ダンジョンで様々な出会いをするのは間違っているだろうか   作:ダーク・シリウス

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冒険譚29

極東で暗躍した転生者、欲望の赴くままに動いていた転生者、架空キャラクターを望んだ転生者、冒険者達から【ステイタス】を奪い続けた転生者。その他、別の転生者や憑依者の活動情報が転生を司るミカルに届き溜息を吐かせた。

 

「こうも高くない確率で出会ってしまうものですか?いえ、転生する先を提供しているのは我々ですが殆どがあの者に・・・・・」

 

報告書を片手に食事を勧める。今日は焼き魚に味噌汁、たくあん、白飯、程良く焼かれたベーコンやウインナーにスクランブルエッグとフルーツヨーグルト。食べることを必要しない彼女は異世界の料理の味を占めて楽しみの一つとなった今日まで欠かさず完食してきた。一番美味しいと思ったのはフルーツヨーグルトである。食べ終えた食器を送り返す際に紙に書いて強請った時は何時だったか、毎日強請った料理が用意され幸せを噛み締める。甘みと酸味の相性が抜群で・・・・・。気が付くと中身が空っぽになって少々残念そうに漏らした。

 

「あ、もうなくなってしまいました。次は、昼食の時ですか・・・・・少し待ち遠しいです」

 

食べ終えた食器を神棚に置いて「ごちそうさまでした」と合掌と同時に送り返した。ミカルの一日はこれで始まるのである。

 

「さて、今日も何百何千と転生を待つ人間の処理を頑張りましょう」

 

送り返された食器を手に神棚から離れ、洗い出す男。彼もまたこれが締め括りだとばかり一日が始まる。肌寒くなってきた季節の移り変わりを肌で感じ取りながら・・・・・あいつを呼びだして、模擬戦の相手にでもなってもらおうかなー?極東の転生者に背筋が凍るような寒気を覚えさせた。

 

 

「て、手加減・・・・・してくれよ?」

 

「それじゃ意味が無いだろ?」

 

―――強制的に呼び出された極東の転生者、名は大和大輔。指の関節を鳴らして不敵の笑みを浮かべる一誠にすっかり逃げ腰になっている。ギャラリーは何時も通りのメンバーに加え、極東の三柱もいた。カウントダウンも始まっており、三分間の模擬戦が始まろうとしていた。

 

「そう言えばお前、【ランクアップ】したのか?」

 

「え?ああ、いや。全然する気配なんてないぞ」

 

「成程、それでもこのオラリオで冒険者として真面目に生きているのはお前ぐらいか」

 

「他の転生者の事なんて知らないが、犯罪者紛いな事をしているのか」

 

「お前もその枠に入るからな?」

 

事実である為に否定できず押し黙った時、カウントダウンが0となり一誠が不敵な物言いを口にした。

 

「久々にお前と戦えるんだ。直ぐに負けてくれるなよ?」

 

全身から突起物、ミサイルのような物を生やす。それを見て、大輔は目と一緒に口元を引き攣らせた。

 

「・・・・・お前、本当に人間じゃねーな・・・・・っ!」

 

「褒め言葉として受け取る。代わりにこれをくらえ」

 

突起物が放たれ、追尾性を見せる動きで飛翔する。しかも放った傍から装填される銃弾のようにまた生えて撃ち出される。瞠目するも飛んでくるミサイルもどきに殴って暴発させる。「あ、意外といけるんだな」と自信がついたらマシンガンのように気の弾をお返しとばかりはなってミサイルを撃ち落とし始めた。

 

「直ぐに対応するか。んじゃあ、これは?」

 

突起物を消した代わりに自身の影を広げた一誠。その影から数多の黒い異形が産まれ出て来て、あっという間にトレーニングルームの半分がモンスターと見紛う異形で覆い尽くした。ギャラリーからも驚きと動揺の気配を醸し出し、大輔も信じられないと呟いた。

 

「な、なんだその化け物ども・・・・・」

 

「『魔獣創造(アナイアレイション・メイカー)』っていう能力で産み出した魔獣、まあ・・・この世界で例えるならモンスターか」

 

「じ、人工的にモンスターを作れるのか!?」

 

