ!俺も大好きだぞ!この肉体で抱擁してやりたいぐらいに!」

 

「それだけはやめなさいガネーシャ。敬遠されるわよ」

 

「うふふ、イッセーちゃんは可愛い姿で抱きしめるとこっちが嬉しくなっちゃうの」

 

「ほうほう、そのぐらいの話だったら大丈夫なら聞かせて欲しいな?勿論この店の料理を食べながらだ」

 

ヘルメスの提案にロキ達は自分達の判断で一誠のことを教え始める。特に人間ではなくモンスターであることを頑なに喋らずそれ以外のことを。

 

「・・・・・で、ロキ?俺が異世界から来たってことを独断で話したんだな?俺がそんな存在だと匂わせる話も神々にしたんだな」

 

「え、えーと、なぁ~?」

 

「話した、んだな?」

 

寝室でベッドの中にいる城の主を守らんとする人型のドラゴン、現世に召喚されたアジ・ダハーカに囲まれながら問いだたされるロキ。憐れな女神に差し伸べる救いの手は皆無であり、彼等から発する威圧と鋭い眼差しにすっかり怯えて・・・・・極東風の謝罪をして場を乗り切ろうとする。そんな中朗らかに顔を上げろと言われ、恐る恐る上げると。

 

「ロキ」

 

「な、なんや・・・・・?」

 

「一週間アイズ達から嫌いと言われるのと一週間酒を飲まずにいるの、どっちがいいかな?」

 

優しげな顔で死刑宣告を受けた。一誠の部屋から情けない悲鳴が聞こえるが、部屋の外で待っているアイズ達には「自業自得」として片付けられた。その後、結局は三日間だけアイズ達から冷たい眼差しで朝昼晩「嫌い」と言われ飲酒も禁じられる羽目となり、四日目を迎えた朝、「燃えたで、うち、燃え尽きたで・・・・・」と真っ白に燃え尽きた主神を見掛けたハイエルフの女性は溜息を吐いた。

 

そんなロキと時を同じくしてギルドは謎の仮面の者を要注意人物一覧(ブラックリスト)に載せ、事の重大さと今後も冒険者に対する被害の増加を考慮して・・・・・一億という莫大な賞金が課せられた。迷宮都市オラリオにとって冒険者は必要不可欠な存在だ。無限の資源と怪物の宝(ドロップアイテム)の収入が著しく減るという最悪な事態だけは避けたい。そして・・・・・。

 

「【ステイタス】の初期化の異常現象。もしも【ステイタス】そのものを奪い糧とする能力だったら、今まで冒険者達から奪ってきた糧を大雑把に計算すると・・・・・第一級の実力にまで強くなっているはずだ。そうなれば相手は最終的に同じ第一級冒険者、フィン達を狙うだろう」

 

とある男の助言を参考にロキ達はギルドにそう申告した結果、第二級冒険者の外出を控える強制任務(ミッション)が発令された。だが、その日の内に第二級以上の冒険者がいる【ファミリア】のホームが襲撃された。相手はやはり仮面の男であると襲われた冒険者と主神にギルドのは危険視せざるを得なかった。単独でホームに強襲して第二級や他の冒険者達の【ステイタス】を初期化、奪うのでは謹慎の意味が無い。ではどうする?と頭を抱えるギルドを露知らず【ロキ・ファミリア】と【フレイヤ・ファミリア】、【ガネーシャ・ファミリア】の他、他派閥の第二級以上の冒険者達は緊急招集で『幽玄の白天城』の敷地に集められていた。『異世界食堂』の一部の従業員もである。

 

「あははー・・・・・今度は避難施設か俺の家は?」

 

「すまん、ここしか完全に安全な場所はないんや」

 

「見えないホームまで襲撃されないとは思うけれど、念には念をね」

 

「仮にここにいると見破られるとしても、流石に第二級以上の子供達がここまで集まると仮面の者も襲うことを躊躇するんじゃないかしら」

 

避難場所として最大派閥の主神によって優先的に保護する眷族だけを集め、一誠の城の中に招いた。ギルドにとっても最後の防波堤ともなりうる戦力の減少は避けたいはずだ、とロキ達は手に取るように分かっていた。そして二日後、一誠の復活と伴い相手が転生者、異邦人であると分かる魔道具(マジックアイテム)をアスフィと共に連日連夜製作に自由で有意義な空間(フリーダム・バカンスルーム)の中で精を出す。

 

「・・・・・貴方が考えた作品はどれもこれも私の常識を軽く超越する物ばかりですね。今回のは一度は考えはしますが作る気はないものでしたが」

 

「事態が事態だ。これ以上無害だろうと実質被害に遭っている冒険者を増やしちゃ駄目だからな」

 

「オラリオは下級冒険者か上級冒険者だけしかいない恐れがあるということですね」

 

「俺ら上級冒険者はまだ安心できるけど、今後のこと考えるとな」

 

水晶の円盤にカリカリと微細に削りを入れてアスフィが製作したフレームの型に確り嵌めるとそれは眼鏡の魔道具(マジックアイテム)となった。試作品として作ってこれで何個目かと思うほど数多に作って数えるのも億劫な二人。『神秘』のレアスキルとアビリティを保有する二人がその眼鏡を見つめ、アスフィが眼鏡を変えて掛け直し一誠に目線を向ける。

 

「どうだ?」

 

「・・・・・相手の【ステイタス】を盗み見をするようで抵抗がありますが、完璧ですイッセー」

 

内心色々と一誠のスキルと魔法をツッコミたい衝動に駆られる彼女から朗報の言葉を貰い、一誠も作製した眼鏡を掛けてみるとアスフィの【ステイタス】が眼鏡越しで立体映像と化して表示した。これには一誠も満足げに頷いた。

 

「よし、これで十分だな。次は追跡が可能な道具を作ろう」

 

「まだ、他にも作るのですか?」

 

「寧ろそれが本命だ。この眼鏡は探知として扱う。もしも仮面の男がこの眼鏡の機能を知ってしまえば完全に姿を暗ます可能性があるからな。これを装着した冒険者全員にも連動して居場所が分かるようにする必要があるんだ」

 

眼鏡だけじゃなく仮面やバイザー型も作らなきゃな、と吐露する一誠の思考を感嘆するがまだまだ苦労の連続は続くのですねと静かに息を吐いた。

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