「おう、階層主級からそれを超えるモンスターもだ」

 

その証明と一誠の背後から全長五十Mは優にある巨大な人型から昆虫、鳥類、爬虫類や魚類の魔獣を創造し大輔を愕然させた。

 

「ということで、頑張れ。頑張ったらカルビ丼を作ってやるよ」

 

「ちょ―――これ無理ぃっ!?」

 

心の底から悲鳴を上げる。闘気を纏って宙に浮いて逃げようとすれば風の鎌や黒い水鉄砲、超音波に火炎球で追撃され、トドメは巨人の目から放つビームで直撃する大輔が落ちると小型の魔獣達に寄って集れて数の暴力に「うぎゃああああ!」と屈する姿を見てギャラリーは。

 

「あかん、絶対にあかん・・・・・イッセーを怒らせたらオラリオどころか世界が壊滅するわっ」

 

「あ、あんなこともできるのね・・・・・あの子の世界ってどれだけ凄いのよ・・・・・」

 

「私達、運が良かったのよね・・・・・?」

 

フレイヤ以外、完璧にドン引きしていた。逆に眷族達は腕試ししてみたいという気持ちを抱いていた。我慢できずにアイズとアリサが飛び出し、異形の魔獣達を屠ることで倒す対象に加われて襲われる。それを嬉しそうに斬り伏せていき、やがて悪ノリとしてフィン達も参加して共に戦い始めた。倒した傍から霧のように霧散する魔獣達は三分の一も消失することで一誠を煽るガレス。

 

「ほれイッセー、どんどんモンスターを作れ!もういなくなってしまうぞぃ!」

 

「やってくれるな。じゃあ、こいつだ」

 

筋骨隆々の人型魔獣を創造しガレスに仕掛けさせた。待ち構える老兵のドワーフは硬く握り締めた拳を殴りかかる魔獣の拳と突き合わせ、自分と同等の力を持つことが分かると口の橋を吊り上げてニィッと笑った。

フィンとオッタルにも五体の巨大な魔獣と戦わされ、言葉通りの階層主を上回る強さを感じ取り、割と全力で戦っているのが分かる。そんな中、魚類型の魔獣はアルガナ達に倒され次の獲物に向かって飛びかかっていた姿に負けてはいられないと果敢に挑んだ。そんな様子を見て楽しくなってきた一誠も魔獣を産み続け、彼等彼女等が満足するまで戦わせ続けた。その結果、当然か必然なのかフィリアを筆頭にまだ駆け出しのレギンやレイネル、ラトラが【ランクアップ】をし魔獣を相手でも経験値(エクセリア)が溜まるものだと分かったアイズとアリサはダンジョンよりも一誠が創造する魔獣の方が簡易に挑めれて強くなれると強請るようになった。

 

全ての魔獣を倒しきりトレーニングルームを後にやり遂げた、という満足感を顔に出す少女達にどっしりとした昼食とデザートを振る舞った後、デメテルの来訪を受けた。リビングキッチンで出迎え挨拶を交わす。

 

「こんにちはイッセーちゃん」

 

「こんにちは。今日はどうした?頼んでいる食材の調達の日はまだ先だと思うけど」

 

「イッセーちゃんが異邦人だって知ってからもっと知りたくなっちゃったの。だから私と色んな話をしましょ?」

 

持参したバスケットの中から大量のアップルパイの香り、それを嗅がせるデメテルに拒絶する理由は無い。あっという間にショタ狐化になって、女神の膝の上で好物の物を食べながら異世界のことについて話を交えた。自分が住んでいた世界にはデメテル達と同じ名を持つ神々が存在していると教えられた時は驚嘆の息を漏らし、ロキ達同様に同じ名を持つ神の事を知りたがる反応を示した。

 

「バーチェお姉さま、稽古付けてください!」

 

「今日もお願いします!」

 

「・・・・・離れてくれ」

 

扉の向こうから二つの活発的な声と困った様な声音を漏らす声が聞こえてきた。姿が見えずとも二人のアマゾネスの少女に懐かれたアマゾネスが対応に困っていることが手に取るように分かる。遠のく声はここから離れてどこかに行ったのだろう。

 

「ふふ、イッセーちゃんに救われたあの子達も元気そうね」

 

「デメテルの所にいる元奴隷達は?」

 

「元気にしているわ。まだどこか距離感を掴めていない子もいるけれど、皆と一緒に野菜を育てているから慣れてくれると思うの」

 

「そうか、そのまま幸せになってくれれば万々歳だな」

 

「ええ、そうね」

 

ムギュッと抱きしめられて豊饒の女神の名に相応しい豊かな体に包まれるように埋もれ、頭の上から重量感がある柔らかい二つの物の存在感をこれでもかと狐耳が潰れて感じる一誠だった。

 

「ところでイッセーちゃん。あなたの世界でどんな風に農業しているのか分かるかしら?」

 

「栽培や野菜の育て方はこの世界と変わらないぞ?ただ、育てる為に必要な肥料がたくさんある」

 

「肥料って自然の土や動物性の肥料だけじゃないの?」

 

意外そうに小首を傾げる豊穣の女神に肯定と言い返す。

 

「肥料の種類ごとに野菜を分けて育てるんだ。土に遭わない植物は育たず、実っても熟成せず枯れることもあるだろ?だから俺の世界の古代の人達は、どうやったらより品質の高い動植物が育てられる土になるのか、その研究を何百年もしてその研究を現代まで引き継がれた結果、農場には欠かせない肥料が完成したんだ」

 

「土を研究する・・・・・イッセーちゃんの世界の子供はとても勉強熱心なのね。私達じゃ考えつかない事をしているなんて、異世界の子供と会話をしない限り知ることが無かったわ」

 

「ダンジョンの中で植物が育つ理由も気になるけどな」

 

因みに、敷地内に育ててるダンジョン原産の植物や採取用の原料(アイテム)はダンジョンの土で育てている。通常の土でも育つことが判明しているが、どうせならばと敢えて迷宮の土で育てている。

 

「その異世界で研究した肥料や土はイッセーちゃんでもこの世界で作れる?」

 

「やー、ちょっと難しいかな。買えるけど」

 

「買える・・・・・?」

 

キョトンと鸚鵡返しをしたデメテルの抱擁から離れて、トテテテとリビングキッチンを後にどこかへ行った一誠を見送ること数分後。ガラガラと荷台に大量のヴァリスを積んで運んで戻ってきた、元の身長に戻した男がそのお金で何をするのだろうか?と興味深そうに見つめたら。「ネットスーパー」と言う魔法の呪文のような言葉を口にし、立体的な映像が一誠の前で浮かびあがった。

 

「あら、魔法?」

 

「いんや、ロキから聞いただろ?転生者が異世界の神から最強やチートな能力を貰うって話し。俺も異世界の神から異世界の買い物ができる能力を貰ったんだよ」

 

「そうなの。でも、イッセーちゃんも強い力が欲しかったんじゃない?」

 

「最強の力や能力よりも元の世界と行き来できる力が欲しかった」

 

切実な願いを漏らしながらポチポチと肥料となる土を販売しているサイトを表示し、購入する物を選ぶとヴァリスをチャージする。その様子を見てデメテルはもっと近くで見ようと寄り添ってきた。

 

「異世界の買い物ってどんな物が買えるのかしら?」

 

「雑貨や生活用品、武器や飲料水に多種多彩で多様な食材、乗り物とかぶっちゃけ金で買える物何でもだ」

 

「お金さえあれば何でも買えるって、物凄く便利じゃない?」

 

「逆になかったら極めて不便だ。金の亡者にだけはなりたくないな」

 

「ねぇ、異世界の野菜の種とか株とかあるかしら?」

 

「あるぞ、何が欲しい?」

 

その専用のサイトに切り替えてデメテル自身に選ばせる。異世界の食材と成り得る種を見て目を輝かす彼女はこの世界にない物にしか選び、不足したヴァリスを更にチャージし購入すると虚空に集束する光から複数の段ボールが床に落ちてきた。見慣れぬ柔らかい箱を手にして開ける一誠の手には購入した種や肥料が出てきた。

 

「ほい、デメテル」

 

「本当に買えちゃうのね・・・・・イッセーちゃん、もしかして凄い能力を貰ったんじゃない?」

 

「金が無いと何も買うことはできないけど、村を作ることができそうだな」

 

ヴァリスを入れていた箱の底から中型のバックを取り出し、購入した物をその中に次々と入れていく。入れていく、入れていく。流石に聞かずにはいられなかったデメテル。

 

「まだ入るの?」

 

「ん?ああ、デメテルは知らないんだっけ。これは俺特製のマジックバックだ。収納する物量を無制限にして重量もこのバックの重さにしかならない魔道具(マジックアイテム)なんだよ」

 

「・・・・・それ、物凄いものだってイッセーちゃんわかってる?」

 

自覚している。故に密かにサポーター殺しと自称していると心の中で呟き全てを入れ終えるとデメテルにバックをつき出す。

 

「はいよ。試したら結果を教えてくれ」

 

「分かったわ。後でお金も返すわね?」

 

「いや、そっちで試していい結果だったら俺もそうするつもりだ。それを利用して元を取るつもりだから気にしないで返さなくていいよ」

 

「それじゃ駄目よ。大切なお金を使わせちゃったんだから。それでもお金がいらないなら他で返すわね?」

 

蜂蜜色の瞳が潤い、頬を紅潮させて「他で返すわね」という部分だけ妙に熱っぽい声音で述べたデメテル。とある日の深夜、複数の女性や女神達に混じって男と激しい情事を耽る豊満な身体の女神がいるのだが、まだ日が高いために誰も彼女の神意を気付く者はいなかった。

 

 

その頃。アスナは買い物に街へ繰り出していた。腰に佩いている神の領域に足を踏み込んだ者が作り上げたレイピアを携えて南西の交易所で品々を物色中である。食材やダンジョンの資源にモンスターのドロップアイテムなど様々な品が販売されていて、初めて交易所がある区画に訪れた者はつい物珍しさに目移りするだろう。しかし、異世界の日本から来た異邦人のアスナには少し物足りなかった。活気を見せる物売りの人達、食材の売り込みも文句は無いが売る物の種類の少なさと似たような物が多い点に。脳裏に多い浮かぶ男のスキルだったらショッピングセンターができるのになぁ、と相手を困らせる考えかもしれないと微苦笑する。そもそも実現できたとしてこの世界に永住することは無いだろう。その時のことを考慮すれば余計な事をせず誰でもできる事だけして生きていければいい、きっと彼の男もそう考えているはずだ。そう結論する亜麻色の髪の女性は特に目ぼしい物は無かった、と踵を返して来た道に足を運び西のメインストリートへ向かう。

 

「あ、アスナさん」

 

その途中。ばったりと異邦人達と遭遇した。ヒーロー組の拳藤一佳達だ。

 

「皆、買い物?」

 

「はい、イッセーさんに助けてもらったお礼をしたくて」

 

「ああ、成程。でも、彼は気にしないタイプだよ?」

 

「元の世界にいる一誠さんと同じ、って言ったら不貞腐れそうですけど判っている上でどうしてもしたいんです」

 

苦笑いする少女に相槌を打ち「内緒にしておくね」と悪戯っ子のような笑みを浮かべた。年上の大人の女性がそんな表情をすると不思議と絵になって同性でも少し見惚れてしまった拳藤一佳。

 

「あの、それでですね・・・・・今さらですけど、アスナさんとイッセーさんは同棲しているんですよね?」

 

「ど、同棲・・・・・同居、いや、居候も似たようなもんだし、どうなんだろう?えっとそれで?」

 

「ええっと、この世界のイッセーさんの好きな物ってなんですか?」

 

そう尋ねられて思い浮かぶは・・・・・ショタ狐化になって嬉しそうに尻尾を振って食べる姿の一誠。もはや見慣れた姿であるが、可愛いものは可愛い。今度自分の膝の上に乗せてみたいと思いながら教えた。

 

「アップルパイだよ」

 

「アップルパイですか?」

 

不思議そうに首を傾げる感じで訊き返した少女に知らないの?と思いながら問い返した。

 

「あれ、違うの?」

 

「いえ、私達の世界にいた一誠さんは特に好きな物は挙げなかったので。ちょっと意外だと思ってました」

 

「そっか、私が知っているのはそれぐらいだから後は頑張ってね?」

 

はい、と答える彼女等。するとポニーテールに結んだ髪の少女が尋ねてきた。

 

「イッセーさんは大丈夫なんですか?あの時、死んだ人達を甦らせて倒れました」

 

「うん、もう大丈夫だよ。あれから一週間寝込みの状態だったけれど今は何時も通り元気にしているよ」

 

「そうですか。やはり、話に聞いていた通りなんですのね・・・・・」

 

安堵で胸を撫で下ろす、ではなく何か知っていて不安や心配をしている様子にアスナは気になった。

 

「やっぱり、何かあるの?」

 

「私達は・・・・・直接見たわけではありませんが話しならお伺いしています。一誠さんが起こす奇跡は全てを代償するハイリスクが伴っています」

 

知った、知ってしまった。死者を甦らせ復活を促す代償は思っていた以上に高く軽くないことを。瞠目する亜麻色の瞳は、少女から聞いたハイリスクの内容を耳にして凍結したように固まった。

 

「甦らせた人の相応の命と引き換えに・・・・・?」

 

 

ダダダダダダダダッ・・・・・・!

 

「イッセーッ!」

 

「淑女が廊下は走ってはいけません!」

 

「あ、ごめんなさい」

 

って、違う違うと炉の中で燃え盛る炎と向き合い熱せられた金属に鋭く振るう一誠を見つめる。勢いよく不純物を取り除く作業を延々と繰り返し、真面目な面持ちで金属に息吹を叩きこむその姿に言葉を失いかける。

 

「走ってくるほど急用が入ったか?」

 

「・・・・・一佳ちゃん達から聞いたの。死者を甦らす代償のことを」

 

「そうか」

 

あっけらかんとそれだけ返す。今更それがどうしたと言わんばかりに入口に立つ女性を見ず、今だけは職人のように手を止めず形を変えて整えていく。

 

「どうして、自分の命を削ってまで甦らそうとするの?」

 

「そう言う能力だから仕方が無いだろう?それにあの力はアスナ達の世界にとって奇跡でもあり禁忌でもあるはずだ。何の代償も無しに・・・・・」

 

「答えて」

 

真剣な話をしている、と彼女の顔を見ずとも雰囲気が伝わってくる。困ったものだと息を吐いてカァン、カァン、カァン、と鉄と金属が奏でる音を止めずに言い返した。

 

「そう言う能力だから仕方が無い、それが前提だ。アスナ、もしもキリト達が死んでお前の手で甦らす事が出来るならどうする」

 

「・・・・・」

 

「当然、するだろう?大切な人、大切な仲間、大切な家族、理由は何でもいい。とにかくそういう術が手元にあるなら命を懸けてまで甦らしたいと」

 

俺もそうだと、語る彼の男の左目はどこか遠かった。

 

「目の前で大切な人が殺されたらそうしたくもなる」

 

「・・・・・そんなことが遭ったの?」

 

「ああ、俺でも無理なほどに肉片も残さずに殺されて消された。そしてそんなことした奴を殺すために復讐者となって俺の邪魔をする仲間だった連中と敵対した」

 

息を呑む気配を感じ取り自嘲的な笑みを浮かべる。

 

「意外だろ?俺が復讐に走るなんて」

 

「・・・・・復讐は、できたの?」

 

「半分できて半分できなかった。俺が思っていた復讐はできなかったけど、殺すことはできたよ」

 

「そう、なんだ・・・・・」

 

だからだ、だからなのだ。

 

「その時の俺とどうしても被って見えてしまうんだ。目の前で死んでいる人間にもしも大切な仲間や恋人、家族がいるなら甦らしてハッピーエンドになってもらいたいと。ま、自己満足、エゴ、身勝手な偽善者の考えだ」

 

苦笑を浮かべる一誠の隣でアスナが近づいてきた。作業の邪魔をする気配はなく、物静かに見下ろすだけで佇んだ。

 

「一佳ちゃん達の友達や私の仲間を甦らせた理由は?」

 

「何時か元の世界に帰るんだ。俺もあいつらもこの世界で死んでいられない」

 

「他の異邦人や転生者達も?」

 

「元の世界に戻りたい意思がないなら俺から何もしない、余計なお節介だろ。寧ろ今までの転生者は殺しても問題ない連中だ。世の為、人の為になる」

 

「じゃあ、なんでそうしないの?」

 

「気に入らない奴を見る度に殺す危ない殺人鬼になってほしいのかアスナさん?」

 

バツ悪そうに謝るアスナ。

 

「一縷の温情だ。あいつらも二度目の人生をこの世界で送っているんだからな。大人しく平穏に暮らすんだったら何もしないし言わない。だけど、それと真逆な行為をして俺の知り合いや仲間、大切な家族に手を出すつもりなら殺す」

 

「ちょっと、矛盾している?」

 

「そうだな。している。俺も非情に成り切れていない。もしも非情を貫いて相手を殺すことがあれば、それは俺が完全にブチ切れた時だけだな」

 

故に、アスナに告げた。

 

「俺は人を殺した経験がある。それも二度もな。多分、拳藤一佳達も知っているだろうよ。あの時の行動に俺は後悔も反省もしない。復讐心に駆られて誰かに利用されたとしてもどうでもよかったからな。だから・・・・・」

 

金眼に宿る炎は黒く燻っていた。

 

「俺は人を殺すことを躊躇わない。それで周りの皆が俺から離れようと構わない。この世界じゃ俺は孤独に生きなきゃいけない筈だったんだからな」

 

「・・・・・仮に君がそうして皆がそうすると思うの?」

 

溜息を吐くことでアスナの問いを返した。

 

「はぁ・・・・・今更思わないよ。出会い方や第一印象次第で俺はオラリオにいなくどこか違う場所に行ってただろうな」

 

でなきゃ、アリサを始め色んな人々と出会うことはなかったしアイズ達は転生者の三人に人生を奪われていた。と思わずにはいられない。アスナ達もいずれその魔の手に伸びていた筈だと思いながら吐露する。

 

「恵まれているんだなぁ・・・・・こんな化け物の俺でもさ」

 

「・・・・・うん、君は恵まれてるよ」

 

横で膝を折って座りながら言うアスナの声音は優しかった。

 

「この世界にとって君は生き辛いかもしれないけれど、ちゃんと誠心誠意で接すれば分かってくれる人がいるんだって証明しているんだから恵まれているよ」

 

「そう言うアスナもな。最初から仲間とこの世界にたんだからそんなに不安じゃなかったろ?」

 

「どうやって明日も生きようかぐらいは不安だったよ?そこはアルテミス様のお陰で何とかなったけれどね」

 

「・・・・・俺の場合、何時の間にかバベルの塔の前に立ってて呆然と立っていたら、ロキに声を掛けられたのが始まりだったな」

 

「あ、私達もそうだったんだよ?」

 

初めて異世界に来たその日の経緯の話をした二人は自然と会話の花を咲かせ、笑みを零す。不意に右眼の眼帯に触れてきた。

 

「どうして眼帯を付けてるの?右眼は義眼じゃないんでしょ?前から不思議に思ってたんだけど」

 

「これは俺自身の目ではないんだ。別のドラゴンの目なんだ。そのおかげでそのドラゴンの目と通じてな、地球の反対側にいても目と目が介して別の景色が見えてしまうんだ」

 

「二台のテレビを同時に見るような感覚?」

 

その例えは何だかなぁーと微妙な気持ちとなって苦笑しながら首肯する。

 

「常時そんな感じで目を閉じない限り少し不便なんだよ。だからこうして眼帯を付けている」

 

「もしかして、この世界でもそうなの?」

 

「いや、別にそうじゃない。この世界なら外しても構わないんだけど、別に外さなくても問題ないから敢えて付けているんだ」

 

ふーんと相槌を打つや否や、手を伸ばして来て一誠の眼帯を取り外した。そして濡羽色の右眼が開眼した。

 

「私的にはこっちのほうがいいと思うよ?」

 

「そうか?」

 

「うん、これからその顔でいてみてよ。もっと広い世界が見えるよ?」

 

いや、もう随分と広い世界を見ていますと言いたげな目をしても「?」と小首を傾げるアスナは気付かない。その仕草は可愛かったと内緒にして。

 

 

 

「【ネオ・ワールド・ドア】」

 

心から想いを込めた無詠唱の呪文が短くも紡いだ。眼帯を外された右眼も虚空に向かって真剣な眼差しで凝視。思い浮かべるは己の帰りを待ち続ける家族達―――。

 

呪文の言葉を口唇に転がしてから一拍遅れた時、眼前に楕円形の光の鏡らしき物が具現化した。初めて見る一誠の魔法に扉?と不思議に思うも水晶のようにきらきら光る小さな粒子で構成したそれが次第に映すのは―――こことは違う別の部屋の中だった。

 

「ここが、イッセーの世界?」

 

「の、俺の家の中だ。見た目は前回と変わらない感じだけど・・・・・」

 

元世界の話しをしていたら試したくなった一誠はその日の夜。魔法を発動した。そして拳藤一佳達の世界と同じように繋がった先はこの部屋とは違う別の景色の空間。恐る恐ると鏡に触れようと手を伸ばした時だった。黒いゴスロリの服に乳房に黒いテープをバッテンに張り、カボチャパンツを履いた出で立ちの濡羽色の長髪と濡羽色の双眸の幼女と長い銀髪を一つに結いメイド服を身に包んだ琥珀色の瞳の女性が鏡の横から現れてジッとこちらを見つめてくる。

 

「・・・・・誰?」

 

「黒髪の幼女は『無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)』オーフィス。無限の体現者であり世界やドラゴンの中で最強のドラゴンだ。もう一人は俺専属のメイド、リーラ・シャルンホルスト」

 

「さ、最強のドラゴン!?」

 

「ん、我、オーフィス」

 

鏡の向こうから幼女の声が聞こえた。今度は直接耳で。それが堪らず嬉しくなって表情を綻ばせる一誠は意を決して鏡に触れた―――が、強い帰郷の憧憬を抱く者の想いを拒むようにそれ以上手が進まず見えない壁に触れる感触だけが伝わる。前回と同じだ。

 

「・・・・・」

 

落胆―――ではない、諦めが悪い人の顔となり一誠は手を握り拳に力を籠めて、本気で殴った。

 

ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!!!

 

殴って出る様な音では無い。魔力の能力値(アビリティ)がいくら規格外でも一誠の拳を受けて耐えきるとは思えない。ならば、やはり何らかの理由で割られずにいるのだろう。

 

「・・・・・やっぱり駄目か。相手と話せるだけでも十分だろう、そう言いたいのかあの神は」

 

何かを悟った風に拳を突き出したままの状態で低い声音を漏らした。

 

「リーラ、他の皆は?」

 

「出かけておられます。皆様、一誠様がいる異世界に行く計画や準備をしていますが直ぐにお呼び致します」

 

と、そう言うリーラだったが一誠から直接指名を受ける。

 

「ユウキだけ呼んでくれるか?」

 

「ユウキ様ですか?かしこまりました。」

 

目の前で魔方陣を展開し、姿をメイドの姿に「本当に魔法も存在しているんだ」と驚嘆するアスナの声が聞こえてくるがその呟きを返す言葉は無く静かに消えた。

 

「ユウキに、会えるの?」

 

「俺もこの魔法を得てからまだ一度も会ってないけどな」

 

それでも彼女が目の前からいなくなったということは、そういうことなのだろう。異世界のユウキに会う、それがアスナの強い憧憬である。

 

「そう言えばアスナ、ユウキと会うことに関してはこれで達成するけどキリト達と一緒に元の世界に帰るのか?」

 

あっ、と思いだしたように吐露した。異世界に行かずともこうして会えるならば一誠の言う通り願望は叶うのだ。それに指摘され気付いたら、複雑そうな表情を浮かべてどうしようかと苦悩の色を浮かべだし、自問自答しても答えが見つからなかったか助けを求める様な眼差しで訊ねた。

 

「・・・・・イッセーは、私はどうした方がいいと思う?」

 

「俺が望んだことを言ってアスナはその通りにするのか?」

 

「・・・・・わからない」

 

「なら、自分の気持ちを整理して決まったら行動するべきだな」

 

ポンポンと亜麻色の髪の頭に優しく手を乗せる一誠。俺から言えることはそれぐらいだ、と意味合いを籠めてリーラが戻ってくるまで待つこと十数分。見慣れた魔方陣がオーフィスの後ろに発現して、二人の女性が出てきた。

 

「お待たせして申し訳ございませんでした」

 

「いや、連れて来てくれてありがとう」

 

「え、えっ?先輩?」

 

「おう、まだそっちに行けないけれど久しぶりだな」

 

紫色が強い黒髪の長髪に童顔が抜けて大人の顔立ちとなっている百六十cm程の身長の女性が赤い目を丸くした。次第に歓喜にその目を輝かして声を弾ませた。

 

「うわぁ先輩、久しぶりだね!異世界に行って何だかまた身長が大きくなった?」

 

「自分じゃあまり実感していないけどな。俺よりもユウキの方が成長しているだろ。最後に見たときよりも綺麗になってるじゃん」

 

「えへへー、ボクも成長しているんだよ先輩?」

 

照れくさそうに人懐っこく笑みを浮かべるユウキという女性を一目見てからアスナは言葉を忘れたように見続けた。忘れられない顔とその声はまさしく自分が知っているかつて最強の剣士と称されていた少女と同じだと。胸の奥から沸き上がる抑えきれないこの感情がとても温かく、とても懐かしみさを・・・・・頬に伝う雫が下に落ちる。

 

「先輩、この人は誰なんですか?先輩の彼女?」

 

「俺がいるこの異世界とはまた別の異世界から来た異邦人だ。名前は結城明日奈」

 

「あ、名字がボクの名前と一緒だ!よろしくねアスナさん!」

 

「う、うん・・・・・よろしくねユウキ」

 

「あれ、泣いてるの?ボク、変なこと言っちゃった?」

 

「ち、違うの・・・・・」

 

否定しても自分では抑えきれない感情が涙として出てしまう。潤った瞳が頬を濡らす涙を流してしまい、当惑するユウキの前で中々止まらなかった。

 

「先輩、どうしちゃったの?」

 

「アスナの世界にな。お前と似ている友人がいたんだよ。それでもう一度会いたいって願いが叶って泣いてるのさ」

 

ボクと似てる人かぁ・・・・・。感慨深く呟き、だから泣いてるのかと納得した面持ちでアスナを見つめるユウキ。

 

「ユウキ、しばらくアスナと話し相手になってくれるか?俺はリーラとオーフィスから話を聞きたいから」

 

「うん、いいよ。それじゃアスナさん。君のことを教えてよ。ボクのことも教えるからさ」

 

「私のこと、アスナで呼んでいいよ・・・・・」

 

「じゃあボクのこともユウキって呼んでねアスナ」

 

「・・・・・うんっ」

 

アスナの憧憬がいま叶った。背中の【ステイタス】が熱く感じ始めたが些細なことだと、時間が許される限りユウキと会話を紡ぎ続けた。

 

 

「ありがとう、イッセー・・・・・あの子と会わせてくれて」

 

「これで思い残すことなく帰れるか?」

 

「・・・・・ねぇ、私の我儘、聞いてくれる?」

 

「俺に出来ることなら」

 

「・・・・・私も、あなたの世界に連れてって」

 

「俺の世界に来ずとも、この世界で何時でもあいつと会えるぞ」

 

「ユウキと出会って欲が出ちゃったの。今度は直接お話がしたい」

 

「人間らしい欲深きことだな」

 

「・・・・・やっぱり、もとの世界に帰った方がいいのかな」

 

「いや、お前の人生はお前のものだアスナ。それ相応の覚悟があるなら行動することも人ってもんじゃないか?」

 

「行動する覚悟・・・・・それが人」

 

「ドラゴンの俺が言えた義理じゃないが、皆それぞれ自分で行動しているんだ。アスナも好きに行動してみろ」

 

「・・・・・うん、分かった」

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